銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十五章 トランター陥落 Ⅰ
2021.05.12

第二十五章 トランター陥落




 バーナード星系連邦の首都星バルマー。
 連邦軍統合本部の作戦会議場。
「タルシエン要塞に、共和国同盟軍の精鋭艦隊が続々と集結しております」
「ますますもって、同盟への侵攻が困難になってきたというわけだな」
「タルシエンの橋の片側を押さえられてしまったのですから。どうしようもありませんね」
「橋の道幅は狭い。ここを通って行くには、例え大艦隊であっても一列に並んでと言う状態だ。出口付近に散開して待ち伏せされると、各個撃破されて全滅するしかない」
 議場は悲観的な雰囲気に包まれていた。
 あれほど強固な要塞が落ちるとは、みなが落胆し精気がなくなるのも当然と言えるであろう。
 その時、声をあげて息まく士官がいた。
 スティール・メイスン少将である。
「さっきから何を非建設的な意見を言っていらっしゃるのですかねえ。今が絶好の機会だというのに、これを逃すおつもりですか?」
「何を言っているか、スティール」
「ですから敵の精鋭艦隊がタルシエンに集結している今がチャンスだと申しておるのです」
「どういうことか? 説明しろ!」
「それでは……」
 といいながら立ち上がるスティール。
「先程からも申している通り、今が共和国同盟に侵攻する最大のチャンスです。同盟はタルシエン要塞に第二軍団の精鋭艦隊を集結させており、本国の防衛が手薄になっております。第二軍団以外の戦力が恐れるに足りないことは、かつて敵にハンニバル艦隊と言わしめた後方攪乱作戦において実証済みであります」
「タルシエンの橋の片側を押さえられていると言うのにどうやって同盟に進撃するというのだ」
「なぜタルシエン要塞にこだわるのですか? 我々には銀河の大河を渡ることのできるハイパーワープエンジン搭載の戦艦があるじゃないですか」
「しかしハイパーワープエンジンで大河を一瞬に渡っても燃料補給の問題がある。ハイパーワープは莫大な燃料を消費する。ぎりぎり行って帰ってくるだけの燃料しか搭載できないのだぞ。同盟内に入り込んで戦闘を継続するだけの燃料はない。敵勢力圏では足の遅く攻撃力のない補給艦を引き連れていくわけにはいかんぞ。万が一の撤退のことを考えれば実現不可能と言える。後方撹乱作戦のように現地調達もできないだろう。片道切符だけで将兵を送り出すわけにはいかない」
「それにだ。仮に燃料の問題が解決したとしても、将兵達を休息させることなく、最前線での戦闘を強要することになる。ハイパーワープで飛んだ先は、ニールセン率いる五百万隻の艦隊がひしめく、絶対防衛圏内だ。休んでいる暇はないから、士気の低下は否めないぞ。これをどうするか?」
「手は有ります。図解しながら説明しましょう。パネルスクリーンをご覧下さい」
 スティールが端末を操作するとパネルスクリーンに一隻の戦艦が表示された。
「まず、これが同盟に侵攻する戦艦ですが、この艦体の後方に三隻の戦艦をドッキングさせます」
 表示された戦艦に、別の戦艦が三隻接合され、まるで補助ロケットのような形状になった。
 この時点で感の良い者は、スティールが言わんとすることを理解したようであった。
 作戦を概要すると、

1、後方の三隻をブースターとしてハイパーワープエンジンで大河をワープして渡る。
2、前方の戦艦は、ペイロードとなって後方の三隻に送り出してもらい、その間将兵
達は休息待機に入る。
3、ワープが完了して向こう岸に渡ったら、ブースター役の三隻の戦艦はそのまま引き返す。
4、燃料満載、将兵休息万全の前方の戦艦は、侵略を開始する。

 というシナリオである。
 全員が、スティールの奇策に目を丸くしていた。
「しかし合体した状態で無事にワープできるのかね?」
「そのためのエンジン制御プログラムを使用します」
「君のことだ。そのプログラムもすでに開発しているのだろう?」
「もちろんです。でなければ提案しません」
 懐疑的な上官たちに、自信満面で解説するスティールだった。
「万事うまくいけば、燃料補給と将兵の休息の問題が解決するし水と食料の消費もしない、Uターンしたサポート軍はそのまま、自国の防衛にあたれると、つまり一石四鳥が解決するというわけだな」
「そうです」
「よし、決定する。メイスン少将の作戦案を採用することにする。これ以上手をこまねいていれば、あのランドールがさらに上に上がって、ニールセンと同等以上に昇進すると、もはや侵攻は不可能になる。ニールセンとランドールとの間に軋轢のある今のうちがチャンスだからな」
 一堂の視線がメイスンに注がれる。
「判りました。誓って、共和国同盟を滅ぼしてみせましょう」
 キリッと姿勢を正し敬礼するスティール。


 ぞろぞろと議場から出てくる参謀達。
 スティールのそばに副官が駆け寄ってくる。
「いかがでしたか?」
「予定通りだ。忙しくなるぞ」
「よかったですね。頭の固い連中ばかりだからどうなるかと思いましたがね」
「実行部隊の司令官がことごとく全滅や捕虜になっている。そしてとうとう要塞を奪取されてしまった。あのランドールに何度も苦渋をなめさせられて、もうこりごりだという雰囲気が漂っている。例え名案があったとしても二の足を踏んでしまうのも仕方のないことだろう」
「それで、提督に任せることになったわけですね」
「ともかく、ぐずぐずしているとあのランドールに嗅ぎ付けられて先手を取られてしまう。奴の配下にある情報部は優秀だからな」
「でもランドールがいかに素早く情報を得たとしても、ニールセンが動かないでしょう。どんな情報も握りつぶしてしまうのではないでしょうか」
「そうかも知れないが、万全を期しておいて損はないだろう。それより二の段の手筈はどうなっているか?」
「何とか二百隻ほど調達できました。すべて実際の戦闘に耐えられる完動戦艦です」
「二百隻か、取り合えずそれだけあれば何とかなるだろう。後は戦闘員の腕次第だな」
「しかし調達した先々では首を捻っていましたね。何せ運航システムが旧式化して退役した戦艦ばかりですから」
「まだまだ使える物を旧式になったといって、次々と最新鋭戦艦に切り替えるのは考えものだ。旧式にもそれなりの使い道があることを教えてやろうじゃないか」


 その日から、共和国同盟への侵攻に向けての、戦艦の改造が開始された。
 四隻の戦艦を一組として、同盟に侵攻する任務を与えられた戦艦の後方に、大河を飛び越えるためのブースター役を担う戦艦が三隻ずつ合体させられていく。
 もちろん合体戦艦を収容するドックなどあるはずもないから、宇宙空間に浮遊させた状態で作業が行われていた。作業用のロボットスーツを使用して、接続アームをそれぞれの戦艦に取り付けて合体させてゆく。
「いいか。ワープ中にばらばらになったりしないように、しっかりと固定するのだぞ。我々のこの作業が共和国同盟侵攻の成功の鍵を握っているんだ。一箇所一箇所、気を抜かずに確実にやるんだ」
 監督の指示の元次々と合体戦艦が作り出されていく。
 さらに戦艦の内部では、四隻の戦艦を同時にハイバーワープさせるためのエンジン制御システムのインストールが進められている。

 戦艦の改造の状況が眺められる宇宙ステーションの展望室。
 スティールと副官がその作業を見つめている。
「これだけの戦艦が集められると、実に壮観ですね」
「残存艦隊の八割が集結しているからな」
「総勢三百二十万隻です。この中から都合八十万隻が同盟に侵攻するというわけですか。これまでにない大攻勢じゃないですか」
「大河を飛び越えて、絶対防衛圏内に直接飛び込むのだ。なにしろ相手は、ニールセン率いる五百万隻からなる大艦隊だ。戦闘の経験のない有象無象の連中とはいえ、数が数だからな油断はできない」
「にしてもあの旧式戦艦を投入すると聞いて、皆びっくりしていましたよ。本当に役に立つのかとね」
「言わせておくさ。それより明後日に最後の作戦会議を行う。各部隊長を呼び集めておいてくれ。今回の戦いは司令官の指揮よりも、各艦長の裁量によって勝敗が決定するからな。各部隊配下の艦長にまで作戦概要が行き渡るように、しっかりと打ち合わせをしておかないとならない。16:00時に中央大会議室だ」
「判りました」
 そんな二人のそばを、数人の兵士が通り過ぎていく。
 会話が聞こえてくる。
「おい、おまえら」
 伍長の肩章を付けた下士官が兵士を呼び止めた。
「はい、何でしょう」
「授産施設にいくぞ」
「授産施設?」
「おうよ。まもなく出撃だ。いつ戦死してもいいように、自分の子供を残しておかなければならん。」
「それって、女の人とベッドを一緒にして、その……つまりセックスというんですか……するんですよね」
「ま、そんなところだ」
「俺、経験ないんですよ」
「わ、私もです」
「気にすんな。みんな最初は初心者さ」
「でも……」
「いいか、これは命令だからな。女性の子作りに協力するのも軍人の仕事のうちなんだぞ」
「はあ……」
「さあ、元気を出せ。そんなことじゃあ、立つのも立たなくなるぞ」
 と大笑いし、兵士達の肩を押すようにして、授産施設なる場所へと追い立てていく。

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2021.05.12 13:45 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
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