銀河戦記/鳴動編 第一部 第十六章 サラマンダー新艦長誕生 Ⅰ
2021.03.17

第十六章 サラマンダー新艦長誕生




 パトリシアは、第十一攻撃空母部隊と共に基地に無事に戻り、その足でアレックスのところに出頭して報告した。
「パトリシア、報告を聞こうか」
「はい。すでにタシミールの捕虜収容所は閉鎖されており、収監されていた捕虜もいずこかに移送されたものと思われます。おそらくは、最寄りのカラカス基地を奪取されて、防衛は困難とみて撤退したのでしょう。残念ながら捕虜救出作戦は、無駄に終わりました」
「そうか……」
「くしくも別働隊と思われる敵部隊の接近を察知し、これと戦闘状態に突入しました。幸いにも敵よりも早くその動静をキャッチできたために、先制攻撃に成功。味方の損害を最小限に食い止めることができました」
「うむ。ご苦労さまでした。正式な報告書をまとめて提出したまえ。今日のところは下がってよし」
「はい。失礼させていただきます」
 敬礼して退室するパトリシア。

 数日後アレックスは、配下の佐官クラスを集めてパトリシアの佐官昇進について協議を諮った。
 提出されたパトリシアの航海日誌とカインズの指導調査書とをもとに、佐官昇進の是非が検討される。
「カインズ中佐はどう思いますか。一緒に同行して得た感じは」
「はい。当初の作戦目的である捕虜救出は空振りに終わりましたが、索敵や揚陸作戦の指令には何らミスは見られず、敵艦隊との戦闘にも適時適確な指示を下して一応の及第点というところでしょうか。くしくも奇襲される状態にあったにも関わらず、万全の体制でこれを回避し、逆に先手を取って攻撃を開始した手腕は見事です」
「なるほど」
「索敵・揚陸・哨戒・敵艦隊との戦闘・地上捜索そして撤収と、それぞれの作戦及び指揮統制を採点すれば、カインズ中佐の採点通りすべて及第点を取っていますね」
 ゴードンが賞賛の言葉を述べた。
「捕虜救出作戦のことだけに留まらず、慎重に敵艦隊を捜索し続けた行為は見習うべきものがあります」
「ニールセンが一枚噛んでいることで、情報が意図的に敵艦隊に漏洩された可能性を十分に考慮した結果でしょうね。慎重すぎて悪いということはないでしょう。結果として敵艦隊の奇襲を回避できた」
 一通り各佐官達の意見討論が済んだところで、アレックスは決議を持ち出した。
「それでは、そろそろ結論を出すことにしよう。ウィンザー大尉の佐官昇進に反対の者は?」
 誰も意義申し立てするものはいなかった。
「反対者がいないようなので、パトリシア・ウィンザー大尉の佐官昇進を、艦隊推薦として査問委員会に報告する」

 数日後、パトリシアはアレックスに呼ばれて司令室に赴いた。
 主計科主任を兼務するレイチェルの他に、先輩であるジェシカも呼ばれていた。
「早速だが、佐官昇進審議委員会における決定事項を伝える」
「はい」
 パトリシアは姿勢を正して緊張して待った。
「パトリシア・ウィンザー大尉。本日付けをもって貴官を少佐として任官する」
 思わず手を合わせるような格好で口を押さえて息を飲み込むパトリシア。
「ありがとうございます」
「おめでとう。パトリシア」
 ジェシカが手を差し伸べて握手を促した。その手を取って握手するパトリシアだったが、感極まった彼女はそのままジェシカに抱きついて泣き出したのであった。
「昇進できるとは思わなかった……」
 戦術理論など教え込み期待に答えた頼もしい後輩の昇進に、目頭を熱くするジェシカ。
 やがて涙を拭きなおし、大きな深呼吸をして精神を整えはじめたパトリシア。
「少しは落ち着いたかい。さあ、任官状と階級章だ。受け取りなさい」
 といってパトリシアの前に差し出した。
「はい」
 うやうやしくそれを押し抱くようにしてうやうやしく受け取るパトリシア。
「ジェシカの記録を塗り替えて、史上最年少の女性佐官になった気分はどうだ」
「史上最年少というのはともかく。佐官になれて、感慨ひとしおです」
「情報参謀のレイチェル、航空参謀のジェシカに続いて、いずれ何らかの参謀についてもらうことになる。が、ともかく……これで三人目の女性佐官が誕生したわけだが、三人協力してこれからも艦隊のために尽力してくれ」
「はい」
「レイチェル、彼女に新しい制服を支給してくれ給え」
「かしこまりました」
「パトリシア。一五○○時に、作戦室に全幕僚を招集してくれ。改めて君を紹介する」
「は、はい」
「話しは以上だ。下がってよし」
「はい」
 三人はほとんど同時に答えた。

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
2021.03.17 07:26 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十五章・収容所星攻略 Ⅵ
2021.03.16

第十五章 収容所星攻略




「帰還した機体数は?」
「各空母からの報告をまとめている最中ですが、推定3200機かと思われます。相当やられましたね」
「800機もやられたのか? これじゃあ、勝っても素直に喜べないな」
「ええ……そうですね」
 例え今日の戦には生き残っても、明日は我が身。はっきり言って戦闘機乗りは消耗品である。自ら志願して戦闘機乗りになった者達の宿命とはいえ、自分の能力と悪運が頼りの厳しい世界である。
「ジミーの方はどうなんだ」
「あちらは、邪魔な艦載機はいないし木偶の坊の戦艦相手ですからね。上手く立ち回ってかなりの戦艦を沈めたみたいです。とはいっても装甲の厚い戦艦を撃沈するのは簡単じゃないですけど」
「ちっ。損な役回りを当ててしまったな」
 舌打ちし、悔しそうな表情をしていた。
 その理由は、艦載機一機撃ち落すのと、戦艦一隻撃沈するのとでは、功績点に大きな違いがあるからだ。
「でも、味方の被害を出さないためにも、敵艦載機を撃滅するのも重要ですから」
「判ってるさ」
「それに実質的な功績点以外に、指揮官が与える実戦評価点があるじゃないですか。昇進には両方の点を加算するんですよね」
「あのなあ……何も判っちゃいないな。確かに昇進に際しては、功績点と評価点を加算して考慮されるさ。しかし昇進速度や恩給の算出には功績点の方が分がいいんだよ」
「そうなんですか?」
「功績点は、戦術コンピューターが、敵艦載機や戦艦を撃ち落すたびに自動的に累積計算して、軍の中枢コンピューターにリアルタイムで入力されるんだ。功績点が規定点に達したと同時に昇進候補対象となる。これが曲者でね。カインズ中佐が大佐になり損ねてしまったのも、オニール中佐が一足先に規定点に達して昇進候補に入ったためで、後は大佐枠がなくなって頭ハネを食らったのさ」
「へえ……知りませんでした」
「例え撃墜され戦死してもデータは残るから、遺族恩給なども最期の功績点を元に計算されるというわけさ」
「少佐がやっきになっておられる気持ちが判りましたよ」
「そうか……なら、急いで補給の指示を出してくれ」
「了解」
 と返答したもののすぐに言い返してきた。
「ああ……でも今回の指揮はパトリシアですよね」
「そうだよ。アレックスなら作戦の後で文句の一つも言ってやりたいところだが、パトリシアじゃあそれもできん! 可愛い後輩だからな」
「ですよね。彼女も一所懸命に頑張っているんですから」
「とにかく急いでくれよ」
「へいへい」

 第十一攻撃空母部隊は、巡航艦や駆逐艦に高速軽空母という艦艇で組織されていた。足の遅い戦艦ではとても追いつけなかった。艦載機を全機発進させてより軽くなった空母は、高速移動で敵艦隊の後背に回って、艦載機と一戦して弾薬の乏しくなったハリソン編隊を回収して燃料と弾薬の補給、完了と同時にすぐさま再出撃させて、部隊をさらに敵艦隊を取り巻くようにして高速移動させながら、常に敵艦隊の射程に入らないように行動していた。
 艦載機は全弾を撃ちつくしては、空母に戻って補給、すぐさま再出撃というパターンを繰り返していた。攻撃、回収・補給、再出撃という艦載機による執拗なサイクル攻撃は、確実に敵勢力を削り取っていった。艦載機の援護のない艦隊ほど悲惨な状態はなかった。いかに強大な火力を有していても、小さな目標である艦載機を撃ち落すことは甚だ困難である。

 やがて敵艦隊は勝ち目がないと判断したのか撤退をはじめた。
「敵艦隊が撤退をはじめました!」
 オペレーター達の表情から緊張感が解きほぐされていく。
「追撃しますか?」
 リーナが問いただす。
「いいえ。我々の任務は捕虜の救出です。敵艦隊は放っておきましょう」
「判りました。早速惑星上陸にかかりましょう」
 パトリシア達の奮戦振りをカインズのそばで観察していたパティーが、囁くように言った。
「やりましたね。これで大尉も少佐に昇進ですよ」
「まだ任務は終わっていないよ。収容所の捕虜を救出する任が残っている。もっとも捕虜が残されていそうにないがね」
「そんな感じですね」

 敵艦隊を撃破して、タシミール星の捜索がはじめられることになった。もちろん哨戒艇による索敵は続行されている。先の艦隊が舞い戻ったり、新たなる迎撃部隊が出現しないとも限らないからである。
「揚陸空母部隊を衛星軌道に展開させて下さい。探査機による探査を開始」
 敵艦隊はいなくなったものの、地上がどうなっているかは不明である。確認をしないまま上陸するわけにはいかない。
 報告はすぐに返ってきた。
「地上に敵艦隊の姿はありません」
 パティーがカインズに尋ねる。。
「どういうことでしょうか……」
「カラカスが奪取されたので撤退したのだろう。たいした資源もないから死守する必要もないからな」
 差し障りのない答えをするカインズ。とっくの昔に撤退していたことを知らされていたことは内密だ。
「やはり敵は撤退したようですね」
 パトリシアが確認するように呟いた。
「揚陸艦を降ろして地上を探索してください。装備として生体感応装置を持っていってください」
「了解。生体感応装置を装備します」
「降下部隊用意せよ」
「管制塔などのシステム機器には触れないようにしてください。ブービー・トラップがしかけてあるかも知れませんから」
「了解」
 ブービートラップはランドールのお家芸だ。真似して管制システムなどに手が入れられている可能性が高い。
「とにかく敵兵に注意しつつ捕虜を探し出してください」
 揚陸艦が降下していく。

 やがて降下部隊から、報告が返ってくる。
「惑星地上施設に人影なし。敵兵も味方捕虜も一人として見当たりません。生体感応装置を作動させておりますが、一切の反応がありません」
「地下施設がないかも確認してください。念入りにかつ用心して捜索するように」
「了解!」
 しかし、やはり地上には一切の人影を見出すことはできなかった。
 その報告を聞いてため息をつくパトリシア。
「しかたありませんね。敵はここを完全に放棄して撤退したと判断するべきでしょう」
「いかがいたしますか? この星を占領下におくことも可能です」
 リーナが発言した。
「その必要はありません。我々の任務は捕虜を救出することでした。捕虜がいない以上、速やかに撤収するだけです。全艦に撤収準備を」
「了解しました。撤収準備にかかります」
「準備が整い次第、哨戒艇を呼び戻して帰還の途につきましょう」
 星を占領下におくためには、通信基地などの諸設備を設置しなければならず、何よりも制宙権確保のための部隊も必要となってくる。アレックスの部隊にはそれだけの戦力を割くだけの余力はない。
 カインズに向き直って進言するパトリシア。
「作戦任務を完了。これより帰還します」
「うむ……いいだろう」
「了解。撤収準備を発令します」
 やがて揚陸部隊が引き揚げてきて、帰途につく第十一攻撃空母部隊。

 パネルスクリーンに遠ざかるタシミールが映しだされていた。
 パティーがカインズに囁く。
「結局、今回の作戦の意味は何だったのでしょうね。当初目的の捕虜救出は徒労に終わってしまったという感じですけど。それに、まるで申し合わせたように敵艦隊が現れて、キャブリック星雲の再来じゃないですか。これってまたニールセンの差し金じゃないでしょうねえ」
 勘の鋭いパティーだけあって、すでに気づいているようだ。
「そうかも知れないな」
 例えそれが事実だとしても肯定はできなかった。ニールセン率いる軍部への不審感を助長させることは禁物である。軍部の不審は士気の低下につながり、ひいては反乱を起こす引き金とも成りかねない。バーナード星系連邦との戦争中においての内憂外患は、それはランドール司令がもっとも危惧する事態である。たとえそれが策略だと判っていても、勝つ算段がある限り命令に従うを是としていたのである。
「提督が内密にしたのはこれだったのだな」
 そう思った。
「今回の佐官昇進試験は合格でしょうか? 当初の目的である捕虜救出は果たせませんでしたけど、敵艦隊を撃退に追いやりました。それで十分だと思いますけどね」
「まあ、これだけは提督とて意にならないからな。査問委員会がどう決定するかだ」
「でも相手はニールセンですからね。どうなることやら」

第十五章 了

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
2021.03.16 08:41 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十五章 収容所星攻略 V
2021.03.15

第十五章 収容所星攻略




 紆余曲折はあるものの、艦載機同士の空中戦は、経験豊富なハリソン編隊側に有利だった。勝敗は短時間で決した。もはや敵艦隊に航空兵力はなくなり、悠々と艦載機による敵戦艦への攻撃を敢行することができるというわけだ。
「カーグ編隊に、敵戦艦に集中攻撃を指示。ハリソン編隊を帰還させて弾薬を補給する」
 艦載機を失って存在価値のなくなった攻撃空母を攻略するのは無意味。強力な火力を有した戦艦から叩くのはセオリーである。
 もちろん敵戦艦とて黙って見ているはずがなかった。
「敵戦艦がこちらに向かってきます」
「艦隊戦に持ち込むつもりね。圧倒的な火力差がある分、こちらの不利となります」
「でもこちらの方が足が速いですよ」
「そうね。艦隊を二編成に分けます。セラフィムのオスカー大尉に連絡して」
 通信が交わされて、スクリーンに副指揮官のジャネット・オスカー大尉が出た。
「オスカーです」
「AからF中隊を指揮して、取り舵全速前進しつつ、巡航艦及び駆逐艦で側面攻撃、敵艦隊をかわしてその後方に回ってください」
「了解しました。取り舵全速前進で左側面から攻撃、敵艦隊の後背に回ります」
 通信が終わりオスカー大尉率いる編成部隊が取り舵で離れていく。
「こちらは残る部隊を率いて右側面から攻撃を行います。全艦面舵、全速前進」
 両編隊が敵艦隊を取り囲むようにして、両側面からの攻撃を開始するために移動をはじめた。速力差があるゆえの包囲網である。
「本隊の全艦に伝達。艤装兵力を敵艦左舷に集中」
 舷側に艤装された兵器は、艦首粒子ビームに比べれば威力は一桁も落ちる。敵艦を撃沈するには心もとなく、ビームシールドを貫けない場合が多い。が、敵艦に捕捉されることなく高速移動しながら攻撃するにはこれしか方法がない。それでも砲数が多いのを頼りに数撃ちゃ当たるだし、長距離誘導ミサイルを迎撃するくらいはできる。
 本来大昔の地球古代史大航海時代の戦艦決戦では、艦砲射撃をより有効利用するために敵艦隊に対して、舷側を互いに向かい合わせて撃ち合ったものだった。
 しかし最新の主力兵器は粒子ビーム砲であり、粒子加速器を直列に並べて威力を増大させるために、より長大な空間が必要となって艦首にしか搭載できない。当然として戦い方も舷側併進から、正面に向き合ってのビーム攻撃戦になっている。

 セイレーンの艦載機発着ドッグ。
 ハリソンの機体がすべるように着艦してくる。
「弾薬を積み込んだらすぐに出るぞ。急いでやってくれ」
 甲板作業員に指示を出しつつ、パイロットの控え室に入るハリソン。自動販売機にIDカードを挿し入れて、飲み物を購入している。
「少佐殿、そんなに急ぐ必要はないのではないですか? 戦況は圧倒的に有利です」
 パイロット控え室に詰めている管制スタッフの一人が話しかけてきた。
「馬鹿野郎! 油断大敵火の用心というじゃないか」
「なんですか……それ?」
「何にせよ。ジミーには負けたくないからな」
「結局はそれなんですね」
「当たり前だ!」
 ガラス張りの部屋の向こう側では、着艦した機体への再装填が大急ぎで行われていた。

「帰還した機体数は?」
「各空母からの報告をまとめている最中ですが、推定3200機かと思われます。相当やられましたね」
「800機もやられたのか? これじゃあ、勝っても素直に喜べないな」
「ええ……そうですね」
 例え今日の戦には生き残っても、明日は我が身。はっきり言って戦闘機乗りは消耗品である。自ら志願して戦闘機乗りになった者達の宿命とはいえ、自分の能力と悪運が頼りの厳しい世界である。
「ジミーの方はどうなんだ」
「あちらは、邪魔な艦載機はいないし木偶の坊の戦艦相手ですからね。上手く立ち回ってかなりの戦艦を沈めたみたいです。とはいっても装甲の厚い戦艦を撃沈するのは簡単じゃないですけど」
「ちっ。損な役回りを当ててしまったな」
 舌打ちし、悔しそうな表情をしていた。
 その理由は、艦載機一機撃ち落すのと、戦艦一隻撃沈するのとでは、功績点に大きな違いがあるからだ。
「でも、味方の被害を出さないためにも、敵艦載機を撃滅するのも重要ですから」
「判ってるさ」
「それに実質的な功績点以外に、指揮官が与える実戦評価点があるじゃないですか。昇進には両方の点を加算するんですよね」
「あのなあ……何も判っちゃいないな。確かに昇進に際しては、功績点と評価点を加算して考慮されるさ。しかし昇進速度や恩給の算出には功績点の方が分がいいんだよ」
「そうなんですか?」
「功績点は、戦術コンピューターが、敵艦載機や戦艦を撃ち落すたびに自動的に累積計算して、軍の中枢コンピューターにリアルタイムで入力されるんだ。功績点が規定点に達したと同時に昇進候補対象となる。これが曲者でね。カインズ中佐が大佐になり損ねてしまったのも、オニール中佐が一足先に規定点に達して昇進候補に入ったためで、後は大佐枠がなくなって頭ハネを食らったのさ」
「へえ……知りませんでした」
「例え撃墜され戦死してもデータは残るから、遺族恩給なども最期の功績点を元に計算されるというわけさ」
「少佐がやっきになっておられる気持ちが判りましたよ」
「そうか……なら、急いで補給の指示を出してくれ」
「了解」
 と返答したもののすぐに言い返してきた。
「ああ……でも今回の指揮はパトリシアですよね」
「そうだよ。アレックスなら作戦の後で文句の一つも言ってやりたいところだが、パトリシアじゃあそれもできん! 可愛い後輩だからな」
「ですよね。彼女も一所懸命に頑張っているんですから」
「とにかく急いでくれよ」
「へいへい」

 第十一攻撃空母部隊は、巡航艦や駆逐艦に高速軽空母という艦艇で組織されていた。足の遅い戦艦ではとても追いつけなかった。艦載機を全機発進させてより軽くなった空母は、高速移動で敵艦隊の後背に回って、艦載機と一戦して弾薬の乏しくなったハリソン編隊を回収して燃料と弾薬の補給、完了と同時にすぐさま再出撃させて、部隊をさらに敵艦隊を取り巻くようにして高速移動させながら、常に敵艦隊の射程に入らないように行動していた。
 艦載機は全弾を撃ちつくしては、空母に戻って補給、すぐさま再出撃というパターンを繰り返していた。攻撃、回収・補給、再出撃という艦載機による執拗なサイクル攻撃は、確実に敵勢力を削り取っていった。艦載機の援護のない艦隊ほど悲惨な状態はなかった。いかに強大な火力を有していても、小さな目標である艦載機を撃ち落すことは甚だ困難である。

 やがて敵艦隊は勝ち目がないと判断したのか撤退をはじめた。
「敵艦隊が撤退をはじめました!」
 オペレーター達の表情から緊張感が解きほぐされていく。
「追撃しますか?」
 リーナが問いただす。
「いいえ。我々の任務は捕虜の救出です。敵艦隊は放っておきましょう」
「判りました。早速惑星上陸にかかりましょう」
 パトリシア達の奮戦振りをカインズのそばで観察していたパティーが、囁くように言った。
「やりましたね。これで大尉も少佐に昇進ですよ」
「まだ任務は終わっていないよ。収容所の捕虜を救出する任が残っている。もっとも捕虜が残されていそうにないがね」
「そんな感じですね」

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
2021.03.15 08:10 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十五章 収容所星攻略 Ⅳ
2021.03.14

第十五章 収容所星攻略




「敵空母より艦載機の発進を確認しました」
 さすがに敵艦隊も、艦載機群の到来に気づいて迎撃機を発進させたようだ。タシミールにのこのこやってきたパトリシア達を奇襲するつもりだった予定が、逆に奇襲を受けて慌てふためいている様子が想像できた。
「ハリソン・クライサーの編隊に迎撃を指示、ジミー・カーグ編隊及びジュリー・アンダーソンの編隊には敵艦隊への攻撃を敢行させよ」
「クライサー編隊、敵艦載機と接触、交戦に入りました。カーグ編隊はこれをかわして敵艦隊に進撃中です」
 前方で敵編隊4000機とハリソン編隊4000機との空中戦が始まった。
 艦載機の数では互角、後は機体の性能とパイロットの腕前が、勝敗を分ける。
「編隊長の通信を音声に流してください」
「了解。指揮官席のスピーカーに流します」
 すぐさま編隊長の通信機に接続されて、その交信内容が聞こえてきた。 
『いいか。ここで食い止めて、一機たりとも味方艦に近づけさせるんじゃないぞ』
 ハリソンの声だった。配下の編隊に対しての指令や返信が次々と届く。
「了解!」

 華々しい空中戦が繰り広げられている。
 そんな中にあっても、余裕綽々の二人がいた。
「おい、パーソン」
「なんだ、ジャック」
「どっちが数多く撃ち落すか。賭けをしないか?」
「いいだろう。で、何を賭けるんだ」
「シャトー・マルゴーのワインなんかどうだ?」
「ああ、あれか。一本六万からするんだっけな」
「おうよ。ルイ十五世の寵姫マダム・デュ・バリや文豪ヘミングウェイも愛飲したという名品だよ」
「いいだろう。それでいこう」
 話がまとまる二人。
「おい、ジャック。おまえの後ろに何かくっついているぞ」
 あわてて後方確認するジャック。敵機が背後に迫っていた。
「ちぇ、後ろに付かれたか。おまえが話しかけるから気が散ったんだぞ」
「油断したな、ジャック。ワイン一本で手を打つか?」
「何を言うか。これくらい簡単に振り解いてやるさ」
 しかし敵も巧者だった。急旋回や急上昇で交わそうとするが、執拗に食い下がってぴたりと背後に付いて離れなかった。
「ちきしょう! ロックされた。振り解けねえ」
「まかせろ!」
 敵機の真下から急上昇しつつ機銃で敵機を撃破するパーソン。敵機は火達磨となって爆発炎上した後に粉々に散っていく。
「一点貸しだな」
「ちっ! 余計なおせわだってのによ。倍にして返してやるよ」
「負け惜しみだな」
「言ってろ!」
 そんな通信に割って入った者がいた。
 ハリソンだった。
「おい! おまえら、何やってるんだ。会話が筒抜けだぞ」
「え? いけねえ、シークレット通話にしてなかったぜ」
「どじな奴だな」
「どっちがだ」
「で、今どっちが勝っているんだ?」
「まだ、はじまったばかりですよ」
「そうか……じゃあ、俺にも一口乗らせろよ」
「はあ?」
 同時にきょとんとした声を発する二人。
 すると通信回線ががなり立てはじめた。
「二コルです。パーソンに500賭けます」
「デイビッドです。俺は、ジャックに500」
「ジュリーです。500をパーソンに」
 あの酒豪も聞いていたらしい。酒の話となると必ず顔を出す。
 パーソン小隊、ジャック小隊の賭け好きな連中が次々と、名乗りを挙げている。
 そして、
「わたしもいいですか? リンダです。ジャックに500賭けます。ああ、それからこの通信は記録してます」
 セイレーン艦長のリンダまでが参入してきた。

 そんな通信の模様は、セイレーン艦橋にも届いていた。
「リンダ! あなた何考えてるのよ」
 目の前にいる艦長のリンダを叱責するリーナ。
「え? だってハリソンが……」
「だって、じゃないでしょ。今は戦闘中なのですよ」
「でもお……」
「まったく、しょうがないわね」
 リーナが呆れ顔で呟く。
「ハリソンを出して」
「こちらシルバー・フォックス。ハリソン、どうぞ」
「こちらハリソン。シルバー・フォックス、どうぞ」
「ハリソン、賭けに参加した者全員、減俸三ヶ月よ。いいわね」
 いきなり処分を言い渡すリーナ。
「それは、勘弁してくれ」
「だったら目の前のものを早く片付けて頂戴」
「片付けたら帳消しにするか?」
「考えておくわ」
「おうよ。考えておいてくれや」
「だったら、手際よくやりなさいよ」
「見ていろよ」
 ハリソンがそう言うと、ぷつんと会話が途切れた。戦闘に専念しはじめたのだろう。
 はあ……。
 というため息をもらすリーナだった。
「いつもこうなのですか?」
 パトリシアが尋ねた。
「似たり寄ったりですね」
「サラマンダーの艦橋にいては、各部隊ごとのこまごまとしたことは入ってきません。艦載機同士の通信までは聞いてられませんから」
「それは当然です。司令官は全体の動きだけ指示していればいいんです。後は各部隊指揮官が最善の処置を施します」
「何はとはあれ、戦闘中に賭け事は問題です。厳罰処遇にしなければ……」
 とここまで言ってから、
「と、言いたいところですが……。提督ご自身も、賭け事には一癖も二癖もあるお方でしたから」
 そうなのだ。
 士官学校の学園祭で、バニーガールを交えたカジノパーティーを主催したり、禁断の密造酒を製造したりもした、破天荒かつ型破りな御仁だった。
 ゆえにパトリシアにしても、こういったことには慣れていたと言ったほうがいいだろう。

「五十機目!」
 ジャックの喚声が通信機に届いた。
「ハリソン達は優勢に戦いを進めているようです」
「敵味方の撃墜差は、現時点でおよそ四対一といったところ」
「残存機数で次第に差が開いてきますから、いずれ撃墜差にはさらに開きが出てきます」

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
2021.03.14 07:33 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国反乱 V
2021.03.13

第十一章 帝国反乱




 アルビエール侯国のアレックスの元に、ウィンディーネ艦隊がタルシエン要塞を出立したとの報告が届いた。
「そうか、配下の将兵達にも受け入れられたということだな。まずは一安心だ」
「こちらに到着するのは、五日後になるもよう」
 パトリシアが報告する。
「それにしても……」
 と、言いかけて言葉を一旦中断してから、
「なんでこうも反乱が続いて起きるのかな。連邦も共和国も、そして今度は銀河帝国だ」
「その銀河帝国は、数百年前にも二度反乱が起きてますけどね。これで三度目になります」
 二度の反乱とは、トリスタニア共和国同盟の独立戦争、その後に起きたバーナード星系連邦の軍事クーデターである。
「皇太子殿下、よろしいですか?」
 アルビエール侯国の宮殿の一室に執務室を与えられたアレックスの元に、ハロルド侯爵が訪れた。
「摂政派率いる第一艦隊以下の艦隊が、近々軍事訓練を始めるそうです」
「ほほう。今更ですか?」
「一朝一夕で、艦隊をまとめ上げられるものではないのでしょうが。やらないよりはましということでしょうかね」
「これまで訓練などやったことはないらしいし、まともな訓練マニュアル作成できる士官がいるのかも怪しいですな」
「これまで、ぬるま湯に浸かっていましたからね」
「共和国同盟軍絶対防衛艦隊が、一瞬で簡単に滅んだのもそこにあるのです」
「これからどうなされますか?」
「そうですね。いつまでも分裂状態にしておくわけにもいかないでしょう。混乱に乗じて連邦が、諜報員や破壊工作員を送り込んでくる可能性もあります」
「破壊工作ですか?」
 実際問題としても、ウィディーネ艦隊反乱の時のように、政情不安などによって国民が疑心暗鬼になっている状態になれば、簡単に扇動されることもあるのだ。
「何にしても、ウィンディーネ艦隊が到着してからです」
「ウィンディーネ艦隊ですか……。ゴードン・オニール少将でしたよね。釈放し艦隊をまかせて良かったのでしょうか?」
「また反乱を起こすと思いますか?」
「い、いえ。そこまでは……」
 一度でも裏切った者は、何度でも裏切りを繰り返し、敵側に寝返るということもある。
 侯爵が心配するのも無理からぬことであろう。
 かつてアレクサンダー王子行方不明が原因で国内分裂を生じ、皇太子即位となって安寧していたら、今また反乱が起きた。
 主義主張というものはなかなか覆されにくいものなのだから。
 特にそれが銀河帝国という国家そのものならばなおさらである。

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング



2021.03.13 08:02 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)

- CafeLog -