銀河戦記/鳴動編 第一部 第十三章 ハンニバル艦隊 Ⅲ
2021.02.25

第十三章 ハンニバル艦隊


Ⅲ                 

 数日後。
 満を持して、スピルランス艦隊が出撃を開始した。
 一切の補給を受けない、特攻部隊として。
 シャイニング基地やカラカス基地を目にともせずに、一路その背後の共和国同盟奥深くにまで進撃したスピルランス艦隊を、誰もが見落とすことになった。
 それがスティールの思惑だった。
 共和国同盟に侵攻するには、必ず基地を攻略して補給路を確保してからでなければ、実現不可能なものと考えられていた。誰もがそう考えるだろう。だから補給を無視した作戦など思いもしない。
 そこに落とし穴があったわけである。
 スティールの作戦は術中に入り、何の抵抗もなく共和国同盟の奥深くに侵入できたのである。
 こんなところまでに敵艦隊が進撃してくることなどあり得ないから、守備艦隊などいるはずもなかった。スピルランス艦隊は易々と、周辺惑星を攻略していった。
 共和国への侵攻ではなく、あくまでもアレックスをカラカスから引き離す陽動であるから真っ向から同盟艦隊と一戦交える必要もない。迎撃艦隊が弱いと見れば撃破し、強いと見れば逃げ回れば良いのだ。そして手薄な惑星を攻略して物資を簒奪する。

 共和国同盟の只中に出現した連邦軍に人々は震撼した。
 急遽迎撃艦隊が差し向けられたが、生死を分けるような本物の戦闘に参加したこともない、第五軍団の諸艦隊はまるで歯が立たなかった。
「なんだ、赤子を捻るように簡単だな」
 スピルランスが、呆れた表情で言った。
「当然ですよ。ここいらにいるのは、実戦の経験のない艦隊ばかりなんですよ。戦闘の仕方すらまともに知らない」
 
 共和国同盟が差し向ける迎撃艦隊をいとも簡単に撃滅させながらも、周辺惑星に対しては燃料や弾薬、そして水や食料といった物資を簒奪していった。
 攻略作戦が、容易く事が進んでいくうちに、将兵達の間には怠惰な日常から、安寧な態度へと変わっていく。

 それは一つの部隊の将校が引き起こした。
 食料の纂奪のうえに、占領した地域の婦女子に乱暴を働くという事態が発生したのである。
 永年の過去の歴史が示すように、占領住民への暴行は起こるべくして起こったものである。
 その事件が明るみになった時、同じ境遇にある他の将兵の衝動を止めることはもはや不可能となったと言わざるを得ないであろう。食料の搾取に向かった部隊のすべての男達が、食料を奪いとると同時に婦女子への暴行を働きはじめたのである。逃げ惑う婦女子を追い回し、悲鳴を上げるその衣服を引き剥がして事に及んだ。
 もはやそれは指揮統制された軍隊ではなく、欲望に餓えた野獣の軍団に成り果てていた。
 連邦の地を遠く離れて、敵地の奥深くに切り込んでの野戦状態、止める手立てはなかった。


 共和国同盟統合作戦本部では、緊急対策会議が連日で開かれていた。
 自国内に攻め込んできたスピルランス艦隊だが、地球古代ローマ史にちなんでハンニバル艦隊と呼称されていた。
「これ以上、ハンニバル艦隊の簒奪を許しておくわけにはいかない!」
「そうは言っても、第五軍団には奴らには太刀打ちできる者はいません。平穏無事に訓練程度しか行ったことのない連中ばかりなんですから」
「何を考えておるのだ。こういう時にこそ役に立つ、格好の人物がいるじゃないか」
「格好の人物?」
「ランドールだよ」
「ランドール!」
「しかし彼は、カラカス基地にいます。担当区域が違います」
「そもそもハンニバルが侵入してきたのは、第二軍団が油断してその通過を許してしまったからに他ならない。その責任を取らせるためにも、第二軍団のランドールに出てもらう」
「しかし、今ランドールをこちらに向かわせれば、カラカス基地ががら空きになります。敵がそこを狙って奪還に来るのは明白な事実です。ハンニバルは陽動作戦です」
「だからといって、第五軍団に迎撃できる者はいない。そうだろう」
「確かにそうではありますが」
「なあに、ランドールにはハンニバルを撃退したあとで、またカラカス基地を攻略させればいいんだよ」
「そ、そんなこと……」

 また無理難題を押し付けてきたな……。
 ニールセン派の参謀達も、さすがにそれが行き過ぎであることがわかった。
 せっかく苦労して手に入れた基地を見放した上に、それをまた攻略させるなどとは……。
 最悪の結果としてカラカス基地からの侵攻作戦を許してしまうことになる。
 ここは最新鋭戦艦の揃ったニールセン直属の第一艦隊を派遣するのが最善だろう。
 しかし、面と向かって意見具申できるものもいなかった。

 結局、ニールセンの提案通りに可決された。

 サラマンダー艦橋。
 パネルスクリーンに映るトライトン准将と通信を交わしているアレックス。 
「迎撃に向かった艦隊はことごとく撃破されて、すでに五個艦隊を失っている。奴等をこれ以上のさばらせることはできないのだ。そこで君に白羽の矢が立った。君の配下の部隊全軍をもって、これを撃退してもらいたいのだ」
「守備範囲が違いますよ。ハンニバルが暴れているのは、第五軍団の担当区域です」
「判っている。だが、やつに対抗できるのは、これまでにも数多くの敵艦隊を撃退した実績を持つ君しかいないのだ。最前線を受け持つ我々第二軍団と違って、第五軍団は内地にあって戦闘の経験がないに等しいからな、ハンニバル艦隊にとっては赤子の手を捻るようなものなのだ。食料を纂奪されるのはまだいい。しかし婦女子がこれ以上暴行されるのを黙って手をこまねいて見ているわけにはいかんのだ。是が非でも食い止めねばならない」
「ハンニバル撃退の任に付くのは構いませんが、カラカスを空にしてもよろしいのですか。我々が出撃した後を代わって守れる余剰戦力は第二軍団にはないはず。かといって、第一軍団からは出してくれないのでしょう?」
「そういうことだな……」
「敵もそれを狙っているのは確実です。ハンニバルに関わっている間に奪取されるのは目にみえています。ハンニバルの真の目的がそこにあるのではないかと、私は考えています。カラカスから我々を引き離すために」
「それは十分考えられることだ。しかし足元を切り崩されるのも防がねばならないのだ。早い話しがだ、君にハンニバルを撃退させて、その後でカラカスを再び攻略させるということなのだよ。それが統帥本部の作戦というか……」
「チャールズ・ニールセン中将の考えですか」
「ま、そのな……とにかく統帥本部の決定は変えられない、君は四十八時間以内に部隊を率いて出撃したまえ」
「わかりました」
「それと……。いかに君とて、ハンニバル艦隊が相手では、現有勢力では心細いだろう。シャイニング基地に逗留している第五艦隊の残留兵力二万隻を君の部隊に併合させることにした。使ってやってくれ」
「第五艦隊をですか」
「そうだ。これをもって第五艦隊は正式に解体されることになった。敗残の兵となり意気消沈している彼らも、英雄と湛えられる君の配下に入れば心機一転の好機となりうる。また、それを成さしめるのが、君に課せられた課題というわけだ。私がハンニバル撃退を引き受けたのも、旧第五艦隊の将兵達の命運を君に託したかったのだ」
 第五艦隊の司令官としてそのままアレックスが引き継がないかという疑問が残るだろうが、正規の艦隊を指揮するのは准将という厳守規定があり、大佐である限りそれは許されないことであった。独立遊撃艦隊という正規ではない艦隊だからこそ可能であったのだ。
「私にできるとお思いですか」
「できなければ、君もそれまでの武人でしかないといういうことだ。いくら英雄と湛えられていようともな」

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2021.02.25 07:49 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十三章 ハンニバル艦隊 Ⅱ
2021.02.24

第十三章 ハンニバル艦隊




 この時点においてアレックスが手中に収めた勢力範囲はカラカス基地だけに止まらなかった。
 カラカス基地を防衛するに止まらず、周辺地域への逆侵攻を開始して、手当たり次第にその勢力下に収めていったのである。
 アイスパーン機動要塞と駐留部隊の搾取二千隻。
 スウィートウォン補給基地と駐留部隊搾取千五百隻。
 タットル通信基地と駐留部隊七百隻。
 ミルバート補給基地と駐留部隊三千隻。
 そして第二次・第三次カラカス基地攻略艦隊撃破による五千隻の搾取。
 アレックスは基地に駐留するということはしなかった。常にその居場所を悟られないように、基地を転々として動き回り、ある基地を攻略に向かった艦隊があれば、いつの間にかその背後に現れて、これを壊滅させていったのである。
 基地も艦隊も、電撃石火の急襲を受けて、反撃するまもなく壊滅させられていった。基地を奪われるのにならず、貴重な艦艇を搾取されて、みすみすランドール艦隊を増強され、その増強した部隊によってさらに快進撃を続けるという悪循環であった。
 すでにタルシエン要塞は、周辺基地をことごとくアレックスの手中に落とされて、丸裸状態といっても過言ではないほどになっていた。火中の栗を拾うがごとく、アレックスに手を出せば出すほど、大火傷を負う状態である。
 もはやアレックスのいる宙域への進軍を具申するものは誰もいなかった。
 侵攻作戦は、クリーグ基地方面へと転進することになった。
 しかし問題があった。何せクリーグ宙域は、補給できるような星々がほとんどなく、長期戦となれば補給に事欠くことになる。当然として多くの補給部隊を引き連れての侵攻となるが、そのルートの確保に多大な護衛艦隊を割かなければならなり、戦力不足を引き起こすことは否めなかった。
 戦略的には無意味といえた。
 かと言って、シャイニング基地はあまりにも防衛力が強大すぎる。
 地表を埋め尽くす無数のミサイルサイトとレーザーパルス砲が宇宙を睨み、地下数十キロに設置された核融合炉からのエネルギー供給を受けた星全体を覆うエネルギーシールド。これを攻略するには最低でも五個艦隊は必要だとされている防御力を誇っている。
 誰が考えても、最善の侵攻ルートはカラカス基地からしかない。
 という結論しか出ないのであるが……。

「誰か、奴を打ちのめすという自信のある者はいないのか?」
 声を枯らして要塞司令官がうなり声を上げた。
 しかし、誰も手を挙げなかった。
 テルモピューレ会戦でのアレックスの作戦は奇想天外にして絶妙。
 火中の栗を拾おうという者はいない。
 ただでさえこの要塞司令官は冷酷非情ながらも無能である。
 作戦が成功すれば全部自分の手柄、失敗すれば詰め腹を切らせる。
 それが分かっているからこそ、自分から進んで名乗り出るものはいない。

 その時であった。
 スティール・メイスンがすっと前に出たのである。
 一同が注目する。
「おお! メイスンか。何か名案でもあるのか?」
 表情を明るくして前のめりになるようにして尋ねる司令官。
「一つだけあります」
「そ、そうか。言ってくれ」
 メイスンは、声の調子を落としながら、自分の作戦を公表した。
「やはり、奴をカラカス基地方面から引き離すしかないでしょう。ただでさえ、軌道衛星砲によって堅固に守られていますから」
「そんなことが出来るのか」
「策はあります」
「策とは?」
「精鋭を選りすぐった一個艦隊を要塞より出撃させて、クリーグとシャイニングの中間点を通過して、敵地の後背に回り込みます。カラカス基地側は、ランドールによって制宙権を完全に掌握されているので、こちらからは不可能でしょう」
「後背に回り込むだと? だが、補給をどうする」
「補給などいりません」
「補給がいらないだと? 馬鹿なことをぬかすな。補給なしでどうやって戦うというのだ。敵の只中にいくのだぞ」
 参謀の一人が反問した。
 しかしスティールは静かに答える。
「簡単ですよ。現地で調達すればいいんですから」
「現地調達?」
「そうです。一個艦隊程度なら十分食いぶちを賄うことができるでしょう。同盟内深く潜り込み、星々を攻略し纂奪を繰り返しながら各地を転戦していきます。最前線を防衛する第二軍団は精鋭揃いですが、後方を支援するその他の軍団はまともに戦ったこともない連中ばかりです。数は揃えていても戦力には程遠いですから、これを撃滅するのもたやすいというものです」
「それだったらいっそのこと、そのまま首都星トランターへ向かったらどうだ」
「それは無理でしょう。絶対防衛圏には、百八十万隻からなる艦艇が集結しています。烏合の衆とはいえ多勢に無勢というものでしょう」
「その百八十万隻が動いたらどうなる」
「それはありません」
「どうしてだ」
「絶対防衛艦隊の司令官は、チャールズ・ニールセン中将。全艦隊に対する派遣命令の全権を事実上握っている人物です。意にそぐわない武将や自分の地位を脅かす武将を、最前線の渦中に送り込み平気で見殺しにする男。自分の守備範囲に敵が侵入してこない限り、自分の手駒を動かすことはしません。情報によればニールセンが、僅かな手勢でカラカスを攻略し、孤軍奮闘して防衛任務をまっとうしてきたランドールを、煙たがり敵視していることもわかっています。当然として、彼を差し向けてくるだろうと推測します。侵入者を撃退してくれればそれでよし、あわよくば全滅してくれれば願ったりでやっかい者払いができるというもの。早い話が、カラカス基地方面が、がら空きになるということです。その間に別働隊でこれを奪回するのです」
「なるほど……」
 そんな声がそこここから聞こえてきた。
「ランドールのことばかりに気をとられているから策に窮することになるんです。その上にいる上官、しかもランドールを煙たがっているニールセンに働きかけて、ランドールをカラカス基地から引き離すように仕向ければ、何の苦労もなく基地を奪還することができるのです」
「そのために一個艦隊を、補給なしで敵国の只中に送り込むのだな」
「その通りです」
「しかし、その艦隊が生きて無事に凱旋できる保障はどこにもないぞ。敵艦隊に包囲されて全滅する可能性の方が高い。誰があえてそんな火中に飛び込む勇気のある者がいる」
「わたしが行きましょう。こういう時は言い出した者と相場が決まっていますからね」
 自信満面の口調で言い放つスティールだった。
 その表情を見つめていた司令官だったが、
「いいだろう。スティール・メイスンの作戦を採用することにする」
「ありがとうございます」
 その時、将兵達を掻き分け、
「わたしに行かせてください」
 と、司令官の前に歩み出たものがいた。
 かつてカラカス基地を奪われた当直の基地司令官のスピルランス少将であった。基地陥落で捕虜となり、捕虜交換で舞い戻ってきたばかりだった。
「スピルランスか」
「ぜひ、お願いします」
「いいだろう。君にまかせよう。参謀としてメイスンを連れていきたまえ」

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2021.02.24 07:23 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十三章 ハンニバル艦隊 Ⅰ
2021.02.23

第十三章 ハンニバル艦隊


I

 タルシエン要塞中央ドックステーション。
 スティール・メイスンが副官を引き連れて降りてくる。
「お帰りなさいませ、メイスン准将。今回もまた見事な戦いでした」
 ステーションの責任者が声をかけた。
「取るに足りない戦いのことを言っても仕方あるまい。敵は最初から逃げ腰だった。どうしてもこうも無駄な戦いを仕掛けるのか理解に苦しむ」
「同盟のニールセン中将のことですからね。差し詰め、気に入らなくなった提督を処分しようとしたのでしょう」
「処分か……。まったくあいつは将兵のことをただの駒にしか考えていない。そんなにしてまで自分の信奉者だけを身近に集めて何するつもりだ。戦争なんだぞ、貴重な味方の将兵を見殺しにしてどうする」
「その最たるものがランドールでしょう。我々でさえ正気の沙汰ではないと判る無茶苦茶な命令を受けてます。明らかに、潰しにかかっていますよ」
「しかし、ニールセンの期待に反して、見事な作戦で勝利を続けているがな」
「そのランドールが、カラカス基地第三次攻略隊を退けて、またもや多くの艦艇を搾取したもようです」
「そうか……その前のサラミス会戦でも勝利したしな」
 サラミス会戦とは、最初のカラカス攻略戦から六ヵ月後に出撃した第二次攻略隊を、宇宙機雷による進撃阻止と、それを迂回しようとした宙域にヘリウム3原子散布による核融合爆発によって、一気に艦隊を全滅させた戦いである。
「ランドール艦隊は、三万隻にまで膨れ上がってしまいました。もはや尋常な手段ではカラカス基地を攻略することはできないでしょう」
「ああ、軍部はランドールの実績を過小に評価しすぎだ。ちょこまかと小部隊で攻略しようとするから、そういう事態になるんだよ」
「そうですね」


 要塞作戦本部。
「一体いつになったら、同盟に進撃し屈伏させることができるのだ」
 居並ぶ参謀達の前で、要塞司令官が憤懣やるかたなしといった調子で怒鳴っている。
「とにもかくにもカラカスを守備しているランドール一人が問題なのだ。我々の行く先々に待ち伏せして、想像だに出来ない作戦を用いて奇襲をかけてくる。すでに三個艦隊が撃退され、バルゼー提督は捕虜になった。しかも、奴は我々から搾取した艦船を組み入れて戦力を増強している。そうこうしているうちに、奴の艦隊は三万隻にまでになってしまったぞ」
「カラカス基地を放っておいては、シャイニング基地を攻略することもできん!」
「その通りです。背後を取られてしまいます」
「いったいどうしてこうなってしまったのだ?」
 要塞司令官が頭を抱えていた。
 このままでは自分の責任問題だと、今頃になって気づいたのである。
 タルシエン要塞は、自国の防衛以上に共和国同盟への侵攻作戦の拠点として築かれたものである。当然侵攻作戦が行き詰っているとなると、その責任を問われることになる。

(無能な参謀達のせいだろうが……)

 スティールは、バルゼー提督を捕虜にされた原因である無策な作戦しか立案できない統合軍参謀連中を信用していなかった。
 作戦を指示されて出撃することもあるが、いざ戦場に赴いた時には完全に無視して、自分の思い通りに戦ってきた。ゆえに、参謀達のスティールに対する風当たりは強かった。
「誰か、奴の息の根を止めることのできる者はいないのか?」
 場内を見渡して意見具申するのを待っている司令官。
(何を今更ながら言っているんだ。以前にバルゼー提督が、三個艦隊でこれを叩き、余勢を駆ってシャイニングに侵攻するという戦略を意見具申した時に、それを取り入れていれば、ここまでにはならなかったはずじゃないか。バルゼー提督だけが、貧乏くじを引かされたことを、何とも思っていないのか。ただ失敗したという結果だけしか見ていないじゃないか。実際、カラカスを攻略されて以降にも、何度となくランドールを潰すチャンスはあったのだ。なのに彼を過小評価したあげくに、幾度も少数のみの派遣艦隊で散々な目に合い、なおも考えを改めようとしなかった。そして気がついたときには、手を出すこともできない勢力に膨れ上がってしまっていた……実に愚かだ)

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2021.02.23 08:45 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十二章・テルモピューレ会戦 Ⅷ
2021.02.22

第十二章 テルモピューレ会戦




 カラカス基地奪取、キャブリック星雲不時遭遇会戦、そしてテルモピューレ宙域会戦と、奇抜な作戦で十倍以上の敵を撃ち負かしたことで、アレックスに対する将兵達の信頼は揺るぎないものとなっていった。
 やがて一ヶ月後に迎えることになる第二次カラカス防衛戦においても、十倍以上の敵艦隊が押し寄せてくるという情報が伝えられた時も、誰一人として不安を抱く者はいなくなっていたのである。
 そしてそれは次ぎなる期待へとつながる。
 隊員達の最大の感心事が、ランドール司令の准将への昇進である。
「問題は、統帥本部の将軍達方々がどう出るか」
「というよりも、チャールズ・ニールセン中将一人をどうするかじゃないかな」
「奴がいる限り、ランドール大佐の将軍入りはないな」
 下士官から准尉(将校)へ、大尉から少佐(佐官)へ、そして大佐から准将(将軍)へというように、新たなクラスに昇進する場合は、必ず軍部内にある査問委員会による適正試験・面接・実地戦闘試験などが行われることになっている。
「いや。国家治安維持法の特別追加条項の第十二条がある」
 それは、栄誉ある聖十字勲章を授賞するような特別功績をあげた場合で、国家治安委員会から推挙され、共和国同盟最高評議会において議員の三分の二以上の賛同を得られれば、軍部の意向に関わらず無監査で昇進できるとした法律である。
 時として軍部というものは、国政を無視して独断先行して侵略戦争を始めたり、武力抗争を起こしたりするものである。そのために軍部を監視・監督する機関として国家治安委員会が存在する。国家治安委員会が活動の根拠とするのが、国家治安維持法であり特別追加条項である。

 第二条 将軍が艦隊を動かす時には、必ず委員会より派遣された監察官が同行する。
 第三条 艦隊の行動は逐一監察官を通して委員会に報告される
 第四条 監察官は委員会の直轄にあり、軍部はその活動を妨げることはできない。
 第九条 委員会は、将軍職の解任請求を最高評議会に提出することができる。
 第十一条 必要が生じた場合、新たなる将軍を最高評議会に推挙することができる。

 そして先に挙げた第十二条である。
 軍部とて国家の治安維持のために存在する以上、国家の法律には逆らえない。

 テルモピューレから凱旋し、兵士達が休息を与えられてしばしの息抜きをしている頃、敵から搾取した艦艇の改造作業を不眠不休で続ける人々もいた。
 敵艦艇を搾取したとはいえ、ハード面はともかく敵が使っていたソフトがインストールされている艦制コンピューターを、そのままでは利用することはできない。ROMを取り替えてメモリーを完全に初期化した後に、改めて同盟仕様のソフトをインストールする。これはウィルス対策を完全にするためである。またある種の艦では制御コンピューターごと総取り替えし、回線網の再施設という根気のいる作業も必要であった。
 これらの担当責任者として、エンジン設計技師のフリード・ケースン中尉と、システム開発・管理技師レイティ・コズミック中尉があたっていた。
「どうだい。作業の進行状況は?」
 アレックスは時折二人のもとを尋ねていた。カラカスを脅かす敵艦隊の来訪にそなえるためにも一隻でも多くの艦船を必要とし、逐一の報告は受けて知っていたが、その目でじかに確かめておきたかったからである。
「最初の時は三百隻、次が六百隻、そして今度が千隻です。休む暇もありません」
「本国では予算が足りなくて、損失した艦船の補充を受けようにもままならぬ情勢なのに、いとも簡単に艦船を増強してしまう我が部隊のことを、やっかみも含めて盗賊部隊と呼んでるそうです」
「部隊創設当初の二百隻に、ロイド少佐が持ってらした二百隻の他は、すべて搾取して編成された部隊が、今では二千隻に膨らんでます。本国に要請して手配されたのは、それらを動かすに必要な将兵の増員だけ」
「戦闘要員だけでなく、技術部員の増員もぜひともお願いしますよ。これじゃあ、眠る暇もありませんから」
「判っているよ。大至急に技術部員の派遣を要請しているところだ」
「大至急じゃなくて、超特急でお願いします」
 レイティが強い口調で詰め寄ってきたので、思わず後ずさりしてしながら答えていた。
「わ、わかった」
「何にせよ、搾取した艦艇を使役するのは結構ですが、ブービートラップが仕掛けられることも十分考慮にいれてくださいよね。作業中に爆発したとかは、遠慮願いたいです」
「もちろんだよ」
「それじゃあ、忙しいのでこれで失礼します」
 とつっけんどんな態度で、艦内に戻っていくレイティだった。
「ああ、済まなかった」
 その後姿を見送りながら、頭を下げるアレックス。
 技術的なことに関しては、二人がいるからこそアレックスの艦隊も存在できる。じゃじゃ馬でしようがないと廃艦の憂き目にあったハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式を、これほどまでの高性能戦艦に生まれ変わらせたのも二人のおかげだった。
 そして、極秘裏に進められている例の件にしても……。

 第十二章 了

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2021.02.22 07:33 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十二章・テルモピューレ会戦 Ⅶ
2021.02.21

第十二章 テルモピューレ会戦




 誰しもが考えもしなかった作戦にうってでたアレックス達の完勝であった。敵の誤算は、カラカス基地にある強力な軌道衛星兵器を盾にして防衛に徹し、一歩たりとも出てはこないだろうと考えたことである。まさか防衛しなければならない基地を空っぽにして自分達の勢力圏内奥深くまで進撃してくるとは誰しも想像だにしなかったであろう。それがゆえに何の警戒もせずにテルモピューレ宙域を渡ろうとしたのである。
 アレックス達の電撃作戦によるバルゼー艦隊の壊滅、艦隊司令官バルゼーの捕虜という報が伝えられた時、タルシエン要塞司令官はあまりの動揺の激しさのために、要塞に警戒体制を発令しただけで、後続の艦隊を派遣することすらなかった。
 追撃の艦隊が出てこないのを知ったアレックス達は、悠々と宙域の掃討を行なうことができた。結果として、またしても千隻近い敵艦艇を拿捕して、基地に持ち帰ることに成功したのである。それもバルゼー提督という有力敵将を捕虜にして。
「前回と違って、今回は敵艦を鹵獲(ろかく)するのですね」
「頂けるものは頂いておくのが、私のポリシーだからな。今回は策謀の余地もないだろう」

 こうしてカラカス基地の防衛に成功したアレックスは大佐に昇進した。ゴードン・カインズ両名はそれぞれに中佐となり、配下の多くの士官達も多く昇進を果たしたのである。もう一人の少佐であるディープス・ロイドは、キャブリック星雲会戦に参加していなかったせいで、功績点が僅かながらも昇進点に届かず昇進から外れた。
「残念でしたね、少佐殿。後もう少しでしたのに。キャブリック星雲に参加していなかったのが尾をひきました」
 副官のバネッサ・コールドマン少尉が慰めた。
「しかたがないさ。運不運は誰にもある。鹵獲した艦艇に配属された乗組員を訓練しなければならないのは当然だし、だれも敵と遭遇するとは思いもしなかったのだから」
「でも、大丈夫ですよ。ランドール司令は公正な方ですから、すべての将兵に均等にチャンスを与えてくれます」
 士官学校時代にアレックスから、戦術理論と戦闘における行動理念を、直々に叩き込まれたバネッサの言葉である。まさしくアレックスの言葉を代弁していると言えるだろう。

 さらにもう一人特筆すべき昇進者がいる。
 独立遊撃艦隊再編成当初からアレックスの副官として尽力を尽くし、たぐいまれなる情報収集・処理能力でアレックスの作戦を情報面からバックアップした、情報将校レイチェル・ウィングである。
 今回の作戦においても、バルゼーの到着を逸早くキャッチし、その艦隊がテルモピューレ宙域を突破するコースを通るという情報を掴んだのも彼女と彼女が指揮する情報班であった。いかにアレックスとて、敵艦隊の正確な情報なしには、テルモピューレ宙域会戦の綿密な作戦を立てられなかった。
 彼女の提供した情報は、アレックスの立てた作戦に匹敵する功績とされ、無監査による少佐への昇進を認められ、宇宙艦隊史上初の現役女性佐官の誕生となったのである。
 これは意外と思われるかもしれないが、宇宙艦隊勤務につく女性のほとんどが三十歳を前に地上勤務に転属するため、現役で少佐に昇進した例は過去にはない。艦隊勤務の激務による生理不順、無重力の影響による骨格からのカルシウム溶出や、宇宙線による卵細胞の遺伝子破壊などなど、宇宙艦隊生活は女性の妊娠・出産を困難にする障害が多すぎる。ゆえに結婚を考える女性士官としてはごく自然な淘汰であろう。
 しかしながら、アレックスの率いる独立遊撃艦隊は、めざましい功績を立て続けにあげて、全員が急進歩的に昇進しており、ただでさえ士官学校出たばかりの新進気鋭が勢揃いしているのだ。現在大尉の階級にあるジェシカ・フランドルもパトリシア・ウィンザーも、確実に佐官に昇進するのは時間の問題である。

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2021.02.21 15:36 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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