銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十章 タルシエン要塞へ Ⅳ
2021.04.23

第二十章 タルシエン要塞へ




 今回の場合もそうだが、ここ一番という作戦にはランドールが原案を考え、ウィンザーが作戦としてまとめ、ゴードンが実行する、というパターンが繰り返されてきたのである。黄金トリオはそうして昇進街道を突っ走ってきた。そのおこぼれに預かって他の者は昇進してきたといって過言ではないだろう。
 とはいっても彼とて軍人であり、武勲を上げて出世することは生きがいであり名誉としていることには変わりがない。士官学校同期の軍人が、せいぜい少佐になりたてだというのに、自分は一足先に大佐となり准将に手が届く距離にいることは、すべてランドールの配下にあってこその幸運であったのだ。オニールを追い越すことは出来なくても、名誉ある第十七艦隊の第二準旗艦・高速戦艦ドリアードに坐乗しているだけでもよしとしなければ。そもそも今回の昇進に際しても、例の軍法会議の一件のこともあり、認められることなどない高望みであったはずだ。それがこうして実現した背景には提督の強い働きかけがあったに違いない。
「シャイニング基地には連邦から搾取した艦船がまだ三万隻ほど残っております。第十七艦隊を分離分割して新しい新艦隊を増設するという噂はどうでしょうか。そうすればカインズ大佐にもチャンスがあります。チェスター大佐は退役まじかですし、コール大佐は艦隊再編成時によそから移籍してきたいわゆるよそものですからね」
「確かに第十七艦隊は大きくなり過ぎていると思う。未配属を含めて十三万隻の艦艇を所有し、四人もの大佐がいる唯一の艦隊だからな」
「ですから希望は捨てないでいきましょう。私だって昇進はしたいのです。大佐の配下のすべての将兵にしても」
「そうだな……」

 さらにパティーは話題を変えてくる。
「それにしてももう一つ解せないのは、第八占領機甲部隊{メビウス}を首都星トランター他の主要惑星に残してきたことです。第十七艦隊の主要なる占領部隊なしでどうやって要塞を落とすのでしょう」
「メビウスは最新鋭の機動戦艦を旗艦に据えて、補充員の訓練をこなしているということだが……司令官には、レイチェル・ウィング少佐がなったばかり」
「表向きは訓練ですが、密かにタルシエンに向かうのではないかとの憶測も飛び交っています。占領部隊なしでは要塞は落とせませんからね。第六の白兵戦だけでは不可能じゃないかと思うのですが。だいたいメビウスはカインズ大佐の配下だったではありませんか。それをウィング少佐が……」
「それを言うな。提督にも考えがあるのだろうさ。これまでもそうやって難局を切り開いてきたのだからな。俺達は命令に従うだけさ」
「納得のいく命令ならいくらでも従いますけどね。一切が極秘なんじゃ……」
「もう一度言っておく。ランドール提督は公正な方だ。すべての将兵に等しく昇進の機会を与えてくれる。ただその順序があるというだけだ。全員を一度に昇進させることができないからな。オニール大佐は、士官学校時代の模擬戦闘、ミッドウェイ宙域会戦と提督の躍進の原動力となった活躍をした背景がある。一番に優遇するのは当然だろう」
 その時、パトリシアがフランソワやその他のオペレーター達を従えて艦橋に姿を現した。丁度交代の時間であった。
「総参謀長殿のお出ましです」
 パティーが刺々しい言い方で言った。
 憤懣やるかたなしといった表情である。これまでの会話で、次第に感情を高ぶらせていたのである。
「艦の状態はいかがですか?」
「全艦異常なしです。敵艦隊の動静にも変化は見られません」
「判りました。カインズ大佐は休憩に入ってください」
「判った」
 立ち上がって指揮官を譲るカインズ。
「これより休憩に入ります」
 敬礼をし、ゆっくりと歩いて艦橋を退室する。その他のオペレータ達も交代要員と代わっていく。
 カインズに代わって指揮官席に付くパトリシア。
 その側に立つ副官のフランソワ。
「目的地到達時間まで十一時間です」
 オペレーターが報告する。
「ありがとう」


 タルシエン要塞中央制御室。
 要塞内に鳴り響く警笛。
「敵艦隊発見!」
「方位二○四、上下角三四。距離十七・八光秒」
「艦数、約七万隻」
 次々と報告される戦況。
「どこの艦隊だ」
「第十七艦隊だと思われます」
「そうか、やっと到着というわけか……フレージャー提督を差し向けるか」
「しかし、フレージャー提督はランドールと相性が悪いですからね。毎回撤退の憂き目に合わされています。今回はどうでしょうか?」
「ううむ……雨男というわけだな。そのとばっちりを受けて、こっちまで雨に降られるのは御免だが……逆に発想すれば、ランドールの猛攻を交わして生き延びてきた運の良い提督という言い方もできる。これまでどれだけの提督が全滅や捕虜になったか……」
「なるほど、そんな考え方もできるんですね」
「よし。フレージャーに迎撃させろ」

 共和国同盟軍第十七艦隊への迎撃命令を受けたフレージャー提督。
「なんでこうも、私にばかりお鉢が回ってくるんだ」
 頭を掻きながら、指揮官席に腰を降ろす。
 これで何度目の対戦だったかなと、指を折って数えている。
「フレージャー提督。今度こそ、これまでの仇を討つチャンスだと思います」
「だと良いんだがな。そもそものけちの付き始めが、あのミッドウェイ宙域会戦。ヤマモト長官より預かった第一機動空母艦隊の主力旗艦空母を多数撃沈され、提督も四名戦死し、ナグモ長官も自決した。その責任をとってミニッツ提督は、艦隊司令を降りられたのだが……」
「アカギ・カガ・ヒリュウ・ソウリュウが撃沈。壊滅的というべき悲惨な状態でしたね。引責退任されたミニッツ提督にはもう少し現役で活躍されることを希望していたのですが。それにしても当時少尉だったランドールも今や准将、一個艦隊を率いるまでに昇進しています。たった二年でここまでくるなんて尋常ではありませんね」
「ミッドウェイ宙域会戦での功績による、前代未聞の三階級特進があるからな。その後もカラカス基地奪取をはじめとして奇抜な作戦で同盟軍を勝利に導いてきた実績を持っているからな。クリーグ基地攻略においても、シャイニング基地を放棄して第八艦隊の援護に駆けつけた奴等に背後を突かれて、撤退を余儀なくされた」
「閣下も重傷を負われたのですよね」
「ああ、運がよかったのだ。ヨークタウンは辛くも撃沈を免れたものの帰還途中に機関部に誘爆を生じて航行不能に陥った」
「そのヨークタウンも閣下が退艦したあとに、漂流中を敵ミサイル艦に撃沈されましたね」
「何にしても、これが最後の戦いになるだろう。勝つにしても負けるにしてもだ」
「どういうことですか?」
「ランドール提督が、この要塞に対する攻略戦を仕掛けてくるということは、それ相応の自信と覚悟を持ってのことだろう。これまでのランドールの攻略戦を分析すれば、作戦途中での撤退などあり得なかった。カラカス基地攻略戦がその良い例だ。背水の陣を強いての強行突入による軌道衛星砲の奪取から始まる劇的な幕切れ。今回もおそらくは……」
 と、その作戦を思い浮かべようとするフレージャー提督。
「だめだな。私のちんけな脳細胞では、ランドールの考えることが思い浮かばない」
「この堅固な要塞を落とすには、奇襲を掛けて潜入し内部から破壊するしかないでしょう。しかし、こうして迎撃艦隊が張り付いている現状では、侵入など絶対不可能です」
「絶対不可能という言葉を使うものではないさ。所詮人間の作ったものだ。どこかに落とし穴があるかも知れない。ランドールは必ずそこを突いてくる」
「あるんですかね……落とし穴」
「俺達の貧弱な脳細胞では考えも付かない穴がな」

第二十章 了

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2021.04.23 08:17 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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