梓の非日常 第二部 第八章・小笠原諸島事件(十四)駆逐艦VS潜水艦
2021.04.23

梓の非日常 第二部 第八章・小笠原諸島事件


(十四)駆逐艦VS潜水艦

 アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦に乗船した梓と慎二。
 船べりから島を見つめている。
 突然、警報音が鳴り響く。
「総員戦闘配備せよ!」
「対潜魚雷及びデコイ発射準備!」
「シースプライト発進準備!」
 甲板にいた水兵達が一斉に武器装備へと駆け回る。
 そして船が大きく面舵に艦体を転回させ始めた。

 何事かとキョロキョロとする梓。

 その側に控えている麗香に、艦の伝令が近寄って何か囁いていた。
 そして麗香が事情を説明する。
「近くに潜水艦が潜んでいたようです。魚雷攻撃を受けました。急いで安全な場所へ避難します」
 水兵の案内で、防水気密区画の場所へと退避した。


 駆逐艦に向かって海上を突き進む魚雷。
「デコイ発射!」
 艦上から囮(おとり)魚雷が発射される。
「舵を中央に戻せ! 前進半速!」
 操舵室では息詰まる戦いが始まっていた。
 迫りくる魚雷の速度とコースを見極めながら、慎重に舵とエンジンコントロールを下令する艦長。
 敵艦に船腹を見せていては被害甚大、艦首を敵に向けて回頭する。
 シュルシュルと艦のすぐ側を通過する魚雷。
 甲板上の水兵達が、緊張の面持ちで見つめている。
「魚雷回避成功!」
「よおし! 今度はこちらから攻撃するぞ! 全速前身、取り舵十度! アクティブソナー用意!」
「324mm3連装魚雷発射管に弾頭装填せよ!」

 甲板から、H-2 シースプライト汎用対潜ヘリコプターが発進する。
 甲板後部からSQR-19ソナー・アレイえい航式パッシブソーナーが投下される。

「別の潜水艦がいます。高速で遠ざかっています! 島から発進したと思われます」
「どうやらそちらの方が本命だったようだな。例の研究員とやらも乗っているのだろう」
「戦闘機と今攻撃を仕掛けている潜水艦は、おとりだったようです。そちらに気を逸らせている間に、反対方向へと出航したのでしょう」
「そちらを追いたいのはやまやまだが、攻撃を仕掛けてくる奴を始末するのが先決だ。爆雷深度調整を百メートルにセット!」
 駆逐艦対潜水艦の戦闘が始まる。
 爆雷を投下しながら、潜水艦を追い続ける駆逐艦。
 追いつ追われつの攻防戦の果てに、駆逐艦の追撃を交わして潜水艦は消え去った。
「敵艦の感、消失しました」
「取り逃がしたもようです」
「戦闘態勢を解除、警戒態勢に変更。まだどこかに潜んでいるかも知れんからな」

 退避室で事の次第の報告を、艦長のエリアス・スターリング少佐から受ける梓と麗香。
「そう……。研究員は潜水艦で逃げたのね」
「確証はありませんが、可能性は大であります。この艦は主に領海警備のパトロールが主体でして、はっきり言いますと対潜戦闘は初めてでした」
 この時代は、昔と違って投下式の旧式爆雷はほとんど使われない。
 旧式の爆雷は、領海侵犯した船舶に対する警告・威嚇目的として使用されることが普通である。

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