銀河戦記/鳴動編 第一部 第十四章 査問委員会 Ⅱ
2021.03.04
第十五章 収容所星攻略
Ⅱ
「タシミール到達まで、二十四時間」
「パネルスクリーンにタシミールの周辺地図を出してください」
すぐに地図は現れた。
「Pー300VXを出しましょう」
「索敵ポイントは?」
「惑星軌道周辺と、敵部隊が展開しそうな後方域、このあたりです」
といって惑星周辺地図の索敵ポイントを指し示した。
「哨戒艇はもう一艇ありますが?」
「我が艦隊の後方哨戒に出します。背後から襲われてはたまりませんからね」
「そうですね」
パトリシアの命を受けて、セイレーンから三艇の哨戒艇が出撃した。
攻撃能力がない超高価な哨戒艇ならば護衛戦闘機が付くところであるが、ステルスという性能から護衛は付かない。戦闘機が索敵されたら意味がないからである。
その艦影を見つめながらリーナが呟いた。
「確か一艇あたり戦艦百二十隻分もの開発予算が掛かっていると聞きましたが……」
「その通りです」
「それだけの効果はあるのでしょうか? 私なら戦艦百二十隻の方に触手が動きますけどね。索敵なら一番安くて早い駆逐艦を派遣すればいいんじゃないかと思いますけど」
「そう考えるのが妥当でしょうね。しかし、それでは敵を発見しても、同様に敵に発見される可能性が高いのです。歪曲場透過シールドは敵に発見されることなく、敵だけを発見しつつその場に留まって引き続き敵の情勢を逐一監視することができます。敵艦隊に察知されて会戦となれば、戦艦百二十隻以上の損害を被ることもありえます。そう考えると戦艦百二十隻分の開発費も無駄にはならないでしょう」
「肝心な探査波が透過シールドで透過されて検知できないということは起こらないのですか?」
「それは大丈夫です。探査波はちゃんとシールドを透過してくるわけですから、検知は可能でしょう」
やがて哨戒艇からの報告が返ってくる。
「タシミール星周辺に敵艦隊の存在は見当たりません」
というものだった。
「どういうことでしょう……」
リーナがパトリシアと見合わせ首を傾げた。
「とにかく引き続き索敵を続行してください」
「了解。索敵を続行します」
それから一時間ほど索敵が行なわれたが敵艦隊は発見できなかった。
「敵艦隊はとっくに撤退したのではないでしょうか? さっさと惑星に降下して捕虜がいないかどうかを確認なさってはいかがですか?」
「いえ。敵艦隊がいないからこそ用心しなければいけないのです」
「どういうことですか?」
「今回の作戦の根拠となった当初の情報に問題があるからです」
「情報に問題ですか?」
「その出所はどこだと思いますか?」
「統合軍の情報部と伺っておりますが……」
「なぜ統合軍の情報部なのでしょう。ここから一番近いのは我が第十七艦隊なのです。出撃前にレイチェル少佐に確認したところ、その配下の情報部では掴んでいなかったそうです。あのレイチェルさんでさえ突き止めていなかった情報を、どうして統合軍の方で掴んだのでしょう。おかしいと思いませんか?」
「そういえば……変ですね」
「ハンニバル艦隊のことを思い出してください。提督をカラカスから引き離す陽動作戦として、連邦軍はハンニバル艦隊を差し向け、ニールセン中将を動かして、提督の艦隊に迎撃を命じました。そうですよね」
「その通りです」
「今回も同様だと思います。ニールセンの元に捕虜収容所の情報を流せば、当然ランドール提督に救出作戦の命令が下されるでしょう。たまたまそれがわたしの佐官昇進の査問試験となったわけです。そもそもカラカス基地とその周辺星域が奪取された時点で、捕虜収容所として不適切になっています。言わば最前線に位置する場所にあるのですからね。通信施設のみ残して捕虜を移送するのが尋常でしょう」
「確かに疑問点があり過ぎますね」
やっとリーナも納得したようだった。
「我々がタシミール収容所星にむかったという情報は、進撃コースも到着予定時刻も査問委員会に事前報告を義務付けられていますから、我々の行動はおそらく敵艦隊に筒抜けです。タシミールに上陸した頃合を計って急襲すれば、迎撃の余裕さえ与えずに壊滅できるはずです」
「なるほど」
「提督が貴重な哨戒艇を三隻も許可してくださったのも、その事を理解しておられるからです」
パトリシアとリーナの会話は、同乗している監察官にも聞こえている。おそらくニールセン中将の息が掛かっているだろうが……。
あえて名指しで謀略だと言い張るパトリシアであった。
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第十四章 査問委員会 Ⅰ
2021.03.03
第十四章 査問委員会
I
新生第十七艦隊の幕僚の内定が関係者各位に通達された。
艦隊司令官 =アレックス・ランドール准将
艦隊副司令官 =オーギュスト・チェスター大佐(三万隻)
艦隊参謀長 =空位とする
艦政本部長 =ルーミス・コール大佐
第一分艦隊司令官=ゴードン・オニール大佐(一万五千隻)
第二分艦隊司令官=ガデラ・カインズ首席中佐(一万五千隻)
旗艦艦隊司令官 =ディープス・ロイド中佐(一万隻)
首席参謀 =マーシャル・クリンプトン中佐
第一作戦課長 =テッド・ウォーレン中佐
以上が役付きの主要な参謀達であったが、以下ずらりと参謀が並んでいる中には、情報参謀のレイチェル・ウィング少佐と、航空参謀のジェシカ・フランドル少佐の名前もあった。艦政本部長のコール大佐及び首席参謀のクリンプトン中佐は、旧第十七艦隊から引き続き留任することになったものである。また旧第十七艦隊よりの二万隻は等分されて、ゴードン・カインズ・ロイドの配下に分配された。これらの二万隻に搭乗する将兵に関して、指揮統制上の問題が懸念されたが、共にトライトン少将の配下であったことと、アレックスの名声と期待感によって、すんなりと水に馴染んでしまったようである。
艦隊参謀長を当分の間空位とするアレックスの決定に、参謀達からは疑問の声も上げる者と、当然の処置と賛同する者とに、意見が分かれていた。参謀長となれば大佐クラスから先任されるのが通常であるが、副司令官のチェスターを除いて、その資格のあるのはゴードンかコール大佐であるが、コールは政務担当専門の文官で参謀長には不向きだし、ゴードンとて作戦を練るよりも最前線で活躍する実戦派だ。
大佐より下位のクラスから選出するという案も出たが、最有力候補の首席参謀のクリンプトン中佐は、名前が取り立たされた時に、
「連邦を震撼させるサラマンダー艦隊の参謀長という大役を引き受けるには、まだまだ未熟すぎますし、新参者が就く役どころでもないでしょう」
と経験不足を理由に辞退を表明していた。
またアレックスを情報面から支援した情報参謀のレイチェルも、アレックス自らが候補から外していた。情報参謀として、作戦プラン作成に重要な情報収集の任に専念してもらいからだと言った。
そもそも独立遊撃艦隊として発足したランドール艦隊が、正規の艦隊として承認されるまでに至ったその功績のほとんどは、司令官のアレックス自身が捻出したか、作戦会議による合議であった。個人として作戦案を発表した例もあるが、アレックスが考え出していた作戦に肉付けするだけだったり、その作戦の概要をアレックスが指示していたりしたケースが多かった。実際問題として作戦プランのほとんどには、アレックスが多かれ少なかれ手を入れていたのである。
艦隊の運命を左右する重要な作戦を、独自に考え出せるポストにふさわしい人物として、候補名を挙げられる物はいなかった。
艦隊参謀長を空位とすることには賛同するしかなかったのである。
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2021.03.03
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第十五章 収容所星攻略 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V・Ⅵ
第十六章 サラマンダー新艦長誕生 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V・Ⅵ・Ⅶ
第十七章 リンダの憂鬱 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V・Ⅵ・Ⅶ・Ⅷ
第十八章 監察官の陰謀 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V・Ⅵ
第十九章 シャイニング基地攻防戦 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V・Ⅵ・Ⅶ・Ⅷ・Ⅸ
第二十章 タルシエン要塞へ Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ
第二十一章 タルシエン要塞攻防戦 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ
第二十二章 要塞潜入! Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ
第二十三章 新提督誕生 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ
第二十四章 新生第十七艦隊 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V
第二十五章 トランター陥落 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V・Ⅵ
第二十六章 帝国遠征 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・V・Ⅵ・Ⅶ
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2021.03.04 18:25
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