銀河戦記/鳴動編 第一部 第十九章 シャイニング基地攻防戦 Ⅵ
2021.04.15

第十九章 シャイニング基地攻防戦




 本星に戻ったアレックスを待っていたのは軍法会議であった。
 審議官の居並ぶ中、一人被告席にたたずむアレックス。
 議長が厳かに開廷を言い渡して、審議がはじまった。
「君がなぜ召喚を受けたか、わかるかね」
「基地防衛の任務を果たさずに艦隊を撤退させ、一時的にしろ敵の占領を許したことでしょうか」
「その通り」
「しかし、最終的には任務を遂行したことになるがどうだろう」
 審議官の一人が好意的な意見を述べた。
「いや。基地を防衛したとかしないとかが問題ではないのだ。命令を無視して、基地防衛の任務を放棄したことにある」
「そうだ。軍紀を守らなくては軍の規律が保てない。ましてや艦隊の司令官がそれを犯すことは重罪の何物でもない」
「その通りだ。よって当法廷は被告アレックス・ランドール提督を、シャイニング基地防衛に掛かる命令違反の罪を犯した者として裁くことを決定する。なお当法廷は軍法会議である、その審議を被告が立ち会うことを認めない。よって被告は別室にて審議裁定の結果が出るまで待機を命ずる」
 予想通りというか、アレックスに好意的な審議官は数人程度で、ほとんどがニールセンの息の掛かった者で、断罪処分の肯定的であった。
 憲兵がアレックスの両脇に立って退廷を促した。
 静かに立ち上がって、別室に移動するために退廷するアレックス。
 その際、上官として参考人出席しているトライトン少将と目が合った。
 しかし参考人に過ぎないトライトンには、アレックスに手を差し伸べることはできなかった。
 済まないと言う表情で、静かに目を閉じるトライトンだった。

 アレックスの退廷を待って、審議が開始された。
「さて、ランドール提督の処遇であるが……」
「ちょっと待ってください」
 先ほどの好意的な意見を述べた審議官の一人が、手を挙げた。
「もう一度、ランドール提督の処遇について再考慮していただけませんか?」
「どういうことだ?」
「ランドール提督は、総勢五個艦隊を撤退及び壊滅、そして略取して敵の司令長官を捕虜にすることに成功し、最終的にはシャイニング基地の防衛を果たしたのは明確な事実です」
「なぜだ? 奴は命令違反を犯したのだぞ。それだけで十分じゃないか」
「あなた方は、どうしてそうもランドール提督を処分なさりたいのですか? バーナード星系連邦の侵略をことごとく粉砕し、共和国同盟に勝利をもたらした国民的英雄をです」
 その審議官の名前は、ケビン・クライスター評議員である。
 軍法会議には、軍部からと評議員からと半数ずつが列席することが決められている。軍部の独断による断罪を防ぐためである。
 評議会議員からの参列者であるためか、トライトンやアレックスに好意的であり、ミッドウェイ宙域会戦の功績を高く評価して、アレックスの三階級特進を強く働きかけたのも彼であった。
 その背景には評議員が、国民の選挙によって選ばれるために、世論などの国民の動向に逸早く反応するからでもある。早い話が次回の選挙に有利になるように、国民的英雄というアレックスを祭り上げようとしているのである。ゆえにアレックスを処断するなど到底賛同できないことである。
「軍には軍紀というものがあるのだ。上官の命令に服従することは、その基本中の基本じゃないか。会社においても上司から命令されて仕事を進めることがあるだろう。命令を無視されては、軍や会社が成り立たなくなるというのは、いくら評議員のあなたでも判らないはずがないと思うがね」
「だからといって、『死んでこい』と言われて、喜んで死んでいく者がいるだろうか。不条理な命令には抗議する権利があるはずだ」


 そこへ青ざめた官僚が飛び込んでくる。
「大変です。第十七艦隊が隊員全員の意志でシャイニング基地からの撤収を開始しました」
「なんだと!」
「馬鹿なことをぬかすな。苦労してシャイニング基地を奪還したんじゃないか。それを放棄するなんてことするか?」
 その言葉にクライスター議員が反問する。
「おや、シャイニング基地を奪還するのに、提督がどれだけ苦労したかをご理解頂いているようですな。それでも処断なさるとおっしゃる」
「問題が違うじゃないか」
「どう違うのですか」
 顔を突き合せるように言い合う審議官達。
「みなさん。内輪もめなどしている状況ではありません。これをご覧ください。特別報道番組のビデオ映像です」
 事務官が、操作して会議場正面スクリーンにTV報道番組を映しだした。
 マルチビジョン方式で各TV放送局が音声と映像を流している。
『本日。第十七艦隊司令官アレックス・ランドール准将が軍法会議にかけられていることが判明いたしました。シャイニング基地防衛の任において一時的にせよ、命令を無視してこれを放棄撤退したことへの責任が追求されています。なお、これに抗議して第十七艦隊の全員が辞表を明示して、全艦隊が本国に向けて帰還をはじめました。これによって第十七艦隊駐屯地であるシャイニング基地、カラカス基地は完全に無防備となっております。両基地はバーナード星系連邦の侵略を防ぐ要衝であり、最前線にある同盟の最重要基地であるために、今まさに連邦軍の驚異にさらされていることになります……』
 ビデオ映像にはシャイニング基地を撤収する第十七艦隊が映し出されていた。各TV放送局一様に、シャイニング基地を撤収していく様を放映している。背景のシャイニング基地が次第に遠のいていく。
「馬鹿な!」
「第十七艦隊の連中は、一体何を考えているんだ」
「こんなTV放送をすれば、連邦に両基地が無防備であることをさらけ出して、侵略の驚異にさらされるということが、わからんのか」
 各TV放送局の番組は続いていた。
『第十七艦隊の隊員全員の総意として、『提督がシャイニング基地を放棄撤退したことへの責任が追求されているのであるならば、今ここで我々があらためてシャイニング基地を放棄撤退したところで、それを責任追求するにはあたらないであろう』というコメントが艦隊情報部より寄せられています』
『ランドール提督は、シャイニング基地を一時放棄してクリーグ基地に向かい、完全包囲されていた第八艦隊を救援して、敵艦隊を撤退に追い込みました。その後で、再びシャイニング基地に戻って三個艦隊を策略してこれを撃破し、基地を無事に取り戻したのです』
『第十七艦隊及び第八艦隊の隊員達の生命、そして共和国同盟の全国民の窮地を救ったランドール提督は、シャイニング基地を一時放棄して占領を許したその責任だけを問われ、今まさに糾弾されようとしています』
『今回の件もそうですが、軍部がランドール提督を煙たがっていたのは、周知の事実であります。そもそもが、敵三個艦隊が迫っているというに、一切の援護艦隊を向かわせるわけでもなく、ランドール提督の第十七艦隊のみに防衛の責任を押し付けたのです。これはどう考えてもランドール提督を見殺しにしようしたとしか思えません。しかし期待に反してランドール提督は、無事シャイニング基地を奪還してしまった。そこで軍部は、シャイニング基地を一時放棄したことを軍規違反として処罰しようとしているのです』

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2021.04.15 11:54 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
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