銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十四章 新生第十七艦隊 Ⅲ
2021.05.09

第二十四章 新生第十七艦隊




 百四十四時間の休暇が終わりをとげた。
 各人各様の過ごし方があったのだろう。有意義だった者がいれば、無意味に時間を浪費しただけの者もいるだろう。
 アレックスはといえば、要塞とシャイニング基地を往復しながら、こなさなければならない処理に忙殺されていた。パトリシアを帰した事を後悔もしたりしたが、今後の事態を考えれば留めておくわけにもいかないだろう。
 続々と帰還してくる将兵達を迎えるアレックス。
 ゴードン、ジェシカ、カインズ、そしてチェスターらが、それぞれの故郷や思いでの場所での休暇を楽しんで帰ってきた。
 その中にレイチェルだけが含まれていなかった。
 司令官となった第八占領機甲部隊と共に、最新鋭機動戦艦ミネルバの受領と、乗員達のトランター本星での隊員訓練のためにトランター本星残留ということになっている。
 タルシエンから遠く離れた場所でただ一人、来るべき日「Xデー」に向けての準備を密かに進めるために……。
「Xデーか……」
 できれば、その日が来てくれないでほしい。
 しかしその日はちゃくちゃくと近づいてくるであろう。
 共和国同盟がタルシエン要塞に固執しつづける限り、そしてバーナード星系連邦にあのスティール・メイスンという智将がいる限り、その日は必ずやってくる。
 デスクの上のヴィジフォーンが鳴った。
「何だ?」
「提督。レイティー中佐からご連絡が入りました」
 秘書官のシルビア・ランモン大尉が、タルシエンにいて今なおシステムの改造に取り組んでいるレイティーからの連絡を取り次ぐ。このシルビアは、シャイニング基地にあって、以前は独立遊撃艦隊の司令部オフィス事務官として、司令官のいない閑職にあったのだが、アレックスが第十七艦隊司令官になって、シャイニング基地に戻って来てからは忙しい毎日を送っている。
 事務官から秘書官へ、少尉から大尉に昇進していた。もちろん秘書官という限りは、アレックスのスケジュールを管理しているので、毎朝のようにアレックスの所に来てその日や翌日などの予定を確認しにくる。早い話が寝ているアレックスを起こしに来るのだ。
「繋いでくれ」
 ヴィジフォーンにレイティーの上半身が映る。
「やあ、いらしたんですか? まだ寝ているかと思いましたよ」
「毎朝起こしてくれる優秀な秘書がいるのでね」
「ああ、シルビアさんですね。彼女、ものすごく時間にうるさいでしょう?」
「まあな……」
「何時に連絡してくださいとか、来てくださいとか言われたら、その時間きっかりじゃないと怒って取り次いでくれない時があるんですよ」
『それは、コズミック中佐がいけないんです。時間厳守は提督が口を酸っぱくおっしゃってることです!』
 突然、割り込みが入ってシルビアが顔を出した。
「ありゃ、聞いてたのね」
「気をつけろよ。ここのヴィジフォーンは秘匿通話にしない限り、秘書室のシルビアに筒抜けなんだ。重要な連絡事項や約束事などがあった時、言わなくてもスケジュールとかが組めるようにな」
「秘匿通話にしてなかったのですか?」
『通話を掛けた方が秘匿通話を依頼するのが筋ですよ。受けた側では、内容が判らないんですからね』
「おー、こわ……。提督は、こんな気の強い人を秘書にしてるんだ」
「それくらいじゃないと秘書が務まらないさ。それよりそろそろ本題に入りたまえ」
「ああ、はい」


 本題に入った。
 技術部システム管理課長のレイティー、当然として要塞のシステムコンピューターについてであった。
「……やっとこさ、本格運用できるところまできました」
「同盟の軍事コンピューターとの接続は?」
「一応、外からの侵入を防ぐゲートを通して接続しましたけど、ジュビロさんの腕前なら簡単に侵入してくるでしょうな」
「まあ、たぶんな。彼に侵入できないネットなど存在しない。できればネットに接続しないで、独立系を保ったままにしておきたかったのだがね」
「それは軍が許さないでしょう。何にでも干渉してきますからね」
「当然だろうな」
「ところで、フリード先輩に何を依頼したんですか? 最近、何かの設計図を引いてばかりいて、システムの方を僕に任せ切りにしてるんです。おかげでこっちは不眠不休なんですよ。そんなに急ぐものなんですか?」
「大急ぎだ。とてつもなくな」
「ちらと見た限りでは、ロケットエンジンのような感じがしたんですどね」
「ほう……よく判るな」
「それくらいは判りますよ。それに先輩が設計した図面とかよく見ていましたからね。最近では、ミネルバとか命名された機動戦艦でしたね。あれって主要エンジン部はもとより、艦体構造体やら武器システム、艦制システムなどのソフトウェア、艦の運用に直接関わる部門はみんな先輩が手がけているんですよ。携わっていないのは居住区だの食堂だの付帯設備だけみたいです」
「オールマイティーな天才科学者だからな」
「先輩一人で戦艦造っちゃいますから。もっとも実際に造るのは造船技術者達ですけどね。先輩は設計図を引くだけ」
「設計図といったって凡人には引けないさ」
「そうですけどね」
「ともかくも、要塞のシステム管理プログラムだ。よく頑張ってくれた、感謝するよ」
「帰郷もせずに寝るのも惜しんでシステムに取り組んできたんですからね。功労賞くらいは頂けるのでしょうね」
「考慮しよう」
「そういえば提督も帰郷なさらなかったんですね」
「帰りたくても帰る場所もないしな」
「そういえば孤児院育ちでしたっけ」
「帰るとすればそこか、士官学校を訪問するくらいだ」
「士官学校を訪問すれば大騒ぎになりますよ。我らが英雄がやってきた! ってね」
「それは、遠慮したいね」
「そう言えば、シルビアさん。割り込んできませんね」
「当然だろ。世間話だったらいくらでも突っ込んでくるが、本題に入れば遠慮するに決まっているじゃないか」
 とアレックスが言ったところで、音声が割り込んできた。
『聞こえていますよ』
「な?」
「納得しました」

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2021.05.09 13:33 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
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