銀河戦記/鳴動編 第一部 第十九章 シャイニング基地攻防戦 Ⅶ
2021.04.16

第十九章 シャイニング基地攻防戦




 すべてのTV放送局が、ランドール提督の功績を讃えるような放送内容で、命令違反に対する軍法会議が行き過ぎであると放映していた。
 軍部の信用失墜の極みといえるだろう。
「広報部から言わせてください。今、ランドール提督を処罰するのは共和国同盟にとって重大な損失になります」
「またか……同盟の英雄とか言い出すつもりだろう」
「いけませんか? 士気を鼓舞する上で英雄の存在は必要不可欠であります。シャイニング基地防衛の時、三個艦隊が攻め寄せて来ると判っておりながらも、第十七艦隊の士官達は誰一人として、乱れることがなかったそうです。これはランドール提督なら何とか切り抜けてくれると信じて疑わなかったからでしょう」
「そしてその期待通りに難局を看破した。方法はともかくとしてな」
「だが、その方法が問題となっているのだ」
「ここに第十七艦隊副司令官オーギュスト・チェスター大佐を筆頭に全乗組員の署名の入った嘆願書が届いています」
「全員か?」
「はい。一人残らず」
「ランドールは部下の絶大なる信望を得ているということか。今回の作戦における彼の功績点は、基地防衛と敵二個艦隊の撃滅、そして艦船六万隻の搾取とで少将昇進点に達した。順当にいけば第十七艦隊司令と准将の地位が、次席幕僚に巡ってくるというわけだが……提督の処分となれば、その夢を取り上げることになり、ひいては第十七艦隊全員が離反する可能性があるというわけですな」
「それはまずいぞ。国民の期待はすべてに第十七艦隊、というよりもランドール提督一人の名声にかかっているのだ。ミッドウェイ宙域会戦の折りもそうであったように、連邦の連合艦隊来襲を完膚なきまでに粉砕した度量は、誰にも真似できないであろう。たとえそれが命令違反を犯す奇抜な作戦であったとしても許容される範囲ではないだろうか。長期化する戦争によって財政は逼迫しており、国家予算に占める国防費の比率は四割を越え、その重圧に国民は耐えかねているのだ。ランドールにさえまかせておけば、国家は安泰だろうという気運は充満している。これ以上国民の期待を裏切ることはできまい」
 軍部から参列している者はともかく、評議会から参列している者はランドールの処罰に反対の気運へと動いていた。
 今回のTV放映の影響によって、ランドール提督の絶大なる国民の人気と信頼が、改めて明らかとされる結果となったのだ。この会議場に参加している者達のほとんどが、ランドールを処罰に賛成したと知られれば、自分の地位が危うくなるのは必至である。次回の評議会選挙に出馬する予定の者は、これ以上の追求は人気に大きく影響し落選は確実。そう思い始めている者が大勢を占めるようになっていた。今やランドール提督の人気に逆行するような意見は述べることができなくなっていた。
「処罰するに処罰できずか……」
「かといってこのままでは他の士官達への示しがつかん」
「どうだ、この際。例の作戦を、彼にやらせるというのは」
 宇宙艦隊司令長官が口を開いた。
「作戦?」
「それはいい」
「タルシエン要塞攻略の任務をランドール提督に任せるのか」
「トライトン少将。君はどう思うかね」
 審議官の一人が、参考人として参列していたトライトン少将に向き直った。
 これまで審議の経過をじっと見つめていたトライトンであるが、静かに答えた。
「わかりました。ランドールの第十七艦隊にやらせましょう」
「決まりだ。タルシエン攻略の任務をランドールの第十七艦隊に与える」
「諸君。タルシエン要塞は難攻不落と言われて幾度かの攻略をことごとく跳ね返した。もし成功すれば、指令無視の件を不問に伏し、規定通りの少将の位と現在空席の第八師団司令官の席を、彼に与えようじゃないか。反対するものは」
 議場が一時ざわめいてやがて静かになった。
 宇宙艦隊司令長官の意見に反対できるものはいなかった。長官はぐるりと周囲を見回して、異議のでないのを確認した。
「よろしい。ランドール提督をここへ」


 議場の扉が開いてアレックスが入場してくる。
 そして被告席に入ると、
「アレックス・ランドール提督。貴官の処分を申し渡す」
 審判長が審議の結果を言い渡した。
「貴官の今回の行動は、共和国同盟に対する離反であると言わざるを得ない。命令を無視してシャイニング基地を撤退し、一時的ながらも占領される結果となり、共和国同盟への侵略の足掛かりとされる危険性を生じたのである。しかしながら、それは第十七艦隊及び第八艦隊のクルーの生命を守らんががための人情からきたものと信じるものである。よって温情を持ってこれを処罰するのを猶予し、その条件としてアル・サフリエニ宙域にあるタルシエン要塞攻略の任務を新たに与えることとする。もしこの任務を達しえたならば、貴官の命令違反を不問に帰し、要塞攻略とシャイニング基地防衛にかかる功績点を規定通りに与えることとする」
 会場からため息にも似た吐息が聞こえた。
 ニールセンがランドールを陥れようとしたことは誰しもが感じていた事である。それが逆の効果として、ランドールの名声を高めたに他ならないことを知り、今また新たなる活躍の場を与えることとなったのは、ニールセンに対する痛烈なる皮肉な結果となったわけである。
「以上で審議を終了する。全員解散」
 全員起立して敬礼し長官の退室を待ってから、それぞれの持ち場へと戻っていった。
 直立不動の姿勢で全員の退室を見届けているアレックスの肩を叩くものがいた。振り返るとそれはトライトン少将であった。彼は軽く手を振って微笑みながらも無言で退室した。

 会議場を出たところで、ジェシカとレイチェルが待ち受けていた。
「いかがでしたか。会議のほうは」
「一応処罰だけは免れたというところだ。地位も階級もそのままだ。君達の処遇もな」
「よかったですね」
「しかし君達も大胆なことをしてくれたな」
「他に方法がありませんでしたからね」
「首謀者は一体誰だ?」
「リンダとフランソワですよ。リンダがTV局、フランソワが広報部、その他あちこち駆けずり回って大車輪で働いてくれました」
「あん? あの二人は犬猿の仲じゃなかったのか?」
「尊敬する提督の危機ということで共同戦線を結んだようです」
「ふうん……意外なこともあるもんだな」
「提督あってこその自分でもありますからね」
「それにしても、本当にシャイニング基地から艦隊を撤退させたのか」
「撤退? しませんよ、そんなこと。苦労して奪還したものをどうして、また敵に渡す機会を与えなきゃならんのです?」
「TVではそう報道していたようだが」
「それは、リンダがTV局側に手を打って虚偽の報道をぶちかましたんですよ。あの映像は、策略のために一時撤退したあの時のやつですよ。それをTV局に渡して流してもらったんです。もっともTV局側にはその事実は伏せてありますけど」
「ふ……。やられたな」
「いやあ、今回のことは、あの二人の手柄です。提督ほどじゃないですけど、二人合わせて一個艦隊に相当する働きをしましたね。ありゃあ、一介の艦長やパトリシアの副官にしておくには、もったいないくらいの人材ですよ」
「そうか……かもしれないな」
「だいたい、敵の三個艦隊が迫っているのに、一個艦隊で防衛しろということ事態が間違っているのです。いくら今までにも数倍の敵艦隊を撃破してきた事実があるといえ、それらはすべて奇襲先制攻撃であったから可能だったのであって、今回のように専守防衛の任務にまで同様にうまくいくはずがありません。わざと攻守の立場を変えて奇襲攻撃を敢行したから何とか最終的に敵の手から守れたといえるのに」
 ジェシカはつぎからつぎに憤懣をぶちまけて喋り続けており、アレックスが切り出す機会を与えなかった。いつものことではあるが……。
「アル・サフリエニ宙域に向かうぞ」
 アレックスは切り出した。
「え!? それってまさか……」
「タルシエン攻略を命じられた」
「また、難題を吹っ掛けられましたね」
「それにしてもタルシエンとは、また……」
「やっぱり、ランドール提督を潰そうという魂胆が見え見えじゃないですか」
「とにかく命令が下された以上、行くしかない」
「せめてもの救いは、防衛なんて堅苦しい作戦じゃなくて、攻撃ってところですね」
「そうだ、レイチェル」
「はい」
「早速、あいつと連絡を取ってくれないか」
 あいつとは、ジュビロ・カービンのことである。
 闇の帝王とも呼ばれる天才ハッカー。
「分かりました、ついに例の作戦を始動させるのですね」
「そうだ」
 アレックスが少佐になったばかりの頃、ダウンダウンの廃ビルの地下室にて交わした極秘裏の作戦計画が、ついに長年の時を経て発動することとなったのである。

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2021.04.16 12:51 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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