あっと!ヴィーナス!! 第二章 part-6
2019.10.14


あっと!ヴィーナス!!


第二章 part-6

「あああああああー! お、おまえは!」

 何もかも思い出した!
「ヴィーナス!」
 そうだ、そうだよ。
 女の子にした張本人だ!
 どうしてくれるんだよ。元の身体を返してくれ。
 と言おうとする前に、
「それは無理ですよ。元の身体とはいうけど、あなたは女の子として生まれるはず
だったのだから。つまり今の身体が本来の形なんだから」
 先に答えられてしまった。
 え? まだ言ってないのに……。
「あなたの心の中はすべてお見通しです」
 言いながら酒を飲む。おいしそうに。
「ねえ、この方どなた? 弘美ちゃんのお知り合い?」
 母さんがそっと耳打ちするように尋ねる。
「知り合いも何も、俺……(と言ったら母の目が怒っている)……。あ、あたしを
こんな身体にした張本人だよ。愛と美の女神ヴィーナスとか言ってやがった」
「まあ! それは素敵!」
 瞳を爛々と輝かせてヴィーナスを見つめなおしている。
 あのなあ……。
「これはこれは、女神様。よくぞ弘美を女の子にしてくださいました。どうぞどう
ぞ、まあ一献どうぞ」
 席を譲りながら酒を薦める父。
「うむ」
 威厳をもってその席に座りながら酌を受けるヴィーナス。
「当然の事をしたまでです。手違いで生まれてしまった者を元の姿に戻すのは女神
の責任なのです」
「それはそれは、さぞやご苦労なさったのでしょう。ささ、どうぞどうぞ」
 母までが女神を祭り上げている。
「今の今まで、やり残したことを手掛けていたので遅くなりました」
「やり残したこと?」
「その前にもう一杯」
「あ、すみません。どうぞ」
「突然に女の子の姿になってしまっては、ご近所付き合いや学校生活に支障が出ま
すよね?」
「はい、確かにそうです。実はどうしようかと悩んでいたんです。この娘が女の子
になったのはいいんですが、男の子として暮らしていましたから……」
「そう。女神としては、ただ元の姿に戻すだけでなく、女の子として正しく生活で
きるようにまで面倒みなくては手落ちというものでしょう」
「そうでしょ、そうでしょう。ささ、どうぞ」
 今度は信一郎兄さんが酌をしている。
「それで具体的に何をなさっておられたのですか?」
「彼女に関わるすべての人間の記憶を、彼女が女の子というものにすり替えたので
す」
「ということはつまり……。何の支障もなく、この娘が女の子として、ご近所付き
合いや学校生活できるということですね?」
「その通りです」
「まあ、それはそれは、どうもお疲れさまです。どうぞ、どんどんお飲みくださ
い」


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銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第五章 ターラント基地攻略戦 IV
2019.10.13


 機動戦艦ミネルバ/第五章 ターラント基地攻略戦


                 IV

「リスキー開発区のモビルスーツ研究所及び生産工場の破壊とモビルスーツの奪取が
我々に与えられた任務です」
「リスキー開発区の攻略ですか」
「それはまた難儀な指令ですね」
「モビルスーツ同士の激突になりますよ」
「どれほどのモビルスーツが出てくるか判りません」
 各艦長はそれぞれの意見を述べた。
「その心配はないでしょう。どんなに機体があろうとも、動かすにはパイロットが必要
ですが、戦闘経験のほとんどないシロートだそうです」
「かも知れませんね。せいぜい動かせるだけのレベルでしかないでしょう。戦闘レベル
は実戦で経験するしかありませんから」
「モビルスーツの奪取の任務は、ナイジェル中尉とサブリナ中尉にやってもらいます」
 頷くナイジェルとサブリナ。
「今回の任務上、研究所への攻撃は極力避け、出てきたモビルスーツと戦闘機を撃ち落
し、岩壁の砲台を叩いて無防備にした後に、殴り込みをかけます」
「まもなくリスキー開発区です」
 オペレーターが報告する。
 フランソワは一呼吸おいてから、静香に下令した。
「全艦、戦闘配備!」
 各艦長達は、それぞれの艦に急行すべく乗り込んできた艀に向かった。
 来た時にも感じたが、ミネルバの艦内装備と施設には圧倒されるばかりであった。
「こんな機動戦艦を操艦してみたいものだな」
 全員一致の思いだったに違いない。

 リスキー開発区は砂漠にそそり立つ巨大な岩盤の中腹に建設されていた。かつては良
質のレアメタルが採掘されていたが、ほぼ掘り尽くされて廃棄された。
 その廃坑後にモビルスーツ研究・生産工場として再開発されたのである。
「戦闘配備完了しました」
「よろしい。このまま前進して敵の出てくるのを待つ」
 完了したと言っても、今回の作戦ではミネルバの艤装が活躍する場はほとんどないだ
ろう。原子レーザー砲も速射砲もお役御免のようである。
 せいぜい敵が身近に迫った時のためのCIWS(近接防御武器システム)くらいであ
る。
「敵のモビルスーツ隊が出てきました」
 高速移動用のジェット・エアカーに乗ってモビルスーツが向かってくる。
「こちらもモビルスーツを出して」
「モビルスーツを出撃させます」
 フランソワは手元にある端末を操作して、サブリナ中尉とナイジェル中尉を呼び出し
た。
「その新型は性能諸元がまったくの未知数です。十分気をつけて戦ってください」
「判りました。十分気をつけます」
「それでは艦長、行って参ります」
 勇躍大空へ飛び出してゆく新型モビルスーツ。
 超伝導磁器浮上システムを採用した完全飛翔型ゆえに、エアカーを使用することなく
縦横無尽に飛び回る。
 完全飛翔型とはいっても、磁気浮上システム自体は浮き上がるしかできないので、ジ
ェットエンジンの飛行装置が取り付けられている。それでもエアカーに乗らなければな
らない旧式よりははるかに機動性は高い。
「この分では五分ほどで決着が着くでしょう」
 副長のベンソン中尉が進言した。
「そうね」
 ベンソン中尉の言う通りにほどなく決着がついた。
「モビルスーツの回収部隊を突入させてください」
 フランソワが説明した通りに、敵には熟練したパイロットがいなかった。
 そのほとんどが、機体を動かせるだけのレベルだけしかない。研究所という環境を考
えれば当然のことなのだろうが、ミネルバが目標にしているという情報が入っていれば、
それなりの対応ができただろう。
 情報戦を仕切るレイチェル・ウィンザー大佐の力量というところだろう。
 研究所には研究員や警備兵が、まだ立て篭もっているはずである。
 モビルスーツの回収の援護なら、旧式機体でも十分であろう。
「サブリナ中尉とナイジェル中尉は戻ってきて、上空の警戒にあたってください」
「了解。戻ります」
 いつどこから来襲があるかも知れないから、それに備えていなければならない。
 研究所を完全制圧するには、まだ少し時間がかかる。
 サブリナを呼び戻して、警戒防衛に当たらせるのは当然であろう。
 ミネルバの上甲板に着艦して上空警戒に入るサブリナ。
「これより上空警戒に入ります」
 新型が上空警戒に入ると同時に、回収部隊が研究所に突入してゆく。
 警備兵とて黙ってモビルスーツが奪取されるのを指を加えて見ているわけがない。
 激しい銃撃戦がはじまる。
 研究員も銃を取って参加する。
 研究所内にはまだ数多くのモビルスーツがあり、研究員が乗り込んで侵入者を迎撃し
ようとする。
 しかし所詮はただの研究員。それらを蹴散らし、完成したばかりのモビルスーツを回
収していく。
 輸送トラックに積んで運び出したり、パイロットが乗り込んで自ら操縦して移動させ
てゆく。
 所内にずらりと並んだモビルスーツ。各艦から選りすぐりのパイロット達には、一目
で旧式と新型の区別がつく。旧式には目もくれずに、より新しいタイプの機体を選んで
乗り込んでいく。
 もっとも新型と言っても、旧式に比べればということで、サブリナ達が乗っている新
型とは性能がまるで違う。
 やがて研究所は制圧され、モビルスーツの搬送も完了した。
 搬送しきれないモビルスーツを残しておくわけにはいかないので、研究所・生産工場
もろとも爆破するに限る。
 要所要所に爆弾がセットされてゆく。
「よおし、作戦終了。撤退するぞ」
 研究所の搬送口から次々と撤退してくる回収部隊。
 ほどなくして、仕掛けた爆弾が炸裂する。轟音とともに研究所のある岩壁もろとも崩
れ去った。
「回収、終了!」
「基地へ連絡。任務完了、次なる指令を待つ」
 通信士が暗号文に直して、メビウス部隊の基地へ向けて打電する。
 ほどなくして返信が戻ってくる。
『本部了解。次なる作戦は考慮中にて、それまで自由行動を認める』
「自由行動を認めるだそうですよ」
 嬉しそうに副官のイルミナ少尉が言った。
 自由行動イコール休暇とでも考えたのだろう。
「良い機会です。搾取したモビルスーツを利用して、戦闘訓練を行いましょう。サブリ
ナ中尉を呼んでください」
 それを聞いて怪訝そうな表情を見せるイルミナだった。
「何か不服でも?」
 すかさずフランソワが尋ねる。
「いえ、訓練は大切ですよね」
「そう、一人でも多くの正規パイロットを育てることが、私達の任務なのです」


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銀河戦記/鳴動編 第二部 第四章 皇位継承の証 Ⅷ
2019.10.12


第四章 皇位継承の証


                  Ⅷ

 アレックスが第一皇子として叙されて以来、宮殿にて謁見を申し出る貴族達が後
を立たなかった。委任統治領を任せられた貴族達の統治領の安寧を諮ってのご機嫌
伺いである。金銀財宝の貢物を持参しての来訪も少なくなかった。
 謁見が増えることによって、政治を司る御前会議の時間が割愛されるので、時と
して国政に支障が出ることもあるのだが、持参する貢物が皇家の財産として扱われ
るので、無碍にも断るわけにいかなかったのである。
 アレックスは、賄賂ともいうべき貢物が、当然のごとく行われていることに、疑
問を抱いていた。
 しかし、宮廷における新参者であるアレックスには、口を挟むべきものではない
と判断した。すでに既得権となっているものを覆すことは、皇族・貴族達の多大な
る反感を抱かせることになる。
 郷に入れば郷に従えである。
 銀河帝国における確固たる基盤を築き上げるまでは、当面の間は目を瞑っている
よりないだろう。

「ところで、皇子よ」
 謁見の間において、エリザベスが話題を振ってきた。
「はい」
「私は、皇帝の執務代行として摂政を務めているのですが、今後は皇子にもその執
務の一部を任せようと思っています。取りあえずは軍部の統制官としての執務を担
って貰いたいのですが、いかがなものでしょうか」
「軍部統制官ですか?」
 宇宙艦隊司令長官(内閣)、統合作戦参謀本部長(行政)、軍令部評議会議長
(司法)。
 以上が、軍部における三官職と呼ばれる役職である。実働部隊を指揮・運用した
り、各艦隊の運行状態を把握し作戦を協議したり、人事を発動し功績を評価して昇
進させ軍法会議にも諮ったりする。それぞれ重要な役職であるが、横の連絡を取り
全体のバランスを調整するのが、軍部統制官という役回りで、軍部予算の配分を決
定する権限も有していた。現在そのポストは空席となっている。
 なお、司令長官は現在空位のままで、次官が代行して執務を行っている。
 アレックスを重要な官職につけようとするのには、後々の宇宙艦隊司令長官に就
任させるための、軍部への足固めを図るというエリザベスの思惑があるようである。
「大臣達よ、依存はありませんか?」
 エリザベスが、大臣達に確認を求めた。
 保守的に凝り固まった大臣達である。
 即答は返ってこなかった。
 互いに小声で相談し合いはじめた。
 その相談の内容としては、第一皇子という地位や共和国同盟の英雄と讃えられる
アレックスの将来性などに言及しているようであった。
 しばらく、そのやり取りに聞き耳をたてていたエリザベスだが、
「依存はありませんか?」
 再確認を求めることによって、やっとその重い口を開いた。
「依存はありません」
「将軍達はどうですか?」
 今度は将軍達に確認を求めるエリザベス。
「依存はありません」
 元々アレックスに対して好意的だった将軍達が反対することはなかった。
 これによって、アレックスは軍部統制官として、軍部の中に確固たる地位を与え
られたのである。


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闘病記・序文
2019.10.11


金曜日は、妖奇退魔夜行の連載日ですが、引っ越し準備などで執筆が追い付かずス
トック切れになりました。なので、埋め合わせというか……闘病記を書き綴ること
になりました(;´Д`)

というわけで、よろしくどうぞ。


特定疾患(難病)と診断されるまでに、さまざまな病気を患ったり、いろいろな診
療や治療が繰り返されました。

 わたしも全身性エリテマトーデスという膠原病として正式に確定されるまでに、
蕁麻疹からはじまって、腸閉塞や筋無力症、肺炎・胸膜炎と次々と発症してきまし
た。
 それぞれに前兆症状があって、後から考えるとなるほどそうだったのかと思わせ
ることもあります。
 治療というものは、病名が特定されて初めて、正しい治療を行うことができます。
 病名が確定するまでに、十年以上もの長い間、入退院を繰り返しました。

 難病に苦しむ方の一助として、自分が経験した難病の症状や治療経験を語りたい
と思います。

あっと!ヴィーナス!! 第二章 part-5
2019.10.10


あっと!ヴィーナス!!


第二章 part-5

「俺達も同感だ。はじめて見たけど、ほんとうに可愛いよ。友人達に鼻が高いよ」
「うんうん。めっちゃかあいいよ。その衣装とっても似合っているよ」
 衣装って……母さんのもろ好みって感じの、着せ替え人形風のことか?
「ああ、ほんとだ。妹じゃなかったら、恋人にしたいよ」
 上の三人の兄さん達は、もうべた可愛がりという口調と表情だった。
 しかし武司兄さんだけは、なぜかぶすっとしている。
 住み慣れた部屋を追い出されたから当然だろうね。
「弘美ちゃん、何か一言」
「そうそう、可愛い声で何か喋ってよ」
 あ、あのなあ……。
 じっと弘美を見つめている家族達。
 うーん……、どうしようかな。って困るほどのこともないか。
「ひ、弘美です。女の子になっちゃったけど……今後ともよろしく」
 とぺこりとお辞儀をする。
 他にどうせいっちゅうんじゃ。
「おうおう。こちらこそね。弘美ちゃん」
「うん。弘美ちゃんは、今日から可愛い妹だよ」
「仲良くしようね、弘美ちゃん」
 ちょっと、妹に対して言っている言葉じゃないよ。
 それにちゃんつけだし……。
 相変わらず武司兄さんは押し黙っている。
「はい、弘美ちゃん。座って、座って」
 わざわざ椅子を引いて、着席を促す母。
 もうどうにでも思ってくれよ。
 それより何より、お腹が空いてぺこぺこなんだ。
 んでもって、目の前の料理はというと。
 お赤飯に、鯛のお頭つき。そして寿司の盛り合わせだよ。
 なあ……勘違いしていないかい?
「女の子として生まれ変わった弘美の誕生日を祝って乾杯しましょう」
「今日は無礼講だぞ。未成年なんか関係ない」
 ちょ、ちょっと。
「おう!」
「乾杯!」
 あ、あのなあ……。
「いいぞお。乾杯だあー! うぃっ……」
 あれ……。
 今の……聞いたことのない声?
「おい。今の声、誰だ?」
「女の声だったな。母さんでも弘美ちゃんの声でもない」
 家族も気づいたようだ。
 と、今まで気づかなかったが、母さんの後ろの酒瓶を積んだワゴンにかぶり付き
で酒を飲んでいる人がいる。
 それも飛び切りの絶世の美女だ。
 どっかで見たような……美女?
 美女だと!?


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