銀河戦記/鳴動編 第一部 第十五章 収容所星攻略 Ⅳ
2021.03.14
第十五章 収容所星攻略
Ⅳ
「敵空母より艦載機の発進を確認しました」
さすがに敵艦隊も、艦載機群の到来に気づいて迎撃機を発進させたようだ。タシミールにのこのこやってきたパトリシア達を奇襲するつもりだった予定が、逆に奇襲を受けて慌てふためいている様子が想像できた。
「ハリソン・クライサーの編隊に迎撃を指示、ジミー・カーグ編隊及びジュリー・アンダーソンの編隊には敵艦隊への攻撃を敢行させよ」
「クライサー編隊、敵艦載機と接触、交戦に入りました。カーグ編隊はこれをかわして敵艦隊に進撃中です」
前方で敵編隊4000機とハリソン編隊4000機との空中戦が始まった。
艦載機の数では互角、後は機体の性能とパイロットの腕前が、勝敗を分ける。
「編隊長の通信を音声に流してください」
「了解。指揮官席のスピーカーに流します」
すぐさま編隊長の通信機に接続されて、その交信内容が聞こえてきた。
『いいか。ここで食い止めて、一機たりとも味方艦に近づけさせるんじゃないぞ』
ハリソンの声だった。配下の編隊に対しての指令や返信が次々と届く。
「了解!」
華々しい空中戦が繰り広げられている。
そんな中にあっても、余裕綽々の二人がいた。
「おい、パーソン」
「なんだ、ジャック」
「どっちが数多く撃ち落すか。賭けをしないか?」
「いいだろう。で、何を賭けるんだ」
「シャトー・マルゴーのワインなんかどうだ?」
「ああ、あれか。一本六万からするんだっけな」
「おうよ。ルイ十五世の寵姫マダム・デュ・バリや文豪ヘミングウェイも愛飲したという名品だよ」
「いいだろう。それでいこう」
話がまとまる二人。
「おい、ジャック。おまえの後ろに何かくっついているぞ」
あわてて後方確認するジャック。敵機が背後に迫っていた。
「ちぇ、後ろに付かれたか。おまえが話しかけるから気が散ったんだぞ」
「油断したな、ジャック。ワイン一本で手を打つか?」
「何を言うか。これくらい簡単に振り解いてやるさ」
しかし敵も巧者だった。急旋回や急上昇で交わそうとするが、執拗に食い下がってぴたりと背後に付いて離れなかった。
「ちきしょう! ロックされた。振り解けねえ」
「まかせろ!」
敵機の真下から急上昇しつつ機銃で敵機を撃破するパーソン。敵機は火達磨となって爆発炎上した後に粉々に散っていく。
「一点貸しだな」
「ちっ! 余計なおせわだってのによ。倍にして返してやるよ」
「負け惜しみだな」
「言ってろ!」
そんな通信に割って入った者がいた。
ハリソンだった。
「おい! おまえら、何やってるんだ。会話が筒抜けだぞ」
「え? いけねえ、シークレット通話にしてなかったぜ」
「どじな奴だな」
「どっちがだ」
「で、今どっちが勝っているんだ?」
「まだ、はじまったばかりですよ」
「そうか……じゃあ、俺にも一口乗らせろよ」
「はあ?」
同時にきょとんとした声を発する二人。
すると通信回線ががなり立てはじめた。
「二コルです。パーソンに500賭けます」
「デイビッドです。俺は、ジャックに500」
「ジュリーです。500をパーソンに」
あの酒豪も聞いていたらしい。酒の話となると必ず顔を出す。
パーソン小隊、ジャック小隊の賭け好きな連中が次々と、名乗りを挙げている。
そして、
「わたしもいいですか? リンダです。ジャックに500賭けます。ああ、それからこの通信は記録してます」
セイレーン艦長のリンダまでが参入してきた。
そんな通信の模様は、セイレーン艦橋にも届いていた。
「リンダ! あなた何考えてるのよ」
目の前にいる艦長のリンダを叱責するリーナ。
「え? だってハリソンが……」
「だって、じゃないでしょ。今は戦闘中なのですよ」
「でもお……」
「まったく、しょうがないわね」
リーナが呆れ顔で呟く。
「ハリソンを出して」
「こちらシルバー・フォックス。ハリソン、どうぞ」
「こちらハリソン。シルバー・フォックス、どうぞ」
「ハリソン、賭けに参加した者全員、減俸三ヶ月よ。いいわね」
いきなり処分を言い渡すリーナ。
「それは、勘弁してくれ」
「だったら目の前のものを早く片付けて頂戴」
「片付けたら帳消しにするか?」
「考えておくわ」
「おうよ。考えておいてくれや」
「だったら、手際よくやりなさいよ」
「見ていろよ」
ハリソンがそう言うと、ぷつんと会話が途切れた。戦闘に専念しはじめたのだろう。
はあ……。
というため息をもらすリーナだった。
「いつもこうなのですか?」
パトリシアが尋ねた。
「似たり寄ったりですね」
「サラマンダーの艦橋にいては、各部隊ごとのこまごまとしたことは入ってきません。艦載機同士の通信までは聞いてられませんから」
「それは当然です。司令官は全体の動きだけ指示していればいいんです。後は各部隊指揮官が最善の処置を施します」
「何はとはあれ、戦闘中に賭け事は問題です。厳罰処遇にしなければ……」
とここまで言ってから、
「と、言いたいところですが……。提督ご自身も、賭け事には一癖も二癖もあるお方でしたから」
そうなのだ。
士官学校の学園祭で、バニーガールを交えたカジノパーティーを主催したり、禁断の密造酒を製造したりもした、破天荒かつ型破りな御仁だった。
ゆえにパトリシアにしても、こういったことには慣れていたと言ったほうがいいだろう。
「五十機目!」
ジャックの喚声が通信機に届いた。
「ハリソン達は優勢に戦いを進めているようです」
「敵味方の撃墜差は、現時点でおよそ四対一といったところ」
「残存機数で次第に差が開いてきますから、いずれ撃墜差にはさらに開きが出てきます」
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v
ファンタジー・SF小説ランキング
11