銀河戦記/脈動編 第四章・遥か一万年の彼方 Ⅳ
2021.12.25

銀河戦記/脈動編 第四章・遥か一万年の彼方 Ⅳ





 首領   =ドミトリー・シェコチヒン
 機関長  =キール・ストゥカリスキー
 操舵手  =ルキヤン・ゴルジェーエフ
 レーダー手=カチェリーナ・ゴリバフ


 宇宙を自動航行する開拓移民船。
 船内では、居住可能な惑星が発見されるまで、冷凍睡眠カプセルで眠るミュータント族がいる。
 総勢200名しかおらず、探査艇も搭載されていないので、移民船の惑星自動探査システムに委ねていた。

 前方に明るく輝く恒星が現れ、次第に欠けてゆく。
 どうやら惑星による掩蔽(日食)が起きているようだ。
 方向転換してその惑星へと進路を変える移民船。
 と同時に、船内では警報が鳴り響いて、冷凍睡眠カプセルが解除されてゆく。
 蓋が開いて、ゆっくりと起きだすミュータント族。

 数時間後。
 船橋に集まるミュータント族。
 機関長のキール・ストゥカリスキーが報告する。
「現在、減速航行中です」
 亜光速で進行中の船が惑星の衛星軌道に乗るための減速が続いていた。
「惑星の分光解析はどうだ?」
 首領と呼ばれるようになっていたドミトリー・シェコチヒンが尋ねる。
「酸素18%、窒素78%、二酸化炭素1%未満、他です」
 レーダー手のカチェリーナ・ゴリバフが答える。
「ふむ。酸素が少なめだが、十分生息可能だな。水はどうか?」
「大気中に平均0.2%ほど含まれてます」
 環境問題でCO2が話題に上るが、実際は水蒸気の方が温室効果が高い。温暖化になると海からの水蒸気が増えて、より一層温暖化を促進するという「水蒸気フィードバック」が起きる。
 だからといって全く水蒸気がなければ、放射冷却で星はどんどん冷えてゆくことになる。

 惑星の縁から別の天体が現れた。
「衛星のようです。惑星の裏側にあったために気づかなかったです」
 惑星より十分の一くらいだろうか、衛星の縁がくっきりと見えている。
「ふむ、みたところ大気はなさそうだな」
「いずれ鉱物資源を採掘できるでしょう」
「いずれか……いつになることやら」
 総勢200名で移民船一隻しかない現状では、現時点では衛星に向かうことは不可能である。
 生きるためには、まずは惑星に降り立ち開拓を始めなければならない。
 開拓が進み、人口も増えて、新たなる宇宙船を研究開発し建造して、再び宇宙へ出られるには千年以上はかかるだろう。

 惑星に近づくにつれて、さらに詳細が分かってくる。
「大陸と海の比率は、8対2です」
「生物は?」
「微生物はともかく、肉眼視できる生物は見当たりません」
「各種動植物の凍結受精卵や種が船内に保存されていますから、これから楽園を作ることもできますよ」
「そうか……やはり、一から始めないといけないのか……食料の備蓄と、穀物類の種の量はどうなっている?」
「食料に関しては心配の必要はありません。そもそも移民船としての役割を終えたとして、災害時の備蓄庫として利用されてましたからね」
「それを、そっくり頂いたというわけか」
 操舵手のルキヤン・ゴルジェーエフが報告する。
「衛星軌道に乗りました」
「よし、着陸態勢に入れ!」

 数時間後、惑星への着陸が開始された。
「水流ジェットノズル噴射!」
 大気圏に突入して、摩擦熱で移民船が灼熱に晒されるが、噴射される水が蒸気となって気化熱に転換される。
 巨大な飛行機雲をなびかせて、大気中を滑空する移民船。
 高度がどんどん下がり、海面近くまで降りた。
「海岸線が見えます!」
「よし、接岸せよ」
 凄まじい水飛沫を上げながら海面に降り立ち、慣性で滑りながら海岸線へと突き進む。
「全員、何かに掴まれ!」
 激しい震動が艦内を襲い、あちらこちらで倒れたり壁に打ち付けられたりしている。

 着岸して停止する移民船。
 船内では乗員が次々と起き上がり、窓やスクリーンに映る外界を眺めている。
「着いたぞ!」
 口々に歓声を上げ始めた。

 数時間後、移民船から次々と地上に降り立つ一同だった。
「ここが、俺たちの新世界だ!」
 新しい惑星での暮らしが始まった。
 当面の間は移民船を住居として、開拓が始まった。
 惑星都市の名前は、サンクト・ピーテルブールフと命名された。


 そして5000年後。
 総人口が一億人を越えて、再び宇宙へと舞い上がるのだった。

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11
銀河戦記/脈動編 第四章・遥か一万年の彼方 Ⅲ
2021.12.18

第四章・遥か一万年の彼方





 移民局では大騒動が起きていた。
「局長、大変です! ミュータント族に移民船が乗っ取られて宇宙へ逃げられました!」
「なんだと!」
「我々が移民に動くのは当分先のことだと、移民船の管理を疎かにしていたのが徒(あだ)になりました」
「手薄なところをやられたということか……」
「しかしどうやって銃火器類を手に入れたのでしょうか?」
「まあ、闇取引とかやってた奴らだからな。何とでもなるだろうさ」

「移民船がなくなったのは参りましたね。船の設計図とかも、移民船のコンピューターに記録されていましたから。我々が宇宙に出るには、一から設計をやり直さなくてはなりません」
「どうせ百年やそこらで、宇宙に行けるような人口じゃないからな。人口を増やしつつ、地道にペンシルロケットからでも研究していけばいいさ」
「ペンシルロケットですか……V2じゃないんですね」
「宇宙開発予算がないのだよ。今は惑星開拓の方が優先だからな」
「しかたありませんね……」
「ミュータント族だって、新たなる星を見つけられるかさえも未知数だしな。奴らが襲い掛かってくるのは、はるか未来のことだろう」
「そのミュータント族は、総勢二百名ほどが移民船に乗り込んだと思われます」
「たったそれだけの人数で、新たなる惑星を求めて旅立ったということなのか?」
「それだけで、国家を起こすことができるのかな?」
「クローニングでもやってどんどん人口増やしていけば何とかなるんじゃないですか?」
「それで国家を形成できてどうするかな……。宇宙船で乗り込んできて我々の国家と戦争でもやるか?」
「全員虐げられた恨みを持っていますからね。あり得るんじゃないですか?」
「今後、ミュータント族との戦いに備えて、軍事面を増強させた方がいいのでは?」
「設計図はないが、戦艦などの開発設計を始めるとしよう。何とかなるだろう」


 惑星アルデノンは、一万年前の新石器時代。
 部落というものが形成されたばかりの発展途上国でしかなかった。
 まずは生きていくだけで精一杯で、戦艦開発のこと、ミュータント族のこと、そして宇宙のことも次第に忘れられていった。
 最初の移民達は次々とこの世を去り、アルデノン生まれ育ちの住民にとって代わっていく。
 アレックス・ランドールも既にこの世にいない。

 500年後、大気組成のうち酸素11%、二酸化炭素9%となる。

 村や町が増え人々の数が増えるに連れて、人々の間に葛藤も増えてゆく。
・コーカソイド(白人種/アーリア、セム、ハム)
・モンゴロイド(黄色人種/漢民族、チベット、ポリネシアなど)
・ネグロイド(黒人種/メラノ・アフリカ、エチオピア、ネグリノ)
 などの肌色・民族による違い。
 キリスト教・イスラム教などの宗教対立も起こっていた。

 多種多様の民族がそれぞれコミュニティを作り、やがて独立国家を形成しはじめた。


 農耕を営む者の中から、小作と農場主という主従関係が生まれ、さらに荘園主へと発展して財を蓄える者が出て、やがて豪族を名乗る身分となってゆく。豪族たちは、領地を巡って奪い合いの戦争を繰り広げ、さらに豪族を取りまとめて王と成す者も現れた。
 王宮を作り上げ、自分に媚びへつらう者達を貴族として囲い込んだ。
 幾度とない戦争・略奪を繰り返しながらも、世界は次第にまとまっていった。

 かつての地球人類が一万年掛けて辿った歴史を、再び繰り返すこととなったのだ。

 ちなみに地球人口が、一万年前の新石器時代500万人程度から、一億人を越えたのは西暦元年頃、そして十億人となったのが西暦1800年代である。その後爆発的な人口増加が始まる。

 5000年後、大気組成のうち酸素19%、二酸化炭素1%
 ここに至って、初めて宇宙服なしで外を自由に歩けるようになった。
 総人口が一億人を超えて、有人宇宙船が宇宙に飛び立つ。
 これをもって宇宙世紀元年と呼ぶようになった。

 宇宙船が飛べば、次には宇宙ステーションである。
 宇宙船で資材を運び、ステーションを組み立ててゆく。
 静止軌道上に、地上に繋がる軌道エレベーターが造られ、ステーションはさらに発展してゆく。
 天文台、造船所、宇宙港など再び宇宙へ飛び出す準備が着々と進んでいく。

 探索隊が結成されて、惑星探査へと飛び出した。

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11
銀河戦記/脈動編 第四章・遥か一万年の彼方 Ⅱ
2021.12.11

第四章・遥か一万年の彼方





 惑星の開発は続けられているものの、人口12万人という過疎状態では、何ともしがたいものだった。

「人口12万人なんて、ペストなどの疫病が流行れば、あっという間に滅亡しますわ。我々の体内・体外には、太古の昔から潜在する病原体が生き続けているのですから。この星にも有害な未知の原生物がいるかも知れませんし」
 例えば、帯状疱疹という病気は、幼少の頃に水痘が発症して一旦治ったと思っても、体内の奥深くの神経叢に潜り込んで生存していて、老齢などによって免疫力が下がった時に、復活増殖して引き起こすことがよく知られている。

 生物学者の意見を取り入れて都市計画案が練られる。
 一万人ごとのコロニーを作って、それぞれ分かれて生活することが提案された。コロニー間をチューブトンネルで繋いで、鉄道や道路によって人々が移動できるようにして、感染症が流行したコロニーは閉鎖して、それ以上の感染が広がるのを防ぐ。災害時も同様である。
 評議会などの政府・行政機関が集中した中央コロニーから、放射状・同心円にコロニーが築かれていった。コロニー名として、原子の電子配置に因んで、Kから始まる名前が振り当てられ、N10コロニーと言えば中央から4番目の同心円帯の北から時計周りで10番目に位置することになる。

 各個のコロニーには自治権を与えられていた。

 人口自然増に任せておいては、いつまでたっても人口は増えず、開拓も進まず他の惑星に進出することも叶わない。
 とあるコロニーでは、人口殖産の方策として、試験管ベビーはもちろんのこと、クローニングも盛んに行われていた。
 コロニーN20では、人口が増えて同心円から外れて円外に向かって、数珠繋ぎ状にコロニーを増設しはじめた。増設順にN20a・b……という名前が付けられた。
 クローニングは、人口増には役に立つが、反面として奇形や遺伝子異常などの障碍者も多数輩出こととなった。しかし人口増が当面の課題として引き続き行われた。


 奇形児や障碍者は、疎外され迫害されてゆくのが世の常だ。
 ミュータントとして蔑まれ、学校では虐められ、就職活動すらもままならぬ。

 そういった奇形や障碍者達が集まってコミュニティを作り始めた。
 その中で、頭角を現してきた人物がいた。
 ドミトリー・シェコチヒンという名の男は、虐げられた人々をまとめ上げて反社会的組織の一大勢力を作り上げた。
 恐喝や強盗を始めとして、麻薬などの非合法取引まで、一般の市民のやらないことを行っていた。

 N0中央コロニーの倉庫。
 ドミトリー他の仲間が何やら不審な行動をしている。
 積み上げられた荷物の一つを、バールでこじ開ける一味。
 軋み音を立てて、蓋が開いたその中に入っていたのは……。
 バズーカ砲、ブラスターガンなどの武器がぎっしりと入っていた。
「これだけのものを、よく集められたな」
 武器の一つを取り上げて、倉庫の窓に照準を合わせてみる。
「苦労しましたよ。裏取引でほとんどの金を使っちゃいましたよ」
「どうせ、この星の金なんぞ。もう必要がなくなるからな」
「そうですね」
 一同頷いて同意する。
「よっしゃ、行動は夜になってからだ」
「おお!」
 手を挙げて歓声を上げる一同。


 夜になった。
 N0コロニーに隣接する宇宙港。
 中央には、12万人の移民たちを運んできた大型輸送船が停泊している。
 連絡通路を進むエアカー。
 ドミトリー達が乗り込んでいる。
 武器を携帯して物騒な井出達である。
「通用ゲートが見えてきた」
「ぶっ飛ばしてやるぜ!」
 仲間の一人が、エアカーから身体を乗り出して、バズーカ砲を構えた。
「落ちるなよ。拾えねえからな」
「そんなドジ踏まねえよ」
 言いつつ、トリガーを引いた。
 鋭い発射音と共にゲートに飛び込み、爆音を上げてゲートを破壊した。
 何事かと集まってくる警備員たち。
「おっしゃあ! 飛び込めえ!」
 全速力でゲートに突っ込むエアカー。
 進路を邪魔する者は、機関銃が掃射してなぎ倒してゆく。
 目指すは、大型輸送船だ。

 軍艦ではないし、開拓に必要な機械類はすべて降ろされて、ただの倉庫と化していた輸送船には、まともな警備体制は敷かれていなかった。
 まずは人口増産優先として、移民活動は凍結されて、船はせいぜい動態保存されているだけだった。
「入り口はどっちだ?」
「あそこにある」
「高くて届かねえよ」
 と迷っていると、
「どけどけえ! 邪魔だ!」
 仲間の一人が、荷物積み降ろし用のハイリフト車を、かっぱらって持って来た。
「おお、いいもん見つけたじゃないか」
「みんな乗れや」
 言われてリフトに乗る一同たち。
 リフトが上昇して、乗船口。
「開けろよ!」
「今開ける」
 乗船口が開けられて、一同が乗り込んでゆく。
「おい、出港準備が整うまで、二名はここで見張っていろ!」
「へえ! 近づいてくる奴は、みんなぶち飛ばしてやりますよ」
 バズーカ砲を掲げ挙げて叫ぶ。


 操縦室。
 機器を操作している仲間がいる。
「どうだ。動かせるか?」
 ドミトリーが尋ねる。
「へへ。こんなの朝飯前ですよ。自動航行システムを立ち上げて、探査方面を入力するだけです」
 もともと自動航行で居住惑星を探すためのプログラムが仕込まれている移民船である。プログラムを起動させれば、後は自動運転できる。
「そうか……。頼んだぞ」

 数時間後。
「起動成功しました! いつでも発進できます」
「よし、見張りのものを中に入れて出航させよう」
「了解!」
 乗船口が閉められ、エンジンが始動しゆっくりと浮上してゆく。
 そして宇宙空間へと飛び立った。

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11
銀河戦記/脈動編 第四章・遥か一万年の彼方 Ⅰ
2021.12.04

第四章・遥か一万年の彼方





 漆黒の宇宙を漂う一隻の大型輸送船があった。
 その船体には大きな損傷があった。
 船内では赤色灯が点滅し、警報が鳴り続けている。

 冷凍睡眠カプセルで眠る人々。
 やがてゆっくりとカプセルが開き、人々が起き上がってゆく。
 何が起こったのかとしばらく首を傾げていたが、事態を把握して急ぎまだ眠っている人々を総員起こしに回った。
 総指揮官であるアレックス・ランドールも目覚めて、集まってきた者達にテキパキと指示を出し始めた。
「他の船は?」
「周囲に他の船が一隻も見当たりません」
「通信は?」
「先ほどから連絡を取っておりますが、全く応答はありません」
「現在位置を調べてくれ。フライトレコーダーもな」
 天文班が星図の照らし合わせを行ったところ、どうやらマゼラン銀河へとやってきていることは確認できたが、位置は当初予定の場所から外れて、銀河の反対側の端に到着したようだった。

 運行記録を調べていた班から報告が上がってくる。
「どうやら自動運行中に超重力波に遭遇してしまったようです」
「それでコース設定が変わってしまったのか?」
「でもそれだけでは、予定の反対側に飛んできたのが理解できません」
「他の要因が重なったというわけか……」
 一同が考えあぐねていると、
「大変です!」
 青くなって報告する者がいた。
「どうした?」
「原子時計を調べて分かったことなのですが、どうやら一万年過去の世界へ飛ばされたみたいです」
「一万年前の過去?」
「間違いありません」
「我々の祖先の住んでいた地球では、新石器時代というところか?」
「そうなりますね。通信不通なのは当然でした」

「もしかしたら……コース設定が変わっただけでなく、次元の狭間に飛び込んでしまったのかもな」
「ワームホールですか?」
「一瞬にして時間と空間を飛び越えてしまったんだ」
 明確な理由は分からないが、時空跳躍が起こったことは疑いのない事実のようであった。
「これからどうなされますか?」
「本隊に連絡することも、合流することも叶わない以上、この一隻の船の人員だけで生き抜いていくしかないだろう」
 一同も理解はできた。
 天の川銀河に戻れたとしても、そこは新石器時代の世界である。
 過去に戻ることによるパラドックスも厄介になる。
 このマゼラン銀河で生きていくしかないようだ。
 せめてもの救いは、最高指導者たるアレックス・ランドールが共に乗船していたということだろう。
 その時、警報が鳴り響いた。
「前方に惑星を発見!」
「スクリーン拡大投影しろ」
 眼前には、大気と水を湛えた惑星が映し出されていた。
「なるほど……。惑星が近づいたから、全員の冬眠が溶けたのか?」
「コース自動設定で惑星に近づいています」
 移民船は自動航行で進んでいるが、途中に居住可能な惑星が発見された場合には、冬眠カプセルが解除され惑星に向かうコースに変更される設定になっていた。
 もし惑星が見つかっていなければ、そのままアンドロメダ銀河に向かって永遠の旅を続けていたであろう。

「分光装置で大気組成を調べろ。それと大気の温度もな」
「了解!」
 レーダー手がスペクトル分光装置を使って大気組成を調べる。
「酸素9%、窒素74%、二酸化炭素11%、ヘリウム0.91%です。気温52度で、二酸化炭素濃度による温室効果だと思われます」
「酸素と二酸化炭素は、植物緑化すればなんとかなるだろう。核融合の燃料がたくさんあるのは都合がよいな。大陸と海の分布はどうだ?」
「陸が60%、海と湖沼が合わせて40%です」
「まずまずだな。船を衛星軌道に乗せてくれ」
「了解しました」
 まずは衛星軌道から大気や地上を詳細に調べる。
 無人機を降下させて、空気中や地表そして海中に有害な微生物がいないかの確認もする。
 着陸に最も適した場所を探し出す。

「着陸体勢、すべてオールグリーンです」
「よし、降下しろ」
 ニュー・トランターと違って、シアン化水素のような有毒・可燃性ガスはないので直接降りることができる。
 開けた海辺の近くに降り立つ輸送船。
「海の成分はどうだ?」
「二酸化炭素が溶けて酸性に偏っていますね。雨にも溶けて大地からカルシウムなどの金属類を溶かし出しています。ナトリウム、マグネシウムなども豊富です」

「これだけの好環境だというのに、生命が見当たらないのは不思議だな」
「生命誕生のプロセスは、ほとんど奇跡の神がかりですよ。天の川銀河の中の数ある好条件の星々にも生命は発生しませんでした。天文学者フレッド・ホイル博士によると、最初の生命が偶然生まれる確率は、10の4万累乗分の1、だそうです」
「可能性はほとんど0に近いな」
「『がらくた置き場の上を竜巻が通過し、その中の物質からボーイング747が組み立てられる』のと同じくらいだとも言ってましたね」
 フレッド・ホイルは、生命の起源は宇宙空間で進化し、彗星などによってもたらされたとするパンスペルミア仮説の提唱者である。

「ともかくだ。この星での最初の生命は我々ということだな」
「そういうことですね」
「総人口十二万か……地球の新石器時代には500万人の人口があったとされるが……」
「西暦元年で3億人です。自然増を待っていては、1億人になるには、それこそ1万年かかりそうです」
「これだけの人員では、まともな惑星開発もできません」
「まずは、この惑星に留まって、食糧の確保から人口増加が先決ではないでしょうか?」
「そうだな。せめて一億人くらいに増えないと、他の惑星に向かうことはできないな」
「ともかくこの星を一から開拓することから始めましょう」
「そうだな。まず最初はこの星の名前を決めようか」
 喧々諤々(けんけんがくがく)の討論の結果、アレックスの生まれ故郷のアルビエール侯国に因んで『アルビオン』と命名された。

 人々が輸送船から降り立ち始め、当面の間は輸送船を本拠地として、開発が始まる。
 致死量の二酸化炭素があるので、野外での労働には宇宙服が必要だが、酸素を生み出す植物を育てるには好都合でもある。
 陸地では大規模な植林が行われ、海には、シアノバクテリアなどの藍藻類などを放出した。
 大規模農場が造成されて、人々の食糧となす畑作りに耕運機が動き回り、小麦やトウモロコシなどが植えられてゆく。

 こうしてアルビオンでの人々の生活が始まった。

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