銀河戦記/鳴動編 第一部 第十七章 リンダの憂鬱 Ⅵ
2021.03.30

第十七章 リンダの憂鬱




 それから数時間後。
 アスレチックジムでの体力トレーニングを終えたというのに、一人ベンチに腰掛けて思慮深げな表情のリンダがいる。
 そこへ人探し風なレイチェルがやってくる。リンダを目ざとく見つけて歩み寄ってくる。
「どうしたの悩み事?」
 やさしく語りかけるレイチェル。
「あ……ウィング少佐」
「レイチェルでいいわよ。今は非番だから。汗をかいた後だというのに、こんなとこでじっとしていると風邪をひくわよ」
「そうですね……」
「心にわだかまりがあるなら相談に乗るわよ」
「はあ……。会うたびにすぐ口論になる人がいて、どうしたら仲良くなれるかと思って……」
「思ってはいるのね」
「ええ……思ってはいるんですけど。艦長として、どうしたら信頼関係が築けるのでしょうか?」
 そうか、仲良くしようと考えてはいるんだ。
 しかも艦長としての責務も忘れてはいない。
 改めてリンダの心境を垣間見るレイチェルだった。
 やはりここは、反省し悩んでいるリンダの方に、助け舟を出すのが利に適っていると判断した。
「艦長としての責務を全うしていれば信頼関係も自然に身についてくるものよ」
「そうでしょうか? 例えば足の遅い上官についてはどうすればいいんでしょうか?」
「フランソワの事ね」
 ここで改めて相手のことを持ち出すレイチェル。
「階級はあなたの方が上じゃない」
「いえ。戦闘や訓練の際には、戦術士官(Comander officer)の徽章(職能胸章)を付けてるフランソワの方に、指揮権や命令権の優先が与えられますから」
「でもね。あなたは艦長として、艦内における将兵達の用兵はもちろんの事、健康管理をも任されているわ」
「健康管理?」
「体力トレーニングよ」
「それが何か?」
「意外と鈍いのね。足が遅いのは体力・筋力が衰えているせいです。艦内で勤務する乗員にはすべて体力トレーニングが義務付けられており、その運動メニューの決定権も艦長が持っています。足が遅いと感じたならば、足を早くする運動メニューを用意してあげればいいのよ。ただ、フランソワだけだと意地悪していると思われるかも知れないから、もう一人足の遅い方がいるからそれと一緒に提出するといいわね。もちろんそれは提督のことだけどね。この際一緒に鍛えてあげなさい」
「なるほど! そういうことかあ!」
 合点! 納得いったリンダだった。
「あなたは、相手が戦術士官であり、提督と近しい間柄にあることから遠慮しているみたいだけど、もっと自分の立場に誇りと自信を持ちなさい。階級が下の者に対しては厳粛たる態度で臨むべきです。遠慮は一切考えないことです」
 リンダの表情に明らかなる変調が表れた。艦長として凛々しく誇りある責務に改めて邁進するという感情が見られるようになったのである。
「ありがとうございます。色々と参考になりました」
 深々と礼をして足早でアスレチックジムを駆け出していくリンダであった。
「ふふ……。少しは役に立ったようね」

 食堂にフランソワを連れてアレックスが入ってくる。
 アレックスに気づいた全員が、一旦立ち上がって敬礼をしている。
「提督、あそこの席が空いてますよ」
 フランソワが指差す空いた席に移動するアレックス。
「一つお聞きしてよろしいですか?」
 アレックスが先に椅子に腰を降ろすのを見届けてから、自分も座りながら尋ねるフランソワ。
「何かね?」
「提督やお姉さま達は、上級士官専用の食堂がありますのに、どうして一般士官用の食堂で食事をするのですか? 」
「それじゃあ、隊員たちの様子が判らないだろう」
「どういうことですか?」
「人間、食事とか就寝前とか、リラックスしている時には、本音が出やすいものだ。部下の精神状態がどのようになっているか、士気の低下や食欲の低下を起こしている者はいないか、緊張しすぎている者はいないか、などあらゆるメンタルヘルスケアチェックを行うのも、上官の任務だよ。人知れずにね」
「でも、そういうことは衛生管理部門の役目ではないですか?」
「報告を聞いて鵜呑みにするだけでなく、直に自分の目と耳でチェックする。それが本当の指揮官たる裁量のあり方だと、私は思っているのだよ。そうは思わないかね」「はあ……何となく理解しました」
「まあ、考え方は人それぞれだな。厳粛な上下関係をはっきりさせるために、食堂はもちろん居住ブロックの区分けさえしている人もいる」
「あのお……それが普通だと思いますけど」
「そうか?」
「そうですよお」

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2021.03.30 07:49 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
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