銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅵ
2021.01.16
第十章 反乱
Ⅵ
漆黒の宇宙を進む艦隊。
サラマンダーを中心に、左翼にマーガレット皇女艦隊、右翼にジュリエッタ皇女艦隊、合わせて一万二千隻。
「まもなく、アルサフリエニに到着します」
艦橋に緊張が走る。
いつどこからゴードンのウィンディーネ艦隊が襲い掛かるかも知れないからである。
すでにゴードンは敵とみなして行動するしかない。
やがて前方に、多数の艦隊が出現した。
「お出迎えだ」
アレックスがぼそりと呟いた。
「ウィンディーネ艦隊のようです」
パトリシアが応える。
「正々堂々と真正面決戦を挑んでくるようだな」
「相手は、持てるすべての七万隻を投入してきたもようです」
「対してこちら側は、旗艦艦隊二千隻と帝国艦隊一万隻か」
「数で圧倒して戦意を喪失させようとしているのでしょう」
「正直ゴードンも、できれば戦いたくないと思っているはずさ。ま、尻尾を巻いて逃げかえれと言っているのだろうな」
「どうなされますか?」
「逃げかえるわけにもいくまい。巡航艦ヘルハウンドを呼んでくれ」
「ヘルハウンド!?」
その艦は、ミッドウェイ会戦のおり、アレックス指揮の下索敵に出ている最中に、敵の空母艦隊と遭遇し、これを完膚なきまでに叩き潰して撤退に至らせた名艦中の名艦である。
幾多の戦いを潜り抜けて、今日まで生き残ってきた。
『サラマンダー』という暗号でも呼ばれた通り、今の今でも旗艦登録されている。
その艦体には、火の精霊サラマンダーの絵が施されている。
「まともに戦っては全滅するしかない。ここは自分の得意戦法しかない」
「まさか、アレをおやりになさるのですか?」
「他にないだろう。マーガレットとジュリエッタを呼んでくれ。作戦を伝える」
それから数時間後。
ヘルハウンドに乗艦するアレックスを歓待する艦橋オペレーター達。
「提督!お久しぶりです」
ヘルハウンドに乗るのは、惑星ミストでの戦闘を終えて帰還する時に乗艦して以来のことである。
「また、おせわになるよ」
艦長のトーマス・マイズナー少佐に語り掛ける。
「歓迎します」
といいながら指揮官席を譲るマイズナー。
少佐なら一個部隊を率いてもよさそうなのであるが、マイズナーはヘルハウンドの艦長という名誉職を辞したくなかったのである。
何せその艦体には、英雄の象徴である火の精霊『サラマンダー』が描かれているのだから。サラマンダー艦隊という呼称の元祖だった。
アレックスは、その思いを酌んで艦長職を続けさせている。
本来の自分の艦長席に戻る。
この席も最初は、スザンナ・ベンソン准尉が座っていた席でもある。
スザンナが少佐となり、アレックスの招聘を受けて旗艦部隊司令に叙されて、その後釜に入って以来ずっとこの席を守り続けていた。
「各艦長が出ております」
正面のパネルスクリーンに、分割されて各艦長の映像が出ていた。
「再び一緒に戦えるのを光栄に思います」
「提督のご指示に従います」
「オニール提督とて敵となれば戦います」
などと戦いの前の思いを語っていた。
「これより恒例のドッグファイトをやるぞ。みんな気合は十分か?」
艦橋内に響き渡るようにアレックスが大声を上げる。
「おお!」
「いつでもどうぞ!」
同様にオペレーター達も、片手を上に挙げて大声で返す。
闘志は十分だった。
「よろしい!微速前進!」
巡航艦ヘルハウンドと十二隻の艦艇が密かに艦隊を離れてゆく。
かつてのミッドウェイ会戦に参加した精鋭部隊である。
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅴ
2021.01.09
第十章 反乱
Ⅴ
共和国同盟から独立宣言をしたアルサフリエニ共和国は、鉱物資源豊富なカルバキア共和国、重金属工業都市国家惑星トバ、そして防衛軍事基地のカラカスを拠点とする連合共和国である。
*参照 第二部 第五章 アルサフリエニ
カラカス基地に軍令部総本部を置いたゴードン・オニール。
「こんな事になるなら、軌道衛星砲を外すべきじゃなかったな」
司令室の窓から上空を見つめながら呟くゴードン。
「あの時は、カラカスは放棄する予定でもありましたからね」
副官のシェリー・バウマン大尉が応える。
「タルシエン要塞のガデラ・カインズ准将から何度も会見の要請が出ております」
「会っても無駄だろう。見解の相違は変わるものでない」
その表情は、かつて『皆殺しのウィンディーネ』と呼ばれ、バーナード星系連邦艦隊を追撃し、降伏すらも認めず皆殺しにしたあの頃の目をしていた。
征服為政者に対するゴードンの思想は冷酷にして無情だった。
「タルシエン要塞より、銀河帝国政見放送の再放送が流されています」
「今更だな」
ぶっきらぼうに答えるゴードン。
「一応視聴するだけも」
「勝手にするさ」
アレクサンダー皇太子こと、アレックスの政権放送。
やがて核心的な部分となった。
『共和国同盟は元の政体に戻すこととする。相当の準備期間を設けて、評議会議員選挙を執り行う。概ね2年程になると思われるが、その間は軍が暫定政権を敷くこととする』
その場に居た参謀たちは、一様に耳を疑った。
「前回聴いたのと違っていますよ。確か以前は、
『共和国を帝国領に編入し貴族の所領とする』
とか言ってましたよね」
「どちらが本当の放送なのでしょうか?」
「今の放送は、ランドール提督が日頃から言っていた内容に近いです」
「しかし、権力を手にした途端に豹変して……ということは、過去の例を挙げるまでもないです」
「放送を消せ!」
慌てて放送を消すオペレーター。
「我々は、共和国同盟から脱退して独立宣言したのだ。今更、尻尾を振って元の鞘に納まろうとするな」
やがて、ランドール提督がタルシエン要塞に入港したという情報が入った。
「説得しにくるのでしょうか?」
「帝国艦隊併せて一万数千隻を引き連れてかね?説得するつもりなら、せめて旗艦艦隊だけでくるべきだろう」
旗艦艦隊だけで行こうとしたアレックスであるが、マーガレット皇女などが大反対したからこその帝国艦隊引率なのであるが。
「何にせよ、せっかくの機会だ。一度、アレックスと一戦交えてみたいと思っていたのだよ」
自分の願望のために、部下を巻き添えにしようというのも考え物だが。
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅳ
2021.01.02
第十章 反乱
Ⅳ
アルサフリエニ方面への道行きのため、艦隊編成と補給が急がれた。
同行するのはサラマンダー艦隊二千隻の他、マーガレット艦隊から五千隻、ジュリエッタ艦隊から同じく五千隻が編成された。いずれも帝国の中でも精鋭を選りすぐった艦隊である。
今回の遠征には、TV放送局の艦艇は同行を許されなかった。かつての仲間で骨肉相食む戦闘となるのだ。横やりが入っては集中できないし、相手方に情報を漏らすことにもなる。
アレックスが決断して三日後に出航準備は完了した。
「アルサフリエニ方面に出撃する!」
進軍を下令するアレックス。
こうして準備を終えた一万二千隻の艦隊は、静かにアルデラーンを出立した。
途中トランターに燃料補給で立ち寄るも、ワープゲートを使用することなく、そのまま通過した。
ワープゲート不使用は、要塞側のゲートがハッカーに乗っ取られた場合を考慮したのである。
「ワープはしたが、出口側が消失して異次元空間を彷徨うことになりたくないからね」
タルシエン要塞へと急ぐ艦隊。
二日と七時間を要して、ついに要塞に到着した。
「入港許可願います」
通信士が入港許可申請を出す。
「許可します。十一番ゲートから入港願います」
「十一番ゲート。了解した」
要塞駐留司令官ガデラ・カインズ中将が出迎えた。
「早速、詳細を聞かせてくれないか」
「分かりました。会議室へどうぞ」
アレックス及びパトリシア以下の二人の皇女と参謀たちが従った。
提督や参謀が全員揃ったところで、会議ははじまった。
「それでは、事の発端となった皇太子礼のTV放送を流します。まず最初は、要塞で受信した映像からです」
映像の中から核心と思われる部分が流された。
『帝国皇太子及び共和国同盟最高指導者たる身分をもって、共和国同盟を銀河帝国に併合し、帝国貴族にその所領を与えるものとする。貴族の末端にまで公正に分配する』
息を飲む参謀たち。
「どうです。間違いありませんか?」
「うむ。見た通りだった」
他の要塞参謀が頷く。
「それでは、アルデラーンでの本放送の録画です」
『共和国同盟は元の政体に戻すこととする。相当の準備期間を設けて、評議会議員選挙を執り行う。概ね2年程になると思われるが、その間は軍が暫定政権を敷くこととする』
「以上がアルデラーン本放送です」
比較して全く違う内容になっているのに、憤りを覚えずにはいられない参謀だった。
「まるで反対ではないか!」
「アルデラーン本放送から要塞での放送に至るまで、一時間ほど時間差があります。その間に映像を改造して偽放送データを送り、ハッキングされた要塞側が偽放送を流したと思われます」
「つまり要塞では、本来の放送は遮断されていたのだな?」
「その通りです」
「そして、その偽放送を信じたアルサフリエ側が叛旗を掲げたということか……」
「しかし偽情報だけで、裏切るなどありうるのでしょうか?普通なら、情報の信憑性を確認しますよね」
「そうでもないだろ。孤児として拾われて以来立身出世で共和国同盟軍の最高の地位にまで上り詰めたのは賞賛者で伝記の主人公となっても不思議じゃない。がしかし、実情は皇太子でした。ってことになれば、賞賛から嫉妬に一変するものだ」
「そうですね。特に『皆殺しのウィンディーネ』と言われていた時は、連邦に対する激しい憎悪は並大抵のものではありませんでした」
「信じていた親友の心変わりに対して、裏切ったのはランドール提督の方だという感情が沸くのも当然かもしれません」
次々と持論を述べる参謀たちだった。
果たしていずれが正解なのかは、本人に直接会って確認するよりないだろう。
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング
11
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅲ
2020.12.26
第十章 反乱
Ⅲ
ゴードン・オニール率いるアルサフリエニ方面軍が反旗を上げたことは、アルデラーンにいるアレックスの耳にも届いた。
あまりの衝撃に言葉を失うアレックスだったが、その背景を調べるように通達した。
やがて、タルシエン要塞から驚きの報告が帰ってきた。
皇太子即位の儀の後に行われた記者会見のTV放映が、タルシエン要塞及びそこを中継するアルサフリエニ方面では、本放送と中継放送とではまるで違っていたのだ。
それが発覚したのは、念のためにアルデラーンで録画した本放送分をタルシエン要塞に送ったことで、違いが判明したのだ。
アルデラーンでの本放送では、共和国同盟の処遇に関しては、兼ねてよりの意思として、以前の体制に復帰させることで念押ししたはずだった。しかし、中継放送では帝国に併合させると改変させられたことが判明したのだ。
おそらくタルシエン要塞側の中継設備にハッカーが侵入して、本放送とは違う別の録画映像を流したのであろう。
「やられたな……」
ハッカーの犯人は分かっている。
闇の帝王と称される、ジュビロ・カービン以外にはいない。
「久しぶりに聞きましたね。その名前」
「おそらく今日あることを予期して、要塞奪還後のシステム構築の時に、侵入経路の裏口を作っておいたのだな」
「要塞コンピュータの設定に関わらせたのが仇になりましたね」
「分かってはいたのだが、一刻も早いシステム復興が必要だったのだ」
それは、要塞を落とせば当然再奪取に艦隊を派遣してくるだろうからである。
「ハッカーという奴は、武器商人と同じだよ。どちらか一方にだけ加担するのではなく、不利になった側について戦況を盛り上げ、永遠の膠着状態にさせるのが本望なのだ。双方が疲弊してゆくのを、高見の見物しながら、裏舞台で高笑いする」
「いかがなされますか?」
「そうだな。バーナード星系連邦に最も近いアルサフリエニ方面を放っておくわけにはいかないだろう」
内憂外患状態にある事を、連邦に悟られるわけにはいかない。
速やかに鎮圧部隊を派遣しなければならなかった。
「しかし、今の状態では要塞駐留艦隊を動かすわけにはいきませんね」
「私が行く!」
共和国同盟の士官としてなら、いつどこへ行こうが構わないだろうが、銀河帝国皇太子たるアレックスが、アルサフリエニ方面に進軍するとした時、マーガレット皇女などは大反対した。
が、皇太子の意思に逆らうわけにはいかない。
「私も同行致します!」
マーガレットが配下の皇女艦隊を引き連れて、護衛に同行すると許可を求めた。
ジュリエッタも参加することを公言した。
こうして、皇太子即位の興奮も冷めやらぬ間に、アルデラーンからタルシエン要塞への行幸となったのである。
アルデラーンからトランターまでは、それぞれのワープゲートを調整すれば使えるが。
ジュビロ・カービンが敵側に着いたと想定される現在、タルシエン要塞にあるワープゲートは、万が一を考えて使うことができない。
トランターからは、艦隊の足を使って行くしかない。
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅱ
2020.12.19
第十章 反乱
Ⅱ
皇太子即位の儀は、アルデラーン宮殿王室礼拝堂大広間で執り行われることとなった。地球史における英国のプリンス・オブ・ウェールズ叙任式にあたる。
豪華絢爛たる装飾品、正面には祭壇と大きなパイプオルガン、天井には美しい装飾画がある。
吹き抜けとなっている二階部分には、大きな円柱がありその間隙に各放送局のTVカメラと報道陣がずらりと並んでいる。
「アレクサンダー王子ご入来!」
宮廷衛視が発令すると、騒めいていた礼拝堂内が一斉に静かになった。
パイプオルガンが荘厳な音楽を奏でる中、紫紺の絨毯の敷かれた中央回廊をアレクサンダー王子が進みゆく。
祭壇には、第一皇女にして摂政を務めるエリザベスが待ち受けている。その脇には侍従が携える【皇位継承の証】である深緑に輝くエメラルドの首飾り。
一般的な王位(皇位)継承では、王冠を継承者に被せる戴冠式が行われるが、銀河帝国では【皇位継承の証】を首に掛けることで、皇位を継承したことを知らしめることとなっている。
ちなみに地球古代史における日本国の天皇における、立太子の令がこれに相当する。
その頃、共和国同盟の各地域にも、皇位継承の儀式の模様が生中継されていた。
当然、ガデラ・カインズの駐留するタルシエン要塞やゴードン・オニールが守るアルサフリエニ方面の基地でも生中継を視聴していた。
「皇帝の即位式じゃなくて、皇太子なんですね」
参謀のパティー・クレイダー少佐が呟いた。
「そりゃそうさ。死んだと思われていた皇位継承者が突如として現れたのだ。いきなり皇帝というのも、貴族たちが納得しないだろ。まずは皇太子というところからはじめて、少しずつ浸透させてゆくのだろうさ」
「皇太子とは言っても、すでに皇帝が崩御されているから、実質上の皇帝ですよね」
「まあ、そこの所が継承者問題で荒れている証左なんだろうな」
儀式が終わって、記者会見の模様も中継された。
数多くのマイクが立ち並んだ机の前に座り、記者の代表質問に答えるアレクサンダー王子。
「殿下は、共和国同盟を解放なされましたが、銀河帝国皇太子として、その処遇をいかがなされるおつもりでございましょうか?」
その質問は、ほとんど銀河帝国の政策一丁目一番地とも言うべき質問だろう。
帝国皇太子にして、共和国同盟の最高指導者たる人物なのだ。
「帝国皇太子及び共和国同盟最高指導者たる身分をもって、共和国同盟を銀河帝国に併合し、帝国貴族にその所領を与えるものとする。貴族の末端にまで公正に分配する」
その発言を聞いて驚く、共和国同盟の諸提督達だった。
「なんてことを!?これでは、バーナード星系連邦から銀河帝国に植民政権が移っただけじゃないか」
提督の中でも一番憤慨したのは、ゴードン・オニールだった。
アレックスとは、士官学校からの親友だっただけに、その心変わりに信じられないという表情であった。
しかし、TV中継では、はっきりと明確に帝国領とすると発言しているのである。疑う余地がなかった。
アルサフリエニ方面軍において、アレックスに対する反感が沸き上がっていた。
それから数日を経て、ゴードン・オニールを首班とするアルサフリエニ共和国の独立宣言がなされた。
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング