銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十二章 要塞潜入! Ⅱ
2021.04.30

第二十二章 要塞潜入!




 ジュビロから声が挙がった。
「よし! 侵入した。成功だ」
 ものの数分でコンピューターの侵入に成功するジュビロ。
「さすがだな」
「俺を誰だと思っている」
 憤慨気味のジュビロ。
「まあな……。レイティ、端末を操作して見てくれ。そうだな……要塞のブロック図を出してみてくれないか」
「OK。要塞のブロック図ですね……ちょっと待ってください」
 レイティは操作パネルをいじりはじめた。
「間違っても警報システムは作動させるなよ」
「いやだなあ、提督。僕達を誰だと思ってるんですか、コンピューターのシステム管理者と天才ハッカーですよ。システムなんてのは日常茶飯事で取り組んでいるんです。操作パネルのデザインを見ただけでもおよそのことはわかります」
「そ、そうか」
「よし、こいつだな……」
 と確信した表情でスイッチを押した。
「お、出たでた」
「レイティ、ごみ処理場周辺を出してくれ」
「はい」
「どうやら二区画先まで閉鎖されているようだな」
「大型ミサイルの不発弾があるから用心のためですね。これなら、ここへ踏み込まれることはないでしょう」
「しかし、その内に爆弾処理班がおっつけやってくるはずだ。早いところやってしまわなければならない」
「そうですね」
「中央制御コンピューターの位置は?」
「ここから二十七ブロック先の所にあります」
「そこへたどり着く最短コースは」
 レイティはパネルを操作してルートを表示してみせた。
「そうですね、このルートを通れば」
「途中の保安システムは?」
「残念ながら、この端末からでは保安システムを止めることはできません。ローカルコード専用の端末ですからね。保安システムへのアクセス権が設定されていません」
「このままでは、中央制御コンピューターへは行くことができないか……後は、ジュビロ次第だな」
「保安システムへのアクセスルートを探っているところだ。もう少し時間をくれ」
 たとえアクセス権が設定されていなくても、中央制御コンピューターに接続されてさえあれば、ジュビロの腕前なら何とかしてくれるだろう。
「それにしても……」
 レイティーが小さく呟くのを聞いて、アレックスが尋ねる。
「どうした?」
「いえね。ここのシステムは一世代前のものなんですよ」
「一世代前?」
 ジュビロが代わって答える。
「さっきからいろいろ探っているが、カウンタープログラムはおろか、ハッカーの侵入を防ぐ対策らしきものが一切ない」
「どういうことだ」
「つまりですね。この要塞は完全独立コンピューターによって制御されていますから、外からアクセスする道が遮断されています。ハッカーの侵入を考慮する必要はないと判断しているのではないでしょうか」
「がっかりだぜ。この程度なら、レイティでも攻略できるかもしれないね。時間さえあれば」
「その時間が惜しい。一秒でも早く落とさなければならないんだ。外の艦隊だけでは、この要塞を直接攻略することは不可能だ。いつまでも要塞に手を出さずにいれば、いずれ勘繰られて、侵入した我々のことを悟られることになる。時間が掛かれば掛かるほどな」
「しかし旧式のシステムとはいえ、やけに広大過ぎる。どうやらシステムのすべてを中央制御コンピューターが管理しているようだ」
「それは、僕もさっきから感じていました。普通いくつかにモジュール化して分散させておいて、メインがシステムダウンしても他からバックアップできるようにしておくものですが、ここのは違う。ほらこれを見てください」
「これは?」
 表示パネルには、中央制御コンピューター室から一本の通路が外へ向かっているのが、映しだされていた。
「排気口ですよ」
「排気口?」
「そうです。システムのすべてを中央制御コンピューターが担っているから、過負荷となって膨大な熱が発生します。熱源が一ヶ所に集中していて冷却が間に合わないから、その熱を外へ排気するための通路ですよ。巧妙に隠されて外からは気付きませんでしたけど」
「排気口か……いずれ使えるかもしれないな……」
「使える……?」
「いや、何でもない。ということは、中央制御コンピューターに侵入できれば要塞のすべてをコントロールできるわけだな」
「その通りです。ところで、同じように熱源として動力炉もありますが、こちらは熱循環させて要塞内の暖房に使われています。同じ熱量があったとしても、コンピューターは超電導素子の関係からシビアに冷却する必要があるので、絶対零度に近い宇宙空間に放出するほうが効率がいいわけです」
 戦闘に関しては神がかりの才能を発揮するアレックスであるが、ことシステムエンジニアに関しては無知といってもいいだろう。レイティーやジュビロが解説することを、百パーセント理解しているとは言いがたい。
 が、それでいいのである。自分にできないことは他人にやらせればいいこと。そういう人材を集め利用する。それが指揮官たる才能なのである。
「やったぞ、中央制御コンピューターに侵入した」
 指を鳴らして叫ぶジュビロ。
「どうします? 保安システムを解除しますか」
「いや、ただ単純に解除したのでは、察知されて保安システムが作動していない原因を調査にくるだろう。正常に作動しているようにみえて、実は解除されているという具合でないとな」
「そういうことなら簡単さ」
 再び、端末をいじるジュビロだが、一分も経たないうちにシステムを改竄してしまう。
「保安システムを解除した。お望みの通りにね」


「よし! 各自レーザーガンを装備」
 アレックスはミサイルの中から、レーザーガンを取り出して腰に装着しながら、ヘッドセットの携帯無線機を通して指令を出した。
「我々は中央制御コンピューター室に直行する。その間ジュビロはここにいて、敵の動静を監視しつつ逐次無線で報告せよ」
「あいよ。一人寂しく待機してるさ」
 ジュビロは、無線機に向かって答えた。
「無線機のチェックOKです」
「よし、行くぞ。ジュビロ、扉を開けてくれ」
「今開ける」
 すーっと扉が開いて先の通路が現れた。
「気をつけろ。どこから敵が出て来るかわからない。ジュビロ、扉を閉めておいてくれ」
「へい、へい」
 扉が閉まるのを確認してアレックス達は、一路中央制御コンピューター室への通路を駆け出した。通路の交差点や角では注意深く敵影の存在を確認しながら突き進んでいく。
 時折出くわす兵士達を有無をいわさず打ち倒しつつ目的地へと急ぐ。
 大きな隔壁で閉ざされた箇所に差し掛かると、
「この先が中央制御コンピュータールームのようだな」
「動体生命反応が多数あります」
「この扉の先に敵兵がいるということか」
「どうします?」
「と、いわれても、行くしかないだろう」
「そうですけどね……」
 アレックスは、隔壁の側に記された区画名を確認して、携帯無線機を通してジュビロに指令を出した。
「ジュビロ、Dー137ブロックの扉を開けてくれないか」
『わかった』
「レイティは後ろに下がっていろ」
 レイティは技術将校で戦闘の訓練を受けておらず、かつ作戦の重要人物なのでアレックスは彼に危害がかからないように安全な場所への待避を命じた。レイティは命令に従って通路の影に隠れるようにして顔だけ覗かせるようにしてアレックス達の動向を伺っていた。
「気をつけろ。構え!」
 隊員は床に伏せて銃を構えた。
 重い扉がゆっくりと上がっていく。
 そばの隔壁が開いて、アレックス達の姿を確認してたじろぐ敵兵。銃を構える暇を与えることなくアレックスの下令が廊下にこだまする。
「撃て!」
 一斉砲火を浴びせられてばたばたと倒れていく敵兵。
 保安システムの端末に飛び付く者もいたが、すでに保安システムはジュビロが握っており、警報を鳴らすことも他部署へ連絡を取ることもできない。地団駄踏んでそこを離れようとしたところを仕留められて床に倒れてしまう。
 戦闘はものの数分でかたがついた。
 気がつけば目前には、特殊硬質プラスティックの窓を通して、五階建てのビルに相当するほどの部屋の中央に巨大な構築物がそびえたっていた。
「これが、中央制御コンピューターか」
 システムから発生する熱を回収し、かつまた超電導回路を支える超流動状態の液体ヘリウムが部屋全体を流れているらしく、冷えた壁面に暖かい制御室内の水蒸気が霜状に付着している箇所が随所に見られる。
「レイティ。早速だが、はじめてくれ」
「わかりました」
 自分の出番はここからだ、とばかりに端末に取り掛かるが。
「提督……。宇宙服を脱いでもいいですか? 息苦しくて精神を集中できません」
 とすぐに切り返してくる。
「いいだろう。総員、宇宙服を脱いでいいぞ」
 宇宙服を脱ぎ始める工作隊員。
「ふいぃー。見てくださいよ。汗びっしょりだ」
「すぐに汗が引くさ。目の前に巨大な冷蔵庫があるんだからな」
「ほんとだ。ひんやりとしてますね。風邪をひきそうだ。はやいとこかたずけましょう」
「そうしてくれ……」
 そして無線機で、ごみ処分区画のジュビロに連絡する。
「ジュビロ。そこはもういい。区画を封鎖してこっちへ合流してくれ」
「わかった。今からそっちへ行く」

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2021.04.30 08:47 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十二章 要塞潜入! Ⅰ
2021.04.29

第二十二章 要塞潜入!


I

 要塞ゴミ処分区画。
 穴の明いた隔壁からさらに一区画内部に入った所に、大型ミサイルが突入してめちゃくちゃになっている。
 隔壁の応急処置に集まってきた工兵隊達。
「えらくひどくやられたものだな」
 空気が抜けているために、船外服を着込み、ヘルメット内に仕込んである無線機で会話をしている。もちろん空気がなければ音が伝わらないのは当然だ。
「なんだこれは!」
 区画内に横たわる黒光りする物体に釘付けになる隊員。
「不発ミサイルだ」
「例の次元誘導ミサイルとか言う奴か?」
「おかしいじゃないか、この穴を開ける爆発を起こしたんだろ?」
「偶然、二発同時に突入したのかもな。先に突入した奴の爆発で、信管が動作不良を起こして不発になったのかも知れない」
「兄弟殺し(fratricide)と呼ばれる現象だよ。多弾頭では良く起きる」
「ともかく、爆弾処理班を呼ぼう」
 艦内電話をとって連絡する兵士。
「そっちは放って置いて、こっちの穴を早く塞ぐんだ。ここを狙い撃ちされたらもたないぞ」
「了解!」
 作業機械が明いた穴に取り付き、修復が開始された。予備のブロック片が運び込まれて、穴を塞いでいく。
「ここの区画は爆弾処理が終わるまで封鎖だ。誘爆して他の区画に被害が出ないようにしなくては」

 中央コントロール。
「隔壁の修復はどうなっている?」
「まもなく完了します」
「そうか……。それで不発弾の方の処理は?」
「レクレーション施設の方で手一杯です。多弾頭ミサイルだったらしく、不発の信管を抱えた子弾の処理に追われています」
「急がせろ! 守備艦隊はどうなってる?」
「クンケイド少将が指揮を引き継いでおります。別働隊を警戒して現状空域で全艦停止、敵本隊と睨み合いが続いています」
「別働隊の動きは?」
「全艦、撤退しました」
「引き続き警戒を怠るなよ」
「はっ!」

 ごみ処分区画。
 すでにブロック片によって穴は塞がれ、接合処理が行われていた。
「よし、応急修理は完了した」
「不発弾が爆発しなくて良かったですね」
「そうだな。その性能からして、たぶん時限信管を使用しているはずだ」
「だとすれば、いつでも爆発する可能性がありますね」
「そうだ。後は処理班にまかせよう。処理が済むまでは、本格修理はお預けだ。一旦ここを退去しよう。遮蔽壁を降ろせ!」
 作業機械が撤収し、ごみ処分区画を閉鎖するために、遮蔽壁が降りはじめている。
「しかしゴミ処分区画に突入するとはな」
「ああ、ここの隔壁は他より薄いんだ」
「ともかく不発弾でよかったな」
「まったくだ」
 遮蔽シャッターが降りされていく。
 それを掻い潜るようにして工兵隊が区画の外へ避難していく。
「爆弾処理班は、いつ到着する?」
「レクレーションの方の処理がまだだそうです。まだ当分かかりそうです」
「そうか……」
 工兵隊の避難が完了し、遮蔽シャッターが降り切って、完全に封鎖された区画となった。

 その区画の中に取り残されたミサイル。
 やがてミサイルが軽い爆発と同時に割れて中からノーマルスーツに身を包んだアレックス達が出てきた。ジュビロ、レイティー、その他の工作隊の面々である。
「端末は?」
「提督、あそこにあります」
 レイティが隅の端末を目ざとく見つけて指差した。
 素早く駆け寄って端末を操作してみるレイティ。
「どうやら、中央制御コンピューターに接続されているようです」
「予想通りだ。ジュビロ、君の出番だな」
「まかせな」
 ジュビロは端末機器と接続コネクターの間に、持ち込んだ自慢の支援システムコンピューターを接続した。
「システムに侵入するのに、どれくらい掛かりそうだ」
「今、接続したばかりだぜ。まあ、あせるな。十分もあれば侵入できるはずさ」
「よろしく頼む」
 ジュビロが端末を操作しているのを横目で見ながら、ごみ処分区画を監察するアレックス達。
「隣の区画はどうか?」
 遮蔽壁を開閉する操作盤を調べている工作隊員に尋ねるアレックス。
「隣の区画も空気が抜かれています。どうやら避難して人はいないみたいですね」
「ここが爆発し、この遮蔽壁が破砕した場合に備えてのことでしょう」
「そうか……」
「さすがに堅固な要塞ですね。かなりの爆発があったでしょうに、この区画だけしか破壊できないとは」
 レイティーが感心したように言った。
「隔壁を破壊するために、外側へのみ爆発圧力を加える指向性爆弾を使用した」
「指向性? そんな爆弾があるんですか?」
「フリードに頼めば、何だって作ってくれるよ」
「さすが、フリード先輩。でも、そんな爆弾の考案をする提督もすごいです」
「おだてても何も出ないぞ」
「分かりましたよ。二発目の次元誘導ミサイルって、隔壁を破壊するためのものだったんですね」
 工作隊の一人が声を挙げた。
「何を今さら気が付いたのか?」
「作戦の詳細は聞かされていませんでしたから」
「それにしても、壁の向こうには防御艦隊が集結してるんでしょうね」
「そりゃそうだ。穴を塞いだとはいえ脆弱だからな」

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2021.04.29 11:29 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十一種 タルシエン要塞攻防戦 Ⅳ
2021.04.28

第二十一章 タルシエン要塞攻防戦




 要塞周囲に出現を果たしたジェシカ配下の艦載機群は、猛烈なる攻撃を加えつつ各砲塔を破壊していった。
「さすがに堅固な要塞だな。砲塔を破壊するのが精一杯だ」
 空母セイレーンより発進したエドワード中尉は、一足先にワープアウトした空母セラフィムから出撃したハリソン率いる第一波攻撃隊の様子を遠巻きに眺めていた。
「中隊長。カーグ少佐の重爆撃機が右上方にワープアウトです」
「よし、援護射撃に入る」
 ジミーの操艦する重爆撃機を取り囲むようにして編隊が集まって来る。
「よう。みんな、待たせたな」
 ジミーからの通信が入ってくる。
「隊長、いつでもいけますよ」
「よし。そのまま待機だ。第六突撃強襲艦部隊は?」
「我々の後方にて、第三次攻撃待機中です」
「うむ、提督らが要塞潜入に成功し、システムを乗っ取った後の活躍部隊だからな」

 空母艦隊の出現にも要塞の方は落ち着いていた。
「新たなる敵が出現しました」
「やはり別働隊がいたか!」
「艦数およそ二千隻。空母部隊です。艦載機急速展開中!」
「迎撃しろ。その程度の艦船でこの要塞を落とすことはできまい。それより次元誘導ミサイルの方が脅威だ。守備艦隊には迎撃を続行させよ」
「各砲塔、迎撃体制に入れ」
「守備艦隊は追撃を続行せよ」
「しかし、航空母艦が直接乗り込んでくるとは、死ぬ気ですか? 攻撃力も防御力も弱いですから、戦闘機を発進させて後方で待機するのが通常ですよ」
「判らんよ。何か目的があるはずだが」

「ジミー・カーグ編隊が配置に付きました」
「判りました。通信士、降伏勧告にたいする返答はまだですか」
「ありません」
「やはり突入しかありませんね。大佐、もう一つの次元誘導ミサイルを要塞内に向けて発射してください。目標、敵要塞ごみ処理区画」
「了解した」
 向き直り配下の部隊に指令を下すカインズ。
「サザンクロスへ、次元誘導ミサイル発射準備だ。なお弾幕として通常弾も同時に発射する。全艦、艦首ミサイル全門発射準備」
 命令が復唱伝達されて戻って来る。
「全艦ミサイル発射準備完了しました」
「よし。発射せよ」
「発射します」
 全艦から一斉にミサイルが放たれて要塞を目指した。
 そして次元誘導ミサイル二号機。

 もちろん途中には守備艦隊が待ち受けていて迎撃体制に入っていた。
「迎撃せよ!」
「だめです! 歪曲場シールで遮られて、粒子ビーム砲が当たりません」
「迎撃ミサイルも、追従するミサイルによって落とされてしまいます」
「だめか……。こうなったら最後の手段だ。当艦は体当たりして、次元誘導ミサイルの行く手を阻む」
「提督! それは……」
「他に手があると思うか?」
「いえ……」
「前にも言ったはずだ。もはや私にはこの戦いの後はないんだ。捲土重来なくは、当たって砕けろだ」
「判りました」
「よし! 全速前進だ。目標、次元誘導ミサイル」

 セイレーン艦橋。
「いつまでもここに留まっていられません。ありったけの攻撃を敢行しつつ急いで駆け抜けます」
 防御力の小さな空母が長時間戦闘空域に留まっているわけにはいかなかった。
 提督の乗る特殊ミサイルを搭載した重爆撃機を目標地点に運んで発進させるのが任務だった。重爆撃機を発進させたら、すぐさま戦線離脱することになっていた。
「敵旗艦が次元誘導ミサイルに向っていきます」
「特攻です!」
「カスパード編隊に攻撃させて下さい。次元誘導ミサイルを落とさせるわけには参りません」
「了解。カスパード編隊に迎撃させます」

 守備艦隊旗艦。
 次元誘導ミサイルに向って進撃していた。
 弾幕のミサイル群の標的になっていた。
「右舷損傷」
「構うな、そのまま直進」
「左舷より、艦載機急速接近中!」
「迎撃しろ!」
「左舷、レーザーキャノン掃射!」
 ミサイルと艦載機との集中攻撃を受け、ぼろぼろになっている。
「目標との距離は?」
「0.2宇宙キロ。三十秒後に接触!」
「急げよ。持たないぞ」
「目標まで二十五秒」
 艦内で誘爆が続いている。
 消火班が必死で消火作業にあたっている。
 次ぎの瞬間、大きな爆発とともに吹き飛んでいく。
 その衝撃は艦橋をも揺り動かしていた。
「弾薬庫に被弾! 爆発炎上中」
「むう……これまでか……」
 再び大きな振動が起こり火の手が上がった。
 床に投げ出されるフレージャー。全身傷だらけで額から血を流していた。
 ゆっくりと立ち上がって周囲を見回すが、その惨状は目を覆いたくなる状況だった。
 多くのオペレーター達が機器に突っ伏すように倒れている。
 スクリーンに映るサラマンダーに視線を移すフレージャー。
「ランドール……貴様との決着もここまでだ」
 サラマンダーに向って敬礼をするフレージャー。
 フレージャーを炎が包む。
 ミッドウェイ宙域会戦からの長き宿命的な戦いの終止符だった。
 やがて大きな爆発に巻き込まれて吹き飛んでいく。
 次元誘導ミサイルの目前で爆発炎上する旗艦。


 その様子は要塞中央コントロールでも見つめていた。
「フレージャーが撃沈しました」
「結局。ランドールには適わなかったというわけか」
「次元誘導ミサイル接近中!」
「かまわん。かたっぱしから撃ち落とせ」
「ミサイルがワープしました」
「だめか!」
 再び大きな衝撃が襲った。
「どこをやられたか?」
「ごみ処理区画です」
「射程が短か過ぎたようだな。助かったよ、九死に一生だ」
「しかし、隔壁に穴が明いてしまいました。今そこを攻撃されたら、いくらこの要塞でも持ち堪えられません」
「スクリーン。要塞外部から被弾箇所を投影」
 数秒あって、要塞周縁にあるごみ処分場の一角から爆発の火の手があがるのが見えた。
 外部からの攻撃に対して完全防御を満たしていても、内部からの誘爆の圧力を受けてはさすがに持たなかった。
 要塞とて小さなブロック片を組み立てて造られている。内部圧力として人間の生きる一気圧に保たれているため、真空との圧力差で外へ向かう定常的な抗力が働くが、それよりも外部からの攻撃の爆発的圧力に耐えることの方が大切である。ゆえに内部圧力に関してはあまり考慮に入れられていなかった。
 そこへ次元誘導ミサイルの攻撃による爆発的圧力が掛かり、接合部がその衝撃に耐え切れずに破断し、一部のブロック片が剥がれ飛んでしまったのである。
「工兵隊に穴を封鎖させよ」
「応急処置だけでも最低十二時間はかかります」
「急がせろ、敵は目の前なんだぞ! 守備艦隊を呼び戻すんだ!」
「それでは、敵に易々と次元誘導ミサイルを発射させることになりますが?」
「構わん! どうせ奴らの目的はこの要塞の奪取なのだ。重要施設を破壊するような攻撃を仕掛けてくるはずがない。次元誘導ミサイルにも限りがあるはずだ。これまでの攻撃の仕方からすれば、せいぜい数発しか残っていないはずだ。敵艦隊の攻撃さえしっかり守っていれば、要塞が落ちることはない」
「判りました。守備艦隊を呼び戻します」
「要塞内に駐留する艦隊を出撃させますか?」
「別働隊が張り付いている今はだめだ。発着口を開けばそこを狙い撃ちされる、内部誘爆を招いて身動きが取れなくなる」


 その頃、要塞の隔壁の破壊を確認したカーグ編隊。
「よし! 穴が開いたぞ。ただちに突入する」
「了解!」
 カーグ編隊全機が合図と同時に投入を開始した。
 すでに先行のハリソン編隊の集中攻撃によって、目標地点付近の砲塔はほとんど撃破されていた。
「ジュリー。ミサイルの安全装置を解除しろ」
「了解。解除します」
「目標接近!」
「照準セットオン。艦の噴射コントロールを同調させてください」
「わかった。噴射タイミングをそちらに回した。後は頼むぞ」
「行きます!」
 さらに加速を上げて目標に突撃する重爆撃機。人を載せているがゆえに自走能力がないミサイルのために、それを重爆撃機に搭載し、急降下爆撃で突撃射出させるという前代未聞の作戦。
「最大加速に達した。最終セーフティ解除」
「ミサイル射出!」
 懸吊されていたアレックス達を乗せたミサイルが、重爆撃機より投下されてゆっくりと要塞に近づいていく。
「急速反転、離脱する」
 ミサイルを放ったカーグの乗った重爆撃が反転離脱していく。 
 要塞ゴミ処分口に突刺さるように見事命中するミサイル。
「巧くいったわ」
「お見事」
「わたし達の役目は終了した。脱出しましょう」
「まかせとけ」
 加速して要塞宙域から脱出する二人を乗せた重爆撃機。
「本隊へ。『赤い翼は舞い降りた』繰り返す。『赤い翼は舞い降りた』以上」
 ジミーは音声信号による打電を送信した。

 打電はパトリシアにすぐさま報告されることとなった。
「カーグ少佐より入電。『赤い翼は舞い降りた』です」
「成功だわ」
「成功? どういうことですか、先輩」
「第十七艦隊のシンボルとなっている、旗艦サラマンダーのボディーに描かれた動物は何だったかしら」
「火の精霊サラマンダーです」
「その絵柄は?」
「ええと、赤い翼を持った……え? じゃあ、提督が……」
「その通り。提督が目標地点に無事到達したということ」
「じゃあ、じゃあ。提督が、あの要塞の潜入に成功したのですか?」
「あたりよ」
「信じられません」
「真実よ。でもね、本当の戦いはこれからよ。潜入に成功したとしても、脱出は不可能。無事作戦を果たすまではね」
「そうですね……」

第二十一章 了

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2021.04.28 12:44 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十一章 タルシエン要塞攻防戦 Ⅲ
2021.04.27

第二十一章 タルシエン要塞攻防戦




 一方のサラマンダーの方でも驚いていた。
「歪曲場シールド?」
 その技術は、戦艦百二十隻分のテクノロジーだった。
 あのPー300VX特殊哨戒艇にも搭載されている究極のシステムだ。
 アレックスが性能追加させたものだろうが、パトリシアは聞かされていなかった。
 その時、スクリーンに映像音声が流れた。
『やあ! 驚いたかな?』
 フリード・ケースンだった。
「記録映像です! 次元誘導ミサイルが発射されると、自動的に再生されるようになっていたようです」
 スクリーンのフリードが語る。
『虎の子の貴重な次元誘導ミサイルだからね。撃ち落されないように、歪曲場シールドを追加搭載してある。提督の指示だ』
 やっぱりね……。
 パトリシアが頷く。
 フリードは歪曲場シールドの開発設計者である。ミサイルに追加搭載することなど造作もないことであろう。
『ただし、シールド領域を粒子ビームのエネルギー帯域のみに合わせてあるために、レーザーキャノン砲やプラズマ砲には効果がないし、魚雷などの物理的破壊兵器には対応していない。まあ、その分安上がりで、戦艦五十隻分で済んでいる』
 フリードの解説が続いている。
 おそらく性能諸元を秘密にしていたために、それを知らしめるために記録映像を残していたのであろう。
『ゆえに、そこのところを良く理解して、二発目も間違いなく発射成功させてくれ』
『そうですよ。あ・れ・に乗っていく僕の身になってちゃんとやってくださいね。二発目が大事なんですからね』
 突然、横からレイティーが顔を出した。
『こら、邪魔だぞ』
『先輩、いいじゃないですか。僕にも言わせてくださいよ』
『俺がちゃんと説明するよ』
『自分はあそこに行かないからって、こっちの身にもなってください』
『あ、こら!』
 突然、映像が消えて音声だけになった。
 何やらどたばた騒ぎが聞こえてくる。
 どうやらマイクの奪い合いをしているようだった。
 苦笑するパトリシア。その成り行きを聞いているオペレーター達も笑っている。
『パトリシアさん。お願いですよ。ちゃんと成功させてくださいね』
 というところで、音声も消えてしまった。
「記録映像終了しました」
 唖然とした雰囲気が艦橋内に漂っていた。
「とにかく……。予定通りに、タルシエン要塞に降伏勧告を打診しましょう」

 要塞内。
 大型ミサイルによって破壊、炎上するレクレーション施設の消火が行われていた。
「早く、火を消すんだ!」
 突然飛び込んできた大型ミサイルによる内部爆発と言う前代未聞の出来事に、要塞内は混乱をきたしていた。
 中央コントロールは騒然となっていた。
「第一宇宙国際通信波帯に受電!」
 第一宇宙国際通信波帯は、降伏勧告や受諾をする時の、国際的に取り決められた通信波帯である。
「敵隊より投降を呼び掛けてきております。さもなくば次元誘導ミサイルを持って要塞内部から破壊するとのことです」
「次元誘導ミサイルだと? なんだそれは」
「只今、同盟軍兵器データを検索中です」
「敵は、次ぎなる目標として動力炉、メインコンピューター、通信統制室などを予告しています」
「馬鹿な!」
「兵器データ出ました」
「スクリーンに出せ」
「スクリーンに出します」
 スクリーンに次元誘導ミサイルの概要説明図が映しだされた。
 同盟軍の兵器データを閲覧できること自体が不思議ではあるが、おそらくアレックスが敢えて敵軍に漏洩させたと考えるのが妥当であろう。
「ワープ射程は、最少一・二宇宙キロから最大三十六光秒の間」
「やはり先ほどのミサイルが、次元誘導ミサイルのようです。情報部よりの報告によれば、次元誘導ミサイルの開発には膨大な予算がかかるため、試作機が数基製作されただけで、棚上げになったままということになっています」
「うーん、どうかな……。相手はやり手のランドールのこと。誰もが欲しがる攻撃空母を手放して、駆逐艦や巡洋艦主体の高速遊撃部隊を編成したり、戦艦百二十隻分の予算がかかる高性能哨戒艇を多数配備したりしているからな。この日のために、戦艦を削ってでも製作させていたとも考えられる」
「開発責任者の技術将校フリード・ケイスン少佐がランドールの第十七艦隊に技術主任として配属されていることを考えますと有り得ない話しではありませんね」
「次元誘導ミサイルの性能からすれば、十基もあれば十分要塞の機能を破壊できます」
「ワープして内部から破壊されては守備艦隊も堅固な要塞もまったく無意味というわけか」
「反物質転換炉や貯蔵システムに一発食らったらひとたまりもありませんね。解き放たれた反物質による対消滅エネルギーで木っ端微塵です。もっとも敵の目的が要塞の奪取である以上、攻撃目標から外すのは当然でしょうが」
 要塞には防衛の要として、陽子・反陽子対消滅エネルギー砲{通称・ダイバリオン粒子砲}という究極の主力兵器が搭載されており、反物質転換炉と貯蔵システムはその一部構成施設である。反物質が反応しないようにレーザーによる光子圧力によって宙に浮かした状態で密封保存されている。また緊急時には、レーザー出力を切ることによって、解放された反物質による要塞の自爆も可能である。
「敵が再度、投降を呼び掛けています」
「馬鹿が。投降などできるわけがないじゃないか。『タルシエンの橋』の出口を守るこの要塞を奪われれば、同盟への足掛かりを失うばかりか、同盟に逆侵攻の機会を与えることになる」
「投降するよりも要塞を破壊してしまったほうがいいということですね」
「そうだ」
「どうなされますか?」
「無論、投降などできるわけがない。守備艦隊を前進させろ! 敵艦隊と要塞の間に壁を作って次元誘導ミサイルとやらを発射できないようにしつつ、撃滅するのだ」


 サラマンダー艦橋。
「敵守備艦隊が迫ってきます」
 オペレーターの報告を受けてすぐさま指令を出すパトリシア。
「艦隊を後退させてください。これ以上の接近を許してはなりません」
「後退だ。後退しつつ砲火を正面の戦艦に集中させろ。ミサイル巡洋艦を一端後方へ下げるのだ」
 カインズもすぐに応えて、的確な命令を下していた。
「次元誘導ミサイルを撃たせないつもりですね」
 パティーが感想を述べている。
「当然だろ。いくら次元誘導ミサイルとて、加速距離が必要だ。間合いを詰めて発射できないようにするさ」

「敵艦隊、後退します」
「ぬうう……。間合いをとって是が非でもワープミサイルを撃つつもりだな」
 フレージャー提督の元にも次元誘導ミサイルの情報が伝えられていた。
「いかがいたしますか。ワープミサイルを発射しないでも、原子レーザービーム砲という長射程・高出力兵器のある分、敵の方が幾分有利です。指揮官の搭乗している艦を狙い撃ちされたら指揮系統が混乱します」
「サラマンダー型戦艦か……ん? 一隻足りない。確かサラマンダー型は五隻のはずだったな」
「はい、五隻です。サラマンダー型はすべて旗艦ないし準旗艦ですので、別働隊として動いている可能性があります」
「どうしますか。このまま前進を続ければ、要塞は丸裸同然になってしまいますが」
「かまわん。別働隊がいたとしても数が知れている。要塞自体の防御力で十分防げる」
「もし別働隊にもワープミサイルが配備されていたら?」
「いや。敵のこれまでの動きからしてそれはないだろう」
「だといいんですが。それにしてもこのまま、一進一退を続けていてはこちらに不利です」
「わかっている。間合いを詰めるぞ、全艦全速前進」

 その状況はすぐさまサラマンダー艦橋に伝わる。
「敵艦隊、さらに前進。近づいてきます」
「間合いを詰めさせるな。加速後進!」
 その間にも時刻を測りながら、次ぎの行動を見極めているパトリシア。
「敵要塞からの降伏勧告受諾はありませんか?」
「ありません。完全に無視されています」
「致し方ありませんね。次元誘導ミサイル二号機の準備を」
「了解した」
 その時だった。
 要塞と守備艦隊との中間点に、第十一攻撃空母部隊が出現したのだ。
「フランドル少佐より入電しました」
「繋いでください」
 正面のスクリーンにジェシカが現れた。
『待たせたわね。手はずのほうは?』
「作戦は予定通りに進行中です。次元誘導ミサイル一号機発射完了。敵要塞内で爆発したもようです」
『降伏勧告は?』
「応答なしです」
『でしょうね。おっと、時間だわ。また後でね』
 通信が途絶えた。
 空母艦隊から艦載機が一斉に発進を開始していた。

 あの中にアレックスがいるのね……。

 カラカス基地の時もそうだった。
 司令官自らが進んで戦いの渦中に飛び込んで行く。
 決して他人任せにせず、部下と生死を共にして戦う。
 部下の命を最優先に考える思いが、部下をして命懸けの戦いにも逃げ出さずに、司令官に付き従うという信頼関係を築き上げてきたのである。
 八個艦隊の襲来にもあわてず騒がず沈着冷静に行動し、部下の動揺を鎮めることを忘れなかった。
 逃げるときは徹底的に逃げ、戦うときは徹底的に戦ってこれを壊滅に追い込む。
 他の司令官には真似のできないことだろう。ゴードンやカインズとて同じだ。
「ハリソン編隊、攻撃を開始しました」
 ついに別働隊による総攻撃が開始された。
「赤い翼の舞い降りらん事を祈ります」
 パトリシアは、心の中で祈った。

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2021.04.27 12:41 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十一章 タルシエン要塞攻防戦 Ⅱ
2021.04.26

第二十一章 タルシエン要塞攻防戦




 その一時間前のサラマンダーでは、ウィンザー少佐が作戦始動を発した。
「大佐、時間になりました。艦隊を前進させてください」
「わかった。パティー、全艦微速前進だ」
「はい。全艦微速前進!」
 ゆっくりと前進を開始する第十七艦隊。
「本隊の目的はわざと敵に位置を知らしめすことで、別働隊の動きを隠蔽することです」
 時折、時刻を確認しているパトリシア。
 寸秒刻みでの綿密なる計画が動き出したのだ。一秒たりとも時間を間違えてはならなかった。
「ミサイル巡洋艦を前に出しましょう。ミサイルによる遠距離攻撃を行います。位置に着いたら全艦発射準備」
「了解」
 オペレーターが指令を伝達すると、ゆっくりとミサイル巡航艦が前面に移動を始めた。
 艦隊の再配置が完了した頃、敵艦隊が動き出したとの報が入った。
 正面スクリーンに投影された要塞を背景にして、敵第十七機動部隊が向かってくる。
「誘いの隙に乗ってきました」
 フランソワが嬉しそうに言った。
「輸送艦ノースカロライナとサザンクロスに伝達。ハッチを解放し、係留を解いて積み荷を降ろしてください」
 サラマンダーの両翼に並走していた二隻の輸送艦からゆっくりと積み荷が降ろされていく。それは駆逐艦なみの大きさをもつ次元誘導ミサイルだった。チェスター大佐が大事に護衛してきた代物。
 アレックスが少佐となり、独立遊撃部隊の司令官に任命された時、フリードに開発生産を依頼していた、本作戦の成功の鍵を握る秘密兵器。

 極超短距離ワープミサイルだった。

 戦艦三十隻分ものテクノロジーの詰まった、一飛び一光年を飛ぶことのできる戦艦で、ほんの数メートル先にワープするという芸当のできる究極のミサイルだ。
「別働隊から連絡はありませんか?」
「ありません」
「そう……では、作戦は予定通り進行しているということ」
 作戦指揮を任されているパトリシア少佐が進言した。
「大佐。次元誘導ミサイル一号機、発射準備です。反物質転換炉や核融合炉などの重要施設は攻撃目標からはずします」
「わかった。ノースカロライナに伝達。次元誘導ミサイル一号機、発射準備」
「次元誘導ミサイル一号機、目標は要塞上部、レクレーション施設」
 艦橋正面のパネルスクリーンに、ノースカロライナの下部ハッチから懸架された、次元誘導ミサイルが大写しされ、表示された各種のデータが目まぐるしく変化している。戦艦三十隻分のテクノロジーが満載された超大型次元誘導ミサイルだ。要塞攻略の成否の鍵を握る貴重な一発である、発射ミスは許されない。
 そして攻撃目標を正確に表示する要塞詳細図面は、連邦の軍事機密をハッカーして得られたものである。要塞のシステムコンピューターは、完全独立してアクセス不能ではあるが、要塞を造成した連邦軍事工場のコンピューターに残っていたというわけである。
 もちろんそれを手に入れたのは、ジュビロ・カービンに他ならない。
「次元誘導ミサイルの最終ロックを解きます」
「慣性誘導装置作動確認。燃料系統異常なし。極超短距離ワープドライブ航法装置へデータ入力」
「攻撃目標、ベクトル座標(α456・β32・γ167)、距離百十三万二千三百五キロメートル」
「発射カウントダウンを六十秒にセット。三十秒前までは五秒ごとにカウント。その後は一秒カウント」
「了解。カウントを六十秒にセットしました。三十秒前まで五秒カウント、その後は一秒カウント」
「ミサイル巡航艦に伝達。次元誘導ミサイル発射十秒前に、全艦ミサイル一斉発射」
「ミサイル巡航艦、全艦発射体制に入りました」
「よし、カウントダウン開始」
「カウントダウン開始します。六十秒前」
「五十五秒前、五十秒前……」
「次元ミサイル、ロケットブースター燃料バルブ解放」
「三十秒前、二十九……二十」
「次元誘導ミサイル、燃料加圧ポンプ正常に作動中」
「十九、十八……十」
「巡航艦、全艦ミサイル発射」
 先行するミサイル巡航艦隊から一斉発射されるミサイル群。
「次元誘導ミサイル、最終セーフティロック解除。発射準備完了」
「九・八・七・六・五・四・三・二・一」
「次元誘導ミサイル、発射!」
 すさまじい勢いで後方に噴射ガスを吐き出しながら、ゆっくりと加速を始める次元誘導ミサイル。
「ロケットブースター正常に燃焼・加速中」
 加速を続けながら要塞に向って突き進んでいる。
「敵艦隊、さらに接近!」
「後退します。敵艦隊との間合いを保ってください」
「全艦、後退しろ!」
 カインズの下令に応じて、ゆっくりと後退をはじめる艦隊。
「それにしても、弾頭は通常弾ですよね。核融合弾を搭載すれば一発で要塞を破壊できるのに。せっかくの次元誘導ミサイルなのに……何かもったいない気がします」
「要塞を破壊するのが目的ではありませんから。破壊は許されていません」
「判ってはいますけどね」


 敵艦隊旗艦艦橋。
「敵艦隊、ミサイルを発射しました」
 フレージャー提督が即座に呼応する。
「迎撃ミサイル発射!」
 一斉に放たれる迎撃ミサイル群。
「ミサイルの後方に高熱源体! 大型ミサイルです。それも駆逐艦並みの超大型!」
 急速接近するミサイルの後方から大型ミサイルが向ってくる。
「迎撃しろ! 粒子ビーム砲!」
 ミサイルでは迎撃できないと判断したフレージャーは、破壊力のある粒子ビーム砲照射を命じた。超大型ならば当然の処置である。
 艦隊から一斉に大型ミサイルに向って照射される粒子ビーム砲。
 しかしビームはミサイルの前方で捻じ曲げられてかすりもしなかった。
「歪曲場シールドか!」
「まさか! 歪曲場シールドはまだ実験段階です」
「それを完成させているんだよ。敵は!」
 次ぎの瞬間、ミサイルが消えた。
「ミサイルが消えました!」
「なんだと! どういうことだ?」

 タルシエン要塞の中央コントロール室側でも驚きの声を上げていた。
「ミサイルが消えました!」
「なんだと!」
 その途端、爆発音が轟き激しく揺れた。
 立っていた者は、その衝撃で吹き飛ばされるように壁や計器類に衝突し、床に倒れた。
「どうした。何が起きた?」
 倒れていた床からゆっくりと立ち上がりながら尋ねる司令。
 しかし、それに明確に答えられるものはいなかった。
「ただ今、調査中です!」
「要塞内で爆発!」
「レクレーション施設です!」
「火災発生! 消火班を急行させます」
「どういうことなのだ」
「おそらく先程消失したと思われたミサイルがワープして来たものと思われます」
「なに! こんな至近距離をワープできるのか」
「間違いありません。ミサイルは守備艦隊の目前でワープして、要塞内に再出現しました」
 二点間を瞬時に移動できるワープエンジンだが、一光年飛べる性能はあるものの、視認できるほどの至近距離へのワープは不可能とされていた。
 物体には慣性というものが働くことは誰でも知っている。動いているものは動き続けようとするし、止まっているものは止まり続けようとする。前者は機関が静止しようとする時の制動距離となって現れるし、後者は静止摩擦という力となっている。
 早い話が、ジャンボジェット機で滑走路の端から全速力で飛び立ち、すぐさま滑走路のもう片端に着陸静止することは不可能ということである。おそらくオーバーランしてしまうだろう

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2021.04.26 08:51 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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