銀河戦記/拍動編 第六章 Ⅲ アンツーク再び
2023.05.13

第六章


Ⅲ アンツーク星再び


 ゴーランド艦隊前線基地。
「惑星アンガスに未知の戦艦が現れて、奴隷どもを解放しました。」
「なんだと! 所長を呼び出せ!」
 報告を受けて怒りを露にするアルミン・ヴェッツェル司令だった。
 惑星アンツークを含む宙域を所轄としているがために、捨てては置けない問題だった。
「マルセル所長が出ました」
「パネルスクリーンに出せ!」
 通信士が取り次ぐ。
 スクリーンに映し出されるアンガス収容所マルセル・ヴェラー所長。
 しどろもどろで言い訳を取り繕うのだった。
「謀反を起こした将校の手引きによって暴動が起きて、さらに突然上空から現れた見知らぬ戦艦に襲われたというのだな?」
「まことに申し訳ありません」
 只々、平謝りする所長だった。
「まあよいわ。たかが奴隷が逃げただけだ。それで、その未確認艦の行方は分かっているのだろうな」
「はあ、おひつじ座の方角に向かいました」
「おひつじ座か……ディーガーデンに向かったのか? いや、そうと見せかけて、くじら座からみずがめ座に回り込むとかありそうだな……」
「みずがめ座というと、トラピスト星系連合王国……ですか? しかし、すでに降伏したのでは?」
「降伏を良しとしない勢力がいるのだろう。パルチザン組織というところだな」
「とにかく、逃げた方向に索敵部隊を派遣しましょう」
「ああ、そうしてくれ」


 辺境地域の恒星系の小惑星帯を進むアムレス号。
 その行く手にアンツーク星が見えてきた。
『目標地点ニツキマシタ」』
「降下してください」
『了解シマシタ』
 ゆっくりと降下していくアムレス号。
「ここは来たことがあるぞ」
 アンドレは、迫りくる惑星アンツークの地表に見覚えがあった。
 かつて、旗艦オリオン号が修理のために立ち寄った星だということを思い出したのだ。
 砂塵を巻き上げて地表に降り立とうとするアムレス号。
『水平シャッター開放シマス』
 と突然、地面が割れて開いていく。
 そこにはランディングポートを示すマークが描かれていた。
「船底モニターを映してください」
『了解、船底モニター投影シマス』
 地表が近づいていく。
『ランディングギア、ヲ降ロシマス』
 船底から降着装置が引き出される。
 さらに地上が近づいて、着陸となる。
『着陸、完了シマシタ。エレベーター、ヲ始動シマス』
 ゆっくりとアムレス号を乗せた昇降機が地下へと降下してゆく。
 そして再び、天井のシャッターは閉まってゆく。


 完全に降り切ったアムレス号の周囲が、天井からの光が途絶えて真っ暗闇に包まれる。
 アムレス号が完全に静止すると、周囲から照明が当てられ、暗闇の中に浮かび上がる。
 やがて壁からボーディング・ブリッジが伸びてきて、アムレスの搭乗口に接続された。
 ゾロゾロと船を下船する人々。
 一同は大広間に案内され、エダから説明を受けた。
「みなさん、ここの施設には大した設備はありません。携帯食料と寝袋を渡します。各自食事と睡眠を取ってください」
 目の前のターブルに携帯食と寝袋が並べられている。
 それを受け取って、各自適当な場所に腰を降ろして休息を始めた。
 ベッドの上で眠りたいという願望があるだろうが、贅沢も言っていられない。
「収容所で強制重労働させられていたことを考えれば、ここは天国みたいなものだ」
「野戦のことを考えれば、雨露を凌げるだけでもましだしな」
 それぞれ不満はあるだろうが、なるしかないと諦めるしかなかった。

 アムレス号の駐機している倉庫では、これからの長旅に向けての増設工事が進められていた。
 倉庫の奥から巨大な円盤状の機体が運び込まれてくる。
 それは乗員達が快適に過ごせる居室の他、食堂・病院・アスレチック施設などの健康面に配慮した設備も充実していた。さらに放送局を兼ね備えた高性能の通信施設もある。
 施設内は自動化されて、ロボットが組み立て工事を迅速に行っていた。
 その様子をガラス張りの制御室から見つめているアレックス。
 目の前の端末のディスプレイには、増設部の船内見取り図が表示されている。
「すごいな。これなら銀河系どこへでも行けるな」
「その通りです」
 エダが自慢げに答える。
「これを、僕の両親が設計・開発・建造したというこだな」
「はい。一応船の名前も命名されておりました」
「アムレス号ではなくて?」
「正式名称は『ハイドライド型高速船零式サラマンダー』です」
「サラマンダーか……いい名前だ。それに改名しようか」
「結構ですね」


 突然、管内に警報が鳴り響いた。
「何だ? 何事だ?」
 一同が驚いていると、壁に取り付けられたモニターに映像が映された。
 宇宙空間から接近する艦隊の姿だった。
「ゴーランド艦隊だ!」
「ついにここまで追ってきたのか?」
「この惑星を包囲されたら、逃げ道はないぞ!」
 狼狽(うろた)える人々。

 制御室のモニターにも敵艦隊来襲の映像が流れている。
 そこへアンドレ・タウンゼントが駆けつけてきた。
「ゴーランド艦隊が来たぞ」
「そのようですね」
 エダが答えると、
「手はあるか?」
 アレックスが尋ねる。
「ここには迎撃ミサイルがありますよね」
 先にアンドレが発言する。
 かつて、オリオン号が立ち寄った時に、ここを訪れて半自動防空管制装置を見ているからである。
「どうして、そのことを?」
 首を傾げるエダ。
「オリオン号に乗っている時に、戦闘の損傷を修理するために、この星に降りたことがあって、修理に必要な鉱石探しで、この基地を発見しました」
「なるほど、そうでしたか」
「それで、ミサイルは使えるのですか?」
「もちろん」
「やはり起動キーはアムレス号?」
「そうですね。如何いたします』?」
 と、アレックスに判断を求めるように言った。
「そうだな。やってくれ」
「では、アレックス様、こちらのパネルに手を乗せて下さい。指紋・掌紋照合機です」
「分かった」
 指さしたパネルに、アレックスが手を乗せると光が出て、その掌紋を読み取っていく。
「アレックス様が赤子の時に、すでに指紋・掌紋を登録してありました」
「そうか、それが起動キーだったのか!」
 アンドレが納得する。
 システムが生き返り、室内のすべての機器が動き出した。
「迎撃システムを起動します」
 エダが端末を操作すると、計器が明滅しはじめて、半自動防空管制装置の迎撃システムが動き出した。
 モニターには、地上のミサイルサイトが開いてゆく様子が映し出されている。
 自動的に接近する敵艦隊に対しての標的ロックオンが始まる。
「まもなく発射されます」



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