銀河戦記/鳴動編 第一部 第十七章 リンダの憂鬱 Ⅲ
2021.03.26

第十七章 リンダの憂鬱




 食事休憩中のパトリシアとフランソワ。
「お姉さま、お願いがあります」
「なに」
「お姉さまと同室になるようにしていただけませんか」
「あなたと同室?」
「はい」
 婚約者としてのパトリシアは、アレックスと同室の夫婦居住区に移ることもできたが、あえて一般士官用の部屋にそれぞれ入っていた。同室となれば欲情を制御できるわけがなく、妊娠に至ることは明白であった。少しでもアレックスのそばにいたいパトリシアとしても、まだ妊娠だけは避けたいと考えていたからである。
「あのね、ここは士官学校とは違うのよ。戦場なんだから」
「わかっておりますわ。あたしといっしょじゃ、おいやですか……」
 フランソワは泣きそうな顔をしている。
「わかったわよ、好きになさい」
「やったあ!」
「でも、部屋を仕切っているのは、主計科主任のレイチェルさんだから、あなたの方から依願しなさいね」
「はーい」

 というわけで、早速その日にうちに、レイチェルにパトリシアとの相部屋の申請書を提出して、乗り込んでくるフランソワであった。
 鏡台の前で髪をとかしているパトリシア。勤務開けで就寝前のネグリジェ姿である。
 一方待機状態にあるフランソワは、軍服姿のままベッドの上で寝そべって本を読んでいる。
「ところでお姉さま達、まだ結婚しないのですか?」
「どうして、そんなこと聞くの?」
 パトリシアは髪をとかす手を止めて反問した。
「ランドール先輩も将軍になったことだし、ここいらが好機じゃないかと思って。将軍が退役した場合の軍人恩給だって、夫婦二人が楽に食べていけるほど支給されるって噂だし、配偶者手当金も任官中の結婚期間によって加金されるのでしょう? 愛しあっているなら結婚したほうが、後々もお得じゃないですか」
「思い違いしてるわよ、フランソワ。婚約しているもの同士が婚姻した場合には、その婚約期間も自動的に婚姻期間に含まれることになっているのよ」
「え? そうだったんですか」
「同居して生活を共にしている婚約者も婚姻関係にあるとみなされて、ちゃんと年金だってでるんだから」
「知らなかった……」
「軍規では、夫婦は同室にされることになってるのよ。結婚していなければ他人の目があるし抑制も効くけど、結婚したらどうしても子供が欲しくなっちゃうじゃない。そのためには地上に降りて、別れて暮らさなければならないし。宇宙では子供は育てられないのよ」
「受精から子宮への着床、細胞分裂・脊椎形成には重力が必要だからでしょ。重力場のある艦橋勤務なら、何とか受胎は可能かも知れないけど、艦隊勤務のストレスで妊娠を維持することが非常に難しい、ほとんど不可能ということは聞くけど……」
「そういうこと」
「でも夫婦で一緒の職場勤務だったら、死ぬ時はいつでも一緒に死ねますね」
「だめよ、そんなこと言っちゃ。うちの艦隊のタブーなんだから」
「タブー?」
「戦いとは死ぬことに見つけたりなんて風潮は、うちの艦隊には間違ってもありえないことなの。提督のお考えは、生きるための戦いをしろですよ」

 アスレチックジムの更衣室で着替えている女性士官達。日課のトレーニングを終えたばかりである。その中にフランソワも混じっている。
「ねえ、フランソワ」
「なあに」
「あなた、士官学校でもパトリシア先輩と同室だったんでしょ」
「そうよ」
「だったら先輩達がどのくらいまでの関係か知っているんでしょ」
「え? そ、それは……」
「ねえねえ、教えてよ」
「だめよ。そんなことあたしがしゃべったなんて、お姉さまに知られたら絶好されちゃうもん」
「あ、その言い方。やっぱり知っているのね」
「し、知らないわよ」
「うそ、おっしゃい」
「いいかげんに白状なさい」
「だ、だめえ」
 同僚達から詰め寄られてしどろもどろになっているフランソワ。

 その時、突然警報が鳴り響いた。
 一斉に艦内放送に耳を傾ける一同。
『敵艦隊発見! 総員、戦闘配備に付け!』
 新艦長のリンダ・スカイラーク大尉の声だった。
『繰り返す。総員、戦闘配備に付け!』
「いきなり戦闘?」
 あわてて軍服を着込む隊員達。
「先に行くわよ」
 すでに軍服姿の者は、廊下へ飛び出していった。
「ま、待ってよ!」
 あたふたと軍服を着込んでいくフランソワ。
 そして着替え終えて廊下に出ると、急いでそれぞれの持ち場に向かっている隊員たちがいる。
 つい先ほどまでアスレチックジムでの汗をシャワーで流したばかりだというのに、すでに汗びっしょりになっていた。戦闘という緊張感が、心臓の鼓動を高め、汗腺からの汗の分泌を増やしていたのだ。
 ただ一人、遅れて自分の持ち場である艦橋へと急ぐフランソワ。
「もう、みんな冷たいんだから」

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2021.03.26 07:38 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十七章 リンダの憂鬱 Ⅱ
2021.03.25

第十七章 リンダの憂鬱




 バーナード星系連邦が大攻勢を仕掛けてくるという情報を得て、まずは側近の参謀達を招集して作戦会議の事前会議をはじめたアレックスだった。全参謀及び各部署の長が参加する作戦本部大会議となると百人近い人間が集まることとなり、意思疎通を諮るのは甚だ困難となる。ゆえにそのまえに近しい人間だけで事前に要旨をまとめておく必要があるわけである。これは模擬戦闘の当初から行われていたことで、ティールームなどで良く行われたのでお茶会会議とか、アレックス・ゴードン・ジェシカ・スザンナ・パトリシアという人数から五人委員会とも称されていた。その後に加わったカインズ中佐、ロイド中佐、チェスター大佐と、情報源の要であるレイチェルを含めて、現在は総勢九名の人員で開かれていた。ちなみに戦闘には直接に関与しない、事務方のコール大佐は含まれていない。この九人委員会の後に招集される少佐以上の士官約四十名を交えた作戦本会議となる。通常はここまでであるが、さらに必要とされたときには各部署の長を加えて作戦本部大会議が開催される。
「未確認情報だが、今回の侵攻作戦に投入されるのは、総勢八個艦隊もの艦隊が動くということだそうだ」
「しかし今になってどうしてこれだけの大艦隊を差し向けてくるのでしょうか?」
「そりゃあ、ランドール提督がついに将軍になったからよ」
「これ以上黙って手をこまねいていたら、さらなる昇進を果たして共和国同盟軍の中枢にまで入り込み、大艦隊を動かして逆侵攻をかけてくると判断したんでしょうね」
「タルシエン要塞を陥落させてね」
「そうそう。ランドール提督の次なる目標として、タルシエン要塞が挙げられるのは誰しもが考え付くことよね。要塞を攻略されれば、ブリッジの片端を押さえられることになり、共和国同盟への侵攻が不可能になる。だからそうなる以前に行動を起こしたのでしょう。……ですよね、提督」
「私の言いたいことを全部言ってくれたな。まあ、そんなところだろう」
 この九人委員会はアレックスを除いて男女均等四名ずついるのであるが、口達者なのはやはり女性の方である。自分の言いたいことまで、先に言われてしまうので、出番が少なくなるとぼやく事しかりのアレックスであった。
「このシャイニング基地は、攻略するのには五個艦隊を必要とするとよく言われていますが、正確なところどうなんでしょうか?」
「対空迎撃システムをまともに相手にしていればそうなる勘定となるらしいわね。しかし何も迎撃システム全部を相手にする必要はないじゃない。主要な軍港や迎撃システム管制棟とその周辺を破壊すればいいことなのだから。基地の裏側の方は放っておけばいいのよ。結局一個艦隊もあれば十分に攻略できるでしょう」
「なんだ。随分とさば読んでるんですね」
「そりゃそうよ。一個艦隊の守備力があるとされたカラカス基地だって、数百機程度の揚陸戦闘機で攻略できたじゃない。守備の弱点を突けば、ほんの一握りの部隊でも可能だということよ。……ですよね、提督」
「あのな……ジェシカ、私の言い分まで取り上げないでくれ」
「あら、ごめんなさい」
 謝ってはいるものの、どうせいつものごとく二・三分もすれば元通りだろう。
 何かに付けてアレックスの揚げ足を取ったり、皮肉ったりするジェシカだが、あえて忠告しようとする者はいない。航空母艦と艦載機の運用に掛けては共和国同盟では一二を争うと言われ、士官学校の戦術シュミレーションではその航空戦術の妙でアレックスを負かしたことさえある唯一の人物だからである。ゴードンやパトリシアですら一度もアレックスに勝ったことがないのだから、それはもう賞賛ものであるから遠慮してしまうのだ。

 ドアがノックされた。
 全員が音のしたドアの方に振り向く。
「入りたまえ」
 アレックスの許しを得て、ドアが開き一人の将校が入室してきた。
 普通会議中は入室制限が掛かるものだが、お茶会会議ではアレックスは気にしなかった。
「失礼します」
 その真新しい軍服を着込んだ姿を見れば今年の士官学校新卒者らしいことが一目で判る。
「あ……」
 その将校の顔を見て驚くパトリシア。
「こちらに伺っているときいて参りました」
 その将校は敬礼をして申告した。
「申告します。フランソワ・クレール少尉。ウィンザー少佐の副官として任命され、本日付けで着任いたしました」
「フランソワ!」
 彼女は、パトリシアの士官学校時代の後輩で同室のフランソワであった。
「お久しぶりです、お姉さま」
 表情を崩して、満面の笑顔になるフランソワ。
「あなたが、わたしの副官に?」
「はい、千載一隅の幸運でした」
 また再び一緒に仕事ができると喜び一杯といった表情である。
「頭がいたい……」
 逆に頭を抱えて暗い表情のパトリシア。
「あ、お姉さま。ひどーい」
「お、なんだ、フランソワじゃないか」
 ゴードンが親しげに話しかけてくる。
「あ、オニール先輩。お久しぶりです」
「ゴードンでいいよ。但し任務中でなければね」
「はい。判りました。ゴードンさん……ですよね」
「首席卒業だってねえ。頑張ったじゃないか」
「はい。後輩としてお姉さまの名前を汚したくありませんでしたから」
「うん。いい心がけだ。その調子でパトリシアに遅れを取らないように、これからの軍務にも張り切りなよ」
「はい! もちろんです」
 士官学校時代の懐かしい雰囲気に浸る者たちに、アレックスが本題に引き戻す。
「今は会議中だ。同窓会は後にしてくれ」
 公私をきっちりとするアレックスだった。これが待機中のことだったら、その会話の中に入っていたであろう。
「あ、すみませんでした」
 フランソワが、素直に謝る。
 他の者も、改めて姿勢を正して会議に集中する。

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2021.03.25 08:08 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十七章 リンダの憂鬱 Ⅰ
2021.03.24

第十七章 リンダの憂鬱




 士官学校の卒業の季節となった。
 各艦隊や、それぞれの艦艇にフレッシュな人材がやってくる。
 将兵たちの最近の話題は、そのことで持ちきりとなる。
 食堂の片隅に集まった下士官達が話し合っている。
「今年の最優秀卒業生は誰か聞いているか?」
「聞いてないなあ……」
「学業成績優秀で、なおかつ模擬戦闘で優勝した指揮官が最優秀になるのが普通らしいけどな」
「例外が一人いるだろう」
「ランドール提督だろ」
「ああ、ありゃ例外中の例外だ」
「学業成績はそうとうひどかったらしいな。落第寸前だったとかいう噂だ」
「何でも優勝指揮官は、官報に掲載されるということだが、その人物が落第となると笑い話にもならない。スペリニアン校舎の恥になるということで、成績上積み卒業で規定通りに二階級特進となったらしい。
「学校側としては苦渋の選択だったのだろうな」
「まったくだ」
「しかし、結果としてはそれが正解だったということになるな」
「共和国同盟の英雄になってしまったもんな。これが落第だったらどうなっていたか」
「そうだよな。落第者は上等兵からだかな。活躍の場を与えられずに、今なお弾薬運びとかの肉体労働の下働きに甘んじていたかもな」
「そして倉庫の片隅で闇賭博を主催して、みんなの給金を巻き上げているなんてね」
「大いにありうるな」
「まさか司令官が賭博を開くなんて出来ないからな。これはこれで良かったのかもしれないぜ」
「言えてる、言えてる!」
 あはは、と全員が一様に声を上げて笑い転げていた。

 サラマンダー司令官オフィス。
 アレックスに呼び出されたジェシカが出頭していた。
「……なんてこと、提督のことを肴にして盛り上がってますよ」
 食堂での会話に聞き耳を立てていたジェシカが、アレックスにご注進していた。
「なかなか図星を言い当てているじゃないか」
「闇賭博で給金泥棒ですか? まあ提督のことですから、あり得ない話ではなさそうですが、こんな噂で肴にされているなんて、もう少しピリッと将兵達を締めてかかったほうがいいんじゃないですか? 艦隊の総指揮官である提督を軽々しく噂の種にするなど問題だと思います」
「戒厳令でも発令しろと?」
「そこまでする必要はありませんが……」
「まあいいさ。肴にされるのも一興だよ。それより本題に入ろう」
「ああ……はい。判りました」
 改めて姿勢を正すジェシカ。
「サラマンダー艦長の次期艦長にリンダ・スカイラーク中尉をとの君の意見具申のことだ」
「スカイラーク中尉に関する報告書は読んで頂けましたか?」
「ああ、読ませてもらったよ。それに付随する副指揮官のリーナ・ロングフェル大尉の意見書も参考にさせてもらった」
「ありがとうございます」
「私は中尉とはそれほどの面識があるわけじゃないからな。率直なところどうなんだ? 旗艦の艦長としての能力は備わっているのか? リーナの意見書の方には多少甘ったれた性格があるとの記載もあるが」
「確かに性格的に甘いところもございますが、尻を引っ叩けばシャンと直りますよ」
「そうなのか? 何にせよ、彼女は航空母艦の艦長だ。高速戦艦の運用の方は大丈夫か?」
「提督それは野暮な質問と思いますが。航空母艦にしか乗艦したことがないからと、戦艦への転属を否定していては、いつまでたっても進歩がありません。あえて経験したことのない部署へ転属させることで、心機一転新たなる能力を開発する機会を与える。これは提督がいつもおっしゃられていることじゃないですか。スザンナ・ベンソン大尉を参謀の仲間入りをさせて、旗艦艦隊の次期司令官に抜擢されたのもその一環ではなかったのですか?」
「そうだったな……失言した。経験がないからと足踏みしていては進歩はない」
「まあ、旗艦の艦長という重任ですから慎重になられるのも理解できますがね。あえて進言させて頂きます」
「うむ」
「リンダ・スカイラーク中尉は、甘ったれた性格のせいか、その潜在能力の10%も引き出されていないと思います。その能力を開発できる環境に置いてあげるのも上官としての責務ではないでしょうか。スザンナの後任として旗艦艦長の任務に十分働ける素質をもっております」
「確かにその通りだな。いいだろう、採用させてもらうとしよう」
「ありがとうございます」
「それでセイレーン艦長の方の後任はもう決まっているのか?」
「はい。副艦長のロザンナを順当に昇進させます」
「そうか、判った。本題は以上で終わりだ」
 本題の内容が終わったところで、リラックスした姿勢に戻って話し始めた二人。かつての恋人同士だった間柄である。本題が終わったからといってすぐには別れたりしない。
「ところで先ほどの話に戻りますが、今期の最優秀成績で首席卒業したのは、フランソワらしいですよ」
「フランソワ?」
「はい。パトリシアの後輩ですよ」
「知っている。あのフランソワが首席とはねえ。リンダに輪を掛けたような甘ったれ娘だったな」
「そうですね。パトリシアのことを『お姉さま』と慕っていつもくっついていました」
「そうそう」
「パトリシアも少佐になったことですし、その副官に志願してくると思われます」
「あははは。あのコンビが復活というわけか」
「ええ。見ものですわよ」
「パトリシアはどう思っているのだろうか。知っているのか?」
「そりゃもう。一番にフランソワからの報告が入っているでしょうね」
「まあ、志願してくるものを追い返すこともないだろうし、フランソワの能力を十二分に引き出せるのはパトリシアを置いて他にいないだろう」

 それは、リンダがサラマンダー艦長に選ばれる前の二人の会話だった。

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2021.03.24 18:00 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十六章 サラマンダー新艦長誕生 Ⅶ
2021.03.23

第十六章 新艦長誕生




 それから数日後。
 リンダのサラマンダー艦長としての初搭乗の日がやってきた。
 その日は、リンダの大尉の任官式でもあった。
 サラマンダーの上級士官搭乗口には、寿退艦予定の副長のカーラ・ホフマン中尉以下主要な艦の責任者達が出迎えていた。
「ようこそリンダ・スカイラーク艦長。お待ち申しておりました」
 艦長と呼ばれて、改めて感慨深げになりつつも、就任の挨拶を交わすリンダ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 カーラが出迎えの要人達を紹介し始めた。
「紹介します。機関長のジェド・コナーズ上級曹長です」
「コナーズです」
「よろしく」
「航海長のエレナ・F・ソード先任上級上等曹長です」
「エレナです。よろしく」
「よろしく」
 以下次々と紹介が続いていく。
「それでは早速艦橋へ案内しましょう。みんなが待ってますよ」
「判りました」
 タラップを昇り艦内に入ってすぐに、乗艦受付所があった。
 そこで乗艦する士官達を管理しているデビッド・ムーア軍曹に申告する。
「リンダ・スカイラーク大尉。乗艦許可願います」
 そしてリンダの個人情報が記録されているIDカードを差し出す。
 それを受け取って端末に差し込み、個人情報を確認しているムーア。
 画面にリンダの写真画像と共に、チェックOKの文字が現れた。
「リンダ・スカイラーク大尉を確認しました。艦長殿、サラマンダーへようこそ」
 とカードを返しながら敬礼をした。
「ありがとう」

 艦橋に入った。
 一斉にオペレーター達が立ち上がって敬礼で出迎えてくれた。
「リンダ・スカイラーク艦長! ようこそいらっしゃいました」
「これから、よろしくお願いします」
 ここでもまた士官達の紹介が繰り広げられた。
 周知の通りに全員女性士官である。
 艦隊の総指揮を司るサラマンダーの艦橋は、今まで勤務していた軽空母セイレーンと大きく違うところがあった。
 その大きな違いは艦橋が二層構造になっていることだった。
 一個の戦艦としての操舵や艦の艤装兵器への戦闘指示を執り行う戦闘艦橋と、一段上の階層にあって、戦闘艦橋を見下ろす位置にある、ランドール提督が鎮座する艦隊運用のための戦術艦橋とに分かれていた。
 戦闘艦橋には、操舵手、艤装兵器運用担当、機関運用担当、レーダー哨戒担当、重力加速度計探知担当など直接の戦闘に関わるオペレーターがおり、戦術艦橋には多くの通信管制担当がひしめいており、他にパネルスクリーンなどの操作や戦術コンピューターなどの設定を行なう技術担当、そして各種参謀達の席がある。
「艦長の席はこちらです。わたしの隣の席になります」
 航海長のエレナが席を案内してくれた。
 艦長と航海長は何かと蜜に連絡を取り合う必要があるので席が隣同士になっているのだ。しかも戦術艦橋の一番前にある。
 そこは、旗艦艦隊司令としての修行をはじめた、前艦長スザンナ・ベンソン大尉の席だったところだ。
「今後ともよろしくお願いします」
「よろしくね」

 丁度そこへランドール提督がパトリシアと共に入室してきた。
 他のオペレーター達と共に立ち上がって敬礼するリンダ。
 目ざとくリンダを確認して話しかけるランドール提督。
「良く来たねリンダ。よろしく頼む」
「はい、期待に応えられるように頑張ります」
「うん。みんなも共にカバーし合って、より良い艦隊運用が行なえるようにしてくれたまえ」
「了解しました!」
 全員が一斉に答えた。
「いい声だな。早速だが任務だ」
「ええーっ! いきなりですかあ?」
 黄色い声が飛び交った。リンダの声も混じっている。
「こらこら。遊びじゃないんだぞ。リンダ、初の操艦だ。心の準備はいいな」
「は、はい。いつでも結構です」
「よし、それでは全員配置に付け」
 ランドール提督はやさしい口調ではあったが、何かしら重要な任務を帯びているらしいことに、オペレーター達は気づきはじめていた。
「これよりシャイニング基地に向かう。バーナード星系連邦の新情報を入手したからだ。連邦が総勢七個艦隊の大艦隊をもって、シャイニング基地及びクリーグ基地に向けて大攻勢をかけて来ることが判明したのだ」
 オペレーター達の表情が一瞬にして固まった。
「大攻勢って、それはいつの事ですか?」
「時期はまだ明らかにされていないが、急を要することは確実だ。速やかにシャイニング基地に戻って打開策を練らなければならない」
 淡々と答えるランドールであったが、事態は急転直下で進展していくことになった。
「全艦発進準備。シャイニング基地に向かえ」
 リンダにとっては着任早々の大仕事が待ち受けていた。

第十六章 了

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2021.03.23 07:22 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十六章 サラマンダー新艦長誕生 Ⅵ
2021.03.22

第十六章 新艦長誕生




 カラカス基地司令部にある、ランドール提督のオフィスを訪れるリンダとジェシカ。
 秘書官のサバンナ・ニクラウス中尉に出頭命令に応じて来訪したことを告げる。
「お待ちしておりました。少々お待ちください」
 インターフォンを取って中に居るランドールに連絡を入れるサバンナ。 
「リンダ・スカイラーク中尉がいらっしゃいました……。はい、判りました」
 受話器を置いてから言った。
「どうぞ。お入りください」
 正面のドアが開いた。
「リンダ・スカイラーク中尉。入ります」
 ドアをくぐって中に入るリンダ。
 正面の大きな机に威風堂々のランドール提督が腰掛けており、周りには見慣れた人物達が立ち並んでいた。少佐の制服も凛々しいパトリシアを筆頭にガデラ・カインズ中佐、ディープス・ロイド中佐、スザンナ・ベンソン艦長、そしてリーナ・ロングフェル大尉もいた。ゴードンはシャイニング基地方面で、哨戒作戦任務で出撃中である。
「リーナ!」
 まさか、やっぱり報告したの?
 と疑問が再び湧き上がる。
 しかし提督の表情はにこやかで、とても注意されるような雰囲気ではなかった。周囲の参謀達も和やかであった。
「リンダ。休息中のところ済まなかったね」
「い、いえ……」
「このやかましのジェシカの下で、セイレーンの艦長として日頃から激務をこなしてくれて感謝している」
「提督! そんな言い方しないでください。まるでわたしが苛めているみたいじゃないですか?」
 ジェシカが横から口を出した。
「違うのか? このリーナから日頃の君の様子を聞いているがね。何かにつけて苛めて遊んでいるそうじゃないか」
「リーナ! あなた、そんな事まで報告しているの?」
「わたしは副指揮官として、見たこと感じたことを正直に報告しているだけです」
 と淡々として答えるリーナ。
「違います。フランドル少佐は、艦長として甘えた態度があるわたしを、叱責し教育してくださっているのです」
「そ、そうですよ」
 冷や汗拭きながら弁解するジェシカ。
「まあいい。話を戻そう」
 とにこやかに答える提督。
「さて、日頃からの君の働きぶりについては、このリーナから報告を聞いているが……」
 あ、やっぱり報告していたんだ。
 いやだなあ……。
 そう思いつつもランドールの言葉に耳を傾ける。
「君にはセイレーン艦長としてこれまで任務についてもらったわけだが、そろそろ他の艦を指揮してみたいと思わないか?」
「他の艦に転属ですか?」
「そうだ。すでに大尉としての内定が下ったことは聞いているな」
「はい。伺っております。それに関しては、感謝しております」
「大尉となると、通常は主戦級の攻撃空母の艦長として指揮を任されることが多い。がしかし、君も知っての通りに、我が部隊には主戦級の攻撃空母は一隻も配備されていない」
「確かにその通りです」
「そこでだ。君には、第十七艦隊旗艦サラマンダーの艦長としての任務を与えたいと思うのだがどうかね?」
「サラマンダー!」
 衝撃だった。
 サラマンダーと言えば、共和国同盟にあっては最速最強の高速戦艦。連邦を震撼さ
せる代名詞として名だたる名鑑中の名鑑である。
「し、しかし……サラマンダーの艦長は、スザンナ・ベンソン大尉がいらっしゃいます」
「スザンナには艦長の任を降りてもらうことにした。本人にとっては、いつまでも艦長として腕を振るっていたかったろうが、後任にすべてを託しその成長を見守ることも大事だと説き伏せた」
「ではベンソン大尉は?」
「スザンナは先任上級大尉としてすでに少佐への昇進点に達している。いずれはディープス・ロイド中佐の後任として旗艦艦隊の司令官の任務を与えるつもりだ。ただ戦術士官ではないので現状では司令官にはなれない。そこでしばらくは中佐の下で副司令官の任務をこなし、戦術士官としての艦隊勤務教育を施す事にしている」
 司令官になる資格を有するには、高等士官学校において戦術専攻科の課程を卒業して任官されるか、このスザンナのように少佐昇進点に達した一般士官が、戦術士官としての艦隊勤務教育を一定期間受けた後に査問審査に合格した場合、そしてもう一つは名誉勲章を受けるほどの素晴らしい功績を挙げた場合の三種類があった。
 なお、戦術士官は胸に職能階級を示す徽章を付けているので、戦術士官と判別がつくようになっている。
「艦隊勤務教育ですか……」
 提督が、スザンナに類稀なる指揮統率能力を見出して、何かにつけて指揮官としての教育をしていたのはよく知られていることだ。それが正式採用されたわけである。
 しかも、旗艦艦隊司令に任命するのだという。これこそまさしく適材適所の好材料である。

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2021.03.22 12:13 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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