銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十二章 要塞潜入! Ⅱ
2021.04.30

第二十二章 要塞潜入!




 ジュビロから声が挙がった。
「よし! 侵入した。成功だ」
 ものの数分でコンピューターの侵入に成功するジュビロ。
「さすがだな」
「俺を誰だと思っている」
 憤慨気味のジュビロ。
「まあな……。レイティ、端末を操作して見てくれ。そうだな……要塞のブロック図を出してみてくれないか」
「OK。要塞のブロック図ですね……ちょっと待ってください」
 レイティは操作パネルをいじりはじめた。
「間違っても警報システムは作動させるなよ」
「いやだなあ、提督。僕達を誰だと思ってるんですか、コンピューターのシステム管理者と天才ハッカーですよ。システムなんてのは日常茶飯事で取り組んでいるんです。操作パネルのデザインを見ただけでもおよそのことはわかります」
「そ、そうか」
「よし、こいつだな……」
 と確信した表情でスイッチを押した。
「お、出たでた」
「レイティ、ごみ処理場周辺を出してくれ」
「はい」
「どうやら二区画先まで閉鎖されているようだな」
「大型ミサイルの不発弾があるから用心のためですね。これなら、ここへ踏み込まれることはないでしょう」
「しかし、その内に爆弾処理班がおっつけやってくるはずだ。早いところやってしまわなければならない」
「そうですね」
「中央制御コンピューターの位置は?」
「ここから二十七ブロック先の所にあります」
「そこへたどり着く最短コースは」
 レイティはパネルを操作してルートを表示してみせた。
「そうですね、このルートを通れば」
「途中の保安システムは?」
「残念ながら、この端末からでは保安システムを止めることはできません。ローカルコード専用の端末ですからね。保安システムへのアクセス権が設定されていません」
「このままでは、中央制御コンピューターへは行くことができないか……後は、ジュビロ次第だな」
「保安システムへのアクセスルートを探っているところだ。もう少し時間をくれ」
 たとえアクセス権が設定されていなくても、中央制御コンピューターに接続されてさえあれば、ジュビロの腕前なら何とかしてくれるだろう。
「それにしても……」
 レイティーが小さく呟くのを聞いて、アレックスが尋ねる。
「どうした?」
「いえね。ここのシステムは一世代前のものなんですよ」
「一世代前?」
 ジュビロが代わって答える。
「さっきからいろいろ探っているが、カウンタープログラムはおろか、ハッカーの侵入を防ぐ対策らしきものが一切ない」
「どういうことだ」
「つまりですね。この要塞は完全独立コンピューターによって制御されていますから、外からアクセスする道が遮断されています。ハッカーの侵入を考慮する必要はないと判断しているのではないでしょうか」
「がっかりだぜ。この程度なら、レイティでも攻略できるかもしれないね。時間さえあれば」
「その時間が惜しい。一秒でも早く落とさなければならないんだ。外の艦隊だけでは、この要塞を直接攻略することは不可能だ。いつまでも要塞に手を出さずにいれば、いずれ勘繰られて、侵入した我々のことを悟られることになる。時間が掛かれば掛かるほどな」
「しかし旧式のシステムとはいえ、やけに広大過ぎる。どうやらシステムのすべてを中央制御コンピューターが管理しているようだ」
「それは、僕もさっきから感じていました。普通いくつかにモジュール化して分散させておいて、メインがシステムダウンしても他からバックアップできるようにしておくものですが、ここのは違う。ほらこれを見てください」
「これは?」
 表示パネルには、中央制御コンピューター室から一本の通路が外へ向かっているのが、映しだされていた。
「排気口ですよ」
「排気口?」
「そうです。システムのすべてを中央制御コンピューターが担っているから、過負荷となって膨大な熱が発生します。熱源が一ヶ所に集中していて冷却が間に合わないから、その熱を外へ排気するための通路ですよ。巧妙に隠されて外からは気付きませんでしたけど」
「排気口か……いずれ使えるかもしれないな……」
「使える……?」
「いや、何でもない。ということは、中央制御コンピューターに侵入できれば要塞のすべてをコントロールできるわけだな」
「その通りです。ところで、同じように熱源として動力炉もありますが、こちらは熱循環させて要塞内の暖房に使われています。同じ熱量があったとしても、コンピューターは超電導素子の関係からシビアに冷却する必要があるので、絶対零度に近い宇宙空間に放出するほうが効率がいいわけです」
 戦闘に関しては神がかりの才能を発揮するアレックスであるが、ことシステムエンジニアに関しては無知といってもいいだろう。レイティーやジュビロが解説することを、百パーセント理解しているとは言いがたい。
 が、それでいいのである。自分にできないことは他人にやらせればいいこと。そういう人材を集め利用する。それが指揮官たる才能なのである。
「やったぞ、中央制御コンピューターに侵入した」
 指を鳴らして叫ぶジュビロ。
「どうします? 保安システムを解除しますか」
「いや、ただ単純に解除したのでは、察知されて保安システムが作動していない原因を調査にくるだろう。正常に作動しているようにみえて、実は解除されているという具合でないとな」
「そういうことなら簡単さ」
 再び、端末をいじるジュビロだが、一分も経たないうちにシステムを改竄してしまう。
「保安システムを解除した。お望みの通りにね」


「よし! 各自レーザーガンを装備」
 アレックスはミサイルの中から、レーザーガンを取り出して腰に装着しながら、ヘッドセットの携帯無線機を通して指令を出した。
「我々は中央制御コンピューター室に直行する。その間ジュビロはここにいて、敵の動静を監視しつつ逐次無線で報告せよ」
「あいよ。一人寂しく待機してるさ」
 ジュビロは、無線機に向かって答えた。
「無線機のチェックOKです」
「よし、行くぞ。ジュビロ、扉を開けてくれ」
「今開ける」
 すーっと扉が開いて先の通路が現れた。
「気をつけろ。どこから敵が出て来るかわからない。ジュビロ、扉を閉めておいてくれ」
「へい、へい」
 扉が閉まるのを確認してアレックス達は、一路中央制御コンピューター室への通路を駆け出した。通路の交差点や角では注意深く敵影の存在を確認しながら突き進んでいく。
 時折出くわす兵士達を有無をいわさず打ち倒しつつ目的地へと急ぐ。
 大きな隔壁で閉ざされた箇所に差し掛かると、
「この先が中央制御コンピュータールームのようだな」
「動体生命反応が多数あります」
「この扉の先に敵兵がいるということか」
「どうします?」
「と、いわれても、行くしかないだろう」
「そうですけどね……」
 アレックスは、隔壁の側に記された区画名を確認して、携帯無線機を通してジュビロに指令を出した。
「ジュビロ、Dー137ブロックの扉を開けてくれないか」
『わかった』
「レイティは後ろに下がっていろ」
 レイティは技術将校で戦闘の訓練を受けておらず、かつ作戦の重要人物なのでアレックスは彼に危害がかからないように安全な場所への待避を命じた。レイティは命令に従って通路の影に隠れるようにして顔だけ覗かせるようにしてアレックス達の動向を伺っていた。
「気をつけろ。構え!」
 隊員は床に伏せて銃を構えた。
 重い扉がゆっくりと上がっていく。
 そばの隔壁が開いて、アレックス達の姿を確認してたじろぐ敵兵。銃を構える暇を与えることなくアレックスの下令が廊下にこだまする。
「撃て!」
 一斉砲火を浴びせられてばたばたと倒れていく敵兵。
 保安システムの端末に飛び付く者もいたが、すでに保安システムはジュビロが握っており、警報を鳴らすことも他部署へ連絡を取ることもできない。地団駄踏んでそこを離れようとしたところを仕留められて床に倒れてしまう。
 戦闘はものの数分でかたがついた。
 気がつけば目前には、特殊硬質プラスティックの窓を通して、五階建てのビルに相当するほどの部屋の中央に巨大な構築物がそびえたっていた。
「これが、中央制御コンピューターか」
 システムから発生する熱を回収し、かつまた超電導回路を支える超流動状態の液体ヘリウムが部屋全体を流れているらしく、冷えた壁面に暖かい制御室内の水蒸気が霜状に付着している箇所が随所に見られる。
「レイティ。早速だが、はじめてくれ」
「わかりました」
 自分の出番はここからだ、とばかりに端末に取り掛かるが。
「提督……。宇宙服を脱いでもいいですか? 息苦しくて精神を集中できません」
 とすぐに切り返してくる。
「いいだろう。総員、宇宙服を脱いでいいぞ」
 宇宙服を脱ぎ始める工作隊員。
「ふいぃー。見てくださいよ。汗びっしょりだ」
「すぐに汗が引くさ。目の前に巨大な冷蔵庫があるんだからな」
「ほんとだ。ひんやりとしてますね。風邪をひきそうだ。はやいとこかたずけましょう」
「そうしてくれ……」
 そして無線機で、ごみ処分区画のジュビロに連絡する。
「ジュビロ。そこはもういい。区画を封鎖してこっちへ合流してくれ」
「わかった。今からそっちへ行く」

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v


ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
2021.04.30 08:47 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

- CafeLog -