銀河戦記/鳴動編 第二部 第三章 第三皇女 XV
2019.08.17


第三章 第三皇女


                 XV

 インヴィンシブルの艦載機発着場。
 アークロイヤルの皇女専用艀が停船しており、その周囲を将兵が整然と取り囲んでい
た。真紅のビロードの絨毯が敷かれて、ジュリエッタ皇女が出迎えていた。
 やがてドアが開いて、中からマーガレット皇女が姿を現わす。その背後にはアレック
スが控えている。
 タラップが掛けられて、兵士達が一斉に銃を構えなおし、VIPを出迎える動作を行
った。内乱の首謀者といえども、皇女という身分を剥奪されてはいないからだ。
「お姉さま!」
 ゆっくりと歩み寄るジュリエッタ皇女。
「ジュリエッタ……」
 互いに手を取り合って再会を喜ぶ二人。政治の舞台では反目しあっていても、姉妹の
愛情は失われていなかった。
 首都星へ向かうインヴィンシブルの貴賓室で、姉妹水入らずで歓談する二人。アレッ
クスは席を外しており、別の部屋で待機をしていると思われる。
「そういうわけだったのね」
 ジュリエッタは、共和国同盟の英雄との出会いを説明していた。
「噂には聞いておりましたが、あれほどの戦闘指揮を見せつけられますと……」
「何? 何が言いたいわけ?」
 言い淀んでしまったジュリエッタの言葉の続きを聞きだそうとするマーガレット」
「マーガレットお姉さまも気づいていますよね?」
「エメラルド・アイでしょ……」
「その通りです。軍事的才能をもって帝国を築いたソートガイヤー大公様の面影がよぎ
ってしかたがないのです」
「そうね……。もしかしたら大公様の血統を色濃く受け継いでいるのかもしれません」
「だったら……」
 身を乗り出すジュリエッタ皇女。
「待ちなさいよ。結論を急ぐのは良くないことよ。わたし達はランドール提督のことを、
まだ何も知らないのよ。例えば連邦にもエメラルド・アイを持つ名将がいるとの噂もあ
ることですし」
「ええと……。確かスティール・メイスン提督」
「連邦においてはメイスン提督、同盟ではランドール提督。この二人とも常勝の将軍と
して名を馳せており、奇抜な作戦を考え出して艦隊を勝利に導いているとのこと」
「そして異例のスピードで昇進して将軍にまで駆け上ってきた。もしかしたら……この
どちらかが、アレクサンダー皇子と言うこともありえます」
「ええ。何につけても『皇位継承の証』が出てくれば、すべて氷解するでしょう」
「そうですね……。とにもかくにも、今は身近にいるランドール提督のことを調べてみ
るつもりです」
「事が事だけに、慎重に行うことね。何せ、命の恩人なのですから」
「はい」

第三章 了


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銀河戦記/鳴動編 第二部 第三章 第三皇女 XIV
2019.08.10


第三章 第三皇女


                XIV

 やがて一隻の艦が接舷してきた。
「乗り込んでくるもようです」
「排除しなさい」
「判りました」
 答えて艦内放送で発令するグレイブス提督。
「艦内の者に告げる。接舷した敵艦より進入してくる敵兵を排除せよ。銃を持てる者は
すべて迎撃に回れ」
 次々と乗り込んでくるサラマンダー艦隊の白兵部隊。
 だがいかんせん、戦闘のプロの集団に、白兵など未経験の素人が太刀打ちできる相手
ではなかった。
 白兵部隊は艦橋のすぐそばまで迫っていた。
 ロックして開かないはずの扉が開いてゆく。投げ込まれる煙幕弾が白煙を上げて視界
が閉ざされていく。そしてなだれ込んでくる白兵部隊。次々と倒されていく味方兵士達。
 やがて煙幕が晴れたとき無事でいたのは、マーガレット皇女と侍女、そしてグレイブ
ス提督他数名のオペレーターだけであった。
 やがて敵兵士によって確保された扉を通って、警護の兵士に見守られながら一人の青
年が入ってきた。
 どうやら敵白兵部隊の指揮官のようであった。
「ご心配なく。倒れているのは麻酔銃で眠っているだけです。十分もすれば目を覚まし
ます」
 言われて改めて周囲を見渡すマーガレット皇女。確かに死んでいない証拠に、微かに
動いているようだ。麻酔があまり効かなかったのか、目を覚まし始めている者もちらほ
らといる。
「このようなことをして、何が目的ですか?」
「銀河帝国摂政エリザベス皇女様の命により、あなた様を保護し帝国首都星へお連れ致
します」
「わたしを逮捕し、連行すると?」
「言葉の表現の違いですね」
 麻酔が切れて次々と目を覚まし始めるオペレーターや兵士達。
 敵兵の姿を見て銃を構えようとするが、
「おやめなさい! 銃を収めるのです。わたしの目の前で血を流そうというのです
か?」
 皇女に一喝されて銃を収める兵士達。
 マーガレット皇女の旗艦アークロイヤルは、敵艦隊の包囲の中にあり、接舷した艦が
発砲すれば確実に撃沈するのは、誰の目にも明らかであった。
 いわゆる人質にされてしまった状況では、戦うのは無駄死にというものである。将兵
の命を大切にする皇女にできることは一つだけである。
「提督。全艦に戦闘中止命令を出して下さい」
「判りました。全艦に戦闘中止命令を出します」
 提督の指令で、アークロイヤルから停戦の意思表示である白色弾三発が打ち上げられ
た。
 ここに銀河帝国を二分した内乱が終結したことになる。
「首都星へ行くのは、わたしだけでよろしいでしょう? バーナード星系連邦の脅威あ
る限り、この地から艦隊を動かすことはできません。罪を問われるのはわたし一人だけ
で十分です」
「皇女様の思いのままにどうぞ」
 皇女の気高さと自尊心を傷つけるわけにもいくまい。
「ありがとう」
 そう言って改めて、その若き指揮官を見つめるマーガレット皇女。
 常に笑顔で対応するその指揮官の瞳は、透き通った深緑色に輝いていた。
「あ、あなたは……?」
 言葉に詰まるマーガレット皇女。ジュリエッタ皇女が初対面の時に見せた表情とまっ
たく同じであった。
「共和国同盟解放戦線最高司令官、アレックス・ランドール少将です」
 指揮官が名乗ると、艦内に感嘆のため息が起こった。
 ここでも、アレックス・ランドールの名を知らぬものはいないようであった。
「なるほど……。共和国同盟の英雄と称えられるあの名将でしたか」
「巡洋戦艦インヴィンシブルが近づいてきます」
「ジュリエッタが来ていたのね」
「インヴィンシブルで首都星アルデランにお連れ致します」
「参りましょう。提督、艀を用意してください」
 グレーブス提督に指示を与える。
「かしこまりました」
「提督には残って艦隊の指揮を執って頂きます。引き続き連邦への警戒を怠らないよう
にお願いします」
「はっ!誓って連邦は近づけさせません」
「ランドール殿、それでは参りましょうか」
 こうしてアレックスに連れられて、インヴィンシブルへと移乗するマーガレット皇女
だった。


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銀河戦記/鳴動編 第二部 第三章 第三皇女 XIII
2019.08.03


第三章 第三皇女


                XIII

「敵艦隊旗艦、アークロイヤル発見!」
 ついに待ちに待った情報が届いた。
「ようし、遊びは終わりだ。全艦ワープ準備! 敵旗艦空母の周辺に座標設定」
「了解! ワープ準備に入ります。座標設定、敵空母周辺」
 操舵手が復唱する。まさに楽しそうな表情で、ピクニックにでも行くようだ。それも
そのはずで、あのミッドウェイにおいても操舵手を務めていたのである。空母攻略のた
めの小ワープは、その時と状況がほとんど似通っており経験済みの余裕であった。
「白兵戦の要員は、ただちに発着場に集合せよ」
 ミッドウェイでは総攻撃を敢行したが、今回はアークロイヤルに接舷し、白兵戦で艦
内に侵入する。そしてマーガレット皇女を保護する作戦である。
「艦長、後は任せる。作戦通りに動いてくれ」
 立ち上がって指揮官席を譲るアレックス。
「おまかせ下さい」
 作戦を参謀達に伝えた時、提督自らが敵艦に乗り込むことに、反対の声も少なくなか
った。しかし、作戦が困難であればあるほど、部下にだけに苦労させたくないというア
レックスの心情と性格は、誰しもが知っていることである。カラカス基地攻略戦、タル
シエン要塞攻略戦など、生還帰しがたい作戦だからこそ自ら率先してきたのでる。
「内乱を引き起こしたとはいえ、相手は皇女様だ。私が行かなければ失礼にあたるだろ
う」
 そう言われてしまうと誰も反論することができなかった。

 その頃。旗艦空母アークロイヤル艦橋では、マーガレット皇女が、戦闘機編隊の不甲
斐なさに憤慨していた。
「たかが駆逐艦に戦闘機が手をこまねいているとは……」
「いいえ、よくご覧下さい。そのたかが駆逐艦の動きです。さながら戦闘機のようでは
ありませんか。まるで曲芸飛行をのようです」
 そう答えるのは、艦隊司令のトーマス・グレイブス少将である。
「こちらは三万機もの戦闘機で迎え撃っているのですよ。相手はたった二百隻ではあり
ませんか」
 戦闘機がたかが駆逐艦に負けるわけがない。
 そうでなければ、自軍の艦隊編成を見直さなければならない。戦闘機の攻撃力と機動
性を信じたからこそ、アークロイヤルはじめ数多くの航空母艦を主体とした空母艦隊を
組織したのである。戦闘機がこうもあっさりと惨敗し、しかも敵艦はほとんど無傷とな
れば、まさしく空母無用論を唱えたくなる。
「とにかく、このままでは……。一旦退却して体勢を整えさせましょう」
 その時だった。
 敵艦隊が突如として消えてしまっただ。
「消えた?」
「どういうことですか?」
「わかりません」
 次の瞬間、目前に敵艦隊が再出現したのである。
 突然の出来事に目を丸くして驚愕する一同。
 空母は、戦闘機の発着を円滑に行うために、艦同士の距離をとってスペースを開けて
おかなければならない。そのスペースを埋め尽くすように敵艦隊が、アークロイヤルの
周囲を取り囲んでしまったのである。これでは味方艦隊は攻撃をできない。まかり間違
えば、アークロイヤルに被害を及ぼしてしまうからである。
「完全に包囲されています」
「何とかしなさい」
「無駄です。我々は人質にされてしまいました。味方は攻撃することができません」


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銀河戦記/鳴動編 第二部 第三章 第三皇女 XII
2019.07.27


第三章 第三皇女


                 XII

 それはアレックスが昇進し大艦隊を指揮統制できるようになっても独立遊撃艦隊とし
て、二百隻をそのまま自分の直属として配下に置き続けたきたからである。
 幾度となく死線を乗り越えてきた勇者の余裕ともいうべき雰囲気に満ちていた。
「P-300VXより入電! 敵空母より艦載機が発進しました。その数およそ三万
機」
 オペレーターの声によって、艦橋は一気に緊迫ムードに包まれた。
「おいでなすったぞ。全艦、対艦ミサイル迎撃準備。CIWS(近接防御武器システ
ム)を自動追尾セット。各砲台は射手の判断において各個撃破に専念せよ」
 戦闘機は接近戦に入る前に、遠距離からのミサイル攻撃を仕掛けるのが常套である。
そこでまず最初に、そのミサイルに対する防御処置を取ったのである。とはいえ、各機
がミサイルを一発ずつ放ったとしても、総数三万発のものが襲い掛かってくることにな
る。まともに相手などしていられない。
「ミサイル接近中!」
「全艦急速ターン用意」
 ここはミサイルの欠点を突くしかない。宇宙空間では、ミサイルは急速ターンができ
ず、ホーミングによって追尾しようとしても旋回半径が非常に大きい。そこでタイミン
グよく急速移動すれば、何とか交わすことが可能である。
「よし、今だ! 急速ターン!」
 ミサイルと違って、ヘルハウンド以下の艦艇には、舷側や甲板・艦底などに噴射ジェ
ットが備えられており、急速ターンや平行移動ができる。ミサイルを目前にまで近づけ
ておいて、一気に移動を掛けるのである。
 目標を失ったミサイルは頭上を素通りしていった。そこをCIWSが一斉に掃射され
て破壊してゆくのである。
 こうしてミサイル群を見事に交わしきってしまったサラマンダー艦隊は、さらに前進
を続ける。
「敵艦載機、急速接近!」
 ミサイルよりはるかに手ごわい相手の登場である。
「提督。ちょっと遊んでもいいですか?」
 操舵手が許可を求めてきた。
 余裕綽々の表情である。
 三万隻を相手にして遊んでやろうという自信のほどが窺える。
「ほどほどにしてくれよ」
「判ってますよ」
 わざとらしく腕まくりをして、操作盤に向き直った。
「全艦に伝達。戦闘機のコクピットは狙わずに、後部エンジンに限定して攻撃せよ。パ
イロットが緊急脱出できるようにしておけ」
 今回の作戦は、敵艦隊を殲滅させることではなく、空母アークロイヤルに座乗してい
るマーガレット皇女を保護し、反乱を終結させ和平に結びつけることにある。その他の
将兵達には極力手出ししないようにしたかったのである。
 仮に目的のためには手段を選ばずで、手当たり次第に殺戮を行えば、後々まで遺恨を
残して、和平にはほど遠くなってしまうだろう。
 とにもかくにも、サラマンダー艦隊と戦闘機との壮絶な戦いが繰り広げられていた。
 ランドール戦法、すなわち究極の艦隊ドッグファイトを見せつけられて、目を丸くし
ている戦闘機パイロット達がいた。
 何せ機動力では、はるかに戦闘機の動きを凌駕していたのである。
 舷側などにある噴射ジェットを駆使して、まるで曲芸飛行を見せつけてられているよ
うだった。その場旋回やドリフト旋回など、戦闘機には不可能な動きで、簡単に背後に
回ってロックオン・攻撃。もちろんCIWSなどの対空砲火も半端なものではなかった。
次々と撃墜されてゆく戦闘機編隊。戦闘開始十分後には一万機が撃ち落されていた。
 パイロット達は、すっかり戦闘意欲を喪失しまっていたのである。


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銀河戦記/鳴動編 第二部 第三章 第三皇女 XI
2019.07.20

第三章 第三皇女


                 XI

 物語に戻ることにする。
 インヴィンシブルの艦橋。
 貴賓席に腰を降ろしているジュリエッタ皇女と、その両脇に直立不動の姿勢で立って
いるネルソン提督とアレックス。
 艦橋オペレーターは、アレックスの方をチラチラと訝しげに垣間見ている。
「まもなく、アルビエール候国領内に入ります」
「ここから先は、自治領を侵犯してゆくことになります」
 オペレーターの報告に対して説明するネルソン提督。
「いつ、どこから攻撃を受けるか判らないということですね」
「はい、その通りです。マーガレット様の艦隊は航空母艦を主体とした艦隊編成ですの
で、まずは戦闘機の大編隊が襲い掛かってきます」
 ジュリエッタの質問に詳しい解説を加えるネルソン提督。
「マーガレット皇女様の旗艦は、攻撃空母アークロイヤルでしたね?」
 確認を求めるアレックスにネルソン提督が答える。
「はい。舷側に皇家の紋章が配色されているので、すぐに判ります」
「ありがとう」
 頷きながら正面スクリーンに敵編隊を探し求めるような表情を見せるアレックスだっ
た。
「ランドール提督宛て、ヘルハウンドより入電しています」
 艦内の緊迫感を一気に高める声だった。
 アレックスは冷静に対応する。
「繋いでください」
 正面スクリーンにポップアップ画面でヘルハウンド艦長が映し出された。
「P-300VXが敵艦隊を捉えました」
「よし。索敵を続行。マーガレット皇女の旗艦空母アークロイヤルを探せ! それとド
ルフィン号をこちらに回してくれ。今からそちらへ行く」
「了解!」
 艦長の映像が途切れて、元の深遠の宇宙空間が広がる映像に戻った。
 アレックスはジュリエッタに向き直って、先程の交信内容を実行することを伝えた。
「これより我がサラマンダー艦隊は、マーガレット皇女様を保護するために、皇女艦隊
への突撃を敢行いたします」
「たった二百隻で大丈夫ですか?」
 心配そうに尋ねるジュリエッタに微笑みながら答えるアレックスだった。
「六十万隻を相手にするのではなく、目標のアークロイヤル一隻のみですので大丈夫で
すよ。ジュリエッタ様は、作戦通り援護射撃に専念してください」

 ヘルハウンドに戻ったアレックスは、早速サラマンダー艦隊に進撃を命じた。
「機関出力三分の二、加速三十パーセント。マーガレット皇女艦隊に向けて進撃開始」
 速度を上げてジュリエッタ艦隊を引き離すように先行してゆくサラマンダー艦隊。
「まさか、このヘルハウンドで、たて続けに戦闘をするなどとは思わなかったな」
 愚痴ともとれる言葉に、艦長が笑いながら答えた。
「いいじゃありませんか。我が艦隊の乗員達も提督を指揮官に迎えて、みんな張り切っ
ているのですから」
 艦長に呼応するかのように、オペレーター達が立ち上がって答える。
「艦長のおっしゃるとおりです」
「かつての独立遊撃艦隊の復活です」
「提督となら地獄の果てまでもご一緒しますよ」
「おいおい。地獄はないだろう。天国にしてくれ」
 笑いの渦が沸き起こった。
 本来なら笑っていられる状態ではなかった。六十万隻もの大艦隊がひしめく中に飛び
込んで、皇女艦に取り付いて、白兵戦でマーガレット皇女を保護しようというのだから。
まさしく命がけの戦いで、地獄の果てまでという言葉が出たのもそのせいなのだ。
 しかし、サラマンダー艦隊に集う士官達に迷いはない。提督と共になら、火中に栗を
拾いに行くこともいとわないのである。
 まさしくミッドウェイ宙域会戦の再来ともいうべき作戦が開始されようとしていた。


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