銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十一章 タルシエン要塞攻防戦 Ⅲ
2021.04.27

第二十一章 タルシエン要塞攻防戦




 一方のサラマンダーの方でも驚いていた。
「歪曲場シールド?」
 その技術は、戦艦百二十隻分のテクノロジーだった。
 あのPー300VX特殊哨戒艇にも搭載されている究極のシステムだ。
 アレックスが性能追加させたものだろうが、パトリシアは聞かされていなかった。
 その時、スクリーンに映像音声が流れた。
『やあ! 驚いたかな?』
 フリード・ケースンだった。
「記録映像です! 次元誘導ミサイルが発射されると、自動的に再生されるようになっていたようです」
 スクリーンのフリードが語る。
『虎の子の貴重な次元誘導ミサイルだからね。撃ち落されないように、歪曲場シールドを追加搭載してある。提督の指示だ』
 やっぱりね……。
 パトリシアが頷く。
 フリードは歪曲場シールドの開発設計者である。ミサイルに追加搭載することなど造作もないことであろう。
『ただし、シールド領域を粒子ビームのエネルギー帯域のみに合わせてあるために、レーザーキャノン砲やプラズマ砲には効果がないし、魚雷などの物理的破壊兵器には対応していない。まあ、その分安上がりで、戦艦五十隻分で済んでいる』
 フリードの解説が続いている。
 おそらく性能諸元を秘密にしていたために、それを知らしめるために記録映像を残していたのであろう。
『ゆえに、そこのところを良く理解して、二発目も間違いなく発射成功させてくれ』
『そうですよ。あ・れ・に乗っていく僕の身になってちゃんとやってくださいね。二発目が大事なんですからね』
 突然、横からレイティーが顔を出した。
『こら、邪魔だぞ』
『先輩、いいじゃないですか。僕にも言わせてくださいよ』
『俺がちゃんと説明するよ』
『自分はあそこに行かないからって、こっちの身にもなってください』
『あ、こら!』
 突然、映像が消えて音声だけになった。
 何やらどたばた騒ぎが聞こえてくる。
 どうやらマイクの奪い合いをしているようだった。
 苦笑するパトリシア。その成り行きを聞いているオペレーター達も笑っている。
『パトリシアさん。お願いですよ。ちゃんと成功させてくださいね』
 というところで、音声も消えてしまった。
「記録映像終了しました」
 唖然とした雰囲気が艦橋内に漂っていた。
「とにかく……。予定通りに、タルシエン要塞に降伏勧告を打診しましょう」

 要塞内。
 大型ミサイルによって破壊、炎上するレクレーション施設の消火が行われていた。
「早く、火を消すんだ!」
 突然飛び込んできた大型ミサイルによる内部爆発と言う前代未聞の出来事に、要塞内は混乱をきたしていた。
 中央コントロールは騒然となっていた。
「第一宇宙国際通信波帯に受電!」
 第一宇宙国際通信波帯は、降伏勧告や受諾をする時の、国際的に取り決められた通信波帯である。
「敵隊より投降を呼び掛けてきております。さもなくば次元誘導ミサイルを持って要塞内部から破壊するとのことです」
「次元誘導ミサイルだと? なんだそれは」
「只今、同盟軍兵器データを検索中です」
「敵は、次ぎなる目標として動力炉、メインコンピューター、通信統制室などを予告しています」
「馬鹿な!」
「兵器データ出ました」
「スクリーンに出せ」
「スクリーンに出します」
 スクリーンに次元誘導ミサイルの概要説明図が映しだされた。
 同盟軍の兵器データを閲覧できること自体が不思議ではあるが、おそらくアレックスが敢えて敵軍に漏洩させたと考えるのが妥当であろう。
「ワープ射程は、最少一・二宇宙キロから最大三十六光秒の間」
「やはり先ほどのミサイルが、次元誘導ミサイルのようです。情報部よりの報告によれば、次元誘導ミサイルの開発には膨大な予算がかかるため、試作機が数基製作されただけで、棚上げになったままということになっています」
「うーん、どうかな……。相手はやり手のランドールのこと。誰もが欲しがる攻撃空母を手放して、駆逐艦や巡洋艦主体の高速遊撃部隊を編成したり、戦艦百二十隻分の予算がかかる高性能哨戒艇を多数配備したりしているからな。この日のために、戦艦を削ってでも製作させていたとも考えられる」
「開発責任者の技術将校フリード・ケイスン少佐がランドールの第十七艦隊に技術主任として配属されていることを考えますと有り得ない話しではありませんね」
「次元誘導ミサイルの性能からすれば、十基もあれば十分要塞の機能を破壊できます」
「ワープして内部から破壊されては守備艦隊も堅固な要塞もまったく無意味というわけか」
「反物質転換炉や貯蔵システムに一発食らったらひとたまりもありませんね。解き放たれた反物質による対消滅エネルギーで木っ端微塵です。もっとも敵の目的が要塞の奪取である以上、攻撃目標から外すのは当然でしょうが」
 要塞には防衛の要として、陽子・反陽子対消滅エネルギー砲{通称・ダイバリオン粒子砲}という究極の主力兵器が搭載されており、反物質転換炉と貯蔵システムはその一部構成施設である。反物質が反応しないようにレーザーによる光子圧力によって宙に浮かした状態で密封保存されている。また緊急時には、レーザー出力を切ることによって、解放された反物質による要塞の自爆も可能である。
「敵が再度、投降を呼び掛けています」
「馬鹿が。投降などできるわけがないじゃないか。『タルシエンの橋』の出口を守るこの要塞を奪われれば、同盟への足掛かりを失うばかりか、同盟に逆侵攻の機会を与えることになる」
「投降するよりも要塞を破壊してしまったほうがいいということですね」
「そうだ」
「どうなされますか?」
「無論、投降などできるわけがない。守備艦隊を前進させろ! 敵艦隊と要塞の間に壁を作って次元誘導ミサイルとやらを発射できないようにしつつ、撃滅するのだ」


 サラマンダー艦橋。
「敵守備艦隊が迫ってきます」
 オペレーターの報告を受けてすぐさま指令を出すパトリシア。
「艦隊を後退させてください。これ以上の接近を許してはなりません」
「後退だ。後退しつつ砲火を正面の戦艦に集中させろ。ミサイル巡洋艦を一端後方へ下げるのだ」
 カインズもすぐに応えて、的確な命令を下していた。
「次元誘導ミサイルを撃たせないつもりですね」
 パティーが感想を述べている。
「当然だろ。いくら次元誘導ミサイルとて、加速距離が必要だ。間合いを詰めて発射できないようにするさ」

「敵艦隊、後退します」
「ぬうう……。間合いをとって是が非でもワープミサイルを撃つつもりだな」
 フレージャー提督の元にも次元誘導ミサイルの情報が伝えられていた。
「いかがいたしますか。ワープミサイルを発射しないでも、原子レーザービーム砲という長射程・高出力兵器のある分、敵の方が幾分有利です。指揮官の搭乗している艦を狙い撃ちされたら指揮系統が混乱します」
「サラマンダー型戦艦か……ん? 一隻足りない。確かサラマンダー型は五隻のはずだったな」
「はい、五隻です。サラマンダー型はすべて旗艦ないし準旗艦ですので、別働隊として動いている可能性があります」
「どうしますか。このまま前進を続ければ、要塞は丸裸同然になってしまいますが」
「かまわん。別働隊がいたとしても数が知れている。要塞自体の防御力で十分防げる」
「もし別働隊にもワープミサイルが配備されていたら?」
「いや。敵のこれまでの動きからしてそれはないだろう」
「だといいんですが。それにしてもこのまま、一進一退を続けていてはこちらに不利です」
「わかっている。間合いを詰めるぞ、全艦全速前進」

 その状況はすぐさまサラマンダー艦橋に伝わる。
「敵艦隊、さらに前進。近づいてきます」
「間合いを詰めさせるな。加速後進!」
 その間にも時刻を測りながら、次ぎの行動を見極めているパトリシア。
「敵要塞からの降伏勧告受諾はありませんか?」
「ありません。完全に無視されています」
「致し方ありませんね。次元誘導ミサイル二号機の準備を」
「了解した」
 その時だった。
 要塞と守備艦隊との中間点に、第十一攻撃空母部隊が出現したのだ。
「フランドル少佐より入電しました」
「繋いでください」
 正面のスクリーンにジェシカが現れた。
『待たせたわね。手はずのほうは?』
「作戦は予定通りに進行中です。次元誘導ミサイル一号機発射完了。敵要塞内で爆発したもようです」
『降伏勧告は?』
「応答なしです」
『でしょうね。おっと、時間だわ。また後でね』
 通信が途絶えた。
 空母艦隊から艦載機が一斉に発進を開始していた。

 あの中にアレックスがいるのね……。

 カラカス基地の時もそうだった。
 司令官自らが進んで戦いの渦中に飛び込んで行く。
 決して他人任せにせず、部下と生死を共にして戦う。
 部下の命を最優先に考える思いが、部下をして命懸けの戦いにも逃げ出さずに、司令官に付き従うという信頼関係を築き上げてきたのである。
 八個艦隊の襲来にもあわてず騒がず沈着冷静に行動し、部下の動揺を鎮めることを忘れなかった。
 逃げるときは徹底的に逃げ、戦うときは徹底的に戦ってこれを壊滅に追い込む。
 他の司令官には真似のできないことだろう。ゴードンやカインズとて同じだ。
「ハリソン編隊、攻撃を開始しました」
 ついに別働隊による総攻撃が開始された。
「赤い翼の舞い降りらん事を祈ります」
 パトリシアは、心の中で祈った。

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2021.04.27 12:41 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
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