銀河戦記/鳴動編 第一部 第十六章 サラマンダー新艦長誕生 Ⅵ
2021.03.22

第十六章 新艦長誕生




 カラカス基地司令部にある、ランドール提督のオフィスを訪れるリンダとジェシカ。
 秘書官のサバンナ・ニクラウス中尉に出頭命令に応じて来訪したことを告げる。
「お待ちしておりました。少々お待ちください」
 インターフォンを取って中に居るランドールに連絡を入れるサバンナ。 
「リンダ・スカイラーク中尉がいらっしゃいました……。はい、判りました」
 受話器を置いてから言った。
「どうぞ。お入りください」
 正面のドアが開いた。
「リンダ・スカイラーク中尉。入ります」
 ドアをくぐって中に入るリンダ。
 正面の大きな机に威風堂々のランドール提督が腰掛けており、周りには見慣れた人物達が立ち並んでいた。少佐の制服も凛々しいパトリシアを筆頭にガデラ・カインズ中佐、ディープス・ロイド中佐、スザンナ・ベンソン艦長、そしてリーナ・ロングフェル大尉もいた。ゴードンはシャイニング基地方面で、哨戒作戦任務で出撃中である。
「リーナ!」
 まさか、やっぱり報告したの?
 と疑問が再び湧き上がる。
 しかし提督の表情はにこやかで、とても注意されるような雰囲気ではなかった。周囲の参謀達も和やかであった。
「リンダ。休息中のところ済まなかったね」
「い、いえ……」
「このやかましのジェシカの下で、セイレーンの艦長として日頃から激務をこなしてくれて感謝している」
「提督! そんな言い方しないでください。まるでわたしが苛めているみたいじゃないですか?」
 ジェシカが横から口を出した。
「違うのか? このリーナから日頃の君の様子を聞いているがね。何かにつけて苛めて遊んでいるそうじゃないか」
「リーナ! あなた、そんな事まで報告しているの?」
「わたしは副指揮官として、見たこと感じたことを正直に報告しているだけです」
 と淡々として答えるリーナ。
「違います。フランドル少佐は、艦長として甘えた態度があるわたしを、叱責し教育してくださっているのです」
「そ、そうですよ」
 冷や汗拭きながら弁解するジェシカ。
「まあいい。話を戻そう」
 とにこやかに答える提督。
「さて、日頃からの君の働きぶりについては、このリーナから報告を聞いているが……」
 あ、やっぱり報告していたんだ。
 いやだなあ……。
 そう思いつつもランドールの言葉に耳を傾ける。
「君にはセイレーン艦長としてこれまで任務についてもらったわけだが、そろそろ他の艦を指揮してみたいと思わないか?」
「他の艦に転属ですか?」
「そうだ。すでに大尉としての内定が下ったことは聞いているな」
「はい。伺っております。それに関しては、感謝しております」
「大尉となると、通常は主戦級の攻撃空母の艦長として指揮を任されることが多い。がしかし、君も知っての通りに、我が部隊には主戦級の攻撃空母は一隻も配備されていない」
「確かにその通りです」
「そこでだ。君には、第十七艦隊旗艦サラマンダーの艦長としての任務を与えたいと思うのだがどうかね?」
「サラマンダー!」
 衝撃だった。
 サラマンダーと言えば、共和国同盟にあっては最速最強の高速戦艦。連邦を震撼さ
せる代名詞として名だたる名鑑中の名鑑である。
「し、しかし……サラマンダーの艦長は、スザンナ・ベンソン大尉がいらっしゃいます」
「スザンナには艦長の任を降りてもらうことにした。本人にとっては、いつまでも艦長として腕を振るっていたかったろうが、後任にすべてを託しその成長を見守ることも大事だと説き伏せた」
「ではベンソン大尉は?」
「スザンナは先任上級大尉としてすでに少佐への昇進点に達している。いずれはディープス・ロイド中佐の後任として旗艦艦隊の司令官の任務を与えるつもりだ。ただ戦術士官ではないので現状では司令官にはなれない。そこでしばらくは中佐の下で副司令官の任務をこなし、戦術士官としての艦隊勤務教育を施す事にしている」
 司令官になる資格を有するには、高等士官学校において戦術専攻科の課程を卒業して任官されるか、このスザンナのように少佐昇進点に達した一般士官が、戦術士官としての艦隊勤務教育を一定期間受けた後に査問審査に合格した場合、そしてもう一つは名誉勲章を受けるほどの素晴らしい功績を挙げた場合の三種類があった。
 なお、戦術士官は胸に職能階級を示す徽章を付けているので、戦術士官と判別がつくようになっている。
「艦隊勤務教育ですか……」
 提督が、スザンナに類稀なる指揮統率能力を見出して、何かにつけて指揮官としての教育をしていたのはよく知られていることだ。それが正式採用されたわけである。
 しかも、旗艦艦隊司令に任命するのだという。これこそまさしく適材適所の好材料である。

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2021.03.22 12:13 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十六章 サラマンダー新艦長誕生 V
2021.03.22

第十六章 新艦長誕生




 カラカス基地に戻った第十一攻撃空母部隊。
 その旗艦「セイレーン」の艦長、リンダ・スカイラークは、各艦への弾薬・燃料等の補給と、艦体の整備の指揮のために艦橋に残っていた。
「よお、リンダ。居残りか? 確か休息中だろう」
 ハリソン・クライスラーが尋ねてきていた。
「ええ。艦長としての責務がありますから。休んではいられません」
「殊勝な心がけだね。その調子だよ」
「ところで何か御用ですか?」
「用は他でもない。例の賭け事のことだよ」
「ああ、あれですね。ちゃんと集計は取れてますよ。各人の配当の計算も終了しています」
「おお、さすが!」
「各人にメールを送って確認してもらって、それぞれの軍預金口座から入出金する予定です」
「そこまでやってくれるのか? ありがたいね」
「戦闘中に賭け事などとリーナに叱責されました。どうせなら最後まで面倒みてあげなさいと言われたものですから」
「ほう……リーナがねえ」
「ところでパトリシアさんがどうなったかご存知ですか?」
「ああ、それだったら、無事に試験に合格して少佐に昇進を果たしたそうだ」
「よかったですね。艦長としてご一緒した甲斐がありました」
「何を言っているか。君だって、大尉への昇進が内定したそうじゃないか」
「ああ、そうですねえ」
「気が抜けた声出すなよ」
「だって、そんな実感が湧かないんですよね。何もしなくても、いつの間にか昇進していたという感じでさあ」
「それはみんなも同じ思いだよ。ランドール提督の昇進に引きずられるように昇進していく。しかし提督はよく言っているじゃないか」
『何もしないのに、昇進したと思っている者もいるようだが、それは間違った考えだと言っておこう。指令に忠実に従って任務を遂行していることこそ肝心なのだ。指令を無視し自分勝手な行動をしたり、指令に対し疑問を抱き部下の士気を低下させるような発言をしたりする。そんな足を引っ張るような行為をしない。私を信じ、私に従うことが功績として認められる結果として現れるのだ』
「……とね」
「確かにそうおっしゃってましたね」
「何にせよだ。昇進おめでとう」
「ありがとう、ハリソン」

 リンダは、タシミール星への出撃一時間前の事を思い起こしていた。
 上官であるジェシカ・フランドル少佐に呼び止められた。
「セイレーンの艦長として、スザンナを臨時に任命してはどうかという意見もあったわ」
「オニール大佐ですか?」
「その通り」
「ウィンザー大尉とは提督共々、士官学校時代からの親友ですからね。心配するのは当然でしょう。艦隊運用にも実績があって、信頼のおける者を艦長に推したかったのでしょう」
「当然の配慮でしょうね」
「でも提督自らが拒否されたわ」
「拒否した?」
「司令はこう言ったわ」
『セイレーンの艦長はリンダだ。第十一攻撃空母部隊の旗艦の艦長として、最もふさわしい人物としてジェシカが推薦して、私が任命したものだ。どうして代える必要があるか』
「とね。これがどういう意味か判る?」
「信頼されているということですか?」
「そうね。わたしの口から言うののも何だけど、司令はわたしを信頼してくれているし、わたしの部下であるあなたの事をも信頼しているわ。『部下を信ぜずして司令は務まらない』というのが口癖。しかも自分の大切な人物をも任せるほどにね。これはパトリシアの任官試験であるけど、あなたの艦長としての技量をも試される機会でもあるのよ。今回の任務を無事に終了したら、あなたの大尉への昇進も内定しているのよ」
「そうでしたか……」
 意外という表情を見せているリンダ。

「取りあえずは、わたしの昇進試験は合格したというわけね……」
 一人呟くリンダだった。
「何だよ。独り言なんか、らしくないぞ」
「そうだね」
「さてと……俺も、自分の機体の整備に取り掛からなくちゃならん。賭けのことはサンキューな」
「どういたしまして」
「まあ、頑張りなよ」
「うん」
 軽く手を振るようにしてハリソンが引き返していった。
 入れ替わるようにしてジェシカがやってきた。
「あ、いたいた。探したわよ」
「探すも何も、艦長なんですから、ずっとここに居ましたよ。で、ジェシカ……。何でしょうか?」
「提督がお呼びよ。至急、基地司令室に来て頂戴」
「提督が……?」
 提督が何の用だろう?
 と疑問に思いつつも、後のことを副長のロザンナに任せて、セイレーンから降りて基地司令室に急ぐ。
「もしかしたら、タシミールの時、パトリシアを艦内案内した際に、出発前にジミー達とおしゃべりして任務を怠慢していたことかしら? リーナが報告してて注意されるのかな……任務には厳しい提督だからなあ」
 ううん。リーナがそんなこと報告するはずない。
「一体、わたしに何の用なんですか?」
 ジェシカに尋ねてみるが、微笑んでいるだけで答えてくれない。
「行ってみれば判るわよ」

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