思いはるかな甲子園~梓、登板~
2021.06.30

思いはるかな甲子園


■ 梓、登板 ■


 場内アナウンスが栄進高校の先発メンバーを打順に読み上げていた。

『栄進高等学校の先発メンバーをお知らせします。
 一番、ファースト、木田考司君
 二番、ショート、城之内啓二君
 三番、キャッチャー、山中太志君
 四番、センター、郷田健司君
 五番、セカンド、武藤剛君
 六番、ライト、安西次郎君
 七番、レフト、熊谷健司君
 八番、サード、田中宏君
 九番、ピッチャー、白鳥順平君に代わりまして、真条寺梓君です。
 以上です』


 栄進高校の部員達が試合前の守備練習にグランドに駆け出す。
 梓もピッチャーズマウンドに登って投球練習をはじめた。
『おっと、白鳥君に変わって登場しました真条寺君です。背番号11番、なんと一年生です。手元の資料では、中学時代の記録は白紙になっております。どんな選手なのでしょうか』
『ずいぶんと小柄ですが、大丈夫でしょうか』
『投球練習を始めました』
『うーん。アンダースローですね。球威はそれほどなさそうですが、果して超高校級スラッガー沢渡君率いる城東高校に対して、どこまで投げ切るか注目いたしましょう』


 城東学園のダッグアウト。
「監督! あの真条寺ってのは、女子生徒ですよ」
 梓に気づいた部員の一人が叫んだ。
「なに、本当か」
「抗議しましょう」
「そうだな」
「待ってください!」
 動きだそうとした部員達を、沢渡が制止した。
「このまま黙って投げさせましょうよ」
「何を言うんだ」
「あの梓さんに打ち勝てるようでなきゃ、甲子園に出られても一回戦敗退するのが、関の山ですよ。去年のレギュラー部員で残っているのは、僕と捕手の金井主将だけです。いくら前年度優勝といったって、ほとんど実績はないに等しいですからね。選抜だって一回戦で敗退したじゃないですか」
「そうかも知れないが……」
「それに仮に負けてもですよ、女子生徒であることを隠し通せないでしょう。身近で見れば可愛い女の子だとすぐ判ります。ルール違反で没収試合となります。どっちに転んでも僕達の甲子園出場は決まっているんですから」
「そりゃあ、そうだが」
「彼女との練習試合での雪辱をはらさなくては心残りになるというものです。栄進の連中も、そのことを念頭に、彼女を送り込んできたんです。打ち崩せるなら打ち崩してみろとね。これは奴等の、我々に対する挑戦状なんです。逃げるつもりですか?」
 鬼気迫る勢いで沢渡が監督に進言する。
「わかったよ。おまえの好きなようにしろ」
「ありがとうございます」
 監督に礼をのべて、梓の方に向き直る沢渡。
「さて、さいは投げられたよ、梓さん。君の戦いぶりをじっくり拝見させてもらおう」

 グランドに二列に並ぶ両校。
 一様に梓に視線を送る城東の部員達。
「城東学園高校の先攻ではじます」
「お願いします」
 試合前の挨拶を交わしてグランドに散る栄進高校の部員達。

『ウォーミングアップが終って、いよいよ真条寺君第一投を投げます。試合開始です』

 一番の金井主将が打席に向かう。
「おい。じっくり見て行けよ。前回のように短打で転がせ。ぶんまわしても外野飛球だからな」
 沢渡が助言を述べる。
「わかった」

『さあ一番の金井君がバッターボックスに入りました』
 プレーボールの声が掛かる。
『真条寺君、ゆっくりとプレートを踏んで下手から……投げました!』
『金井君、見送ってワンストライク』
『球筋を見たようですね』
『さあ、二球目投げました。打ちました!セカンドゴロです。セカンドの武藤君難なくこれを捕って一塁へ、アウトです』


 あっけなくセカンドゴロに終わる金井主将。
 ベンチに頭を掻きながら戻る。
「キャプテン、何してるんですか」
「いやあ、悪い悪い。あまりの絶好球だったもんで、つい手が出ちまった」
「それが彼女の狙いなんですよ」
「わかった、次からはちゃんとやるよ」

『真条寺君。一回の表を難無く三人で終わらせましたが、その裏栄進の攻撃も三人で終わってしまいました』

 攻守を交代して移動する部員達。
 梓が再び登場してマウンドに向かう。

『さて、四番打者の沢渡君の登場です。真条寺君、どんな投球を見せるでしょうか』
 ゆっくりと振り被り、一球目を投げる梓。そして二球目。
『ツーストライクです。沢渡君、一球・二球と様子を見ましたか。打つそぶりも見せませんでした』

「なるほど、相変わらず絶妙のコントロールだ。打ち気をそそるコースをボールが通るが、打点の直前で微妙に変化する。これでは内野ゴロが関の山だ」
 ボールのコースをじっくりと観察していた沢渡が感心する。
 梓が三球目の投球モーションに入る。
「しかし、この僕には通用しない」
 沢渡、渾身の一撃で外野へボールを運ぶ。
「センター、右バック!」
 センターに向かって指示する梓。
 指定された地点の真下に走りこみ、打球が落ちてくるのを構えるセンター。
 一・二塁間の線上で、打球が補球されるのを確認して立ち止まる沢渡。そして梓に視線を送りながら引き返していく。
 ベンチに戻ると、部員達の激励が待っていた。
「しかし惜しいですね……今のは完全に抜けていたと思いますが」
「まぐれですね」
「いや、違う。俺が打った瞬間に、彼女は球の行方も見ないでセンターに向かって守備方向を指示していやがった」
「まさか」
「事実だ。彼女は打った瞬間の球音だけで、球がどの方向にかつどのくらい飛ぶかが判るんだ。それを即座に外野に指示しているんだ。外野手にしても球の行方なんて見ちゃいない、彼女が指示する位置にすばやく移動して、球が落ちてくるのを待っていればいいのだ」
「そ、それじゃ……」
「ああ、彼女がいる限り、外野飛球はすべて補球されてしまう。かといってあの絶妙のコントロールと球速ではホームランするのも困難だ」
「球速が速ければ速いほど、ジャストミートすれば遠くへ飛びますからね。あれでは腕力で強引に持っていくしかありませんから、外野飛球にはなってもなかなかホームランになりませんよ」
「どうしますか」
「球速はないんだ、じっくり見ていくんだ。ジャストミートを心がけて、ライナーで転がせ。決して長打を狙って大振りするな」
「わかりました」
「しかし、外野に簡単に飛ばされる球威しかないのを、守備力で完全にカバーしてやがるとは……こんなにも天性の感覚を見に付けているやつは、今までにたった一人しかいないと思っていたが……」
「え? 他にもいたんですか」
「去年の夏の選手権大会県予選準決勝戦で三度ものノーヒットノーランを達成し、決勝では我々と戦うはずだった、エースピッチャーの長居浩二だ」
「あ……」
「俺達は決勝戦を目前にして死んだ長居浩二の亡霊と戦っているのかも知れないぞ」
「よ、よしてくださいよ」

 回は進んで六回表の三人目の打者をピッチャーゴロに討ち取る梓。

『おおっと、真条寺君よろけました。が、何とか体勢を立て直してファーストへ。アウト、アウトです。辛うじて間に合いました。スリーアウト、チェンジです』
『一年生ですからね、体力不足は否めないでしょう。一球も手を抜けない城東打線に対し、精根疲れて果てていると思います。しかもこの暑さに、さすがに体力が持たないでしょう。彼の体力がどこまで続くかが、勝負の分かれ道でしょうね』
『真条寺君、何とか六回の表を守り切りましたが、残る三回が心配になってまいりました。しかし、これまで一人のランナーも出していないのは見事です』





今回もおまけの画像をどうぞ。
PC-9801VX21にマグペイントで描画。
16色MAG画像を256色GIF変換。
梓と絵利香のイメージ画像ですが、この二人は私の小説に頻繁に登場します。



ちなみに発売当初、PC-9801VX21, 433,000円で、今からは想像も出来ないお値段。
現在、オークションでは5000円台で出品されているようです。

かつて、NIFTY Serve というテキストベースのパソコン通信があって、会議室と
よべれる場所があり、会員同士でわいわいがやがやと会話していた。
また付属として画像データ保管所があり、腕に覚えのある絵描き達が奮ってアッ
プロードして見せあい批評しあっていた。
MAG画像形式は、盛んに使用されていたフォーマットでした。

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v




にほんブログ村 本ブログ 小説へ
にほんブログ村



11
冗談ドラゴンクエストRPG/攻略ヒント集
2021.06.29
●オープニングが終了後
1,東の家が勇者の自宅です。
  祖母に話しかけると、お小遣い1,000G貰えます。
2,道具屋の前にいる左の女性に話しかけると、ポーションが貰えます。
  ただし、右の子供に話しかけるとポーション取られます。
3,宿屋の西の片隅に、宝箱に1,000Gと地面に1,000G落ちています。

●オリコレ村
1,この村は、すべて全自動でイベントが進みます。
2,宿屋のそばの立て札を読むと、最初の町で3,000G貰えたことを説明しています。
3,村を出たら、自分の足で東へ進んで山登りに突入します。

●滅びの森
  初めてのダンジョンです。
1,北西の泉のそばに妖精の宿屋があり回復できます。
2,南東の隅に木が邪魔で取ることのできない宝箱がありますが、
  今の時点では取ることはできません。
  実は、最終ボスを倒すのに必要な【???】が入っています。
3,出口付近でミノタウロスが出現、勇者が倒れコンラッドが登場するイベントが発生!

●カタリ村
1,倒れた勇者を復活させる儀式を始めますが、
  花売り娘リリアが間違って降臨してしまいます。
2,村を出るためには、
 ①北西の門番に話しかけて【通行証】が必要なことを知る。
 ②南側の大きな家が村長。通行証の情報を得ていると、ただでくれます。
3,通行証を持って、再び北西の門番に話しかけると、道を開けてくれます。

●氷の洞窟
1,南東の片隅に、【炎の剣】が宝箱に入っています。
  攻撃力100の炎属性の強力武器です。
  装備するとファイアーの魔法が使えるようになります。
  これを勇者が装備すると、やっとまともな戦闘ができるようになります。
2,北西の泉のそば(妖精の宿)に【氷の杖】が落ちています。
  本当の持ち主は洞窟を抜けた宿にいる老婦人の物。
  持っていない時に老婦人に話しかけると、
  拾いに行くイベントが発生します。
  氷の杖を老婦人に渡そうとすると、代わりの杖が届いたからあげると言われます。

●ニーチェ村
1,洞窟を出て南に行くとたどり着く、リリアの故郷。
2,リリアが身支度を整えて、寂しく旅立つ。
3,村を出て東へ向かう。

●モトス村
1,村人全員ネコになっていますが、荷物届け先の道具屋だけが人間のまま。
  荷物を預けると、【マンドレイク】イベントが発生します。
2,マンドレイク採集のために、南西にあるという妖精の森へと向かいます。

●妖精の森
1,マンドレイクを見つけることが先決。
  見つけない限り、森から出ることはできません。
  場所は、壁に梯子の掛かっている所を登った先の行き止まりの地面を
  クリック(リターンキー)するとマンドレイクとの戦闘になります。
  勝利するとマンドレイクが手に入ります。
2,マンドレイクを所持した状態で、
  妖精の女王に話しかけると逃げ道を開いてくれます。
  直後に、オーガとオーク2体との戦闘になります。
  オーガの腹の中からコクーン(繭)が出てくる。
  勝利して繭を拾って、森の外へ出る。

●モトス村
1,マンドレイクを道具屋に渡します。
  この後は、自動イベントが進んで、宿屋に入る。
  この時点で、村人は人間に戻っています。
2,宿屋に話しかけると、第二のムフフイベント発生。
3,村を出てフェリス王国へ向かう。

●フェリス王国
1,城下町に入ったら、北の城門の兵士に話しかける。
2,入城を断られるが、王国騎士団副団長が出てきて、コンラッド一人だけでフェリス城に入城する。

●フェリス城
3階
1,謁見の間に傅くコンラッド。
2,国王に話しかける。
3,王妃にも話しかけると、セシル王女にも会ってくれと言われる。
4,王女の間の衛兵は、女王と話していると中へ通してくれる。
5,王女と話すと、一緒に連れ立って場内を歩くことになる。
6,2階への階段は、国王・女王に話しかけ、王女と一緒でないと通過できない。

2階
  一応通過するだけですが、衛兵たちの会話が聞けます。
  転送の間があるバルコニーに通じていますが、現時点では使えません。

1階
1,騎士団副団長と話して、宿舎に泊まる(王女は自室へ)
2,夜が明けて、宿舎を出ると再び王女と同行になる。
3,3階に戻って、国王から【紹介状】を貰う。
4,食堂の給仕が、意味深な【結婚】という言葉を聞く。
5,紹介状を持ち、王女と一緒の状態でないと城外には出られない。

城外
1,城下町へ出ようとすると王女が抜けて、コンラッド一人でパーティーの待つ外へ。
2,1階の給仕係から【結婚】という言葉を聞いた状態で、東の端の方へ行き、岩を転がして進むと、隠し階段が現れています。
3,階段を、コンラッドと王女とで降りて突き進むと宝箱があり、開けると結婚式イベントに突入します。

以下続く

思いはるかな甲子園~決勝戦~
2021.06.29

思いはるかな甲子園


■ 決勝戦 ■

 夏の全国高等学校野球選手権大会の県予選がはじまった。
 栄進高校は、一年生ピッチャーの白鳥順平を、守備でカバーしあって、記録係り兼コーチとしてダッグアウトに入っている、司令塔の梓の作戦に従って勝ち進んでいた。
 そしてとうとう決勝戦に駒を進めたのである。その対戦相手校は城東学園となった。
 二年連続の決勝進出ということで、学校やOB会、地元商店街後援会が大々的な応援団を組織して、決勝大会野球場へ乗り込んできていた。
 県の決勝大会にはTV中継が入っており、各所にTVカメラがグランドや両校のベンチの様子を捉えている。アナウンス室にはアナウンサーと解説者が陣取って、実況中継をしていた。

『さて、全国高等学校野球選手権県大会も大詰め、とうとう決勝戦に駒を進めました。対するはくしくも去年と同じカードとなりました、城東学園高校と栄進高校です』
『プロのスカウトも注目の、超高校級スラッガー沢渡健児君のいる城東学園に、一年生ピッチャーを盛りたてて勝ちあがってきた栄進高校が、どんな戦いを挑んでくるかが見物ですね』
『両校の応援席には溢れんばかりの人々が陣取り、甲子園に期待を膨らませています』

 栄進高校のダッグアウト。山中主将が、うろうろして落ち着かない様子。
「遅い!」
 イライラしている山中主将。
「順平の奴、どうしたんだ。もうじき試合が始まっちまうぞ」
 学校から球場へバスで来ていた部員達。
 そのバスの発車時刻になっても木下順平が来なかったのである。
 電話連絡しても繋がらず、自宅では出た後だという。
 仕方なく順平には、タクシーで来るようにと連絡要員に言付けて、見切り発車した。
 いつまで経っても来ないまま、ついに試合開始直前となったのである。

 その時、部員の一人が息せき切って入ってくる。
「大変です。順平のやつが!」

『ちょっと、お待ち下さい。あ、大変です。栄進高校のピッチャー白鳥君、球場に来る途中で負傷したとの知らせが入ってまいりました。自転車で学校へ向かっていた所、子供が路地から飛び出し、それを避けようとした際に転倒して、腕にひびが入ったそうです』
『これは先の夏の長居浩二君の時の再来になってしまいましたね。実に不運としか言い用がありませんねえ。白鳥君、軽傷で済めばいいのですが』
『さてエース白鳥君不在の栄進高校、誰をマウンドに送るのでしょうか』
『えーと。部員数が不足していて、ベンチ入り十二名でこの試合に臨んでいる栄進高校です。控えの投手はいないようですが……』

 病院で治療を終えた順平がダッグアウトに入ってきた。
 肩から下げた三角布に、ぐるりと包帯を巻いた右腕が痛々しい。
「すみません、キャプテン。みなさん」
 うなだれて言葉も弱々しい。
「事故はどうしようもないさ。まあ、ベンチで応援していてくれ」
 事故の報告を受けていた山中主将が、順平の肩を叩きながら諭すように言う。
「それにしても……」
 ダッグアウトから応援席に視線を移す山中主将。
 栄進高校の甲子園出場を夢見て集まった大勢の人々。
 このまま試合放棄となれば、黙っていないだろう。去年の試合後にだって、散々陰口を叩かれたのだ。
 なにより順平のことが心配だ。二度と立ち直れないほどの精神的ショックを被ることになる。来年、再来年のエースピッチャーとなる素質を失うわけにはいかなかった。
「梓ちゃん。君が投げてくれ」
「え? ボクが」
「一応、梓ちゃんを選手として登録してあるんだ。部員が少ないからね。髪をまとめて帽子を深く被れば女の子とばれないかも知れない」
「しかし、ルール違反ですよ」
「そんなことは、わかっているよ」
「じゃあ……」
「栄進高校がここまでやってこられたのは梓ちゃんのおかげだ。これには誰も異議をとなえるものはいないだろう。
「そうですよ。他の部員が投げてもコールド負けが目にみえていますよ。相手は城東ですからね」
 山中主将に答えるように武藤が賛同する。
「梓ちゃん。投げなよ、どんなになってもみんな恨みはしないよ」
「そうそう。女の子とばれちゃったりして没収試合になってもね」
 みんなが異口同音に誘う。
「梓さん。僕からもお願いします。このままでは、去年死んだ長居先輩も浮かばれないと思うんです」
 最後に口を開いた順平。
「長居……」
 その言葉が梓の心を動かした。
「わかった。みんながそこまでいうなら、ボク投げるよ」
「よっしゃー! 武藤、先発メンバーの変更を届けてこい」
「あいよ」

 髪を掻き上げてまとめヘアピンで固定する。そして帽子を深く被って、はみ出した髪の毛をその中に押し込む。
「うん。まあまあ、いけるんじゃないか」
 準備が整った梓の姿を山中主将が誉める。
「しかし、城東の連中がどう出ますかね。梓ちゃんとは一度対戦してますから、すぐにわかっちゃいますよ」
「そこは、彼らの野球道精神にかけるさ。梓ちゃんには破れているから、雪辱戦を挑んでくることを期待しよう」
「野球道精神ねえ……」

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v




にほんブログ村 本ブログ 小説へ
にほんブログ村



11
思いはるかな甲子園~父親来店~
2021.06.28

思いはるかな甲子園


■ 父親来店 ■

 レストランの前を通りかかるベンツ。
「社長。こちらのレストランのようです」
 後部座席の窓から顔をだしてレストラン前景を見る父親。
「そうか……石井。駐車場に入ってくれ」
「はい。かしこまりました」
 ベンツはウィンカーを出して駐車場に入っていく。
 停車したベンツから降りて来た一行は、それぞれレストランを眺めている。
「昼時を過ぎていますから、この時間帯は空いているでしょう」
 というのは社長秘書の竜崎麗香である。
「そうだな。今なら梓の邪魔にならないだろう」

「いらっしゃいませ」
 一行が入ると一斉に声がかかる。
「うん。あそこの席にしよう」
 開いている窓際の席に座る一行。
 仕事先などで商談以外でレストランで食事をする時は、運転手の石井も同席するのが常であった。父親は使用人だからというこだわりを持っていない。それに相席することで、他のお客の迷惑をかけない配慮でもある。
「いらっしゃいませ」
 ウェイトレスがトレーに乗せて水を持ってきた。
 それぞれの前にコップを置いてから、メニューを差し出す。
「メニューです。お決まりになりましたらお呼び下さい。では、ごゆっくりと」
 と一礼して下がっていく。
「お父さん!」
 父親の姿を見つけて驚く梓。
「おお! 梓か」
「どうしたの?」
「近くを通ったものだから。食事がてら梓の仕事ぶりを拝見しようと思ってね」
「もう……」
「社長……」
 麗香が自分の服の襟を軽くつまみながら梓の方に視線を送った。
(ああ、そうか……)
 麗香の合図が判った父親は、娘のユニフォーム姿を眺めてから、
「その制服、似合っているじゃないか。可愛いよ」
 とその姿を誉めた。
 麗香は自分より、父親に誉めて貰ったほうが、より効果があると判断したのである。
「あ、ありがとう」
 顔を少し赤らめる梓。
「梓、悪いがお店の責任者のところに案内してくれないか」
「ええ? どうするの」
「決まっているじゃないか。挨拶だよ。娘が働いているんだ、父親としてちゃんと挨拶するのが、礼儀ってものだよ」
「い、いいわよ。そんな事しなくても」
「梓。一つ注意しておくよ。今日の私は父親としてよりも、客として来ているんだ。
その客が会わせてくれと言ってるんだ。案内するのが当然だろ。公私混同はいけないよ」
 社長という経営者側に立つ父親だけに、例え娘でもその勤務態度を黙っておられずに注意する。
「ごめ……も、申し訳ありませんでした……ご案内致します」
「うん。ああ、君達はメニューを決めておいてくれ。私は店長お勧め品で頼む」
「かしこまりました」
「じゃあ、梓、頼む」
 立ち上がる父親。
「はい。こちらです」

 オフィス前でドアをノックする梓。
「どうぞ」
 中から返事があって、父親を連れて入る。
「あら、梓さん。そちらの方は?」
「はい。わたしの父です。ご挨拶に伺いました」
「お父様でいらっしゃいましたか。マネージャーの深川と申します。どうぞ、こちらへ」
 隣の部屋の応接室に案内するマネージャー。
「梓さん、来客用のお茶をお出ししてください」
「はい。かしこまりました」
「いや、それは遠慮しますよ。連れの者達と食事に来ていますので」
「そうでしたか。では、梓さんは、お仕事に戻ってください。お父様と二人だけでお話ししますから」
「悪いな、梓。そうしてくれ」
「はい」
 これから話される内容が気になるが、二人に出ていけと言われればそうするしかない。
「失礼します」
 そっと退室する梓。

「ねえ、ねえ。今の梓ちゃんのお父さんだよね」
 絵利香が寄って来て話し掛ける。今は余裕があるので、フロアの状況を見つめながら、おしゃべりする。
「そうよ」
「マネージャーに挨拶に来たのね」
「うん」
「娘の様子を見に来るなんて、愛されている証拠ね」
「そうかな……」
「そうよ。わたしのお父さんも、いつか来るかな……」
「来ると思うよ。絵利香ちゃんの大好きなお父さんでしょ。うちのお父さんみたいに心配しているよ。だからね」
「そうだね」

 やがて父親がフロアに戻って来る。

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v




にほんブログ村 本ブログ 小説へ
にほんブログ村



11
思いはるかな甲子園~プールへ~
2021.06.27

思いはるかな甲子園


■ プールへ ■

 とある遊園地のプールサイド。
 その場内に開いているレストランのテーブル席でジュースを飲んでいる梓と絵利香。
 この間、二人でショッピングした水着をそれぞれ着ている。
 それを早く着てみたい為に、絵利香がプールに誘ったのである。
「梓ちゃん、それ似合ってるよ」
「ありがとう。絵利香ちゃんもね」
「うふふ……」

「ねえ、君達。二人きり?」
 可愛い女の子がいれば、声をかけてくる軟派野郎はどこにでもいる。
「可愛いね、君達」
 二人が困っていると、
「やあ、待たせたね」
 そこには筋骨隆々とした武藤が立っていたのである。
「武藤先輩……」
「ちぇっ。男がいたのか」
 といって退散する軟派野郎。
 がっちりした体格の武藤に、食ってかかろうという男はいない。
「よかったね。たまたま俺達が居合わせてさ」
 郷田が微笑んでいる。
「まったく。女の子のいるところ軟派ありですね。どうしようもない連中だ」
 木田が、立ち去っていく軟派野郎の後ろ姿に軽蔑の表情で言った。そしてその視線は郷田に移る。
「そういやあ、ここにも一人いたっけ」
「え? いや、僕は軟派ですけど、一応礼儀はわきまえているつもりです」
「そうかあ……」
 他の部員の疑心暗鬼な表情。
「信じて下さいよお……梓ちゃんは、信じてくれますよね」
 にっこり微笑んだだけで、答えない梓。
 そして話題を変えるように、
「しかし、偶然ですね。同じプールに先輩方がいらっしゃるなんて」
「あれ? 俺達、絵利香ちゃんに誘われたんだよ。今日、プールに行くから、良かったら来てくださいってね」
 驚いて絵利香を見る。
「絵利香ちゃん。なんで黙ってたの」
「ごめんなさい。つい、言いそびれちゃった。だって、さっきみたいなことだってあるじゃない。殿方がいたほうが、安心だから」
「ところで、座っていいかい?」
 立ったままで話している武藤が、紳士的に許しを請う。
「ああ、すみません。気がつきませんでした。どうぞ、構いませんよ」
「それじゃ、お邪魔して」
 と腰掛ける武藤。他の部員達も椅子を持ちよって同じテーブルを囲んだ。

「ところで、キャプテンは来てないのですか?」
「はは、相も変らず出前持ちだよ」
 寿司用の出前機を後ろにくっつけたバイクで、街中を走りまわっているその姿を想像する梓。
「可哀想ですね」
「親孝行で有名なキャプテンだからね。ま、仕方がないよ」
「でも品行方正で、成績も学年で十番を下らないから、某有名私立大学への推薦入学は間違いないそうですよ」
「へえ……キャプテンって、成績優秀なんだ」
「信じられないだろ。あの無骨で融通の利かない男がねって」
「うふふ」
 まったくその通りと思ったが、口に出して言ったら失礼だろうと思い、含み笑いでごまかす梓。
「ところで、二人とも可愛い水着ですね。とっても似合っていますよ」
 軟派な郷田だけに、女の子の着ているものを誉める事は忘れない。こういうことにかけてはベテランの郷田、他の連中が口籠って言い出せない時でも、さらりと言ってのける。
「ありがとう」

「ところで、泳がないんですか?」
 聞かれて冷や汗の梓。
 ぷるぷると首を横に振っている。
「まさか、泳げないとか?」
 今度は縦に首を振る。
「あはは、梓ちゃんらしいや」
 可愛い女の子が泳げないというのはよくある話しである。
 じゃあなぜプールなんかに、とは聞くなかれ。微妙な女の子心理というものがあるのである。もっともこれは、絵利香が誘い出したことなのであるが。
「俺達が教えてあげるよ。せっかくプールに来たんだから」
「絵利香ちゃんも泳げないの?」
「はい。それが、先輩方をお誘いしたもう一つの理由なんです」
「あはは、いいですよ。お安いご用です」

 というわけで、彼らに泳ぎ方の手ほどきを受ける二人だった。
 郷田は梓達の手荷物預かり係りを押し付けられていた。軟派野郎に、可愛い二人を任せられないという、部員全員の賛同であった。日頃の行いのつけを払わされているというところだ。
 浮き輪の手助けを借りて、武藤におててつないでもらって一所懸命バタ足の練習からであった。
「そうそう、その調子ですよ」
 と声を掛けながら付き合ってくれている。恐れさせないように決してプールの中央へは行かずに、ヘリにそってゆっくりと動いてくれている。
(恥ずかしいよ……)
 梓の心の内の内を察してかどうか、手を引く武藤はやさしく微笑みながら言う。
「案ずるよりは、産むが安しですよ」
 その諺を使う場面が違うかも知れないが、本人が意識してるほど、周りの者は意外と見てなくて無関心なものである。
 と、本人は言いたかったのであろう。

 絵利香の方はどうかと見てみると、きゃっきゃっと楽しそうに教えてもらっている。彼らを呼んだ本人だから、こういうことには慣れているのであろう。

 ひとしきり泳いだ後で、再びレストランのテーブルに戻る一同。
「あは、ちっとも巧く泳げないわ」
 ころころと表情を変えながら楽しそうに、武藤達と談笑する絵利香。

 そんな様子を眺めながらため息をつく梓。
(しかし、絵利香と一緒にいると、女の子っぽいことばかりに付き合わされるんだよね)
 女の子同士仲良く一緒にと、誘ってくれているのだが。
 スコート姿でアンダーがちらりの女子テニス部への誘い。ファミレスのウェイトレス。ウィンドーショッピング、その他諸々。今日は人目に水着姿をさらけ出すプールという具合である。
 もっともこれは梓が意識し過ぎているだけで、絵利香のような普通の女の子ならごく自然な行動である。
 梓の女の子指数は限りなく百パーセントに近づきつつあるが、今なお浩二の心が根強く居座っている。それが女の子として行動する際に、拒絶反応を起こす元凶となっているのである。
「思いを遂げるまでは、女の子に成りきることはできないよ」
 そうなのだ。甲子園出場を果たすまでは、男の子の心を完全に捨て去る事はできなかった。
 もちろん女の子の梓自身が、甲子園を目指す事はできないから、栄進高校野球部の面々に頑張ってもらって、夢を適えてもらうことである。
 だから一所懸命に野球部の練習に付き合っているである。

「甲子園か……」

「梓ちゃん、ウォータースライダーやろよ」
 と手を引いて誘う絵利香。
「わかったわよ」
 野球に興味を持っていない絵利香には、とうてい梓の気持ちは理解できないであろう。


本文とは関係ないですが、夏らしい画像をどうぞ。
16色MAG画像を256色GIFに変換しました。

今は懐かしきNECの初期16ビットマシン(80286)、PC-9801VXで「マグペイント」という
ソフトで作画。4096色中の16色しか表現できず、ドット絵でいかにグラデーション
出すかが大変で、当時のグラフィックデザイナーは相当苦労していたようです。
  
当時のPC-9801でフルカラー(1670万色)を描画するには、「フレームバッファ」という
約14万円もする目が飛び出るようなグラフィックカードを使用する必要があった。

さらに8ビット時代なんてもっと大変。それでも画数やメモリ不足もなんのその、パ
ソコンゲーム全盛期を闊歩した日本メーカーなのでした。

8ビットのイースやハイドライドをもう一度やりたいぜ。
PC-8801版の「イースII」のオープニングアニメーションにはぶったまげた。
有名なリリアの振り向きシーン、荘厳なるFM音源は、これが8ビットかと疑ったも
のだ。
ちなみに「イースIIエターナル」では、新海誠がオープニングを手掛けている。

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v




にほんブログ村 本ブログ 小説へ
にほんブログ村



11

- CafeLog -