銀河戦記/鳴動編 第一部 第八章 犯罪捜査官 コレット・サブリナ Ⅲ
2021.01.10

第八章・犯罪捜査官 コレット・サブリナ




 レイチェル・ウィング大尉を筆頭に、関係者が一同に会している。
 同僚の死亡という姿を目の当たりにして、その表情は暗い。
「事故捜査官の、コレット・サブリナ中尉です。今回の事件、ミシェール・ライカー少尉の死亡について、みなさんの証言を伺いたく集まっていただきました」
「やはり事故なんですか?」
「それは調査中ですので、この場では明らかにはできません」
「そうですか……」
「それではお聞き致しますが。まず、第一発見者は、どなたですか?」
 関係者を一同に集めた中で、開口一番尋ねる。
「カテリーナ・バレンタイン少尉です」
 レイチェルがカテリーナに視線を送りながら答えた。
「では、バレンタイン少尉。事件に遭遇した時、誰か他にいましたか?」
「いいえ、一人でした」
「ジムに一人でやってきて、事件に遭遇したのですね」
「はい、そうです」
「どうしてジムにきたんですか?」
「わたしは当直でした。交代の時間になってもミシェールが姿を見せないので探していたんです」
「当直の担当部門は?」
「艦内放送FM局スタジオ勤務です」
「パーソナリティー?」
「いえ、ADです」
「どういう事をしているのですか?」
「タイムキーパーが主ですが、その日に使う曲のセッティングや、必要備品を用意したりもしています」
「スタジオは何名で?」
「四名です。ディレクターと調整室員が他にいます」
「その方の氏名と所属を教えてください」
「はい」
 メモにカテリーナが言った氏名を記入するコレット。
「ところであなたがジムに、ミシェールを探しにきて、器械に挟まれた姿を発見したのですね」
「はい。てっきり、死んでいると思って、悲鳴をあげてしまったんです」
「その時、まったく遺体には触れなかったんですね」
「恐くて……」
「何か物音がしたとか、不審な点はありませんでしたか?」
「いいえ、何も。気が動転していましたのでなにも……」
「そうですか、わかりました」

 続いて現場立ち会い者達の証言をとることにする。
「そしてウィング大尉達が、カテリーナの悲鳴を聞きつけてやってきたんですね」
「そうです」
「何か不審な点に気づいた事はありますか?」
「いいえ」
「どなたか、遺体には触りましたか?」
「生死を確認するために、わたしが脈を計りました。首筋です」
 レイチェルが名乗り出た。
「他の箇所には?」
「いいえ。触りません。それで死んでいると判って、捜査科に連絡しました。現場保存のために、遺体はもちろん周辺の器械にも触れないよう、物品を動かさないように指示しました」
「おそれいります。捜査協力感謝します」

「ミシェールに最後に会った方は?」
「たぶんわたしだと思います」
 ミシェールと同室のクリシュナ・モンデール中尉が答える。
「ミシェールの死亡直前の行動を教えてください」
「ミシェールとわたし達は、食事前にこのジムで汗を流していました。その後の食事時間に疲れたと言って、食事を拒否して部屋に残ったんです。それが最後でした」
「同室のみなさんは、揃って食事に行かれたのですね」
「はい。当直のカテリーナ以外は一緒でした」
「ミシェールが着ていたレオタードはその時と一緒ですか?」
「はい。同じです」
「最後に姿を見たという正確な時刻が判りますか?」
「うーん。時計を見ていないから……。あ、そうだ! 艦内FM放送で、今流行の『サラサーテの彼方』という曲が流れはじめたから……」
「カテリーナはADでタイムキーパーをやってるそうですが、調べられますか?」
「はい。スタジオで当時のタイムスケジュールを調べれば正確な時刻が判ると思います。スタジオ要員なら誰でも判ります」
「判りました。後でスタジオに寄ってみましょう」
「放送中はスタジオには入れないので、午後五時のスタッフ交代前を見計らって訪ねると丁度良いと思います」
「ありがとう」
 メモ帖に午後五時スタジオと記入するコレット。

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2021.01.10 12:51 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第八章 犯罪捜査官 コレット・サブリナ Ⅱ
2021.01.08

第八章・犯罪捜査官 コレット・サブリナ




 共和国同盟軍情報部特務捜査科第一捜査課艦隊勤務捜査官。
 それがコレット・サブリナ中尉に与えられた正式称号である。
 事故であれ殺人であれ、人が死ねばまずは第一捜査課(殺人課とも呼ばれている)の彼女が呼ばれて現場検証にあたることになっている。配下の捜査員とと共に現場検証にあたるコレット。
 すでにアスレチックジムは関係者以外立入禁止の処置がとられている。
 ミシェールが死んでいたマシンは、滑車からロープに繋がったウェイトを、持ち手を引っ張って持ち上げていくというものである。
 レオタード姿で死んでいる。
 一見、手が滑って持ち手が器械に引っ掛かったところに、ロープが首に掛かりウェイトの重みで首が締まって、窒息死したようにも見える。
「ウェイトの質量は片方ずつ五十キロか……。艦の重力は地上の六分の一程度しかないから、実質十キロ弱分の筋力ゲージね……。これくらいの重量で首が絞まって窒息死するだろうか」
 重力六分の一で、ウェイトが軽くなるのと同じように、人の体重も六分の一になるから、五十キロのウェイトでも人の体重を支えて、首吊り状態を十分維持できるが……。筋力十キロあれば、首に絡んだロープを外せるはずだ。
「ロープが絡んだときの勢いで、急に首を絞められて気絶したんじゃないですか。そしてそのまま……」
 しかし、明らかに不自然だ。持ち手は前へ引っ張っていくものだが、たとえ手が滑っても、反動で持ち手が首に掛かるようにカーブを描いて後方へ飛ぶとは考えにくい。落下するウェイトに引っ張られてまっすぐ戻るはずだ。
「誰か、遺体に触らなかった?」
「いいえ」
「だとしたらおかしいな」
「何がおかしいのですか?」
「この膝の傷だよ」
 タイツで隠れていて注意深く観察しないと気がつかないが、明らかな擦過傷を負っていた。
「ああ、これね。アスレチックジムですからねえ。擦り傷くらいは日常茶飯事じゃないですか?」
「そう思うか?」
「ええ、まあ……」
「いや、違うな。この傷は、たぶん死後に負ったものだ」
「え? どうしてですか?」
「それは、解剖にかければはっきりするだろう」
「教えてくれないんですか?」
「憶測で物事を判断するものじゃない」
 遅れて臨検医が到着して観察をはじめた。こうした場合の当然として、特に首筋を重点的に調べている。
「頸椎損傷の形跡はありますか?」
 気絶するほどのショックが首に掛かっていたかを判断するためである。
「外見からでは判断できませんねえ。解剖してみないことには」
「直接の死因は?」
「首筋に絡んだロープによって頸動脈が圧迫され、脳への血流停止による脳酸欠死というところです。死後およそ一時間というところですかね」
「何か不審な点は発見できませんでしたか」
「つまり、他の場所で殺された後に偽装工作として、マシンに括りつけられたような跡が見られなかったどうかということですね」
「お察しの通り」
「こういった場合ではよくあることなので、その点は念入りに調べました。結論は解剖の結果を踏まえて慎重に判断しなければなりませんので、私の管轄を外れます。私は事故現場の証拠を集めたり保存したりするのが任務ですから。ただ、個人的見解でよろしければ……」
「どうぞ、それで結構です」
「まずは首筋を見ていただきましょう」
 臨検医が指し示す首筋に注目するコレット。
「ごらんの通り、ロープの絡んだ箇所の下側に紫斑が見られると思います」
「そう言えばそうですね」
「この紫斑が直接の死因となったもので、頸動脈にかかっているのが判ります。これはつまり、首が締って死んだか気絶した後でロープが緩んでずれたか、或は誰かに首を絞められて殺された後で、改めてロープに吊るされたことを意味しています」

 医師は手近なロープを取って、コレットの首に巻くようにして軽く絞めて見せた。
「人の首を絞めて殺そうとした場合の絞殺班は、被害者と犯人の身長差、或はどのようにして首を絞めたかによって変わってきます。例えば天井の張りに渡したロープで吊るし首にするとかですね。もし背の低い犯人が背後から襲った場合、このように丁度鎖骨の上辺りにかかります。この位置はミシェールの場合と同じですね」
「つまりミシェールは自分より背の低い相手に首を絞められた可能性があるということですね」
「あくまで可能性ですがね……」
「ところで、ロープの位置と紫斑の位置がずれている点ですが、本当は事故で首が締まってぐったりとなった後で、ずれたということはありませんか」
「否定はできません。解剖してみないことには結論は出せませんから。最初に申しました通りに、これはあくまで私個人の見解なのです」
「わかりました。どうもありがとうございました。あ、そうだ。膝の擦り傷の鑑定をお願いしておきます」
「擦り傷? ああ、これですね……。判りました。調べておきます」
 自分なりの調査を一通り終えたので、被害者のそばを一旦離れて、発見者達の証言を取ることにした。
「発見者達とミシェールと同室の者は集めたのか?」
 配下の捜査員に確認する。
「はい。隣の部屋に」
「よし。早速尋問しよう」
「司令官に報告は?」
「後だ。記憶が鮮明なうちに証言をとっておくのがセオリーだよ」

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2021.01.08 07:19 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第八章 犯罪捜査官 コレット・サブリナ Ⅰ
2021.01.07

第八章・犯罪捜査官 コレット・サブリナ




 女子更衣室。
 談笑しながら着替えをしている女性士官達。下着姿の者、レオタード姿の者、そして軍服姿の者。その中にレイチェルも含まれている。
「あーあ。いやんなっちゃうな。何で運動しなきゃならないの」
 女性士官の一人が誰に言うともなしにぼやいた。
「仕方ないわよ。重力のない宇宙空間では骨格からカルシウムが抜け出して骨粗鞘症になってしまうのよ。それを防ぐには運動をして骨格や筋肉に刺激を与えるのが一番なんだから。艦橋のある居住ブロックは重力があると言っても、平均して地球上の六分の一しかないんだからね」
 筋肉の収縮や糖分の代謝などにはカルシウムが不可欠である。重力のあるところではただじっとしているだけでも、重力から体重を支えるために常に筋肉が緊張して糖分とカルシウムを消費する。そして脳の血中カルシウム濃度を調整する中枢では、その消費量に応じて余分に摂取したカルシウムを骨格形成させることで備蓄しようとする作用が働く。これは空腹時に食料を摂取すると、より多く脂肪として体内に蓄積されて通常よりも太ってしまう理由に近い。飢餓状態が続いた後で食料が摂取されると中枢部では、次にまた長期の飢餓状態がきても大丈夫なように、通常より多くの脂肪を備蓄をしようとするのである。いわゆる緊急時備蓄作用と呼ばれている。
 運動選手の骨格が発達するのは、運動することが直接の要因ではなくて、運動に見合ったカルシウム資源を備蓄しようとする作用によるもの。だからいくら運動してもカルシウムを十分摂取しなければ徒労に終わり逆効果になってしまう。ところが無重力となって体重を支える筋力を必要としなくなると、糖分やカルシウムの消費が極端に減少して、備蓄しようとする作用も減少する。骨格は、骨を作る骨芽細胞と骨を溶かす破骨細胞と呼ばれる組織のバランスによって、二週間半で新陳代謝を繰り返しているという。ところが無重力などの影響によって、破骨細胞の骨を溶解する作用が勝ると、骨粗鞘症などの骨のカルシウムが抜け出て脆くなる症状に陥ってしまうことになる。
「でもね、重力ブロックにいるあたし達はまだ救われているほうなんだから。重力のない機関部要員の男性達なんかもっと悲惨よ」
「そうですね。あたし達は毎日二時間の運動で済むけど、彼らは四時間ですもの」
「男性と違ってあたし達女性には妊娠・出産そして授乳という役目を担っていて、カルシウムの摂取量が足りないと自身の骨格からカルシウムを取り出してまで、胎児や乳児にカルシウムを与えようとする。だから今のうちにしっかりとカルシウムを補給しておかないと大変なことになるのよ」
「そういうこと、しっかり運動してカルシウムを逃がさないようにしなくちゃね」

「そうよ。いくら運動が苦手だからって甘えは許されません。これも軍人の務めの一つよ。さあさあ、ぐずぐずしていないで、早く着替えなさい。この後にも次の班が控えているんだから。時間は有効に利用しなくちゃね」
 とレイチェルが一喝した。
「はーい」
 と答えて隊員達は着替えを急いだ。

 女性士官でも最高位の大尉となったレイチェルは、主計科主任を兼務していた。なお主計科とは、隊員の給与を扱う経理課、軍服などの支給・修繕などを行う衣糧課、給食・配食を行う厨烹課の三部門があって、隊員達の生活に密着した部門である。
 部隊創設の副官時代から、女性士官達の要望を受け入れ、いろいろな相談に乗ってあげていたので、その人望は厚いものがあった。
 一方、ジェシカとパトリシアも医務科衛生班長の任にあって、隊員達の健康管理にあたっていた。
 アレックスが主計科と医務科の責任者に、レイチェル達女性士官を置いたのは、その二科が全体の士気統制に関わる分野であり、信頼のおける側近である必要があったからだ。砲術科や機関科などは、それぞれが特殊能力を有して専門分野科した隊員を治めて独立した運用体系にあるのに対し、給与や炊事などの生活面を担当する主計科と健康管理を担当する医務科は、隊員全体が相手であり必要不可欠な部門である。給与の支払いが滞ったり、飯を満足に食べさせて貰えなかったり、病気になったりしては、士気は衰えるし戦える者も戦えなくなる。その任務の性格上、女性をあてるのは自然であろう。パトリシアを含めた三人が隊員達の生活や健康を管理する他にも、悩みごととか相談ごとといった個人的な問題をも親身になって聞いてやり、解決してあげようとする態度は、隊員達から慕われ絶大な人望を得ていることは、まさしく天職にかなっているといえた。言い換えれば彼女達にそうさせる魅力を、アレックスもまた所有していたともいえる。

 女性士官の一人が入室してきて尋ねた。
「ねえ。誰か、ミシェールを見ていない?」
「ミシェール?」
「カテリーナから頼まれて探しているんだけど、もうじき当直交代時間なのに、姿が見えないらしいのよ」
 その時悲鳴が艦内にこだました。
「なに、いまの?」
「アスレチックジムのほうよ」
「あの声はカテリーナよ。行ってみましょう」
 レイチェルを先頭に一行がジムに入ると、カテリーナ・バレンタイン少尉がうずくまっていた。
「どうしたの?」
 レイチェルがそばによって話し掛けた。
 カテリーナは震える手を伸ばして一つの機械を指差した。
 そこには機械に首を吊って死んでいるミシェールが発見された。
「きゃー!」
 口々に叫ぶ隊員達。卒倒する者もいた。

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2021.01.07 14:53 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第七章 不期遭遇会戦 Ⅵ
2021.01.06

第七章 不期遭遇会戦




「一つ質問してもよろしいですか?」
 オブザーバーとして参加していたスザンナ・ベンソンが発言した。一艦長に過ぎないスザンナは、本来参謀会議に出席する権限はないが、操艦技術だけでなく作戦指揮能力もかなり高い能力を有していることを、アレックスは見抜いていた。巡航時における艦隊運用の実績を見てもそれは証明されている。ゆえに作戦会議などにオブザーバーとして参加させているのである。
 他の参謀が責任を感じて暗く押し黙っているのに対し、作戦立案に関与していないがために、それほどの重圧はかかっていない。
「何かな」
「あの時、熱源感知ミサイルを使用なさらなかったのはいかなる理由でしょうか。被害をもっと最小限に食い止められたのでは?」
「あの時熱源感知ミサイルを使用すれば、こちらの被害は皆無に近い状態で、勝利していただろう。が、それでは訓練にはならない。目の前の小さな敵にばかり気をとられて、将来にかかわるもっと強大な敵が迫っていることを忘れてはならない。そのための訓練であり、まともな実戦を戦ったことのない寄せ集めの将兵達を再訓練し、実戦部隊として使えるものにしなければならなかった。ここは多少の犠牲を払ってでも、部隊の将兵全員が一丸となって全力を挙げて戦い、勝利しなければ訓練の意味がなかったのだ。私が敵が潜んでいるかもしれない星雲に、あえて訓練としての作戦任務を遂行したのもそのためなのだ。実戦のための訓練でありながら、訓練のための実戦であったのだ」

 アレックスが呼吸を整える度に、会議室は静まり返る。
「それはともかくも、問題は今回の作戦だ。君達参謀としてのいい加減な対応によって、部隊将兵達全員の生命を軽く扱い危機に陥らせる可能性をもたらした罰として、ゴードン、カインズ両名は給与を三ヶ月間二割減額し、その他の者は同二ヶ月一割減額する。意義のあるものは?」
 誰も意義を言い出す者はいなかったし、言い出せるものではなかった。アレックスの機転がなければ部隊は全滅、全員この場にいるはずのない事態に陥っていたからである。
「さて、私は君達に宿題を出しておいたはずだが、今回の作戦の反省を十二分に踏まえて、カラカス基地防衛の作戦立案をもう一度検討して明後日に提出のこと。一人で考えるもよし、数人で相談して連名で提出してもいい」
「わかりました」
「よし。今日のミーティングはこれまでだ。解散する」
 立ち上がって退室するアレックスと、敬礼して見送る参謀達。

 アレックスの姿が見えなくなって思わずため息をもらす参謀達。
「参りましたね……」
「ああ……。今回の作戦に際しては、司令には頭が上がらない」
「参謀達全員で立てた作戦の欠陥にただ一人気がついていただけでなく、部隊を窮地から救った上に見事な作戦で敵部隊を壊滅に追い込んだ」
「大破こそあったものの、一隻の撃沈なしにな」
「それも十五倍以上の数の敵部隊にたいして」
「司令がおっしゃってた、七百隻で敵一個艦隊を撃滅する作戦を考えている。というのは本当のことだったんですね」
「オニール少佐は、士官学校の模擬戦闘にも一緒に参加なされたそうですね」
「模擬戦闘か……あの当時から常軌を逸脱した作戦を敢行する人格だったなあ。原始太陽星雲ベネット十六を突破するなんてことは、誰も予想もできなかったよ。確かに不可能と思われていたことを、可能にしてみせている……今にして思えば」
「対戦校の指揮官にミリオンが選ばれたことが発表される半年以上も前から準備周到な作戦を練って、彼を完膚なきまで打倒しちゃったんですよね。それも誰も想像だにしなかった奇抜な作戦で」
「やっぱり噂通りに、司令には予知能力があるのでしょうか」
「あるわきゃないだろ、そんなもん」
「でも敵が潜んでいることを予期していらしたですよ」
「それだよな。どうやって連邦が訓練航海の情報を得たかだよ」
「報道部が宣伝流してたから?」
「なぜわざわざ流す必要がある」
「やはり、軍部内にランドール提督を貶めようとする輩がいるということでしょう」
「出る杭は打たれる……」
「チャールズ・ニールセン中将なんか、昇進著しかった当時のトライトン少佐を妬みの対象にして最前線送り」
「まあ、彼の思惑は外れてさらに昇進させる結果になってますけど」
「ニールセン中将か……。自分はデスクにどっかりと座って、気に入らない将校を片っ端から前線送りしてますね」

「ところで、今回の戦績からすれば、司令は大佐に昇進してもいいんではないでしょうか」
 その言葉の背後には、つまるところゴードンやカインズそして多くの士官さえもが、同時に昇進できるのではないかとの、思惑もあったようである。
「いや、今回の軍事行動は、あくまで訓練の延長であると、司令自身が辞退したそうだ」
「辞退!?」
「俺達がとやかく言える権利があると思うか?」
「いえ。今回の不期遭遇会戦の戦果は、すべてランドール司令お一人の手柄です。その司令が辞退するというなら、わたし達には口出しできません」
「そうだよな。功績点も、作戦会議に同席した士官全員の分を返上されたらしい。戦死者や一級負傷退役兵の特進や恩給、下士官クラス以下の処遇などは規定通りに行われたがな」
「でもレイチェルさんだけは、大尉に昇進なさっていますよね」
「ああ、敵の一個艦隊が隠密裏に行動しているのを察知して、キャブリック星雲に向かった可能性を示唆していたそうだ」
「じゃあ、その情報がなかったら、わたし達全滅していたかもしれませんね」
「まあ、哨戒作戦に不備があることは確かだったし、司令のことだからあのまま星雲に突入するようなことはしなかっただろうけどね。情報があるのとないのとでは雲泥の差がでるよ。あれだけ完璧な指示を出せたのも、情報があればこそだ」
「そうでしょうねえ……」
「レイチェルのすごいところは、司令が今一番欲しがっている情報は何かと逸早く察知して、言われなくてもほぼ完璧な資料を提示してみせることだ。ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式五隻が廃艦になることを進言して、我が部隊に配属できるようにしたのも彼女だからな。カラカス基地の詳細図のことも皆が知っての通りだ。司令が言うように、彼女の情報収集能力は一個艦隊に匹敵するというのは、本当のことだよ」
「司令の立てる完璧な作戦の裏には、レイチェルさんの完璧な情報があったというわけですね」
「結果的にはそういうことになっているな。この二人にパトリシアが加われば鬼に金棒さ。もっとも今回はさすがのパトリシアも手落ちになっちゃったけど」

 司令室。
 デスクに着き、今回の作戦の報告書をまとめているアレックス。
「お疲れさまです」
 デスクの上にコーヒーカップを置きながらねぎらうレイチェル。
「パトリシアはどうしている?」
「はい。自室に籠っています。作戦参謀として、敵の存在を感知しえなかった自分に責任を感じてふさぎ込んでいます」
「そうか……まあ、パトリシアだって見落とすことぐらいあるさ。問題となっているのは、参謀全員が気づかなかったことだから」

第七章 了

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2021.01.06 15:42 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第七章 不期遭遇会戦 Ⅴ
2021.01.05

第七章 不期遭遇会戦




 キャブリック星雲内における不時遭遇会戦の結果は、同盟側損害二十七隻に対し連邦側推定損害三千隻という、アレックスの率いる部隊の圧勝に終わった。それも四百隻対七千隻という数において劣勢の状況下において味方撃沈が一隻も出なかったのは驚異であった。
 その勝利要因を分析すれば、艦隊リモコンコードに頼らないアレックス独特の艦隊ドックファイトという近接戦闘・乱撃戦法が真価を発したというものであった。一定の距離を保って相対して撃ち合う艦隊決戦に固執した連邦が、懐に飛び込まれて身動きがとれなくなり、果ては同士討ちまで引き起こして被害を広げたことによって敗北を決定づけたといえた。
 なお将兵の犠牲者は、死亡三十一名、行方不明十八名、重傷七十八名、軽傷二百四名であった。
 撃沈が一隻も出なかったことで賞賛されることはあっても、その陰で多数の犠牲者を出したことにたいしては、とかく内密に処理されることが多い。敵船艦を何隻撃沈したとか味方艦が何隻撃沈されたとかいった物理的な報告は正確なまでに発表されるが、人が何名死んだといったことはまず発表されることはなく、報告書としてまとめられて事後処理されるだけである。
 その報告書に署名をするアレックスは、暗く押し黙り悲痛の念を表しながら、
「何の感情もなく報告書にサインできるような人間にはなりたくないものだ」
 と、副官のパトリシアにもらしたという。

 アレックスが、作戦会議室に幕僚を招集して、今回の作戦結果について、
「さて、みんなご苦労であった……。と、いいたいところなのであるが、今回の作戦については苦言を言わねばならない」
 と切り出した時、一同はアレックスが何を言いたいかをとっさに察知していた。戦闘訓練の作戦立案において、キャブリック星雲に敵部隊が潜んでいた場合の作戦を、誰一人として想定しえなかった点についてである。
「パティー・クレイダー少尉」
「はい」
 アレックスはカインズの副官である彼女に質問した。
「作戦実行の二十四時間以内に、我々の哨戒機がキャブリック星雲の全域を捜索していたかね?」
「いいえ」
「では、その時部隊が取るべき行動は?」
「はい。部隊の突入前に、改めて索敵機を発進させて、敵艦隊の有無を確認すべきでした」
「その理由は? キャブリック星雲は、三日前の捜索では敵艦隊の存在は確認されていなかったはずだが」
「星雲内は濃密な星間物質及び中心にあるパルサーからの強力な電磁波によって通常の索敵レーダーが使用不可能なため、カラカス基地から背後にあたる空域は死角となっています。小部隊なら間隙をついて背後から忍び寄って隠れ潜入することは可能でしょう」
「そうだ。我々は総勢七百隻しか有り合わせがないために十分な哨戒行動が取れない。大艦隊ならともかく、小部隊で隠密裏に行動されると索敵の網から漏れることは十分にありうることだ」

 続いてゴードンの副官を指名して質問を続けるアレックス。
「シェリー・バウマン少尉」
「は、はい」
「キャブリック星雲の直前で突然の作戦変更を断行し、雷速五分の一で魚雷発射して急速転回、星雲の側面から部隊を突入させたその作戦意図を述べてみよ」
「はい。我々が訓練でキャブリックに向かったことは、報道部などから広く情報が流されていました。星雲内に敵が潜んでいればその情報を傍受して奇襲をかけることは十分予想されます。司令の突然の作戦変更は敵の裏をかくためでした」
「それで?」
「雷速五分の一、つまり戦艦と同速度による魚雷発射は、魚雷を同盟軍艦船だと敵に誤認させるためのカモフラージュ。敵は索敵レーダーの効かない濃密な星間ガスの中にいますから、星雲に突入した魚雷群を同盟軍戦艦と見誤ってこれに攻撃を開始する可能性は大いにありました。その間に、最大戦速をもって星雲を迂回した我が部隊は、敵の側面から攻撃を加えられます。しかも敵は我々の部隊に対して反転迎撃しようにも、次々と飛来する魚雷群に側面を見せることになる上に、艦首魚雷を放ったばかりで、再装填にかかる間にやすやすと我々に接近されて、得意の乱撃戦に持ち込まれてしまい、被害は拡大するだろう……と、司令は判断したのだと思います」
「いいだろう……」
 シェリーが席に腰を降ろしたのを見届けてから、自分の考えを述べはじめるアレックス。
「ま、運良く敵がいてくれたからこういう結果になったが、いなかった場合は魚雷相手に戦闘訓練するつもりだったことを付け加えておく。さて……」
 と言い継ぐ言葉を止めて、まわりの参謀達を見渡すようにしてから、言葉を続けた。
「今回のキャブリック星雲における不時遭遇会戦には、二つの大きな意味合いが含まれている」
「二つの意味合いですか?」
「そうだ。その一つは、敵が我々の訓練航海の情報を得て、星雲内で待ち伏せをしていた節があること。何も知らずに当初の作戦通りに行動していれば、四百隻すべてが全滅していただろう。つまりは情報を知るということがいかに大切であるかということだ。情報を得て待ち伏せに出た敵と、星雲内の情報が得られないことから作戦を変更した我が部隊。結局は私の方に、幸運の女神は微笑んでくれたが、その成否は実に紙一重なところにあったのだ。私はついていたのだ。ともかく、敵の情報を一刻も早く集め、敵にはこちらの情報を悟られないようにすることだ。そして……」
 ここで息を継ぐように、一同を見回してから言葉を続けるアレックス。
「もう一つは、当初の作戦計画立案と決定に際して、誰一人として意義を訴えなかったことだ」
 アレックスのその言葉は、一同の胸をえぐった。
「訓練ということで、作戦立案のすべてを参謀である君達に一切任せた以上、口を挟むべきではないと判断して何も言わなかった。いつか誰かが間違いに気がつくのではないかと考えたからだ。しかし流石に戦場を前にしては変更せざるを得ないだろう。部隊の将兵全員の生命がかかっているからな。君達は、どうせ訓練なのだという安直な意識がなかったか、一度索敵をすれば大丈夫だろうとタカを括ってはいなかったか。それが作戦立案において哨戒作戦を安直なもので済ませてしまったのだ。その結果がこの始末だ」
 会議場は静まり返り、アレックスの憤りの声だけがこだましていた。
「いいか。敵は、どのような些細な間隙をついてくるかわからないのだ。ゴードン」
「はっ!」
「ミッドウェイ宙域における、私の作戦は?」
「敵空母艦隊の度真ん中へのワープでした」
「カインズ!」
「はい」
「カラカス基地攻略の概要を述べてみよ」
「流星群に紛れての揚陸戦闘機による奇襲攻撃です」
「二つの作戦がいかにして大成功したか。パトリシア、その要旨を述べてみよ」
「はい。いずれの場合も敵が予想もしなかったというよりも、不可能と判断していた進撃ルートをとったからです」
「その通りだ。人が常識的に不可能と考える場合でも、果たしてそれが本当に不可能なのか? と再考慮するところから作戦ははじまるのだ。不可能と思われている事柄の中にも、どうにかすれば可能にすることはできないか? 常識に捕われていてはいけないのだ。……そもそもキャブリック星雲に向かったのはいかなる目的だったかな」
「訓練でした。未熟な将兵や落ちこぼれといわれていた者達が多く、寄せ集めのできそこない部隊と蔑まれていました。それを再訓練することによって一人前の将兵に鍛えることでした」

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2021.01.05 15:40 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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