銀河戦記/脈動編 第一章・謎の宇宙生物との闘い Ⅱ
2021.09.17
第一章・謎の宇宙生物
UMO(Unidentified Mysterious organism/未確認生物)
Ⅱ
仲間の一人を救えなかったという悲痛な思いを抱きながらも、捜索隊が惑星のラグランジュ点にある基地に戻ってきた。
船着き場に艇を係留させて下船する一行。
基地入り口の消毒シャワーを浴びてから宇宙服を脱ぎ、基地に入場する。
「あんまり慌てていたので、検体を一つでも移送できなかったのが名残惜しいです」
医者が嘆くと、生物学者も同意した。
「わたしもです。あのアメーバーの一部分でも採取できていれば」
「言うなよ。逃げ出すだけで精一杯だった。アレ一体だけとは限らないのだからな。気が付いたら無数のアメーバーに取り囲まれていました、なんて考えたら心砕けるぞ」
「そうですね。生物かどうかもまだはっきりしていませんが、もし生きているのなら生殖とか種族維持とか調べたかったですけど」
「何にせよ。今頃あいつは恒星でくたばっているか、無限増殖をはじめているかのどっちかだ」
「くたばっていてほしいですね」
「ともかくボスに報告するか」
基地指揮官のオフィスに向かう。
「やあ、お帰り。ご苦労様」
暖かく出迎える指揮官。
指揮官に詳細を報告する隊長ウォーレス・トゥイガー大尉。
「そうか……、亡くなられた隊員のご家族には私から連絡しておこう。ご苦労だった。もう休んで良いぞ。報告書は明日にでも提出してくれ」
「かしこまりました」
指揮官室を出た一行は、それぞれの自室に戻った。
自室に戻りシャワーを浴びてからベッドに入るトゥイガー大尉。
その時だった。
照明が点滅を始めたのである。
「なんだ……まさかな」
ふと過(よぎ)った予感は、現実となる。
照明が消え、回っていた換気扇の音が止まった。
「おいおいおい、本当のまさかかよ」
青ざめて飛び起きて通路に出ようとしたが扉が開かない。
「電力喪失かよ。こりゃ本物なんじゃないか?」
緊急用の開閉装置を手で回して扉を開けて通路に出た。
非常事態を察した部下たちも飛び出していた。
通路は停電用の非常灯が点いている。
生物学者のコレットが駆け寄ってくる。
「隊長! これは?」
「おまえのところもか?」
「はい。電力が通じていません!」
「まさかあいつがもう一匹いて侵入されたのか?」
「アレが生物であるならば、増殖していたとしても不思議ではありませんが」
「一匹だけとは限らないか……」
「本当にアレに侵入されたとしたら、どうやって排除しますか?」
「そうだな。ブラスターは相手に加勢するようなもんだしな。何とか弱点を突き詰めないと大変なことになるぞ。おまえ生物学者だろ? 何とかならんか」
「そんなこと言われても、UMO(Unidentified Mysterious organism/未確認生物)なんですから知るわけないですよ。標本採集して色々と生体実験とかしてみなきゃ……」
「だろうな……。ともかくボスのところへ行って対策を考えよう」
基地指揮官のいる部屋へと歩き出す二人。
「他の仲間の方々は何してんだ? この非常時に」
「たぶん停電時の扉の開け方を知らないのでは」
「しようがない奴らだ」
放っておいて先に進む。
「非常灯が!」
バッテリー内臓の非常灯が消えた。
「電池切れか」
「大丈夫です。ちゃんと用意してきました」
というと手提げ鞄から懐中電灯を取り出した。
アメーバー相手には役に立たないが、暗闇から突然襲われることはないだろう。
懐中電灯で照らしながら、慎重に進んでいく二人。
「ボスの部屋だ」
指揮官の部屋の前にたどり着いた。
「トゥイガー大尉、入りますよ」
返事はなかった。
嫌な予感がして、扉を手でこじ開けて中に入る隊長。
「ボス! いますか?」
返答はなく、何かが蠢くような音がした。
コレットが懐中電灯で部屋の中を照らす。
そこにいたのは……。
「あ、あいつだ!」
まぎれもなく探索艇を侵食したアメーバーだった。
そして床に干乾びて倒れている指揮官。
「どうやって入り込んだんだ?」
「こっちに向かってきます!」
「俺たちの生命エネルギーを喰らう気だ。逃げるぞ!」
「どちらへ?」
「操船室だ!」
「まさか?」
「その、まさかさ。あいつを放っておくわけにはいかない。まだ動くうちに恒星に落下させる」
だが操船室に向かう通路にアメーバーが待ち受けていた。
「ちくしょう! 先回りされたか?」
「別のヤツかも」
「こうなったら機関室へ行って直接エンジンを操作して軌道を変えよう」
機関室へ行き先を変更する。
「しかし、他の隊員に出会いませんね」
「扉を開けるのに苦労しているか、それとも……」
二の句を飲み込む隊長だった。
無言で機関室へと向かう二人。
懐中電灯で照らしながら進んでいく先を塞ぐ怪しげな影。
その足元に転がるのは人だった。
照らされて見るその表情は恐怖に引き攣ったまま硬直している。
「あいつだ!」
ここにもアメーバーが侵略していた。
「これでは機関室には行けないな」
「それどころか、前と後ろを挟まれました」
「一体何匹いるんだよ」
立ち止まった場所は、超伝導発電機室だった。
「ここへ逃げ込もう」
扉をこじ開けて中へと入る。
電力が通じていれば、カードキーなしでは開かないが、停電時には手で開けられるようになっている。
発電室に逃げ込んだ。
そこには発電機室担当の耐熱スーツを着込んだ職員がいた。
ここは超伝導を発動させるために、絶対零度に近いヘリウムによって、機械が冷やされているので、洩れる冷気によって部屋全体が極寒状態である。
「何だおまえは? 何か用か?」
外で起きている事変に気づいていないようだった。
「怪物が船の中に侵入したんだ!」
「怪物だと?」
「気づいていないのか?」
事情を説明する隊長。
「俺たちは、こんな格好だからこの区域からほとんど出入りしないからな。外のことなど分からん」
「ちょっと指令室に連絡してみるよ」
コントロールルームに入って連絡を入れる職員。
「だめだ、繋がらないよ。やられたのかな?」
「しかし寒い!」
超伝導を発動させるために、発電機がヘリウムによって極超低温に冷却されている。それが部屋全体を冷やしている。
「そこのロッカーに耐熱スーツが入っているぞ」
壁の側にあるロッカーから耐熱服を取り出して着込んだ。
「入ってくるのか?」
待ち構える。
やがてドアの隙間から侵入してきた。
今まさに襲われると思った時、アメーバーの動きが鈍くなり、そして停止した。
「止まった?」
動く気配がなかった。
ふと、後ろにある発電機を見る。
「まさか、こいつのせいで動きが鈍ったのか?」
相手はエネルギーを吸収する化け物だ。
極超低温の環境では動けないのか?
吸収するどころか、自身内部のエネルギーを奪われて停止してしまったのか?
「死んだのか? いや報告では宇宙を漂っていたとある。あくまで冬眠状態になっていると言った方がいいかもしれない」
完全凍結させて、粉々に粉砕したら死ぬのだろうか?
このまま放っておけば、凍結が溶けたらまた動き出すに違いない。
「ともかく動き出さないように、完全凍結させておくか……」
超伝導発電機に繋がっている液体ヘリウム注入用のチューブを外して、アメーバーに向かって放射した。
バリバリに凍ってゆくアメーバー。
「これでも喰らえ!」
そばにあった椅子で、粉々に砕いてしまう職員。
「よし、塵一つ残さないように集めろ!」
かき集めて保冷ボックスに入れ、液体ヘリウムの容器に沈めた。
「奴の弱点は冷気だな。凍らせて動きを止めた時に、破砕して保冷容器に密封して閉じ込めてしまおう」
「液体ヘリウム漏出の際に使う絶対零度冷却ガンを使用しましょう」
「そうだな。全員に冷却ガンを持たせよう」
アメーバーに対する退治法が分かったので一安心する一同。
「あいつが何匹いるか分かりませんが、どうやって退治しますか?」
「エネルギーを求めて徘徊する奴だ。基地内のすべての動力源をカットして、一カ所だけ動かしていれば誘蛾灯のごとく集まってくるだろう。そこを一網打尽に凍結させて捕獲する」
作戦が決まれば実行するのみである。
綿密な計画が練られて、アメーバー退治が行われた。
数時間後、ついにアメーバーの駆除に成功した。
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11
銀河戦記/脈動編 第一章・謎の宇宙生物との闘い Ⅰ
2021.09.11
第一章・謎の宇宙生物との闘い
UMO(Unidentified Mysterious organism/未確認生物)
Ⅰ
ニュー・トランターを開拓している間にも、さらなる惑星探しに向かう探索隊が編成され、探索地域をブロックに分けて、それぞれに探索隊が派遣された。
第103探索隊は、銀河の中心方向へと向かっていた。
その母船には高精度の光学・電波望遠鏡や重力加速度計などが備わっており、天文学者があらゆる方向の天体を観測しつつ惑星系のありそうな恒星を探している。疑惑の星が見つかれば、超高速探索艇が繰り出されて調査に向かう。
探索艇の一つ。
パイロット達が、計器を操作する傍らで話し合っている。
「地球を脱出した人類が、天の川銀河系全体に移住を完了するまで千年ほど掛かったと言われますが、この銀河を全制覇するには何年掛かりますかね。地球脱出時代より宇宙航行の科学技術などはかなり進歩してますけど」
「星を巡り足跡を残すだけなら、十年もあれば到達できるだろうが。開発し居住できるようにするとなれば、最低でも百年はかかるだろうな」
「百年ですか……。自分の子供か孫の世代になるんでしょうね」
「まあ、そういうことだな」
「ところで開拓団には、帝国・同盟・連邦の三カ国からの移住希望者がいますよね?」
「それがどうした?」
「開拓した星を、それぞれの国家の領土として領有宣言して、紛争ごとになりませんかね」
「それはないだろう。移民船に乗る時に国籍を捨てて、銀河統一連邦の方針に従うと宣言したはずだ」
「そうでした……」
その時、警報音が鳴り響いた。
「なんだ?」
「重力加速度計に反応です! 前方十二光秒!」
「前方モニター拡大!」
宇宙の彼方から近づいてくる物体があった。
「なんだあれは?」
「なんだかウネウネと蠢いていますよ。まるでアメーバみたいです」
「絶対零度に近い真空中に生物がいるのかよ」
「どんどん近づいてきます」
その生物と思われる物体が探索艇に取り付いた。
「エンジンが不調です! 出力が上がりません!」
「外部モニターだ! エンジン噴出口を映せ!」
そこに映されたのは、噴出口に喰らい付いているアメーバーの姿だった。
「あいつ噴出口から出るプラズマを喰っていますよ」
「まさか! プラズマは5000度以上の高温だぞ。通常の生物なら生きていられまい」
だがアメーバーは平気で喰らい続ける。
やがて噴出が停止したかと思うと、噴出口の中へと潜り込んでいった。
「あいつ、船内に侵入するつもりじゃないですか?」
「この船の動力炉のエネルギーを狙っているのか?」
「分かりません」
「基地に連絡だ! 我、宇宙生物に遭遇セリ!」
宇宙空間の温度は絶対温度の3K{ケルビン/摂氏ー270度}。
1965年にベル電話研究所で働く「アーノ・ペンジアス」と「ロバート・ウィルソン」が「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」と呼ばれる電磁波を確認して、その波長が黒体放射の3Kであることを突き止めた。1978年ノーベル物理学賞受賞。
探索隊本部。
「第103探索隊が消息を絶ちました」
「通信はどうなっているか?」
「宇宙生物に遭遇したという通信を最後に途絶えました」
「宇宙生物? 襲われたというのか?」
「おそらく……」
「捜索隊を出さなければならないが、宇宙生物の存在があるとしたら、それなりの対策をしておかなければならんな」
「生物学者、それも宇宙生物の権威を同行させた方がいいですね」
生物学者の同行を得て、捜索隊が出発した。
捜索隊の隊長 ウォーレス・トゥイガー大尉。(英♂)
副長 ジェレミー・ジョンソン曹長。(英♂)
船長 フリートヘルム・クラインミヒェル。(独♂)
機関長 ヨーシフ・ペカルスキー。(露♂)
操舵手 ロレンソ・セサル。(西♂)
レーダー手 フェリシア・ヨハンソン。(瑞♀)
通信士 フランカ・メインス。(蘭♀)
生物学者 コレット・ゴベール(仏♀)
医者 ゼバスティアン・ハニッシュ(独♂)
以上の九名である。
隊長と副長は軍人で、その他は民間人の乗組員である。
やがて第103探索隊が消息不明となった区域にたどり着いた。
「レーダーに反応があります。行方不明の探索艇かと思われます」
レーダー手のフェリシアが報告する。
「フランカ、本部に探索艇の発見を打電してくれ。位置もな」
隊長のトゥイガー大尉が下令する。
「かしこまりました」
通信士のフランカが発見場所を本部に打電する。
「よし、接近してみよう」
反応のある方に向かって進んでゆくと、漂流する探索艇が見つかった。
「エンジンは停止しているようです」
「周囲に、怪しい物はいないか?」
音信不通となる直前に宇宙生物襲来を打電しているので警戒する必要がある。
「ありません。この船だけです」
「探索艇に乗り込んで調べてみよう。学者を呼んできてくれ」
探索艇に接舷する捜索艇。
捜索艇から連絡通路が伸びて探索艇の乗船口にドッキングする。
「よし、行こう!」
船長と通信士を残して、探索艇へと乗り込んでいく。
宇宙服を着込んで、探索艇の乗船口気密室から潜入することにする。
「ハッチが開きません。電力を喪失しているようです」
「手動で開かないのか?」
「開けられますけど、中に入って至る所で手動でやってたんでは時間の無駄です。救助船から電力ケーブルを引いて繋いだ方がいいかと」
機関長が進言した。
「わかった。やってくれないか」
「はい。すでに準備はしておりました」
救助船から電力ケーブルを持ってくる機関長。
手際よく探索艇の外部給電端子に接続する。
「よし、これでOKです。探索艇の電源が復活しているはずです」
隊長がハッチの開閉スイッチを操作すると、静かにハッチが開いた。
船の中には空気が保たれているようだったが、
「細菌感染の危険がありますので、宇宙服は脱がないでください」
生物学者が注意を促した。
「分かった。ともかく船の中を調べよう」
気密室を出て船内に入る。
「あ! 誰か倒れています」
駆け寄る一同。
「だめだ! 死んでいる」
医者のセバスティアンが確認した。
「どんな状況ですか?」
「どうでしょうかねえ、こんな遺体を見るのは初めてですが……。なんでしょうねえ、生命エネルギーを吸い取られたという感じです」
「原因不明の病気かでしょうか?」
「分かりません」
「このまま放置しておいて、他の部屋や操舵室に行ってみよう」
「二手に分かれましょう。操舵室のある前方と、機関部のある後方とにです」
副長が提案する。
「そうだな。俺とフェリシアン、ロレンソ、セバスティアンは前方の操舵室を調べる。副長と残りの者は後部の機関室などを調べてくれ」
操舵室へと向かう隊長の班。
「全然人に出会いませんね。皆死んでしまったのでしょうか?」
レーダー手のフェリシア・ヨハンソンが呟くように言った。
「分からんな。確かに誰にも会わないが」
操舵室にたどり着いた。
ドアの開閉スイッチに手を掛ける隊長。
「中には何があるか分からん。ブラスターを構えておけ」
命令に従って、各自腰に下げたホルスターからブラスターを抜く。
「開けるぞ!」
静かにドアが開く。
緊張の面持ちで、ゆっくりと室内へと入る。
動いている物は一つもなかった。
床に倒れている職員たちがいるが、全員死亡していた。
「だめです。生存者はいません」
医者のゼバスティアン・ハニッシュが生死を確認する。
「全滅なのか……?」
「動かせるか確認してくれ」
操舵手のロレンソ・セサルに命じる。
「分かりました」
操舵機器を調べ始めるロレンソ。
同様にレーダー機器を調べるフェリシア。
その頃、もう一方の副長の班も機関室にたどり着いていた。
「結局ここまで生存者はいませんでしたね」
生物学者のコレット・ゴベールが嘆く。
「ともかくエンジンを調べよう」
副長ジェレミー・ジョンソン曹長の指示のもと、機関長のヨーシフ・ペカルスキーがエンジンを調べ始めた。
コレットは、遺体から宇宙生物の痕跡がないか調べている。
「エンジンの方はどうだ、動きそうか?」
「駄目ですね。動力源のエネルギーが尽きています」
「そうか……。ならば、この船を曳航して本部に戻るしかないな」
「この船……大丈夫なのでしょうか? 恐ろしい病原菌とかに汚染されていたら?」
生物学者のコレットが心配する。
「しかし原因を究明する必要がある。ニュー・トランターのラグランジュ点に留めて調査を続けよう」
操舵室にいる隊長の携帯無線に副長から連絡が入った。
「動力源がダメか? 宇宙生物の痕跡とか見つからないか、他の部屋とかも調べてみてくれ」
連絡を終えた時だった。
「ちょっと何か変な音がしませんか?」
フェリシアが耳を澄ませている。
「変な音?」
音のする方向を探っているフェリシア。
レーダー手なので耳の感覚が優れているようだ。
「上……上から聞こえます」
一同が上を向いた途端、何かが落ちてきた。
天井にある換気口からだった。
アメーバー状のそれはロレンソに覆い被った。
「な、なんだこれは?」
手をバタバタと動かして、振りほどこうとするが叶わなかった。
そして動かなくなって床に倒れた。
「こ、こいつが例の宇宙生物なのか?」
驚愕の表情で見つめる隊長。
やがてアメーバーはゆっくりとロレンソから離れた。
干乾びた状態のロレンソの姿。
「船内に倒れていた者と同じ症状です。間違いなさそうです、こいつが船を襲った宇宙生物です」
ゆっくりとだったが アメーバーは他の隊員に向かってきていた。
「撃て! ブラスターだ!」
腰のホルスターからブラスターを引き抜いて、アメーバーに向かって撃つ。
一斉射撃を受けるアメーバーだったが、ビクともしないどころか少しずつ大きくなっているようだった。
「なんだ? 大きくなったぞ」
「ブラスターのエネルギーを吸収しているようです」
「もしかしたら、エネルギーを物質に変換する能力を持っているのか?」
「エネルギーを喰らって成長する生物なのでは?」
「仕方がない。ここを放棄する」
「ロレンソを放っていくのですか?」
亡くなっているだろうが、仲間の遺体を見捨てていくことは忍びない。
「構っていたら奴に襲われる。無念だが放っていくしかない」
ロレンソを置いて、操舵室を逃げ出す。
「奴は換気口から現れた。どの部屋にも換気口があるから、どこへ行っても奴がくるだろう。倒す術がない以上、この船を放棄するしかない」
副長の班にも連絡を入れて、撤退を始める。
ロレンソを除く隊員が、乗船口気密室へと戻ってきた。
「放棄するとしても、この船をこのままにしておくわけにはいきませんよ」
船が放流しているうちに、どこかの開拓星にたどり着くかもしれないのだ。
「捜索艇で曳航しつつ、恒星に船ごと落下させるしかない」
「恒星にですか? それこそ莫大なエネルギーを喰らって、よりいっそう巨大化してしまうのでは?」
「許容限界というものがあるだろうし、巨大化するといっても恒星をまるごと喰らうには、おそらく何万年もかかるんじゃないか?」
「そうかも知れませんね」
電源ケーブルを外し、連絡通路を収納して捜索艇に戻る一行。
「牽引するぞ!」
牽引ビームを宛てて、探索艇を牽引してゆく。
「恒星落下コースに乗りました」
「よし! ビームを停止。後は慣性にまかせる」
離れてゆく捜索艇と恒星に向かっていく探索艇。
ロレンソ、そして探索艇の乗員たちの冥福を祈る一行だった。
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銀河戦記/脈動編 序章・マゼラン銀河
2021.09.04
序章・マゼラン銀河
漆黒の宇宙を進む宇宙船。
天の川銀河から大マゼラン銀河へと向かう開拓移民船団の群れであった。
およそ十六万光年の道のりには補給できる星はなく、一億人からいる人々は冷凍睡眠カプセルの中で来るべき日を夢見て眠っている。
船はコンピューターにプログラムされた通りに進むため、運航要員はおらず数人の監視員が交代で計器を見守っているだけだった。
移民船団には万が一を考えて護衛艦隊が付き添っていた。
その旗艦サラマンダーの艦橋。
アントニー・メレディス少佐以下の六名が当直で起きていた。
「まもなく最後のワープに入ります」
「とは言っても、我々は何もすることもないのだがな」
「全自動ですからね。計器が正常に動いているかを見てるだけ」
「まあ一億人からの生命を預かっているには違いない」
「ワープの時間です」
宇宙空間。
航行していた移民船団の船がワープして姿を消した。
やがて別の空間に姿を現す移民船団。
サラマンダー艦橋。
「最後のワープ終了!」
「計器異常ありません」
「大マゼラン銀河の端に到着したようです」
「よし、第一次探索隊の要員を起こそう」
大型輸送船内にある居住区の冷凍睡眠カプセルのあるブロック。
次々とカプセルが開いてゆく。
ゆっくりと起き上がる隊員たち。
長い眠りから覚めても、今なお夢うつつ状態が続いている。
数時間後、食堂で朝食? を食べている隊員たち。
「大マゼラン銀河に到着は間違いないのだろうね」
「間違いないそうだ」
食事を終えてゆっくりしていると、
『第一次探索隊要員はミーティングルームへ集合せよ』
艦内放送が聞こえてきた。
ミーティングルーム。
大マゼラン銀河の映像が表示されたモニターを前にして、探索指揮官が説明をしている。
「このように、ここから十光年の間にある恒星が二十個ほど見つかった。このうち惑星系を持つと思われるのが、この三つの恒星だ」
モニターに三つの光点が、方角と距離と共に表示されている。
「探索班を三つに分けて、これらの恒星を探索してもらいたい」
大型輸送船発着口。
長距離探索艇が格納庫から引き出されている。
戦闘用の兵器は擬装されていないが、重力加速度計などの惑星探査レーダーを搭載しており、一光年を一時間ほどで超光速航行できる。
三つの方角に向けて、次々と出発する探索艇。
サラマンダー艦橋から、探索艇が出発する様子を見つめているメレディス少佐と副官。
「惑星が見つかるといいですね」
「そうだな」
地球のように水と大気のある惑星でなくてもよい。
月のように大気がなくても、しっかりと大地を踏みしめることのできる岩石型惑星(灼熱惑星除く)なら何でもよいのだ。
まずは探索の拠点となるベースキャンプを確保することが先決なのである。
惑星探査に向かった探索艇の一班。
「まもなく目的の恒星に到着します」
「恒星の自転方向を調査」
惑星系は、自転する恒星の赤道面に並んで公転している公算が高いので、自転軸の真上か真下から離れて見れば容易く発見できる。惑星の公転面の上下から俯瞰して探すことができるというわけだ。
「自転方向確認できました」
「よし、二班に分かれて調査する」
探査艇が、恒星の北・南極方向に分かれてゆく。
数時間後。
「こちらA班、惑星を発見!」
「了解した。A班は、惑星の調査に向かえ。こちらB班は、引き続き二個目の惑星がないか探査する」
「A班了解。惑星探査に向かいます」
惑星発見の報は、すぐさまサラマンダーにも伝えられた。
「見つかった惑星は木星型の巨大惑星が二つです。双方とも衛星系を持っており、その幾つかは鉱物資源を採掘できそうです」
「ベースキャンプにはできそうだな」
「残り二つの恒星に向かった班は、距離が遠くて探査はまだこれからです」
「そうか、地球型が見つかるといんだがな」
数時間後、別の探索班から報告が入る。
「地球型惑星発見!」
「やりましたね」
「そうだな。精密調査隊を派遣させて、詳しく調べさせよう」
地質や気象などを本格的に調べて居住に適した環境かを調べる部隊。
やがて地球型惑星は居住可能で、大気と海と陸地がある一億人の住民が生存できる環境であることが判明した。
「よおし、開拓民総員起こしだ! その地球型惑星に移民船を向かわせる」
移民船が地球型惑星に到着した。
人々は、開拓移民船を衛星軌道上に待機させて当面の間、船の中で暮らすこととなった。
まず最初に静止衛星軌道上に数隻の大型輸送船を配置して宇宙ステーション代わりとして、そこから下へと延びる宇宙エレベーターが造られた。
建設土木機械が地上に降ろされ、そこから毎日出勤するようにして地上に降りて開拓を始める。
地球型惑星の開拓は続き、その星に『ニュー・トランター』という名前が付けられた。
人々は、ドーム状の居住空間を作って地球のような空気を満たして暮らし始めた。
大気中に酸素濃度は2パーセントほどしかなく、有害猛毒なシアン化水素も含んでいた。
現状では、宇宙服なしでは外を歩けないが、よりよい環境とするためのテラフォーミングが続く。
海の成分は、水に溶けたシアン化水素酸とそれが加水分解したアンモニア、各種のミネラル成分がある。
シアン化水素を燃やせば、水と窒素と二酸化炭素が生成するので、二酸化炭素を植物の光合成で酸素を生み出すことができる。(引火点摂氏ー18度、発火点摂氏538度)
大規模なシアン化水素火力発電プラントが建設されて、空気中のシアン化水素を取り込んで燃焼させて、水と酸素を作り出して空気中や海に放出していた。
海に溶けているシアン化水素は、Pedobacter 属細菌を使って分解無毒化する方法がとられた。
Pedobacter 属細菌を培養している細菌研究所。
研究員が談話している。
「海に溶けているシアン化水素を完全に無毒化させるには何年掛かりますかね」
「どうかな。百年はかかるんじゃないか? 俺たちの世代では無理だろうな」
「百年ですか……、気が遠くなりますね。それまで宇宙服なしでこのドームからは出られないのですね」
「まあそういうことだな」
「この星は諦めて、別の完全地球型惑星を探した方がいいんじゃないですか?」
「無理だよ。そんな理想の惑星を見つけるのに何年掛かると思う? 百年か? 千年か? この星が見つかったのも、何万分の一以上の確率の賜物なんだよ。それに、天の川銀河との橋渡しとなる橋頭保でもあるからな」
その頃、巨大惑星の衛星の方でも、鉱物資源採掘がはじまっていた。
衛星のあちらこちらで掘削機が稼働して、有用鉱物を採掘していた。
ケイ素、鉄、マグネシウムなどがあり、酸素はそれらの酸化物として存在している。
鉱物集積ステーション。
採掘場から集められた鉱石が輸送船に積み込まれて、ニュー・トランターへ次々と出発している。
ステーション事務所では、鉱石輸送船の手配などを行っている人員がいる。
「これが本日最後の船です」
本日最後と言っても、この衛星では一日という概念がない。
巨大惑星によって潮汐固定されており、公転周期の七日三時間(地球時換算)がこの衛星の一日に相当する。惑星に向いている側は惑星表面の反射光を受けて常に昼のように明るいし、反対側は常に夜のように暗い。
一応生活時間として、トランター標準時を使用している。
「それから第二次開拓移民船団が出発したようですよ」
「そうか……。ニュー・トランターから、さらに先の銀河中心に向けて調査団が派遣されるということだな」
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銀河戦記/脈動編
2021.09.04
銀河戦記/脈動編
序章・マゼラン銀河
第一章・謎の宇宙生物との闘い Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ
第二章・滅亡都市 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ
第三章・第三勢力 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ
第四章・遥か一万年の彼方 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ
第五章・それぞれの新天地 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V
第六章・会敵 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V
第七章・会戦 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V
第八章・ミュータント族との接触 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V
第九章・カチェーシャ Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V
第十章・漁夫の利 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V・Ⅵ
第十一章・共同戦線 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ
第十二章・追撃戦 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V
最終章・和解の地にて Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ(完)
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銀河戦記/鳴動編 第二部 終章 新たなる地への誘い
2021.09.02
終章 新たなる地への誘(いざな)い
和平交渉の協定書は両国に持ち帰えられて、議会の承認と元首の裁定を受けて批准書が作成されて、再び両国で交換されて和平交渉は正式に締結された。
数か月後、各惑星都市にて和平祝賀パレードが開催された。
首都星トランターでは、街中をオープンカーが並んでゆっくり走り、ビルの窓々からは紙吹雪が舞う。
それらの車に、アレックスとパトリシア、ゴードンとシェリー・バウマン、カインズとパティー・クレイダーらが乗り込んで、沿道の観客に手を振って応えていた。
パレードを終えて、一同は統合参謀本部(旧総督府)の応接室に集まった。
「お疲れさまでした」
誰からともなく、慰労の言葉を掛ける。
「平和は戻りました。これからどうなさりますか?」
パトリシアが尋ねる。
「そうだな。すべての国家を集めた銀河統一連邦でも樹立してみるか?」
アレックスが軽い気持ちで提案してみる。
「それいいですね。初代大統領は提督ということで」
「殿下、掛け持ちだと大変ではありませんか?」
ジュリエッタ皇女が真剣な顔で心配する。
「本気にしたのか? 冗談だよ」
「でも統一できたら素敵ですよね」
一段落して、アレックスは皇女達とアルビエール侯国のハロルド侯爵を呼び寄せて、自分の意思を伝えた。
「私は、皇位継承権第一位の権利をハロルド侯爵に譲位しようと思います」
一斉に驚く一同。
「どういうことですかな?」
指名されたハロルド侯爵が一番に答えた。
皇位継承権順位は、次位のデュプロス公爵が失脚して、ハロルド侯爵が繰り上がりで次位となっている。三位はサセックス侯国のエルバート侯爵である。
アレックスが皇位を譲るとなれば妥当であろう。
「私は、そもそも共和国同盟の人間。ある日突然、皇太子だと祭り上げられて内紛を鎮めることもした。頼られれば断りにくい性格だからな」
「しかし殿下が、皇位継承権第一位の王子であることは間違いありません」
「皇家の子息として生まれたら、必ず皇位を継がなければならないということはないだろう? 歴史的にも譲位されてきたしな。皇帝に相応しいか或いはなりたいものがなるべきだよ。私の器ではない」
それから侃々諤々の論争となるが、アレックスは一同の同意を得ることに成功したのである。
数日後、謁見の間に高級貴族と大臣達を呼び寄せたアレックス。
「ハロルド侯爵、前へ」
恭(うやうや)しく壇上の前に進む侯爵。
「皆の者聞くがよい。私は、このハロルド侯爵に皇位継承権第一の座を譲ることにした」
そして皇位継承権譲位を伝えるのだった。
騒めく場内。
アレックスは言葉を紡ぐ。
「皇位を譲り、この身は銀河系を離れることにした」
銀河系を離れる?
首を傾げる一同。
「この銀河系は増えすぎた人口を養うには手狭と言わざるを得ない。それがゆえに資源を奪い合う戦争となったのである。もはや新たなる開拓地を探すしかないだろう。その候補地として、伴銀河であるマゼラン星雲への移民開拓船団を送る。天の川銀河と大マゼラン星雲との間にたなびく帯状のマゼラニック・ストリーム(星間ガス)の流れに乗って移動する」
それは予てより、アレックスの構想にあったものだった。
銀河が平定された今がその時期だ。
数年後。
各国から資金が集められ、移民船の建造が始まった。
大マゼラン銀河移民船団が編成され、移民に賛同した三カ国からなる総勢一億人にも及ぶ市民が乗船することとなった。
大マゼラン銀河まで163,000光年と、天の川銀河の直系の約1.6倍もの距離となる。
おそらく大マゼラン銀河までの間には、恒星や惑星はないだろうから途中補給はできない。
航続距離と到達期間そして食料事情を考慮して、運航に携わる一部の人を除いて冷凍睡眠カプセルで眠ることとなった。
その一部の人達も、船は全自動航行なので、計器をモニターするだけであり、一定期間ごとに交代してカプセル冬眠に入る。
行く先に何が待っているか分からないため、護衛艦隊としてサラマンダー以下の五艦を含む護衛艦隊も同行することとなり、総司令官にアレックスが就任した。
移民船は巨大であり、通常のプラズマエンジンでは微動だにしないくらいなので、初動にブースターエンジンの力を借りることになった。
「ブースターエンジン始動点火!」
推力の高い固体燃料エンジンに点火される。
これで初期最高速度まで一気に加速される。
「ブースターエンジン燃焼終了まであと十秒。九、八、七、六、五、四、三、二、一。ブースターエンジン燃焼終了」
「ブースター切り離し!」
「ブースター切り離しします」
切り離されるブースター。
「プラズマエンジン(VASIMR)に点火!」
メインエンジンは、最大比推力二十万秒という比推力可変型プラズマ推進機を搭載している。
漆黒の宇宙を進む移民船団。
護衛として随伴しているサラマンダーの艦橋。
「艦隊リモコン順調に作動中、順調に航行しています。冷凍睡眠カプセルの人々も健やかに眠られています」
「そうか。そろそろ自分達も冬眠に入るとしようか」
コールドスリープ中に、恒星が発見された場合や何らかの緊急事態になった時には、自動解除モードになるように設定されている。
移民船団には一億人もの人々が乗っている。
こうして殆どの人々がコールドスリープに入ったまま、大マゼラン銀河へと静かに航行するのだった。
銀河戦記/鳴動編 完
移民船団の行き先に惑星のある恒星が見つかり、冷凍睡眠カプセルから目覚める移民達。
早速、その惑星の開拓を始めたのだが……。
突如として見知らぬ艦隊が襲ってきたのだった。
銀河戦記/脈動編に続く
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