銀河戦記/鳴動編 第一部 第十五章 収容所星攻略 Ⅲ
2021.03.12

第十五章 収容所星攻略




「Pー300VXを三隻か……」
 カインズは思い起こしていた。
 パトリシアに査問委員会の決定が伝達され、全員が退室した司令官室に、レイチェルと共に残されていた。
「話は他でもありません。パトリシアに与えられた指令ですが、収容所の捕虜はすでに他に移送されていることが、レイチェルの情報部がすでに掴んでいます。しかも今回の作戦の情報が敵情報部に漏洩していて、迎撃部隊がタシミールへ差し向けられたようです」
「なんですって!」
 驚いてレイチェルを見つめるカインズ。それに応えるように発言するレイチェルだった。
「どうやら今回もニールセンの差し金のようですね。タシミールにある収容所の捕虜救出を目的とした、今回の査問委員会による作戦行動の情報を敵側に流して、これを迎撃させて司令の懐刀であるウィンザー大尉を抹殺するつもりなのかも知れません」
「大尉は知っているのですか?」
「いや、知らせてはいない」
「どうしてまた?」
「パトリシアにはいい経験になると考えたからだよ。何も知らされなければ、第十一攻撃空母部隊は間違いなく敵部隊の奇襲を受けるだろう。それをどう察知し回避できるか、今回の作戦はパトリシアに対する試練と考えている。ニールセンがお膳立てしてくれた作戦だ。せっかくだから役に立たせてもらうよ」
「どうやら司令は、大尉が与えられた試練を克服して、無事に帰還できると確信しておられるようだ」
「いくら昇進が掛かっているとはいえ、全滅しかない作戦には派遣させるわけにはいかない。パトリシアには、危険を回避し逆襲する作戦を考えうるだけの能力を有している。作戦指令にはなかった、敵艦隊との遭遇会戦となってどう対処するか。その能力を十二分に引き出せる機会だと思う。だからこそ行かせるのだ。万が一にも敵部隊との交戦が手に余り、パトリシアが指揮権の委譲を願い出るまでは、君には一切口出ししないでもらいたのだ」
「それは構いませんが……」
「これはゴードンにも知らせていないので他言無用でお願いしたいのだが、無事に作戦を終了して帰還し、少佐への昇進を果たした際には、艦隊参謀長に就いてもらおうと思っている」
「現在空位となっている、艦隊参謀長ですか? そんなオニール大佐にも知らせていない重要なことをどうして私に?」
「パトリシアを任せるのだからね。すべてを知っておいてもらいたいと思っているからだよ」
「なるほど、艦隊参謀長という大役に就けるだけの能力があるかどうかを確認するためにも、今回の任務を与えられたというわけですか」
「まあ、そういうことになるかな」
「判りました。すべてを納得した上で指導教官の任務につきましょう」
「よろしく頼むよ」

 カインズは理解した。
 今回の作戦は、パトリシア大尉の昇進試験ではあるが、その指導教官に自分を指名したのは何故か? ということである。
 懐刀であるパトリシアであるだけに、最も近しいゴードンの方が適任であるはずだ。
 カインズ自身も大佐への昇進に漏れてしまった身分である。
 自分自身の昇進試験でもあるのではないかと。

「敵の奇襲を受けることはないだろうな」
 回想を終えて、パトリシアの采配振りに感心しているカインズだった。
 三隻のPー300VXを連れて行くことを許可申請した時点で、任務の重大さを認識していたようだ。
 キャブリック星雲会戦では、情報が敵艦隊に漏洩して待ち伏せを受けていた。ランドール司令を煙たがるニールセンが意図的に流したのだろう、との噂が艦隊士官達の間で囁かれていた。今回の任務もニールセンが絡んでいる、当然同様のことが起きる可能性は高いだろう。
 おそらくパトリシアもそう考えていたのであろう。完璧な哨戒布陣を敷いて、万難を排して事にあたるという慎重な態度は、ランドール司令が艦隊参謀長に推すだけのことはあると、カインズは実感していた。
 ともかくもレイチェルが掴んでいた情報と、パトリシアが推論した結果と、今回の
作戦任務が仕組まれた罠という点では一致しており、どちらが正しくて間違っている
とに関わらず、対処すべき行動指針では同じ結果をもたらすことになった。
 何も知らないで無防備でいると、連邦軍の奇襲を受けて痛い目に遭わされる可能性が高いということである。

 艦内に警報が鳴り響いた。
 オペレーターが一斉に正面スクリーンに視線を向けた。
「敵艦隊発見! Pー300VX三番艦アポロンより通報。五時の方角12.5光秒に敵艦隊を確認しました!」
 そのスクリーンに、哨戒艇から送られてきた敵艦隊の艦影が投影された。なおアポロンとは哨戒艇三番艦の哨戒作戦用の暗号名である。他の哨戒艇にも同様にギリシャ神話の神々の名前がつけられている。
「敵艦隊の艦艇数、およそ千五百隻!」
 すかさず指令を出すパトリシア。
「全艦戦闘配備! 艦載機、全機発進準備!哨戒艇三番艦に敵艦隊との接触を維持、データを逐次報告させよ」
 オペレーター達が、すぐさま復唱しながら命令を伝達する。
「アポロンへ伝達、敵艦隊との接触を維持しつつ、データを逐次報告せよ」
 索敵レンジの違いとその特殊性能から、哨戒艇が敵艦隊に発見、攻撃される懸念はなかった。戦艦百二十隻分もの最新鋭のテクノロジーを満載した艦艇ゆえの配慮だった。
「全艦、戦闘配備完了しました」
「よろしい。艦載機、全機発進! 母艦に追従して待機」

「やはりいたか……どうやら奇襲だけは避けられたようだが。さてこれからどう戦うかだな」
 パトリシアは実戦の指揮を執ったことがない。
 果たして適時適切な指令を下すことができるか。
 オペレーター達は、カインズを見つめていた。パトリシアに代わって指揮を執るのではないかと判断したからだ。
 しかしカインズは動かなかった。
 パトリシアが降参して指揮権の委譲を願い出るまでは、口を出すつもりはなかった。ランドール司令が情報漏洩の可能性を示唆しながらも送り出した相手である。敵艦隊との交戦にも十分堪えうる能力を有しているはずだ。
「敵艦隊の戦力分析図を出して」
「戦力分析図を出します」
 スクリーンに敵艦隊の艦隊構成が表示された。
「戦艦550隻、巡航艦600隻、駆逐艦400隻、フォレスタル級攻撃空母50隻です。搭載艦載機の推定は、およそ4000」
 一般的な一個艦隊編成であった。
 対してこちらの第十一攻撃空母艦隊の勢力は、巡航艦300隻、駆逐艦150隻、セイレーン級及びセラフィム級軽空母900隻であった。
 こちら側は戦艦を所有していない分火力には劣るが、空母搭載の航空機の数では、敵艦隊の4000機に対して、12000機と圧倒的な航空兵力の差があった。しかも足の速い艦艇ばかり揃っている。
 当然戦いの中心は、艦隊戦を避けて艦載機による空中戦となる。
「艦載機、全機突撃開始」
 一斉に敵艦隊に向かって突撃開始する12000機にも及ぶ艦載機の群れ飛ぶ姿は壮観であった。穀倉地帯などで時おり見られるバッタの大群にも似て、その群れ自体が巨大な怪物のようにも思えるほどであった。
「敵戦艦の諸元表を出してください」
 スクリーン敵戦艦のデータがスクロールしながら流れる。
 パトリシアが特に注目しているのは、敵味方の艦艇の速力である。連邦軍の速力は平均して35スペースノット、対してこちらの速力は約40スペースノットであった。
「速力ではこちらに分がありそうですね。敵主砲の射程外に距離を保って艦載機で攻撃するに限りますね」

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2021.03.12 08:27 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十五章 収容所星攻略 Ⅱ
2021.03.11

第十五章 収容所星攻略




「タシミール到達まで、二十四時間」
「パネルスクリーンにタシミールの周辺地図を出してください」
 すぐに地図は現れた。
「Pー300VXを出しましょう」
「索敵ポイントは?」
「惑星軌道周辺と、敵部隊が展開しそうな後方域、このあたりです」
 といって惑星周辺地図の索敵ポイントを指し示した。
「哨戒艇はもう一艇ありますが?」
「我が艦隊の後方哨戒に出します。背後から襲われてはたまりませんからね」
「そうですね」

 パトリシアの命を受けて、セイレーンから三艇の哨戒艇が出撃した。
 攻撃能力がない超高価な哨戒艇ならば護衛戦闘機が付くところであるが、ステルスという性能から護衛は付かない。戦闘機が索敵されたら意味がないからである。
 その艦影を見つめながらリーナが呟いた。
「確か一艇あたり戦艦百二十隻分もの開発予算が掛かっていると聞きましたが……」
「その通りです」
「それだけの効果はあるのでしょうか? 私なら戦艦百二十隻の方に触手が動きますけどね。索敵なら一番安くて早い駆逐艦を派遣すればいいんじゃないかと思いますけど」
「そう考えるのが妥当でしょうね。しかし、それでは敵を発見しても、同様に敵に発見される可能性が高いのです。歪曲場透過シールドは敵に発見されることなく、敵だけを発見しつつその場に留まって引き続き敵の情勢を逐一監視することができます。敵艦隊に察知されて会戦となれば、戦艦百二十隻以上の損害を被ることもありえます。そう考えると戦艦百二十隻分の開発費も無駄にはならないでしょう」
「肝心な探査波が透過シールドで透過されて検知できないということは起こらないのですか?」
「それは大丈夫です。探査波はちゃんとシールドを透過してくるわけですから、検知は可能でしょう」

 やがて哨戒艇からの報告が返ってくる。
「タシミール星周辺に敵艦隊の存在は見当たりません」
 というものだった。
「どういうことでしょう……」
 リーナがパトリシアと見合わせ首を傾げた。
「とにかく引き続き索敵を続行してください」
「了解。索敵を続行します」
 それから一時間ほど索敵が行なわれたが敵艦隊は発見できなかった。
「敵艦隊はとっくに撤退したのではないでしょうか? さっさと惑星に降下して捕虜がいないかどうかを確認なさってはいかがですか?」
「いえ。敵艦隊がいないからこそ用心しなければいけないのです」
「どういうことですか?」
「今回の作戦の根拠となった当初の情報に問題があるからです」
「情報に問題ですか?」
「その出所はどこだと思いますか?」
「統合軍の情報部と伺っておりますが……」
「なぜ統合軍の情報部なのでしょう。ここから一番近いのは我が第十七艦隊なのです。出撃前にレイチェル少佐に確認したところ、その配下の情報部では掴んでいなかったそうです。あのレイチェルさんでさえ突き止めていなかった情報を、どうして統合軍の方で掴んだのでしょう。おかしいと思いませんか?」
「そういえば……変ですね」
「ハンニバル艦隊のことを思い出してください。提督をカラカスから引き離す陽動作戦として、連邦軍はハンニバル艦隊を差し向け、ニールセン中将を動かして、提督の艦隊に迎撃を命じました。そうですよね」
「その通りです」
「今回も同様だと思います。ニールセンの元に捕虜収容所の情報を流せば、当然ランドール提督に救出作戦の命令が下されるでしょう。たまたまそれがわたしの佐官昇進の査問試験となったわけです。そもそもカラカス基地とその周辺星域が奪取された時点で、捕虜収容所として不適切になっています。言わば最前線に位置する場所にあるのですからね。通信施設のみ残して捕虜を移送するのが尋常でしょう」
「確かに疑問点があり過ぎますね」
 やっとリーナも納得したようだった。
「我々がタシミール収容所星にむかったという情報は、進撃コースも到着予定時刻も査問委員会に事前報告を義務付けられていますから、我々の行動はおそらく敵艦隊に筒抜けです。タシミールに上陸した頃合を計って急襲すれば、迎撃の余裕さえ与えずに壊滅できるはずです」
「なるほど」
「提督が貴重な哨戒艇を三隻も許可してくださったのも、その事を理解しておられるからです」
 パトリシアとリーナの会話は、同乗している監察官にも聞こえている。おそらくニールセン中将の息が掛かっているだろうが……。
 あえて名指しで謀略だと言い張るパトリシアであった。

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2021.03.11 08:03 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十五章 収容所星攻略 Ⅰ
2021.03.10

第十五章 収容所星攻略




 パトリシアは副指揮官リーナ以下の参謀達を作戦室に招集して、タシミール収容所の状況と作戦の概要を説明した。
「これが今回の作戦の目的地のタシミール収容所です」
 スクリーンに情報部よりのタシミール概要を表示させた。
「ここに同盟の捕虜数千人が収容されているという情報があります。我々はここに進軍して事実確認をすると共に、情報通りなら捕虜を救出します」
「その情報というのは、どこから出たのですか? 情報参謀のウィング少佐ですか?」
 リーナが尋ねた。
「いえ。ウィング少佐の情報部ではありません。統合軍直属の情報部よりのものです」
「となると信憑性はかなり低いですね」
「信頼性ないですからね、統合軍は。何たってランドール提督を落としいれようとしている連中ばかり集まっているんですから」
 ジャネットがさもありなんといった表情で答える。
 うんうんと皆が頷いている。
「とにもかくにも任務です。情報通りと考えて行動するよりありません。そして捕虜という人質がいますので、電撃的速攻であたらねばなりません」
「電撃的速攻と申されても、それには敵に悟られることなく接近、戦闘を開始するしかありません。どうなさるおつもりですか?」
「我々の接近を直前まで知られないために、P-300VX特務哨戒艇を使って敵艦隊の動静を探り、一気に行動を起こします」
「特務哨戒艇?」
「P-300VX?」
 一同が首を傾げた。
 P-300VXは、戦艦搭載の索敵レーダー能力の十倍以上の索敵レンジを誇る、超高性能の索敵レーダーを搭載した哨戒艇である。戦闘用の艤装は一切なく、エンジンを除けば、挺身のほとんどが最新最高性能の索敵レーダーと電子装備で占められていた。秘密兵器は索敵レンジの広さだけではない。敵の索敵レーダーなどの探査波が到来してきても、川面に頭を出した岩に当たった水の流れのように、特殊な歪曲場シールドがそれをすべて後方に透過させて、哨戒艇自身が発見されることを防いでいた。とりもなおさず可視光線さえも透過させるので、その艦影を視認することさえも不可能であった。
 これを開発したのは、技術部開発設計課にいたフリード・ケイスンであった。
「ほんとに何でもできるんだな」
 とアレックスを感心させる天才科学者である。
 しかし哨戒艇の発案者はパトリシアであった。
 キャプリック星雲遭遇会戦の教訓をもとに、いかに索敵が重要かを身に沁みて実感していたパトリシアが、哨戒艇の原案をフリードに説明して開発研究を依頼し、アレックスに具申して五隻ものP-300VXの導入を実現させたものだった。基本的にサラマンダー以下の旗艦・準旗艦にそれぞれ一隻ずつ配属させていた。
 最新鋭高性能な哨戒艇ではあるが、反面その製造コストも莫大で、戦艦百二十隻分にも相当すると言われている。共和国同盟の新造艦艇リストに加えられ、詳細性能が公表されても。それを進んで導入する艦隊は少なく、せいぜい一艦隊に一隻か二隻ほどしか配属されていなかった。哨戒など数隻の駆逐艦を索敵に出させば済むことだと、高価な哨戒艇よりも戦艦百二十隻の方を選択するのが当然であった。
 パトリシアは今回の任務に、その貴重な哨戒艇を三隻も借りて連れてきていた。

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2021.03.10 07:50 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十四章 査問委員会 Ⅵ
2021.03.09

第十四章 査問委員会




「出撃してよし!」
 出撃の許可を下すカインズ。
「了解!」
 前に向き直って下礼するパトリシア。
「全艦、出撃! 微速前進!」
 その命令を復唱し、機器を操作するオペレーター達。
「全艦出撃開始」
「微速前進!」
「機関出力、微速前進。推力15%」
「前方、オールグリーン。障害物なし」
 ゆっくりと進撃を開始する空母部隊。
「全艦異常なし」
「よし。進路をタシミール宙域へ」
「了解。進路、タシミール宙域」
「取り舵、十度。ベクトル座標を確認・入力」
「α3120、β367、γ9285」
「ベクトル座標確認・入力完了しました」
「これより亜光速航行に入る。全艦、亜光速へ」
「亜光速航行へ移行します」
「全艦、亜光速航行!」
 日頃からアレックスやスザンナ艦長のそばで、艦隊運用の指揮を目の当たりにしていただけに、パトリシアの指揮には微塵の惑いもなかった。記憶力にかけては艦隊随一を誇るだけに、自信のほどを伺わせる表情を見せていた。
「提督が出られております」
 通信士が進言した。
「スクリーンに出して」
「スクリーンに出します」
 正面のスクリーンに、昇進して将軍の一人となったばかりのアレックスの姿が映し出された。提督というオペレーターの声に、よくぞここまでという頼もしい感情に溢れた。そして今、その期待に応えるべく出撃できる思いに感謝したい気分だった。
「パトリシア、実戦を指揮する初陣だ。気を引き締めてな」
「はっ! 頑張ります」
 アレックスの横から顔を出して激励するのはジェシカだった。
「朗報を待っているわよ」
「ご期待に応えます」
「祝杯を用意して待っているからね」
「はい!」
「それじゃね」
 カッと踵を合わせて最敬礼するパトリシア。
「行って参ります」
「うむ」
 敬礼を返して答えるアレックス。
 そして通信が切れた。

「機関出力82%、亜光速に到達しました」
 オペレーターの声に、改めて姿勢を正し緊張の面持ちで下令するパトリシア。
「これよりワープに入る。全艦ワープ準備」
「全艦ワープ準備」
「ワープ航路、設定完了」
 指揮官としてワープ命令を下すのははじめてのことであった。しかし訓練は何度となく経験しているし、シュミレーションも充分すぎるほど行なっている。
 自信はあった。
「全艦に伝達、リモコン・コードを旗艦セイレーンに同調。確認せよ」
「全艦、リモコン・コードを旗艦セイレーンに同調させよ」
 正面のパネルスクリーン上に部隊の各艦艇を示すマーカーが赤く点灯している。それがコードを設定完了した艦から次々と青の点灯に変わっていく。それらがすべて青に切り替わった。
「全艦、リモコン・コードの同調完了。ワープ準備完了しました」
「よろしい。これより三分後にワープする」
「ワープ三分前、設定します」
「ワープコントロールをリンダ・スカイラーク艦長に任せる」
「ワープコントロールをスカイラーク艦長へ委譲します」
 艦隊リモコン・コードを使用して、旗艦に同調させた場合には、その操艦のすべてが旗艦艦長のリンダ・スカイラークの双肩にかかることになる。
「ワープコントロールの委譲を確認。これより全艦ワープのオペレーションに入ります。ワープ、二分三十秒前!」
 これまでに何度となく全艦ワープを取り仕切っているリンダだけに、何の躊躇もなくコントロールパネルを操作している。もちろん他のオペレーター達も一抹の不安を抱くことなく安心しきっている。
 オペレーター達がワープ体制に突き進むその姿を指揮官籍から監視しているパトリシア。リーナから手渡された書類に目を通してサインして返している。
「ワープ、二分前。総員、着席ないし安全帯着用。ワープに備えよ」
 ワープには少なからず衝撃がある。身体を振り飛ばされないように着席するか、立ち作業の機関部要員などは安全帯で、艦の筐体に固定させる必要がある。
 艦内の各員それぞれが緊張の面持ちで身体の固定に取り掛かっていた。
「ワープ一分前。最終確認に入ります。ワープ座標設定、ベクトル座標α3120、β367、γ9285」
「ワープ座標設定を確認。オールグリーン、ワープスタンバイOK!」
「艦隊リモコンコード設定よし。全艦、ワープ体制問題なし!」
「旗艦セイレーン、機関出力最大へ。ワープ三十秒前!」
「兵器への動力供給をカットします」
 ワープ実行中は一切の戦闘が行なえない。兵器に動力を供給しても意味がないのでカットして、その分をワープエンジンなどに回すわけである。カットされるのは兵器だけではない、ワープに少しでも余剰電力を回すために、照明などあらゆる方面で電力削減が行なわれる。
「各ブロックの電力をセーブします」
「最終カウントダウン開始、十秒前、九、八……」
 さすがに全員が緊張して、息を呑んでいる。
 パトリシアも大きく深呼吸をしている。次なる下令のためである。
「……三、二、一」
 そしてパトリシア。
「全艦ワープ!」
 リンダが復唱する。
「全艦ワープします!」

 宇宙空間を進む第十一攻撃空母部隊。
 それを取り囲む空間が一瞬揺らいだ。
 そして次の瞬間には、部隊全艦の姿が亜空間に消え去った。

 第十四章 了

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2021.03.09 07:24 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十四章 査問委員会 V
2021.03.08

第十四章 査問委員会




 士官学校の話題にしばし心和む時間を有していたパトリシア達。
 それを打ち消したのがジミーだった。
「ところで本題に戻るけど、敵艦隊が待ち受けしているとの噂がある。それが本当だとして、勝算はありそうかい?」
「これだけは何とも言えません。敵艦隊のことは、あくまで噂や憶測でしかありませんから。想定されるあらゆる可能性を考慮に入れて、作戦プランを練ってはおりますが」
「そうか……それを聞いて安心したよ。パトリシアが考え出した作戦なら確かだからな」
「買いかぶらないで下さい。緊張しちゃいますよ」
「何を謙遜しているんですか。みなさん期待しているんですからね。早く少佐になってアレックスを作戦面でバックアップしてあげなさいよ」
「努力致します」
「うん。その意気でいきな」
 気楽な表情で語り合っている三人であるが、いざ敵艦隊との戦闘になれば、先頭を切って飛び出し生死を分けた戦いに駆り出されるのは必至である。それだけにその陣頭指揮を執るパトリシアに対しては万感の思いを持っているに違いない。
 何にせよ、アレックスとその参謀達への信頼は揺るぎのないものであった。
「ウィンザー大尉。そろそろ艦橋に参りましょう」
「あ、はい。そうしましょう」
 いつまでも語り合いたい心境ではあったが、出撃予定時間が迫っていた。
「頑張れよ」
「戦闘に関しては、俺達にまかせてくれよな」
「はい。よろしくお願いします」
 軽く敬礼して、パイロットの控え室を退室するパトリシアとリンダ艦長であった。

 エレベーターの所まで戻ってくる二人。
「このエレベーターを昇ったところが艦橋です。参りましょう」

 エレベーターを昇り詰めた先に、セイレーンの艦橋があった。
 入室してきたパトリシアを見て、一斉に立ち上がって敬礼をするオペレーター達。
「何してたのよ。遅かったじゃない」
 リーナがリンダに耳打ちするように叱責している。
「ごめんなさい。ちょっとジミーさん達と」
「あのねえ……あなた艦長でしょう。責任者としての地位にあるものが、任務を忘れてどうするのよ。艦内における指揮官の行動を把握して、十二分に采配を振るえるようにして差し上げるのが艦長の役目でもあるのよ。それを……」
「済みませんでした。以後気をつけます!」
 少し悪戯っぽい口調で答えるリンダ。
「まったくう……。これで艦長だって言うんだから、呆れるわ。いいわ、席に着きなさい」
「はーい」
 スキップするような足取りで艦長席へ向かうリンダであった。
「全然、反省してないわね……」
 呆れ顔のリーナ。
「さてと……」
 と、ここで真顔に戻ってパトリシアを見やるリーナ。
「ウィンザー大尉。そろそろ出航の時間です。指揮官席にお座りください」
「そうですね……。判りました」
 甲斐甲斐しく働くオペレータ達の動きや、パネルスクリーンに投影された各艦の様子を見つめていたパトリシア。リーナの進言を受けて静かに指揮官席に腰を降ろした。その傍にリーナが副指揮官として立ち並んだ。
「中佐殿に連絡して」
 リーナが指示し、スクリーンにカインズが映し出された。
「準備完了致しました。こちらへお越しください」
「判った。今から行く」
 やがてパティーを連れてカインズが艦橋に現れた。
「これより、査問委員会の命を受けてパトリシア・ウィンザー大尉の佐官昇進試験の一環として、タシミール星にて確認された収容所からの捕虜救出作戦に出撃する。パトリシア・ウィンザー大尉。指揮を執りたまえ」
 そして艦橋の後方に誂えた教官席に腰を降ろした。
「了解しました」
 指揮パネルを操作して、艦隊運行のシステムを立ち上げるパトリシア。
「現在の艦隊の状態を報告して下さい」
「全艦の状態は良好です。いつでも出航可能です」
「よろしい。そのまま待機せよ。全艦放送の用意を」
「全艦放送の用意は完了しています。どうぞ」
 声を整えて静かに言葉を告げるパトリシア。
「全艦の将兵に告げる。これより第十一攻撃空母部隊は、タシミール星にあるとされる収容所の捕虜救出のために出撃する。各将兵達の奮闘を期待します」
 艦内のあちらこちらで、パトリシアの出撃に向けての放送に耳を傾けている将兵達。その表情には心配の陰りを見せてはいなかった。我らがランドール提督が差し向けた指揮官に、不安の種などあるはずもないと信頼しきっていたのである。
「出撃の時間です」
 パティーの報告を受けて、後ろを振り返るパトリシア。
「カインズ中佐。よろしいですか?」

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2021.03.08 07:09 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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