銀河戦記/鳴動編 第二部 第十七章 決闘 Ⅲ
2021.08.31
第十七章 決闘
Ⅲ
シルバーウィンド艦橋。
すれ違いを終えて、後方確認をしていた副長が驚いて言った。
「見ましたか? サラマンダーの形状が変わっていました」
「ああ、居住区の円盤部を切り離したようだな。かなりの損傷を与えたようだ」
「損傷部を切り離して軽量化を図ったのでしょう。速力がどれだけ上がったかが問題ですね」
「いや。速力よりも旋回半径の方が問題だ」
「ランドール戦法ですか? ですが、艦の全長が短くなると、艦の操縦性と安定性が悪くなるのではないですか? 拳銃でも銃身の長い方が命中率が上がるみたいな。それに円盤部は回転によるジャイロ効果で姿勢安定効果を与えていましたし……」
結論を出せないまま、オペレーターの声で中断した。
「所定の位置に付きました」
「コース反転せよ」
両艦、反転して戦闘態勢に入った。
「どうだ? 操縦性能は把握できたか」
「大丈夫です。操作性はヘルハウンドと同等と思っていいと思います」
「そうか。機関出力は倍近くあるが、慣らし運転をしていないエンジンだ。最大出力の九割ほどにセーブしていけよ」
「了解しました」
どういうことかというと、前方後円墳の状態では円盤部にあるメインエンジンで航行しており、前方部のロケットエンジン部は円盤部の中に格納されている状態だったのだ。いわゆる多段式打ち上げロケットを想像すれば分かる。
おそらく進宙式後のテスト航行ぐらいしか、前方部エンジンは起動していないだろう。
「格納式三連式レールガンを出せ!」
「了解。三連式レールガンを出します」
円盤部が接合されている時は、それが邪魔で使用不能だったのが、三連式電磁加速砲(レールガン)である。
艦体の後部より可動式砲塔が繰り出して、レールガンを展開させる。
「レールガン展開完了!」
「超伝導発電機より、レールガンへ電力供給開始!」
「敵艦へ照準合わせ!」
「合わせます」
砲塔が回って砲身が敵艦に向いていく。
「照準会いました」
「そのまま待て!」
レールガンは非常用なので、発射体の弾数が少ない。
適時的確に狙わなければ無駄撃ちになる。
「まもなく射程内に入ります」
シルバーウィンド艦橋。
スクリーンを指さして副長が尋ねる。
「あれは何でしょうか?」
サラマンダーの後部に今まで見たことがなかったものが映っていた。
「拡大投影してみろ」
クローズアップされる。
「あれは大砲か……? いや、レールガンだな」
「レールガン?」
「まずいな。レールガンにビームバリアーは無効だ」
「どうしますか?」
「敵艦の下へ潜れ! 急速にだ!」
レールガンは艦の上側に設置されており、下に逃げれば撃てないだろうと判断したようだ。
「上部ミサイル口開け!」
「敵艦、下に潜るようです」
「なるほど、そう来たか」
「レールガンの死角に逃げようとしています」
宇宙に上も下もないが、航行の都合上として銀河平面に対して左回転となる直交する方向を、習慣的に上としている。
「艦を百八十度ローリングさせる。急げ!」
相手が下に潜るなら、艦を回転させて対応するようだ。
ゆっくりとローリングを始めるサラマンダー。
重力のある惑星上でローリングすれば大変なことになるが、無重力空間では何でもない。
「ローリング終了しました」
回転が終了し、レールガンの射程には、ミサイル発射口が開いていた。
「撃て!」
アレックスの下令と同時に、弾体が発射口へ、さらにミサイル貯蔵庫へと飛び込んでゆく。
そしてミサイルが次々と誘爆を始めた。
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十七章 決闘 Ⅱ
2021.08.30
第十七章 決闘
Ⅱ
双方の転回が終了して向き合った。
一旦停止して、体制を整える両艦。
「戦闘配備せよ」
艦内に警報が鳴り響き、それぞれの配備場所へと急ぐ。
「総員配置に着きました」
「よし! 機関出力最大、全速前進!」
アレックスの下令を復唱するオペレーター。
「機関出力最大!」
「全速前進」
やがて前方視界を映すスクリーンに敵艦のシルバーウィンドが現れる。
「射程まで三十二秒です」
「安全装置解除」
さらに接近する両艦。
「射程内に入りました!」
「撃て!」
戦闘が始まるが、当然相手も撃ってくる。
粒子ビーム砲が炸裂するが、バリアーがそれを防ぐが、僅かにビームが貫通して艦に損傷を与えた。
「損傷軽微です。戦闘には支障はありません」
ダメコン班から連絡が入る。
「防壁が弱いな……。原子レーザー砲への回路を遮断して、バリアーに回せ!」
「原子レーザー砲を使用しないのですか?」
「使用しない。防御を優先する」
サラマンダー型の主砲である原子レーザー砲は、今回のような接近戦には使用不能である。あくまで艦隊戦のように向かい合って撃ち合うためのものだ。
使えないものに貴重な電力やエネルギーを消耗させるのは無駄だ。
「まもなくすれ違いに入ります」
「面舵衝突回避。左舷に攻撃がくるぞ。左舷砲塔は防御態勢を取りつつ攻撃開始!」
側面攻撃が始まる。
シルバーウィンド側でも、側面攻撃に対処していた。
「側面攻撃きます!」
「衝撃に備えよ。反撃開始!」
そもそもが通常の宇宙戦艦は、舷側は攻撃力も防御力も高くない。
戦列艦ヴィル・デ・パリスのように側面攻撃に特化した戦艦でなければだが。
艦内のあちらこちらで火の手が上がる。
「火災発生! 消火班を急行させます」
「さすがランドール戦法というところだな。近接戦闘には一日の長ありだ」
「原子レーザー砲を撃ってこないので助かってます」
「この戦闘では使えないからな」
「まもなくすれ違いを終えます」
「ダメコン班は今のうちにダメージ箇所を復旧させよ」
すれ違いを終えて離れてゆく両艦。
「第一次攻撃終了。引き続き第二次攻撃態勢に移る。コースターンだ」
双方Uターンして、第二次攻撃に入る。
「今度は右舷で戦う! 取り舵で回り込め」
相手側も呼応して右舷での戦いになる。
「撃て!」
両艦の間に炸裂するエネルギー、激しい撃ち合いが続く。
その一発がサラマンダー後部エンジンに直撃し、激しい火炎を噴き出す。
「メインエンジンに被弾! 機動レベル七十パーセントダウン!」
「速力が半減します」
「補助エンジンを始動!」
メインエンジンをやられて、艦橋要員も気が気ではない。
しかし、アレックスは冷静に次の指令を下す。
「円盤部を切り離して、私は戦闘艦橋へ移動する」
「自分も艦長として艦の指揮を執ります!」
「いいだろう。着いてこい」
艦長席を離れてアレックスに従うスザンナ。
「円盤部の指揮は、ハワード・フリーマン少佐に任せる」
「了解! 円盤部の指揮を執ります」
艦橋の後方にある転送装置に向かうアレックスとスザンナ。
「パトリシアは、ここで勝利祈願していてくれ」
この戦いに作戦参謀は必要がない。
無駄な犠牲とならないように置いておくことにするのだった。
転送装置は、円盤部にある第一艦橋から前方の戦闘艦橋へと転送するものだ。
「円盤部切り離し準備!」
円盤部を任されたフリードマン少佐が指揮を取り始めた。
転送装置によって、戦闘艦橋へと送られた二人。
アレックスは指揮官席に、スザンナは艦長席にと着席する。
戦闘艦橋には通信統制管制室もなければ、艦隊を動かす戦術コンピューターも接続されていない。
すべてはオペレーター達の力量にかかっている。
「こちら第一艦橋。フリードマン少佐。切り離し準備しました! これより分離作業に入ります」
着々と切り離し作業が進む。
ゆっくりと次第に切り離される前方部と後円部。
いわば前方後円墳から前方部だけで行動するのだ。
「切り離し完了」
「分かった。こちらはUターンする」
慣性で進む円盤部から離れて、敵艦へと向かう前方部。
「これより円盤部は惰性にまかせて後方に下がります」
「よろしく頼む」
後方へと下がってゆく円盤部。
それを見届けて、
「機関全速前進!」
スピードを上げた。
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十七章 決闘 Ⅰ
2021.08.29
第十七章 決闘
Ⅰ
打ち合わせで決められた決闘の詳細の一部は以下の通り。
1、対戦場は、テルモピューレ宙域限定。
2、一艦対一艦のPVP。
3、艦種は自由とする。
4、燃料・弾薬の補給はなし。
4、行動不能となるか、宙域を出た場合は負け。
6,非戦闘員は退艦しておく。
数日後の決闘の日。
それぞれの基地から出立した両艦隊が、テルモピューレ宙域の両端にたどり着いた。
その中から、サラマンダーとシルバーウィンドが宙域へと進み出るのだ。
サラマンダーの前方部にある戦闘艦橋。
「定刻になりました」
パトリシアが合図する。
「よし。微速前進」
「了解。微速前進」
久しぶりに艦長席に収まったスザンナ・ベンソンが復唱する。
決闘と聞いて、是非ともと艦長復帰を願ったのである。
ゆっくりと静かにテルモピューレ宙域へと進入するサラマンダー。
一方のスティール・メイスン率いるシルバーウィンドの艦橋。
「テルモピューレ宙域に入ります」
オペレーターが報告する。
「因縁のある宙域だな」
アレックスがカラカス基地を奪取し、奪還に向かったバルゼー提督が破れ捕虜となった宙域である。その会戦でアレックスは大佐となり、艦隊司令官たる将軍への昇進となる足掛かりを確保したのだった。
カラカス基地奪還には、三個艦隊を持って当たるべしというスティールの意見具申が通っていれば、今頃アレックスは捕虜収容所暮らしだったであろう。
* 参照 第一部/第十二章・テルモピューレ会戦
「全速前進せよ!」
と、こちらも速度を上げた。
「まもなくすれ違いに入ります」
「面舵五度、進路変更!」
地球古代史から面々と続く、国際海事機関(IMO)が定めた世界共通の交通ルール。 右の方から船がやってきて、このままだと衝突してしまいそうな場合には、相手船を右側に見る船が右方向に進路を変えてお互いの左舷と左舷が向き合う形、すなわち右側通行ですれ違う。 これが海上及び宇宙での最も基本的なルール。
「通信回線を開け」
「通信回線、開きます」
正面スクリーンに相手方のスティール・メイスンが出る。
「いよいよですね。お手柔らかにお願いします」
「こちらこそ。手加減なしでいきましょう」
「もちろんです」
そして、儀礼的に敬礼を交わす二人。
「それでは」
映像が消えた。
両艦はすれ違いを終えて、一旦離れてゆく。
一定距離を進んだところで停止する。
「所定の距離に到達しました」
「よし。回頭せよ!」
シルバーウィンド艦橋。
「回頭終了しました」
オペレータの声にすかさず、
「よし! 戦闘配備、全速前進せよ」
「戦闘配備!」
「機関一杯! 全速前進!」
オペレーターの復唱とともに、戦意は嫌でも高揚する。
「さて、お得意のランドール戦法を見せてくれますかね」
「どうかな……。この宙域は航行域が狭くなっているので、ベンチュリ効果(霧吹き)が起きて、星間ガスが乱れているからな。小ワープしたくてもできないはずだ」
「なるほど、それで戦闘域をここに設定したのですね」
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十六章 交渉 Ⅳ
2021.08.28
第十六章 交渉
Ⅳ
シャイニング基地の中でも最大規模であり、第十七艦隊司令部の置かれているターラント軍港。
バーナード星系連邦の和平交渉使節団の乗ってきた艦艇が停泊しており、機首には両国の国旗が掲げられている。
降り立つ使節団と、迎える共和国同盟の文官達。
案内されて軍港そばの庁舎へと入っていく。
まずは事務方による事前折衝と協定書への署名が行われるはずだ。協定書は八部あり、その内の七部がここで署名調印される。
やがて首長らによる和平調印式が始まる。
軍団音楽隊が奏でる厳かな曲が流れる中、大会議場正面壇上へと、両袖から入場する両国の使節団。
袖口の所で一旦停止し、客席に向かって一礼してから、中央へと進んでいく。
中央で立ち止まって、挨拶を交わす両者。
「共和国同盟最高司令官アレックス・ランドールです」
と手を差し出すアレックス。
「バーナード星系連邦革命総統スティール・メイスンです」
握手に応じるスティール。
アレックスにとって、スティールは顔を知らぬ謎の人物であったが、目の前にして意外と若いなと感じていた。もっとも自分の方がさらに若いのであるが。
そして何よりもエメラルド・アイの持ち主であることに畏敬の念を抱いた。
一方のスティールの方では、アレックスの外形から人となりを常に諜報したいたのだが、直接自分の目で見る限り平凡な男にしか見えなかった。
「和平交渉団往訪をお受けくださり感謝致します」
「こちらこそ。願ってもない要請でした」
「こちらは銀河帝国マーガレット第二皇女、特別立会人として招聘致しました」
「なるほど、一応第三者の立場ということですね」
この場におけるアレックスの立ち位置は、あくまでも共和国同盟としての立場であり、銀河帝国皇太子という立場は忘れてもらうことにした。
着席しての調印がはじまる。
協定書が交わされて、両者の署名がほどこされた後に、マーガレットが立会人の署名をして調印が完了する。
そして再び握手を交わして、式典の終了を労う。
場内に沸き起こる拍手の渦。
「お疲れさまでした。控室にてご休憩をどうぞ」
と案内するアレックスだった。
「それは宜しいですが、一つお願いがあります」
「お願いですか? 控室でお聞きしましょう」
場所を控室に移しての会談がはじまる。
「実はですね。この和平交渉に懐疑的な連中がいましてね。共和国総督軍が破れて、連邦軍は追い出されたのにと恨むのです」
「つまり、このままでは内紛になるかもしれないと?」
「早い話がそういうことになります。自分としては、これ以上の戦争は自殺行為だと思っているのですがね」
「では、どうしろと?」
「彼らを納得させるには、やはり戦ってみせるしかありません」
「戦う? 和平交渉はどうなりますか?」
「いやいや、戦争しようというのではありません」
「?」
「ここは一つ、自分と貴官とで一対一の決闘をしましょう。もし自分が勝てば彼らも納得するだろうし、貴官が勝てば諦められるというものです」
突拍子もない提案に、しばし考えていたが、
「いいでしょう、その提案受けて立ちましょう」
「ご決断ありがとうございます。一度、貴官と一戦したかったのです。先ほどの話もYESの言葉を引き出すための口実でした」
「なるほど、よく分かります」
それから一対一の決闘の打ち合わせが始まった。
第十六章 了
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十六章 交渉 Ⅲ
2021.08.27
第十六章 交渉
Ⅲ
タルシエン要塞。
指揮官席に腰かけて、要塞砲の修理状況をモニターしているスティール・メイスン中将。
要塞を建造したのが連邦であり、要塞砲の技術者も当然存在するので、手際よく作業がなされてゆく。
「共和国同盟から、使節団往訪の許諾が下りました」
副官のクランシス・サックス中尉が報告した。
第一副官のマイケル・ジョンソン中佐は、バーナード本星に残って内政に勤しんでいる。
「そうか。意外と決断が早かったな」
「私は、統一の余波を買って連邦への侵攻を考えていたのですが」
「それはないな」
「どうしてですか?」
「統一とはいっても、表面上だけだよ。残り火がまだまだくすぶっている状態だからね。それを放っておいて、欲望のままに行動すれば足元を掬われるだろう。まずは内政をしっかりとして地盤を固めるのが先決だ。逆侵攻の余裕などない」
「なるほど」
「それよりも、講和の手続きを始めよう。人選を頼む」
「かしこまりました」
一方のアレックスもシャイニング基地に到着して、和平使節を迎える準備に入っていた。
基地司令部秘書官のシルビア・ランモン大尉と打ち合わせを始める。
彼女は、アレックスが少佐となってこの基地に司令部を置いた時からの秘書官である。当時は少尉だった。
「連邦側より、タルシエン要塞から使節団が出発したとのことです。交渉人が二十名、事務方を含めると約二百人です」
「手際が良いな」
「前もって準備していたのでしょう」
「こちらは間に合うか分からんな。ともかく体裁だけでも整えておこう」
「待機要員も総動員して、大会議場の設営を行います」
「そこのところよろしく頼むよ」
武官であるアレックスには、会場づくりなどのことは文官に任せるしかなかった。
同盟側の参列者を誰にするか。
どういう儀式にするか。
壇上の署名台の設置方法。
客席をいくつ用意し、どのように配置するか。
アレックスには、いくら考えても思いつかないだろう。
壇上に置ける両国の位置関係は、連邦側が上手(stage left)になるのが常識だろうが。
「上手ってどっちだ?」
「オーケストラでピアノが置いてある方が下手(stage right)ですよ。だから客席から見て、右側が上手です」
「そうか……勉強になったよ」
というアレックスとパトリシアの会話があったらしい。
惑星シャイニングに近づく艦艇があった。
スティール・メイスン率いる和平交渉の一団である。
「あれがシャイニング基地ですか?」
「ああ。私もこの目で直接見たことがないがな」
「この星を攻略するには、五個艦隊必要だとされていますが、本当でしょうかね」
「そんな数値など意味がないさ。ランドールは、偽装大型ミサイルで潜入して数十名の兵だけで、この要塞を陥落させてしまったくらいだからな」
「確かにそうですけど、あれは特殊な例でしょう」
「シャイニング基地より入電。入港進路のデータが送られてきました。表示します」
正面スクリーンに、基地を覆う全天空シールドの一部が解除されて進行ルートが表示された。
「上陸用舟艇の準備が整いました」
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