銀河戦記/鳴動編 第一部 第十七章 リンダの憂鬱 Ⅶ
2021.03.31

第十七章 リンダの憂鬱




「どうぞ、メニューです」
 ウェイトレスよろしく、アレックスの目の前に、すっとメニューを持った手が差し出された。
 無意識にそれを受け取り、ページを開くと、料理メニューではなかった。
「何かね、これは?」
 ふと視線をあげて、メニューを差し出した本人を見ると、
「提督の体力トレーニングメニューです。それとこちらがフランソワの分です」
 艦長のリンダだった。その隣にはウェイトレスが控えている。
「な、なによこれ?」
 メニューを見るなり悲鳴のような声を出すフランソワ。
「今までの二倍の基礎筋トレーニングに、肺活筋の強化トレーニング……」
「こっちは、脚力と腹筋トレーニングが増えているな」
「お二人とも、トレーニング不足とという健康診断が出ております。それに基づきトレーナーと相談して、運動メニューを決定いたしました。艦内に居住するすべての将兵の健康管理を取り仕切るのも艦長の任務の一つです。どうかご理解くださいませ」
「判った……納得いかないが納得するしかないようだ」
 艦長としての責務を果たそうとしてるリンダには従うしかないと判断するアレックス。警報が出てから自分の持ち場へ、急ぎ馳せ参じる運動能力を維持しなければ、自分の役目を果たすことができないのは必至である。それが全艦隊の運命を左右する指揮官たる者なら当然の責務の一つである。命令を下すべき指揮官が遅れれば、指揮統制も乱れ混乱する。
 積極的な行動に出たリンダ。
「そうか……レイチェルが動いてくれたようだな。将兵達の心を掴み揺り動かせる才能。さすがにレイチェルだな」
 感心しきりのアレックスだった。
「ありがとうございます。それではこちらが今日の料理メニューです。鯛の香草風味焼き、あさりと春野菜のクリームソースがお奨めです」
「そうか、それを頂くとしよう」
「あたしもそれでいいわ」
 アレックスが承諾したので、おのずと自分も従わざるをえなくなったフランソワ。つっけんどんに答えていた。
「お二人とも、鯛の香草風味焼き春野菜のクリームソースでよろしいですね?」
 ウィトレスがメニューを確認する。
「ああ、よろしく頼む」
 と言いながらIDカードを差し出すと、ウェイトレスが持っているカードリーダーに差し込んで、メニューを打ち込んでいる。これで厨房への調理指示と、給料天引きが自動的になされる。

 ここの食堂のようなファミリーレストラン風なシステムを採っているのは、第十七艦隊だけである。他の艦隊の食堂は、日替わりでメニューが決められていて、選択の余地がなかった。自慢のシステムであるが、このシステムを考案し採り入れたのが、主計科主任であるレイチェルであった。コンピュータ技師のレイティー及び厨烹科のナターリャ・ドゥジンスカヤ料理長と共に、システムと携帯端末の設計開発を行った。
 ランジェリーショップの経営、女性士官制服制定委員会などと、レイチェルは常日頃から気を配って、メンタルヘルスケアを実践していた。
 このような乗員にやさしいレイチェルに対し、女性士官達は憧れをもって接しており、艦内における意見具申などはすべてレイチェルに届けられていた。

 そのレイチェルが食堂に入ってきた。
 士官達の敬礼を受け流しながら、アレックスの姿を見つけると、一直線に歩み寄ってくる。
「提督。お食事中のところ申し訳ありません」
 と辺りを気にしながら話しかける。一般の将兵達には聞かせたくない内容のようだ。
「ここで、構わん。報告してくれ」
 気を遣っているレイチェルだったが、そう言われては仕方がない。
「はい、では。報告致します」
 姿勢を正して報告をはじめるレイチェル。
「バーナード星系連邦のタルシエン要塞から敵艦隊が出撃を開始しました。二個艦隊がクリーグ基地へ、三個艦隊がシャイニング基地に向かっています。その他、占領機動部隊や後方支援部隊を含めて、総勢八個艦隊です」
「そうか……最初の情報どおりというわけだな」
「その通りです」
「判った、ご苦労だった。引き続き情報の更新を頼む」
「かしこまりました」
 それから少し考えてから、
「レイチェル。今ここにいる全員に待機命令を出してくれ。外に出ないように」
「判りました」
 足早に食堂前方に移動するレイチェル。
「フランソワは、食堂にある艦内放送をセットし、全艦放送の手配を取ってくれ」
「はい!」
 同様に、食堂後方にある放送施設に掛けて行くフランソワ。
 レイチェルが大声を張り上げて、食堂にいる全員に伝える。
「みなさん。お静かにお願いします。これから提督のお話があります。食堂から出ないようにしてください」
 何事かと、レイチェルやアレックスに注目する一同。
 その間に放送室にたどり着いたフランソワが、艦橋にいるパトリシアに連絡する。
『艦橋。ウィンザー少佐です』
「あ、先輩。食堂の艦内放送システムを全艦隊放送に流してください。提督からのお話があります」
 ディスプレイにパトリシアが現れると同時に話しかけるフランソワ。
「判りました。全艦放送の手配をします」
 パトリシアにもレイチェルの報告が届いているのであろう。アレックスの意図をすぐさま理解して、全艦放送の手配をはじめた。
 つかつかと歩いて食堂の一番前に来るアレックス。
 食堂の職員がマイクスタンドを運んできて、アレックスの前に立ててから小声で言った。
「接続は完了しています。どうぞお話ください」
「判った」
 アレックスはマイクを軽く叩いて、改めて接続が完了しているのを確認し、深呼吸してから話し出す。

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2021.03.31 13:26 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十七章 リンダの憂鬱 Ⅵ
2021.03.30

第十七章 リンダの憂鬱




 それから数時間後。
 アスレチックジムでの体力トレーニングを終えたというのに、一人ベンチに腰掛けて思慮深げな表情のリンダがいる。
 そこへ人探し風なレイチェルがやってくる。リンダを目ざとく見つけて歩み寄ってくる。
「どうしたの悩み事?」
 やさしく語りかけるレイチェル。
「あ……ウィング少佐」
「レイチェルでいいわよ。今は非番だから。汗をかいた後だというのに、こんなとこでじっとしていると風邪をひくわよ」
「そうですね……」
「心にわだかまりがあるなら相談に乗るわよ」
「はあ……。会うたびにすぐ口論になる人がいて、どうしたら仲良くなれるかと思って……」
「思ってはいるのね」
「ええ……思ってはいるんですけど。艦長として、どうしたら信頼関係が築けるのでしょうか?」
 そうか、仲良くしようと考えてはいるんだ。
 しかも艦長としての責務も忘れてはいない。
 改めてリンダの心境を垣間見るレイチェルだった。
 やはりここは、反省し悩んでいるリンダの方に、助け舟を出すのが利に適っていると判断した。
「艦長としての責務を全うしていれば信頼関係も自然に身についてくるものよ」
「そうでしょうか? 例えば足の遅い上官についてはどうすればいいんでしょうか?」
「フランソワの事ね」
 ここで改めて相手のことを持ち出すレイチェル。
「階級はあなたの方が上じゃない」
「いえ。戦闘や訓練の際には、戦術士官(Comander officer)の徽章(職能胸章)を付けてるフランソワの方に、指揮権や命令権の優先が与えられますから」
「でもね。あなたは艦長として、艦内における将兵達の用兵はもちろんの事、健康管理をも任されているわ」
「健康管理?」
「体力トレーニングよ」
「それが何か?」
「意外と鈍いのね。足が遅いのは体力・筋力が衰えているせいです。艦内で勤務する乗員にはすべて体力トレーニングが義務付けられており、その運動メニューの決定権も艦長が持っています。足が遅いと感じたならば、足を早くする運動メニューを用意してあげればいいのよ。ただ、フランソワだけだと意地悪していると思われるかも知れないから、もう一人足の遅い方がいるからそれと一緒に提出するといいわね。もちろんそれは提督のことだけどね。この際一緒に鍛えてあげなさい」
「なるほど! そういうことかあ!」
 合点! 納得いったリンダだった。
「あなたは、相手が戦術士官であり、提督と近しい間柄にあることから遠慮しているみたいだけど、もっと自分の立場に誇りと自信を持ちなさい。階級が下の者に対しては厳粛たる態度で臨むべきです。遠慮は一切考えないことです」
 リンダの表情に明らかなる変調が表れた。艦長として凛々しく誇りある責務に改めて邁進するという感情が見られるようになったのである。
「ありがとうございます。色々と参考になりました」
 深々と礼をして足早でアスレチックジムを駆け出していくリンダであった。
「ふふ……。少しは役に立ったようね」

 食堂にフランソワを連れてアレックスが入ってくる。
 アレックスに気づいた全員が、一旦立ち上がって敬礼をしている。
「提督、あそこの席が空いてますよ」
 フランソワが指差す空いた席に移動するアレックス。
「一つお聞きしてよろしいですか?」
 アレックスが先に椅子に腰を降ろすのを見届けてから、自分も座りながら尋ねるフランソワ。
「何かね?」
「提督やお姉さま達は、上級士官専用の食堂がありますのに、どうして一般士官用の食堂で食事をするのですか? 」
「それじゃあ、隊員たちの様子が判らないだろう」
「どういうことですか?」
「人間、食事とか就寝前とか、リラックスしている時には、本音が出やすいものだ。部下の精神状態がどのようになっているか、士気の低下や食欲の低下を起こしている者はいないか、緊張しすぎている者はいないか、などあらゆるメンタルヘルスケアチェックを行うのも、上官の任務だよ。人知れずにね」
「でも、そういうことは衛生管理部門の役目ではないですか?」
「報告を聞いて鵜呑みにするだけでなく、直に自分の目と耳でチェックする。それが本当の指揮官たる裁量のあり方だと、私は思っているのだよ。そうは思わないかね」「はあ……何となく理解しました」
「まあ、考え方は人それぞれだな。厳粛な上下関係をはっきりさせるために、食堂はもちろん居住ブロックの区分けさえしている人もいる」
「あのお……それが普通だと思いますけど」
「そうか?」
「そうですよお」

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2021.03.30 07:49 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十七章 リンダの憂鬱 V
2021.03.29

第十七章 リンダの憂鬱




「君達は、この数字を見てどう思うか? 率直な意見を述べてみよ」
 いつになくきびしい表情で質問をするアレックス。
「軒並み完了時間が遅れているのは、今年の士官学校卒業者を加えての不慣れな環境によるのではないでしょうか」
「どうかな、シルフィーネは六秒も早くなっているじゃないか。確かに不慣れな者が多いのは確かだが、指導しだいということではないかな」
「スザンナが着任早々から、メイプルを指導してということですね」
「そうだろうな。とにかく、今回の訓練の成果に関しては、あえてどうこうしようとするつもりはない。ただ旗艦たるサラマンダーが問題だな」
 ため息をつくアレックスにパトリシアが説明を加える。
「やはり航空母艦の指揮と戦艦の指揮には大きな違いがありますから、それが影響していると思われます。原子レーザー砲や各種砲塔などの火力兵器を多数搭載した戦艦と、フライトデッキを装備し艦載機の離着陸を主任務とする航空母艦、艤装がまるで違いますからね」
「まあな、しかし空母の方が戦闘配備には時間が掛かるものだ。それを差し引いても……やはり遅いと言えるんじゃないか?」
「そう言わざるを得ないのは事実ですね」
 再び大きくため息をつくアレックスだった。
 新人というものは、ベテランには気づかない多様な障害が付きまとうものだ。それを理解しないで頭ごなしに叱責することは避けなければならない。本来あるべき向上心をくじき、才能の芽を摘んでしまうこともありうるからである。
「とにかく旗艦がこれでは、他の艦艇に対する示しがつかない。レイチェル、済まないが相談に乗ってやってくれないか。任務遂行に際して障害となってことを取り除いてやってくれ」
 主計科主任であるレイチェルに、メンタルヘルスケアを依頼するのは当然と言えた。
 情報参謀として多忙なはずなのに、主計科主任をも兼務するレイチェル。
 その多才な能力をもって、アレックスの絶大なる信頼を受け、それに十分に応えられるレイチェルだった。
「判りました。最善を尽くします」

 食堂の掲示板に、例の艦艇ごとの戦闘配備完了時間の順位が張り出されている。
 競争心を煽って少しでも時間短縮するのではないかとの参謀の意見を取り入れてのことだった。
 掲示板を見つめながら会話する将兵達。
「我が艦隊の旗艦、しかも連邦を震撼させる名艦たるサラマンダーが、最下位だなんて問題じゃない?」
「そうなんだけど……一人、遅刻してきた人がいたから」
 その場にいたリンダが呟く。
「何よ。あたしのこと言ってるの?」
 フランソワもいた。リンダの呟きが聞こえたのか、息巻いている。
「言ったわよ。先輩方が全員揃った後に、新入りが遅れて到着するなんて、気が入ってない証拠よ」
「気が入ってないですって? あたしのどこが気が入ってないのよ」
「一番遅れてくることが、気が入ってない証拠じゃない。新人なら新人らしく、いの一番に艦橋入りするものよ」

 レイチェルから食堂の一件の報告を受けて考え込むアレックスだった。
「どうも犬猿の仲というのがぴったりな雰囲気になってきています。食堂の件以外にも、いろいろと衝突しているようです」
「旗艦の新艦長と、艦隊参謀長付副官という、誇りと責任感からくるものだろう。どちらもそれ相応のプライドを持っていることが問題だ。片や新人には好き勝手にはさせないという思い、もう片方は戦術士官として戦闘時には優先権を与えられるという制度からくるもの。それぞれの思いが交錯して火花を散らしている」
「プライドというものは、すべからくいざこざをもたらします」
「ああ……。結局のところ、共和国同盟の複雑な階級制度に問題があるんだよな。戦術士官などという職能級がね」
「その通りです。いざこざが起きるのは、当然戦闘態勢時ではありません。一般士官とはいえ、リンダの方が階級は上位ですから、フランソワが楯突くのは筋違いというものです」
「複雑な女性心理というのも働いているのかも知れないしな。パトリシアやジェシカにも協力してもらいたいところだが、あまりにも近すぎるから私情に駆られることもあるかも知れない。ここは中立の立場からレイチェルに依頼するしかない。頼むよ」
「それは構いませんが、いくら中立といっても、明らかにフランソワに分が悪いですからね」
「任せるよ」
 レイチェルもアレックスの依頼を断るわけにはいかなかった。
 何せ迫り来る敵の大艦隊のことで手一杯なはずのアレックスのこと、個別の乗員の痴情の縺れ的な問題に関わっている暇はないのである。

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2021.03.29 09:18 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十七章 リンダの憂鬱 Ⅳ
2021.03.28

第十七章 リンダの憂鬱




 フランソワが艦橋にたどり着いたときには、他の乗員達は全員配置につき終わった後だった。
「フランソワ。遅いわよ」
 当然というべきか、遅刻をパトリシアに叱責されてしまう。
「申し訳ありません」
 平謝りするしかないフランソワであった。
 艦橋内を見渡してみると、すでにランドール提督は指揮官席についていた。
「シルフィーネ、戦闘配備完了しました。続いてウィンディーネ、ドリアード、そしてセイレーン。戦闘配備完了しました」
 次々と戦闘配備完了の報告が入ってくる。
 やや遅れて、
「提督。旗艦サラマンダー、総員戦闘配備完了しました」
 リンダが立ち上がって申告する。
「よし! そのまま待機せよ」
「了解。待機します」
 アレックスは後ろを振り向いて、情報参謀として傍に控えているレイチェルに話しかける。
「どうだ、レイチェル。計測の方は?」
「三分二十秒です」
「うーん。遅いな……スザンナは、二分四十五秒で完了させたんだがな」
「条件は、ほぼ同じのはずです」
「そうだな……せめて三分以内でないとな」
「しかし、新人も大勢配属されていますから、単純な比較はできません」
 レイチェルが進言する。
「そうなのだが、今後の訓練の指標にはなる」

「全艦、戦闘配備完了しました!」
「そのまま待機せよ」
 と指令を出して、レイチェルを見つめるアレックス。
「提督。全艦の戦闘配備完了時間のデータが揃いました」
「よし。ご苦労だった」
 と言いつつ正面に向き直って、
「全艦の戦闘配備命令を解除、通常任務に戻せ。全艦放送を用意してくれ」
 通信オペレーターに指示する。

「全艦隊の諸君。いきなり予告なしの訓練に戸惑ったことと思う。しかし敵は予告なしに襲ってくるものなのだ。今回の訓練で慌てふためいた者はいなかったか? 配置につくのに手間取った者はいなかったか? それぞれ思い当たることがあるならば、これを反省して次回にはよりスムーズに動けるようにして貰いたい。何時如何なる時も万全の体制が取れるように、常日頃から十分すぎるほどの訓練を重ねておかなければ、いざという時に慌てふためいて各自の能力を発揮できないこともありうるのだ。今回はこれで訓練を終わるが、今後も予告なしに戦闘訓練を行うので十分訓練を積み重ねておくように。総員ご苦労だった。なお、各部隊指揮官(LCDR)及び準旗艦艦長は、サラマンダー第一作戦司令室に直ちに集合するように。以上だ」


 数時間後、第一作戦司令室に集合した将兵に対し、緊急戦闘訓練に際しての、各艦の戦闘配備完了時間が発表された。
 旗艦・準旗艦だけを拾ってみると、

 艦名      指揮官     今回      平均
 シルフィーネ  ディープス   二分四十九秒↑ 二分五十五秒
 ウィンディーネ ゴードン    二分五十四秒↓ 二分五十二秒
 ドリアード   カインズ    二分五十四秒↓ 二分四十八秒
 セイレーン   ジェシカ    三分二秒  ↓ 三分一秒
 セラフィム   リーナ     三分五秒  ↑ 三分七秒
 サラマンダー  アレックス   三分二十秒 ↓ 二分四十五秒
 ノーム(実験艦)フリード(技師)四分三十秒   データなし

 と並んでいるが、アレックスが望む三分以内を実現しているのは、ロイド中佐以下ゴードンとカインズの三艦だけという結果が出た。ロイドのシルフィーネが一位を取ったのは、副指揮官として乗艦しているスザンナの手並みだろうと思われる。サラマンダーと同型艦のシルフィーネだからこそであり、艦長のメイプル・ロザリンド大尉を懇切丁寧に指導していたのだろう。これだけの短期間でここまでの成果を出したのも、その指導力にあるのだろう。アレックスが見抜いたとおり、ただの艦長で終わるような、並みの士官ではないことを証明していた。
 なお、ノームはカール・マルセド大尉が乗艦して準旗艦となっていたが、現在は技師のフリードが乗艦して、日夜さらなる改良のためにエンジン及び制御システムをいじくっているので、現在では準旗艦を外されて実験艦扱いとなっている。またセイレーンとセラフィムは、艦載機群を直接指揮するジェシカと、空母艦隊を指揮するリーナとそれぞれ分業しているので、両艦とも準旗艦扱いとなっている。また両艦のような空母の場合は、艦載機にパイロットが乗り込んで、全機発進準備完了となるまでが計測されるので、艦艇の種類別では時間が余計にかかる。
 サラマンダーが残念な結果に終わったのは、艦長が新任であったこともあるが、それ以上に旧第十七艦隊を併合したせいでオペレーターが数多く異動されて刷新していたせいもある。

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2021.03.28 13:22 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国反乱 Ⅶ
2021.03.27

第十一章 帝国反乱




 神聖銀河帝国母星アルデラーンの衛星軌道上にある宇宙ステーション。
 その展望ルームに大演習観艦式用の特設会場が増設されている。
 壇上に立つのは、神聖銀河帝国皇帝ロベール三世。
 その両側に、ロベスピエール公爵と摂政エリザベス皇女の姿がある。
 後方には、第一艦隊以下の指揮官提督が並んでいる。
 彼らの目前を、各艦隊から選び抜かれた精鋭部隊が、整然と隊列を組んで進んでゆく。
 二チームに分かれて両側から進軍し、すれ違った後に反転して攻撃開始という内容だった。
 展望ルームの前を艦艇が通過する度に、特設スクリーン上に艦橋内の映像が流され、艦長が敬礼していく。展望ルーム後方の将軍達も敬礼している。

 第一艦隊旗艦エリザベス号は、第一皇女の名を冠してはいるが、実質的にはロベスピエール公爵の息が掛かっている提督が乗艦している。
 フランシス・ドレーク提督。
 戦闘経験の少ない帝国軍にあって、唯一と言ってもよいくらい戦闘経験豊富な逸材だ。
 彼は海賊として帝国内を荒らしまわった経歴がある。
 ある時、彼の標的として狙われたのが、ロベスピエール公爵の奴隷貿易船だった。
 奴隷密売買がために詳細は闇に埋もれて公表されていない。
 あくまで商人たちの噂話でしかないが、彼が貿易船に勇躍飛びついたところが、敵は護衛船団を隠し持っていて、手痛い反撃を喰らって航行不能となり、彼は拘束されてしまったらしい。
 公爵の前に突き出されたものの、その気っ風に惚れた公爵が自分の配下にした。
 奴隷狩りの私掠船(しりゃくせん)の艦長に取り立てられ、摂政派VS皇太子派分断騒動時に第一艦隊の提督に推挙された。

 艦艇のすれ違いが終わり、反転しはじめる。
 態勢を立て直して、戦闘準備にかかる。

 最初から向き合ってすぐさま撃ち合ってもよいのだろうが、戦意高揚と冷静沈着とを両立させるにはこの方が良いとされていた。
 すれ違ううちに精神を安定させる時間を与えるのである。

 公爵がロベール皇帝に耳打ちしたかと思うと、やおら右手を上げる皇帝。
 その手を降ろした時が、戦闘開始の合図のようである。
 振り下ろされる小さな手。

 砲弾飛び交う模擬戦闘の開始だった

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2021.03.27 08:07 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)

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