銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十章 タルシエン要塞へ Ⅲ
2021.04.22

第二十章 タルシエン要塞へ




 アル・サフリエニ宙域タルシエンに浮かぶ要塞。
 バーナード星系連邦の共和国同盟への侵略最前線基地にして、その後方に架かる銀河の橋を守る橋頭堡でもある。
 銀河系の中の、太陽系をも含有するオリオン腕とペルセウス腕と呼ばれる渦の間に存在する航行不能な間隙の中で、唯一の航行可能な領域。それがタルシエンの橋と呼ばれ、その出口にバーナード星系連邦が建設した巨大な軍事施設がタルシエン要塞である。
 直径512km、質量7.348x10^21kg(地球質量の1/81,000,000)

 *ちなみに太陽系内では、準惑星のケレスが直径1000kmで他に500km級は2個しかない。また、スターウォーズのデススターが直径120kmである。*

 要塞は重力を発生させるためにゆっくりと自転しており、人々は要塞の内壁にへばり付いている。 重力のほとんどない要塞最中心部には、心臓部とも言うべき動力エネルギーを供給する反物質転換炉。
 それを囲むようにして収容艦艇最大十二万隻を擁する内郭軍港及び軍需生産施設があって、要塞の北極と南極にあるドッグベイに通路が繋がっている。
 中殻部には軍人や技術者及びその家族軍属を含めて一億二千万人の人々が暮らす居住区画やそれらを賄う食物・飲料水生産プラント。要塞を統括制御している中枢コンピューター区画、病院やレクレーションなどの福利厚生施設も揃っている。
 そして最外郭には、要塞を守るための砲台が並ぶ戦闘区画となっている。
 その主力兵器は、陽子・反陽子対消滅エネルギー砲。中心部の反物質転換炉から放射状に伸びる粒子加速器によって加速された反陽子一単位と、もう一対の粒子加速からの陽子二単位とを反応させた際に生ずる対消滅エネルギーを利用し、残渣陽子をさらに加速射出させる。通常の陽子加速器では得られない超高エネルギー陽子プラズマ砲である。副産物として多量のダイバリオン粒子が生成されることから、ダイバリオン粒子砲とも呼ばれる。
 質量のすべてをエネルギー化させる対消滅エネルギー砲に勝るものはない。例えば核融合反応における極微量の質量欠損だけでも、E=mC^2で導かれる膨大なエネルギーが発生するのである。
 ちなみに広島に落とされた原爆における質量欠損は、0.7グラムだと言われている。1グラム(1円玉の重さ)にも満たない質量がすべてエネルギーに変わるだけで、あれだけの破壊力を見せつけてくれたわけである。
 サラマンダー艦に搭載された原子レーザー砲と比較検討がされたりするが(つまりどちらが威力があるかだが)、前述の通りであるし、そもそも巨大要塞砲と、蟻のように小さな戦艦搭載砲とを比べるのには無理がある。

 居住区画の一角にある中央コントロール室。
 壁面のスクリーンに投影された要塞周辺の映像や、要塞内の状況がリアルタイムに表示され、それらを操作するオペレーター達が整然と並んでいる。
 要塞を統括運営する機能のすべてがここに終結している。
「第十七艦隊の動きに何か変わったことはないか?」
「別にありません。二十八時間前にシャイニング基地から出撃したとの情報からは何も……」
「だろうな。無線封鎖をして動向をキャッチされないようにしているだろうからな。それで予定通りこちらに向かったとして到着は何時ごろだ」
「およそ十八時間後だと思われます」
「警戒を怠るなよ」
「判っております」

「それにしても着任そうそう、あのランドール提督とはな。ついてないな」
「はい。あのサラマンダー艦隊かと思うと、身震いが止まりませんよ」
「君は、ランドールを評価するのか?」
「前任の司令官自らが率いた八個艦隊もの軍勢をあっさりと退けた張本人ですからね。安全な本国でのほほんとしている頭の固い将軍達はともかく、こっち側にいる指揮官達は、みんな奴とだけはやり合いたくないと願っているのですよ」
「そうか……。君達の気持ちも判らないでもないが、だからと言って逃げているわけにもいくまい」
「ランドール提督なら、平気で逃げちゃいますけどね」
「奴は例外だ。しかし奴とて闇雲に逃げ回っているわけではないだろう」
「そうです。転んでもただ起きるような奴ではありません。いつも必ず罠を仕掛けてあります。それに引っかかって幾人の提督が泣かされたか。前任の司令官なんか、捕虜にされるし一個艦隊を搾取されしで面目丸潰れ、もはや本国に帰りたくても帰れないでしょう。捲土重来はあり得ず、全艦玉砕すべきだったというのが本国の一致した意見らしいです」
「らしいな。罠を仕掛けたりする卑怯な奴として思われているが、罠に引っかかる方が不注意なのであって、それも立派な戦術なのだがな」
「今回はどんな罠を仕掛けてくるのでしょうか? たかが一個艦隊だけで、この要塞を攻略など不可能ですからね」
「十分以上の用心をするに越したことはないだろう」
「考えられるだけのすべての防御策を施した方がいいでしょう」


 宇宙空間に出現する第十七艦隊。
 旗艦サラマンダーの艦橋。
 ワープを終えて一息つくオペレーター達。
「第一目標地点に到達しました。全艦、ワープ完了。脱落艦はありません」
「よし。全艦、艦の状態を確認して報告せよ」
「全艦、艦の状態を報告せよ」
 エンジンに負担を掛けるワープを行えば少なからず艦にも異常が生じる。それを確認するのは、戦闘を控えた艦としては当然の処置であった。特に旗艦サラマンダー以下のハイドライド型高速戦艦改造II式は、今だに改造の続いている未完成艦であり、データは逐一フリード・ケースン少佐の元に送られる事になっていた。それらのデータを元にして実験艦「ノーム」を使用しての、改造と微調整が続けられていた。
「一体、何時になったら改造が終わるんだ?」
 アレックスが質問した事があるが、フリードは肩をすくめるように答えていた。
「他人が建造した艦ですから、いろいろと面倒なんですよ。例えばある回路があったとして、それがどんな働きをしているか理解に苦しむことがあるんですよ。最初から自分が設計した艦なら、すべてを理解していますから簡単なんですけどね」
 その口調には、自分にすべてを任せて戦艦を造らせてくれたら、サラマンダーより高性能な艦を建造してみせるという自信に満ちているように思えた。しかしいくら天才科学者といえども、そうそう自由に戦艦を造らせてもらえるものでもなかった。まずは予算取りからはじまる面倒な手続きを経なければならないし、開発設計が始まっても軍部が口を挟んで、自分の思い通りには設計させてはくれないものだ。そして実際に戦艦を造るのは造船技術士達であり、設計図通りに出来上がると言う保証もなければ、手抜き工事が横行するのは世の常であるからである。
「報告します。全艦、異常ありません。航行に支障なし」
「よし。コースと速度を維持」
 時計を確認するカインズ大佐。
「うん。時間通りに着いたようだな」
「時間厳守なのは、第十七艦隊の誇りです。一分一秒の差が勝敗を決定することもありますからね」
 副官のパティー・クレイダー大尉が誇らしげに答える。
「そうだな……」
「ところで、カインズ大佐……」
「なんだ」
「提督は何を考えておられるのでしょうか。大佐をさしおいて、ウィンザー少佐に第十七艦隊の全権を委ねるなんて。自身はウィンディーネのオニール大佐と共に別行動にでたまま。通信統制で連絡すらままならないし」
「まあ、そう憤慨するな。この作戦の立案者の一人であるウィンザー少佐に指揮権を任せるのが一番妥当ではないか」
「そうはいいますが、何もウィンザー少佐でなくても……だいたい作戦内容が一切秘密だなんて解せないですよ。一体提督は第六突撃強襲艦部隊や第十一攻撃空母部隊を率いて何をしようとしているのですか? 第六部隊は、白兵戦用の部隊なんですよ」
「ランドール提督がわざわざ第六部隊を率いる以上、ゲリラ戦を主体とした作戦だとは思うが、それがどんなものかは少佐の胸の内というわけだ」
「ゲリラ戦ですか……しかし相手は巨大な要塞ですよ。一体どんな作戦があるというのでしょうか」
「さあな。俺達には何も知らされていないからな」
「やっぱり、恋人だからですかね」
「ま、どんなことがあっても、絶対裏切ることのない信頼できる部下であることには間違いないだろうな。後方作戦の指揮をまかせるのは当然だろ」
 カインズとて、下位の士官に命令を受けるのは好ましいことではなかった。しかし、今の自分の地位があるのも、ランドール提督とウィンザー副官の絶妙な作戦バランスの上に成り立っているのも事実であった。大佐への昇進をゴードンに先んじられ、悔しい思いを胸に抱きながらもやっと大佐へとこぎつけたばかりだ。配下には三万隻の艦隊を預けられている。
「大佐。今回の作戦が成功すれば、提督は第八師団総司令と少将に昇進することが内定していると聞きましたが」
「それは確からしい」
「だとすると、今四人いる大佐のうちの誰かが第十七艦隊司令と准将の地位に就くということになりますね」
「ああ……そういうことだな」
「どうせ、腹心のオニール大佐でしょうねえ。順番からいっても」
 それは間違いないだろう。
 カインズは思ったが、口には出さなかった。やっとゴードンに並んだばかりだというのに、という思いがよぎる。ランドールの下で動く限り、その腹心であるゴードンに完全に追い付くことは不可能であろう。

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2021.04.22 07:48 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十章 タルシエン要塞へ Ⅱ
2021.04.21

第二十章 タルシエン要塞へ




 サラマンダー、作戦会議室。
 アレックス、ゴードン、パトリシアにジェシカ、そしてレイチェルが集まっている。
 タルシエン要塞攻略について最後の詰めを行っているのであった。
「どうだ、例の物の仕上がり具合は、レイチェル」
「はい。ダミー実験を繰り返して安全性に万全を期するように念入りな微調整が行われています」
「うん。乗員の訓練のほうはどうだ。ジェシカ」
「工作員は問題ないとして、一応操艦手としてはジミーとハリソンのうちのどちらか、射手をジュリーにやらせております」
「射手をジュリーにまかせるのか?」
「射撃の腕はジミーにもひけを取らないですよ彼女は」
「そうか、君がそういうなら」

「ところで提督自らが要塞に侵入されるそうですが、お考えを改めなさいませんか?」
 ジェシカがパトリシアの方を見つめながら尋ねる。
「私が行かないでどうする」
「生きて帰ってこれないかも知れないんですよ」
「だからこそ私が行かなければならないのだ」
「そうおっしゃってカラカス基地にも突入されましたね」
「どんな状況変化が起きるかもしれない作戦において、迅速かつ正確に事態収拾するためには、作戦のすべてを知り尽くした私の他に誰が行くというのだ」
 パトリシアは俯いている。アレックスの意思が固く、いかにパトリシアでもそれに異論を唱える立場にないからである。
「判りました。提督がそこまでおっしゃるなら、もはや私達の差し出口を挟む余地はありませんね」
「うん。いつも済まないと思っているが……」
 と、レイチェルの方を見つめながら、
「特に今回は、部外者である天才技術者を一人連れて行く。彼との信頼関係をなくしたくないのだ」
「天才システムエンジニアですよね?」
 皆の手前そういうことにしているが、事実はネット犯罪という裏舞台で暗躍する「闇の帝王」、ジュビロ・カービンその人である。間違っても天才ハッカーなどとは明かすことはできない。
 フリード・ケースンという人物が身近にいるから、他にも天才と呼ばれる者がいても不思議ではないと思う一同だった。
 その本人は、作戦開始までは特別室でくつろいで貰っている。仲間内ではない艦隊の乗員とは距離を置きたいだろうとの配慮である。

 五人委員会にて最後の確認事項が取り交わされた後に、改めて少佐たちを加えた作戦会議が招集された。
「別働隊として投入する部隊は、第六突撃強襲艦部隊及び第十一攻撃空母部隊。この私が率いていく」
 第六突撃強襲艦部隊はその名の通りに、かつての士官学校時代の模擬戦でも活躍した強襲艦を主体とした白兵戦部隊である。攻撃よりも防御力と速力に主眼において、目的の場所に速やかに到達して任務を遂行する。
「それぞれの指揮は、ゴードンとジェシカに任せる」
「了解した」
「判ったわ」
「今回の作戦は、本隊が要塞への攻撃を敢行注意を引きつつ、別働隊の要塞への接近を容易にすることにある。しかも寸秒刻みの正確さで速やかに作戦を遂行しなければならない。そのために別働隊を率いる私に代わって、作戦の詳細を熟知しているパトリシアを総参謀長とし、艦隊の指揮をカインズ大佐に任せる」
 ため息をつく一同だった。
 パトリシアが解説に立ち上がった。
「タルシエン要塞は、このシャイニング基地に相当する堅固な敵最前線基地です。全艦挙げての総攻撃とし、シャイニング基地の守備は、基地の自動防衛システムに委ねます。基地を空にすることになりますが、先の基地攻防戦のことから、敵も容易には手出しはできないと思われます。タルシエン要塞はバーナード星系連邦と共和国同盟を繋ぐ橋を守る橋頭堡です。第十七艦隊が攻略に向かったという情報は、すでに向こうにも流れていると思います。それを知らされれば敵側も要塞の死守に専念するよりなく、シャイニング基地攻略の余裕はないでしょう」
「出撃は四十八時間後だ。将兵達には交代で休息を取らせておくように。以上だ、解散する」


 作戦会議から四十八時間後。
 アレックス率いる別働隊が、シャイニング基地を出撃していく。
「別働隊、重力圏を離脱しました」
 サラマンダー艦橋では、パトリシア以下のオペレーター全員が、パネルスクリーンに投影された艦影に向かって敬礼していた。
 ご武運を祈ります……必ず戻ってきてください。
 心の中で、作戦の成功を祈るパトリシアだった。仮に要塞の攻略に失敗しても、無事に生還してきて欲しいと切に願うのだった。
「カインズ大佐、時間です。私たちも、出撃しましょう」
「判った」
 艦隊の指揮のためにドリアードからサラマンダーに移乗してきていた。全艦隊の指揮ともなれば、艦隊運用オペレーター士官の揃っている旗艦サラマンダーの方が好都合だからである。
「全艦隊に告げる。これよりタルシエン要塞攻略に向かう。全艦出撃開始!」
 シャイニングに残る艦は一隻もいない。
 全艦挙げての総攻撃である。
「進行方向オールグリーン」
「微速前進!」

 戦艦フェニックス艦橋。
 出撃の指揮を執るチェスター大佐がいる。
「亜光速航行へ移行します」
「旗艦サラマンダーに相対速度を合わせろ」
「相対速度、旗艦サラマンダーに合わせます」
「亜光速、八十パーセントに到達」
「各艦に異常は?」
「ありません。全艦異常なし」
「よし。そのまま進路と速度を維持」
「進路及び速度そのまま」
 ふうっ。
 とため息をついて、指揮官席に沈むように座りなおすチェスター。
「全艦、順調に進撃中です」
 副官のリップル・ワイズマー大尉が報告する。
「輸送艦、サザンクロスとノースカロライナは?」
「ちゃんと着いてきていますよ」
「そうか……。今回の作戦の要だからな」
「次元誘導ミサイルですね」
「ああ……」
「ほんとにそんな性能があるのでしょうか? 極超短距離ワープミサイルなんて」
「あの天才科学者の発明品だからな」
「フリード・ケースン少佐ですね」
「P-300VX特務哨戒艇のことを考えれば冗談とも言えないだろう」
「そりゃそうですけど……。何にしても、我々の任務がその次元誘導ミサイルを積載した両艦の護衛任務ですからね。二万隻でたった二隻を守るなんて、馬鹿げていると思いませんか?」
「そうとも言えんだろう。要塞を内部から破壊できる唯一の攻撃手段だ。当然と言えば当然だろう」
「性能通りでしたらね」
「信じるしかないだろう。何せミサイル一基が戦艦三十隻分の予算だ」
「しかし、提督が少佐に任命された当初から、ケースン少佐に開発を命じていたと言うじゃないですか。今日あることを、その時から計画していたということですよね」
「先見の明があるということだな。提督は一歩も二歩も先を読んで行動している。要塞攻略を命じられてから行動すれば、その準備に最低でも一年は掛るというのに、たった三日で出撃開始だ」
「普通なら考えられませんね」
「そうだな……まあ、提督に従っていれば間違いはないさ」
「だといいんですけどね」

 サラマンダー艦橋。
「全艦、ワープ準備にかかれ」
 指揮官席から指揮を執るカインズ。
「全艦、ワープ準備」
「ワープ航路設定及び入力完了」
「ワープ航路データを艦隊リモコンコードに乗せて伝達する。全艦、ワープ設定を同調、確認せよ」
 スクリーン上の艦影が次々と赤から青へと変わっていく。
「全艦、ワープ設定同調確認。ワープ準備完了しました」
「よし! 全艦ワープ開始」
「了解。全艦ワープ!」
 一斉にワープを開始する艦隊。
 艦影が揺らいだと同時に次々と消えていく。

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2021.04.21 08:19 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十章 タルシエン要塞へ Ⅰ
2021.04.20

第二十章 タルシエン要塞へ




 シャイニング軌道上に待機するサラマンダー。
 接近する上級士官用シャトルがあった。
「数日しか離れていないというのに、久しぶりって感じだな」
 感慨深げな言葉を漏らすアレックス。
 軍法会議への出頭には、護送駆逐艦が使われた。一時的な身分の凍結が行われて、サラマンダーには乗れなかったからである。
「みんなも寂しがっていましたよ」
 アレックスが本星に行っている間の、サラマンダーの指揮を委ねられていたフランソワが言った。本星でのもろもろの用事を済ませたアレックスが、サラマンダーに戻るとの報を受けて出迎えに来ていたのである。
「一番寂しかったのは君じゃないのか?」
「もう……提督ったら」
 赤くなるフランソワ。
 もちろんそれは、パトリシアのことを言っていた。
 サラマンダーのシャトル進入口が開いて、静かに帰還するシャトル。
「提督。ご帰還おめでとうございます」
 整備員や甲板員などがシャトルの周りに集まってきた。
「一時はどうなることかと思いましたよ」
「これからもよろしくお願いします」
「提督の行かれる所なら、どこへなりともお供いたしますよ」
 と、口々にアレックスの帰還を祝福した。
「ありがとうみんな。こちらこそ世話になる」
 艦橋へ直通の昇降エレベーターに乗る二人。
「タルシエン要塞攻略を命じられたこと、艦橋のみんなに伝わっています」
「どうせジェシカが喋ったのだろう」
「ええ、まあ……」
 手続きで帰還が遅れるアレックスより、一足先にシャイニング基地に戻り、サラマンダーを訪れてパトリシアに報告、ついでに艦橋のみんなにも披露したというところか。

 サラマンダー艦橋にアレックスが入室してくる。
 すかさず敬礼をほどこしてから、その手を拍手に変えて無事な帰還を祝うオペレーター達。
「お帰りなさいませ」
「おめでとうございます」
「みんなには心配をかけたな。軍法会議は何とかお咎めなしで解放された。君達のことも無罪放免だ。もっとも条件付だがな」
 そういうとオペレーター達が笑顔で答える。
「伺ってます。タルシエン要塞攻略を命じられたとか。でもご安心ください。私達ちっとも不服じゃないですから。提督とご一緒ならどこへなりともお供いたします」
「そうか……そう言ってくれるとありがたい。それから……リンダ」
「は、はい!」
 元気良く返事をするリンダ。
「君には特に世話になったようだ。感謝する」
「いいえ。どういたしまして。当然のことをしたまでですよ」
「うん。今後とも、その調子で頼む」
「はい!」
 ゆっくりと指揮官席に腰を降ろすアレックス。
「やはり、ここが一番落ち着くな」
 シャイニング基地やカラカス基地の司令官オフィスではなく、サラマンダー艦橋の指揮官席。独立遊撃艦隊の創設当時から、指揮を執り続けたこの場所が一番。自分を信じて付き従ってくれるオペレーター達がいる。目の前のスクリーンには周囲を取り巻く配下の艦艇群が、自分の指揮命令を待って静かに待機している。
 自分を取り巻いている運命に身を委ね、自由な気運に育まれた環境にある。
「ところで監察官はどうなった?」
「本星に連れて行かれたようです」
 リンダが答える。
「そうか……」
「どうせ、ニールセンの奴が手を回して無罪放免されるかも知れませんけどね」
「それとも始末されるかだ」
「ありえますね」
「後任の監察官は誰が選ばれるのでしょう?」
「まあどうせ、ニールセンの息の掛かったのが来るだろうな」
「仕方ありませんね」


「さてと……」
 ゆっくりくつろいでいる時間はなかった。
 タルシエン要塞攻略に向けての本格的作戦を始動させねばならなかった。
「私のオフィスに、ゴードン、パトリシア、ジェシカ、そしてレイチェルを呼んでおいてくれないか」
 かつて五人委員会と呼ばれた人員から、スザンナをレイチェルに替えたメンバーである。
「わかりました」
「リンダ、後を頼む」
 当然指名されて驚いているリンダだった。
「え? わたしですか?」
「何を驚いている。旗艦の艦長なら、戦闘態勢以外の艦隊の指揮を執るのは必然だろう。指揮官コードは教えただろう」
「で、でもお……突然言われても」
「いいな。任せるぞ」
 と言い放って艦橋を退室してしまう。
「ど、どうしよう」
 残されておろおろとしているリンダ。
「艦長、指示をお願いします」
 オペレーターの一人が指示を請うた。
「し、指示って?」
「オニール大佐を迎えるための舟艇を出すんでしょう?」
「そ、そうだけど……」
「指示がなければ出せませんよ」
「え、え? 待ってよ」
 舟艇を出すくらいなら指揮官でなくても、艦長の権限で指示を出せるのだが、極度の緊張にすっかり忘れている。
 そんな状態のリンダに呆れ返った表情でフランソワが言った。
「艦長、指揮官席にお座りください」
 その口調には、あんたに艦隊の指揮なんかできないでしょ、といった皮肉にも聞こえる響きがあった。
「ねえ、フランソワ。あなたが指揮を執ってよ」
「何を言っているんですか、指揮を任されたのは艦長ではないですか。勝手にわたしが指揮を執るわけには参りません」
 今は戦闘態勢ではないから、フランソワよりリンダの方が上官であり、優先権を持っていた。例え戦闘態勢だったとしても、司令官の命令が優先するので、指揮を任せると指示されたリンダが指揮を執るしかない。
「もう……」
「とにかく……指揮官席にどうぞ」
 腹立ち気味のフランソワだった。
 自分ではなくリンダに指揮を任せたことに少し憤慨していた。
「う、うん」
 おっかなびっくりで指揮官席に腰を降ろすリンダ。
「ええと……どうするんだっけ、フランソワ」
「あのねえ! まずは指揮官登録を行ってください」
「指揮官登録ね……ええと確かこうして……」
『戦術コンピューター。貴官の姓名・階級・所属・認識番号をどうぞ』
「やったあ! コンピューターにつながったよ」
「つながって当然です。コンピューターの指示に答えてください」
 いらいらしているフランソワ。いい加減にしてよという表情である。
「ええと……リンダ・スカイラーク大尉、サラマンダー艦長、認識番号G2J7-3201」
『サラマンダー艦長リンダ・スカイラーク大尉を確認。指揮官コードを入力してください』
 アレックスから伝えられた旗艦艦長に与えられる指揮官コードを入力するリンダ。
『指揮官コードを確認。リンダ・スカイラーク大尉を指揮官として認めます。ご命令をどうぞ』
「これでいいんだよね?」
 フランソワに確認するリンダ。
「ふん!」
 ぷいと横を向いてしまうフランソワ。
「リンダ・スカイラーク大尉です。提督の命により指揮を執ります。シャトルを出して、ウィンディーネにいるオニール大佐を迎えに行ってください」
「了解。シャトルを出します」
 シャトル口が開いてシャトルが出て行く。
「シャトル、出ました」
「うん……それからね」
 としばらく考えてから。
「セイレーンのリーナ・ロングフェル大尉を呼んでください」
「了解。セイレーンに繋ぎます」
 すぐにセイレーンのリーナがスクリーンに映し出される。
「ロングフェル大尉です」
「リンダよ。お久しぶり」
 やっほー、といった感じで手を振っている。
「あなたねえ。何考えているのよ」
 呆れた表情のリーナ。
「あはは……怒ってる?」
「当たり前じゃない。それで、どんな用なの?」
「用って……、セイレーンの様子を知りたかったから」
「あのねえ。職権乱用じゃないの? いくら指揮を任されたからってね」
「まあ、いいじゃない」
「良くありません」
「ロザンナは元気?」
「元気です! そんな事はどうでもいい事です」
「替わってくれる?」
「あなた、人の話を聞いてないでしょ」
「ええとお……今、艦隊の指揮を執っているのは誰だったかなあ」
 わざとらしく答えるリンダ。
「ううっ……」
 どんなお調子者でも、指揮官席にいる限りその命令は絶対である。
 戦術士官のリーナと言えども、相手が一般士官だったとしても、旗艦の指揮官席に陣取るリンダの指揮に逆らうことはできなかった。
 苦虫を潰したような表情になり、ロザンナに繋ぐリーナだった。
「はい。ロザンナ・カルターノ中尉です」
「どう、艦長の任務には慣れた?」
「はい。前艦長に負けないように頑張っております」
「うん。その調子で頑張ってね」
「はい」
「リーナに替わって」
 再びリーナに切り替わった。
「気が済みましたか?」
 つっけんどんに答えるリーナ。
「うん。ごめんなさいね。また連絡するわね」
「結構です!」
「じゃあね、ばいばい」

 通信が切れ、どっと疲れた表情のリーナ。
「あんな調子で、艦隊の指揮を執ったらどうなるんだろね」
 今更にして、サラマンダーの艦長推薦に同意したことを後悔するリーナだった。
 いつまで経っても、リンダには頭を抱えることになりそうであった。

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2021.04.20 13:02 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十九章 シャイニング基地攻防戦 Ⅸ
2021.04.19

第十九章 シャイニング基地攻防戦




 カインズの次にレイチェルを司令室に呼び寄せたアレックス
「君の配下にすることにした第八占領機甲部隊メビウスのことなのだが、極秘の任務を与えようと思っている」
「極秘任務ですか?」
「何度も言うようにトランターはいずれ陥落する。その後のためのレジスタンス活動が任務だ」
「レジスタンスですか? メビウスは当地に残るとして、他の艦隊はいかがなされるのですか」
「もちろん、タルシエン要塞を本拠とする解放軍を組織して、徹底交戦を続けるつもりだ。たとえ連邦に対して敗北し占領されようとも、いずれ反旗を掲げ立ち上がる将兵や民衆が出て来る。そういった人々を解放軍に吸収しつつ、機が熟するのを待って持てる全軍を持って反攻作戦にでる」
「そのためにもトランターに残って内部攪乱を引き起こし、占領軍の情報を逸早くとらえて解放軍に伝える。それがメビウスに与えられた任務というわけですか」
「その通り。とりあえずはモビールアーマー隊の強化訓練という名目でトランターに残り、陥落後のレジスタンス部隊の主力として働いてもらいたい。どうだやってくれるか」
「一つお伺いしてよろしいですか?」
「どうぞ」
「提督は、あたしをメビウスの司令官に任命し、極秘任務をお与えになる、その真意をお伺いしたいですわ」
「レジスタンス活動を継続するとなると、補給物資の調達と運搬をはじめとして、隊員の士気を維持し指導する能力と人望、すべてに困難が伴うのは必定である状況の中で、それらをすべてクリアーできるのは君しかいない。主計科主任として数々の隊員達の要望をそつなく処理、その信頼と人気は艦隊随一のものだ。私が信用し全権を委ねられる人物は他にはいない」
「そこまで信頼されているとなると、お引き受けするしかありませんね」
「そういってくれるとありがたい。早速トランターへ向かってくれないか」
「直ちにですか? タルシエン要塞攻略はいかがなされるおつもりですか」
「いや。タルシエン要塞は、メビウスなしで攻略する」
「例の作戦が発動する時がついにきたというところですか。ジュビロとは?」
「軍法会議のその日に、早速向こうからアクセスがあったよ。作戦発動は伝えておいた」
「どう言ってましたか?」
「わかった。と一言だった」
「あの人らしいわね」
「それともう一つ、トランター本星アスタバ造船所において、新造の機動戦艦が完成した」
「機動戦艦ですか?」
「水中潜航能力をも備えた究極の対空防衛用戦艦だ。モビールアーマー八機と専用のカタパルト二基を装備、艦載機は三十六機搭載可能だ。主砲には原子レーザー砲の改良型を装備。最新のCIWS(近接防御武器システム)を搭載し、大気圏戦闘に特化した究極の戦闘艦だ。開発設計者はフリード・ケイスンだ。推して測ることもないだろう」
「そうですね。艦名は?」
「ミネルバだ。いい名前だろう」
「ローマ神話に登場する女神ですね」

 ※ギリシャのアテナと同一視される最高の女神。知恵と諸学芸をつかさどる女神であるが、戦略の女神でもありしばしな英雄たちに戦術を指示した。さらに機織りの神でもあり、アテナイ市の守護神で、そこのパルテノン神殿は彼女の聖域として知られる。長いキトーンを着て、頭には兜をかぶり、胸にはメデューサの頭を飾りとしてつけたアイギスを着ている。手には槍、および勝利の女神ニーケをかかえている姿が多い。知恵を表すふくろうが聖鳥である。

「まあな。至急アスタバへ赴いてこれを受領したまえ」
「乗組員の手配は?」
「現在、士官学校教習生がミネルバに搭乗して実習訓練を開始しているはずだ。Xデーと同時に彼らを繰り上げ卒業というかたちで自動的に実戦配備させることになる。教習生と熟練者が半々というところかな」
「それって……」
「本来首都星トランターは第一艦隊の守備範囲だ。その内で第十七艦隊が行動を起こすには、実戦訓練という名目でもない限り許されないことなのだからな」
「仕方ありませんねえ……それで教官はどなたが」
「去年スベリニアン校舎を勇退なされたセキセドル前校長だ。事情を説明して特別にお願いしたところ快く引き受けてくだされた」
「セキセドル教官なら心強いですわね。なにせ士官学校時代の提督を退学させずに辛抱なされて、模擬戦闘の指揮官に徴用するという先見の明をそなえていらっしゃったお方ですからね。安心して任せられますわ」
「艦長には、フランソワ・クレール大尉を任官させるつもりだ」
「フランソワですか……」
「性格的には問題が多いかもしれないが、作戦指揮能力は人並み以上のものを備えているし、彼女にとっては佐官昇進試験も兼ねているのだ」
「どちらにしても当分は眠れない夜が続きそうですね」
「なにはともあれ、Xデー以降のメビウスの全権は、すべて君の判断に委ねる」
「すべてですか?」
「そう、すべてだ」
「わかりました」

第十九章 了

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2021.04.19 08:19 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十九章 シャイニング基地攻防戦 Ⅷ
2021.04.18

第十九章 シャイニング基地攻防戦




 軍法会議の糾弾から開放されて、自由の身となったアレックスは、トランター本星に帰郷したのをいい機会として三日間の休暇を申請した。もちろんそれを拒否できる者はおらず順当に受理された。
 スーパーで買い物をしているパトリシア。その後ろにはカートを押しながらついてくるアレックスの姿があった。法廷での審議を終えて、帰宅の途中で立ち寄って日常の品々を買い求めていたのである。
 私生活においては、公務における立場と逆転して、主婦であるパトリシアの方が権限を握っていた。毎月のローンやクレジットの支払い、公共料金、家計に関わることはすべて彼女が財布を握っていたのである。食料の購入はもちろんのこと、アレックスの着る衣料でさえ、彼女の意向に逆らうことは出来ない。彼女の家計簿には、妊娠・出産費用にはじまる子供の養育・教育費など、将来に渡る家族構成をもしっかり計算に入れられた、綿密な将来設計が出来ていたのである。
 ゆえにアレックスが何か欲しいと思った時には、まず妻にお伺いを立ててからでないと、何も購入できないのである。

 郊外の一角の邸宅。
 アレックスが准将になりこの一戸建をあてがわれた時から、パトリシアは自分に与えられる予定だった大佐用の官舎は引き払い、この邸宅で一緒に暮らしている。未だに婚約者のままであるとはいえ、士官学校当時に提出した同居申請は失効していないので、自動的に居住の権利は有していた。
 アレックスが婚約破棄するはずもなく、事実上の夫婦生活に入っていたのである。もちろん一緒に暮らしているという事実は軍籍コンピューターに登録されており、万が一アレックスが婚姻前に戦死するようなことになっても、引き続き居住できることになっている。これは同居する事実上の夫婦関係にあった婚約者の既存権利を保証する制度である。ただし、同居の事実がなかった場合は居住する権利は消失する。あくまで同居が原則なのであり、同居の事実があってこそ居住の既存権利が発生するのである。
 婚約破棄しない限り、相手が死んでも婚約期間中に得た権利はそのまま有効であるが、同時に別の相手とは婚約も結婚も出来ないという反面もある。

 台所でエプロン姿で夕食の準備をしているパトリシア。だいぶ主婦業も板についてきという感じではあるが、まだ二十三歳になったばかりで、初々しさもそこかしこに残っている。艦隊勤務のために子作りしている暇もなくて、残念ながらまだ子供はできないが、妊娠可能期間はまだ二十年以上あるので、あわてる様子もない。
 一方のアレックスは食卓で報告書に目を通している。新婚当初、台所に入って手伝いをしようとしたが、あまりの不器用さに呆れたパトリシアから、台所への立ち入りを禁止されてしまったのである。
 アレックスの方を時々見やりながら、夫のために食事を作りながら、妻の責務を甘んじて受け入れているパトリシアであった。自分がいなければ何もできない夫のために、何かをしてあげられるということは、夫婦の絆を深くする精神的融合である。それぞれにないものを補い合うことこそが、子供を産むという以外、夫婦として結び付く意義なのである。
 やがて食事をお盆にのせて、食卓に運んでくるパトリシア。
「一戸建ての家に住めるなんて夢みたい」
 エプロンを脱いで、アレックスの向かい側に腰を降ろすパトリシア。
「一応これでも官舎なんだぜ、将軍用のね。つまり借家ってこと」
「でも、退役してもずっとここに住んでもいいのよね」
「正確には、僕とその配偶者が亡くなるまでだ」
「そうね……」
 といってパトリシアは微笑みながらアレックスを見つめた。
「タルシエン攻略に成功したら、あなたも少将となって内地勤務よ。そうしたら参謀のわたしも一緒に地上に降りられるから、重力を気にすることなく、安心して子供を産むことができるわ」
 艦隊にある時は、優秀な参謀であるパトリシアも、アレックスと二人きりでいる時は、本能のままに子供を欲するごく普通の女性であった。

 寝室。
 裸のまま並んでベッドに横たわる二人。
「ところで第十七艦隊でタルシエン攻略は可能なの?」
「内部に潜入出来れば、何とかなるかもしれない」
「潜入? でもどうやって」
「ああ、潜入の直接的な方法は俺が何とか考えるが、たぶん小数精鋭の特殊工作部隊を組織することになるだろう。君には、特殊工作部隊を後方から支援する体制と、潜入後の特殊部隊の行動指針及び艦隊運営に関わる作戦立案を検討してもらいたい」
「わかったわ」
「この作戦を成功させるには隠密行動を取る必要がある。たとえ味方にも特殊工作部隊の存在を知らせたくない。君とゴードンとレイチェル、そして特殊工作部隊に参加する将兵だけだ」
「わたしとゴードンとレイチェルだけに?」
「そう。恋女房と片腕だからな」

 翌日。
 ジュビロ・カービンと連絡が取れて、早速例の廃ビル地下室へと向かうアレックス。
 レイチェルも当然として同伴する。
「久しぶりだな」
 ジュビロが懐かしそうに出迎える。
「そちらも無事息災で結構。檻の中に入れられないかとずっと心配してたよ」
「そんなドジ踏まねえよ」
「早速だが打ち合わせに入ろうか」
「おいおい、いきなりかよ」
「二日後にはシャイニング基地に戻らなければならない、時間がもったいないからね」
「分かった」


 三日間の休暇を終えてシャイニング基地に舞い戻ったアレックスは、次なる指令であるタルシエン要塞攻略に向けての行動を開始した。
 シャイニング基地に残って、捕獲した六万隻の艦船の改造の指揮にあたっていたカインズは、戻ってきたアレックスに呼ばれて司令官室へ向かった。
「カインズ中佐。入ります」
「搾取した艦船の改造の進行状況はどうか」
「艦制コンピューターを同盟仕様に変えるのに手間取っておりまして、現在三万隻が動かせるところまで進んでおります。乗員のほうも艦政本部長のコール大佐のおかげで、丁度それを動かせる人数分だけ何とか集まり、現在試運転に掛かりはじめました」
「人集めに関しては、コール大佐の手腕はたいしたものだな。で、コンピューターウィルスの懸念は?」
「提督の指示通り、ROMはすべて総取り替え、SRAMやメモリディスクは完全に初期化してソフトを再インストールしましたので、万全な状態です。ただそれが工期を遅らせている原因になっておりまして」
「ご苦労様。たとえ手間がかかってもやらなければならない。ウィルスが潜んでいては元も子もないからな。この基地を取り返したような事態になってはいけない」
「わかっております」
「さて……と」
 アレックスはわざとのように呼吸を整え、パトリシアに視線を送った。パトリシアは書類入れのところへ行って、中の書類を取り出して戻ってきた。
「今三万隻が動かせるのだな」
「そうです」
「それでは、その三万隻の指揮を、貴官に預けよう」
「三万隻を私にですか」
「そうだ。カインズ大佐」
「大佐? 私が大佐に?」
 アレックスはパトリシアに合図を送り、彼女が小脇に持っていた辞令書と階級章を手渡させた。
「第十七艦隊は、四十八時間後にタルシエン要塞攻略に向かうことになった」
「タルシエンですか?」
「私は、別働隊としてウィンディーネ以下の第六部隊を率いて出るつもりだ。貴官には、ドリアードから本隊を指揮運営してもらいたい」
「私が、本隊をですか?」
「ただし、作戦指令はこのウィンザー参謀長の指示に従ってくれ」
「わかりました。提督がそうおっしゃられるのなら」
「それから、第八占領機甲部隊メビウスを君のところからレイチェル少佐の配下に移行する」
「メビウスを?」

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