銀河戦記/脈動編 第十章・漁夫の利 Ⅵ
2022.07.30

第十章・漁夫の利





 精神感応(テレパス)=族長ドミトリー・シェコチヒン
 念動力(サイコキネシス)=ローベルト・ポルーニン
 遠隔念動力(テレキネシス)=チムール・オサトチフ
 瞬間移動(テレポート)=エヴゲニー・ドラガノフ

 サラマンダー指揮官=ウォーレス・トゥイガー少佐


「敵艦が降伏しました」
「エンジン停止を確認しました」
「うむ、敵艦の艦橋に乗り移るぞ。ドラガノフ頼む」
 シェコチヒンが、立ち上がって精神増幅装置に繋がるヘッドギアを外して立ち上がった。
 どうやら、エヴゲニー・ドラガノフのテレポート能力で、直接敵艦に乗り込もうということらしい。
「了解」
 ドラガノフも同様に、精神増幅装置のヘッドギアを外して立ち上がって、シェコチヒンの側に寄る。
「いいですか?」
「あ、ちょっと待て。オサトチフ、俺達の周りにバリアーを張っておいてくれ」
 遠隔念動力を持つ、チムール・オサトチフにサイコフィールドを自身に要請した。
「分かりました」
 オサトチフが念ずると、二人の身体がオーラに包まれた。
「よし、いつでもいいぞ」
「では」
 と言うと、ドラガノフはシェコチヒンの肩に触る。
 次の瞬間、二人の姿が消えた。


 そして彼らが再び姿を現わしたのは、敵艦であるサラマンダー艦橋の中だった。
 突然として出現した二人に、驚きを現わす艦橋要員だった。
 SP要員が銃を構えるが、トゥイガー少佐がそれを制した。
 仮に発砲してもバリアーで跳ね返されるだけだったろう。
 前に歩み出て尋ねる。
「私は、このサラマンダーの指揮官、ウォーレス・トゥイガー少佐です。あなた方は?」
 と、冷静に出自を尋ねる。
『私は、ミュータント族と呼ばれる者だ。族長ドミトリー・シェコチヒン』
 それは言葉ではなかった。
 思念波(テレパシー)として、人々の脳裏に直接語り掛けられていた。
 ゆえに言語という概念を通り越して、通訳なしに意思疎通が可能であったのだ。
『この艦は、我々の支配下に入ったことを宣言する。以降は、我々の指示に従う事。反抗しなければ、命の保障をしよう』
「了解している」
 素直に返答しているトゥイガー少佐。
『正直に言おう。この艦のエネルギー砲やエンジンなどに興味がある。よって、それらの担当部署の配属要員は、我らに協力することを望む』
 それを聞いてトゥイガー少佐は意見具申を述べた。
「ということは、戦闘要員以外は解放されるのでしょうか?」
『そうだな。解放してもよいぞ』
「ありがとうございます。この艦は、円盤部が居住区となっており、切り離しができます。非戦闘員だけを乗せて退避させたいと思います」
『その円盤部を切り離して、戦闘に支障は出ないのか?』
「支障はありません。戦闘においては、円盤部がない方が、戦闘力は倍増します」
『それなら構わない……』
 と答えたところで、何やら考え事をしているような表情をするシェコチヒン。
『今、連絡があった。クラスノダールにいた君たちの艦隊が、銀河人の攻撃を受け、基地を放棄して撤退をはじめたそうだ』
「銀河人というと、アルデラン共和国がですか?」
『そうだ。せっかく基地を奪取したのにあっさりとな』
「いえ、そういう指示を出していましたから」
『うむ……どうだろう。クラスノダールの奪還を我々と一緒にやらないか?』
 意外な提案を出したシェコチヒンの言葉に驚愕する艦橋要員。
「共闘しようというのですか? これまでにも三度交戦してきた相手と?」
『精神交流していいか?』
「交流ですか?」
『君の脳裏の深層意識にダイブして、君達の国家や民族の歴史などの情報を直接引き出す』
「できるのですか?」
『私はテレパスだ。容易いことだが、君と接触するのを許可して欲しい』
 接触と言われて何をされるのかと疑心暗鬼なトゥイガー少佐だったが、場にいるものすべてを納得させるだけの風格を滲ませていた。
「いいでしょう。どうぞ」
『分かった』
 シェコチヒンはトゥイガーのすぐ傍に歩み寄ると、その両手を取って額同士を接触させた。
『じっとしていてくれ。今から、君の深層意識に侵入する。邪念が入らないように目を閉じていてくれ』
 何をされるのかと硬直するトゥイガーだったが、言われた通りに目を閉じた。
 周囲の者も息を飲んで見守っている。

 静かな時間が過ぎ去った。
 ゆっくりとトゥイガーから離れるシェコチヒン。
『もういいぞ、終了した』
 緊張を解くトゥイガー。
「何か分かりましたか?」
『ああ、君達のすべてを理解した。どうやら信用していいようだな。君達の国家が永年の戦争から銀河統一に至るすべてを読ませて貰ったよ』
「恐れ入ります」
 深層意識へのダイブによって、トゥイガー達の国家についての情報、さらには天の川銀河における銀河連邦国家の片鱗さえも読み解いたのだった。



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銀河戦記/脈動編 第十章・漁夫の利 V
2022.07.23

第十章・漁夫の利





 司令官  =ウォーレス・トゥイガー少佐
 副官   =ジェレミー・ジョンソン准尉
 艦長   =マイケル・ヤンセンス大尉
 レーダー手=フローラ・ジャコメッリ少尉
 通信士  =モニカ・ルディーン少尉

 副司令官 =ダグラス・ニックス大尉
 副官   =ジェイク・コーベット准尉


 惑星クラスノダールがアルビオン共和国艦隊によって奪われた報は、すぐさまサラマンダーのトゥイガー少佐の元へと届けられた。
 おりしも開拓移民船との合流を果たした時だった。
「戦艦セント・ビンセント号が多少の損傷を受けたようですが、全艦無事に撤退を完了したようです」
「ニックス大尉は、判断を間違えなかったようだ」
「味方艦隊と合流できるのは八時間後の予定です」

「奴らは、『クラスノダールは元々自分らの惑星だから返してくれ』とかいう言動を見せていましたね。サラマンダー以下の三隻が離脱して戦力が少なくなったのを見て、実力行使にでたようです。弱みを見せれば寝首を掻く、油断ならぬ国家ですな」
「ともかく、彼らは明確に敵対行動を示したということだ。今後は遠慮なく戦闘行為を行える。で、本国はどう言っているか?」
「開拓移民船も向かっていることだし、奪還せよということです」
「まあ、そう言うだろうな」


「三時の方向に感あり! 接近する物体あり!」
 レーダー手のジャコメッリ少尉が、緊張した声で警告した。
「未確認艦です。高速で接近中!」
「警報発令!」
 すかさず艦長のヤンセンス大尉が下令した。
 警報が鳴り響き、艦内を持ち場へと走り回る乗員達。
「どこの艦艇だ?」
「識別信号確認できず。味方艦ではありません」
「アルビオン軍は、しばらくクラスノダールから動かないだろう……となるとミュー族艦隊か?」
「たぶんそうでしょうね」
「一応相手方と連絡を取ってみてくれ」
 通信士のモニカ・ルディーン少尉が、通信を試みるが、
「応答ありません」
「相変わらずだな」
 さらに接近を続ける敵艦隊。
「敵艦隊射程距離に入りました」
「よし、撃て!」
 一条の軌跡を引いて、原子レーザーのエネルギーが敵艦に襲い掛かる。
 かと思われた時、敵艦の姿が消え去った。
 光の帯は虚しく深淵の漆黒の彼方へと見えなくなった。
「敵艦、直前にワープしたもよう」
「これは、まさか!」
 ジョンソン副官が叫ぶと同時に、艦体が激しく震動した。
 立っていた者のほとんどが床に倒れていた。
「何が起こった?」
 軽い脳震盪を起こしたのか、頭を押さえながらゆっくりと起き上がるジョンソン准尉。
「後方七時の方向に、敵艦出現!」
 背後を取られて動揺するオペレーター達。
 敵艦は、容赦なくサラマンダーの砲塔めがけて攻撃を加え始めた。
「迎撃せよ! 砲塔旋回!」
 正面を向いていた副砲の砲台が、敵艦を捕えようと旋回する。
「敵艦捕捉!」
「撃ちまくれ!」
 艦長の号令とともに反撃を開始する。
 攻撃可能な砲塔から、一糸乱れぬ攻撃が続く。
 しかし、敵艦に当たる前に消えてしまったのだ。
「敵艦、消失!」
「警戒を怠るな。また、どこかに出現するぞ!」
 その言葉通りに
「こ、これはランドール戦法?」
「いや違うな。ワープして敵艦に接近し、後は艦隊ドッグファイトで戦うのがランドール戦法だ。しかし奴らは、頻繁にワープを繰り返して位置を変えて攻撃してくる」
「頻繁にワープを繰り返すなんて不可能ですよ」
「それが奴らにはできるようだ」
 ランドール戦法もどきにワープを繰り返し、縦横無尽に動き回る敵艦に対して成す術もないサラマンダーだった。

「ミュー族は、このサラマンダーだけに攻撃を集中しています」
「奴らの目的は、この艦のようだな」
「しかし副砲や舷側の機関砲しか狙ってきません。機関部にも攻撃はありません」
「狙いは原子レーザー砲か?」
「火力も射程距離も、奴らの兵器に比べればけた違いですからね」
「奴らの目的が、この艦の鹵獲と分かった以上、乗員の生命までは奪わないだろう。艦を動かすにも、兵器を作動させるにも、熟知した乗員が必要だからな」
「つまり我々は、捕虜になるということですか?」
「仕方あるまい。これ以上無駄に戦って、人的被害をだすこともない」
「ランドール提督も、極力戦傷者を出さないように苦慮していましたね」
「奴らの目的はこのサラマンダーだけだ。そうとなったら、我が艦以外は戦線を離脱して、本隊との合流を急げ!」
 開拓移民船を含むサラマンダー以外の艦艇が離れてゆく。
 敵艦隊は、それを追いかけることもなくサラマンダー周辺から動かない。
「エンジン停止、投降の意思表示を」
 機関停止して、動きを止めるサラマンダー。

 降伏を確認したミュー族も戦闘停止して、サラマンダーを取り囲んだ。
「敵艦より入電しました」
 早速クリスティンが内容を翻訳して伝える。
「『我に着いてこい』と言っています」
「了解した。と返信してくれ」



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銀河戦記/脈動編 第十章・漁夫の利 Ⅳ
2022.07.16

第十章・漁夫の利





軽巡洋艦スヴェトラーナ

 精神感応(テレパス)=隊長ドミトリー・シェコチヒン(♂)
 遠隔視(リモートビューイング)=ニーナ・ペトリーシェヴァ(♀)
 念動力(サイコキネシス)=ローベルト・ポルーニン(♂)
 遠隔念動力(テレキネシス)=チムール・オサトチフ(♂)
 瞬間移動(テレポート)=エヴゲニー・ドラガノフ(♂)
 催眠効果(ヒュプノシス)=ナターリヤ・グルカロヴァ(♀)
 予知能力(プレコグニション)=ヴァレンチナ・グロムイコ(♀)
 精神治癒(サイコセラピー)=アンナ・ネムツォヴァ(♀)
 電算操作(ロジック・マスター)=ヴァレリヤン・ロバーノフ(♂)


 宇宙を航行するミュー族ESP艦隊の旗艦、軽巡洋艦スヴェトラーナの艦橋。
「銀河人が天の川人と接触したようです」
『ほう……。両国が共闘して我々と交えようという魂胆か?』
 と答えるミュー族の族長ドミトリー・シェコチヒン。
 彼は、目が見えず耳も聞こえない、そして話すことも出来ない障碍者だった。
 しかし、それがゆえにというか、それを補うように精神感応という能力を会得していた。
 人の心を読むというテレパス能力で、相手の脳に直接語り掛けるようにして会話をすることができる。
「通信傍受していたところ、天の川人の三隻が離脱してどこかへ向かったとのことです」
『軍事機密漏洩するような相手じゃなさそうだが』
「それが、銀河人の方から暗号化されていない通信が発せられたのです」
『どういうことだ? まさか……我々に傍受させようとしたのか?』
「もしかしたら、我々と天の川人を戦わせようというのでは?」
『そして双方が疲弊したところを、漁夫の利よろしく横から搔っ攫う(かっさらう)つもりなのかもな。離脱した艦はどいつだ? 例の艦なら好都合なのだが』
「どうやらそいつみたいですよ」
『ふむ……』
 しばし考え込んでいた隊長ドミトリー・シェコチヒンだったが、
『よし、そいつの後を追うぞ! ロバーノフ頼む』
 精神エネルギーを電気エネルギーに変換したのち、コンピューターを自在に操ることのできる『ロジック・マスター』の能力を持つヴァレリアン・ロバーノフに命令するシェコチヒン。
「了解」
 ロバーノフは目を閉じて精神統一する。
 機関室、誰もいないのに自動的にエンジンが始動し、静かに艦が動き出す。
「微速前進!」
 さらに速度を上げてゆく旗艦スヴェトラーナと随伴の艦隊。
「目標艦の推定移動コースを特定しました」
 予知能力を持つヴァレンチナ・グロムイコが予測コースを割り出した。
「コースの先に大型艦がいます。どうやら合流する模様です」
 遠隔透視能力で艦の位置を特定するニーナ・ペトリーシェヴァ。
『そうか、合流する前に敵を襲うぞ。亜空間ジャンプ用意!』
 ジャンプ制御装置にベクトル座標を入力するニーナ。
「ジャンプ到達点入力しました。いつでも行けます」
 ニーナの遠隔視で移動する位置を策定し、ローベルト・ポルーニン及びチムール・オサトチフの念動力を使って、艦をジャンプさせることができる。
『よろしい。ジャンプだ!』



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銀河戦記/脈動編 第十章・漁夫の利 Ⅲ
2022.07.07

第十章・漁夫の利




 司令   =ヴィルマー・ケルヒェンシュタイナー大佐
 副官   =ゲーアノート・ノメンゼン中尉
 艦長   =ランドルフ・ハーゲン上級大尉
 電探手  =ナターリエ・グレルマン少尉
 通信士  =アンナ・ケンプフェル少尉

 数時間前に遡る。
 アルビオン共和国軍旗艦、ヴァッペン・フォン・ハンブルク(戦列艦)の艦橋。
 レーダー手のグレルマン少尉がイオリス軍に動きがあったことを報告する。
「旗艦を含む主力艦三隻がクラスノダールから離れていきます」
「主力艦三隻だと? 通信士、相手方からの通信の傍受は?」
 司令官のヴィルマー・ケルヒェンシュタイナー大佐が尋ね返す。
「傍受はできていません。システムが違うのと、秘匿暗号通信回線とかを使用されると傍受できないのです」
 通信士のアンナ・ケンプフェル少尉が答える。
「そうか……」
「これは好機ではないでしょうか? 主力艦が三隻も抜けたので、戦力的にはこちらの方が上回っています。相手の火力が高くても、数で押し切れます」
「なるほど、やってみる価値はあるな。微速前進だ!」
 ゆっくりとクラスノダールに向かって動き出す共和国軍艦隊。
「こちらが動き出したのを相手方も気づきました。交信を求めています」
「無視だ! このまま接近する」
「奴らは友好的です。こちらが攻撃開始するまで、撃ってこないでしょう」
「そうあって欲しいがな」
 接近を続ける艦隊。
「まもなく射程距離に入ります」
「相手に気取られなく戦闘配備だ!」
 さらに近づいて、
「射程距離に入りました」
「戦闘配備完了しています」
「よし! 全艦砲撃開始だ!」
 艦首の三連主砲が火を噴き始めた。
 戦列艦であるがために、舷側に配置された砲門は使用できない。
 全速前進して、相手艦隊の中央に切り込めれば、全砲門が使用できるので有利な態勢に入れるはずだ。
 しかし相手艦隊は、射程内ギリギリの線を保ちつつ、防御に徹して後退を続けていた。
「まるで戦いを避けているように見えますが……。惑星を放棄するつもりでしょうか?」
「せっかく手に入れた惑星なのにか?」
「ミュー族を追い出しただけで、まだ惑星自体には手を入れていないから、放棄しても痛みは少ないと考えたのでしょう」

 相手艦隊はさらに後退を続け、惑星の重力圏から離脱しつつあった。
 共和国艦隊は、惑星軌道に入ったところで静止した。
「敵艦隊離れていきます」
「無理追いする必要はない。この惑星を確保することが先決だ」
 撤退してゆく艦隊には目もくれず、惑星の周囲に留まることを選んだケルヒェンシュタイナーだった。
 惑星の衛星軌道に集結し、地上の様子を探査する艦隊。
「ミュー族の基地は破壊されたようです」
「撤退した後のようだから、基地を敵に渡さないように自爆させたんだろうな」
「ブービートラップだったんでしょうかね。どうやら引っかからなかったようですが」
「敵が態勢を整えて戻ってくるかもしれない。しばらく様子を見るとしよう」
 相手艦隊が撤退した方角に対して、いつでも発砲できるように砲口を向けて待機する共和国艦隊だった。



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銀河戦記/脈動編 第十章・漁夫の利 Ⅱ
2022.07.02

第十章・漁夫の利





 司令官  =ウォーレス・トゥイガー少佐
 副官   =ジェレミー・ジョンソン准尉
 艦長   =マイケル・ヤンセンス大尉
 レーダー手=フェリシア・ヨハンソン

 副司令官 =ダグラス・ニックス大尉
 副官   =ジェイク・コーベット准尉


 前進基地クラスノダールに展開するサラマンダー艦隊。
 司令室でお茶を啜りながら、モニターに映されている惑星を見つめているトゥイガー少佐。
「本国より連絡がありました」
 副官のジェレミー・ジョンソン准尉が報告する。
「それで?」
『この惑星は、我々の前進基地として活用する。基地建設及び資源開発センターを建設する。艦隊は、当面の間基地の防衛に当たるべし』
「ということでした」
「まあ、そうなるだろうな」
「開拓移民船が一隻、こちらに回航されるそうです」
「護衛は付いているのだろうな?」
「付いてないみたいですね」
「馬鹿な! ここいらの制空権はまだ確保していないんだぞ。ミュー族とかが襲ってきたらどうする?」
 戦術において、補給路を断つことは常套手段である。惑星開拓に必要な設備と艦隊の補給物資を積んだ開拓移民船を襲撃することは十分ありうる。
「仕方がない、私が迎えに行くとしよう。サラマンダー発進準備だ」
 随行艦として、艦長ハーゲン・ネッツァー大尉の戦艦ビスマルク号、艦長ジェラール・プルヴェ大尉の装甲巡洋艦フィルギア号が共に出発した。
「敵艦隊が戻ってきたら、どうしたら良いですか?」
 居残りの艦隊を指揮する副指揮官、戦艦セント・ビンセント号艦長ダグラス・ニックス大尉が質問した。
「この惑星を死守する必要はない。やばいと思ったら、潔く撤退しても構わない」
「分かりました」

 クラスノダールを離れてゆくサラマンダー以下の三隻。
 それを見送りながら、惑星クラスノダール地表の探査を続けるニックス大尉。
 基地は爆破されたが、まだ破壊されずに残っている施設があるかも知れない。
 それを利用すれば、ゼロから建設するよりも工期はかなり短縮できる。
 地中レーダー探査機を使って、地中に埋まっている埋設物や空洞を調査する。
「使えそうな施設が結構残っていそうですよ」
 副官のジェイク・コーベット准尉が報告する。
「慌てて撤退したから、十分な爆薬を設置できなかったようだ」
「本格的調査にして人員を降ろしますか?」
「いや、敵さんが舞い戻ってくるのを警戒して、いつでも撤退できるように準備しておくのだ」
「なるほど……惑星を防衛するだけの戦力はないということですか」
「主戦力のサラマンダーがいないからな」
「ならば、全艦で移民船をお出迎えでもよかったのでは?」
「来るか来ないか分からないし、来れば戦力分析をしてから撤退して合流するし、来なければ良しでエネルギーを無駄にせずに済む」
「奪還は、サラマンダーの原子レーザー砲があれば容易いですものね」

「前方に感あり!」
 レーダー手のフェリシアが警告を出した。
「先ほどのアルビオン共和国軍の艦隊です」
「何しに戻ってきた?」
 疑心暗鬼の一同だった。
「警戒しろ! 通信回線を開け!」
「相手艦の応答ありません」
 無言のまま接近するアルビオン艦隊。

 そして射程距離内に入った時だった。
「撃ってきました!」
「迎撃せよ! 迎撃しつつ後退!」
 不意打ちを喰らっても、冷静に判断を下すニックス大尉。
 トゥイガー少佐の指示に従って、躊躇なく後退しはじめた。
「どうやらサラマンダーが離れたのを好機とみて、惑星を奪還するつもりだな」
「奴らは、我々が侵略して惑星を奪い取った! とかいう風な言い方をして返還要求してましたからね」
「再度の奪還はサラマンダーと合流してからでいいだろう」
 粛々として、惑星を放棄して撤退の道を選んだニックス大尉だった。



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