梓の非日常/第二部 第八章 小笠原諸島事件(十五)研究所破壊
2021.04.30

梓の非日常 第二部 第八章・小笠原諸島事件


(十五)研究所破壊

 一騒動が終わって、艦橋に誘われる梓と麗香。
「無事でなりよりでした」
 梓が津波に流されても無事だったことを、喜んでいた。
「お嬢さまの捜索命令が出された時は、驚きましたよ。何でまた、そんな事態になられたのでしょうか?」
 梓が、無人島生活体験ツアーのことを逐一話して聞かせる。
「なるほど……。無人島生活ですか、学校側がよく許可してくれましたね」
「自由な校風の学校ですから」

「それでは、父島に送って差し上げましょうか。すでに他の生徒さん達は、帰っておられるようです」
「その前に、お願いがあります」
「なんでしょうか?」
「あの島の研究所を破壊しておきたいのです」
「それはどういうわけでしょうか?」
 正直に研究所のことを打ち明ける梓だった。
「なるほど、それは破壊してしまった方がいいですね。分かりました」
 と頷くと、副長に向かって指令を出す。
「ハープーンミサイル発射準備だ! 目標は、目の前の島にある研究所だ。塵一つ残さず消し去る!」
「了解! ハープーンミサイル発射準備!」
「目標の島の中心部、研究所!」
「ミサイル発射管付近の者は退避せよ!」
 甲板上にいた水兵達が退避してゆく。
 ミサイル発射管の蓋が開いてゆく。
「ハープーンミサイル1号発射準備完了しました!」
「ようし! 発射!」
 発射管から立ち上がる黒煙。
 その中から姿を現し、爆音を立てながら急上昇するミサイル。
 しばらく垂直上昇を続けたあと、方向を変えて島の方へと転回する。
 ミサイルは一直線に進み、島の中央部に着弾した。
「ミサイルの着弾を確認!」
 続いて人工衛星からの着弾地点の画像が表示された。
「azusa 5号D 機からの映像解析、目標地点の完全破壊を確認しました」
 オペレーターの報告を受けて、梓に伝える艦長。
「これでもう安心です。すべて消え去りました」
「ありがとうございました」

 艦長室を出る梓と麗香。
「これで解決したとは思わない……」
 ふと呟く梓。
 その意味を理解する麗香。
 あの研究員を捉えることができなかった以上、再びクローン研究は続けられるだろう。
 そして梓自体のクローン検体をまだ研究員は所持しているかも知れないのだ。
 梓のクローンが現れても、見破れる手立てが必要であると身に染みて感じる梓だった。

 その頃。
 慎二は、駆逐艦内の食堂で久しぶりの食事をかっ喰らっていた。
「今日は確か金曜だから、カレーライスかと思ったけど違うんだな」
 ここは米軍の艦艇である。
 金曜日のカレーライスは、日本海上自衛隊艦艇で出される習慣である。
 ちなみに太平洋墜落事故の時の慎二は、密航者だったので拘束されてしまったが、今回は【国連海洋法条約の第 98条 1(a)、海難事故に対する救助】におけるところの立派な海難者なので、拘束は逃れられていたようだ。

第八章 了

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