銀河戦記/鳴動編 第一部 第十五章 収容所星攻略 Ⅰ
2021.03.10

第十五章 収容所星攻略




 パトリシアは副指揮官リーナ以下の参謀達を作戦室に招集して、タシミール収容所の状況と作戦の概要を説明した。
「これが今回の作戦の目的地のタシミール収容所です」
 スクリーンに情報部よりのタシミール概要を表示させた。
「ここに同盟の捕虜数千人が収容されているという情報があります。我々はここに進軍して事実確認をすると共に、情報通りなら捕虜を救出します」
「その情報というのは、どこから出たのですか? 情報参謀のウィング少佐ですか?」
 リーナが尋ねた。
「いえ。ウィング少佐の情報部ではありません。統合軍直属の情報部よりのものです」
「となると信憑性はかなり低いですね」
「信頼性ないですからね、統合軍は。何たってランドール提督を落としいれようとしている連中ばかり集まっているんですから」
 ジャネットがさもありなんといった表情で答える。
 うんうんと皆が頷いている。
「とにもかくにも任務です。情報通りと考えて行動するよりありません。そして捕虜という人質がいますので、電撃的速攻であたらねばなりません」
「電撃的速攻と申されても、それには敵に悟られることなく接近、戦闘を開始するしかありません。どうなさるおつもりですか?」
「我々の接近を直前まで知られないために、P-300VX特務哨戒艇を使って敵艦隊の動静を探り、一気に行動を起こします」
「特務哨戒艇?」
「P-300VX?」
 一同が首を傾げた。
 P-300VXは、戦艦搭載の索敵レーダー能力の十倍以上の索敵レンジを誇る、超高性能の索敵レーダーを搭載した哨戒艇である。戦闘用の艤装は一切なく、エンジンを除けば、挺身のほとんどが最新最高性能の索敵レーダーと電子装備で占められていた。秘密兵器は索敵レンジの広さだけではない。敵の索敵レーダーなどの探査波が到来してきても、川面に頭を出した岩に当たった水の流れのように、特殊な歪曲場シールドがそれをすべて後方に透過させて、哨戒艇自身が発見されることを防いでいた。とりもなおさず可視光線さえも透過させるので、その艦影を視認することさえも不可能であった。
 これを開発したのは、技術部開発設計課にいたフリード・ケイスンであった。
「ほんとに何でもできるんだな」
 とアレックスを感心させる天才科学者である。
 しかし哨戒艇の発案者はパトリシアであった。
 キャプリック星雲遭遇会戦の教訓をもとに、いかに索敵が重要かを身に沁みて実感していたパトリシアが、哨戒艇の原案をフリードに説明して開発研究を依頼し、アレックスに具申して五隻ものP-300VXの導入を実現させたものだった。基本的にサラマンダー以下の旗艦・準旗艦にそれぞれ一隻ずつ配属させていた。
 最新鋭高性能な哨戒艇ではあるが、反面その製造コストも莫大で、戦艦百二十隻分にも相当すると言われている。共和国同盟の新造艦艇リストに加えられ、詳細性能が公表されても。それを進んで導入する艦隊は少なく、せいぜい一艦隊に一隻か二隻ほどしか配属されていなかった。哨戒など数隻の駆逐艦を索敵に出させば済むことだと、高価な哨戒艇よりも戦艦百二十隻の方を選択するのが当然であった。
 パトリシアは今回の任務に、その貴重な哨戒艇を三隻も借りて連れてきていた。

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2021.03.10 07:50 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十四章 査問委員会 Ⅵ
2021.03.09

第十四章 査問委員会




「出撃してよし!」
 出撃の許可を下すカインズ。
「了解!」
 前に向き直って下礼するパトリシア。
「全艦、出撃! 微速前進!」
 その命令を復唱し、機器を操作するオペレーター達。
「全艦出撃開始」
「微速前進!」
「機関出力、微速前進。推力15%」
「前方、オールグリーン。障害物なし」
 ゆっくりと進撃を開始する空母部隊。
「全艦異常なし」
「よし。進路をタシミール宙域へ」
「了解。進路、タシミール宙域」
「取り舵、十度。ベクトル座標を確認・入力」
「α3120、β367、γ9285」
「ベクトル座標確認・入力完了しました」
「これより亜光速航行に入る。全艦、亜光速へ」
「亜光速航行へ移行します」
「全艦、亜光速航行!」
 日頃からアレックスやスザンナ艦長のそばで、艦隊運用の指揮を目の当たりにしていただけに、パトリシアの指揮には微塵の惑いもなかった。記憶力にかけては艦隊随一を誇るだけに、自信のほどを伺わせる表情を見せていた。
「提督が出られております」
 通信士が進言した。
「スクリーンに出して」
「スクリーンに出します」
 正面のスクリーンに、昇進して将軍の一人となったばかりのアレックスの姿が映し出された。提督というオペレーターの声に、よくぞここまでという頼もしい感情に溢れた。そして今、その期待に応えるべく出撃できる思いに感謝したい気分だった。
「パトリシア、実戦を指揮する初陣だ。気を引き締めてな」
「はっ! 頑張ります」
 アレックスの横から顔を出して激励するのはジェシカだった。
「朗報を待っているわよ」
「ご期待に応えます」
「祝杯を用意して待っているからね」
「はい!」
「それじゃね」
 カッと踵を合わせて最敬礼するパトリシア。
「行って参ります」
「うむ」
 敬礼を返して答えるアレックス。
 そして通信が切れた。

「機関出力82%、亜光速に到達しました」
 オペレーターの声に、改めて姿勢を正し緊張の面持ちで下令するパトリシア。
「これよりワープに入る。全艦ワープ準備」
「全艦ワープ準備」
「ワープ航路、設定完了」
 指揮官としてワープ命令を下すのははじめてのことであった。しかし訓練は何度となく経験しているし、シュミレーションも充分すぎるほど行なっている。
 自信はあった。
「全艦に伝達、リモコン・コードを旗艦セイレーンに同調。確認せよ」
「全艦、リモコン・コードを旗艦セイレーンに同調させよ」
 正面のパネルスクリーン上に部隊の各艦艇を示すマーカーが赤く点灯している。それがコードを設定完了した艦から次々と青の点灯に変わっていく。それらがすべて青に切り替わった。
「全艦、リモコン・コードの同調完了。ワープ準備完了しました」
「よろしい。これより三分後にワープする」
「ワープ三分前、設定します」
「ワープコントロールをリンダ・スカイラーク艦長に任せる」
「ワープコントロールをスカイラーク艦長へ委譲します」
 艦隊リモコン・コードを使用して、旗艦に同調させた場合には、その操艦のすべてが旗艦艦長のリンダ・スカイラークの双肩にかかることになる。
「ワープコントロールの委譲を確認。これより全艦ワープのオペレーションに入ります。ワープ、二分三十秒前!」
 これまでに何度となく全艦ワープを取り仕切っているリンダだけに、何の躊躇もなくコントロールパネルを操作している。もちろん他のオペレーター達も一抹の不安を抱くことなく安心しきっている。
 オペレーター達がワープ体制に突き進むその姿を指揮官籍から監視しているパトリシア。リーナから手渡された書類に目を通してサインして返している。
「ワープ、二分前。総員、着席ないし安全帯着用。ワープに備えよ」
 ワープには少なからず衝撃がある。身体を振り飛ばされないように着席するか、立ち作業の機関部要員などは安全帯で、艦の筐体に固定させる必要がある。
 艦内の各員それぞれが緊張の面持ちで身体の固定に取り掛かっていた。
「ワープ一分前。最終確認に入ります。ワープ座標設定、ベクトル座標α3120、β367、γ9285」
「ワープ座標設定を確認。オールグリーン、ワープスタンバイOK!」
「艦隊リモコンコード設定よし。全艦、ワープ体制問題なし!」
「旗艦セイレーン、機関出力最大へ。ワープ三十秒前!」
「兵器への動力供給をカットします」
 ワープ実行中は一切の戦闘が行なえない。兵器に動力を供給しても意味がないのでカットして、その分をワープエンジンなどに回すわけである。カットされるのは兵器だけではない、ワープに少しでも余剰電力を回すために、照明などあらゆる方面で電力削減が行なわれる。
「各ブロックの電力をセーブします」
「最終カウントダウン開始、十秒前、九、八……」
 さすがに全員が緊張して、息を呑んでいる。
 パトリシアも大きく深呼吸をしている。次なる下令のためである。
「……三、二、一」
 そしてパトリシア。
「全艦ワープ!」
 リンダが復唱する。
「全艦ワープします!」

 宇宙空間を進む第十一攻撃空母部隊。
 それを取り囲む空間が一瞬揺らいだ。
 そして次の瞬間には、部隊全艦の姿が亜空間に消え去った。

 第十四章 了

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11
2021.03.09 07:24 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十四章 査問委員会 V
2021.03.08

第十四章 査問委員会




 士官学校の話題にしばし心和む時間を有していたパトリシア達。
 それを打ち消したのがジミーだった。
「ところで本題に戻るけど、敵艦隊が待ち受けしているとの噂がある。それが本当だとして、勝算はありそうかい?」
「これだけは何とも言えません。敵艦隊のことは、あくまで噂や憶測でしかありませんから。想定されるあらゆる可能性を考慮に入れて、作戦プランを練ってはおりますが」
「そうか……それを聞いて安心したよ。パトリシアが考え出した作戦なら確かだからな」
「買いかぶらないで下さい。緊張しちゃいますよ」
「何を謙遜しているんですか。みなさん期待しているんですからね。早く少佐になってアレックスを作戦面でバックアップしてあげなさいよ」
「努力致します」
「うん。その意気でいきな」
 気楽な表情で語り合っている三人であるが、いざ敵艦隊との戦闘になれば、先頭を切って飛び出し生死を分けた戦いに駆り出されるのは必至である。それだけにその陣頭指揮を執るパトリシアに対しては万感の思いを持っているに違いない。
 何にせよ、アレックスとその参謀達への信頼は揺るぎのないものであった。
「ウィンザー大尉。そろそろ艦橋に参りましょう」
「あ、はい。そうしましょう」
 いつまでも語り合いたい心境ではあったが、出撃予定時間が迫っていた。
「頑張れよ」
「戦闘に関しては、俺達にまかせてくれよな」
「はい。よろしくお願いします」
 軽く敬礼して、パイロットの控え室を退室するパトリシアとリンダ艦長であった。

 エレベーターの所まで戻ってくる二人。
「このエレベーターを昇ったところが艦橋です。参りましょう」

 エレベーターを昇り詰めた先に、セイレーンの艦橋があった。
 入室してきたパトリシアを見て、一斉に立ち上がって敬礼をするオペレーター達。
「何してたのよ。遅かったじゃない」
 リーナがリンダに耳打ちするように叱責している。
「ごめんなさい。ちょっとジミーさん達と」
「あのねえ……あなた艦長でしょう。責任者としての地位にあるものが、任務を忘れてどうするのよ。艦内における指揮官の行動を把握して、十二分に采配を振るえるようにして差し上げるのが艦長の役目でもあるのよ。それを……」
「済みませんでした。以後気をつけます!」
 少し悪戯っぽい口調で答えるリンダ。
「まったくう……。これで艦長だって言うんだから、呆れるわ。いいわ、席に着きなさい」
「はーい」
 スキップするような足取りで艦長席へ向かうリンダであった。
「全然、反省してないわね……」
 呆れ顔のリーナ。
「さてと……」
 と、ここで真顔に戻ってパトリシアを見やるリーナ。
「ウィンザー大尉。そろそろ出航の時間です。指揮官席にお座りください」
「そうですね……。判りました」
 甲斐甲斐しく働くオペレータ達の動きや、パネルスクリーンに投影された各艦の様子を見つめていたパトリシア。リーナの進言を受けて静かに指揮官席に腰を降ろした。その傍にリーナが副指揮官として立ち並んだ。
「中佐殿に連絡して」
 リーナが指示し、スクリーンにカインズが映し出された。
「準備完了致しました。こちらへお越しください」
「判った。今から行く」
 やがてパティーを連れてカインズが艦橋に現れた。
「これより、査問委員会の命を受けてパトリシア・ウィンザー大尉の佐官昇進試験の一環として、タシミール星にて確認された収容所からの捕虜救出作戦に出撃する。パトリシア・ウィンザー大尉。指揮を執りたまえ」
 そして艦橋の後方に誂えた教官席に腰を降ろした。
「了解しました」
 指揮パネルを操作して、艦隊運行のシステムを立ち上げるパトリシア。
「現在の艦隊の状態を報告して下さい」
「全艦の状態は良好です。いつでも出航可能です」
「よろしい。そのまま待機せよ。全艦放送の用意を」
「全艦放送の用意は完了しています。どうぞ」
 声を整えて静かに言葉を告げるパトリシア。
「全艦の将兵に告げる。これより第十一攻撃空母部隊は、タシミール星にあるとされる収容所の捕虜救出のために出撃する。各将兵達の奮闘を期待します」
 艦内のあちらこちらで、パトリシアの出撃に向けての放送に耳を傾けている将兵達。その表情には心配の陰りを見せてはいなかった。我らがランドール提督が差し向けた指揮官に、不安の種などあるはずもないと信頼しきっていたのである。
「出撃の時間です」
 パティーの報告を受けて、後ろを振り返るパトリシア。
「カインズ中佐。よろしいですか?」

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2021.03.08 07:09 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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