銀河戦記/鳴動編 第一部 第十五章 収容所星攻略 V
2021.03.15

第十五章 収容所星攻略




 紆余曲折はあるものの、艦載機同士の空中戦は、経験豊富なハリソン編隊側に有利だった。勝敗は短時間で決した。もはや敵艦隊に航空兵力はなくなり、悠々と艦載機による敵戦艦への攻撃を敢行することができるというわけだ。
「カーグ編隊に、敵戦艦に集中攻撃を指示。ハリソン編隊を帰還させて弾薬を補給する」
 艦載機を失って存在価値のなくなった攻撃空母を攻略するのは無意味。強力な火力を有した戦艦から叩くのはセオリーである。
 もちろん敵戦艦とて黙って見ているはずがなかった。
「敵戦艦がこちらに向かってきます」
「艦隊戦に持ち込むつもりね。圧倒的な火力差がある分、こちらの不利となります」
「でもこちらの方が足が速いですよ」
「そうね。艦隊を二編成に分けます。セラフィムのオスカー大尉に連絡して」
 通信が交わされて、スクリーンに副指揮官のジャネット・オスカー大尉が出た。
「オスカーです」
「AからF中隊を指揮して、取り舵全速前進しつつ、巡航艦及び駆逐艦で側面攻撃、敵艦隊をかわしてその後方に回ってください」
「了解しました。取り舵全速前進で左側面から攻撃、敵艦隊の後背に回ります」
 通信が終わりオスカー大尉率いる編成部隊が取り舵で離れていく。
「こちらは残る部隊を率いて右側面から攻撃を行います。全艦面舵、全速前進」
 両編隊が敵艦隊を取り囲むようにして、両側面からの攻撃を開始するために移動をはじめた。速力差があるゆえの包囲網である。
「本隊の全艦に伝達。艤装兵力を敵艦左舷に集中」
 舷側に艤装された兵器は、艦首粒子ビームに比べれば威力は一桁も落ちる。敵艦を撃沈するには心もとなく、ビームシールドを貫けない場合が多い。が、敵艦に捕捉されることなく高速移動しながら攻撃するにはこれしか方法がない。それでも砲数が多いのを頼りに数撃ちゃ当たるだし、長距離誘導ミサイルを迎撃するくらいはできる。
 本来大昔の地球古代史大航海時代の戦艦決戦では、艦砲射撃をより有効利用するために敵艦隊に対して、舷側を互いに向かい合わせて撃ち合ったものだった。
 しかし最新の主力兵器は粒子ビーム砲であり、粒子加速器を直列に並べて威力を増大させるために、より長大な空間が必要となって艦首にしか搭載できない。当然として戦い方も舷側併進から、正面に向き合ってのビーム攻撃戦になっている。

 セイレーンの艦載機発着ドッグ。
 ハリソンの機体がすべるように着艦してくる。
「弾薬を積み込んだらすぐに出るぞ。急いでやってくれ」
 甲板作業員に指示を出しつつ、パイロットの控え室に入るハリソン。自動販売機にIDカードを挿し入れて、飲み物を購入している。
「少佐殿、そんなに急ぐ必要はないのではないですか? 戦況は圧倒的に有利です」
 パイロット控え室に詰めている管制スタッフの一人が話しかけてきた。
「馬鹿野郎! 油断大敵火の用心というじゃないか」
「なんですか……それ?」
「何にせよ。ジミーには負けたくないからな」
「結局はそれなんですね」
「当たり前だ!」
 ガラス張りの部屋の向こう側では、着艦した機体への再装填が大急ぎで行われていた。

「帰還した機体数は?」
「各空母からの報告をまとめている最中ですが、推定3200機かと思われます。相当やられましたね」
「800機もやられたのか? これじゃあ、勝っても素直に喜べないな」
「ええ……そうですね」
 例え今日の戦には生き残っても、明日は我が身。はっきり言って戦闘機乗りは消耗品である。自ら志願して戦闘機乗りになった者達の宿命とはいえ、自分の能力と悪運が頼りの厳しい世界である。
「ジミーの方はどうなんだ」
「あちらは、邪魔な艦載機はいないし木偶の坊の戦艦相手ですからね。上手く立ち回ってかなりの戦艦を沈めたみたいです。とはいっても装甲の厚い戦艦を撃沈するのは簡単じゃないですけど」
「ちっ。損な役回りを当ててしまったな」
 舌打ちし、悔しそうな表情をしていた。
 その理由は、艦載機一機撃ち落すのと、戦艦一隻撃沈するのとでは、功績点に大きな違いがあるからだ。
「でも、味方の被害を出さないためにも、敵艦載機を撃滅するのも重要ですから」
「判ってるさ」
「それに実質的な功績点以外に、指揮官が与える実戦評価点があるじゃないですか。昇進には両方の点を加算するんですよね」
「あのなあ……何も判っちゃいないな。確かに昇進に際しては、功績点と評価点を加算して考慮されるさ。しかし昇進速度や恩給の算出には功績点の方が分がいいんだよ」
「そうなんですか?」
「功績点は、戦術コンピューターが、敵艦載機や戦艦を撃ち落すたびに自動的に累積計算して、軍の中枢コンピューターにリアルタイムで入力されるんだ。功績点が規定点に達したと同時に昇進候補対象となる。これが曲者でね。カインズ中佐が大佐になり損ねてしまったのも、オニール中佐が一足先に規定点に達して昇進候補に入ったためで、後は大佐枠がなくなって頭ハネを食らったのさ」
「へえ……知りませんでした」
「例え撃墜され戦死してもデータは残るから、遺族恩給なども最期の功績点を元に計算されるというわけさ」
「少佐がやっきになっておられる気持ちが判りましたよ」
「そうか……なら、急いで補給の指示を出してくれ」
「了解」
 と返答したもののすぐに言い返してきた。
「ああ……でも今回の指揮はパトリシアですよね」
「そうだよ。アレックスなら作戦の後で文句の一つも言ってやりたいところだが、パトリシアじゃあそれもできん! 可愛い後輩だからな」
「ですよね。彼女も一所懸命に頑張っているんですから」
「とにかく急いでくれよ」
「へいへい」

 第十一攻撃空母部隊は、巡航艦や駆逐艦に高速軽空母という艦艇で組織されていた。足の遅い戦艦ではとても追いつけなかった。艦載機を全機発進させてより軽くなった空母は、高速移動で敵艦隊の後背に回って、艦載機と一戦して弾薬の乏しくなったハリソン編隊を回収して燃料と弾薬の補給、完了と同時にすぐさま再出撃させて、部隊をさらに敵艦隊を取り巻くようにして高速移動させながら、常に敵艦隊の射程に入らないように行動していた。
 艦載機は全弾を撃ちつくしては、空母に戻って補給、すぐさま再出撃というパターンを繰り返していた。攻撃、回収・補給、再出撃という艦載機による執拗なサイクル攻撃は、確実に敵勢力を削り取っていった。艦載機の援護のない艦隊ほど悲惨な状態はなかった。いかに強大な火力を有していても、小さな目標である艦載機を撃ち落すことは甚だ困難である。

 やがて敵艦隊は勝ち目がないと判断したのか撤退をはじめた。
「敵艦隊が撤退をはじめました!」
 オペレーター達の表情から緊張感が解きほぐされていく。
「追撃しますか?」
 リーナが問いただす。
「いいえ。我々の任務は捕虜の救出です。敵艦隊は放っておきましょう」
「判りました。早速惑星上陸にかかりましょう」
 パトリシア達の奮戦振りをカインズのそばで観察していたパティーが、囁くように言った。
「やりましたね。これで大尉も少佐に昇進ですよ」
「まだ任務は終わっていないよ。収容所の捕虜を救出する任が残っている。もっとも捕虜が残されていそうにないがね」
「そんな感じですね」

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2021.03.15 08:10 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
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