銀河戦記/鳴動編 第一部 第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅱ
2021.02.02

第十一章・スハルト星系遭遇会戦




「中佐。そろそろ、巡回査察のお時間です」
 レイチェルが自分の腕に巻いている婦人腕時計の指針を確認して言った。
「うむ……わかった」
 と、ゆっくりと立ち上がるアレックス。
「今回はパス、というわけにはいかないかな」
「規則です。指揮官が軍規を無視しては、配下にたいして示しがつきません」
 きっぱりと答えて、アレックスを促すレイチェル。

 中央エレベーターから第十四ブロックに降りた所が女性士官居住区だ。
 レイチェルと並んで通路を歩いていると、行きかう女性士官が慌てて敬礼をして、
通路の端に寄って道を譲っていく。
 巡回査察があることは知らされてるので、男性のアレックスが通行していても、誰
も咎める者はいない。いや、査察でなくてもアレックスなら、皆が許してくれるだろ
う。
 パジャマ姿で平気で出歩いている女性もいると聞くが、さすがに査察があると知っ
てちゃんとした服を着ているなと、アレックスは考えていた。
「次ぎはランジェリーショップです」
「やっぱり……。そんなところも査察しなければならないのか」
「当然です。そもそもランジェリーショップの運営は、中佐殿が特別許可なされたも
のでしょう。その運営が滞りなくなされているか査察するのは義務というものです」
 ふうっ。
 と大きくため息をつくアレックス。
「早いとこ済ませたいものだ……」
 ランジェリーショップは、第十四ブロックの女性士官居住区、中央エレベーターか
ら左手に回った所にある。
「いらっしゃいませ!」
 店員が愛想良く迎える。
「いや、買い物にきたわけではないから……」
「まあ、いいじゃないですか。殿方を魅了する素敵なランジェリーが盛り沢山。それ
を見るだけでも」
 レイチェルが背中を押すようにしてアレックスを店の中へ誘いこむ。
「ば、馬鹿。何いってるんだ」
 冷や汗をかきながら店内に入るアレックス。

 店内にいた女性達の視線が集中する。男性の入店に一瞬緊張感が走るが、そこに指
揮官の姿を確認して、一斉に敬礼を施した。
 巡回査察か……。
 みな一様に納得した表情をしている。
 一人の女性士官が、アレックスのそばに歩み寄って来る。
「ここの責任者のアイシャ・ウィットマン少尉です。よろしくお願いいたます」
「や、やあ……」
「このランジェリーショップを一目見られたご感想はいかがですか?」
「そう言われてもなあ……」
「このようなランジェリーショップの運営を許可して頂き、女性士官一同、中佐殿の
ご配慮には感謝いたしております」
「そ、そうか」
「念のためでありますが……。上着の方は軍規で決められた軍服の着用が義務付けら
れておりますが、下着に関しては一切の決めごとはありません」
「つまり、軍服の下に何を着ようと自由というわけだ」
「その通りです。中佐殿は、パーティーには参加なされたことはおありでしょう?」
「まあな」
「では、そこに参加する女性達を見てお気付かれると思いますが、一人として同じド
レスを着ている者がいないということを。規則で決められていない以上、他人と同じ
物を着ることなど耐えられないのが女性なのです。そして見えないところに精一杯の
おしゃれをすることこそ、女心というものであり生きがいでもあるのです」
「まあ、確かに男性の着る下着を考えると、ランニングシャツにブリーフないしはト
ランクスという基本パターンを踏襲していて、数えるほどしかバリエーションはない
よな」
「これらのランジェリーのすべては、艦内の作衣工廟で生地を裁断し縫製したもので
す。作業には衣糧課の女性士官があたっており、艦内インターネットを通じて、全女
性士官の要望などを取り入れてデザインを起こし作成しております」
「中佐殿。ご遠慮なさらずに、どうぞ手にとって十分にご覧になってください」
「あ、ああ……」
 条件反射的に言われるままにランジェリーを手に取ってみるアレックス。
「いかがです。デザインはもちろんのこと色柄・材質どれをとっても市販として流通
しているものには見劣りしませんよ」
「そういわれてもなあ……」
 アレックスにとっての婦人下着いわゆるランジェリーといえば、同居しているパト
リシアが所有するものがすべてであり、彼女が着替えの時などに垣間見る他は、手に
とってじっくり鑑賞することなどありはしない。当然、感想を求められても答えられ
るものではなかった。
「せっかくいらしたのですから、中佐殿の恋人へのプレゼントにお一ついかがです
か」
「おいおい。買い物に来たのではなく、査察なんだぞ」
「まあまあ。固いことおっしゃらずに。そうですね……これなんかいかがです?」
 といってアイシャが手にとって見せたのは、パープルのベビードールであった。
 恋人といっても妻であるパトリシアということになる。
 パトリシアに似合うかな。いや、それ以前にこれをプレゼントされてどういう反応
をするかが問題だ。
 などとふと思ったりもするが……、
「いや、遠慮しておくよ。とにかく仕事をさせてもらうよ」
 いつまでも関わっていたら、本当に衝動買いしてしまいそうだった。
「そうですか……。残念ですね」
「ここはもういい。次に行くぞ」
 ランジェリーショップを出て行くアレックス。
「あら……中佐殿。査察……ですか?」
 入れ違いに、かの特務捜査官のコレット・サブリナ中尉が店に入るところだった。
「なんだ君か……。君もここへ買い物に来たのか?」
「ええ。仕事がない時は、よくきますよ。見るだけでも楽しいですからね」
「そうか、じゃあゆっくり見ていってくれたまえ」
「はい。中佐も頑張ってください」
 何を頑張るというのか……。おそらくアレックスの心情を察してのねぎらいの言葉
なのかも知れない。
 レイチェルと二人で並んで歩くアレックス。
「ところで……、君もあんな下着を身につけているんだろうね」
「もちろんですわ。なんだったら見せてさし上げましょうか?」
「うう……。遠慮しとく」
「そうですわよね……。婚約者のパトリシアの下着姿くらいは見慣れていらっしゃる
でしょうから。彼女も結構魅惑的な下着つけてるのよね。やっぱり恋人がいる人は下
着にも結構気を付けるから」
 というレイチェルの言葉の最後の方はぼやきにも似た呟きとなっていた。
「見たのか?」
「一応、女同士ですから。一緒に着替えることありますもの」
「女同士ね……そっか……」
「それでは、次へ参りましょう」
「まさか、女子更衣室だなんて言うんじゃないだろうな」
「ご拝見なさりたいなら」
「いや、遠慮しとく」
「はい」
 といって、くすっと笑うレイチェル。

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング



11
2021.02.02 07:41 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅰ
2021.02.01

第十一章・スハルト星系遭遇会戦




「なあ、今回はパスということに出来ないかい?」
「だめです。巡回査察は司令官の責務です。指揮官が軍規を犯していては、部下に示しがつきません」
「しかし、場所が場所だからなあ……」
 アレックスが頭を抱えている原因は、今回の巡回査察の区域にあった。
 女性士官専用居住ブロック。男子禁制の女性士官だけの区域である。
 軍艦というものは、本来男子オンリーの職場が一般的であるから、男子禁制などという区域があるはずもないのだが、アレックス率いる部隊は女性士官配属率が平均で三割を越えていた。特に、通信・管制オペレーターが数多くひしめく旗艦サラマンダーにあっては、その六割が女性士官という華やかな環境にあった。こうなると必然的に男女を分け隔てる必要が出てくるわけで、それが女性士官専用居住ブロックという区分けの誕生を促したのである。

「男の私が、女性士官専用居住区に入るなんて……」
「艦内運用規則第十八条の第三項。巡回査察の責務について、艦の責任者は定期的に艦内の査察をすべからく実施し、規律や士気の向上を計るために、これを指導すべし。お忘れですか?」
「知っているよ」
「規則にはすべからくとあります通り、艦内くまなく査察しなければなりません」
「だから、後回しにするとかさ……」
「結局やらなければならないのは同じ事です」
「なあ、艦長のスザンナにまかせるのはどうだ? 艦長だし、艦の責任者だ」
「いいえ。他の艦なら、艦長がやるのが当然ですが、ここは旗艦『サラマンダー』です。旗艦の最高責任者は、ランドール中佐です」
「ランジェリーショップ……あるよな……」
「あります」
「産婦人科クリニックも……」
「あります」
「どんな顔してりゃいいんだよ。恥ずかしいことこの上ない」
「もう……。アレックス! いい加減あきらめて腰をあげなさいよ!」
 レイチェルが、私語を使って叱りつけるように言った。部隊内で唯一、幼馴染みという間柄だからこそ言える言葉だった。
「わ、わかったよ。行けばいんだろ、行けば……」
 さすがに私語で叱られても反論できず、渋々重い腰を上げるアレックス。
 女性士官専用の居住区というものが存在しない他の艦隊ならこんな悩みなど発生しなかったのだ。
 それは……。独立部隊が発足して、パラキニア星系・ゲーリンガム隕石群での最初の戦闘訓練を終えてパラキニア星に寄港する際の事だった。

 女子更衣室。着替えをしている女性士官達。
「いい加減。配給の下着にはうんざりするわね」
「丈夫で長持ちだけが取り柄なんだよね」
 と、ショーツを手にとって目の前にかざして見る隊員。
「ねえねえ。主計科主任のレイチェルさんに頼んでみようよ」
「主任に?」
「うん。主任なら何とかしてくれるかもしれないわ」
「なんたって、司令官の幼馴染みだそうだもんね」
 それから有志がレイチェルに直談判したらしい。
 そして……。
 アレックスの所にレイチェルはやってきた。
「今日は主計科主任として、部隊の女性士官を代表してお願いがあって参りました」
「何事かな。改まって」
「はい。女性士官専用居住ブロックの一部を解放して、ランジェリーショップの営業を許可して頂きたいのです」
「ランジェリーショップ……!?」
「部隊に所属する将兵の軍服や下着類は、一定期間毎に配給があるのは、少佐殿もご承知かと思いますが」
「知っている」
「この配給品の下着類について、女性士官達の不平不満が募っております」
「不平不満だと」
「軍から配給されるものは、いわゆるおばさんパンツと不評を買っており、日常として身に付けるに堪え難いとか」
「そうなのか?」
 そばのパトリシアに尋ねるアレックス。女性衣料に関することを聞けるのは、パトリシアをおいて他にはいないだろう。
「はい。確かにレイチェルさんのおっしゃる通りです。女性士官の間では何とかして欲しいという声があるのは確かです」
「軍艦に搭乗している限り、今日にも戦死するかもしれません。死出の旅路に出発する時に、おばさんパンツを履いていては、恥ずかしくて死んでも死にきれません。ですからせめて下着だけでも、精一杯のおしゃれをしていたいと思うのは、女心として無理からぬことではないでしょうか」
「男には判らない女性心理というわけか……で、具体的にどうするつもりなのだ」
「はい。衣糧課にある施設を使用しまして、ランジェリーのデザインから縫製まで一貫生産します。そして女性士官居住区の一部を開放してショップを開きます。店員は衣糧課から派遣します」
「その収益はどうするんだ。生地は当然軍からの支給品だし、課員を使役するとなると……」
「もちろん非営利です。福利厚生費に充当して還元します」
「なるほどね……。まあ、いいだろう。ランジェリーショップの営業を許可する。運営上の問題は、すべて君に一任する。好きなようにやってくれたまえ」
「ありがとうございます」
 というわけで、ランジェリーショップの設置を許可したのだが……。

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング



11
2021.02.01 06:54 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十章 コレット・サブリナ Ⅵ
2021.01.31

第十章 コレット・サブリナ 氷解




 事件は、犯人の死亡という結果となったものの、一応の解決を見た。
 コレットはアレックスに対して捜査報告をまとめて提出した。
「カテリーナはスパイだったと思うか?」
 アレックスは率直に尋ねてみた。
「カテリーナ・バレンタイン少尉がスパイだったのか、或は単なる物取りだったのか、当人が死んでしまった以上それを確認することはもはや不可能ですが、ともかくも身体が小柄なのを利用してダストシュート伝いに各部屋を行き来して犯行に及んだのは確実なようです」
「それをミシェールに見られて殺害したのか……その肝心な共犯者の手掛かりは?」
「一切の証拠となるものを残していません。完璧に迷宮入りですね。申し訳ありません」
「君の本来の任務はミシェール殺害に関してだ。その共犯者ともいうべきスパイの潜入捜査は別件になるだろう。君の捜査範囲を越えるはずだ」
「とにかく、首飾りを部屋に隠しに戻ったのが、命取りになりましたね。あの部屋が立ち入り禁止ということでは最良の隠し場所だったわけです。しかし私が念のために施していた封印に気がつかずに扉から出ていって、犯行を露見させる結果となりました」
「参考までに聞くが、このエメラルドのネックレスは本物かイミテーションが判断できるかい?」
「それは今回の捜査では重要ではありません。気になるならご自分でお調べください」
「そうか……。実はそれは、わたしがマスカレード号で助けられた時に、身に付けていたものなんだ。母の形見かなんかだろうと思っている。本物かどうか調べてイミテーションだったら、形見としての思いが薄れるかもとそのままにしていた。もしかしたら犯人がこれを盗みだしたのも、何か重要な秘密が隠されているのかも知れない」
「たぶん正しい判断だと思います」
「まあいいさ……。それで君は、レイチェルの件について、告発するつもりはあるかい?」
「勘違いされては困ります。わたしはライカー少尉の他殺疑いを調べるために派遣されてきました。その捜査の必要から、特務権を執行して関係者の素性も細密に調べてきました。しかし捜査で得た機密情報は、たとえそこに犯罪が潜んでいてもわたしとしては公開し告発することは権限として与えられておりません」
「捜査情報の機密厳守条項というやつか。それがなければ誰も証言してくれないだろうからな」
「あくまでライカー少尉の他殺を証明するために必要な諸情報のみ証拠として公開できるのです。もっともレイチェル大尉の素性捜査を他から任務として与えられれば話しは別ですが」
「そうだろうな」
「個人的見解を述べてよろしいでしょうか」
「どうぞ」
「レイチェル・ウィング大尉は、その経緯はともかく内面的においては、完全に女性としての精神を持っています。日常生活においては何ら不都合なく女性として暮らしており、周囲の人々も疑うことなく女性として接しています。今更事実を明かして周囲を動揺させるよりは、このまま女性として生きていただいた方が、すべての人に対してベターとはいえるでしょう」
「もし誰かにばれて告発された場合、性の登録を戻されるのかな」
「それは有り得ないでしょう。社会的にすでに女性として世間に認められて確固たる
地位を築いていることと、もはや元の完全な男性には戻れないという観点からです。ただし罪は受けます」
「そうか……」
「他の男性との結婚も法律的には可能です」
「結婚か……子供は作れないかも知れないがな」
「子供が作れなくても養子を迎えて育てることはできます。戦災孤児はたくさんいますからね」
「ついでだから相談したいのだが、レイチェルが男性と結婚すると言い出した時、自分としてはどうすればいいと思う?」
「事実を知りながらそれを黙認なされた以上、レイチェル自ら真相を語らない限り、今後もその事実を隠し通す義務があると言えるでしょう。あなたは結婚する二人を暖かく祝福するしかないでしょう。相手が誰であろうとも」
「そうだろうな……」
「レイチェルの罪を黙認したというのがあなたの罪であり、そのことで一生悩まなければならなくなったことが、それに対する罰ということですよ」
「罪と罰か」
「罰を軽減するために他人に、たとえば婚約者であるウィンザー中尉などに告白することも、おやめになられた方がいいでしょう。あなたの悩みは多少軽減するでしょうが、こんどは相手を一生悩ませる結果になるだけですから。すべてはあなたとレイチェルだけの間だけで留めておくことです」
「そうだよな……忠告、ありがとう」
 コレットは姿勢を正して言った。
「それでは、IDカードの特権コードを抹消願います」
 と言いながらIDカードを提出する。
「そうだな……」
 IDカードを端末に差し込んで、乗員名簿閲覧などの特権コードを消去していくアレックス。任務が終われば特務権は消失する。艦長レベルで設定してあるので、万が一紛失や盗難にあい、悪意を持った者にカードが渡れば、艦の乗っ取りが可能だからである。
「ともかく、よく任務をまっとうしてくれた。感謝する」
 IDカードを返しながらねぎらうアレックス。
「任務ですから……。それでは失礼します」
 というと、コレットは敬礼を施して踵を返して退室していった。


EPILOGUE


 結局事件は公表されることなく、第一捜査課の事件簿に記入されるだけで終わった。
 ミシェール・ライカー少尉及びカテリーナ・バレンタイン少尉は共に戦死扱いにされた。
 こういうことは艦隊運営においてはよく行われることであった。本人に何ら悪意や過失もなく事故死したり殺害された場合、温情的に処理される。
「まあ、遺族の事を思ってのことだが……」
 そう、戦死なら二階級特進で遺族恩給に上乗せされるが、殺人ならそれが何もない。遺族にとっても、殺された怨念を一生涯心に残して暮らすよりも、世の為に身を投じて殉職したと思ってくれた方が、はるかに精神的に良いに決まっている。

 両名の戦死報告書にサインをしてレイチェルに渡すアレックス。キャブリック星雲不時遭遇会戦において重傷を負い、治療のかいなく亡くなってしまったというものだった。
 死んだ者をいつまでもくよくよと考えてもはじまらない。
 アレックスは気持ちを整理して、部隊司令として命令を下す。
「カラカス基地はもうすぐだ。まもなくスハルト星系を通過する。カインズ少佐は、星系周辺に展開して哨戒作戦に入れ。残る部隊は、そのまま進行。伝達せよ」
「了解!」
 すぐさま命令が各部隊指揮官に伝えられた。
 哨戒の為に、スハルト星系周辺に展開をはじめるドリアード以下のカインズ部隊。

 とある一室。
 暗い部屋の中で背中側を見せている人物の前に立つ男。
「これが潜入して手に入れた敵司令官の情報資料です。お問い合わせの品は持ち帰ることは出来ませんでしたが、マイクロフィルムに収めて同封してあります。一応プリントアウトしてお手元に」
 開封した資料から男のいうプリントを取り出してみる人物。
「これがそうか」
 そこにはエメラルドの首飾りが映っていた。
「その首飾りにどういう秘密があるんですか?」
「お前の知ることではない!」
 強い口調で叱責する声に驚いて後ずさりする男。
「へ、へえ……」
「ご苦労だった。この件が外部に漏れるようなことはないだろうな」
「抜かりはありませんぜ。共犯者は口封じしておきました」
「そうか。では、残りの報酬だ」
 その人物は金貨の入った袋を差し出した。
「へへ。ありがとうごぜえやす」
 男は袋を受け取ると、くるりと背を向けて袋を開けて中を確認しているが、次の瞬間に苦痛に歪む表情を見せたかと思うと床にどうと音を立てて倒れた。
 背後にはブラスターを片手に持った人物の下半身が見えていた。
「共犯者を口封じしなければならないような任務ならば、いずれ自分も抹殺されるということを察知できないとはな……金に目が眩んで、将来を見通せなくなる。おろかな奴だ」
 こつこつという靴音を立てながら進み出て、床に倒れた男を跨いでドアに手を掛ける人物。つと振り向いたその顔にランプの光が映えて、深緑色の瞳が一瞬輝いてすぐに消えた。

 第十章 了

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング



11
2021.01.31 07:47 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十章 コレット・サブリナ V
2021.01.29

第十章 コレット・サブリナ 氷解




 アスレチックジム。
 カテリーナは、天井の張りにロープを掛け、首吊り死体となって発見された。
 不審な状況証拠は一切見られず、自殺としか考えられなかった。
 現場に到着して、その遺体の検分に当たったコレットは地団駄を踏んでいた。
「口封じか……」
 共犯者にしてみれば、どじ踏んで殺人を露見させてしまった相棒を、いつまでも生かしておくわけにはいかないだろう。捜査が進めばいずれ自分に捜査の手が回ってくるのは必至だからだ。
 カテリーナの影にあってスパイ行為をなさせた相手。これほどまでに自分の存在を微塵も見せていないとは、相当のプロの仕業だ。カテリーナを自殺に見せかけて処分することぐらいは朝飯前だ。どんなに探ってもダニ一匹出てこないだろう。
「もう少し早く判っていれば、逮捕拘禁していれば……」
 後悔しきりのコレットであった。
 死人に口なし。
 容疑者が死んでしまっては、捜査もここで終了だ。

 報告書をまとめるために最後の証拠合わせをするために、かの放送局員を尋問することにした。
 ディレクターのアンソニー・スワンソン中尉は告白した。
「もうしわけありません。おっしゃる通り、毎日・毎時ここから放送製作しているわけではありません。サラマンダー以外の準旗艦にも、ここと同様な設備がありますから、それぞれ順繰りで日時を決めて、統一放送をする時があるんです。例えば他の準旗艦が担当放送局の時間には、その放送を受信してそのまま艦内に流していた訳です。ですから担当放送日時でない時は、調整室員以外は暇なんです。だから、時々交代で抜け出していたんです」
「なるほど……。それで事件当時は丁度統一放送になっていて、抜け出していたのが、カテリーナですか?」
「はい、そうです。恋人に会いにいくと言っていました。それで、いつものように口裏合わせしていたんです。お互い恋人を持つ身、その気持ちはよくわかりましたから。しかしまさか殺人を犯していたなんて知りませんでした」
 念のためにその男のことも尋ねてみる。
「いいえ。何も聞いていませんし、会ったこともありません。相手の事を聞くと、お茶をにごしていました」
「相手が複数ということは?」
「カテリーナは潔白なところがあるから、一人の男性に熱を上げることはあっても、複数の男性と交際することはないと思います」
 アンソニーは弱々しい口調で尋ねてきた。
「あの、やはりこの件も報告するつもりですか?」
「ランドール司令は、非常に勘が鋭く頭の切れる方です。カテリーナが犯人と知って、とっくに気づかれていると思います。規則には厳しい方ですから、それなりに罰せられるでしょう。覚悟しておいた方がいいでしょうね」
「わかりました……」

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング



2021.01.29 07:43 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十章・コレット・サブリナ Ⅳ
2021.01.28

第十章 コレット・サブリナ 氷解




「検視の結果だ。目を通しておきたまえ」
 検察事務官は検視報告書を閲覧させた。
「はい」
 それを受け取って目を通すコレット。
「やはり他殺と出ましたか」
「直接の死因を示す首の絞殺斑と、マシンに吊られていた状態でのロープの位置がずれている。つまり一端絞め殺された後にマシンに吊り下げられたと判断された。それに君の発見した膝の擦り傷跡を調べた結果も、傷口とそこに残った体液から死後硬直後についた傷であることが判明した」
 人が死ねば死後硬直という状態に陥る。筋肉が緊張して間接すら曲げることができないほど固くなる現象である。これは筋肉の活動による分解産物である乳酸の発生と深く関わっているともいわれている。死後硬直の度合によって死亡時刻を推定することができる。
 人間傷を負えば、その傷から少なからず血液や体液が浸出する。生きていればその浸出液には血小板や免疫抗体物などが多量に含まれているが、死んだ後では極端に減ってゆき、死後硬直後ともなればほとんど含まれなくなる。また細胞の再生という面でも血流が止まってもある程度は細胞は生きているので、細胞内に貯えられた栄養で再生しようとした跡が見られるが、細胞が死滅し死後硬直が始まればまったく見られない。
「君の方の捜査は進んでいるのかね」
「はい。容疑者を逮捕する寸前まできています」
「そうか、頑張りたまえ」
「わかりました」

 一旦自室に戻って、もう一度考えをまとめる事にする。

 ラジオから深夜番組が流れている。今流行の軽音楽。
 ベッドに仰向けになって解剖報告書に目を通しているコレット。
 絞殺による殺人。膝の傷の状態から別の場所で殺害されてジムへ運びこまれたことが証明された。
 ラジオからの音楽が跡絶えた。そしてパーソナリティーの声。
『以上、今夜はウィンディーネのスタジオからお送りしました』
「え?」
 一瞬耳を疑った。
「そうか……。中継放送というものもあるんだった。他の艦のスタジオがキー局となって、それをそのまま放送する」
 中継となればせいぜい調整室員とディレクターくらいの二人だけいれば用は足りるはずだ。その時間帯なら残りの二人が悠々抜け出せるというわけだ。
 端末を開いてFM局の番組表を調べてみる。
 事件当時の番組は……。
「ドリアード便りか。つまり準旗艦ドリアードからの中継というわけだ」
 よし、アリバイが崩せる!
 早速、逮捕状を申請する。

 容疑者はカテリーナ・バレンタイン少尉。
 容疑はミシェール・ライカー少尉殺害。
 その判断根拠を記述し、司法解剖報告書を添付して、特務捜査科逮捕訴追課に送った。

 やがて申請が受理されて、逮捕許可証の画面に切り替わった。
 それをプリントアウトすれば、逮捕状になる。
「よし! 逮捕だ」
 逮捕状を握り締めて、自室を飛び出して行くコレット。
「今は当直で、スタジオにいるはずだ」
 駆け足で、スタジオのある発令所ブロックへと向かう。
 逮捕状の威力は絶大だ。
 提示するだけで警備室をフリーパスできただけでなく、どこへでも入室できるのだ。第一艦橋はもとより、たとえ放送中のスタジオにだって踏み込める。
 そして今スタジオにいる。
「カテリーナ・バレンタイン少尉を逮捕に来た。どこにいますか?」
 放送局員に逮捕状を提示しながら問い詰める。
 局員は一瞬驚いた表情を見せたかと思うと、すぐに困惑した表情に変わった。
「それが……じ、実は。まだ姿を見せていないんですよ」
「なんですって?」
 その時、呼び出しブザーが鳴った。
「ちょっと、お待ち下さい。第一艦橋から連絡です」
 ヘッドレストホンを耳にあてて、機器を操作して連絡を取っている局員。
「は、はい。実は、こちらにいらっしゃってます。はい、代わります」
 局員が、ヘッドレストホンを差し出しながら言った。
「司令官からです」
「中佐が?」
 それを受け取って答える。
「コレット・サブリナです」
「すぐにアスレチックジムに向かってくれ。カテリーナ・バレンタイン少尉が首吊り自殺した」
「なんですって!」

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング



11
2021.01.28 07:39 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

- CafeLog -