銀河戦記/鳴動編 第一部 第十五章・収容所星攻略 Ⅵ
2021.03.16

第十五章 収容所星攻略




「帰還した機体数は?」
「各空母からの報告をまとめている最中ですが、推定3200機かと思われます。相当やられましたね」
「800機もやられたのか? これじゃあ、勝っても素直に喜べないな」
「ええ……そうですね」
 例え今日の戦には生き残っても、明日は我が身。はっきり言って戦闘機乗りは消耗品である。自ら志願して戦闘機乗りになった者達の宿命とはいえ、自分の能力と悪運が頼りの厳しい世界である。
「ジミーの方はどうなんだ」
「あちらは、邪魔な艦載機はいないし木偶の坊の戦艦相手ですからね。上手く立ち回ってかなりの戦艦を沈めたみたいです。とはいっても装甲の厚い戦艦を撃沈するのは簡単じゃないですけど」
「ちっ。損な役回りを当ててしまったな」
 舌打ちし、悔しそうな表情をしていた。
 その理由は、艦載機一機撃ち落すのと、戦艦一隻撃沈するのとでは、功績点に大きな違いがあるからだ。
「でも、味方の被害を出さないためにも、敵艦載機を撃滅するのも重要ですから」
「判ってるさ」
「それに実質的な功績点以外に、指揮官が与える実戦評価点があるじゃないですか。昇進には両方の点を加算するんですよね」
「あのなあ……何も判っちゃいないな。確かに昇進に際しては、功績点と評価点を加算して考慮されるさ。しかし昇進速度や恩給の算出には功績点の方が分がいいんだよ」
「そうなんですか?」
「功績点は、戦術コンピューターが、敵艦載機や戦艦を撃ち落すたびに自動的に累積計算して、軍の中枢コンピューターにリアルタイムで入力されるんだ。功績点が規定点に達したと同時に昇進候補対象となる。これが曲者でね。カインズ中佐が大佐になり損ねてしまったのも、オニール中佐が一足先に規定点に達して昇進候補に入ったためで、後は大佐枠がなくなって頭ハネを食らったのさ」
「へえ……知りませんでした」
「例え撃墜され戦死してもデータは残るから、遺族恩給なども最期の功績点を元に計算されるというわけさ」
「少佐がやっきになっておられる気持ちが判りましたよ」
「そうか……なら、急いで補給の指示を出してくれ」
「了解」
 と返答したもののすぐに言い返してきた。
「ああ……でも今回の指揮はパトリシアですよね」
「そうだよ。アレックスなら作戦の後で文句の一つも言ってやりたいところだが、パトリシアじゃあそれもできん! 可愛い後輩だからな」
「ですよね。彼女も一所懸命に頑張っているんですから」
「とにかく急いでくれよ」
「へいへい」

 第十一攻撃空母部隊は、巡航艦や駆逐艦に高速軽空母という艦艇で組織されていた。足の遅い戦艦ではとても追いつけなかった。艦載機を全機発進させてより軽くなった空母は、高速移動で敵艦隊の後背に回って、艦載機と一戦して弾薬の乏しくなったハリソン編隊を回収して燃料と弾薬の補給、完了と同時にすぐさま再出撃させて、部隊をさらに敵艦隊を取り巻くようにして高速移動させながら、常に敵艦隊の射程に入らないように行動していた。
 艦載機は全弾を撃ちつくしては、空母に戻って補給、すぐさま再出撃というパターンを繰り返していた。攻撃、回収・補給、再出撃という艦載機による執拗なサイクル攻撃は、確実に敵勢力を削り取っていった。艦載機の援護のない艦隊ほど悲惨な状態はなかった。いかに強大な火力を有していても、小さな目標である艦載機を撃ち落すことは甚だ困難である。

 やがて敵艦隊は勝ち目がないと判断したのか撤退をはじめた。
「敵艦隊が撤退をはじめました!」
 オペレーター達の表情から緊張感が解きほぐされていく。
「追撃しますか?」
 リーナが問いただす。
「いいえ。我々の任務は捕虜の救出です。敵艦隊は放っておきましょう」
「判りました。早速惑星上陸にかかりましょう」
 パトリシア達の奮戦振りをカインズのそばで観察していたパティーが、囁くように言った。
「やりましたね。これで大尉も少佐に昇進ですよ」
「まだ任務は終わっていないよ。収容所の捕虜を救出する任が残っている。もっとも捕虜が残されていそうにないがね」
「そんな感じですね」

 敵艦隊を撃破して、タシミール星の捜索がはじめられることになった。もちろん哨戒艇による索敵は続行されている。先の艦隊が舞い戻ったり、新たなる迎撃部隊が出現しないとも限らないからである。
「揚陸空母部隊を衛星軌道に展開させて下さい。探査機による探査を開始」
 敵艦隊はいなくなったものの、地上がどうなっているかは不明である。確認をしないまま上陸するわけにはいかない。
 報告はすぐに返ってきた。
「地上に敵艦隊の姿はありません」
 パティーがカインズに尋ねる。。
「どういうことでしょうか……」
「カラカスが奪取されたので撤退したのだろう。たいした資源もないから死守する必要もないからな」
 差し障りのない答えをするカインズ。とっくの昔に撤退していたことを知らされていたことは内密だ。
「やはり敵は撤退したようですね」
 パトリシアが確認するように呟いた。
「揚陸艦を降ろして地上を探索してください。装備として生体感応装置を持っていってください」
「了解。生体感応装置を装備します」
「降下部隊用意せよ」
「管制塔などのシステム機器には触れないようにしてください。ブービー・トラップがしかけてあるかも知れませんから」
「了解」
 ブービートラップはランドールのお家芸だ。真似して管制システムなどに手が入れられている可能性が高い。
「とにかく敵兵に注意しつつ捕虜を探し出してください」
 揚陸艦が降下していく。

 やがて降下部隊から、報告が返ってくる。
「惑星地上施設に人影なし。敵兵も味方捕虜も一人として見当たりません。生体感応装置を作動させておりますが、一切の反応がありません」
「地下施設がないかも確認してください。念入りにかつ用心して捜索するように」
「了解!」
 しかし、やはり地上には一切の人影を見出すことはできなかった。
 その報告を聞いてため息をつくパトリシア。
「しかたありませんね。敵はここを完全に放棄して撤退したと判断するべきでしょう」
「いかがいたしますか? この星を占領下におくことも可能です」
 リーナが発言した。
「その必要はありません。我々の任務は捕虜を救出することでした。捕虜がいない以上、速やかに撤収するだけです。全艦に撤収準備を」
「了解しました。撤収準備にかかります」
「準備が整い次第、哨戒艇を呼び戻して帰還の途につきましょう」
 星を占領下におくためには、通信基地などの諸設備を設置しなければならず、何よりも制宙権確保のための部隊も必要となってくる。アレックスの部隊にはそれだけの戦力を割くだけの余力はない。
 カインズに向き直って進言するパトリシア。
「作戦任務を完了。これより帰還します」
「うむ……いいだろう」
「了解。撤収準備を発令します」
 やがて揚陸部隊が引き揚げてきて、帰途につく第十一攻撃空母部隊。

 パネルスクリーンに遠ざかるタシミールが映しだされていた。
 パティーがカインズに囁く。
「結局、今回の作戦の意味は何だったのでしょうね。当初目的の捕虜救出は徒労に終わってしまったという感じですけど。それに、まるで申し合わせたように敵艦隊が現れて、キャブリック星雲の再来じゃないですか。これってまたニールセンの差し金じゃないでしょうねえ」
 勘の鋭いパティーだけあって、すでに気づいているようだ。
「そうかも知れないな」
 例えそれが事実だとしても肯定はできなかった。ニールセン率いる軍部への不審感を助長させることは禁物である。軍部の不審は士気の低下につながり、ひいては反乱を起こす引き金とも成りかねない。バーナード星系連邦との戦争中においての内憂外患は、それはランドール司令がもっとも危惧する事態である。たとえそれが策略だと判っていても、勝つ算段がある限り命令に従うを是としていたのである。
「提督が内密にしたのはこれだったのだな」
 そう思った。
「今回の佐官昇進試験は合格でしょうか? 当初の目的である捕虜救出は果たせませんでしたけど、敵艦隊を撃退に追いやりました。それで十分だと思いますけどね」
「まあ、これだけは提督とて意にならないからな。査問委員会がどう決定するかだ」
「でも相手はニールセンですからね。どうなることやら」

第十五章 了

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2021.03.16 08:41 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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