銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十章 タルシエン要塞へ Ⅰ
2021.04.20

第二十章 タルシエン要塞へ




 シャイニング軌道上に待機するサラマンダー。
 接近する上級士官用シャトルがあった。
「数日しか離れていないというのに、久しぶりって感じだな」
 感慨深げな言葉を漏らすアレックス。
 軍法会議への出頭には、護送駆逐艦が使われた。一時的な身分の凍結が行われて、サラマンダーには乗れなかったからである。
「みんなも寂しがっていましたよ」
 アレックスが本星に行っている間の、サラマンダーの指揮を委ねられていたフランソワが言った。本星でのもろもろの用事を済ませたアレックスが、サラマンダーに戻るとの報を受けて出迎えに来ていたのである。
「一番寂しかったのは君じゃないのか?」
「もう……提督ったら」
 赤くなるフランソワ。
 もちろんそれは、パトリシアのことを言っていた。
 サラマンダーのシャトル進入口が開いて、静かに帰還するシャトル。
「提督。ご帰還おめでとうございます」
 整備員や甲板員などがシャトルの周りに集まってきた。
「一時はどうなることかと思いましたよ」
「これからもよろしくお願いします」
「提督の行かれる所なら、どこへなりともお供いたしますよ」
 と、口々にアレックスの帰還を祝福した。
「ありがとうみんな。こちらこそ世話になる」
 艦橋へ直通の昇降エレベーターに乗る二人。
「タルシエン要塞攻略を命じられたこと、艦橋のみんなに伝わっています」
「どうせジェシカが喋ったのだろう」
「ええ、まあ……」
 手続きで帰還が遅れるアレックスより、一足先にシャイニング基地に戻り、サラマンダーを訪れてパトリシアに報告、ついでに艦橋のみんなにも披露したというところか。

 サラマンダー艦橋にアレックスが入室してくる。
 すかさず敬礼をほどこしてから、その手を拍手に変えて無事な帰還を祝うオペレーター達。
「お帰りなさいませ」
「おめでとうございます」
「みんなには心配をかけたな。軍法会議は何とかお咎めなしで解放された。君達のことも無罪放免だ。もっとも条件付だがな」
 そういうとオペレーター達が笑顔で答える。
「伺ってます。タルシエン要塞攻略を命じられたとか。でもご安心ください。私達ちっとも不服じゃないですから。提督とご一緒ならどこへなりともお供いたします」
「そうか……そう言ってくれるとありがたい。それから……リンダ」
「は、はい!」
 元気良く返事をするリンダ。
「君には特に世話になったようだ。感謝する」
「いいえ。どういたしまして。当然のことをしたまでですよ」
「うん。今後とも、その調子で頼む」
「はい!」
 ゆっくりと指揮官席に腰を降ろすアレックス。
「やはり、ここが一番落ち着くな」
 シャイニング基地やカラカス基地の司令官オフィスではなく、サラマンダー艦橋の指揮官席。独立遊撃艦隊の創設当時から、指揮を執り続けたこの場所が一番。自分を信じて付き従ってくれるオペレーター達がいる。目の前のスクリーンには周囲を取り巻く配下の艦艇群が、自分の指揮命令を待って静かに待機している。
 自分を取り巻いている運命に身を委ね、自由な気運に育まれた環境にある。
「ところで監察官はどうなった?」
「本星に連れて行かれたようです」
 リンダが答える。
「そうか……」
「どうせ、ニールセンの奴が手を回して無罪放免されるかも知れませんけどね」
「それとも始末されるかだ」
「ありえますね」
「後任の監察官は誰が選ばれるのでしょう?」
「まあどうせ、ニールセンの息の掛かったのが来るだろうな」
「仕方ありませんね」


「さてと……」
 ゆっくりくつろいでいる時間はなかった。
 タルシエン要塞攻略に向けての本格的作戦を始動させねばならなかった。
「私のオフィスに、ゴードン、パトリシア、ジェシカ、そしてレイチェルを呼んでおいてくれないか」
 かつて五人委員会と呼ばれた人員から、スザンナをレイチェルに替えたメンバーである。
「わかりました」
「リンダ、後を頼む」
 当然指名されて驚いているリンダだった。
「え? わたしですか?」
「何を驚いている。旗艦の艦長なら、戦闘態勢以外の艦隊の指揮を執るのは必然だろう。指揮官コードは教えただろう」
「で、でもお……突然言われても」
「いいな。任せるぞ」
 と言い放って艦橋を退室してしまう。
「ど、どうしよう」
 残されておろおろとしているリンダ。
「艦長、指示をお願いします」
 オペレーターの一人が指示を請うた。
「し、指示って?」
「オニール大佐を迎えるための舟艇を出すんでしょう?」
「そ、そうだけど……」
「指示がなければ出せませんよ」
「え、え? 待ってよ」
 舟艇を出すくらいなら指揮官でなくても、艦長の権限で指示を出せるのだが、極度の緊張にすっかり忘れている。
 そんな状態のリンダに呆れ返った表情でフランソワが言った。
「艦長、指揮官席にお座りください」
 その口調には、あんたに艦隊の指揮なんかできないでしょ、といった皮肉にも聞こえる響きがあった。
「ねえ、フランソワ。あなたが指揮を執ってよ」
「何を言っているんですか、指揮を任されたのは艦長ではないですか。勝手にわたしが指揮を執るわけには参りません」
 今は戦闘態勢ではないから、フランソワよりリンダの方が上官であり、優先権を持っていた。例え戦闘態勢だったとしても、司令官の命令が優先するので、指揮を任せると指示されたリンダが指揮を執るしかない。
「もう……」
「とにかく……指揮官席にどうぞ」
 腹立ち気味のフランソワだった。
 自分ではなくリンダに指揮を任せたことに少し憤慨していた。
「う、うん」
 おっかなびっくりで指揮官席に腰を降ろすリンダ。
「ええと……どうするんだっけ、フランソワ」
「あのねえ! まずは指揮官登録を行ってください」
「指揮官登録ね……ええと確かこうして……」
『戦術コンピューター。貴官の姓名・階級・所属・認識番号をどうぞ』
「やったあ! コンピューターにつながったよ」
「つながって当然です。コンピューターの指示に答えてください」
 いらいらしているフランソワ。いい加減にしてよという表情である。
「ええと……リンダ・スカイラーク大尉、サラマンダー艦長、認識番号G2J7-3201」
『サラマンダー艦長リンダ・スカイラーク大尉を確認。指揮官コードを入力してください』
 アレックスから伝えられた旗艦艦長に与えられる指揮官コードを入力するリンダ。
『指揮官コードを確認。リンダ・スカイラーク大尉を指揮官として認めます。ご命令をどうぞ』
「これでいいんだよね?」
 フランソワに確認するリンダ。
「ふん!」
 ぷいと横を向いてしまうフランソワ。
「リンダ・スカイラーク大尉です。提督の命により指揮を執ります。シャトルを出して、ウィンディーネにいるオニール大佐を迎えに行ってください」
「了解。シャトルを出します」
 シャトル口が開いてシャトルが出て行く。
「シャトル、出ました」
「うん……それからね」
 としばらく考えてから。
「セイレーンのリーナ・ロングフェル大尉を呼んでください」
「了解。セイレーンに繋ぎます」
 すぐにセイレーンのリーナがスクリーンに映し出される。
「ロングフェル大尉です」
「リンダよ。お久しぶり」
 やっほー、といった感じで手を振っている。
「あなたねえ。何考えているのよ」
 呆れた表情のリーナ。
「あはは……怒ってる?」
「当たり前じゃない。それで、どんな用なの?」
「用って……、セイレーンの様子を知りたかったから」
「あのねえ。職権乱用じゃないの? いくら指揮を任されたからってね」
「まあ、いいじゃない」
「良くありません」
「ロザンナは元気?」
「元気です! そんな事はどうでもいい事です」
「替わってくれる?」
「あなた、人の話を聞いてないでしょ」
「ええとお……今、艦隊の指揮を執っているのは誰だったかなあ」
 わざとらしく答えるリンダ。
「ううっ……」
 どんなお調子者でも、指揮官席にいる限りその命令は絶対である。
 戦術士官のリーナと言えども、相手が一般士官だったとしても、旗艦の指揮官席に陣取るリンダの指揮に逆らうことはできなかった。
 苦虫を潰したような表情になり、ロザンナに繋ぐリーナだった。
「はい。ロザンナ・カルターノ中尉です」
「どう、艦長の任務には慣れた?」
「はい。前艦長に負けないように頑張っております」
「うん。その調子で頑張ってね」
「はい」
「リーナに替わって」
 再びリーナに切り替わった。
「気が済みましたか?」
 つっけんどんに答えるリーナ。
「うん。ごめんなさいね。また連絡するわね」
「結構です!」
「じゃあね、ばいばい」

 通信が切れ、どっと疲れた表情のリーナ。
「あんな調子で、艦隊の指揮を執ったらどうなるんだろね」
 今更にして、サラマンダーの艦長推薦に同意したことを後悔するリーナだった。
 いつまで経っても、リンダには頭を抱えることになりそうであった。

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2021.04.20 13:02 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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