銀河戦記/鳴動編 第二部 第六章 皇室議会 Ⅰ
2021.06.30

第六章 皇室議会




 皇太子問題を正式に討議する機関である皇室議会は、いまだ結論を出しかねていた。
 エリザベスが摂政権限でアレックスを宇宙艦隊司令長官及び元帥号の称号を与えたとしても、あくまで暫定的な処置であって恒久的なものではないと判断されているからである。
 皇室議会のメンバーは原則的には皇族以外の上級貴族達で構成されていた。
 皇族間の紛争を避けるために中立的な立場から意見を述べ合えるとの配慮からだった。
 だが実際には、皇族の息の掛かった貴族が選ばれるのが常だった。影で糸を引く実力者として、ロベスピエール公爵の名前が噂に上っている。
 皇室議会はロベスピエール公爵の手の内にあると言っても過言ではなかった。
 ゆえに、摂政派の旗頭であるジョージ親王を、おいそれとは追い出せないのである。
 公爵にしてみれば、自分の嫡男が皇帝の座に着けば、銀河帝国の全権を掌握したにも等しいことになる。
 何せジョージ親王は精神薄弱で、自分で意思決定ができず、すべて公爵の言いなりになっているからである。

 謁見の間に参列する大臣達の大半が摂政派に属していることも、アレックスの頭痛の種となっていた。
 アレックスの意見や進言にことごとく反対して自由に行動させないようにしているのは、ロベスピエール公爵の意向が計り知れなかったからである。
 何事にも公爵の意見を聞かなければ決断が出せないのである。自分で勝手に判断して、公爵の機嫌を損ねたら大変だ。
 アレックスを自由にすれば皇太子派の勢力を冗長させるのは目に見えている。摂政派としては、そのことだけは何としても阻止しなければならない。
 もっと極端に言えば、アレックスには死んでもらった方がいいと考えるのが摂政派の考えであろう。
 幼児時代の誘拐事件や、アルビエール侯国来訪時の襲撃事件も、裏から糸を引く公爵の差し金によって、大臣の中の誰かが策謀したものに違いなかった。
 摂政派にとって憂慮することは、アレックスには正統なる皇位継承者である第一皇子としての地位が確保されており、なによりも【皇位継承の証】という伝家の宝刀を所持しているということである。
 ジョージ親王が、先の皇室議会での決定による皇太子詮議にもとづいて、皇位についたとしても、アレックスの第一位皇位継承権が剥奪されたわけではない。ジョージ親王の皇帝即位は暫定的なもので、その子孫が皇位を継承する権利はなく、『皇位継承の証』を所有するアレックスとその子孫が皇位につくことが決定されている。

 皇室議会が皇太子問題を先延ばしにしていることは、世論の批判を浴びることになった。
 アレクサンダー第一皇子暗殺計画が策謀され密かに進行しているとか、根も葉もない噂も飛び交っていた。
 例え噂だったとしても、一国の将来を担う重大な問題だけに、噂に尾ひれがついて大きな波紋へと広がりつつあった。
 皇太子派も黙って指を加えているはずがなかった。摂政派が第一皇子を暗殺するなら、皇太子派の邪魔者であるジョージ親王を亡き者にしてやろうとたくらんでいるようだった。
 そんな不穏な動きが銀河帝国内を席巻しつつあり、内乱状態へと逆戻りするかも知れない一触触発の由々しき事態となっていた。


 そういった情勢の間にも、エリザベス以下マリアンヌまでの皇女達の間では、アレックスを立太子する方向にほぼ同意がなされていた。皇室議会においてジョージ親王がすでに、皇太子擁立の詮議が確定してしまっている以上、摂政エリザベスをしてもそれを覆すことはできない。とはいっても再審議の際には、家族協議における一致があれば、それを尊重しないわけにはいかない。
 家族だけが集う午餐会には、アレックスを交えて皇女達が仲睦まじく食事を囲む風景が、ここしばらく続いている。皇太子誘拐、継承争いにかかる姉妹の断絶、そして連邦軍の侵略と、内憂外患に煩わされていた日々を清算するためには、まず姉妹の絆を結束することからはじめなければならない、と誰しもが思っていたからである。アレックスが戻ってきた今こそがいい機会なのだと。
 最上位席(つまり食卓の端の席)にアレックスが腰掛けて、その両側に順次第一皇女から並んで腰を降ろしている。
「どうも困った事態になりつつあります。摂政派と皇太子派が一触即発状態にまで発展しつつあります」
 アレックスの口から最初に出た言葉だった。
 それに呼応してマーガレットが答える。
「それもこれも、皇室議会が皇太子問題を棚上げにしているせいよ」
「ベスには悪いけど、皇室議会は摂政派が過半数を占めていますからね」
 ジュリエッタも批判的な意見だった。
 摂政派……。
 誰が最初に言い出したかは判らない。
 皇太子候補となったロベール王子と父親のロベスピエール公爵一派というのが、真の意味での正確な表現であろう。
 そして母親であり公爵夫人であるエリザベスが、銀河帝国の摂政として国政を司っていることから、誰から言うともなく摂政派と呼称されるようになった。
 摂政派という呼称を使われるとき、エリザベスは辛酸を飲まされるような気分に陥る。
 しかも血肉を分けた家族から言われる心境はいかがなものであろうか。
「今は摂政派だ皇太子派だと論じている場合じゃない。総督軍の迫り来る情勢の中、早急に迎撃体制を整えなければならないというのに。とにかく内政に関しては、これまで通りにエリザベスに任せますよ」
「問題は傀儡政権となっている頭の固い大臣達よ。帝国軍を動かすには予算繰りから人事発動まで、実際に権限を持っているのは大臣なんだから。何かにつけていちゃもんを付けてはなかなか動こうとはしない」
「そうね。今動かせる艦隊は、第二艦隊と第三艦隊だけじゃない。叔父様達の自治領艦隊は動かすわけにはいかないし……」
「合わせて百四十万隻。総督軍は二百五十万隻というから、数だけを論ずるなら確実に負けるわね」
「あたしの艦隊もあるわ」
 マリアンヌが口を挟んだ。
 第六艦隊の十万隻を忘れないでという雰囲気だった。
「そうだったわね。合わせて百五十万隻よ」
 十万隻増えたところで体勢に影響はないが……。
 幸いにも将軍達は、アレックスに好意的だったので、軍内部での統制はすこぶる良好であった。

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2021.06.30 08:35 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第五章 アル・サフリエニ Ⅲ
2021.06.29

第五章 アル・サフリエニ




 妹の自殺の知らせを、レイチェルから聞かされた時、ゴードンは号泣したという。
 唯一無二の肉親であり、幼少から自分が育ててきた可愛い妹の死は、連邦に対する激しい憎悪となって燃え上がり、彼を復讐鬼へと変貌させてしまったのである。
 妹の無残死のことを知っている参謀達は同情し、彼の狂気を止めることはできなかった。
「敵艦隊全滅しました」
「よし。惑星に降下して、地上に残る連邦兵士も一人残らず一掃しろ」
 降下作戦が実行され、連邦兵士は掃討されていった。
 カルバキア共和国首都星ニーチェのハーマン・ノルディック大統領と会見するゴードン。
「いやあ、あなた方が救援に来てくださって、助かりました。感謝いたします」
「当然のことをしたまでです。連邦軍は徹底的に排除すべきです」
「しかし投降した艦まで攻撃を続けて撃沈したのは感心しませんね」
「我々には捕虜を収容するだけの余裕はありませんし、逃がしてやれば、態勢を整えてまた舞い戻ってきます」
「国際条約に違反するのでは?」
「条約違反? 違反しているのは奴らの方じゃないですか。占領政策として連邦憲章にもとずく新政策を実施しました。個人の自由を完全に無視している。連邦では当然のことでしょうが、共和国においては何者にも束縛されない自由があったはず。それを連邦は……。占領下にある女性達は、連邦の兵士相手に妊娠を強制されるという極悪非道の扱いを受けています。それを知らないと言うのですか?」
「いや、それは良く存じております。我が国の女性達もその制度を強要されるところでした。それがために救援要請を行ったのですから」
「奴らは自分達の国の制度が一番と信じて疑わず、占領した国家の制度をことごとく改変しています」
「信じて疑わないから太刀が悪いですね」
「連邦の人間など抹殺されて当然です」
 それから二人は実務会議へと入った。
 カルバキア共和国の自治を将来に渡って維持するために、ウィンディーネ艦隊の一部を駐留させる事。カルバキアは、ウィンディーネ艦隊への燃料・弾薬・食料の補給の義務を負うこと。カルバキアの鉱物資源の採掘権の一部割譲などが取り交わされた。
 カルバキアにとっては不利な条件ではあるが、連邦の脅威が続いている以上、承諾するよりなかったのである。
 鉱物資源大国カルバキア共和国を友好国とし、鉱物採掘権を得た。鉱物は精錬して含有金属を取り出さなければならない。さらに造船所を確保して新造戦艦を建造して艦隊の増強も図りたい。
 こうしてゴードンが次なる友好国とする候補が上がった。
「カレウス星系惑星トバへ行くぞ」
 惑星トバは、一惑星一国家という小さな国家ではあるが、鉱物資源を輸入して精錬加工して輸出するという重金属工業都市であった。精錬した金属から戦艦を建造することのできる造船王国でもあった。
 技術立国にとって、技術者がどれだけ大事だかは、フリード・ケースンのことを考えれば一目瞭然のことであろう。たった一人で戦艦を開発設計できる能力者を失えば大きな痛手となる。そして幸いにもそのフリードはタルシエン要塞に在中であるから、戦艦の開発設計をやってもらい、惑星トバにて建造する。ゴードンの脳裏にはそういったプランが出来上がっていたようである。
 しかしながら惑星トバは、共和国が滅んだ時逸早く連邦に組みして、自治権を確保している。連邦としては無理に占領して、有能な技術者が逃亡するのを恐れて、自治権を認めてその工業力を掌握することにしたのである。
 当然ながら、連邦はそれ相応の駐留艦隊を配備していた。


「駐留艦隊の総数は、およそ一万八千隻です」
「工業大国を防衛するには、少な過ぎやしないか……?」
「補給の問題でしょう。工業国とはいえ、資源を輸入して加工品を輸出するという国政ですから、補給までは手が回らないでしょう。何よりも最大の問題が食料補給でしょう」
「自分達の国民でさえ食糧不足で困っているのにか?」
「その通りです。連邦軍は食料を自前で確保しなければなりませんから、大艦隊を派遣することはできないでしょう」
「だろうな」
「とにかく、数で圧倒して勝利は確実ですが、やりますか?」
「当然! 戦闘配備だ」
「了解。戦闘配備」
 戦闘が開始された。
 一万八千隻対十万隻という戦力差。数の上ではウィンディーネ艦隊の圧勝というところだが、技術大国を防衛する責務に燃える駐留艦隊の激しい抵抗にあって、一進一退が続いていた。というよりも、投降を一切認めない『皆殺しのウィンディーネ』と悟って、死にもの狂いで反撃していたのである。
「なかなかやるなあ……。エールを送りたくなるよ。しかしこれでどうだ」
 ゴードンは両翼を伸ばして完全包囲の態勢を取ると、オドリー少佐の部隊に突撃を命じた。
 ランドール戦法の攻撃力が加わると、さしもの駐留艦隊も態勢を乱して総崩れとなり、降伏を認めないゴードンによって全滅に至った。
 すぐさま惑星トバの首長と面会を求めたが拒絶された。
「我々はバーナード星系連邦と協定を結んだ。たとえ今ここで解放戦線と協定を結び直したとしても、連邦は再び艦隊を次々と派遣してくるだろう。たかが三十万隻そこそこの解放戦線に何ができる。最後に勝つのは連邦に決まっている。よって我々は解放戦線とは組みしない。判ったらさっさと立ち去るが良い」
 そういわれて、
「はい、そうですか」
 と引き下がるようなゴードンではなかった。
「言ってくれるねえ……感心するよ」
 相手が言うことを聞かなければ実力行使しかない。
 ただちに降下作戦に入り、瞬く間に惑星トバを占拠してしまったのである。
 首長ら高級官僚を拘束し、連邦軍排除派の民衆運動家のリーダーを首長に据えて、解放戦線との協定を結んでしまったのである。
 旧首脳陣は、ゴードンが実力行使という強行手段に出るとは思いもしなかったようである。アレックス率いるランドール艦隊が、民衆を大切にし解放のために戦っていることは知っている。
 おだやかなるアレックスの性格から民衆をないがしろにする行為には出ないだろう。
 そんな甘い考えがあったに違いない。
 しかし、連邦への復讐に燃えるゴードンには通じなかった。
 連邦の味方をすると公言したトバの首長を許すわけにはいかなかったのである。
 こうしてゴードンは、鉱物資源・精錬所・造船所と、戦艦を増強する手段を確保したが、肝心の資金がなかった。民衆から税金を徴収して運用資金を得られる政府軍と違って、解放戦線には海賊行為でもやらない限り資金集めは非常に困難であった。そもそもアレックスが銀河帝国へ向かったのも活動資金を援助してもらうためである。
 幸いにもカルバキア共和国から鉱物資源の採掘権が認められている。そこで資源を開発して希少金属を採掘して、それを売却して資金源とすることを決定した。そのために鉱脈探査の専門家を呼び寄せて調査に当たらせた。まるで山師のようで、どうなるものか判らないが、手をこまねいていては解決しない。
 その間にも、資金を提供してくれる友好国を求めて奔走するゴードンであった。

 第五章 了

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2021.06.29 15:23 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第五章 アル・サフリエニ Ⅱ
2021.06.28

第五章 アル・サフリエニ




 ところが、総督軍にくみしたくないとある一国が差し迫って救援を求めてきて、それに呼応してゴードンが配下の艦隊を向かわせた。
 それが事の始まりだった。
 次々と救援要請を求める国が続出し、ゴードン率いるウィンディーネ艦隊が出動してきた。
「奴は独断先行が過ぎる」
 ゴードン率いるウィンディーネ艦隊は、独立艦隊で自由な行動がある程度許されていた。命令できる者は直属の上官であるアレックスだけであるが、本人は帝国へ行ってしまっている。よって、自由気ままに行動しているわけである。
 フランクは、指揮下の第五師団を当初予定通りの防衛陣から動かさなかった。また、チェスター准将の第十七艦隊以下の第八師団もそれに従った。ゴードンだけが突出して単独行動を続けていたのである。
 以前、ゴードンは冗談めいて言った事がある。
「遠征が失敗したら、いっそのことアル・サフリエニ共和国でも作って、細々とでもいいから生き残りを図った方がいいかも知れないね」
 当時は笑って済まされたが、
「もしかしたら……、本気でアル・サフリエニ共和国を興すつもりかもしれない」
 救援要請を受けているのは、そのための地盤固めかもしれない。住民達の心象を良くし、一念発起の際には協力を取り付ける所存なのだろう。
 銀河帝国からの放映は続いている。
 総督軍二百五十万隻に及ぶ侵略軍のことを報じており、アレクサンダー元帥が、これを百二十万隻で迎え撃つことを表明したと発表して終了した。
「百二十万隻対二百五十万隻か……。それなりに策を練ってはいると思うが、自分が育て上げた第十七艦隊とは違う。どこまでやれるのか見物だな」

 その頃、カルバキア共和国へ向かっているウィンディーネ艦隊。
「まもなくカルバキア共和国です」
「オードリー少佐を呼んでくれ」
 正面スクリーンにポップアップでオードリー少佐が現れた。彼はつい最近までゴードンの作戦参謀をやっていたが、配置転換で二千隻を従えた部隊司令官となっていた。
「敵艦隊の背後に先回りして退路を遮断してくれ」
「判りました。逃がしはしませんよ」
 ポップアップの映像が消えて、カルバキア共和国の首都星ニーチェが近づきつつあった。
 カルバキアは五十ほどの恒星・惑星からなる国家で、人が住めるのはニーチェだけだが、他惑星には鉄・ニッケル・タングステンといった鉱物資源が豊富に埋蔵されていて、鉱物資源大国となっていた。他惑星には軌道上に宇宙コロニーを建設して移り住み、資源開発を行っていた。
「敵艦隊発見!」
「ようし攻撃開始だ。一隻も逃がすなよ」
 ニーチェの軌道上に展開していた連邦艦隊、はるかに勝るウィンディーネ艦隊の来襲を受けて、あわてて撤退をはじめた。
「敵艦隊、撤退します」
「逃がすな。追撃しろ」
 アレックスの場合は、撤退する艦隊は追撃しないという方針を貫いていたが、ゴードンの場合は追撃して全滅させるのが方針のようだ。
 猛攻を受けて次々と撃沈していく連邦艦隊。退路に新たに出現した別働隊によって退路を絶たれ、観念した連邦艦隊は投降信号を打ち上げて停船した。
「白信号三つ。投降信号です」
「構わん。攻撃を続けろ。一隻も残さず殲滅するんだ」
 この頃のゴードン率いる艦隊は、皆殺しのウィンディーネと恐れられ、連邦軍にとっては恐怖の代名詞となりつつあった。ウィンディーネ艦隊とそうした連邦軍はことごとく全滅させられ、救命艇で脱出しようとする者までも容赦なく攻撃、一兵卒に至るまで残らず殺戮を繰り返していた。


 ゴードンの心は荒んでいた。
 その背景には悲しい物語があったのである。

 ゴードンには妹がいた。
 その妹を残して、トリスタニア共和国同盟首都星トランターを旅立って、アル・サフリエニ方面に赴任したゴードン。
 やがてバーナード星系連邦が攻め寄せてきて、トランターは陥落した。
 すぐさまバーナード星系連邦憲章に基づく占領政策が行われた。
 共和国同盟軍は解体されて、新たに共和国総督軍が設立され、徴兵制度によって兵役年齢にある男子はすべて徴兵された。
 各地に授産施設が開設され、妊娠可能年齢にある女性のすべてが強制収容された。
 授産施設。
 それはバーナード星系連邦にあって、人口殖産制度による『産めよ増やせよ』という考えにもとずく政策の一つであった。
 女性は、子供を産んで育てるもの。相応の年齢に達したら、授産施設に入所して妊娠のためのプログラムに参加する。
 スカートは女性のみが着るものだ。
 と、社会通念として教育されれば、誰しもがそう思い、男性はスカートを着てはいけないと判断する。それが自然なのだ。
 連邦に生まれた女性達は、幼少の頃からそう教えられ育てられたために、何の疑惑も持たずに殖産制度に従って、妊娠し子供を産みつづけている。
 もちろん妊娠し母となった女性達には、政府からの手厚い保護が受けられて働く必要もなく、養育に専念できるようになっている。
 占領総督府は、この授産施設による人口殖産制度を、共和国同盟の女性達にも適用したのである。
 そもそも共和国同盟憲章による教育を受けた同盟の女性達には、授産施設の何たるかを知るよしもないし、自分の意志によらない妊娠など問題外であった。
 子供は愛し合った男性と結婚して授かるものであって、授産施設で不特定の男性をあてがって妊娠させようなどとは、絶対に受け入れられない制度であった。
 地球古代史に記録のある、旧帝国日本軍が占領下の女性達に対して行なった強制慰安婦問題と同じではないか。(韓国軍慰安婦=第五種補給品と呼ばれた)
 しかし自分達の国家の制度は正しいと信伏する総督府によって、人口殖産制度は推し進められたのである。
 女性達は無理やり強制的に授産施設に連れてこられて、言うことを聞かないと逃げ出さないように裸にされて一室に閉じ込められ、毎日のように連邦軍兵士の相手をさせられた。
 抵抗する女性は手足を縛られて無理やりに犯された。かつて同様のことを行ったハンニバル艦隊の将兵達のように。
 当然として女性達は妊娠することになる。
 おなかの中にいるのは、身も知らぬ連邦軍兵士の子供。
 人工中絶は認められておらず出産するしかない。
 ここで女性達は二つの選択肢を与えられることになる。
 妊娠し子供を産み育てることを容認すれば、授産施設から解放されて自由になれる。少なくとも子供が十四歳になるまでは、次の妊娠を強要されることはない。
 もう一つは、密かに避妊ピルを服用しつつも、兵士達の相手をしながら耐え忍ぶことである。連邦軍には避妊ピルを知る者がいなかったからである。差し入れと称して授産施設の女性達に配られていた。
 ゴードンの妹も、そんな女性達の中にあった。
 そして妹は、第三の選択肢を選んだのである。
 妊娠したことを知った妹は、授産施設を抜け出し、自殺の道を選んだ。

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2021.06.28 07:12 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第五章 アル・サフリエニ Ⅰ
2021.06.27

第五章 アル・サフリエニ




 アル・サフリエニ方面タルシエン要塞。
 中央コントロール室。
 要塞司令官のフランク・ガードナー少将は、銀河帝国から放映されているアレックス・ランドールこと、アレクサンダー皇子の元帥号親授式及び宇宙艦隊司令長官就任式の模様をいぶかしげに眺めていた。
 アナウンサーは、アレクサンダー皇子についての詳細を解説していた。行方不明になってからのいきさつ、統制官としての軍部の改革、そして宇宙艦隊司令長官への抜擢。
 やがてアレックスが登場して、儀典がはじまった。
 大勢の参列者が立ち並ぶ大広間の中央、真紅の絨毯の敷かれた上を、正装して静かに歩みを進めるアレックス。
 参列者の最前列には皇女たちも居並んでいる。
 エリザベスの待つ壇上前にたどり着くアレックス。
 ファンファーレが鳴り響き、摂政エリザベスが宣言する。
「これより大元帥号親授式を執り行う」
 壇上の袖から、紫のビロードで覆われた飾り盆に乗せられて、黄金の錫杖が運び込まれる。錫杖は権威の象徴であり、軍の最高官位を表わしているものである。

 そんな儀典の一部始終を、タルシエン要塞の一同はじっと目を凝らして見つめている。
「やっぱりただものじゃなかったですね。ランドール提督は」
 要塞駐留第八艦隊司令のリデル・マーカー准将が口を開いた。
「ただものじゃない?」
「皇家の血統だとされるエメラルド・アイですよ。またぞろ帝国のスパイ説という議論が再燃しそうです。解放戦線の将兵達の士気に影響しなければよいのですがね」
「アナウンサーの解説を聞いただろう。幼少時に誘拐されて、その後の経緯は不明だが共和国に拾われたのだそうだ。生まれは帝国かもしれないが、育ちは共和国だ。生みの親より育ての親というじゃないか。提督は、純粋に共和国人と言ってもいいんじゃないか?」
「確かにそうかも知れませんが、人の感情というものは推し量れないものがあるものです。仲間だと思っていた人間が、ある日突然皇帝という天上人という近寄りがたい存在となった時、人は羨望や嫉妬を覚えないわけにはいかないのです」
 准将の危惧は当たっているといえた。
 要塞に駐留する艦隊内では、あちらこちらでアレックスの話題で盛り上がっていた。
「大元帥だってよ。えらく出世したもんだ」
 銀河帝国と共和国同盟とでは、軍人の階級については違いがある。
 同盟では、大将が最高の階級である。
「しかも、ゆくゆくは皇帝陛下さまだろ。身分が違いすぎじゃないか?」
「やっぱりあの噂は本当だったということかしら」
「帝国のスパイってやつか?」
「また蒸し返している。赤ちゃんの時に拾われた提督が、スパイ活動できるわけないじゃない」
「そうそう、たまたま行方不明になっていた王子様を同盟軍が拾って何も知らないで育ててきただけだ」
「だからってよお……。今日の今日まで、誰も気がつかなかったってのは変じゃないか。時の王子様が行方不明になっているっていうのにさ」
「それは、王子が行方不明になったことは極秘にされたのよ。大切なお世継ぎが誘拐されたなんて、帝国の沽券に関わるじゃない」


「そんなことよりもさあ。帝国艦隊全軍を掌握したんなら、あたし達に援軍を差し向けられるようになったことでしょう?」
「そうだよ。援軍どころか帝国艦隊全軍でもって連邦を追い出して共和国を取り戻せるじゃないか」
「しかしよ。共和国を取り戻せても、帝国の属国とか統治領とかにされるんじゃないのか? 何せ帝国皇帝になるってお方だからな」
「馬鹿なこと言わないでよ。属国にしようと考えるような提督なら解放戦線なんか組織しないわよ。アル・サフリエニのシャイニング基地を首都とする独立国家を起こしていたと思うのよ。周辺を侵略して国の領土を広げていたんじゃないかしら」
「アル・サフリエニ共和国かよ」
 会話は尽きなかった。
 アル・サフリエニ共和国。
 乗員達が冗談めいて話したこのことが、やがて実現することになるとは、誰も予想しなかったであろう。
 フランク・ガードナー提督にとって、アレックスは実の弟のように可愛がってきたし、信頼できる唯一無二の親友でもある。解放戦線を組織してタルシエン要塞のすべてを委任して、自らは援助・協定を結ぶために帝国へと渡った。そして偶然にして、行方不明だった王子だと判明したのである。
 権力を手に入れたとき、人は変わるという。虫も殺せなかった善人が、保身のために他人をないがしろにし、果ては殺戮までをもいとわない極悪非道に走ることもよくあることである。
「変わってほしくないものだな」
 椅子に深々と腰を沈め、物思いにふけるフランク。
 その時、通信士が救援要請の入電を報じた。
「カルバニア共和国から救援要請です」
 またか……という表情を見せるフランク。
 アレックスが帝国皇太子だったという報が入ってからというもの、周辺国家からの救援要請の数が一段と増えてしまった。解放戦線には銀河帝国というバックボーンが控えているという早合点がそうさせていた。しかし、アレックスが帝国艦隊を掌握しようとも、総督軍が守りを固めている共和国を通り越して、アル・サフリエニに艦隊を進めることは不可能なのだ。
 帝国艦隊が総督軍を打ち破るまでは、現有勢力だけで戦わなければならない。たとえ周辺諸国を救援したとしても、防衛陣は広範囲となり、補給路の確保すらできない状況に陥ってしまう。
「悪いが、これ以上の救援要請は受け入れられない。救援要請は今後すべて丁重に断りたまえ」
「ですが、すでにオニール提督がウィンディーネ艦隊を率いて現地へと出動されました」
「なんだと! 勝手な……」
 頭を抱えるフランクだった。
 当初の予定の作戦では、タルシエン要塞を拠点として、カラカス、クリーグ、シャイニング基地の三地点を防衛陣として、篭城戦を主体として戦うはずだった。
 その間に、アレックスが帝国との救援要請と協定を結んで、反攻作戦を開始する。それまではじっと耐え忍ぶはずだった。

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2021.06.27 09:35 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十三章 カーター男爵 Ⅳ
2021.06.26

第十三章 カーター男爵




 公爵より情状酌量を得られたカーター男爵。
 捲土重来よろしく、公爵の信頼を取り戻すためには何をするべきなのか……。
 自分を拾ってくれた公爵への恩を返すには何をすべきなのか?
 自らの居城に戻り策略を巡らす。


 時は遡ること二十年ほど前。
 男爵マンソン・カーターの家系は、没落貴族で爵位をも失っていた。
 十五歳のおり糧を求めて、輸送船の乗組員として雑用係をやっていた。
 その輸送船はロベスピエール公爵の持ち船であり、荷役に折に時折姿を見せる公爵の威厳ある態度に、憧れをも抱いていた。
 そんなある日、公爵がウェセックス公国から帝国本星アルデラーンへと行幸する旅に同行することが叶ったのだった。
 しかも、公爵の御座に酒などを運ぶ配膳掛かりに任命されたのだった。
 行方不明となっているアレクサンダー王子に次ぐ皇位継承第二位であり、次期皇帝確実という身分であった。
 間近で見る高級貴族に羨望のまなざしを向けるカーターだった。


 突然大きく揺れる船体。
「何事だ!」
「か、海賊です!」
「やはり来たか! 応戦しろ!」
 公爵の乗る船の周りに護衛艦が集まって、海賊の攻撃から守りつつ、反撃を開始した。
「どこの所属の海賊か?」
「おそらくは、この辺りを荒らしているドレーク海賊団かと思われます」
「そうか、捕まえて儂の前に引っ立てよ」
「かしこまりました」
 船長はうやうやしく頭を垂れると、オペレーターに命令した。
「重戦艦を公爵の船の前に並べよ! さらに海賊船団を取り囲め!」
 どうやら海賊の出現を予見して、護衛艦隊を隠し持っていたようだ。
 完全包囲される海賊船団。
 海賊と正規軍隊では火力がまるで違った。
 抵抗空しく海賊はリーダーの船を残して全滅した。

 リーダーのドレークは捕えられ、公爵の前に引きだされた。
 後ろ手に縛られ跪かされているドレーク。
「一応、お主の名前を聞こうか」
 厳かに質問する公爵。
「ドレーク。フランシス・ドレークだ!」
 言うが早いか、隠し持っていたナイフで手綱を切って、公爵に襲い掛かった。
「危ない!」
 配膳掛かりで傍に立っていたカーターが、公爵の前に立ちはだかりドレークの襲撃を防ぐ。ドレークのナイフが腹に突き刺さるも、カーターはその手をしっかりと掴んで離さなかった。
 身動き取れなくなったドレークは、従者によって取り押さえられた。
「医者だ! 医者を呼べ!」
 公爵の声が遠くなっていく。
 無事を確認したカーターはそのまま意識を失った。

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2021.06.26 12:37 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)

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