銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十五章 トランター陥落 Ⅱ
2021.05.13

第二十五章 トランター陥落




 そんな会話を耳にしながら、副官が言い出した。
「提督は、奥様のところへ行くんですよね?」
「まあな。それが軍人の役目でもあるからな」
「奥様のいる提督や佐官以上のクラスの人たちがうらやましいですよ。私たち下っ端は、誰に当たるか判らない授産施設なんですから」
「君も早く出世することだな。大尉じゃないか、あと一歩じゃないか」
「そうなんですけどね……じゃあ、私は授産施設に行って参ります」
 副官はそう言うと、先ほどの兵士達の向かった方へ歩いていった。
 一人残ったスティール。
「授産施設か……」
 一言呟いて、自分の妻の待つ既婚者用の官舎へと向かった。

 授産施設。
 先ほどの兵士達が順番待ちをして並んでいる。
 きょろきょろと落ち着かない雰囲気の兵士。
「落ち着けよ」
「そうは言っても……」
「ほら、まずは受付だ」
 順番待ちの列が流れて、目の前に受付があった。
 認識番号と姓名、所属部隊などを申告する兵士。
「アレフ・ジャンセン二等兵。今回がはじめてですね」
「は、はい」
 受け付け係りは、端末を操作して相手を選出した。女性との経験がない男性には、妊娠の経験がある場馴れした女性があてがわれることになっている。
「結構です。では、入ってすぐ右手の部屋で裸になって、まずシャワーを浴びてください。出た所に替えの下着が置いてありますので、それを着て先に進んでください。部屋番号B132号室に、あなたのお相手をします女性が待機しております」
 といって部屋の鍵を手渡された。
「そちらの方は、隣のB133号室です」
 受付を通り過ぎ、授産施設の入り口から中へ。
「おい」
 扉のところで、伍長が呼び止めた。
「はい」
「いいか。女にはな、男にはない穴がここにあるんだ。ちんちんの替わりにな。うんこをする穴じゃないぞ」
 といって股間を指差す。
「あな……ですか」
「そうだ。その穴に自分の固くなったちんちんを入れればいいんだ」
「あなに固い……」
「ま、後はなるようになるもんさ。頑張りな」
 といって、兵士の肩を叩いて隣の部屋に消えた。
 扉を開けると自動的にシャワーが噴き出してきた。
 身体の汚れを落として先に進むと、受付の言った通りに棚の上に、タオルと替えの下着が置いてあった。タオルで身体を拭い、さらにその先にあるドアを開ける。
 途端に甘い香りが鼻をくすぐる。
 部屋に入るときれいな女性が、ベッドの上で下着姿で待機していた。
「よろしくお願いいたします」
 入ってきた兵士に向かって丁寧におじぎをすると、笑顔で迎え入れた。
 兵士は、おそらく女性の下着姿など見たことなどないのであろう。恥ずかしがってもじもじとしていた。
「どうぞ、こちらへ」
 女性がやさしく手招きする。
「実は、お、俺、はじめてなんです」
「あら……ほんとうですの?」
「はい」
「大丈夫ですよ。ほらこんなに元気ですもの」
 といって兵士の股間を差し示した。
 すでにパンツを押し上げて、ぎんぎんにいきり立っていた。
「それじゃあ、はじめましょうか」
「は、はい。よ、よろしくお願いします」
「うふふ」

 それからしばらくして授産所から出てくる兵士。
「どうだ、すっきりしたか」
 出口のところで伍長が待っていた。
「女の人の肌が、あんなにも滑らかというか、柔らかいものだったなんて、はじめて知りました」
「女性というものは、身体の作りが俺達男性とはまるで違うからな。まず子供を産むことができる」
「え、まあ。しかし、これで俺の子供をあの女性が産むんだと思うと、なんかへんな気分です」
「あほ、一回や二回くらいで妊娠するとは限らないさ。おまえの前にも幾人かの男の相手しているだろうしな」
「そうなんですか?」
「おまえって、本当に無知なんだな。簡単に説明してやろう」
 といって、女性の生理について講義をはじめる伍長であった。

 バーナード星系連邦では、男性は6歳になれば親から離されて幼年学校へと進み、兵士となるための教育を受ける。そして女性は人口殖産計画に沿って子供を産むことを義務付けられており、妊娠可能期には授産施設へ通うことになる。
 それが当然のこととして受け入れられている。
 イスラム教に曰く。
「男は髭を蓄えターバンを巻き、女はプルカで全身を覆って顔を出さない。何故と問うなかれ、それがイスラムなのである」


 その頃、スティールも妻との営みに励んでいた。
「あ、あなた!」
 久しぶりのこととて、妻は激しいほどに燃えてスティールの愛撫に悶えた。
 そしてスティールのすべてを受け止める。
 妻として、夫の子供を宿すために。
 もちろん確実に妊娠するために、スティールの帰還に合わせてピルを飲む加減を調整し、帰宅のその日に排卵が起こるようにしているはずだった。

 寄り添うようにスティールの脇で眠っている妻。
 実に幸せそうな寝顔だ。

 女性として軍人の妻となり、彼の子供を産むことは一番の幸せである。

 連邦に生きる女性のすべてが、幼少の頃からそう教えられて育ってきた。
 男性は軍人として働き、女性は子供を産み育む。
 それが当然のごとくとして、連邦の人々の人生観となっている。
 誰も疑問を抱かない。抱く思想の種すらも存在しないのである。
 すべての民に対して幼少の頃から教育されれば、そのような思想や概念が植え付けられるということである。
 かくして、スティールの妻も、軍人の妻になるという幼少の頃からの夢が適って幸せ一杯の笑顔を見せる。そして子供を産み育てることを生きがいとしているのだ。
 スティールと結婚する前には、他の女性と同じように授産施設に通っていた。結婚して夫婦となってからは、士官用官舎に入居してただ一人の男性と夜を共にする。
 官舎暮らしに入れる士官との結婚を、すべての女性が夢見ているのであった。

 妻の寝顔を見ながら物思うスティール。
 共和国同盟との戦争が膠着状態となり、すでに百年近く続く戦争。
 この戦いに勝つために必要なことは、味方が一万人殺されたら、敵を二万人殺せばいい。そして死んだ一万人に代わる新たなる生命を生み出すこと。
 そうすればやがて敵は人口減少からやがて自然消滅する。
 長期的となった戦争を勝ち抜くには、いかにして人口を減らさないかに掛かっているのだ。
 こういった思想から、現在の連邦の教育制度が出来上がった。
 特に女性に対しての徹底的な思想改革が行われ、人口殖産制度が出来上がった。女性のすべては軍人の妻となるか、授産施設に入るのを義務付けられ、妊娠可能期がくれば男性の相手をして妊娠しそして子供を産む。そして子供を産んだ場合は、その子が一人立ちするまで、十分な養育費が支給される。女性自身が働かなければならないことは一切ないから、安心して子育てに専念できるというわけである。
「授産施設か……」
 そういった制度が、果たして女性にとって本当に幸せなのか?
 スティールには判断を下すことができない。

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2021.05.13 08:47 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
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