銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国反乱 Ⅲ
2021.02.27

第十一章 帝国反乱




 正面パネルスクリーンには、アレックス・ランドールが出ていた。
「やあ、驚いたかね?」
 スクリーン上のアレックスが語り掛ける。
「これは、どういうことですか?」
「簡単なことだよ。ウィンディーネ艦隊を指揮できるのは君しかいないからだよ」
「しかし、自分は……」
「いろいろと誤解はあったが、水に流そうじゃないか」
「誤解……で済まされるのですか?」
 反乱という言葉を使わないアレックス。
「そう、誤解だよ。それ以上でも以下でもない」
 それでも納得できないゴードンだった。
 本来なら免職の上、禁固刑が言い渡されてもいいくらいであるのだから。
「君に任務を与える」
 アレックスが姿勢を正して命令を下す。
「はっ!」
 直立不動になって命令を受ける体制を取るゴードン。
 両拳を握りしめて微かに震えている。
「ウィンディーネ艦隊を率いて、銀河帝国アルビエール侯国に来たまえ」
「了解しました!」
「事の詳細は、シェリーに聞いてくれ」
 通信が途絶えた。
「さあ、一刻も早く馳せ参じましょう。詳細は道々お話しします」
「ガードナー少将が出ておられます」
「繋いでくれ」
 映像がガードナーに変わった。
「アレックスは、君に捲土重来(けんどちょうらい)の機会を与えるつもりのようだな」
「ありがとうございます」
「まあ、頑張りたまえ」
 ガードナーは軽く微笑むと通信を切った。

「ちょっと考え事がある」
 といって、一時司令官室へと籠った。
 心配になって付いてくるシェリー。
「ちきしょう!」
 突然、扉を通して中から叫び声が聞こえた。
 そして何かを打ち付ける鈍い連続音。
 シェリーは感じていた。
 自虐行為で頭を壁にぶつけているのだと。
「閣下……」
 やがて音はしなくなり静かになった。

 しばらくして、ゴードンが額から血を流しながら出てくる。
「閣下!お手当を」
「構わん。私の判断で血を流した部下の傷を考えれば大したことじゃない」

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2021.02.27 09:07 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十三章 ハンニバル艦隊 Ⅳ
2021.02.26

第十三章 ハンニバル艦隊




 カラカス基地と敵タルシエン要塞とに対し、ほぼ正三角形をなす地点にある恒星系の第四惑星に、共和国同盟最大の軍事施設であり、連邦軍の侵略を食い止める最前線基地となっているシャイニング基地がある。第十七艦隊の母港であり、最大収容艦艇十二万隻を誇る当地には、一億二千万人にも及ぶ軍人・職人及びその家族が暮らしている。
 軍事目的として開発されたとはいえ、公転周期二百二十五日、自転周期二十五時間という惑星には、全地表の三分の一を占める海が広がり、大気組成は地球型に近い酸素含有率と温暖快適な気温が、地上に生活する人々の完全自給を賄っていた。資源も豊富にあって、寄港する艦艇の燃料、修繕に必要な資材を供給する。
 惑星地上に点在する無数の高い鉄塔は、敵攻撃から地上設備を守るシールドビーム発生装置。それらを網目状に結ぶ地下送電線に電力を供給する核融合発電所は、敵の攻撃目標となるのを避けて地下三千メートルの深さに建設され、僅かに燃料搬出入用施設が露出しているだけである。それら施設を取り囲むようにして対空迎撃ミサイル発射口が上空を睨んでいる。仮に敵艦隊に防衛艦隊が打ち破られたとしても、揚陸作戦には五個艦隊以上の揚陸部隊を必要とするだけの防空能力を備えていた。ゆえに常駐する第十七艦隊のみで十分防衛が可能だとされていた。惑星が籠城して死守している間に、周辺基地から援軍を差し向ければ十分ということだ。

 艦艇を収容する軍港は、海岸線よりの開けた平野に建設されているが、十二ヶ所に分けられているその中でも最大のものは、艦隊司令部のあるターラント軍港である。
 その軍港ロビーの展望室から、まもなく到来する予定の艦隊を待って、空を仰ぐ二人がいた。
 二人の名前は、オーギュスト・チェスター大佐とリップル・ワイズマー大尉である。バリンジャー星域で散った旧第五艦隊の残存兵力を従えてアレックス達の部隊に併合されることになった部隊の指揮官とその副官であった。
 シャイニング基地上空に、独立遊撃艦隊が姿を現した。
「ついに来ましたね」
「ああ……」

 かつてのミッドウェイ宙域会戦において、撤退する連邦第七艦隊を追撃しようとして、返り討ちにあって壊滅したのが第五艦隊である。その残留部隊を統括しているのが、オーギュスト・チェスター大佐であった。司令官を失いちりぢりになった敗残の兵力をまとめあげ、規律正しく基地に帰還したことは、アレックスも賞賛の辞を惜しまない。
 二人の階級は同じであるが、独立遊撃艦隊の指揮権はアレックスにある。チェスターは副司令官として、アレックスの下に配置されることになった。年齢的に五十七歳の老練が、二十歳代の新進気鋭に傅くことになるのだ。
 チェスター大佐の人格面において特筆すべきことは、いかなる境遇に陥ろうとも決して自分に課せられた任務の遂行を怠らないことであった。シャイニング基地においてアレックス達の到着を待つあいだにも、出撃準備の体制を進めつつ配下の将兵に対して何をすべきかを忘れることのないチェスターであった。敗北に討ちし枯れている将兵達の間を回っては、捲土重来ここにありと新司令官となるアレックスの下で再起をかけることを説いてまわり、士気を鼓舞し高めるために尽力したのである。

 独立遊撃艦隊の旗艦サラマンダーは一目で見分けがつく。
 ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式といえば、同盟中を探しまわってもたった五隻しかなく、そのすべてがアレックスの元にあり、旗艦名を表す伝説の火の精霊サラマンダーがボディーに描かれた艦は一隻しかない。艦体に絵を描くなど、正規の艦隊であれば有り得ないことであるが、独立遊撃艦隊として特殊任務に就くことの多いアレックス達は、例外として黙認されてきたのである。そもそもアレックス達は、常に最前線にあって本星や艦隊司令部に戻ることがなく、監視の目も行き届かずに、気がついた時には連邦を震撼させる代名詞となっていた。
 そのサラマンダーから一隻の上級士官専用舟艇が飛び出した。
 それを見届けた二人は、
「さて、お出迎えするとするか」
 というチェスターの呟きとともに展望室を離れ、最上階に通ずるエレベーターに乗った。
 二人の向かった最上階は、床面積の五分の四を占めるヘリポートと、特殊強化透明プラスティックで隔たれた上級士官専用送迎デッキとで構成されている。
 エレベーターを最上階で降り、通路を警備する衛兵に身分証明書を提示して、二人が送迎デッキにたどり着いた時には、先程の舟艇はすでに着陸体制に入っていた。
 砂塵を巻き上げながらゆっくりと着陸する舟艇。
 タラップが掛けられ降りて来た人物。
 それが二人の新たなる上官となる、アレックス・ランドール上級大佐であった。
 カラカス基地周辺の攻略成功を受けて上級大佐の称号を受けていた。上級大佐とは正式な階級ではなく、職能級の一つである。将軍への功績点に達しながらも、定員による頭ハネの関係から、士気の低下を防ぐために設けられた大佐クラスに対する窮余の対策である。例えば日本の警察の巡査長という階級が良い例である。

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2021.02.26 12:20 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十三章 ハンニバル艦隊 Ⅲ
2021.02.25

第十三章 ハンニバル艦隊


Ⅲ                 

 数日後。
 満を持して、スピルランス艦隊が出撃を開始した。
 一切の補給を受けない、特攻部隊として。
 シャイニング基地やカラカス基地を目にともせずに、一路その背後の共和国同盟奥深くにまで進撃したスピルランス艦隊を、誰もが見落とすことになった。
 それがスティールの思惑だった。
 共和国同盟に侵攻するには、必ず基地を攻略して補給路を確保してからでなければ、実現不可能なものと考えられていた。誰もがそう考えるだろう。だから補給を無視した作戦など思いもしない。
 そこに落とし穴があったわけである。
 スティールの作戦は術中に入り、何の抵抗もなく共和国同盟の奥深くに侵入できたのである。
 こんなところまでに敵艦隊が進撃してくることなどあり得ないから、守備艦隊などいるはずもなかった。スピルランス艦隊は易々と、周辺惑星を攻略していった。
 共和国への侵攻ではなく、あくまでもアレックスをカラカスから引き離す陽動であるから真っ向から同盟艦隊と一戦交える必要もない。迎撃艦隊が弱いと見れば撃破し、強いと見れば逃げ回れば良いのだ。そして手薄な惑星を攻略して物資を簒奪する。

 共和国同盟の只中に出現した連邦軍に人々は震撼した。
 急遽迎撃艦隊が差し向けられたが、生死を分けるような本物の戦闘に参加したこともない、第五軍団の諸艦隊はまるで歯が立たなかった。
「なんだ、赤子を捻るように簡単だな」
 スピルランスが、呆れた表情で言った。
「当然ですよ。ここいらにいるのは、実戦の経験のない艦隊ばかりなんですよ。戦闘の仕方すらまともに知らない」
 
 共和国同盟が差し向ける迎撃艦隊をいとも簡単に撃滅させながらも、周辺惑星に対しては燃料や弾薬、そして水や食料といった物資を簒奪していった。
 攻略作戦が、容易く事が進んでいくうちに、将兵達の間には怠惰な日常から、安寧な態度へと変わっていく。

 それは一つの部隊の将校が引き起こした。
 食料の纂奪のうえに、占領した地域の婦女子に乱暴を働くという事態が発生したのである。
 永年の過去の歴史が示すように、占領住民への暴行は起こるべくして起こったものである。
 その事件が明るみになった時、同じ境遇にある他の将兵の衝動を止めることはもはや不可能となったと言わざるを得ないであろう。食料の搾取に向かった部隊のすべての男達が、食料を奪いとると同時に婦女子への暴行を働きはじめたのである。逃げ惑う婦女子を追い回し、悲鳴を上げるその衣服を引き剥がして事に及んだ。
 もはやそれは指揮統制された軍隊ではなく、欲望に餓えた野獣の軍団に成り果てていた。
 連邦の地を遠く離れて、敵地の奥深くに切り込んでの野戦状態、止める手立てはなかった。


 共和国同盟統合作戦本部では、緊急対策会議が連日で開かれていた。
 自国内に攻め込んできたスピルランス艦隊だが、地球古代ローマ史にちなんでハンニバル艦隊と呼称されていた。
「これ以上、ハンニバル艦隊の簒奪を許しておくわけにはいかない!」
「そうは言っても、第五軍団には奴らには太刀打ちできる者はいません。平穏無事に訓練程度しか行ったことのない連中ばかりなんですから」
「何を考えておるのだ。こういう時にこそ役に立つ、格好の人物がいるじゃないか」
「格好の人物?」
「ランドールだよ」
「ランドール!」
「しかし彼は、カラカス基地にいます。担当区域が違います」
「そもそもハンニバルが侵入してきたのは、第二軍団が油断してその通過を許してしまったからに他ならない。その責任を取らせるためにも、第二軍団のランドールに出てもらう」
「しかし、今ランドールをこちらに向かわせれば、カラカス基地ががら空きになります。敵がそこを狙って奪還に来るのは明白な事実です。ハンニバルは陽動作戦です」
「だからといって、第五軍団に迎撃できる者はいない。そうだろう」
「確かにそうではありますが」
「なあに、ランドールにはハンニバルを撃退したあとで、またカラカス基地を攻略させればいいんだよ」
「そ、そんなこと……」

 また無理難題を押し付けてきたな……。
 ニールセン派の参謀達も、さすがにそれが行き過ぎであることがわかった。
 せっかく苦労して手に入れた基地を見放した上に、それをまた攻略させるなどとは……。
 最悪の結果としてカラカス基地からの侵攻作戦を許してしまうことになる。
 ここは最新鋭戦艦の揃ったニールセン直属の第一艦隊を派遣するのが最善だろう。
 しかし、面と向かって意見具申できるものもいなかった。

 結局、ニールセンの提案通りに可決された。

 サラマンダー艦橋。
 パネルスクリーンに映るトライトン准将と通信を交わしているアレックス。 
「迎撃に向かった艦隊はことごとく撃破されて、すでに五個艦隊を失っている。奴等をこれ以上のさばらせることはできないのだ。そこで君に白羽の矢が立った。君の配下の部隊全軍をもって、これを撃退してもらいたいのだ」
「守備範囲が違いますよ。ハンニバルが暴れているのは、第五軍団の担当区域です」
「判っている。だが、やつに対抗できるのは、これまでにも数多くの敵艦隊を撃退した実績を持つ君しかいないのだ。最前線を受け持つ我々第二軍団と違って、第五軍団は内地にあって戦闘の経験がないに等しいからな、ハンニバル艦隊にとっては赤子の手を捻るようなものなのだ。食料を纂奪されるのはまだいい。しかし婦女子がこれ以上暴行されるのを黙って手をこまねいて見ているわけにはいかんのだ。是が非でも食い止めねばならない」
「ハンニバル撃退の任に付くのは構いませんが、カラカスを空にしてもよろしいのですか。我々が出撃した後を代わって守れる余剰戦力は第二軍団にはないはず。かといって、第一軍団からは出してくれないのでしょう?」
「そういうことだな……」
「敵もそれを狙っているのは確実です。ハンニバルに関わっている間に奪取されるのは目にみえています。ハンニバルの真の目的がそこにあるのではないかと、私は考えています。カラカスから我々を引き離すために」
「それは十分考えられることだ。しかし足元を切り崩されるのも防がねばならないのだ。早い話しがだ、君にハンニバルを撃退させて、その後でカラカスを再び攻略させるということなのだよ。それが統帥本部の作戦というか……」
「チャールズ・ニールセン中将の考えですか」
「ま、そのな……とにかく統帥本部の決定は変えられない、君は四十八時間以内に部隊を率いて出撃したまえ」
「わかりました」
「それと……。いかに君とて、ハンニバル艦隊が相手では、現有勢力では心細いだろう。シャイニング基地に逗留している第五艦隊の残留兵力二万隻を君の部隊に併合させることにした。使ってやってくれ」
「第五艦隊をですか」
「そうだ。これをもって第五艦隊は正式に解体されることになった。敗残の兵となり意気消沈している彼らも、英雄と湛えられる君の配下に入れば心機一転の好機となりうる。また、それを成さしめるのが、君に課せられた課題というわけだ。私がハンニバル撃退を引き受けたのも、旧第五艦隊の将兵達の命運を君に託したかったのだ」
 第五艦隊の司令官としてそのままアレックスが引き継がないかという疑問が残るだろうが、正規の艦隊を指揮するのは准将という厳守規定があり、大佐である限りそれは許されないことであった。独立遊撃艦隊という正規ではない艦隊だからこそ可能であったのだ。
「私にできるとお思いですか」
「できなければ、君もそれまでの武人でしかないといういうことだ。いくら英雄と湛えられていようともな」

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2021.02.25 07:49 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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