梓の非日常/第四章・スケ番再び(一)お竜捕われる
2021.03.01

梓の非日常/第四章・スケ番再び(黒姫会)


(一)お竜捕われる

 教室で談笑する梓と慎二。慎二は椅子に逆座りして背もたれに両腕をかけている。
 梓は手を屈伸させながら、どうやら拳法についての話しをしているようす。
「で、腕をこう」
 いきなり慎二の顔めがけて正拳を繰り出す梓。あわてず騒がず掌で軽く受け止める慎二。
「ちっちっち。もっと腕を捻るようにリストをきかせるんだ。こんな風にな」
 ぐいっと腕を突き出す慎二。首を傾けてそれをかわす梓の髪が風圧でたなびく。
「でも、あたしは腕力ないからね。どっちかっつうと」
 梓の右足が蹴り上げられる。慎二はそれをスウェイでかわすが、視線が下にいっている。梓の短いスカートからのぞく白いショーツがまぶしい。
「こら。どこ見てんだよ」
「な、何も。見てねえよ」
 首を横に振って否定する慎二。
「レースのフリルが可愛いだろ」
「そうだね」
「やっぱり見てるじゃないか」
 誘導尋問に引っ掛かった慎二の頭を、鞄で叩きはじめる梓。
「ご、ごめんよお」
 しばらくそんな調子が続いていたが、
「ふふふ」
「がはは」
 突然高笑いする二人だった。
 そんな二人を、拳法談義に加われない絵利香と相沢愛子やクラスメート達が眺めている。
「ところで、空手部に入ったスケ番の連中は、どうしてる?」
「一人抜け、二人抜けてな具合で、今はたった一人だけ残ってるよ」
「だろうなあ。汗水流してスポ根よりも、街中でカツアゲやってる方が性に合ってる連中だからな」
「こうなるだろうとは思っていたけどね。残った一人が熱心に欠かさず稽古に出てるし、同じ一年生だから、それだけでも拾い物だよ」
「そうだな。女の子はおまえ一人だったからな。稽古相手ができてよかったじゃないか」
「まあね。ほんとに真面目でさあ、なんでスケ番グループに入ってるか不思議なくら
い。家庭の事情があるらしいけど」
 その時、勢いよく扉を開けて、血相変えて飛び込んできた女子生徒がいた。
「梓さん。大変です!」
「郁{かおる}さんじゃない。どうしたの?」
 話題にでていた、たった一人残っているというスケ番空手部員だ。
「お竜さんが、黒姫会の連中に捕まって連れてかれたんです」
「黒姫会?」
「ああ、知ってるぜ。おまえんとこの青竜会と島争いをしているスケ番グループだよ」
「その通りです」
「たぶんおまえがスケ番達を空手部にさそって稽古に励んでいる間に、やつらは勢力を広げていたんだな。そこへお竜達が空手に飽きて舞い戻ったところを襲ったんだろな」
「お竜さんは、身を呈してわたしを逃がしてくれたんです」
「それで、どこに連れていかれたの?」
「わからないんです。逃げるので精一杯で」
「やつらのたまり場なら、俺が知ってるぜ」
「ほんとうか?」
「ああ、案内してやるよ」

 裏門近くの駐車場にやってくる三人。
「こんなところに連れてきて、一体なんなのよ」
「まあ、見てなって」
 駐車場すみの茂みに入ったと思うと、自動二輪車を引き出してくる慎二。
「バイク?」
「どうだ、すごいだろ」
「どうだはいいが、どうやって乗るんだ?」
「後ろによいしょっと跨ればいいんだよ」
「それくらいは、わかるぞ。言いたいのは自動二輪車は二人までしか乗れないんだろ。しかもヘルメットも余分にない」
「なあに身体の細い女の子二人なら余裕で乗れるし、パトカーの巡回ルートを熟知している友達がいてね、サツに合わずに目的地まで行けるよ」
「大丈夫かなあ……」
「おいおい。そんな悠長なこと言ってていいのか。手をこまねいていたら彼女どうなるかわからんぞ」
「わかった。ちゃんと運転しろよ」
 疑心暗鬼ながらも自動二輪車に跨る梓。
「郁さんは後ろにね。こいつのすぐ後ろだと何されるかわからんからな」
「はい」
 梓の後ろに、落ちないようにぴたりとくっつくように乗車する郁。
「おい。今なんと言った」
「いいから、早く出せ」
 ぽかりと沢渡の頭を叩く梓。
「わかったよ。ヘルメットはおまえが被ってろ」
「いらないよ。自慢の髪に匂いがついちゃうじゃないか」
「そうか……じゃあ」
「あ、わたしもいいです」
「そっか、んじゃ。飛ばすぞ、しっかりつかまってろよ」

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梓の非日常/第三章・ピクニックへの誘い(十四)戦い済んで火が暮れて
2021.02.28

梓の非日常/第三章 ピクニックへの誘い


(十四)戦い済んで日が暮れて

 参加者全員が競技を終えた。
「それでは一回戦の競技の結果を発表しますが、二回戦では一回戦の成績の男子上位からと女子下位から順番に男女ペアを組んでいただきます」
 電光掲示板に男女別順に成績が発表された。
「一位が沢渡か……信じられないなあ。最後の最後に油断したのかスプリット出して227点。それ以外オープンフレームがないよ。ほとんどプロじゃんか。こんな奴とは勝てるわけないじゃないか」
「二回戦は、クロス成績順の男女ペアだから一応平等になると思うよ」
「男子一位、沢渡慎二君。ペアを組まれるのは女子十五位の真条寺梓さん」
「おまえが最下位とはなあ……58点か」
「ああ、波に乗るのが遅すぎた。もう少しコツが判るのが早ければ絵利香ちゃんに勝てたのにな」
「男子二位の鶴田公平君と、女子十四位の篠崎絵利香さん」
「公平くん、上手なんですね」
「まあ、上達本読んだり、それなりに経験積んでるから。ほら幹事としてボーリング大会開催したりするのに、ルールとか覚えたり素人さんにある程度教えたりしなきゃならないでしょう」
 組み合わせ発表が終わり、第二回戦が開始された。
「二回戦ではペアの二人でワンゲームをチャレンジします。奇数フレームの一投目は男子、二投目は女子に。偶数フレームでは反対に一投目を女子、二投目を男子に投げていただきます。もちろんストライクなら二投目はありません。それではみなさま仲良く優勝目指して頑張ってください」

「ストライク!」
 指を鳴らしてガッツポーズの梓。
「やったな。とりあえずダブルだ」
「へへん。もうすっかりコツ掴んだからな」
 すっかり有頂天の梓。腕前の上達もさることながら、大衆遊戯というものをはじめて経験して興奮しているせいもある。ゲームセンターはもちろんの事、映画館、劇場、プールなど不特定多数の客が利用する場所には、出入禁止というお触れが出されていたから。財閥令嬢の哀しき宿命というところ。
 一方の絵利香・鶴田組は確実にスペアを取っていた。第二投を絵利香が投げる時は、鶴田が確実にピンを取れるアドバイスをしていた。
「ボーリングでは高得点を出すには、ストライク取るのも肝心ですが、オープンフレームを作らない事も大切なんですよ」

 ストライクを決める慎二。
「これでターキーだな」
「あたし達の勝ちかな」
「いいや、第二・第五フレームでスプリットオープンがあるから得点は、絵利香ちゃん組みに負けているんだ」
「ええ? うそお、あたし達の方がストライクが多いよ」
「うーん。そこがボーリングの採点方法の不思議な所なんだ」
 スコアに目を移す慎二。
「さて、みなさん第九フレームを終了した時点で、得点を確認してみましょう。第九フレームでスペアの絵利香・鶴田組は、第八フレームの得点が180点。同じくターキー出した梓・沢渡組は、第十フレーム一投目でストライク出しても169点となっています。優勝の行方は、この両ペアに絞られたようです。第十フレームを全部ストライクだしたとして絵利香・鶴田組が230点、梓・沢渡組が229点ということになります」
「一点差か……まあ、いい勝負だよね」
 一同が電光掲示板を眺めている。
「勝負は最終フレーム次第ですね。スペアとターキーの後のダブルスコアとなる第一投目が重要です。ストライクを出せば断然有利になります」
 一同が注目する中、梓がスタートラインに立った。
「梓さん、第一投目を投げました。ボールはレーンを転がってポケットまっしぐら。おおっと! トップピンが残った! 残念です。これで絵利香組がスペアを取れば優勝が決まります。気を取り直して第二投目。スペアです」
 会場がどよめいている。
 残念そうに梓がレーンから降りてくる。代わって絵利香がレーンに上がる。
「続いて絵利香さんが、第一投目に掛かります。投げました、ボールは……いけない! 深い。割れたあ! 7と10番ピンのスプリット。プロでもこれは難しい。鶴田君が話し掛けています。おそらく無理せずどちらかの一本を倒すように伝えているのだと思います。絵利香さん、第二投目に入ります。ボールは7番ピンを倒して、ゲーム終了。得点は207点。これで梓さんがストライクを取れば208点で、逆転優勝です」
 スタートラインに立つ梓。
「おい、梓ちゃん。ストライクだぞ」
「まかせて頂戴」
 ゆっくりと投球に入る梓。
「いっけえ!」
 快音とともにピンが弾け飛ぶ。
「あちゃああ……」
 顔を覆い残念がる梓。
「なんと! またしてもトップピンが残った。同点! 梓組も、207点でゲームを終了しました」

 VIPルーム。
 ベッドに仰向けになり、両手を掲げるようにしてスコアを眺めている梓。
「最後の最後で波乱万丈ってところかな」
 縁に腰掛けて同じようにスコアを眺めている絵利香。
「梓ちゃん。初めてにしてはすごいじゃない。運動神経抜群だから」
「絵利香ちゃんこそ。よくやったよ」
「コーチが良かったんだよね。で梓ちゃん、機嫌は直った?」
「そうだね。身体動かしたら、すっかり良くなったよ。うじうじしてたのが不思議なくらい」
 スコアを放り出して、大の字になる梓。
「寝ようか!」
「うん。明日は、河原でバイキングだよ」
「そうだね」
 枕もとのランプを消して眠りにつく二人。

第三章 了

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梓の非日常/第三章・ピクニックへの誘い(十三)ボーリング大会
2021.02.27

梓の非日常/第三章 ピクニックへの誘い


(十三)ボーリング大会

 自由時間を過ごしているそれぞれの部屋の電話が鳴り、送受器を取る生徒達。
 センター内を散策している生徒達へ、館内放送が連絡事項を流している。
「川越市からお見えの城東初雁高校のお客様がたにお知らせいたします。只今よりイベントを開催いたしますので、どなたさまも至急当保養センター内ボーリング場に、お集まりくださいませ。繰り返しお伝えいたします……」
 わいわいがやがやとボーリング場に集まってきた生徒達。
「イベントって、一体何があるのかな?」
「まあ、ボーリングには関係あるだろね」
「ねえ、鶴田君は知ってるの?」
「いや。俺は、何も知らない」
「なんか俺達だけしか、客がいないじゃないか」
「どうやらフロア全体貸し切りみたいだな」
 フロア内にあつらえた壇上に昇っていく従業員がいる。
「城東初雁高校のみなさま、全員お揃いでしょうか。まわりを見渡していらっしゃらない方がおりましたらおっしゃってください」
 あたりを見回す生徒達。梓がいて絵利香、慎二もいる。
「三十一名。全員揃ってます」
「はい、結構です。私は、司会進行を務めます、沢田というものです。みなさま、よろしくお願い致します」
 ぱちぱちぱちと拍手が湧き起こる。
「まずはじめに当センター副支配人の神岡がご挨拶いたします」
 代わって壇上にあがる副支配人。
「みなさま、副支配人の神岡幸子でございます。当保養センターのご利用誠にありがとうございます。さて、今宵は当センターのオーナー様のご厚意により、このボーリング場ワンフロアを貸し切りに致しまして、ゲームをして楽しんでいただきます」
「オーナーのご厚意ですって」
「オーナーに、誰か会った人いる?」
 鶴田が梓の方をじっと見つめている。
「賞品も参加者全員に行き渡るよう、多数ご用意させていただきました。それでは心ゆくまでお楽しみくださいませ」
 深々と頭を下げてから、壇上を降りる副支配人。
 再び壇上に上がっていく司会者。
「それでは一回戦をはじめますが、出席番号で男子の一番と、女子の一番で組み合ってください」
 偶然かな、梓と鶴田、絵利香と慎二という組み合わせだった。

 ストライクを連続して決めていく慎二。
 一方の梓は、
「ありゃあ! またガーターだ」
 見事なまでにガーターを連発、スコアにはオープンフレームが並んでいた。
「おまえ、ボーリングやったことないのか?」
 慎二が梓のスコアを覗きながら尋ねた。
「ないよ。人の大勢集まる大衆娯楽遊戯はやらせてもらえなかったんだ。警備上の問題があるとかでね」
「絵利香さんもですか?」
「いいえ。わたしは、わりと自由だったから、二回ほど経験があるわ。腕前は、梓ち
ゃんと変わらないけど」

 絵利香組のスコアも梓と大差なくオープンフレームの連続だった。
「お二人とも、ただ闇雲に投げてもピンには当たりませんよ。ストライクというか、より沢山ピンを倒すには、コツがあるんですよ」
「コツ?」
「1番ピンと2番ピンの間。ポケットというのですが、そこを狙うんです」
「ポケットね」
「そこへ入るようなコース取りを考えつつ、助走で十分な加速をボールに与えるんです。そして指を抜くタイミングが大切です、そしてインパクト」
 鶴田が、紙に図を描きながら、二人に親切丁寧に教えている。
「ほう……ボーリングも奥が深いな」

 鶴田のコーチを受けた二人は見違えるように上手になった。
「やったあ! ストライク」
 と飛び上がって喜び、思わず鶴田の頬に感謝のキスをする梓だった。
「おおおお!」
 ハプニングともいうべき梓の行為に感嘆の声を上げる生徒達。
 慎二が唖然とした表情で立ちすくしている。
「誤解しないでね、公平くん。梓ちゃんは、アメリカ人としてごく普通に感謝の気持ちを現しただけだから」
「ああ、はい。わかってますよ」
 梓や絵利香がアメリカ的な生活環境に慣れ親しんでいるのは良く知っていた。クラスメート全員を「公平」「慎二」などとファーストネームで呼び慣わしているのも、欧米人ならごく普通のことである。
「しかし、梓さん、飲み込みが早いですね」
「運動神経が抜群だから。コツさえ掴めばこんなものでしょう」

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梓の非日常 第二部 第八章・小笠原諸島事件(六)
2021.02.26

梓の非日常 第二部 第八章・小笠原諸島事件


(六)父島到着


 東京から南に約1,000km。2011年6月に世界遺産として登録された、小笠原諸島「父島」に到着した。ボニンブルーの海に囲まれた亜熱帯の海洋島である。
 小笠原諸島には、大型客船を泊められる港がないために、「ブイ係留(浮標係留)」という方法をとる。

★ブイ係留(浮標係留)とは
 2つの大きなブイに船の前と後ろを繋ぐ、世界的にも大変珍しい係留方法です。
ブイに係留してからは、漁船と客船を繋ぎ、漁船やテンダーボートに乗り換え、ピストン方式でお客様を陸まで運びます、それを通船と言います。
 その作業は島の観光施策もあって地元の漁業者によって行われています。港に入るとまず本船から係留ロープを引き出し、それを漁船で待ち構える漁師が受け取りブイまで引っ張り、手早くロープをブイに繋ぎます。
参考動画 こちら
 この方法では、気象条件が良くないと係留することができずに上陸できない。
 なので、天候が回復するまで、島を遊覧することになる。

「今日は天気が良くて助かったね」
 係留作業が完了した頃合いをみて、一隻の中型船が近づいて来た。
 小笠原諸島周辺を回る、定員200人の貸し切りクルーズ船のようだ。
「本船のご利用ありがとうございました」
 特別待遇だったとはいえ、客は客だ。
 豪華客船のクルーが、見送りに出ていた。
 本船の客船用水平格納型振り出し式舷梯装置を作動させて、中型船の甲板上に直接降りられるようにした。
 揺れる舷梯から落ちた場合に備えて、救命胴衣を着用する。
 おっかなびっくりで、手すりにしがみ付くように降りてゆく生徒達。
「冷や汗かいた~」
 無事に全員が中型船に降り立つ。
 救命胴衣が回収されて、本船へと運ばれてゆく。
 最後の見送りとして、デッキから手を振っているクルーだった。
「ありがとうございました」
 生徒達も手を振り頭を下げて、感謝の意を伝えようとしている。


 係留ブイが外され、やがて豪華客船は、次の寄港地グアムに向けて、静かに出発した。

「これより父島に向かいます」
 潮風にかき消されないようにメガホン片手に、ガイドが説明する。

「今日は港に入り次第、旅館に直行します。お風呂に浸かるなどして、疲れをお取りください」
 丸二日間船に揺られてきたのである。
 若さゆえに疲れを感じない生徒も多いだろうが、実情は身体は疲れ切っているはずだ。
 波に揺られて満足に睡眠も取れていないだろう。

 そうこうするうちに、船は父島二見港に到着した。
 下船する生徒達。
 久しぶりに揺れないしっかりした大地を踏んだのだ。
「なんか、今でも揺れているような気分だよ」
「あたしもよ」

「おお、スマホが繋がったよ」
 父島には基地局があるので、スマホが通じている。
 受信範囲はメーカーキャリアによって差があるので要確認。
「これでやっと日常が戻ってきたって感じね」
「納得!」

 港には、15時発東京行きの小笠原海運『おがさわ丸』が停泊していた。
 東京・竹芝港~父島・二見港を片道約24時間で結ぶ貨客船で、車は乗船できない。ほぼ6日ごとに発着を繰り返している唯一の定期船。東京から父島に着いたら、強制的に3泊を強いられ必ず5泊6日のプランとなるという。

「帰りは、あれに乗るのか?」
「いいえ。篠崎観光のチャーター船で帰るわ」
 慎二の質問に絵利香が答える。
「旅館行きのバスです! 皆さん、お乗りください」
 ともかく、今夜の宿泊旅館へと向かう。
 荷物を置いて、夕食とって、夜となり就寝の準備が整えられた部屋で、枕投げが始まる……と思いきや。
 全員、バタンキュー!
 疲れ切って、そのままグッスリ眠り込んでしまったのである。

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梓の非日常/第三章・ピクニックへの誘い(十二)口付け?
2021.02.25

梓の非日常/第三章 ピクニックへの誘い


(十二)口付け?

「24! どうだ?」
 慎二が首を横に振っている。
「リーチだあ!」
「俺もリーチ!」
 二人がカードを高く掲げて宣言した。
「おおっと! リーチが同時に二人も出たよ」
 場内がざわめきはじめる。
「さあて、次の巡でビンゴが出そうだ! みんな用意はいいかな」
「おうよ」
 ピピピとルーレットが動く。
「13!」
「ちきしょう! 穴がずれてる」
「64か22にしてくれよお」
「俺はリーチだぞ」
 生徒達が口々にぼやいたり、歓喜している。
「ビンゴはいないのかあ?」
 リーチ掛かりの三人に視線が集中する。
 後からリーチ宣言した二人は首を振っている。
 そして慎二は……。
 カードを確認し、再びゆっくりと手を挙げる。
「ビンゴ? ビンゴなのかあ?」
 こっくりと頷く慎二だった。
「おおっとお! ビンゴ成立だあ。美女の口付け争奪バトルの栄冠は、沢渡君のもとに輝いた」
「ちぇっ。三つもリーチが掛かってたのによお」
「それでは梓さん、沢渡君前にでてきてください」

「どうした、委員長」
「俺って結局、梓さんにセクハラを強要したんだな、って。あれ以降、彼女は部屋に引き込んじゃったし」
「しかし、男子女子共々大受けだったじゃないか。イベントとしては大成功だよ」
「だからって女の子一人を、人身御供にするのはやっぱりいけなかったと思う。梓さんが選ばれたのは、たまたまのくじ運だけど」
「もし君がそんな風に思っているのなら、謝りにいけばいいんじゃないか」
「無理ですよ。彼女は一般人の入り込めない36階のVIPフロアにいるんですから」
「あれ、35階建てじゃなかったの、このホテル」
「36階建てですよ。バスの運転手が丘の上で説明していましたよ。そこにパンフレットがありますから、写真の建物の窓の階数を数えてみてください」
「本当だ。36階ある」
「従業員に聞いたら、事務所になっているとのことですが、観光地のホテルで最も展望の良い最上階を事務所にするところなんてありませんよ。都心のデパートならそういう場合もありますけどね」
「だろうなあ」
「それで従業員が立ち話をしているのを、物陰で聞けるチャンスがありましてね。

 通路の影で従業員達の会話を立ち聞きしている鶴田。
「ねえねえ、お嬢さまのお顔見た?」
「見た見た、とっても可愛いのよ」
「今、最上階のVIPフロアにいらっしゃるのよね」
「うん。36階だけど、あそこって支配人か副支配人の持ってる鍵がないと、行けないんですって」
「ああ、そうそう。支配人の持ってる鍵は、竜崎麗香さんてかたが預かっているみたいよ」
「その麗香さんて、支配人より偉いってことなのかな」
「みたいよ。支配人がぺこぺこ頭下げてるの見たわ」
「バスのお湯や水がちゃんと出るかとか、空調設備はきちんと動いてるかとか、自分自身の目で調べていたらしいし」
「そりゃあ、お嬢さまがバスを使うのにお湯がでなかったら大変だものね。昔だったら切腹ものだよ」
「噂では、お嬢さまがお持ちになられている権限の、執行代理人ということらしいけど。企業グループの社長さえ更迭できるくらいの強大な権限を持っているらしいよ」
「そうそう。真条寺財閥グループのナンバー1が渚さま、その世話役の恵美子さまがナンバー3。お嬢さまはナンバー2で、その世話役の麗香さまはナンバー4、というところかしらね」
「その麗香さん。何でも二十歳の若さにして飛び級でコロンビア大学の経済学博士課程を終了したという秀才だとか」

「……とか言ってました。話しの筋を総合すると、どうやら梓さんはこの研修保養センターを所有する、真条寺財閥グループを統括する『渚』という人物のご令嬢というところでしょうか。どうりで宿泊先としてこのセンターを、簡単にしかも無料で手配できたわけです。それと、絵利香さんも、篠崎重工のご令嬢のようだし」
「そうか……ばれてしまったか」
「先生は知っておられたんですか?」
「ああ、一応担任だからな。家庭訪問で、彼女達の豪邸も訪ねた事がある」
「豪邸ですか。そういえばロールス・ロイスで通学する女子生徒がいるという噂を聞きましたが、梓さんでしょうね」
「鶴田くん、二人のことしばらく内緒にしておいてくれないか」
「いいですよ。どうやら財閥令嬢であることを知られたくないみたいですからね」
「ああ、いずれはばれることだろうけど。それまではな」
「財閥令嬢か……とんでもない生徒がクラスメートなんですねえ」
「ところで、沢渡君はどうしてる?」
「梓さんを探しまわってますよ。VIPルームにいること知らないから」

 普段着のままベッドの上をごろごろ寝転がる梓。
「なんか、やるせないなあ……」
「どうしたの?」
 ベッドの縁に腰掛けそんな梓をみつめている絵利香。
「女の子ってさあ、どうして男の子の飾りものにされちゃうのかなあ、って」
「ビンゴゲームのこと言ってるのね。でも、頬にキスするぐらいアメリカ人の梓ちゃんなら慣れてるでしょ。わたしのお父さんにしょっちゅうキスしてるじゃない」
「そうじゃなくて、ゲームに利用されるところが気にくわないのよ」
「でも公平くんを責めちゃ可哀想よ。クラスメートの親睦を深めるために一所懸命に余興を考えた結果だと思うから」
「わかってるけどさ……」
「こういう時はさ、身体を動かして汗を流すといいよ。ねえ、ボーリングでもしようか?」
「それ、いいかもしれない。麗香さん。副支配人を呼んでくださるかしら」
「はい。かしこまりました」
 インターフォン電話を取りフロントに連絡を取り継ぐ麗香。

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