銀河戦記/鳴動編 第一部 第十六章 サラマンダー新艦長誕生 Ⅱ
2021.03.18

第十六章 サラマンダー新艦長誕生




 司令室を退室して、すぐ近くの主計科主任室に集まった三人。
「はい。これが女性佐官の制服よ」
 といって主計科主任であるレイチェルから制服を支給されるパトリシア。
「サイズは合っていると思うけど、一応着てみてくれる」
「はい」
 着ている士官用の制服を脱いで、下着になるパトリシア。
「とにかく第十七艦隊に女性佐官はあたし達三人だけだし、もちろん既成服なんかあるわけないから、特注品なのよ」
 といってスリップ姿になったパトリシアに制服のスカートを渡すレイチェル。
「そうなんですか。じゃあ、この制服は……」
 それを受け取って履きながら質問する。
「ふふふ。アレックスが准将になった時から、この時のために前もって準備しておいたの。あなたなら必ず昇進するだろうと信じていたから」
「ありがとうございます」
「うん。スカートはぴったり合っているわね」
「はい」
「次ぎは上着ね」
 といって今度はジェシカがパトリシアに上着を着せてやった。
「最後はこれを付けるのよ」
 といって持ち出したのは、少佐の階級肩章であった。
 レイチェルが器用に針と糸でしっかりと肩に縫い付けていく。そして縫い終わって糸の始末を施し歯で切った。
 そして、戦術士官を示す胸に差している徽章[職能胸章}を、尉官の銀色から佐官用の金色のものに取り替えた。
「いいわ。さあ、鏡の前に立ってみて」
 制服を着終えて、言われた通りに鏡の前に立つパトリシア。
 真新しい佐官の制服、肩に輝く少佐の階級章。どれもまばゆいばかりに輝いて見えた。
「素敵よ、パトリシア。良く似合っているわ」
「ほんと、どこから見ても立派な少佐殿よ」
「ありがとうございます……」

「さて、パトリシア。少佐になって最初のお仕事よ」
「そうよ。作戦室に全幕僚を招集する役目」
「はい」
 早速、主計科主任室に備わっている端末を操作して、全幕僚に連絡を入れるパトリシア。最初に呼び出したのは、アレックスの片腕であるゴードン・オニール大佐であった。
「おう。パトリシア、似合っているじゃないか、その制服」
 画面に現れると同時にパトリシアの制服姿を誉めるゴードン。
「あ、ありがとうございます。提督からの指令です、一五○○時に作戦室に集合です」
「わかった。じゃあ、後でまた」
 画面からゴードンが消えて、緊張したため息をもらすパトリシア。
 さらに次々と連絡を取り続けるパトリシアであったが、親しい間柄にある幕僚のほとんどが、その佐官の制服を誉めちぎった。
 すべての幕僚に連絡を取り終えて、緊張した肩の荷を降ろして、ほっとため息をもらすパトリシア。
「ごくろうさま」
 といってジェシカは、ねぎらいの言葉を忘れなかった。
 それから集合の時間までの間、三人は第十七艦隊の今後について熱く語り合い意見を交換するのであった。
 情報参謀のレイチェル、航空参謀のジェシカ、そしておそらく作戦参謀に取り立てられるだろうパトリシア。アレックスを作戦面でバックアップする女性佐官トリオの誕生であった。

「さあ、時間よ。行きましょう」
 パトリシアは少佐に昇進したとはいえ、新たなる任務を与えられていない以上、これまで通りアレックスの副官としての職務を引き続き果たさねばならない。作戦室の受け付けに座り次々と入室する幕僚達の名簿をとり案内役を務めた。
 幕僚全員が集まった頃合を計ったようにアレックスがやってくる。
「全員揃っています」
「ごくろうさま」
 いつものようにアレックスの後ろの副官席に腰を降ろすパトリシア。
「早速だが、新しい幕僚を紹介しよう。ウィンザー少佐」
「はい」
 名前を呼ばれて立ち上がるパトリシア。
「知っての通り新任の幕僚となった。パトリシア・ウィンザー少佐だ。みんなよろしく頼む」
「よろしくお願いします」
 といって深くお辞儀をするパトリシア。
「よろしく」
「頑張れよ」
 という声がかかった。
「ウィンザー少佐には、私の席の隣に座ってもらうことにする」
 それに対して一同が耳を疑った。
 艦隊司令官の隣の席といえば、副司令官と艦隊参謀長というのが一般的常識であったからだ。
 すでに右隣には副司令官のオーギュスト・チェスター大佐が着席していたが、現在艦隊参謀長の席は空位であり、これまで着席する者はいなかった。資格のあるゴードン大佐にしても首席中佐のカインズにしても、アレックスは参謀長として旗艦に残すよりもそれぞれ一万五千隻を有する部隊を直接指揮統制する分艦隊司令官に任命していたからだ。もう一人の大佐であるルーミス・コールは艦政本部長職にすでについていた。
 では艦隊参謀長役をどうしていたかというと、定時的に開かれる作戦会議がそれを代行していたのである。与えられた任務に対してアレックスが作戦会議を招集する場合、例え一兵卒でも意見書・作戦立案書を提出して、会議に参加できるようオープンな環境を与えていた。
 これまではそれがうまく機能して艦隊参謀長の必要性がなかった。正規の一個艦隊として編成され、より多くの艦艇及び将兵で膨れあがった現在、もはやそれをまとめる艦隊参謀長が必要になってきたのである。
 いきなり隣の席を指示されて戸惑うパトリシア。
「どうしたウィンザー少佐。座り給え」
「は、はい」
 おどおどしながらもアレックスの左隣に着席するパトリシア。
「さて、私がウィンザー少佐に隣の席を指示して、皆驚いているようだが……。察しのとおり、私は彼女を艦隊参謀長につけることにした」

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2021.03.18 08:09 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
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