銀河戦記/鳴動編 第一部 第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅶ
2021.02.08

第十一章・スハルト星系遭遇会戦




 その頃、再び指揮官席に付いたアレックス。
「敵艦との接触推定時刻は?」
「およそ八時間後、0507時です」
「よろしい。各艦に伝達、三時間交代で乗員を休息させ、0307時には戦闘配備に入れ」
「了解、伝達します」
 パトリシアが戻ってきた。
「任務に復帰します」
「ああ、パトリシアか。済まないが携帯食を持ってきてくれないか」
「判りました」
 取って返して艦橋を出て行くパトリシア。

 パトリシアは食堂へ歩いていた。
 交代休憩を与えられた隊員達が食堂へ続く通路を行きかっている。
「まずは腹ごしらえしようぜ」
「しかし生きた心地がしなかったな」
「指揮官がベンソン艦長だからか?」
「いや、艦長のことは信用しているよ。何せ司令官の士官学校時代から旗艦艦長を務めてきたんだし、指揮運用を任せる限りには、それなりの能力を持っているのだろうと思っているさ。ただね、ちょっと今回ばかりは、危険率が高かったからな」
「まあ確かに、模擬戦闘のベネット十六星雲強行突破作戦以来ってとこかな」
 そんな会話を耳にしながらパトリシアは思った。
 アレックスは、スザンナを艦長としてではなく、指揮官としての能力を見出し、戦術士官ではない彼女に、いろいろと教育しているのだ。それを確たるものにするために、あえてスザンナにスハルトの重力ターンの指揮を執らせたのだ。
 このわたしではなくスザンナという事が気になっていた。戦術士官としての教育を受けているこのわたしに指揮を執らせてくれても良かったのではないか。
 と考えているうちに気がついた。
 もしかしたらスザンナに嫉妬しているのではないだろうか。
 戦闘に際し私情は禁物だ。
 改めて冷静になって考え直してみる。
 パトリシアは艦隊勤務新入生だ。指揮官としての経験が浅く、まだ一人きりで指揮を任せられるほど成長していない。その点、スザンナは常日頃から巡航時での艦隊運用の経験があり、アレックスが見抜いている通り指揮統制能力が十分備わっているのは明らかだった。
 艦隊運用に必要なものは、司令官の能力もさることながら、それを実行する有能な指揮官が必要だ。より多くの指揮官を得るためには候補性を育てる事も肝要だ。その最短距離にあるのがスザンナだった。指揮統制能力では、今のパトリシアよりもはるかに高い位置にあるのは確かだ。
 それに何よりアレックスがいつも言っていた言葉を思い出した。
「パトリシア、君には艦隊指揮よりも作戦参謀として活躍してもらいたい」
 アレックスは言う。人にはそれぞれ違った能力特性を持っている。最前線で目の前の敵と戦い抜くのが得意な者がいれば、それらの兵を指揮する用兵に長けた者もいる。そして作戦立案を考える参謀に適した者もいる。適材適所、それを見誤ったらいかに有能な人材であっても、ただの無駄飯ぐいになってしまうのだという。
 そうなのだ。スザンナに嫉妬しても詮無いこと。スザンナにはスザンナの、パトリシアにはパトリシアの適材適所というものがあるはずだ。

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2021.02.08 08:19 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅵ
2021.02.07

第十一章・スハルト星系遭遇会戦




 サラマンダー艦橋。
「近日点付近の危険ゾーン通過に要する時間は、およそ二十五分。防備の薄い駆逐艦を守るために、戦艦・巡洋艦を恒星に対して内側になるように部隊編成を行います。急いで」
 スザンナが指令を出しはじめていた。
 メインスクリーンには巨大なプロミネンスを吹き上げる灼熱のスハルト星が映し出されている。その強力な重力が艦体を歪め、至る所で軋み音を上げていた。
 ここまで来てはもはや躊躇は許されなかった。その時点での自分が考えられる最良の指示を出し続ける他にはなかった。もし間違っていれば中佐殿が訂正してくれるはずだ。アレックスのその存在感は絶大だった。
「全艦、耐熱シールド展開」
「武器系統の動力をすべてカットして、パワーを機関に回して」
「機関出力をオーバーリング状態にして、速力を一定に保って下さい」
 次々と指令を出し続けるスザンナ。
 一息をつく暇もない。いくらコンピューターが算出したコース設定通りに艦隊リモコンコードで全艦一斉移動しているとはいえ、逐一コースの修正を行わなければならなかった。なぜなら地点地点によって重力値が微妙に変動するし、黒点や白斑そしてプロミネンスの状態によって、その放射圧力が極端に変化するからだ。
 戦闘の指揮がどれほど大変かを痛感した。
 中佐も戦闘の度にどれほどの精神をすり減らしていたかが実感できた。しかも今の自分の相手のスハルトは、弾を撃って来ないだけまだ精神的に余裕があると思った。最悪ならば作戦を放棄してスハルトから脱出することもできる。しかし敵艦隊との戦闘では相手は黙って通過を許してはくれないし、見逃してもくれない。ビーム砲は撃ってくるし、ミサイルも発射してくる。どう出てくるか判らない相手の行動を推測し、寸秒刻みで的確な判断を下さなければならないのだから。
 その尊敬する司令官アレックス・ランドール中佐は、ただ静かにスザンナを見守っていた。

「指揮官。一部の駆逐艦が出力不足で予定コースから外れていきます」
「艦数は?」
「十二隻です」
「十二隻か……。仕方ありませんね。当該駆逐艦に作戦変更を伝達、敵追撃作戦を断念して帰投コースに戻れ」
「了解。当該駆逐艦に帰投命令を出します」
 スザンナは一部艦艇を離脱させる命令を躊躇しなかった。恒星スハルトの強大な重力圏内で無理なコース変更をすれば機関不良を起こして失速、スハルトに飲み込まれてしまう。作戦に勝利するよりも部下の生命を大切にすることは、ランドール司令のモットーだ。それを忠実に実行しているのである。ランドール中佐は動かない。つまりスザンナの判断が間違っていないということだ。
「近日点を通過します!」
「よし、全艦機関出力最大、全速前進。スハルトの重力圏から離脱する」
「全艦機関出力最大」
「全速前進」
「重力圏離脱します」

 それから二十分後。
「追撃コースに乗りました。先の十二隻以外には脱落艦はありません」
 ふうっ。
 と大きなため息をつくスザンナ。
 その肩に手が置かれた。
「よくやった。完璧な指揮だったよ。これで戦闘指揮もこなせることが判った。今後も君には期待している」
 アレックスだった。満面を笑顔を見せて、スザンナの采配振りを誉めちぎった。
「ありがとうございます」
「交代だ。休憩してきたまえ」
「判りました。休憩してきます」
 ほんとうは艦長として、引き続き操艦したい気分だった。
 しかし命令であり、休憩する事も重要な任務の一つだ。
 部屋に戻り、タイマーを六時間後にセットしてベッドに入ると、あっという間に寝入ってしまった。自分では気づかなかったが、精神的疲労は極限にまでになっていたのであった。死んだように深い熟睡の眠りに陥った。

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2021.02.07 07:11 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十一章・スハルト星系遭遇会戦 V
2021.02.05

第十一章・スハルト星系遭遇会戦




 アレックスは自室へ向かい、スザンナとパトリシアは再び艦橋に戻ってくる。
「まずは第一関門の第七惑星での重力ターンにかかりましょう」
「そうですね。中佐の期待に応えましょう」
 パトリシアは、スザンナに指揮官席に座るように促し、自身は副指揮官席に座った。
 重力ターンの発案者であるスザンナが直接指揮した方が良いとの判断である。
 戦闘指揮ではないので、スザンナでも十分担えるだろう。
「指揮系統をこちらに戻します。第二艦橋に連絡してください」
「了解、指揮系統を第一艦橋に戻します」
「オニール少佐と、カインズ少佐に連絡してください」
 パトリシアが指示を出すと、通信用のモニターに両少佐が映し出された。
「これから最初の重力ターンにかかります。準備をお願いします」
 さすがに女性らしい配慮だった。
 アレックスなら、指揮官席から命令を下すだけで、いちいち配下の指揮官達に連絡を取ったり、状況説明したりはしない。自分達の方が階級が下ということもあるだろうが、それ以上に作戦指示には女性らしい配慮が見られた。
「判った。ところでパトリシア、中佐殿は本気で昼寝か?」
 艦橋にアレックスの姿が見えないのを確認してゴードンが尋ねた。
「はい。たぶん……」
「そうか……判った」
 少し苦笑の表情を浮かべながらも納得して答えるゴードン。
「カインズ少佐も宜しいですね」
「こちらは準備オーケーだ。いつでも良い」
 カインズは例のごとく無表情だ。アレックスの性分はすでにお見通しだ。
「それではよろしくお願いします」
 通信が切られた。
 アレックスが昼寝するといった発言と行動に対し、意見具申するものは一人もいなかった。そう、彼の本領が発揮されるのは、敵艦隊との戦闘がはじまってからである。それまでに十分の気力を蓄えるための休息に、意義を挟むことはできないだろう。

「これより第七惑星による重力ターンを行う。艦隊リモコンコードに乗せてコース設定を送信する。全艦受信を確認せよ」
 すぐさま最初の重力ターンにかかる。タイミングを間違えるとコースが変わってしまうから、艦隊リモコンコードを使って全艦一斉に行動するに限る。
 メインスクリーンに全艦艇が赤い光点として表示されている。それがリモコンコードを確認したことを示す青い光点に切り替わっていく。
「全艦、リモコンコードの受信確認終了しました」
「よろしい。では、重力ターンのオペレーションを開始してください」
「了解。重力ターンのオペレーションを開始します」
 リモコンコードによる艦隊行動は、すべて戦術コンピューターにインプットされたプログラムに従う。ゆえに指揮官が指示を出すことも、オペレーターがいちいち機器を操作することもない。行動が終了するまで見ているだけである。
 全艦が一斉に一矢乱れぬ行動を開始した。
 重力ターンに入るには、ほんの少し軌道修正をするだけで済むから、敵の重力加速度検知機に掛かることはない。
「重力ターンのコースに乗りました。全艦異常なし」
「よろしい。引き続き第三惑星への重力ターンの準備に掛かれ」
「了解。第三惑星、重力ターンの準備にかかります」
「コース設定を計算中」

 六時間後、アレックスが戻ってきた。
「状況はどうか?」
「全艦異常ありません。第七惑星と第三惑星の重力ターンを完了し、これより二十分後にスハルト星による重力ターンに入ります」
「そうか……。パトリシアご苦労だった。休憩に入りたまえ」
「はい。休憩に入ります」
 パトリシアが副指揮官席を立ち上がって艦橋を退室して行く。
「スザンナは、そのまま指揮を続けてくれ。後で交代する」
 と指示して、空いた副指揮官席に座る。
「わかりました」

 ここからが問題だわ……。

 スザンナはアレックスの方を見やったが、一向に指揮を変わる気配を見せていなかった。どうやらスハルト星の重力ターンという重役までも任せる一存のようだった。少しでもコース設定や操艦ミスがあれば、スハルトの強大な重力から脱出できずに艦隊が自滅してしまう。艦隊とそこに従事する大勢の乗員の生命がスザンナの指揮に掛かっていた。
 それだけ自分を信頼してくれているという事だ。
 もし重大な判断ミスを犯した時は、すぐさま命令訂正をするために副指揮官席に陣取っているとは思うが……。それでも艦隊を自分が直接操れるのには変わりがない。
 士官学校時代からずっとアレックスから切望されて艦長を務めてきた。そして艦隊指揮官としての経験の機会を与えられ、これまで無難にこなしてきた。
 そして今、戦闘体制での恒星スハルトの重力ターンを指揮している。
 スザンナは胸が熱くなった。

 ウィンディーネ艦橋。
 ゴードン・オニール少佐はスザンナの指令に従って部隊を動かしていた。
「スザンナは、ここまでは無難に指揮運営しているな。どうやら中佐は、スハルト星での重力ターンも指揮させるようだ。となると大変だな……」
 副官のシェリー・バウマン少尉が答える。
「そうですね。侵入角度を間違えて深く突入してしまえば溶けて消えてしまうし、さりとて浅すぎれば敵艦隊を追尾するコースに乗り切れない。いくら艦隊リモコンコードで進行するとはいえ、」
「スザンナのお手並み拝見だな」
「しかし中佐殿は、なぜ艦隊運用の教練を受けていない一般士官の旗艦艦長に、任せきりにしているのでしょうか? 戦術士官のウィンザー中尉もいらっしゃるのに」
 並び立っている航海長が疑問を投げかけた。
「艦隊運用ができるのは、何も戦術士官でなくても、その能力を有している人間は幾らでもいる。民間の例で言っても、義務教育すらまともに卒業していない者が会社を興して発展し、最高学歴の者が平社員で働いているというのは良くある事だ。中佐は、スザンナの中に秘めたる能力を見出しているのさ。だから、艦隊の指揮統制を任せたり、作戦会議にオブザーバーとして参加させてきた。スザンナも中佐の期待に応えるような素晴らしい働きをしている。それはこれまでの経歴が物語っているじゃないか」
「それはそうですけどね……」
「それとも何か? もしかして女性に指揮されるのが、気に食わないんじゃないだろうな。もしそうなら偏見だぞ。今すぐにでも改心した方がいい」
「いいえ、そんな考えはありません」
「なら、いいが……」
「にしても司令は昼寝するとか言ってたそうですが、本気ですかねえ」
「ああ、たぶん本気だよ。いざ戦闘になれば、一時の休み暇なく頭脳をフル回転させなきゃならん。何せ全艦隊・全乗員の生命が掛かっているのだからな。その精神力の消耗は凄まじいものだ。一秒の指示の遅れが勝敗を決する事もある。戦闘時の一時間は平時の一日に相当するくらいのエネルギーが必要だ。だから部下に任せられる今の内に休んでおくわけだ」

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2021.02.05 08:05 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅳ
2021.02.04

第十一章・スハルト星系遭遇会戦




 十数分後、艦橋にアレックスが戻ってきた。
「現在の状況は?」
 アレックスの入室を認めて、指揮官席を譲るために立ち上がるスザンナ。敬礼しながら報告事項を伝える。
「旗艦サラマンダー並びに全部隊航行異常ありません。現在位置はスハルト星系第八番惑星軌道上を巡航速で航行中。敵艦隊は、スハルトの向こう側第六番惑星軌道上です」
「うむ。ご苦労様」
「司令。参謀達が揃いました。」
 パトリシアが報告する。
「わかった。スザンナ、君も一緒に来てくれ」
「判りました。では、艦の指揮を第二艦橋に移行します」
 第二艦橋は、第一艦橋が機能しなくなった時のための補助的な部署で、司令補佐のアンソニー・リーチフォーク大尉が指揮を執っている。毎度のことながら作戦会議にスザンナを出席させるアレックスに従い、指揮官のいなくなる第一艦橋に代わって、その機能を第二艦橋へ移行させたのだ。

 第一作戦司令室に集まった参謀達。
 パトリシアが勢力分布図を指し示しながら状況説明をしている。
「……というわけだ。ここはどうすべきだと思うか?」
 アレックスは皆に意見を聞いている。
「ここはスハルトの重力圏内です。コース変更には敵艦隊に位置を知られる危険性を伴います。どうやら敵は気づいていないようですから、このままのコースを維持していけば敵と交戦することなく離脱できるでしょう。現在の状況では戦うよりも逃げるのが得策だと思います」
 最初に口を開いたのはカインズだった。
「わたしも、カインズ少佐のおっしゃる通りかと思います。戦うとなれば敵にも位置を知られて正面決戦となるのは必至。艦数がほぼ同数なら、被害も同数になるでしょう。ニールセン中将に睨まれていて、艦艇の補充がままならぬ現状での消耗戦は避けるのが尋常かと思います。奇襲を掛けてというのでなければ……」
 と賛同を表明したのはジェシカだった。
 その他の参謀達の意見も一致していた。奇襲でなければ戦闘は避けるべきと言うものだった。
「スザンナ、艦長としての君の意見を聞こうか」
 突然、オブザーバーとして参列しているスザンナに意見を聞くアレックス。
「はい。恒星系の重力圏内でコース変更を行い、加速して敵艦隊に追い付くには、かなりの燃料を消費することになります。しかも重力加速度計に感知されますから、奇襲は不可能です。位置関係を保ちつつ、最大速度で恒星系を脱出するのが常套で得策かと」
「まあ、そうだろうな。一番無難だ」
「ですが……敵を叩く策がないでもありません」
「言ってみたまえ」
「よろしいのですか? ここには参謀の方々もおられますし、一艦長でしかない私が口を挟むのは、越権行為かと思います」
「気にしないでいい」
「それでは……」
 といいつつ、指揮パネルを操作するスザンナ。
「進行ルートを表示します」
 前方のスクリーンに恒星系のマップと艦隊相関図、そして部隊の進行ルートが示された。
「敵艦隊に追いつくために加速すれば、敵の重力加速度計に検知されてしまいます。まずは、第七惑星を利用して重力ターンとスイングバイによる加速を行い、さらに第三惑星でも同じようにスイングバイ加速を行って、恒星スハルト近接周回軌道に乗ります。近日点通過と同時に機関出力最大で加速して、背後から敵艦隊を追尾開始。この際にも恒星を背にして行動しますので、恒星の磁場や恒星風などの影響を受けて探知は難しいはずです。悠々と敵の背後を襲うことが可能でしょう」
「随分と遠回りをすることになるな」
「ですが、敵艦隊に対して常に恒星の影となるコースを取ることになりますので、察知される危惧を最少に防ぎながら接近することが可能です。スイングバイや重力ターンによる加速や軌道変更では重力加速度計では探知できません」
「急がば回れということだな」
「はい」
「ふむ……パトリシア。作戦参謀としての君の意見は?」
「ベンソン艦長のプランは十分遂行可能だと思います。問題があるとすれば、近日点付近を通過する際、恒星からの熱に各艦の耐熱シールドがどこまでもつかということです」
「ということらしいが、その辺のところはどうだ。スザンナ」
「はっ。もちろんそれは、旗艦サラマンダー以下、最も軽備な駆逐艦に至るまで、安全限界点を踏まえたうえで、十分考慮してコースを設定します」
「ふーむ……」
 と少し考えてから、
「ゴードンはどうだ?」
「いいんじゃないですかね。もしスザンナの言う通りに奇襲を掛けられるというのなら反対はしません」
 一同を見回してその表情から賛否の意志を読み取ろうとするアレックス。
「我々の勢力圏内を行動しているのは何か特殊な任務を帯びている可能性があるということだ。黙って見過ごすわけにはいかない。決定する。スザンナの作戦を決行し、敵艦隊を叩く」
 ほう!
 全員がため息をついた。
「よし。コース設定は、スザンナ。君にまかせる」
「はい!」
「パトリシアは、作戦立案のやり方を教えてやってくれないか」
「わかりました」
「敵艦隊との推定接触時間は?」
「およそ、十八時間後です」
「そうか、では第一種警戒体制のまま、乗員に交代で休息を取らせてくれ。私も六時間ほど昼寝させてもらおうか。スザンナ、それまでの指揮を任せる」
「第七惑星での最初の重力ターンは三時間後になりますが……」
「それくらいの指揮なら、君にできるはずだ。いいな」
 毅然とした態度で、指揮権をスザンナに託すアレックス。
 そこまで信頼されては、期待に応えるしかないだろう。
「わかりました。指揮を執ります」
「うん。じゃあ、頼むよ。以上だ、解散する」

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2021.02.04 07:51 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅲ
2021.02.03

第十一章・スハルト星系遭遇会戦




 その頃第一艦橋では、スザンナ・ベンソンが、巡航速体制下における部隊の指揮を執っていた。パトリシアも副指揮官席に陣取っている。
 このところアレックスが席を外している時は、スザンナが指揮、パトリシアが副指揮という体制が続いていた。スザンナは艦の操艦だけでなく、艦隊の指揮能力もかなりの素質があり、パトリシアをも上回ることをアレックスは見抜いていた。それゆえに極力スザンナに指揮を任せるようにしていた。もっともパトリシアは艦隊の指揮よりも、作戦参謀としての能力が高い。適材適所ということで、この二人のコンビネーションはなかなかのものであった。巡航時と戦闘訓練ではこの二人に任せることが多かった。
「まもなくスハルト星系重力圏内に入ります」
「機関出力を惑星間航行出力へ」
 思えば……士官学校時代からずっとアレックスの乗る艦の操艦に携わってきた彼女こそ、女性士官の有能さを再認識させ、アレックスに女性士官大量登用の道を開いたといえるのではないか。部隊の指揮を執るアレックスの側には、必ず彼女の姿があったのだから。
 その時、突如として警報が鳴り響いた。
「哨戒機CP-402号機が、敵艦隊を発見」
「位置は?」
「スハルト星系第六番惑星軌道上にあって、恒星スハルトに対して丁度反対側を航行しています」
「警報! 司令に連絡を取って」

 艦内を警報が鳴り続けている。
 何事かと近くの端末に飛びつくアレックス。
 すぐさま艦橋に連絡される。
「艦長。ヴィジホーンに司令が出ておられます」
 ヴィジホーンに映るアレックスが尋ねる。
「どうした、スザンナ。敵来襲か」
「恒星スハルトの反対側に敵艦隊です。まだ、こちらには気付いていないようです」
「勢力分析図を、こちらのモニターに流してくれ」
「わかりました。ただちに送信します」
 ややあってから、アレックスから回答が返ってきた」
「今、受信した……」
「いかがいたしますか」
「そうだな……取り敢えず現在のコースを維持しつつ、恒星スハルトに対して常に点対称になるように、敵艦隊との相対速度を合わせろ」
「わかりました」
「今からそっちへ向かう。全艦に、第一種警戒体制を敷いておけ。パトリシアは、参謀全員を至急第一作戦司令室に招集させておいてくれ」
「はっ。第一種警戒体制を発令します」
「参謀全員を至急第一作戦司令室に招集します」
 スザンナとパトリシアがほとんど同時に答えた。
「よし。それまで、そこを頼む」
 通信がとだえるや、スザンナはアレックスに受けた命令を反復して、指令を出した。
「発令! 全艦に第一種警戒体制」
「了解。全艦に第一種警戒体制」

 女性士官居住ブロック。
 第一種警戒体制を告げる艦内アナウンスが続いている。
「というわけだ、レイチェル。査察は中止。一旦艦橋に戻るぞ」
「助かりましたね」
 と、肩をすくめるレイチェル。
「そう言うことだ」

 艦橋のパトリシアもゴードン以下の参謀達に連絡を取り始めた。
「全参謀に至急伝達。第一作戦司令室に招集」
「了解!」
 巡航体制での指揮は執ったことがあるが、臨戦体制はまだ経験のないスザンナであった。緊張して手に汗を握る状態ながら、それでもしっかりとした態度で指揮を執っていた。
「現在の我が部隊と敵艦隊の相対速度は?」
「はい。現在、速度ベクトルで、我が部隊の三パーセントのゲージダウンです」
「速度を上げる。機関出力増幅、8000デリミタ!」
 とにかくアレックスが来るまで、持ちこたえなければならない。
「ウィンディーネのオニール少佐から通信です」
「繋いでください」
「繋ぎます」
「よう、スザンナ。今、敵勢力分析図を受信したが、恒星系に、反対側からほとんど同時に進入したみたいだな。中佐殿は?」
「現在位置は、女性士官専用居住ブロック。急ぎこちらへ向かっております」
「女性士官居住ブロック?」
「定期巡回査察中だったようです」
「そうか……役得というところだな」
「ご用件は?」
「敵と交戦するかどうかを、確認したくてね。中佐は、何か言っておられたか」
「いえ。第一種警戒体制を発令するようにおっしゃられただけです」
「ふーむ……。ということは、どうやら一戦交えるつもりらしいな。今からそっちへ行く」
 通信を終えて、パネルスクリーン上に投影された、敵艦隊との相対図を眺めていたスザンナだったが、何を思ったのかコンピューターを操作しはじめた。

「これだけ接近していながら、双方のレーダーに引っ掛からなかったのは不思議ですね」
 スザンナが呟くようにいうとパトリシアが答える。
「双方の侵入角度が、たまたま恒星スハルトを点対称となす位置関係にあったからですね。間にあるスハルトが丁度邪魔をしているのでしょう」
「しかし、いずれ敵も哨戒機でこちらを発見するのは目にみえています」
「ともかく中佐殿が到着するまで、現在の位置関係を維持しましょう」
「そうですね。敵艦隊との相対速度を合わせます」

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2021.02.03 07:43 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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