梓の非日常/第九章・生命科学研究所(三)真実は明白に
2021.04.17

梓の非日常/第九章・生命科学研究所


(三)真実は明白に

「説明してあげましょう。あの交通事故で、お嬢さまはほとんど無事でしたが一時的な脳死状態に陥りました。放っておけば完全な脳死へと移行し、いずれ心臓なども止まって死んでしまう。もう一人の方、浩二君は脳は生きていたものの、失血からすでに心臓死に陥って人工心肺装置で生きながらえていたが、これもいずれは死を迎えるのは確実だった。どうにかしてどちらかでも助けられないかと思った私は、無傷で仮死脳死状態であるお嬢さまの方を助けることにした。その方が可能性が高いからです。だが、問題があった……」
 とここまで説明して、一息つく研究者。
「お嬢さまは、パソコンには強いですか?」
 尋ねられて首を横に振る梓。
 梓には、麗香という何でもできる有能な人物がいて、すべてを任せているから、パソコンとは無縁だった。
「そうですか……パソコンの事を知っていれば、理解も早いのですが……。まあ、聞いてください。
 パソコンは、CPUという演算装置に入力されたプログラムによって動き、ハードディスクという場所に、そのプログラムやデータを保存しています。これは人間の場合にあっても同様で、大脳という場所の中に記憶装置となる領域と、演算装置に相当する領域があります。だがそれだけでは、パソコンも人間も動かない。
 BIOSプログラムという、パソコンを起動するものがあって、ROMという場所に記憶されている。パソコンのスイッチをいれると、まずこのBIOSがROMから読み込まれてはじめてパソコンは使えるようになる。BIOSには、ハードディスクからデータを読み取るプログラムや、画面表示を行ったり、キーボードからの情報を入力するプログラムなどの、パソコンを使えるようにする基本プログラムが収められている。まあ、人間で言えば、朝目覚めて歯を磨いたり顔を洗ったり、着替えをするといった日常生活のはじまりの行動がインプットされているものです。パジャマのままで外は出歩けないでしょう?」
「ええ、まあその通りですね」
「さてお嬢様には問題があると先程言いましたが、そのBIOSに相当する記憶領域が完全に消去されてしまっていました。つまり脳全体としては生きて活動できる状態にあるが、肝心の目覚めるための記憶というプログラムがないから、いつまで経っても目覚めることがない。つまり仮死状態というわけです。
 これを目覚めさせるには、外部から新たに記憶を移植するしかない」
「そうか! それであたしの……浩二の記憶を移植したのね。だから目覚めるためのプログラムである浩二の記憶というかイメージが残っていたんだ。しかしそれは目覚めるためだけのもので、記憶全体としては梓の記憶がそっくり残っているから、あたしは梓として認知できている。そういうことなのね?」
「ほほう……。なかなか理解力がありますね。まさしくその通りですよ」
「じゃあ、その記憶を移植された浩二はもう目覚めないの?」
「いや、移植と言っても、データをコピーしただけです。浩二君にはそのまま残っているから、身体的な機能を復活させることができさえすれば、生き返らせることも可能です」
「生き返る? 本当ですか?」
「ああ、そうですよ。冷凍睡眠で心臓死時点の状態のまま保存してありますから。移植できる心臓やその他の臓器が見つかればあるいは……ということなんです」
「そうでしたか……。あ、そうだ。この浩二の母を見掛けました。もしかしたら……」
「うん。お母さんも知っていますよ」
「やっぱり……見舞いというか、会いに来ていた訳ですね」
「その通りです。母親というのは、子供にたいして執念ともいうべき愛着を抱いているらしいですな。心臓死をもって死亡宣告を受けても、息子の身体がそこにある限り死んだことを納得しない。それこそ焼かれて茶毘に臥されるまではね。で、真条寺梓を生き返らせることに成功し、その後のために浩二君の身体を冷凍睡眠にかけて将来の復活に掛けることにしました。当然お母さんは生き返る可能性があるならと承諾してくれた。そういうわけです。ただし梓お嬢さまのことは伏せてありますけどね」
 これまでに疑問視していたことのすべてが氷解した。
 長岡浩二というイメージの存在と、真条寺梓としての記憶と生活感。
 浩二のイメージを引きずってはいるが、正真正銘の梓であると言えたし、何不自由なく梓として暮らし、母の渚とも違和感なく母娘の愛で結ばれている。
 しかし生き返らせてくれたのは、この浩二のおかげだ。
 とすれば何とかして生き返らせてあげたいものだ。

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梓の非日常 第二部 第八章・小笠原諸島事件(十三)本物とクローン
2021.04.16

梓の非日常 第二部 第八章・小笠原諸島事件


(十三)本物とクローン

「こんなクローンを作って、一体どうしようというの?」
 説明が長々と続いたので、肝心なこと聞くのが遅れた。
「純粋なる研究目的です」
 一言おいてから、
「と、言っても信じないでしょうね」
「当然です!」
「クローンでよくある話では、某国の大統領に化けて国を乗っ取るとか……あるじゃないですか」
「確かによくある話ね」
「それともう一つ。実は、あなた自身がクローンで、この中の人物が正真正銘の本物だと言ったら?」
「考えられるわね」
「否定しないのですか? 意外ですね」
「あの事故で蘇生した当時、あたしの意識の中に長岡浩二君がいたのは確かよ。だから、記憶を移植したということには真実であると思っているわ。それができるのであるならば、クローンを作った上で、一部だけでなく全ての記憶を移植して、梓という人物をもう一人生み出すことも可能かもしれない」
「なるほど、そこまで理解していただけると嬉しいの一言です」
「仮にあたしがクローンだったとしても、遺伝子的には真条寺梓そのものを受け継いでいるわけだしね。本物と言ってもいいんじゃなくて?」
 パチパチと手を叩いて感動を表す研究員」
「素晴らしい! まるで悟りを開いて真理を会得したみたいですね」

 これまでの間、じっと聞き耳を立てるだけの慎二。
 体育会系の彼には、とても会話の内容に付いていけるはずがない。
「でよお。この中のクローンとかいう奴は、生きているのか?」
 そう聞くのが精一杯のことであろう。
「確かに、それは重要なことですね」
「生きているの?」
「さあ、どうでしょうねえ。少なくとも外見はあなたそのものですがね」
 はぐらかして答えない研究員。
「そうか……。ならよ」
 そう言ったかと思うと、手近な椅子を取り振り上げて、培養カプセルを破壊する。
 ガラスが砕け散り、培養液の飛沫が床一面に流出し、中にいたクローンがゴロンと転げ落ちた。
「な、何をするんだ!」
 驚く研究員。
 梓も言葉を失っていた。
「クローンが何者かは理解できんが、俺にとっては梓ちゃんは一人。ここにいる梓ちゃんだけだ!」
「なんということだ! せっかくの研究成果が……」

 二者択一を迫られた時、躊躇なく選択する強い意志を持つ慎二だった。
 地下研究所においても、長岡浩二の身体を捨てて梓を救う道を選んだ。


 その時、入り口付近が騒がしくなった。
「おやおや、邪魔が入ったようです」
 研究所になだれ込んできた者は、サブマシンガンを抱えた軍人だった。
「梓お嬢さま! いらっしゃいますか?」
 そしてかき分けるように入ってきたのは、竜崎麗香だった。
「麗香さん!」
「お嬢さま! ご無事でしたか!」
 どうやら米軍が捜索救助に出動したようだった。
 感動の再会を果たした二人と一人。
 研究員は、立場悪しと少しずつ後退して、隣の部屋へと隠れた。
「待て!」
 慎二が追いかけるが、鍵が掛かって開かない。
「ちきしょう!」
 やがて外の方で轟音が響いた。
 外へ出てみると、一機の戦闘機が島から発進したところだった。
 すかさず麗香がスマホで連絡する。
「今発進した戦闘機を撃ち落として下さい」
 十数秒後に、外洋に停泊していた艦艇からミサイルが発射された。
 ホーミングミサイルによって撃墜される戦闘機。
 機体はバラバラになって海へと落下した。

「ともかく迎えが来ています」
 岸辺に接弦していた艀に乗船して、沖で待つ駆逐艦へと向かった。

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梓の非日常/第九章・生命科学研究所(二)再開の時
2021.04.15

梓の非日常/第九章・生命科学研究所


(二)再会の時

 準備が整ったというので、病院から連絡通路を通って研究所へ向かう。
 早速最初に行う核磁気共鳴断層撮影装置(MRI)、及び明日の予定として陽電子放射断層撮影装置(PET)に掛かることになった。前者は物理的な傷害があるかどうかを調べるため、後者は精神的な大脳活動状態を調べるためのものだ。
 MRIは強い静磁場の中にあるプロトン(水素原子核)に対して、一定の電波を照射したり切ったりすることで、組織内でのプロトンの動静を観察診断する装置。
 PETは、日本ではあのノーベル賞研究者のいる島津製作所が製造している。放射性フッ素を添加したFDGという特殊なぶどう糖を投与して、通常の細胞より増殖力が強くエネルギー代謝量の多い、数ミリ規模の極微小がん細胞を発見するのがその主な診断目的だが、大脳活動状態を調査するためにも利用される。何せ大脳はがんでなくても、ぶどう糖を大量消費する臓器だ。活動している部位と休眠している部位の差がくっきりと現われる。

 それから小一時間後、MRIでの診断を終えて、装置室から出てくる梓。
「さすがに、緊張したわね。しかし、あのうるさい音はどうにかならないのかしら」
「仕方がありませんね。あれが診断装置の特徴ですから。強磁界を発生させるために、60から80ホンの音がする装置の欠点ですね」
「あれ? いた!」
 姿を見失ったあの長岡母が、研究者らしき人物と話している。そしてお辞儀をして別れて行く。
 よし、今度こそ。
 研究者の後を追い掛ける梓。長岡母の方を追ってもしかたがない。何しに来たかは、研究者を調べる必要がある。
「あ……? お嬢さま、どちらへ」
「ちょっと用があるから、先に行ってて」
 麗香には構わず、研究者を見失わないように小走りで走って後を追う梓。
 研究者は、長岡母を見失った所の階段を降りて行く。
「地下か……」
 降りて行った先にはいくつかの研究室らしき部屋と、通路の一番奥にある仰々しい造りの頑丈そうな扉があった。研究室の扉はすべて自動ロックで鍵が掛かっているはず。出入りするにはIDカードが必要だ。
 梓はそちらよりも正面の頑丈な扉の方が気になった。梓の勘が、さっきの研究者はこちらだと訴えている。
『これより研究者以外立ち入り禁止』
 というメッセージプレートが掲げられている。どうやら特殊なセキュリティーロックで守られた機密区画のようだ。壁にはロック解錠用のIDカード挿入口の他に指紋照合機とと思われるガラスプレートが設けられていた。
「だめかあ……」
 諦めかけたが、
「そう言えば、あたしもIDカード持ってたわねえ……」
 IDカードを、麗香から渡された時のことを思い出してみる。
『このIDカードに組み込まれた超LSIチップには、お嬢さまのデータが特殊暗号コードで記憶されています。真条寺家が運営・所有するすべての施設に入場することができます」
 と説明してくれた。確か指紋をスキャンされたこともある。
 そして、この研究所は真条寺家が運営している。
「ということは……使えるかも知れないわ」
 自分の持っているIDカードは麗香に預けてあるバックの中。しばし考えてそれを使ってみようと一旦戻ることにする。

「どちらに行かれていたのですか?」
 梓の姿を見るなり質問されるが、
「ちょっとね……。バックを返して」
「あ、はい。どうぞ」
 早速中を開けてIDカードがあるのを確認する梓。
「病室に案内します」
 今すぐ戻るのは無理のようだ。麗香に不審がられないようにこの場は諦めよう。麗香は用事があって一旦屋敷に戻ることになっている。その時を待ってから行動に移ることにしよう。

 麗香に着いて行くと、見慣れた通路を通っている。かつて交通事故で入院していた、あの時の部屋に向かう通路だ。
 一般の患者の姿は一切見られない。総婦長室やら院長室が途中にあって、専用の看護婦待機部屋のある個室の病室。
「こちらのお部屋でございます」
 やっぱりそうだ。
「ここって、以前いた部屋だよね」
「はい。ここがVIP個室になっておりますから」
 中に入ると、ホテルの一室と見違えるような設備のある個室となっている。TV・冷蔵庫はもちろんあるし、空調設備や専用のバス&トイレ付き。壁は完全遮音になっており一切の音が洩れることがなく、外から入ってくることもない。窓ガラスに至っては、あらゆる狙撃銃を持ってしても貫くことのできない防弾ガラス仕様。
「明日は午前九時よりPETによる診断となります」
「あの巨大な装置に入るのは、かなりしんどいんだよね」
「はい。ですからMRIと分けて、二日がかりで行っています。とくにPETは精神状態でずいぶんと変わってしまいますからね」
「ま、いいけどね……」
 といいながら応接ソファーに腰掛けてTVをリモコンでつける梓。
 番組は相撲中継だった。

「着替えはこちらのクローゼットに置いておきますね」
「うん……」
「わたしは一旦屋敷に戻ります。何かありましたら備え付けの電話でご連絡ください」
「わかった……」
「それでは失礼します」
 麗香は出ていった。
 しばらくTVの画面を見るとはなしに見続ける梓だったが、
「……行ったみたいね」
 と動きだした。
 目指すは例の場所。
 もちろんIDカードを持って。


 部屋を抜け出して元来た通路を通って研究所へ向かう。
 そして例の頑丈な扉の前に戻ってきた。
「さて……使えるかな……」
 早速IDカードを挿入口に入れ、指紋照合機に手をあててみると……。
 開いた!
「あはは……。本当に開いちゃうなんて、このIDカードってすごいんじゃない?」
 しかし反面、カードをなくすと大変なことになることにも気がついた。
「大切に扱わなくちゃね……さて、この先に何があるかな……」
 そっと慎重に足音を忍ばせて、先の通路へと進みだす梓。
 途中研究員に出会ったら、叱られて追い出されるかな……、それとも資源探査船の時のように自由に見学させてくれるか……。
 何はともあれ問題は、
「うーん。どこの研究室かな……」
 通路にはいくつかの各研究室の扉があったが、研究名を示す掲示板などは一切なかった。何を研究しているかを知られないための、セキュリティーの一貫なのであろう。
 さっきのようにIDカードを使えばどの部屋にも入れるだろうが、まるで関係のない所に入ってもしようがないし、研究員がいれば一悶着は避けられない。
「あれ……?」
 扉が半開きの部屋があった。
 まるで梓を誘っているかのように感じた。
「行ってみよう。鬼が出るか、蛇が出るか……」
 そっと静かに、その研究室の中へ入って行く梓。

「な、何これ!」
 中に入って驚いたのは、よくSF漫画なんかに出てくるような、培養カプセルとも言うべき装置の数々だった。ガラス製の円筒の中に液体が満たされ、その中に多種多様の動物が浮かんでいた。下から出ているの泡はたぶん酸素であろう。
「これって、もしかしてクローン細胞かなんかの研究しているの?」
 だとすれば生命科学研究所として、らしいと言えなくないが……。
 現実世界からSF未来にスリップしてきたみたいな異様な風景であった。
 犬、猫、……そして猿と、おおよその主要な種を代表する動物が、培養(?)されていた。さすがに人間の姿は見られなかった。もしあれば倫理上の問題となるところだ。
 カプセルの間を歩きながら奥へと進む梓。
 意外に結構広い研究室だった。
 それだけ重要視されている研究分野なのであろう。
「あれは!」
 ずっと縦形のカプセルだったが、正面奥の方に横形のカプセルがあった。
「なんだろう……。中に何か入っているようだけど……」
 近づいて行く梓。
 近づくにつれてそれははっきりとしてくる。
「う、うそでしょ」
 その中に収められた個体は、明らかに人間と思われた。

「これは!」
 それはまさしく人間だった。
 カプセルは冷たく、明らかに中は冷凍状態と思われる。
「まさか冷凍睡眠?」
 麗香から聞かされた、この施設の研究項目に冷凍睡眠というものがあったはずだ。
「まって、この顔はどこかで……」
 記憶の中に、それはあった。

「長岡浩二君だよ」
 背後から声がした。
 驚いて振り返る梓。
 追っていたあの研究者だった。
「こんな所で会えるとは意外ですね。梓お嬢さま……いや、長岡浩二君と言うべきかな」
「え?」
 どういうこと?
 どうしてあたしを浩二と……。
 この人は、何かを知っている。
「あなたは、長岡浩二君だ。いや、といっても心の中の一部分ですから、あなたはやっぱりお嬢さまですな」
「なぜ、それを……どうして知っているの?」
「あはは……。なぜなら、浩二君の記憶の一部を、お嬢さまの脳に移植したのがわたしだからですよ」
「移植した?」
 信じられなかった。

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梓の非日常/第九章・生命科学研究所(一)生命科学研究所
2021.04.14

梓の非日常/第九章・生命科学研究所


(一)生命科学研究所

 生命科学研究所付属芳野台病院というプレートが掲げられたゲートをくぐるファンタムⅥ。
「久しぶりね。ここに来るのは」
「そうでございますね」
 今日は、ハワイでの航空機事故の後遺症がないかを、確認する為にやってきたのだった。二三日入院して念入りに診察がされることになっている。
 病院の敷地に併設されて生命科学研究所がそびえている。
 病院の玄関前に停まるファンタムⅥ。
 研究所の方には重症患者のICU(集中治療室)しかないので、病院の方で入院手続きすることになっている。
「受付けして参ります」
「研究所の方、ちょっと見てくるね」
「研究所員の邪魔にならないように気を付けてください」
「わかった」
 と確認しあって、麗香は病院内へ、梓は研究所へと向かった。

 生命科学研究所。
 以前病院の屋上から垣間見たことがあるだけだった。
 陽電子放射断層撮影装置(PET)や、核磁気共鳴断層撮影装置(MRI)などの最新設備を誇る生命科学研究所には、近隣の病院からも診断のために患者が運びこまれてくる。ただし通常として、交通事故現場や各家庭などから救急患者が直接運ばれることはない。ここはあくまで研究施設であり、各救急医療センターが手の施しようのない重症患者や、PETなどの診断を必要とした場合、研究対象としての治療を行うことを了承した場合に限って引き受ける。
 なお、日本で最初の倫理的な性転換手術が行われた埼玉医大総合医療センター病院も、車で十分としない距離のところにある。
 広大な敷地にそびえ立つ研究所だが、その地下には二万キロワットもの巨大な超伝導蓄電実験施設があるという。ただしこのことは一切公表されてはおらず、梓だけに極秘理に知らされているだけだった。

「あれ?」
 梓の振り向いた先には、見知った女性がいた。
 それはかつての自分、長岡浩二の母親だった。
 すっかり忘れ掛けていたが、まだ記憶の端に残っていた。
 交通事故の後、退院した際に母に連れられて長岡邸を見舞ったあの日。自分の記憶にある長岡浩二はイメージだけだと悟ったあの時のこと。
 もはや自分自身の母親という意識はなかった。今の梓の母親は渚一人、母娘の絆もしっかりと築かれていた。
「なんでここにいるのかしら……」
 長岡母は(渚と紛らわしいからこう呼ぶことにする)玄関から施設に入っていく。
 どうも気になるので後を追ってみることにする。
「ええと……どこに行ったかな……。あ、いた」
 丁度玄関から駐車場添いの通路の先の角を曲がるところだった。
 あわてて後を追い、角のところまで来たが、
「あれ、いない……?」
 その先の通路にはいくつかの研究室の扉と階段があった。
 研究室に入ったか、階段を使ったか?
 研究室に入るわけにはいかないし、階段は上か下か判らない。広大な施設だから下手に探しまわっていたら迷子になってしまう。
「うーん……。ここに来ているということは、家族に何かあって入院しているのかなあ……」
 もはや縁は切れているとはいえ、やはり気になるところだ。
 麗香に頼めば調べてくれるかも知れないが、どう説明する? 麗香は梓の人格が入れ代わっていることを知らない。そのことに気づいたのは幼馴染みの絵利香だけだ。
「あの……。何かご用がおありでしょうか?」
 後ろから声を掛けられた。
 振り返るときれいなお姉さんが微笑みながら立っていた。受付係のネームプレートを胸に付けていた。そういえば受付けを通らずに入ってきたから、追い掛けてきたのというところ。
「あれ? あなた……もしかしたら、梓お嬢さま?」
「はい、そうです」
 研究所の者なら誰しも梓の顔を知っている。いや、知っていなければ研究所員とは言えないだろう。研究所概要書には写真入りで載っているし、ここの所長室や会議室にも額入りで飾ってあるからだ。
「やっぱりでしたか。今日は検査でお見えでしたよね。ですが一応付属病院の方で手続きを……」
「ああ、いいの。手続きは麗香さんがやってくれているから。それより、さっきここを四十代くらいの女性が通ったでしょう?」
「長岡さまかしら……?」
「そうそう、その長岡さん。ここには何の用で来ているのかしら」
「申し訳ございません。その件に関しましては、守秘義務によって来院者さまのことは申し上げる訳には参りません。例えお嬢さまであってもです」
「そうなの……残念ね」
 確かにその通りなのだろう。医師や類する研究者が守秘義務を守らなければ、患者は安心して身を任せられない。
 長岡母のことは気になるが、今の段階ではどうしようもない。
 忘れなくちゃとは思うのだが……。


 そこへ麗香が迎えにきた。
「お嬢さま、こちらにいらしたのですか。診察がはじまりますよ」
「早かったのね。手続きを待っている患者さんはたくさんいるんでしょ?」
「既に予約は入っておりましたし、お嬢さまのことですから……最優先で処理されたのでしょう」
 麗香に代わって受付係りが答えてくれた。
「例によってⅥP待遇というわけね」
「その通りでございます」
 いつものことながら、どこへ行ってもⅥP待遇なのよね。たまには庶民の暮らしを体験してみたいもの。本来なら十八年間長岡家で暮らしていたのだろうが、記憶がない以上体験とは言えない。

「それじゃあ行きましょうか。まずは問診からですよ」
 麗香に案内されて、問診室かと思ったが、別の診察室に入った。
 そこには女医さんが控えていた。
「ありゃあ! やっぱり女医さんか……」
 旅行の時の副支配人もそうだが、何かにつけても梓を応対するのはいつも女性だった。
「男性医師に診られるのは恥ずかしいでしょうから……」
「ま、どうでもいいけどね……」
「担当医の不破由香里でございます。よろしくお願いします。それではお嬢さま、まずは問診からはじめますね」
「うん……」
「事故の後、頭が痛いと感じたことはありますか?」
「ないわね」
「身体がだるいと感じたことは?」
「うーん……。ない」
 という具合に、問診表にそって質問と解答が繰り返される。
 およそ二十問の問答があってから、
「以上で問診は終わりです。続いて触診しますので、上着を脱いでいただけますか?」
「う、うん」
 女医の指示通りに上着を脱いでブラジャー姿となったところで、
「ブラジャーはそのままで結構ですよ。それでは……」
 健康診断で良く見られる打診や聴診器による診断がはじまった。さらに肝心ともいうべき首筋あたりの触診に入った。
「痛かった言ってくださいね」
 押したり叩いたり、頭をぐりぐり回して首筋の動きとかに異常がないかを確認している。
「それにしてもこんな大きな事故を続けて二度も経験されるとは、お嬢さまもよほどついていないですね」
「二度め?」
 そうか……。飛行機墜落事故は、慎二のせいだと思っていたが、もしかしたら誰かによって巧妙に仕組まれていたのかも知れない。自動制御装置にコースを逸脱するようなプログラムをインストールされていたとしたら? 慎二はたまたま居合わせただけかも知れない。いくら重量(ペイロード)問題があったとしても、たかだか八十キロ前後の重量オーバーくらいで、あれだけの巨体のDCー10ジェット機が燃料切れをおこすはずがない。
 やはりUSA太平洋艦隊司令長官のドレーメル大将の言う通りにスパイが紛れ込んでいる可能性がある。

 問診が終わって、診断装置の準備が整うまで特別の応接室に通される梓と麗香。
 二人きりになったのを機に尋ねてみる。
「ところで麗香さん、例の件の調査は?」
「申し訳ありません。スパイがいるとして証拠隠滅されないように、極秘理に調査を進めていますので、まだ時間がかかりそうです」
「そう……。なんにしても、あたしの身の回りに命を狙う組織がいるとぞっとするわね」
「ボディーガードを、おそばにお付けしましょうか?」
「いらないわよ。葵さんみたいにぞろぞろ黒服を連れているのを見ていて、あまり印象が良くないのを知っているから」
 梓の言う葵とは、真条寺家の本家である神条寺家当主の跡取り娘である。社交界などで会った時などには、何かと本家ということを鼻にかける、梓にとってはいけすかない同い歳。
 まあ、そのうちにまた会うことになるだろう。

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梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件(十一)寄港
2021.04.13

梓の非日常/第八章・太平洋孤島事件


(十一)寄港

 やがて炎上する敵駆逐艦のそばに浮上する潜水艦。
 司令塔甲板に姿を現わす艦長と見張り要員。
『まだしつこく浮かんでいるな。魚雷長、一発ぶち込んでやれ』
『了解』
『撃墜されたパイロットのものと思われる救難信号がいくつか出ています』
『うむ。救助艇を出して助けてやれ。海賊は放っておいていいぞ』
『了解。救助艇を出して、救助に向かいます』
 数分後、艦首より二筋の軌跡が、敵艦に向かって走る。そして火柱が上がり大音響とともに敵艦は海のもくずと消えた。
『敵艦を三隻とも撃沈させてよかったのですかね。敵艦に乗り込んで素性を調査することもできたのでは?』
『敵は海賊なんだぞ、それを許すと思っているのか。近づいた途端に、自爆してこちらを道ずれにするのは目に見えている』
『しかし甲板や中にまだ取り残されている乗員もいたのではないでしょうか』
『国籍を隠蔽した海賊船に、法や情けは無用だ。アメリカ国家と国民に対する攻撃は、いかなる理由に関わらず断じてこれを許さない。これは大統領の強い意志であり、アメリカの権威なのだ』
『そうですね。お嬢さまもこの艦も、アメリカ国籍でした』
『艦長。護衛艦が到着しました。十一時の方向から』
『パイロットの収容は?』
『全員救助して帰還中です』
『よし。収容が完了次第、浮上したまま基地に帰還する。出航準備。星条旗と我々の旗をあげろ』
 ポールに星条旗と、米国海軍旗、第七艦隊旗そしてARECの社旗がするすると上がる。
 艦体に接舷する救助ボートからパイロットが上がってくる。
 労をねぎらうために艦長みずからが出迎えに出ていた。
『CVWー11航空団所属、キニスキー大尉であります』
 以下、次々と自己申告するパイロット達。
『当艦の艦長のウィルバートだ。諸君らのおかげで敵艦隊に攻撃のチャンスが生まれ、これを撃沈することができた。ご苦労であった、礼を言う。ゆっくりと静養してくれたまえ。以上だ』
『はっ!』
 最敬礼をするパイロットを後にして艦内に戻る艦長と副長。
『お嬢さまに、戦闘が終了したことを知らせましょう』
『おおそうだな。よろしく頼む』

 居住ブロックの梓達。
 戦闘終了の報告を受けて、一斉に喜びの声を上げる。
「一時はどうなるかと思いましたよ」
「ねえ、梓ちゃん」
「なに?」
「もう少し艦内の自由を与えてくれないかな」
「そうなんです、おトイレに行くのも不自由してます」
「トイレ?」
 部屋にいるのは女性ばかりなので、遠慮なく話している。
「おトイレに行くのに監視がつくんです。一応女性隊員ですから、まあよしとすべきなんでしょうけど」
「艦長に相談してみる。他に何かある?」
「それじゃあ、小銭の両替お願いします。そこの自販機、アメリカコインでないと使えませんから。ドル紙幣は持ってますけど、小銭までは用意していませんでした」
「わかった」

 統合発令所。
『判りました。お嬢さまがそうおっしゃるなら、居住ブロック内に限っての自由を与えましょう。ただし乗員のプライベートルームがありますので勝手に入らないようにお願いします』
『当然です。個室が判る目印はありますか?』
『扉に部屋番号がついているのがそうです』
『判りました』
『ところで、米海軍太平洋艦隊司令長官が、ぜひお嬢さまにお会いしたいと言ってきておりますが、いかがなされますか』
『お会いしましょう。今回の件ではおせわになりましたからね。断るわけにはいかないでしょう』
『では、手配いたします』


 ハワイ諸島。
 パールハーバーに入港する資源探査船。
 沿岸に集まった野次馬が、その巨大な雄姿に見とれている。
 合衆国が所有するすべての戦略・攻撃型原子力潜水艦より、装備を強化した戦闘艦として、さらに深海資源探査船としての装備をも合わせ持った、水中総排水量四万八千トンという世界最大の原子力潜水艦である。
『見ろよ。原子力潜水艦だぜ』
『それにしてもでかいが、海軍の潜水艦じゃないな。司令塔の脇に識別艦番号が記されていないし』
『潜水艦の場合は、その秘匿性から艦番号を表示しないことが多いんだよ。その代わりに変な文字があるぞ』
『ありゃあ、中国の漢字とかいうやつじゃないか』
『じゃあ、中国の潜水艦か?』
『原爆保有国だから、原潜を所有してても不思議ではないが……そんな技術あるか?しかもこんな巨大艦』
『うーん。どうなんだろ。中国軍は公式発表しないからな』
『バーカ。中国軍がパールハーバーに入港できるわけないよ』
 彼らの意志には、日本という言葉がないようだ。核廃絶を唱える国家だから眼中にないといったところ。
『おまえらどこ見てんだよ。星条旗と第七艦隊の旗を掲げているんだぞ。中国軍のはずないだろ。間違いなく合衆国の潜水艦だよ』
『そういえば、司令塔のポールに……』
『ああ! おい、見ろよ。あの旗を』
『え、どれ?』
 司令塔のポールに掲げられた旗を指差す野次馬。
『真条寺家のシンボルマークだよ』
『じゃあ、真条寺家の潜水艦か?』
『そういえば真条寺グループ傘下の資源探査会社が深海資源を探査する船を開発したっていう記事を読んだことがある。たぶんそれじゃないか?』
『じゃあなんで第七艦隊の旗が? 星条旗だけなら納得できるが』
『わからん……』
 野次馬が理解できるはずもなかった。真条寺家と合衆国海軍との間で極秘理に調印、運用されている潜水艦なのであるから。

 太平洋艦隊司令長官オフィス。
 梓と司令長官のドレーメル大将が対面している。麗香もドアの所で待機している。
『いやあ、お嬢さまの乗られた航空機が不時着したと聞いた時は、心配しましたよ。要請があればいつでも救助に迎えるように、近くを航行中の空母エイブラハム・リンカーンに準備をさせていたのですが。その上に潜水艦までが攻撃を受けたと聞いた時には驚きましたよ』
『そのお気遣いだけで充分です』
『ところで、あなた方を襲った駆逐艦ですが、当方でも色々な方面から情報を集めましたが、依然として不明のままです』
『そうですか……』
『潜水艦を拿捕しようとしたのか、それとも真条寺家の後継者であるあなたを亡き者にしようとしたのか……』
『え? それは、どういうことですか? あたしを亡き者って』
『考えてもみてください。潜水艦を拿捕するのが目的なら、FA戦闘機が逸早くスクランブル発進で攻撃してきた時点で、太平洋艦隊の擁護下にあったことが判明し、諦めて撤退するのが常識でしょう。にもかかわらず執拗に攻撃しようとしてきた。となると、潜水艦に乗艦している重要人物を狙ったものと考えるのが自然です。そしてそこには真条寺家後継者のあなた様がいらっしゃった』
『まさか……』
『太平洋の孤島にお嬢さまの乗った飛行機が不時着したという情報、及び資源探査船が救出に向かったという情報が漏洩しているようですね。それがあなたを亡き者にしようとしている組織に流れ、駆逐艦部隊が派遣されたと考えるべきでしょう。あの駆逐艦はどう考えても正規の軍隊です。おそらく一国の軍隊の一部を買収して海賊行為を行わせるだけの資金と権力を持ったかなり大掛かりな組織のようですね』
『情報が洩れている……』
 親指の爪を唇に当てて、少し顔を伏せ加減でじっと考え込んでいる梓。
『麗香さん!』
『はい!』
『あたしがあの島にいることを知っている部署は判りますね』
『はい』
『信じたくありませんが、真条寺グループの中にスパイが紛れ込んでいるのかも知れません。極秘理に調査をしてください』
『かしこまりました』
『一応こちら側でも調査を引き続き行います。軍の上層部にもお嬢さまの不時着の件が伝わっています。こっちから流れた可能性もありますから』
『お願いします』
『そうそう。大統領からの言付けがありました。いずれ機会があればお食事でもしながらお話ししましょうとのことです』
『はい。その時は喜んでお受けいたしますと、お答えしておいてください』
『かしこまりました』
『それと、大統領専用機が現在空いておりますので、それでお帰りくだされても結構です、とのことですが』
『そこまでして頂かなくても結構ですわ。自家用機がありますので』
『そうですか。それでは、向こうに着いたら横田基地をお使いください。お屋敷に一番近い空港ですから。基地司令官には、到着予定時間帯に滑走路を空けておくように連絡を入れておきます。あんなことがあったばかりですからね。警備上はるかに安全です。できればそうしてください』


 長官との面談を終えて、ワイキキビーチで水着姿でくつろぐ梓達。その一方で、パスポートを持たない慎二は、不法入国者として強制送還の処置をとられ、一歩もハワイの地を踏むことなく空路日本に送り返されることとなった。
「覚えてろよー」
 という捨てぜりふとともに。

「ねえ、梓ちゃん。あの艦の艦長さんだけどさあ」
「なに?」
「肩章に星二つだったわ。つまり上級少将ということ。普通艦長というのは、佐官クラスの将校が任命されるものよ。それが提督クラスの艦長が乗艦しているってことは、通常とは違う特別任務が与えられているはずよね」
「そ、それがなにかな……」
「多分、戦略核兵器が搭載されているんじゃないかな。梓ちゃん、何か聞いてない?」
 さすがに感のいい絵利香だ。状況証拠を分析し判断する能力値は高い。
「き、聞いてないよ。だって、オーナーになってることだって、初耳だったんだから。みんなお母さんがやってることだもん」
「そうだよね……そもそもあの艦を島に逸早く回航させてくれたのも渚さま」
「そうそう……」
 冷や冷やどきどきの梓。渚から極秘と言われているので、答えられないもどかしさ。
「ま、いいか……直接的には、わたしたちには関係なさそうだから」
「それからね、飛行機の回収がはじまったようよ」
 話題を変える梓。
「早いわね。三日後って言ってたから、明日じゃなかったの?」
「たまたま早く着いちゃったみたいね」
「あんな大きなものどうやって回収するの?」
「分解して回収するみたい。一応日本の飛行機だから、日本に持って返って事故調査委員会の調査を受けてから、篠崎に返されるようよ」
「そうか、だとすると、慎二君。また槍玉に上げられるってことね」
「当然のことなんじゃない」
「冷たいのね」
「いい勉強になるわよ。何事もよく考えてから行動することを学習できるでしょ」

 横田航空基地。
 戦闘機の護衛を受けながら基地滑走路へ進入をはかるジャンボ機。その尾翼には真条寺家のシンボルマークが輝いている。
 滑走路を滑りながらジャンボ機は、管制塔近くに着陸した。タラップが掛けられ、その周囲に米軍士官達が立ち並んだ。
 ジャンボ機のドアが開いて、梓達がタラップを降りて来る。一斉に士官達が敬礼して歓迎の意を表す。その先に横田基地司令官、肩章に星二つのドワイト上級少将が待ち受けている。司令官は軽く敬礼すると、右手を差し出して握手を求めて来る。握手に応える梓だが、その手の大きさの違いにとまどっている。
『長官からは、大切にお出迎えするように言われております』
『申し訳ありませんねえ。話しが大袈裟になってしまって』
『海賊船に襲われたというじゃありませんか。念には念をいれるのは当然でしょう』
 タラップのそばに並ぶ士官達が小声で囁きあっている。
『なんだよ。どんなやからが降りて来るかと思ったら、女と娘じゃないか』
『だがよ。そのやからは、あのジャンボ機を自家用機にしてるんだぜ。それだけでもただ者じゃないことがわかるぜ。しかもお出迎えの車が、ロールス・ロイス・ファンタムⅥときたもんだ』
『今司令官と話している娘が、どうやらプリンセスのようだな。後の二人は付き添いみたいだ』
『しかし……』
『なんだよ』
『可愛い娘だな』
『ああ……』

 その後の飛行機墜落事故調査委員会からの報告がなされ、飛行機の自動運行プログラムと燃料計が、何者かによって改変されていたことが明らかになった。
「つまり、慎二君のせいだけではなかったということね」
 絵利香がため息のような声を出した。
「あ、あたしは信じていたよ。ほ、ほんとだよ」
 焦ったような表情をして弁解する梓。
「たった八十五キロ程度で、飛行機が落ちるわけないじゃん。慎二をちょっとからかっただけだよ」
「はいはい、そうでしょうとも」
 絵利香も深くは詮索しなかった、
 そして顔を見合わせてほほ笑むのだった。

第八章 了

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