銀河戦記/脈動編 第十一章・共同戦線 Ⅳ
2022.08.27

第十一章・共同戦線





 サラマンダー艦橋。
 通信スクリーンパネルに映るケルヒェンシュタイナー。
『ここは我々の星だ。申し開きすることなど毛頭ない』
 その言葉には、引くに引けない感情が溢れていたが、イオリス国とミュー族との連合軍相手では戦力差がありすぎるのも事実。
『と、言いたいが……ここは、一旦引かせて貰おうか。無駄な戦いはしたくないのでね』
 と言うと、通信が途切れた。
 やがてアルビオン軍は撤退を始めた。

 あっけらかんとするサラマンダーのオペレーター達。
「意外とあっさりと引き下がるんですね?」
 通信士のモニカ・ルディーン少尉が呆れたように言う。
「追撃しますか?」
 ジョンソン准尉が尋ねると、
「いや。無駄追いをする必要はない。おそらく増援の艦隊が、こちらに向かっているはずだ。追撃すれば鉢合わせする可能性がある」
 トゥイガー少佐が制止した。
「なるほど、素直に撤退したのは罠に掛けようとの魂胆なのですね」
「可能性を話しただけだ。用心に越したことはないだろう」


「ミュー族艦隊が動き出しました。アルビオンを追撃するようです」
 レーダー手のフローラ・ジャコメッリ少尉。
「なんだと? スヴェトラーナに繋げ!」
 通信機器を操作するモニカだったが、
「だめです。繋がりません」
「通信に出れば止められると思ったか」
「独断専行は、共同戦線では御法度ですよね。いかが致しますか?」
「放っておくわけにはいかないだろう。サラマンダーで後を追う。他の艦はそのまま惑星に留まっておけ」
 サラマンダーは、先の戦闘で舷側砲塔を破壊はされたが、機関部はやられていないので、高速航行を頼りにして追尾するのに最適だし、いざとなれば原子レーザー砲を撃つこともできる。
「輸送艦はいかが致しますか?」
「情勢がまだどうなるか分からない。もうしばらく待機させておいてくれ」
 基地を再建するための岩盤削岩機を始めとする各種工事用機械及び建設資材を積み込んだ輸送船。安全が確保されるまでは、荷下ろしすることはできないので、待機を余儀なくされることとなった。
「サラマンダー舷側砲塔の修理が必要だ。輸送艦から技術者と資材をこちらに至急回してくれ」
「かしこまりました」


 惑星クラスノダールを離れ、舷側砲塔の修理を行いつつ、軽巡洋艦スヴェトラーナの後を追いかけるサラマンダー。
「追尾しているのは、やっこさんも気づいているでしょうね」
 とジョンソン准尉。
「たぶんな。特殊哨戒艇Pー300VXを出してみるか」
「哨戒艇を?」
「そうだ。彼らの戦いぶりを、詳細にモニターするんだ。特に超能力ワープに規則性がないかとかな」
「規則性? 例えば能力者の癖とかですか?」
「そうだ。それが少しでも分かれば、能力ワープで次にどこへ跳ぶかの判断がつく」
「なるほど。人間の行動には癖があることを利用しようと……。って、まさかミュー族と戦うおつもりですか?」
「今は共同戦線とか申し込んできたが、俺たちは彼らの腹のうちは読めない。どうも一癖も二癖もあるみたいだ。こちらは相手の腹の中は読めないからな」
「分かりますよ。三度も問答無用で仕掛けてきた奴らですからね」
「ともかく砲塔の修理を急がせろ!」
 どうやらミュー族との戦闘があるだろうとの予測で動いているトゥイガー少佐だった。



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銀河戦記/脈動編 第十一章・共同戦線 Ⅲ
2022.08.20

第十一章・共同戦線




旗艦ヴァッペン・フォン・ハンブルク(戦列艦)
 司令   =ヴィルマー・ケルヒェンシュタイナー大佐
 艦長   =ランドルフ・ハーゲン上級大尉
 副長   =ゲーアノート・ノメンゼン中尉
 レーダー手=ナターリエ・グレルマン少尉
 通信士  =ヴィルヘルミーネ・ルイーゼ・ショイブレ少尉
戦列艦フリードリヒ・ヴィルヘルム
 ヴェルナー・シュトルツェ少佐


 クラスノダールの奪還に成功したアルビオン軍艦隊。
 惑星周辺に展開して、敵艦隊が引き返してくるかと警戒態勢を執っていた。
「ミュー族艦隊が、奴らを追いかけ戦闘になったもようです」
 副長のノメンゼン中尉が報告する。
 戦闘によって発生するエネルギー波を検知する計測器に反応する数値を読み取ったからだ。
「思い通りだ。互いに潰し合ってくれればいいんだがな」
 ケルヒェンシュタイナーが呟くように言う。
「ミュー族に情報を流した甲斐がありました」
「まあ、元々ミュー族も復讐戦を挑むつもりだったろうからな。情報に乗ったというところだろう」
 敵の両国を鉢合わせさせることに成功して、ほくそ笑む二人だった。
「奴らはいずれ戻ってくるでしょう。それまでに十分な迎撃態勢を敷いておく必要がありますね」
「後方の基地に応援を呼んである。奴らが引き返してくる前に到着するだろう」


「それよりも、基地の状態はどうなっているか?」
「滑走路はもちろんのこと、洞窟内も派手に破壊されている模様です」
「探査艇を降ろしてみるか……」
「たぶん奴らも探査していたでしょうね」
「そうだろうな。簡単にここを放棄したところをみると、利用価値がほとんどないと判断したのだろうしな」
「でも、奴らの探索隊が居残っているかも知れません」
 一応確認のためにと、探査艇が降ろされる。
 しばらく探査した結果、居残り組はいないことを確認した。
 その後、探索艇は艦に戻った。
 撤退した艦隊が戻ってくるかもしれないからである。


「本国より入電しています。暗号通信、只今解読しています」
「分かった。暗号解析室に行く。それまでここを頼む」
「了解」
 艦橋を離れて暗号解析室へと向かうケルヒェンシュタイナー。
「どうだ? 解読できたか?」
 暗号解析室に入ってくるなり尋ねるケルヒェンシュタイナー。
 エニグマ暗号解析機を操作していた通信士が、解読電文が記された紙をを手渡す。
 受け取って、黙読するケルヒェンシュタイナー。
「ふむ。やはり、そうきたか……」
 読み終えて、傍らの裁断機に投げ入れて退出し、艦橋へと戻ってゆく。

「どういう連絡でしたか?」
 ノメンゼン中尉が尋ねる。
「この惑星は、ミュー族及び天の川人に対しての防衛拠点となりうる。是が非でも死守せよとの命令だ」
「当然の反応ですね」
「応援の艦隊が到着するのは、二百五十六時間後とのことだ。それまで何とか守り抜くぞ」
「ミュー族と戦闘して艦隊数を減らしてくれていればいいのですけど」

 約三十時間後。
 レーダー手のナターリエ・グレルマン少尉が気づく。
「前方に感あり! 艦影多数!」
「なんだと! 奴らが、もう戻ってきたのか?」
 信じられないという表情をするケルヒェンシュタイナーだった。
「早すぎます。ミュー族との戦闘があったのなら、こんなに早く戻れるはずがありません」
「とにかく、戦闘配備だ!」
 慌てて艦内を掛け回る乗員達。

「敵艦隊内に、サラマンダーを確認!」
「何だと? 生き残っていたのか」
「軽巡洋艦スヴェトラーナも……確認しました」
「馬鹿な! 奴ら共闘するつもりなのか?」
 驚愕するケルヒェンシュタイナー。
「サラマンダーから映像通信が入っています」
「何だと?」
 通信士ヴィルヘルミーネ・ショイブレ少尉の言葉に、戸惑いを見せつつも、
「つ、繋いでくれ」
 通信回線を開く様に指示する。
 通信パネルに姿を現わすトゥイガー少佐は、静かに言葉を申し送った。
『さてと、申し開きをお聞きいたしましょうかな』
 その質問に間髪入れず答えるケルヒェンシュタイナー。
「この惑星は、元々我らが先に入植したものだ。それをミュー族に横取りされ、さらにお前らに奪われた。取り返して当然ではないか」
『なるほど……』

 トゥイガー達の首都星イオリスの先住民は、どうやらアルビオン共和国の人々であろうし、タランチュラ星雲にまで踏破していたことを鑑みるに、彼の主張の道理は通っている。
 マゼラン銀河を時計回りと反時計回りと、銀河人とミュー族とがそれぞれ移民開拓競争を続けて、この地で出くわした。
 つまりこの惑星は、両国にとっては重要拠点となる地でもあるから、例え居住に適さなくても、是が非でも確保したいということだ。



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銀河戦記/脈動編 第十一章・共同戦線 Ⅱ
2022.08.13

第十一章・共同戦線




軽巡洋艦スヴェトラーナ
 精神感応(テレパス)=族長ドミトリー・シェコチヒン
 念動力(サイコキネシス)=ローベルト・ポルーニン
 遠隔念動力(テレキネシス)=チムール・オサトチフ
 瞬間移動(テレポート)=エヴゲニー・ドラガノフ
 精神治癒(サイコセラピー)=アンナ・ネムツォヴァ

高速戦艦サラマンダー
 指揮官 =ウォーレス・トゥイガー少佐
 副官  =ジェレミー・ジョンソン准尉
 航海長  =ラインホルト・シュレッター中尉
 言語学者=クリスティン・ラザフォード
 ミュー族=エカテリーナ・メニシコヴァ


 数時間後、全参謀が揃って会議が始められた。
 トゥイガー少佐が開口一番、事情を知らない者にとっては突拍子もない発言をする。
「ここにおられるのが、ミュータント族の長であるドミトリー・シェコチヒンだ。そのなんだ……色々とあったが、これからミュー族と共闘して、アルビオン軍を蹴散らしてクラスノダールを取り戻す」
「共闘ですって?」
 これまで三度も戦ってきた相手と共闘するなどと、思いもよらない事態であった。
「彼は、テレパスで君達が何を感じて何を思っているかは、手に取るように分かるらしい。ゆえに嘘偽りは一切通じない」
 旗艦艦橋勤務の者とダグラス・ニックス大尉以外は、信じられないという表情をしていた。
「私を信じて、彼のことも信じて欲しい」
 得体のしれない連中はともかくも、信頼する上官から信じてくれと言われれば、信じるしかないだろう。
「分かりました。少佐殿を信じます、なのでそちらの方も信じることにします」
 一同、頷いて反対する者はいなかった。
 少佐に絶大なる信頼を抱いているようだった。
「ありがとう」

 賛同も得られたことで、シェコチヒンを交えての作戦会議が行われた。
 テレパスのシェコチヒンにしてみれば、以心伝心で作戦を伝えることができるのであるが、一般人のサラマンダーの人々には声を出し、図面を指し示しながらでないと意思が通らない。


 会議を終えて、軽巡洋艦に戻ったシェコチヒン。
「お疲れさまでした」
『ああ、疲れたな。アンナ、頼むよ。いや、ドラガノフを先に癒してくれ』
「分かりました」
 精神治癒能力のあるアンナ・ネムツォヴァが、椅子に座ったドラガノフに背後から近寄って、彼の耳元から目隠しするように両手で覆う。
「目を閉じてください」
「分かった」
 ドラガノフが言われた通りにすると、静かに瞑想するアンナ。
 彼女の精神治癒は、三日三晩不眠不休で働いて精神クタクタに疲れた脳を、すっきり爽やか気分にさせることができる。但し、肉体的疲労は癒すことはできない。

 治療が終わって、一同に作戦を伝えるシェコチヒン。
 テレパスの彼にとっては、一同に集まって会議などする必要はない。
 能力者のいない随伴艦の乗員達には、精神波増幅装置によって伝えることができる。

 数時間後、併進する軽巡洋艦スヴェトラーナと高速戦艦サラマンダー。
 それを取り囲むように、両国の艦隊が展開して突き進む。

 サラマンダー艦橋。
「まさか、戦い合った国家と共闘することになるとは、思いもしませんでしたよ」
 副官ジョンソン准尉が、感慨深げに言った。
「かと思うと、紳士的な国家と思っていた奴が、簡単に寝返ったからな」
「通常人には、相手の腹の中までは探ることはできませんからね」
「ともかく、今回の共闘作戦の指揮官は自分が執る。彼らはサボート役に回ることになっている」
「しかし、このサラマンダーはさんざんやられて、原子レーザー砲しか使えませんよ」
「まあ、やりようはいくらでもあるさ」
 アルビオン軍艦隊は、側方に砲を並べた戦列艦で射程も短い。
 原子レーザー砲で遠距離射撃だけでも、艦隊を粉砕できるだろう。
「まもなくクラスノダールに到着します」
 航海長ラインホルト・シュレッター中尉が報告する。
「戦闘配備せよ! 族長にも連絡を入れてくれ」
 トゥイガー少佐が下令すると、ジョンソン准尉が復唱する。
「全艦、戦闘配備! ミュー族に打電」
 オペレーターが全艦に打電する。
「総員配置に着け!」

 一方のミュー族の方も戦闘態勢に入っていた。



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銀河戦記/脈動編 第十一章・共同戦線 Ⅰ
2022.08.06

第十一章・共同戦線




軽巡洋艦スヴェトラーナ
 精神感応(テレパス)=族長ドミトリー・シェコチヒン
 念動力(サイコキネシス)=ローベルト・ポルーニン
 遠隔念動力(テレキネシス)=チムール・オサトチフ
 瞬間移動(テレポート)=エヴゲニー・ドラガノフ

高速戦艦サラマンダー
 指揮官 =ウォーレス・トゥイガー少佐
 言語学者=クリスティン・ラザフォード¥
 ミュー族=エカテリーナ・メニシコヴァ

 貴賓室に移動して懇談を続けるシェコチヒンとトゥイガー少佐。
『我々は、一万年の時を越えて繋がっている家族であるな』
 と感慨深げに言葉を発するシェコチヒン。
「その通りです」
 トゥイガー少佐も相槌を打つ。
『あなた方の軍の最高司令官が、我々の開拓移民時の総裁だったとはね。意外というべきか、ちょっとした歴史の悪戯だ』


 インターフォンに秘書官から連絡が入った。
『エカテリーナ・メニシコヴァが来ました』
 トゥイガー少佐が応答する。
「通してくれ」
 扉が開いて、車椅子に乗ったエカテリーナ・メニシコヴァとクリスティン・ラザフォードが入室してくる。
『おお、カチェーシャじゃないか。無事だったのだな』
「はい。この艦の人々に助けて頂きました」
『捕虜ではないようだな』
「客人として遇して頂いています」
『そうか、良かったな』
「この艦の人々は悪い人ではありません」
『分かっている』


『ともかくアルビオン共和国が信用ならぬことは、身をもって実感していただけだろう』
「一万年隔絶されている間に先祖返りして文化を失って、元々は同じ国家だったのに、両国は敵対国家となってしまったようですね」

 移民したての頃は、まだみんな仲良く開拓に勤しんでいた。ところが開拓地を広げるうちに同一民族だけが集まったコロニーが出来始めた。だが如何せん人口が極端に少ないので、人口殖産のために人工授精からクローンまで、ありとあらゆる方法で人口を増やそうと努力したコロニーがあった。それが祟って障碍者を多数出して、やがて遺伝子まで異常をきたすようになって、常態的に障碍者が出るようになった。
 障碍者は迫害され、ますます隔絶感が広まっていき、反乱を起こして唯一の開拓移民船を略奪して、宇宙へと飛び出した。
 遺伝子異常の者同士の交配が続いている事が、稀に超能力を持つ者を生む出す要素となった。

『さてここで提案だ』
「提案ですか?」
『アルビオンは我々の宿敵、そして君達も奴らのやりようを知ったはずだ。ここは共闘して、クラスノダールの奪還をしようじゃないか』
「共闘ですか? それで奪還なった時の惑星の処遇はいかに?」
『知っての通り、クラスノダールは地表には居住できない。地下都市を築きたくても我々では技術力が足りない。せいぜい洞窟内に基地を建設する程度だ。君達に全権を与えても良い』
「それでよろしいのですか? 私達は、どちらかと言えば侵略者ですよ」
『私はテレパスだ、君たちの国家や民族の素性は潜在意識まで含めて読み取った。アルビオンとどちらと共闘を結ぶかと言えば、答えは一つだ』
「なるほど、信じていただけるというわけですか」
『うむ。アルビオンより遥かにな』
「分かりました。我々も、あなた方を信じましょう」

 数時間後、本隊と合流したサラマンダー。
「申し訳ありませんでした」
 クラスノダール駐留艦隊を指揮していたダグラス・ニックス大尉は平謝りする。
「構わんさ。命令を守り、艦隊に大した損傷も受けていないしな」
「再度奪還すると聞きましたが?」
「ああ、参謀達を集めて会議を行う。手配してくれ」
「かしこまりました」

 数時間後、会議室に集まった参謀達。
 シェコチヒンを交えて、事の次第を参謀達に説明するトゥイガー少佐。
「その方が、テレパスというのは本当ですか?」
 信じ難いといった表情で尋ねる一人の参謀。
「ためしてみるか? そうだな……、君の秘密を聞いてみるがよい。例えばお尻にいまだに青あざがあるとかなんとかな」
「子供じゃあるまいし、ありませんよ」
 憤慨する質問者。
「例えばだよ」
 その受け答えに感ずることがあったのか、
『いいだろう。君の秘密は、臍の上あたりに一本毛が生えている、だろう?』
 と彼の秘密を暴露してみせるシェコチヒンだった。
「あ、当たっている……」
 驚く質問者だったが、もっと深読みされれば誰にも知られたくない本当の秘密も知られるという事を心配するのだった。



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