梓の非日常 第二部 第八章・小笠原諸島事件(十三)本物とクローン
2021.04.16

梓の非日常 第二部 第八章・小笠原諸島事件


(十三)本物とクローン

「こんなクローンを作って、一体どうしようというの?」
 説明が長々と続いたので、肝心なこと聞くのが遅れた。
「純粋なる研究目的です」
 一言おいてから、
「と、言っても信じないでしょうね」
「当然です!」
「クローンでよくある話では、某国の大統領に化けて国を乗っ取るとか……あるじゃないですか」
「確かによくある話ね」
「それともう一つ。実は、あなた自身がクローンで、この中の人物が正真正銘の本物だと言ったら?」
「考えられるわね」
「否定しないのですか? 意外ですね」
「あの事故で蘇生した当時、あたしの意識の中に長岡浩二君がいたのは確かよ。だから、記憶を移植したということには真実であると思っているわ。それができるのであるならば、クローンを作った上で、一部だけでなく全ての記憶を移植して、梓という人物をもう一人生み出すことも可能かもしれない」
「なるほど、そこまで理解していただけると嬉しいの一言です」
「仮にあたしがクローンだったとしても、遺伝子的には真条寺梓そのものを受け継いでいるわけだしね。本物と言ってもいいんじゃなくて?」
 パチパチと手を叩いて感動を表す研究員」
「素晴らしい! まるで悟りを開いて真理を会得したみたいですね」

 これまでの間、じっと聞き耳を立てるだけの慎二。
 体育会系の彼には、とても会話の内容に付いていけるはずがない。
「でよお。この中のクローンとかいう奴は、生きているのか?」
 そう聞くのが精一杯のことであろう。
「確かに、それは重要なことですね」
「生きているの?」
「さあ、どうでしょうねえ。少なくとも外見はあなたそのものですがね」
 はぐらかして答えない研究員。
「そうか……。ならよ」
 そう言ったかと思うと、手近な椅子を取り振り上げて、培養カプセルを破壊する。
 ガラスが砕け散り、培養液の飛沫が床一面に流出し、中にいたクローンがゴロンと転げ落ちた。
「な、何をするんだ!」
 驚く研究員。
 梓も言葉を失っていた。
「クローンが何者かは理解できんが、俺にとっては梓ちゃんは一人。ここにいる梓ちゃんだけだ!」
「なんということだ! せっかくの研究成果が……」

 二者択一を迫られた時、躊躇なく選択する強い意志を持つ慎二だった。
 地下研究所においても、長岡浩二の身体を捨てて梓を救う道を選んだ。


 その時、入り口付近が騒がしくなった。
「おやおや、邪魔が入ったようです」
 研究所になだれ込んできた者は、サブマシンガンを抱えた軍人だった。
「梓お嬢さま! いらっしゃいますか?」
 そしてかき分けるように入ってきたのは、竜崎麗香だった。
「麗香さん!」
「お嬢さま! ご無事でしたか!」
 どうやら米軍が捜索救助に出動したようだった。
 感動の再会を果たした二人と一人。
 研究員は、立場悪しと少しずつ後退して、隣の部屋へと隠れた。
「待て!」
 慎二が追いかけるが、鍵が掛かって開かない。
「ちきしょう!」
 やがて外の方で轟音が響いた。
 外へ出てみると、一機の戦闘機が島から発進したところだった。
 すかさず麗香がスマホで連絡する。
「今発進した戦闘機を撃ち落として下さい」
 十数秒後に、外洋に停泊していた艦艇からミサイルが発射された。
 ホーミングミサイルによって撃墜される戦闘機。
 機体はバラバラになって海へと落下した。

「ともかく迎えが来ています」
 岸辺に接弦していた艀に乗船して、沖で待つ駆逐艦へと向かった。

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