銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十六章 帝国遠征 Ⅶ
2021.05.26

第二十六章 帝国遠征




 アレックス率いる旗艦艦隊にして銀河帝国派遣隊が続々と発進を始めていた。
「それでは先輩。後をよろしくお願いします」
「わかった」
 要塞ドッグベイに停泊するサラマンダーに架けられたタラップの前で、しばしの別れの挨拶を取り交わしているアレックスとフランク・ガードナー提督がいた。
「以前にもお話ししましたとおり、要塞を死守する必要はありません。時と場合によっては潔く放棄してしまうことも肝要ですから。要塞よりも一人でも多くの兵士や士官の命を大切にしてください。要塞は取り戻そうと思えばいつでも可能ですが、死んでしまった人間を生き返らせることはできません」
「わかっている。常に臆病に極力逃げ回り、そして相手が油断したところを一気反転して襲いかかり寝首を取る。それが君の信条だったな」
「その通りです。無駄な戦いで死傷者を出したくありませんから」
「それにしても要塞をいつでも取り戻せるとはたいした自信だな」
「ちょっとした策がありましてね」
「その策とやらを聞いてみたいがどうせ話してくれんのだろう」
「敵をだますにはまず味方からといいますからね」
 スザンナ・ベンソンが歩み寄り、うやうやしく敬礼して報告する。
「提督。全艦発進準備完了しました」
「判った」
 スザンナは旗艦艦隊司令として同行する。
 その幸運を素直に感謝していた。
 どこまでも一緒について行くという信念がもたらしたのかも知れない。
「それでは先輩、行ってきます」
 ガードナー提督に敬礼するアレックス。
「まあ、いいさ。とにかく要塞のことはまかしておけ。援軍が欲しければ、連絡ありしだいどこへでも持っていってやる」
「よろしくお願いします、では」
「ふむ、気をつけてな」

 アレックスを乗せた旗艦サラマンダーがゆっくりと要塞を離れていく。
 整然と隊列を組んでいる艦隊の先頭に出るサラマンダー。
 従うのは、スザンナ・ベンソン少佐率いる精鋭の旗艦艦隊二千隻である。
「全艦発進せよ。行き先は銀河帝国本星アルデラーン」
「全艦発進!」
「座標軸設定完了。銀河帝国本星アルデラーン」
 全艦ゆっくりと動きだす。

 その光景を中央制御室から見ているガードナー提督。
「生きて帰ってこいよ」
「閣下、ランドール提督はこの要塞を手放しても再攻略できるとおっしゃっておられましたが、そんなことが本当に可能なのでしょうか」
 要塞防御副司令官を兼任する第八艦隊司令のリデル・マーカー准将が質問する。
「さあな。残されたものを安心させるための、ただのはったりかも知れんし、あるいは俺達の想像すらつかない方法があるのかもな。要塞に関してはフリード・ケイスン中佐が徹底的に、その構造を解析しているだろうからな。どこかに弱点が発見されたのかも知れない。もっとも弱点が見つかっても綿密なる攻略作戦を立てないと難しいだろうし」
「作戦があるとすれば、その策案者はどちらでしょうか。提督か、作戦本部長か……」
「ん……? 随分気にしているようだな。ウィンザー大佐だとしたら、どうだというのだ」
「い、いえ……」
「残念だ。君も女性士官に偏見を持つ一人だったとはな」
「ち、違います!」
 図星だな。
 とフランクは思った。
 劇的なまでの昇進を果たして、すぐ足元の大佐となり、しかもそれが女性ということにかなりこだわっている風が、ありありと観察できた。
 まあ、その気持ちも判らないでもないが……。
 女性士官テンコ盛りの第十七艦隊と違って、第八艦隊はごく平均的な男女比を持っていて、司令官クラスの女性は一人もいない。
 要塞に来てからというもの、総参謀長のパトリシアと要塞防御副司令官という関係から、打ち合わせなどで顔をつき合わせて応対することが多かった。
 化粧をしスカートを履いた士官と隣の席になれば誰しも思う気持ちである。
 実際に隣に座れば、女性特有の香水の甘い香りが漂ってくるし、ふと胸元に目がいけばその膨らんだ胸にどきりとする。慌ててうつむけばスカートの裾からのぞく脚線美がそこにあるという具合である。
 男と女の違いを身近で認識させられるわけである。

「いや、偏見というものじゃないな……」
 要は女性経験が少ないのかも知れない。
 ふと笑みが漏れてしまう。
「笑わないでくださいよ」
「笑っているように見えるか?」
「見えますよ。何を考えていたんですか?」
「いや、何でもないさ。それより、フリード・ケイスンに要塞移動のための反物質エンジンの開発状況を確認しなければならない」
 話題を変えてしまうフランクだった。
 実際問題としても、要塞を動かすことのできるエンジン建造の進捗状況によっては、大幅な作戦計画の変更を余儀なくされるわけである。

 旗艦サラマンダーの艦橋。
「銀河帝国へのワープ設定完了しました」
「しかし、タルシエンから帝国への道のりは険しいな」
 アレックスが危惧しているのは、バーナード星系連邦の支配下にある共和国同盟の只中を通過して、反対側にある銀河帝国との境界まで無事にたどり着けるかということである。
 一回のワープで飛べる距離ではないから、数度に分けることになるが、その途中で行動を悟られる可能性があった。
 同盟の周辺地域を遠回りで巡りながら、連邦軍に反抗する勢力と連絡を交わしつつ、出来うるならば協定を結ぶことも任務の一つに挙げられていた。
 そのためにかの地に残してきたのが、第八占領機甲部隊メビウスであった。
 トランター本星はもとより、周辺地域にも派遣して「Xデー」以降のパルチザン組織の設立に一役買う予定だった。そして各地のパルチザン組織の横の連絡を取るのは、メビウス司令官にして情報参謀のレイチェル・ウィング大佐である。
 彼女なら、通信統制の網の目を掻い潜って各組織をまとめ上げられるだろう。
「ワープ準備完了しました」
 パトリシアがすぐそばに寄ってくる。
「いよいよですね」
「ああ、この帝国遠征の成否によって、タルシエンに集まった人々の運命も大きく変わるだろう。その期待に応えるためにも、何とかして銀河帝国との協力関係を取り付けなければならない」
「そうですね」
 と言いつつ、アレックスの腕に手を置いた。
 その手をやさしく握り返しながら、
「何とかやってみるさ」
 と微笑むアレックスだった。
「全艦、ワープせよ!」

 アレックス・ランドールの帝国遠征の道行きが開始された。
 共和国同盟の解放のため、銀河帝国への侵略を阻止するために、そして自分の信念のおもむくままに……。

 第二十五章 了

第二部へ続く

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2021.05.26 08:21 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十六章 帝国遠征 Ⅵ
2021.05.25

第二十六章 帝国遠征




 それから数日後。
 タルシエンに集う全将兵に対してのみにあらず、旧共和国同盟全域に対して、今後のアル・サフリエニ方面軍の方針を、全周波帯による軍事放送を伝えるアレックスだった。
『共和国同盟に暮らす全将兵及び軍属諸氏、そして地域住民のみなさんに伝えます。私、アレックス・ランドールは、タルシエン要塞を拠点とする解放軍を組織して、連邦軍に対して徹底抗戦することを意志表明します。解放の志しあるものは、タルシエン要塞に結集して下さい。猶予期間として四十八時間待ちます。以上です』
 艦内のあちらこちらでは、解放軍結成表明を放送するアレックスをモニターで見つめている隊員達がいる。
「解放軍か……」
「どうなるんだろうねえ。俺達は」
 全宇宙放送から要塞及び解放軍に対しての放送が続く。
『それでは引き続き、現在タルシエン及びアル・サフリエニに集う全将兵に告げる。今表明した通りに、我々は総督軍に対して徹底抗戦する。祖国に弓引くことになり、家族や親類同士で戦うことになる可能性もある。そこで諸君らに選択の機会を与えることにする。我々と共に祖国の解放のために戦うか、それともここを去り祖国に帰るか。君たちの自由意志に任せることにする。四十八時間の猶予を与えるから、じっくりと考えて結論を出してくれたまえ』
 艦内のあちらこちらでは、自身の身の振り方についての会話がはじまった。
 第十七艦隊旗艦、戦艦フェニックスの艦橋でも全艦放送を聞いて困惑の表情を見せるオペレーター達がいた。自分達の指揮官であるチェスターがどういう結論を下すのか? それに従うかどうか、それぞれに頭を悩ましていた。
「閣下は、いかがなされるのですか?」
 少佐になったばかりのリップルは聞くまでもないと思いつつ、チェスターに尋ねてみた。
「ランドール提督は、定年間近な私を艦隊司令官として迎え入れてくれた。オニールやカインズという新進気鋭の後進が育ってきて、慣例ならば勇退という形で勧奨退職が一般的だ。後進に道を譲るよう諭されるところだったのだが」
「将軍への最高齢昇進記録を塗り替えました」
「将軍となることは、武人としての栄誉である。それをかなえてくれたランドール提督には、恩を返さねばならないだろう」
「しかしトランターに残してきたご家族のことは?」
「それは私にも心痛むところだが、軍人の妻として一緒になったときから、常に心構えはできている。子供達も理解はしてくれていると思う」
「閣下、艦内放送が整いました」
「判った」
 第十七艦隊としての行動判断を示す必要があった。
 チェスターは、ランドール提督に付き従うことを決めてはいたが、それを部下にまで強制することはできなかったからである。
『第十七艦隊の諸君。私は、ランドール提督と共に戦うつもりだ。しかし君たちを軍規によって縛り付けることはできない。ここに残るも、祖国に戻るも個人の自由だ。それぞれによく考えて、身の振り方を決定したまえ。以上だ』

 同様な艦内放送は、独立遊撃艦隊のゴードンやカインズ、そして旗艦艦隊のスザンナのところでも行われていた。
 ハイドライド型高速戦艦改造II式「ノーム」を乗艦とするスザンナは、艦内放送を終えて感慨に耽っていた。旗艦艦隊司令官という光栄を預かっただけでなく、これまで実験艦という位置づけだったこのノームを再び準旗艦に格上げさせて与えてくれた。
「ベンソン司令は提督について行かれるのですよね」
 スザンナの副官となった二コレット・クーパー少尉が確認する。
「もちろんです」
「ですよねえ。提督の士官学校時代からずっと共に戦ってこられたのですものね」
「その通りです。何があろうとも付いていくわ」
「ご一緒します」
「ありがとう」
 二コレットは尊敬に値する感情を、この上官に抱いていた。
 提督の厚い信頼を受けて、一般士官である艦長という身分ながらも艦隊運用を任されるようになった。運にも恵まれていたかも知れないが、誰しもがその才能を認めていたし、それ以上に努力家であることも知っていた。
 勤務が終えた後に、資料室で一人静かに戦術理論の研究をしているを良く見かける。提督の期待に応えるために、一所懸命に勉強を続けていた。
 自分もそうありたいと二コレットは思った。


「提督は、銀河帝国に支援を求めるとおっしゃってましたが、いいんですかねえ」
「何がいいたいの?」
「ほら、提督って銀河帝国からの流れ者で、スパイではないかとの噂もありますし」
「あなた、それを信じてるの?」
「だって、深緑の瞳をしてますし……帝国皇室と血筋が通っているんでしょう?」
「確かに血が繋がっているのは間違いないと思います。同盟ではその出生率は十万分の一以下の確立らしいですからね」
「だから……こんな折に帝国に支援を求めると言い出して、スパイとして送り込んできたというのも信憑性があると思いませんか」
「あのねえ。提督が孤児として拾われたのは、まだ乳飲み子の頃なのよ。スパイ活動ができると思えて?」
「だから大きくなるにつれて連絡を取り合って」
「そんな面倒なことをするわけ? 最初からスパイ訓練を受けた専門家を送り込んだほうが手っ取り早いんじゃない? それに同盟で育てられれば立派な同盟国人よ。第一に、義務教育も幼年兵学校からはじまって、民間人が出入りできない軍の教育機関にずっといたのに、連絡員が接触する機会なんかないわよ」
「はあ……そう言われれば確かにそうなんですけど。でもどうしてそんな噂が立つのでしょうねえ。火のないところに煙は立たないものだし」
「噂は士官学校時代からあったけど、提督の才能をやっかむ人々が流しているのではないかということになってるわ」
「どっちにしても確証はないんですよね」
「これまで多大な恩恵を同盟に与えてくれた提督を信じてついていけば未来は開かれるという確証はあると思いますけど、どうかしら?」
「ですよね……」
 実際、今後のことなど誰にも判るはずなどない。

 連邦が勢いに乗じて帝国をも降伏させて、銀河の覇者となるのか。
 提督がそれを阻止して連邦を追い返して、あらたなる同盟を再興するのか。
 はたまた周辺地域で細々とゲリラを繰り返し、やがて自滅していく運命にあるのか。
 アル・サフリエニ方面軍にとって、ランドール提督がその運命を握っているということだけは確かなことであった。
 それを信じて祖国に弓引くことになっても付いていくか、はたまた祖国に戻って総督軍に加わりランドール提督とも交えることをも是とするか。
 祖国を取るか、信奉する提督を取るか。
 二者択一を迫られて、それぞれの思いを胸に決断する時はやってくる。

「猶予期間の四十八時間が過ぎました」
 静かな口調で、パトリシアが報告に来た。
「退艦して祖国に戻る意思を表明した者は、七百万八千人ほどになります」
「そうか……帰りたいと思う者を引き止めるわけにはいかないからな。我々は祖国のために戦ってきた。その祖国を敵に回すことをためらうのも当然のことだ」
「気持ちは判ります」
「輸送船団を手配して、祖国に気持ちよく送り返してやろう」
 二時間後、祖国に戻る将兵を乗せた輸送艦隊がトランターへ向けて出発した。
 それを見送る最後の放送を行うアレックス。
『祖国へ戻る将兵及び軍属のみなさん。これまで私の元で戦ってくれたことに感謝いたします。祖国に戻られては、戦争で疲弊した国力を回復し、新たなる国家の再建に努力して頂きたい。これまでほんとうにありがとう。航海の無事を祈ります』
 そして万感の思いを込めて敬礼するアレックスだった。
 輸送艦においても、その放送を聴いているほとんどの者が、スクリーンに映るかつての司令官に対しそして涙していた。
 これまで共に戦ってきた仲間との別れ、場合によっては戦火を交えるかもしれない境遇。
 自ら決断したこととはいえ、翻弄させられる運命のいたずらを呪っていた。
「ランドール提督に敬礼!」
 誰かが叫んだ。
 一斉に直立不動の姿勢を取り、最敬礼を施す隊員達だった。
 スクリーンはランドールの姿から、タルシエン要塞の全景に切り替わっていた。
 しかし誰も敬礼を崩す者はいなかった。
 タルシエン要塞の姿を頭に刻み込もうといつまでも見つめていた。

 ランドール提督に栄光あれ!

 すべての将兵達の本心からの熱い思いだった。

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2021.05.25 08:55 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十六章 帝国遠征 V
2021.05.24

第二十六章 帝国遠征




 通路を歩いているカインズ。
 シャイニング基地にある未配属の艦艇のことで頭が一杯になっていた。
 至急に赴いて作業を進める必要があった。総督軍がいつ攻め込んでくるかも知れないからである。
「准将閣下」
 パティー・クレイダー大尉が話し掛けてきたが、一瞬自分が呼ばれたのとは気付かなかったカインズであった。議場で自分が准将に任命されたのを思い出して、
「あ、ああ。パティーか……准将になったんだったな」
「寝ぼけないでくださいよ。閣下」
「すまん。まだ、実感がわかないんだ」
「そのうちにいやでもわいてきますよ。とにかく、おめでとうございます。ついにオニール准将と並びましたね」
「ありがとう。といってもまだ正式な辞令は出ていないがな」
「いいじゃありませんか。誰が何と言おうと六万隻を動かす准将に間違いないのですからね」
「といっても大半がシャイニング基地に残したままだ」
「そうでした。総督軍に奪われないうちに急行して我が部隊に併合しましょう」
「それにしても、俺のところには略取した艦隊や寄せ集めの部隊しか回ってこないな」
「確かにそうではありますが、逆に考えればそれだけ閣下の人徳や用兵の力量を、提督が信頼して任せてくれているということです。それをできるのは閣下以外にいないことをご承知なのです」
「まあ、そう言ってくれるのはありがたいが、現実はあまりにも時間が短すぎるからな」
「はあ……それは致し方ありませんね」
「そうだ。君のことは、今昇級の適正審査にかかっているが、要塞に帰還するころには、少佐の正式辞令がでるだろう。その時には艦隊参謀として着任してもらいたいのだが」
「ありがとうございます。もちろん喜んでお引き受けいたします」
「よろしくたのむ」

 もう一方のゴードンの方も、シェリー・バウマン大尉から昇進を祝福されていた。
「閣下、昇進おめでとうございます」
「おうよ。君もじきに少佐として司令官の仲間入りだな」
「ありがとうございます」
 とぺこりと頭を下げる。
「昇進祝いに二人で乾杯するか?」
「ほんとうですかあ! やりましょう。昇進祝い」
「うんじゃあ、ラウンジへ行こうか」
「はい!」
 と言って、ゴードンの腕に自分の腕を絡ませて、恋人よろしく仲良く歩き出す二人だった。
「共和国同盟が崩壊してしまったのは辛いですが、絶対防衛艦隊司令長官のチャールズ・ニールセン中将が逝っちまったのには、せいせいしますね」
「そうそう。何かにつけて提督を目の敵にして、難癖つけて無理難題ふっかけやがってさ」
「でも……逆説的な考えをしますと、ニールセンのおかげで、提督がここまで出世できたともいえますよね。無理難題を押し付けても、それを難無くかわしてきた提督の実力あってのことですけど」
「提督を過小評価してあなどっているからこうなるんだ」
「そうですね」
「ところで君は平気なのか?」
「何がですか?」
「祖国に対して弓を引くことに対してだよ」
「水臭いですよ。閣下にずっと付いていくと誓ったじゃないですか。わたしがお仕えしているのは、共和国同盟ではなくて、ゴードン・オニール准将です」
「そうか……ありがとう」
「ともかく、これからの未来に祝杯をあげましょう」
「そうだな。希望溢れる我々の将来に幸あれだな」
「はい!」

 司令官室に戻ったアレックスも、パトリシアとこれからのことを話し合っていた。
「ところで、トランターに残してきた第八占領機甲部隊メビウスの件ですが、司令官レイチェル・ウィング大佐は、提督の意向通りに動いてくれるでしょうか」
「メビウス部隊のことはレイチェルにすべて一任してある。降伏するも徹底交戦するも彼女の判断に任せるしかない。刻々変化する状況に合わせて最良の決断を下すだろう。それがどうなろうとも、僕は容認するつもりだ。投降し我々の敵に回ろうともね」
「実際問題として、敵の直中{ただなか}に置いてきぼりにしてきたのは事実なわけですし……。ま、わたし達がとやかくいえる立場ではないですけどね」
「しかし旗艦である機動戦艦ミネルバの艦長があのフランソワだからなあ……」
「あれでも士官学校を首席で卒業してますのよ」
「転属命令を受けた時に、泣いたそうじゃないか」
「ええ。でもお姉さまと慕ってくれるのはいいんですが、提督がおっしゃられたように、それではいつまで経っても一人立ちができません。いつかは巣立ちを促して、冷たく突き放すことも必要だと教えられました」
「……ま、遠き星の空の下から彼女達の無事と幸運を祈るしかない」
「きっとやりとげますわ。レイチェルさんとフランソワならね。でもこのことを、他のみなさんに秘密にしなければならないなんて、心苦しいですわ」
「しかたがない、極秘任務であり、敵地の只中にいるのだから。情報が漏れては一大事だ」
「ええ……」

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2021.05.24 08:16 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十六章 帝国遠征 Ⅳ
2021.05.23

第二十六章 帝国遠征




 ゲリラ戦を引き起こし、総督軍の足元をかき回すということで、みなの意見は統一されていった。
 しかし大事なことが残っていた。
 解放軍といえば聞こえがいいが、政府軍に対する反乱軍という位置づけには変わりはない。
 国民を総動員して税金という軍資金を調達し、次々と戦艦を建造して投入することのできる総督軍に比べれば、反乱軍は圧倒的に脆弱である。いくら周辺地域を取りまとめて協力を仰げたとしても限度がある。
 強力なパトロンが必要であった。
 古代から政府軍や占領軍を転覆させたような反乱軍には、武器や軍資金を供与して後押ししてくれる国家があった。ナチス政権下のパルチザン組織フランス義勇軍には連合国が付いていたし、ベトナム戦争や朝鮮動乱に際しては、ソ連や中国といった共産国が後の北朝鮮を援助し、韓国はアメリカである。いずれにしても背後には強力な国家があった。もちろんそれには利権とかも絡んでいるのであるが。
 アレックスがパトロンとしようとしているのは、もちろん銀河帝国である。
「解放軍が、連邦軍を追い払い民衆を解放するのは第一の目的であるが、それ以前に内部攪乱を引き起こすことによって、銀河帝国への進攻を一時にでも引き伸ばすことにある。その間に、銀河帝国と接触を計って解放軍の味方につける必要がある。そうでなければ永遠に解放の時はこないであろう」
「銀河帝国に支援を求めるのですか?」
「銀河帝国が我々の味方についてくれるでしょうか」
「それはやってみなければ何ともいえない。しかし、彼らだって共和国同盟が滅ぼされ、連邦の次の目標が自分達の領土であることを身にしみて感じているはずだ」
「感じていなかったら?」
「その時は滅びるだけさ」
「ところで、銀河帝国と接触するとおっしゃいましたが、その重要な任務にあたるのを誰にまかせるかですが……」
「もちろん、その任務は私があたる」
「そんな……提督には要塞に残って全軍を指揮していただかないと」
「その必要はない。今後は要塞の守備とゲリラ戦が主体で、積極的に攻撃に打ってでることはない。となれば私よりも、ガードナー提督の方がより適任である。ゲリラ部隊には、ゴードンとカインズにやってもらう。ついてはシャイニング・カラカス・クリーグ基地には偵察の機能のみ残して、全艦隊を要塞に集結させる」
「基地を見捨てるのですか」
「そういうことになるな。総督軍に対して艦隊数において劣る我々にとって、三基地を防衛するために兵力を分散させるのは得策ではない。各個撃破されて消耗するのが関の山だ。或は直接要塞へ全軍で掛かられれば持ちこたえられない」
「奪取されれば、要塞攻略の拠点とされることになりますが」
「それは考慮する必要はない。科学技術部が骨を折ってくれたおかげで、この要塞を移動させることが可能となった」
「それは本当ですか?」
 一同が驚きの声をあげた。
 この巨大な要塞を移動させることなど、誰も考え付かないことだった。
 もちろんそれを可能にしたのは、フリード・ケイスン中佐であろうことと、彼の天才を持ってすれば不可能ではないだろうと誰しもが理解した。
「いくら強固な要塞とて、動けなければどうしようもない。一箇所に留まっているのだからな、慌てることもなくじっくりと、いくらでも攻略作戦を練ることができる。例えば次元誘導ミサイルのような新兵器を敵が開発すれば、たちどころに危機を招くことになる。何せ次元誘導ミサイルの設計図が同盟軍の軍事コンピューターの中に残っているのだから」
 ジュビロと連絡が取れれば、設計図を抹消することも出来たのであるが、連絡役のレイチェルはここにはいない。またミサイルの予算取りのために各方面に申請書を出してあるから、あちこちに設計図の記された書類が分散してしまっているはずである。それらをすべて抹消することも不可能だろう。
「ともかく移動可能となったからには、神出鬼没の機動要塞として、本拠地を察知されることなく敵艦隊を攪乱することができるわけだ。ゆえに三基地を固持する必要はない」
「でもカラカスの軌道衛星砲はもったいない。撤収して要塞周囲に必要に応じて展開できるようにしてはいかがでしょう」
「それもいいだろう」

「本拠地となるこの要塞の防衛の陣頭指揮はフランク・ガードナー少将にお願いするが、ゲリラ部隊となる特別遊撃艦隊の指揮を、ゴードン・オニール上級大佐にやってもらう。もう一個艦隊として……」
 アレックスはゆっくりと議場の将校達をなめるように見回してから、
「ガデラ・カインズ大佐」
「はっ!」
 指名されて立ち上がるカインズ。
「シャイニング基地にある未配属のままの三万隻の艦艇を貴官の部隊に併合して、正式に一個艦隊として編成させることにする。ゴードンと共同してゲリラ作戦の主先鋒として指揮を取ってくれ」
 一部から、感嘆の声が漏れた。或は、「やはりね」と頷いている者もいる。
「わかりました。艦隊の指揮をとります」
「シャイニング基地へ至急赴いて、それらの艦隊を総督軍に奪われる前に、すみやかに回収併合して、基地から撤収させるのだ」
「基地から撤収するのですか」
「そうだ。シャイニング基地は放棄するからな」
「ゲリラ部隊には、攻撃目標となる動かぬ基地は必要ありませんからね」
「なお、この場においてゴードンとカインズ両名を准将として任ずる。同盟がこういう状況なので、正式辞令は出せないがな」
 それを一番喜んだのはパティー・クレイダー大尉だった。
 直属の上官が昇進すれば自動的に自分にも昇進の機会が与えられるからである。
「長くなった。今日のところはこれで解散して、また明日に会議を持つことにしよう。質問などがあればその時にお願いする」
 と立ち上がって退室するアレックスだった。

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2021.05.23 13:00 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十六章 帝国遠征 Ⅲ
2021.05.21

第二十五章 帝国遠征




 質問が自分の事に言及され、みじろぎもせずにスクリーンを凝視するアレックス。
「……だって言ってますよ」
 ゴードンが、親指でスクリーンを指差す格好で口を開く。
 言いたいことは良く判っている。
 共和国同盟が滅び、守るべき国家の存在が消失した今、もはやタルシエンに固執する必要はないと言えるだろう。アル・サフリエニ方面軍を解散して要塞を明け渡し、これまでに戦ってくれた将兵に報いるためにも、郷土への帰還を許すべきではなかろうか。
 通信を終えて、総参謀パトリシア・ウィンザー大佐に指令を出すアレックス。
「パトリシア、全幕僚を会議室に集合させてくれないか。一時間後だ」
「かしこまりました」
 ただちに、フランソワに代わって副官となった、マリア・スコーバ中尉によって全幕僚に伝令が発せられた。

 会議室にフランク・ガードナー少将以下の幹部達が勢揃いしている。
 アレックスがパトリシアを連れて入室する。
「提督!」
「我々は武装解除されるのでしょうか?」
「要塞を明け渡せとのことですが、本当に承諾するつもりですか」
 次々と質問を浴びせかける一同。
「結論だけ言わせてもらうと……」
 一同が注目する。
「私は投降もしないし、もちろんこの要塞を明け渡すつもりもない」
「ではこの要塞に籠城して徹底交戦なさるおつもりですか」
「籠城? それは無駄死にするのがおちだ」
「しかし、要塞の主砲があれば……」
「火力を過信してはいけない」
「その通りこの要塞を奪取したのも、不発弾一発だけだったのを忘れたのか」
「それは提督と総参謀長殿の奇襲作戦があったから」
「だが敵から別の手段を仕掛けてこられて、同様にこの要塞が落ちる可能性もあるわけだ。何せ、敵はこの要塞のすべてを知り尽くしているんだ。我々の知らない侵入経路や手段がある可能性もあるわけだな」
「では、どうなさるのですか」
「それを答える前に考えてみてくれたまえ。我々が投降して後背の憂慮がなくなったとき、総督軍がどういう行為に出るか?」
「銀河帝国への侵略を開始するでしょうね。もちろん総督軍の再編成が済み、補給のめどが立てばですけど」
「連邦の軍事力に同盟の経済力が加われば、帝国に勝ち目はありませんね」
「帝国は敗れ、銀河は連邦によって統一されることになりますね」
「統一されれば平和がやってくるのでは」
「どうかな……」
 とアレックスは低くつぶやいて言葉をつないだ。
「確かに銀河は一時的には統一されるかもしれない。しかし、連邦は元々軍事クーデターによって一部将校の手によって帝国から分離独立して起こされた国家だ。銀河が統一され平和になれば……」
 アレックスの言葉尻を受けてゴードンが答えた。
「そうだ。軍部は意味をなさなくなってくる。上層の将校はともかく、昇進の道を閉ざされた下位の将校に不満が高まるのは明白だ。戦いと名誉の昇進がなければ軍事国家はやがて崩壊する」
「再びクーデターが起こって分裂するということですね」
「そうだ。連邦が軍事国家である限り、真の平和はありえない。ゆえに連邦にこれ以上の纂奪を許さないためにも、我々が手をこまねいていてはならないのだ」
 場内は静まり返っている。
 各自それぞれに思いを巡らしているのだろう。
「故郷へ帰りたいと思う者もいるだろうが、その思いを果たせることなく宙(そら)に散った数え切れない英霊達のためにも、あえてここに踏みとどまり解放軍を組織して徹底抗戦をしたいと思う。そして銀河帝国への侵略を阻止する足枷になるのだ」
「解放軍ですか?」
「そう。共和国同盟の各地に出没して、ゲリラ戦を引き起こす」
「それ! いいですねえ。ゲリラ戦なら望むところです」
 ゴードンはいかにも嬉しそうな表情を見せる。
 彼の率いるウィンディーネ艦隊は、高速機動を主眼としており、一撃離脱のゲリラ戦には最適であろう。
「しかし戦闘を続けるには燃料と弾薬の補給が不可欠です。どうなさるおつもりですか?」
「共和国同盟が崩壊したとはいっても、連邦が全領土を完全に掌握したのではない。僻地ではいまだに反抗する勢力があるのも事実だ。しかし彼らには動ける艦隊を持ち合わせていない。そこで我々がそういった勢力を取りまとめ解放軍として旗揚げすれば、総督軍と十分にやりあえる」
「食料や資材、燃料・弾薬の補給も受けられますね」
「総督軍には解体された同盟軍将兵も再編成されている。かつての味方同士で骨肉を争う戦いを強いられることになる。ゲリラ戦なら相手を選んで戦いを仕掛けることも可能だからな」

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2021.05.21 08:01 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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