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梓の非日常/第二部 第二章・宇宙へのいざない(四)衛星追跡管理センター
2021.05.06

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない


(四)衛星追跡管理センター

「ははは、ものは試しです、やってみましょう。まずはここに手をついてください」
 所長が示した場所には、ガラススクリーンが輝いている。
「指紋照合機ね」
「指紋照合の後に自動的に網膜パターン照合が始まります。まっすぐ正面を向いていてください」
 梓が指紋照合機に掌をかざすと、ガラススクリーンに揮線が走ってスキャンされ、続いて顔の目の位置にレーザー光線が当たって網膜パターン照合が行われた。
 パネルスクリーンに照合結果が表示された。
「真条寺梓-AFC代表。無監査、進入OK」
 同時に通路に続くゲートが開いて、地下の施設へ降りるエレベーターが現れた。
「地下なんですか?」
「はい」
「ん……」
 梓は、地下施設に閉じこめられた火災事件を思い起こし、足がすくんでいた。あの日以来閉鎖された地下へは降りられなくなっていたのだった。
「お嬢さま、どうなさいます。止めますか?」
 そのことに気がついた麗香が、やさしくささやいた。
「大丈夫、麗香さんが一緒ならね」
 といいながら麗香の手を取り、握り締めてきた。
「わかりました。一緒に参りましょう」
 麗香がその手をそっと握りかえしてやると、安心したように笑顔を見せる梓だった。
 手をつないでエレベーターに乗り地下施設の衛星追跡コントロールセンターに降りる二人。
「網膜パターン照合によるゲート通過承認は、それぞれのゲートごとに登録された者だけが通過できるのですが、お嬢さまだけは無監査承認となっておりますので、すべてのゲートを通過できます」
「研究所の正面ゲートの時みたいに?」
「はい。代表として当然でしょう」
 エレベーターのドアが開いて、目の前に追跡コントロールセンターの全貌が広がった。正面にはメルカトル図法で描かれた世界図に数多くの軌跡が走っている。

「お嬢様、いらっしゃいませ」
 センター長が駆け寄ってきて、挨拶もそこそこに説明を始めた。
「ここではAFCが打ち上げたすべての衛星と、協力関係にあるその他の衛星も追跡しています。なお衛星が地球の裏側などに回っても大丈夫なように、ここ以外にも、スイスのAFCチューリヒ事業部およびブロンクスの航空管制センター内の地下にも同様の中継施設があり、AFCの光ファイバー通信網及び通信衛星『あずさ』の中継で連絡されています。画面をご覧ください。青の軌跡が通信衛星の『あずさ』と赤の軌跡が資源探査気象衛星『AZUSA』です」
『こちらの太陽系が描かれているスクリーンは?』
『惑星探査ロケットの軌道を追跡していますが、こちらのコントロールはブロンクスの方で行っております。一応ここからでもコントロールは可能ですがね』
「そうですか。しかし……平仮名の『あずさ』にローマ字の『AZUSA』って、いちいち紛らわしいわねえ。これって、お母さんが名付けたの?」
「その通りです。ついでに言いますと、漢字表記の『梓』という原子力潜水艦もありますけど」
「あ、それ。乗ったことあるよね。ハワイへ行くときに」
「そうですね。まあ、お嬢さまを思う渚さまの母心とお思いくださいませ」
 センター長は、どうやら太平洋の事件のことを知っているようだ。鍾乳洞に落ちた梓を探すためや、ハープーンミサイル誘導で「AZUSA 5号B機」が使用されているので、当然その運用には追跡センターが関与しているだろう。

「それでは、資源探査気象衛星『AZUSA』に搭載された地表探査カメラを操作してみましょう。丁度六号F機が日本上空を通過中ですので、それを使用します。正面のスクリーンをごらんください」
 宇宙から鳥瞰された日本列島が、スクリーンに大写しされている。
「解像度をあげましょう」
 まるでカメラが地上に接近しているかのような錯覚をふと覚えながら、どこかで見たような町並みと、その中に飛び抜けて広大な敷地を抱えた邸宅が映しだされた。
「あ! あたしの屋敷ですね」
「はい。比較しやすいでしょうから」
 ふと見ると、正面門の前をうろうろと動き回っている怪しげな影に気づく。
「ああ、ここ。もう少し大写しできませんか」
「わかりました」
 やがてスクリーンに拡大投影された人物。
「これで最大です」
 それはまぎれもなく梓につきまとうあの男。
「慎二だ」
「お知り合いですか」
「そんなところです」
 慎二は正面から脇道に回り、しばし壁を見つめていたが、やおら壁をよじ登りはじめた。
「あ、あの馬鹿」
「不法浸入ですね。警察に通報しますか」
「その必要はないでしょう。どうせ、すぐつまみ出されると思うから」
 数分後、正面門からガードマンに襟首をつかまれるようにして慎二が放り出されていた。
「屋敷のセキュリティーが完璧なことは知っているくせに、なんで侵入しようとするかなあ。あの、馬鹿は。ガードマンが慎二の顔を知っているから、追い出されるだけで済んでるけど」
「馬鹿……なんですか?」
「でなきゃ、真っ昼間から塀をよじ登ったりしないでしょ」
「そりゃそうですね」
 と納得している研究員。
「しかし、すごい技術ですね。宇宙のかなたから個人の表情まではっきりと識別できるカメラが開発されていたなんて」
「お嬢様のお名前を頂いている衛星ですからね。技術陣も生半可な気持ちでは開発できません。もちろん打ち上げに際しても、百パーセント自信を持っていました」
 梓と研究員との会話を傍聴しながら、麗香は内心冷や汗ものだった。梓の事を四六時中監視していることは、今なお秘密にしていたからである。
「もう結構ですわ。通常業務に戻してください」
「かしこまりました。では次の場所に移動しましょう」

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梓の非日常/第二部 第二章・宇宙へのいざない(三)野次馬達
2021.05.05

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない


(三)野次馬達

 玄関に向かう途中の通路が人ごみで溢れかえっていた。
「こら。おまえら何をしておるか」
「い、いえ。真条寺梓さまがお見えになられていると聞きまして。丁度、休憩中なんで、遠巻きにでも野次馬しようと。はは……」
 さすがに梓の人気は圧倒的なものだった。
 グループの代表に会えるというのは、重役連中でさえそう滅多にあるものではない。ましてや華麗で清楚な十六歳のお嬢さまという噂を聞きつけて、誰しもが一目でも拝見しようと、あちらこちらの部署から集まってきたのである。
「わかった。しかし、あまり騒ぐなよ」
 そんな彼らに愛想うよく、手を振って答える梓。
 さながら敬宮愛子さまがご来訪されたような風景にも似て、カメラまで持ち出してきて撮影しようとする者もいた。
「おい、おまえら。許可なくお嬢様の撮影は禁止だぞ」
「どうしてですか?」
「それは、お嬢様が天使だからだ」
「何ですか、それ?」
「要するにだ。お嬢様はアイドルはじゃないということだ。真条寺グループの総帥たる人物の素顔が世に出ることは避けなければならない。写真に撮れば万が一にも、そのお姿が漏洩する可能性もあるじゃないか。今の世の中、パソコンにデータを置いておけば、いつハッキングされるか判らないからな」
「セキュリティーは万全なのでは?」
「それにだ……。この研究所は、カメラの持ち込み禁止ということを忘れているだろう」
「あ……」
 あわててカメラを隠そうとする研究員。
「遅い! 没収する」
「ああ……」
 カメラを没収されて消沈している。

 梓に近づいて行く研究所所長。
「お嬢様。ようこそ、いらっしゃいました。当研究所所長の角田です」
「はじめまして」
 ぺこりと頭を下げる梓。
「今日はどのようなご用件でお訪ねになられたのでしょうか?」
「いえね。近くを通ったものだから、寄ってみたの」
「そうでしたか、せっかくだから所内を視察されていかれますか? ご案内致します」
「そうですね。お願いします」
 人ごみの中をかき分けて玄関フロアーに現れた人物がいた。篠崎重工社長の姿をみとめて、軽く礼をして話し掛ける梓。
「篠崎のおじさま。おひさしぶりです」
「やあ、お誕生日いらいですな」
「絵利香ちゃんとは何度も会いに伺っているのですが、いつもおじさまはいらっしゃらなくて」
「はは、何かと忙しくてなかなか家によることができませんのですよ」
「絵利香ちゃん、寂しがってますよ。たまの日曜くらい、父娘で食事にでもお出かけになっては?」
「そうですね。いずれそうすることにしましょう。ところで、今日は梓グループの代表として、視察にみえたのですか?」
「いえ。ほんとは近くを通ったついでに寄ってみただけで、視察なんてつもりじゃなかったんですけど。何か大袈裟になっちゃって」
 と、人だかりに視線を移してみせる梓。
「いいんじゃないですか。梓さまに身近でお会いできるのは、グループ内でも重役クラスの大幹部だけですからね。確か、この研究所では所長と副所長だけじゃなかったかな。梓さまにお会いしてるのは。これを機会に、研究職員との親睦を深めるのも一興かと」
「ふふ、そうかも知れませんね。ところで、おじさまは、どのようなご用事でこちらに?」
「財団法人AFCが来年四月に、大容量・超高速通信用の人工衛星『あずさ三号C機』を静止軌道上に打ち上げるのはご存じですか?」
「あずさ三号C機? ですか。知りませんでしたわ」
「代表になられる以前からの計画ですし、相談役の渚さまが推進していますので、お嬢さまがご存じでないのも仕方がありませんかな」
「今は学業の方を優先しなさいって、母はAFCのことをあまり話してくれないんです」
「ははは、とにかくですね。三号C機は改良と最新技術の導入で、先代の三号B機に比べて二十パーセントもペイロードが増えちゃったんですよ。それで打ち上げロケットもこれまでのものが使用できなくなったため、推進力のより大きなロケットが必要になったのです。今後のことも考えあわせて、現在の二倍の推進力を持つロケットエンジンの設計を、この研究所の所員と一緒に開発しているのです」
「エンジンの設計って、大変なんでしょうね」
「そうですね。一ミリにも満たないほどの誤差が原因で、燃焼実験において大爆発、数十億の施設が一瞬でパーになったことがあります」
「へえ!」
「社長、そろそろ」
「ああ、そうですね。お嬢さま、もっとお話ししたいですけど、仕事がありますので、これで失礼します」
「あ、はい。こちらこそ、お時間とらせてしまってすみません。今度機会があったら続きをお話ししてくださいませんか」
「いいですとも。では」
「はい」
 ゆっくりと元来た通路を戻って行く篠崎社長と副所長。
「それでは、お嬢さま。研究所内をご案内いたしましょう。おい! おまえらもそろそろ部署に戻れ」
 所長が、野次馬を追い返し、梓を所内視察へと案内する。

 応接室に戻った篠崎社長が質問する。
「ところで皆さん、梓さまのことをお嬢さまと呼ばれてたようですが、よろしいのですか。仮にも、AFCの代表ですよ」
「篠崎さんこそお嬢さまと呼ばれてらしたじゃないですか」
「はは、私の場合はいいのです。お嬢さまが『篠崎のおじさま』と個人的な呼び方をされたのでね」
「おじさまですか。いいですね、それ。あの可愛い声で、私もそう呼ばれたいですな。ともかく、お嬢さまは、まだ高校生ですし、これから大学にも進学されるでしょう。ご結婚されるか、相談役の渚様が完全引退されるまでは、お嬢さまでいいんじゃないですか」
「なるほどね」


 梓の行く先々では、梓の来訪を知った幹部や研究所員の熱烈な歓迎を受ける。
 それらに笑顔で接して応対を受ける梓だった。
 そして、研究所の中核施設へと入って行く。
 本来なら一般研究員は入ることの出来ない隔離されたブロックだ。
「ここからは、第四セキュリティーレベルです。指紋照合と音声照合が必要です」
 指示されたとおりにセキュリティー認証装置のチェックを受けて、その先に進んで行く梓。
 そこは企業秘密の厚いベールに覆われた人工衛星の開発設計室だった。
 資源探査気象衛星「AZUSA」の六分の一ミニチュアを前に、所員の熱い説明を受けている梓。
「このAZUSAシリーズは、稼動中の三基と予備の二基が軌道上を順次回っています。各種のレーダーで、地表及び地下を探査して資源を調査するのが任務です。その一方では、大気の雲の分布状況や海洋表面温度などの気象観測も守備範囲としています」
「ねえ、あずさって通信衛星じゃありませんでした?」
「ああ、一号機から三号機がひらがなで呼称される通信衛星の『あずさ』で、四号機から六号機がアルファベットで呼称される資源探査気象衛星の『AZUSA』ということになっております。なお、号数の後にBとかCとついているのは、故障したり改良されたりして世代交代した機体であることを意味しています」
「電源は太陽電池ですか?」
「一部補助で太陽電池を使っておりますが、主電源は燃料電池です。ほらこれです」
 所員がミニチュアを指し示して解説してくれる。
「寿命は?」
「そうですね。だいたい電池寿命は三年を目安としておりますが、姿勢制御用噴射ガスの残量も衛星の寿命に影響します。衛星は、ジオイドの変動、塵の衝突、太陽フレアによる地磁気のぶれ、地球自転の章動などによって、軌道や姿勢が変えられてしまいます。そこでガスを噴射して姿勢を元に戻します」
「こらこら、お嬢さまが首を傾げているぞ。難しい専門用語はよせ」
 所長が研究員の話しを止めた。
「あ、申し訳ありませんでした」
 確かにジオイドだの章動だのと言われても、十六歳の少女には理解できない天文知識だった。

「ここは、これくらいでよろしいでしょう。次ぎは衛星の追跡コントロールセンターを紹介しましょう」
「追跡センター?」
「ここから先は第五セキュリティーレベルになります。網膜パターン照合にパスした者だけが、通過できることになっています」
「網膜パターン?」
「お嬢さま、実際にやってごらんになさいますか? すでにお嬢さまの網膜パターンは登録されていますから」
「そうだっけ?」
「十六歳の誕生日に代表に就任した時、ブロンクスの屋敷のセキュリティーセンターで登録したではありませんか」
「ん……そうだったかな」

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梓の非日常/第二部 第二章・宇宙へのいざない(二)若葉台研究所
2021.05.04

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない


(二)若葉台研究所

 ファントムⅥは、若葉台工業団地入り口と書かれた案内板のそばを通過し、やがて財団法人AFC衛星事業部若葉台研究所に入っていく。
「正面ゲートに到着しました」
 ゲート前で一旦停車するファントムⅥ。
 ゲートの側には警備員詰め所があって、出入りする者をチェックしているが、停車したまま動かない車に不審そうに窓から身を乗り出して確認しようとしているようだった。
「お嬢さま、わたしの申します通りに、携帯を操作してください」
「え? はい」
「まずは、O*8118#と入力してください」
 言われた通りにボタンをプッシュする梓。
「0*8118#、と。あら、何か数字が出てきたわ。3759よ」
「では、その数字の位ごとに5963を足してください。8・16・11・12となりますよね。その数字の一位の数字である、8612に#を加えて入力しましょう」
「8612#ね。画面に確認って文字が出たわ」
「では、指紋センサーを人差し指で触れてください。指紋照合ですので、第一関節部全面を押す感じで、お願いします」
「指紋照合なんかするの?」
「はい。携帯を盗まれて悪用されないよう、間違いなく梓さま本人かどうかを確認するためです」
「ふーん。そういえば麗香さんにこれを渡された時に、指紋登録しますから指紋センサーに指を触れてくださいって言われたっけ。はい、指紋を押したわ」
 すると目の前の通用ゲートが自然に上がっていった。
「お嬢さま、ゲートが開きました。進入します」
「お願いします」
 ファントムⅥを発進させる白井。
 ゲートが開いて驚いた表情を見せる警備員。
「最初に入力した0*8118#が、通門ゲートの解錠コードで、次の画面に表示された数字と5963とから導きだされる四桁の数字が暗証コードです。そして指紋照合の三つで入場審査が完了します。これはAFCが所有するあらゆる施設の通門ゲートで共通です」
「つまり、0*8118#と5963という数字を覚えておけばいいのね」
「はい。『お米はいいわ、ごくろうさん』と覚えておけばよろしいかと」
「はは、御用聞きみたい。アスタリスク(*)を米と読ませるのね」
「念のために申しておきますが、その手続きができるのは、今お持ちの携帯電話だけですので、お間違えのないようにお願いします」
「これが壊れたり失くしたら?」
「またお作りします」

 ファントムⅥが研究所の玄関前に到着する。
 白井が後部座席のドアを開けて、梓がゆっくりと降りて来る。
「ところで、ここは大丈夫でしょうねえ」
「煙草でしたら、心配ありません。灰皿一つ置いてませんし、喫煙者もおりません」
 それもそのはず衛星事業部は、地球軌道上を回っている『あずさシリーズ』を開発・製造している部門である。煙草の煙は無論、極微小な塵一つ許されない精密な部品で構成された衛星なのだ。玄関内に入るにも二層のエアカーテンを潜らねばならず、空気は完璧なまでに清浄化されている。
 そもそも『あずさシリーズ』は麗香が管理している。当然としてこの研究所には何度も足を運んでいるので、禁煙の勧告令はもとより、屋内の整理整頓と清掃を徹底させ、トイレにいたっても男子・女子共々ぴかぴかに磨き上げられている。清潔好きな梓が気に入らないと感じるような状況はなに一つないはずである。
「突然来訪して迷惑じゃなかったかな」
「大丈夫ですよ。私も、時々アポイントなしで訪れることがありますから」
「麗香さん、時々来てるんだ。ここに」
「ええ、まあ……」

 その頃、当研究所の所長室に、受付嬢からの一報が伝えられていた。
「つい先程玄関先に到着したロールス・ロイスから、十六歳前後の髪の長い女の子が降り立たれました」
「ロールス・ロイスに乗った十六歳前後の女の子か。わたしの知る限りでは、そのような要人はたった一人しかおられない」
「はい。もしかしたらあの真条寺梓さまじゃないかと」
「うむ……正門ゲートの守衛に連絡してみるか。あそこの受け付けを通らねば入ってこれないからな」

「それが不思議なんです。車の中で、女の子が携帯かなんかを操作していたかと思うと、ディスプレイに、無監査・進入OKという表示が出て、自動的にゲートが開いてしまって、そのまま車は入っていきました。通常は、来訪者に読み取り装置のカード挿入口にICカードを入れてもらってから、ディスプレイに表示される来訪者の所属・性別・年齢そして写真画像を確認した後で、守衛室内にあるゲート解錠ボタンを押して、はじめてゲートが開くはずなのですが」
「そうか、わかった。後のことはこちらで処理する。君はそのまま職務を遂行したまえ」
「わかりました」

「直ちに部長クラス以上に全員招集をかけろ。接客中の者を除いて、至急玄関先に集合だ。梓さまをお出迎えする」
「かしこまりました」
 所長の指令のもと、秘書から全役員に対して招集がかけられた。

 とある一室。篠崎重工の社長と研究所の副所長が、設計図を広げ部下達の説明を受けながら会議を開いている。
「外が騒がしいですね」
 会議室のドアがノックされ、所長の秘書が入室してくる。
「会議中のところ、失礼いたします」
「外が騒がしいようだが、一体何事だ」
「はい。真条寺梓さまがお見えになられていて、接客中以外の部長以上の役員は玄関先に集合です」
「梓さまが、見えているのか。接客中以外のものとなると」
「いえ。篠崎社長様には、梓さまとはご懇意だそうですので、お差し支えなければ、お会いなさってはいかがですかと、所長の角田が申しておりました。それでお呼びに伺ったのです」
「いかがされますか。社長」
「もちろん、お会いするよ」
「では、ご一緒に」

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梓の非日常/第二部 第二章・宇宙へのいざない(一)視察
2021.05.03

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない


(一)視察

 とあるビルの前に停車しているファントムⅥ。
 麗香が後部座席のドアを開けて、梓が降りて来る。
「このビルは賃貸ですが、全館をAFCが借り受けています。実際に入居しているのは、広告代理店とグループの機関紙『あずさ新報』などを出している新聞社です」

 ビルの中に入る梓。
 自動ドアを通り抜けて玄関内に入るが、ふと立ち止まって動かなくなる。
 鼻をひくひく動かして匂いを嗅いで、髪の毛に手をやって気にしている。
「匂いませんか?」
 麗香に確認をとる梓。
「はい。匂いますね」
 しばし立ち止まって玄関先から中の様子を伺う梓だったが、
「帰ります」
 といって、くるりと背を向けて、入ってきたドアから出ていってしまう。

 玄関前の駐車場で、ファントムⅥを磨いていた白井だったが、梓達が舞い戻ってくるのを見て不審そうに尋ねた。
「どうなさったのですか。中に入られたと思ったらすぐ出てこられるなんて」
「煙草ですよ」
 麗香が説明する。
「煙草?」
「玄関先に、煙草の匂いが漂っていました。ビルの入り口ではっきりと嗅ぎ分けられるくらいですから、奥に行けばもっとひどい状態なのは推測できます」
「そうでしたか。わかりました」
 麗香の言葉に納得して、後部座席のドアを開けて梓の乗車を促した。
「なんてこと……」
 と呟きながら乗車し、深々とシートに沈む梓。
 梓は、煙草の煙と匂いが大嫌いで、自慢の長い髪に煙草の匂いがつくのが我慢できないのだ。煙草の匂いは一度付着するとなかなか落ちないからやっかいで、煙草の煙が漂う場所には絶対に近づかない梓だった。
 そのことを充分承知している麗香と白井は、梓が帰ると言えば理由を聞くことなく黙って従うだけである。当然視察は中止、梓の隣の席に座った麗香は車載電話でビルの責任者に連絡を入れている。
「禁煙の勧告令は届いていないのですか?」
 梓が代表に就任してすぐに、全グループ企業に対して、社内禁煙の大号令を発したのだった。
「いえ。何せ新聞社ですから、一番に連絡が入っているはずです。グループ全体に知らせるため『あずさ新報』に勧告令の記事を書かせましたから」
「それで、このていたらくですか?」
「勧告令は記事にしただけで、自らは何も実行していないようです」
「部長職以上の役員を、全員懲戒戒告、五分の一の減給三ヶ月。社長は更迭します」
 毅然とした表情で、処罰を言い渡す梓。
「かしこまりました。明日査察官を派遣して処分を通達します。次期社長の人選は任せていただけますか?」
「よろしくお願いします」
 AFCないしその前身であるNFCから全額出資されて設立されたグループ企業は、その責任者に経営をすべて任される代わりに、経営実情の把握のための定期的な査察の立ち入りと、全グループ企業に発令される勧告令に従う義務がある。CEO(最高経営責任者)ないし社長はすべてAFCが任命するので、その処遇も代表である梓が権限を握っている。代表が発令する勧告令は絶対であり、断固とした処分は当然のことである。
「社内禁煙をグループ企業のすべてに徹底させてください。灰皿はすべて処分、喫煙室も撤去すること。これに違反するものは厳重に処罰してください。今後部長職以上は非喫煙者から選抜、現在喫煙している者は一ヶ月以内の禁煙を、それが出来ないなら更迭。喫煙者の昇進と昇給は一切なし。新規採用者は非喫煙者のみにしてください。以上の事、よろしいですか?」
「かしこまりました」
 梓が喫煙排除にこだわるのは、健康への配慮のためもあるが、一番の理由は喫煙者の息がくさくてたまらない、ということにある。ニコチン・タールの匂いもさることながら、歯磨きが不十分で歯垢がたまってたり、歯周病になっていたりして強烈な異臭がするからだ。喫煙者なら誰も経験するが、歯を磨こうとすると吐き気を覚えて十分に歯磨きができない。自然歯垢がたまってくさくなるということだ。
 その口臭のひどさといったら、十六歳の少女には近づきがたい状況なのだ。当の梓は、三食後及び寝起きの歯磨きはもちろんのこと、毎週定期的に歯科医院で検診を受けているし、歯磨きでは落としきれない歯垢の除去も丁寧に行っている。これは幼児の頃から母親の渚に指導されてきたことで、おかげで口臭は微塵もないし、虫歯一本ない健康優良児である。
「煙草なんて百害あって一利なしじゃない。気分を落ち着かせるのに効果があるというけど、要は精神力が弱いだけよ。仕事中に煙草を吸うのはもってのほか、机の上は灰で汚れるし空気も濁る。煙草を吸う人ってマナーの悪い人が多過ぎるわ。歩き煙草、吸い殻のぽい捨て、車内で吸った灰皿の中身を平気で道路にぶちまける人」
 憤慨やるかたなしといった表情の梓。喫煙者の徹底排除に精根傾ける所存のようである。総従業員数三百二十万人を擁するグループ企業の行く末は、清潔好きな梓の意向には誰も逆らえず、麗香という有能な執行代理人の実行力で、さぞかしクリーンなイメージの企業へと変身していくのだろう。
「これからどうなされますか?」
 麗香が話題を変えるように切り出した。
「そうね。このまま帰ったのでは何の為に出かけてきたかわからないわね。帰りの途中にグループ企業はありますか」
「若葉台にAFC直営の衛星事業部若葉台研究所があります」
「それにしましょう。白井さん、行き先を若葉台にしてください」
「かしこまりました、お嬢さま。若葉台研究所に向かいます」
 二人が乗り込んだのを確認して、静かにファントムⅥを発進させる白井。
「ところで、私が差し上げた携帯電話は、お持ちですよね」
「ああ、これね」
 梓は鞄から、いつも使っている携帯を取り出して見せた。
「はい、結構です」

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