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2021.03.03
銀河戦記/鳴動編トップメニュー 第一部後半
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第十四章 査問委員会 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V・Ⅵ
第十五章 収容所星攻略 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V・Ⅵ
第十六章 サラマンダー新艦長誕生 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V・Ⅵ・Ⅶ
第十七章 リンダの憂鬱 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V・Ⅵ・Ⅶ・Ⅷ
第十八章 監察官の陰謀 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V・Ⅵ
第十九章 シャイニング基地攻防戦 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V・Ⅵ・Ⅶ・Ⅷ・Ⅸ
第二十章 タルシエン要塞へ Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ
第二十一章 タルシエン要塞攻防戦 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ
第二十二章 要塞潜入! Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ
第二十三章 新提督誕生 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ
第二十四章 新生第十七艦隊 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V
第二十五章 トランター陥落 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V・Ⅵ
第二十六章 帝国遠征 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V・Ⅵ・Ⅶ
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第十三章 ハンニバル艦隊 Ⅶ
2021.03.02
第十三章 ハンニバル艦隊
Ⅶ
今回の会戦で敵側に与えた損害として、撃沈艦艇一万七千隻と捕獲二万隻そして三百万人以上にも及ぶ戦死者を出したと推定されている。それに対して味方損害は、七百二十隻の艦船が撃沈、五千人に近い戦死者であるから、数の上では圧倒的勝利といえるのだが、人命尊重を唱えるアレックスにしてみればこれまでにない多くの犠牲を出したことは、悲痛のきわみであったに違いない。とはいえ、アレックスの責任を咎めることはできないであろう。正面決戦による艦隊戦ではいたしかないことなのである。
捕獲した二万隻の艦艇の処遇は、慣例通りアレックスの配下に移されることになった。
スハルト星系会戦では撃沈処理した艦艇だが、今回はすなおに編入することになったのは、この会戦が罠ではなく正規の艦隊戦だからだ。罠を仕掛けるでもないのに、敵に位置を知らせる可能性のある発信機を取り付けたり、爆弾を設置することなどあり得ない。
とはいえ、二万隻からなる艦艇を母港であるカラカス基地へ移送することは不可能であった。基地まで曳航するには遠すぎるし、何より敵艦隊に奪取されていたからだ。また敵艦に搭乗する捕虜も膨大な人数に及ぶ。ために取り敢えずは捕虜共々近くの軍事補給基地アグリジェントに預けておいて、当初の五万隻を率いて基地の奪還に向かうべき進軍を開始した。
カラカス基地奪還に向かったアレックス達ではあったが、ハンニバルを撃ち負かし引き返してきた五万隻の接近を知った敵艦隊は、恐れをなしたのか一戦も交えることなく撤退した後だった。
カラカスを奪還したものの、改めて強固な防御陣を引き直すには時間が掛かりすぎる。基地の設備を以前の様に戻せる前にアレックスの艦隊が押し寄せてくるのは目に見えている。それにブービートラップが仕掛けてあるかも知れない。敵司令官が基地を放棄するには十分の理由があったといえる。
「この撤退の判断の速さ、フレージャー提督でしょうか」
「かも知れない」
カラカス基地は一人の犠牲も出さずに再びアレックスの指揮下に戻ったのである。 労せずして基地を奪回したアレックスのもとに、将軍への昇進と新生第十七艦隊司令官就任の辞令が届いたのは、それから一ヶ月後のことであった。
トライトンが少将に昇進し、その後任としてシャイニング基地の防衛司令官に選ばれた。
ハンニバルを撃退してカラカスを防衛し、捕獲二万隻を合わせれば七万隻という正規の艦隊に匹敵する戦力を保有するに至ったからである。
旧第十七艦隊現有艦艇を分割して、第二軍団所属の第八・第十一・新第十七艦隊それぞれに二万隻ずつを分与する。その二万隻とアレックスの所有する五万隻を合わせて都合七万隻の新生第十七艦隊として再編成されるとしたのである。
同盟における艦隊とは、七万隻をもって正規の一個艦隊を組織すると定められているが、激戦区の第二軍団のほとんどは相次ぐ戦乱で定数を大幅に割っていたのである。戦闘による消耗に生産が追い付かないからであった。だが、アレックスの登場を機会として、戦機は逆転をはじめていた。度重なる大勝利によって敵の兵力を大量に削ぎ落としたために、敵の攻撃がめっきり減少して、生産が消耗を上回りはじめて各艦隊への配給ができるようになったのである。またアレックスの巧妙な戦術による敵艦艇の大量搾取も大いに寄与していた。
「いやあ、君には感謝するよ。二万隻を回してもらえるようになったのは君のおかげだ」
クリーグ基地を母港とする第十一艦隊の司令となっていたフランク・ガードナー准将は心から感謝しているようであった。これまでは艦隊と呼ぶには心許ない四万隻しか与えられなかったからだが、二万隻を増員してもまだ定員に満たないとはいえ、戦術的には敵一個艦隊が相手なら何とか防衛できるまでになったといえる。
正規の七万隻を所有する第十七艦隊の母港としてシャイニング基地はそのままに、カラカス基地もまた燃料補給基地として管轄に入れられることになった。つまりはシャイニングとカラカスと二つの基地の防衛を課せられることになったのである。アレックスにとっては双方の基地を防衛するには兵力を分散させねばならないことを意味している。
第十七艦隊司令といえば聞こえはいいが、アグリジェント基地に残した艦艇を合わせればすでに七万隻からなる独立遊撃艦隊を所有していたアレックスにとっては、負担が増えただけで何のメリットもないものであった。
これは守備範囲にシャイニング基地を押し付けることで、アレックスの兵力を分散させる意図を現した、チャールズ・ニールセン中将の策略があったといわれる。アレックスを准将に昇進させる苦肉の策の末に。
一方トランター本星では、五百万人にも及ぶ捕虜に対する戦犯裁判が行われていた。
捕虜として残される上級将校を除いては、下級将校・兵士達は連邦本星への強制送還が行われることとなっていた。食料供給上の問題から全員を捕虜として残すわけにはいかないからだ。ただし、戦犯者達は当然として裁判にかけられることになる。主に食料略取を担った部隊の将校達であるが、その中から婦女子に実際に手を出した者達を選り分ける作業が困難を極めた。
同盟側にとってはかつてない惨劇となった食料纂奪と婦女暴行という、これらの罪状にたいし、厳罰をもって処するべしという強い世論が大勢を占めるにいたった。
監察官達は、速やかなる審判を謀るために、捕虜に対して密告恩赦を約束した。婦女暴行の当事者や、それを黙認した将校などを密告すれば、優先的に即時恩赦が与えられるというものである。すべてを監察官の手で処理していては、膨大な時間が掛かり過ぎてそれだけ長期に捕虜を収監しておかねばならず、食料の確保と同時に彼らを監視するために、貴重な戦力となる兵士を割かなければならない。
宇宙港から発進する輸送船。多数の捕虜軍人を乗せて、捕虜受け渡しに指定されたタルシエン要塞へ向かう一番艦である。
「よくぞこれだけの数を捕虜にしてくれたものだな」
「捕虜とはいえ、食料の配給を絶やすわけにはいかないし、いい加減同盟軍人のほうが餓えてしまいますよ」
「まったくだ。監察官泣かせもいいところだ」
「しかし、捕虜交換で戻って来ることになる同盟将兵やその家族等は感謝しているようですがね」
「これまで出ると負けしていた同盟軍が、ランドールの登場以来勝ち戦に持ち込めるようになって、捕虜収容の数が激増して連邦側との捕虜交換を可能にするだけに至った」
「とにかくランドール戦法とも呼ばれる艦隊ドッグファイトに持ち込んで、敵艦艇のエンジン部だけを狙い撃ちして動けなくなったところを、乗員ごと捕獲してしまうんですから。流血を好まないランドールならではのことと、世間では評判ですけど」
「それだけ部下に困難な道を強いているということじゃないかな。高速で移動しながらの正確な射撃を可能にするずば抜けた反射神経が要求されるのだからな」
「しかし彼らはそれをやり遂げています」
アレックスが准将となったことで、配下の者も自動的に昇進することになる。ゴードンが大佐となったのを筆頭に、多くの士官が昇進を果たすこととなった。
そして副官パトリシア・ウィンザー大尉にも少佐への昇進の機会を与えられることになった。だが、艦隊指揮の実務経験の少ない副官には、査問委員会の審査という手順を踏まなければならなかった。
第十三章 了
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第十三章 ハンニバル艦隊 Ⅵ
2021.03.01
第十三章 ハンニバル艦隊
Ⅵ
「前方に敵艦隊!」
「ハンニバル艦隊です」
シャイニング基地を出発したアレックスが、同盟内で簒奪を繰り返すスピルランス艦隊との決戦に及んだのは、三日後のことだった。
アレックスの危惧した通りに、要塞からカラカスへ向けて別働の攻略部隊が出撃した情報もあり、多大な犠牲を覚悟で短期決戦で臨むしかなかった。カラカスを落とされ強固な防衛陣を敷かれてからでは、取り返すことが甚だ困難になってくるからである。
目の前の敵艦隊を打ち砕き、速やかに取って返してカラカス基地の奪還に向かわねばならなかった。
アレックスはこれまで取られたことのない布陣を敷いた。ゴードン率いる第一分艦隊を、円錐形の一辺を形作るような斜線陣を取らせ、それと対をなすもう一辺にはカインズの第二分艦隊を配置した。そしてその底辺にチェスター配下の部隊を並ばせ、さらにその後方に並列する旗艦艦隊という配置だった。
戦闘は二分艦隊の敵中央への突撃で切って落とされた。
ゴードンが配下の艦隊に号令する。
「全艦、我につづけ!」
ハイドライド型高速戦艦改造II式、準旗艦ウィンディーネとドリアードを先頭にして勇猛果敢に敵中央に突入する二分艦隊。アレックスの片腕と称させるだけあって、陣の後ろに控えるなどということはしない、司令官自らが先頭に踊り出て一歩も退かない意気込みを部下達に見せ付けるためである。
今回の会戦は、ゴードンとカインズ両名のライバル意識が激突して、プラス指向となる格好の場所となった。目と鼻の先で繰り広げられる戦闘の中で、ライバルより一隻でも多く撃沈させようと張り切れば、戦果はすぐさま相手に伝わって否応なしに、競争意識を燃やさずにはおれなかったのだ。もっとも、二人の最大の戦力を引き出すためにアレックスがとった布陣ではあったのだが。
ゴードンとカインズの二分隊は作戦通りに敵中央に猛攻をかけてこれを切り崩しにかかった。艦隊リモコンコードを一切使用せず、戦闘機のごとく変貌自在に動きまわって艦隊ドッグファイトを敢行する相手に対し、成す術がなくやられ放題となる敵艦隊中央。
敵中央がたまらず後退をはじめたのを見るや、アレックスはチェスターの本隊に突撃を命じた。無論本隊は敵の左翼と右翼に挟まれ猛攻を受けることになるが、これを旗艦艦隊が両翼から支援する。
ゴードンやカインズに遅れること三か月、中佐に昇進していた旗艦艦隊司令官ディープス・ロイドが、準旗艦シルフィーネから下令する
「全艦砲撃開始!」
それを復唱する副官のバネッサ・コールドマン中尉の表情は誇らしげだった。
この布陣の成否は、中央突破した二分隊が踵をかえして敵背後から攻撃開始するまで、本隊が忍耐強く敵を押し返しつつ持ちこたえるどうかにかかっているといえた。幸いにもチェスター達の艦隊編成は、防御力の高い戦艦を主体としているために、或は復讐戦として奮起する将兵の活躍もあって、一進一退を繰り返しながらも善戦していた。敵艦隊は完全に中央から二つに分断されて連絡を絶たれ、指揮系統を乱されてしまっていた。
その間に敵中央の突破に成功したゴードン達は、アレックスの作戦指示を守って、敗走する敵艦隊には目もくれずに、踵を返して敵背後からの攻撃を開始した。
ここにいたって挟み撃ちとなった敵の左翼と右翼は総崩れとなった。
アレックスは自らの旗艦艦隊をもって敵右翼を攻撃牽制し、残る全軍を持って左翼への集中攻撃を計った。
右翼の二万隻はちりじりになって退却をはじめたが、エクノモス星雲側にいた左翼二万隻は逃げ道を絶たれ、総力を上げて結集した五万隻の艦隊に包囲されてついには投降してきたのである。
開戦から二時間、軍配はアレックス側に挙がった。
歓喜の声が全艦隊を駆け回る。
待ち伏せ、罠による不意打ちといった奇襲でなく、正々堂々と正面からぶつかりあった艦隊戦で勝利したのである。チェスター配下の将兵達にとっては、共和国同盟を震撼したハンニバル艦隊を撃退したその喜びはひとしおであったに違いない。アレックスの演説にあったとおり、もはや彼らは敗残兵ではないことを証明し、胸を張って凱旋して基地に帰るという司令官の言葉通りになったのであるから。旧第五艦隊の残留部隊ではなく、アレックス率いる独立遊撃艦隊を構成する正規の部隊になったのである。
もはや司令官の作戦指揮能力を疑う者は一人もおらず、勇猛・忠実なる武将と主戦力となる二万隻の艦隊が、アレックスの配下に従うことになったのだ。
「しかし、意外と不甲斐なかったですね。あのスティール・メイスンがいながら……」
「いや、どうやらスティールは、我々が来る前に戦線離脱していたようだ」
「戦線離脱ですか?」
「スピルランスと一悶着あって、一足先に帰還したのだろう」
「何があったのでしょう?」
「我々がこちらに出てきてカラカスが無防備になったことで、陽動作戦はすでに成功したと言える。そこでスティールは無益な戦闘を避けて撤退を勧告したのだろう。しかし、スピルランスに徹底抗戦の作戦を伝えられて、自分の意思で艦隊から離れたとみるべきだろう」
「考えられますね」
「それにしてもチェスター配下の艦隊がよく戦ってくれた。そのおかげで勝利することができたのだ。さすがにチェスターだけある、第五艦隊を解隊されて意気消沈しているはずの将兵を、これほどまでにまとめあげるなんて、並みの司令官ではない」
司令官の功績を湛え勝利に酔いしれる将兵達の中にあって、目立たないが敗残兵達をまとめあげ士気の低下を防いで鼓舞したチェスターの影の功績を、アレックスは見逃してはいなかった。
アレックスはチェスターを司令官室に呼び寄せると、まずは配下の武将達の戦いぶりを賞賛したうえで、改めて感謝の意を表明した。
「いえ。私は自分の職務を忠実に果たしただけです」
表情を崩さず、淡々と答えるチェスターであったが、アレックスが自分を評価している以上に、自分のアレックスに対する評価も確固たるものになっていたのだ。
この若者は英雄と称されることを奢ることなく振る舞い、すべての将兵達を公正なる態度で作戦に投入する。適材を適所に配して、自分の子飼いともいうべき将兵だけに手柄を立てさせるようなことはしない。誰しもがアレックスの片腕と信じられているカインズも、元々は遊撃部隊編成当時は余所者であったのが、相棒のゴードンと分け隔てなく活用されてきた成果があって、今の艦隊内における地位についているのである。ディープス・ロイドもその例外なく、旗艦艦隊を任される重要な職務を担っている。分艦隊なら危うくなれば逃げ出すことも可能であるが、司令官の搭乗する旗艦を死守する任務にあっては、踏みとどまって激闘に耐えなければならない。万が一、旗艦が沈んだり艦隊司令官が指揮不能に陥ったときは、これを代行する任務を負っている。
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