銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十五章 トランター陥落 V
2021.05.17

第二十五章 トランター陥落




 タルシエン要塞。
 士官用の喫茶室にアレックスと参謀達が集っていた。
 いわゆるお茶を飲みながらの作戦会議といったところである。
 連邦が現れたのは絶対防衛圏内だから、自分らにはお呼びは掛からないし、ここからではどうしようもないからである。
「絶対防衛艦隊および連邦軍艦隊が動き出しました」
 パトリシアが新たなニュースを持って入ってきた。
「やっと動いたか」
「同盟軍の艦隊は総勢三百万隻。対する連邦軍は八十万隻です」
「しかし同盟軍はともかく連邦軍が一時進軍を停止していたのは何故でしょうか? まるで同盟軍が動き出すまで待っていたふしが見られます」
 ジェシカが質問の声を挙げた。
「待っていたんだよ。同盟軍が集結し一団となって迎撃に向かって来るのをね。どうやら連邦は、スティール・メイスンというべきかな……、同盟軍を一気に壊滅させるつもりのようだ」
「両艦隊の遭遇推定位置、ベラケルス恒星系と思われます」
「ベラケルスか……。赤色超巨星だな。この戦い、ベラケルスに先に着いたほうが勝つ」
「どういうことですか。敵は八十万隻にたいして我が方は四倍近い三百万隻ですよ」
「艦船の数は関係ない。我が軍が一億、一兆隻の艦隊で向かったとしても、先にベラケルスに到着したたった一隻の敵艦によって壊滅させられることだって可能だよ」
「馬鹿な」
「提督……まさか、あの作戦を」
 パトリシアが気づいたようだ。
 何かにつけてアレックスと共に、机上の戦術プランを練り上げてきたので、該当する作戦プランがあるのを思い出したのだ。
「その、まさかさ。どうやら、敵将も考え付いたようだ。進撃コースをわざわざ遠回りとなる、ベラケルスを経由しているところをみるとな」
「はい。同盟が全速で向かっているのにたいし、連邦は丁度恒星ベラケルスに十分差で先に到着できるように艦隊速度を加減している節がみられます」
「どういうことですか。私にもわけを話してください」
 ジェシカが再び質問する。
 疑問が生じればすぐに解決しようとする性格だからだ。
「恒星ベラケルスは、いつ超新星爆発を起こすかどうかという赤色超巨星だ。中心部では重力を支えきれなくなって、すでに重力崩壊がはじまっている。そこへブラックホール爆弾をぶち込んでやればどうなると思う?」
「あ……」
 一同が息を呑んだ。
 ゴードンが一番に答える。
「そうか! 超巨星は急速な爆縮と同時に超新星爆発を起こして、近くにいた艦隊は全滅するってことですね」
「でも条件は両軍とも同じではないですか」
「いや、違うな。超爆といっても巨大な恒星だ。中心部で重力崩壊が起こって衝撃波が発生する。その衝撃波が外縁部に伝わり超新星爆発となるまでには時間がかかる。超新星爆発という現象は、中心核で起こった重力崩壊の衝撃波が恒星表面に達してはじめて大爆発を引き起こすのだ。通常の超新星爆発は、重力崩壊が始まって数千年から数万年かかると言われている。だがブラックホール爆弾を使って爆縮を起こせばすぐに始まる」
「へえ、そうなんですか? 知りませんでした。さすが宇宙って、人間の尺度で測りきれない物差しを持っているんですね」
「それじゃあ、意味がないじゃないですか。中心核で爆縮が起こっていても、見た目何も起こっていないということでしょう?」
 フランソワが尋ねる。
「違うな。確かに見た目は変わらないように見える。だが、ニュートリノだけは恒星中心から光速に近い速度で伝わってゆくので、数秒後にニュートリノバーストが艦隊を襲うことになる。ニュートリノに襲われた艦隊がどうなるかわかるか?」
「ニュートリノってのは、ものすごい透過力を持っていて、どんな物質でも突き抜けてしまうんですよね。それでも非常にごくまれに、原子核と衝突して光を発生するってのは知ってます」
「正確には原子核をニュートリノが叩いた時に発生する光速の陽電子が水中を通過するときにチェレンフ光として輝くのだよ。艦には光コンピューターをはじめとして、光電子管やら光ファイバー網があって、チェレンコフ光によってそれらがすべて一時使用不能になるってこと」
「でも水中ではありませんよ。人体なら輝くでしょうけど」
「だがチェレンコフ光として観測されているのは実験室内だけだ。これが恒星のすぐそばで桁違いの数のニュートリノが通過すればどうなるか判らないだろう。それにどんな物質にも水分が含まれているしな」
「まあ、ともかく艦の制御が出来ない空白の時間が発生するということですよね……」
「制御が出来なくても、艦は慣性で進行方向にそのまま進んでいく。その時、ベラケルスから遠ざかる位置にある艦隊と、近づきつつある艦隊では?」
「ああ!」
「ニュートリノバーストが止んだ時には、すでに艦隊はすれ違っていて、相対位置が逆転している。やがて超爆が起こった時に、連邦は当然ワープ体制に入っているだろうから、即座にワープして逃げることが出来るのにたいして、同盟はターンして恒星を待避しつつワープ準備をしてからでないとワープに入れない。おそらく超爆には間に合わないだろう」

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2021.05.17 08:05 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
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