銀河戦記/鳴動編 第一部 第十九章 シャイニング基地攻防戦 Ⅰ
2021.04.09

第十九章 シャイニング基地攻防戦




 シャイニング基地に接近する連邦艦隊。
 第十七艦隊とシャイニング基地住民の撤収が完了して五時間余りが過ぎ去っていた。
 そんな状況を知らずか慎重に艦艇を進めている連邦艦隊。
 総勢三個艦隊を率いるのは、タルシエン方面軍司令長官ハズボンド・E・キンケル大将である。
 一向に進まない共和国同盟への進駐に業を煮やしついに長官自らが腰を挙げ、シャイニング基地攻略の陣頭指揮に出陣したのである。
「どうだ」
「索敵に出した先行艦によれば、艦船はおろか哨戒機すらも見当たらないとの報告です」
「こちらの艦隊数に恐れをなして撤退したか」
「数では三対一ですからね」
「さすがに逃げ足だけは速い奴等だ」
「奇襲攻撃が専門の連中ですからね。正面決戦となれば数に劣る彼らが勝てる見込みはないでしょう」
「どこかに潜んで隙をうかがっているかもしれない。哨戒行動を怠るなよ」
「かしこまりました」
「しかし、惑星からの攻撃がないな」
「そうですね。地上には五個艦隊を持ってしても、攻略不可能とさえ噂されている防空システムがあります。対軌道迎撃ミサイルくらい飛んできてもよさそうですが。とっくに射程内に入っているはずです」
「全軍撤退の際の誤射を防ぐために、迎撃システムを遮断していたのかも知れない。部隊を降下させる前に、無人の艦艇を降ろして確認してみろ」
「早速手配します」

 数隻の戦艦から、無人の探査機が降ろされていく。
「どうだ?」
 スクリーンに映る探査機の様子を伺いながらオペレーターに尋ねる副官。
「何の反応もありませんねえ。迎撃システムからの探査レーダーなどの電波も感知できません」
「つまり迎撃システムは停止していると見るべきだろうな」
「おそらく……」
「よし、引き続き探査を続けろ」
「了解!」
 向き直って司令官に伝達する副官。
「お聞きのように、基地の防衛システムは停止しているようです」
「うむ。ごくろう……揚陸部隊を降下させろ。安全が確認され次第、我々本隊も着陸するとしよう」
「はっ。揚陸部隊を降下させます」
 揚陸部隊に降下命令を下す副官。
 艦隊から揚陸部隊が降下体勢に入った。
「しかしなんでしょうねえ。こんなにもあっさりと基地を放棄してしまうなんて、さすがランドールというか、考え方には理解しがたいところがあります。確かランドールはニールセン中将から睨まれて無理難題を押し付けられていると聞き及んでいます。ニールセンの命令に逆らっての判断だと思いますが、これでは自らニールセンに良い口実を与えるだけだと思うのですが」
「そうだな。この撤退は奴の独断だろう。ニールセン、いや軍部の誰だってこの要衝のこの基地を手放すはずがない」
「いわゆる敵前逃亡ですね。これは重罪ですよ、銃殺されても文句は言えない」
「ランドールは何を考えているか計り知れませんからね。何か企んでいるかもしれません」
「あり得るな。慎重に慎重を期していこう」


 一方、クリーグ基地では、フランク・ガードナー准将の第八艦隊六万隻が、約二倍の十三万隻の敵艦隊に包囲されていた。
 旗艦ヒッポクリフの艦橋で指揮を取るフランク。
「全艦、砲撃準備」
「敵艦隊二十一宇宙キロまで接近。まもなく艦砲の射程内に入ります」
「シャイニング基地からの連絡は?」
「ありません。依然として通信途絶」
「うーん、なんだろうなあ……。連絡がないとはおかしいぞ。距離的にあちらの方が先に敵艦隊と接触するはずだし、アレックスなら、何かしらの情報を送ってくれてもいいのだが」
「完全に無線封鎖している模様です」
「うーん。情報が欲しい」
 腕組みをしながらスクリーンを見つめているフランク。
「それにしても敵は約二倍の勢力……いつまで持つかな」
 部下への手前、声にこそ出さないが、この状態では完全に負け戦になることは明白だった。無論部下だってそれくらい知っている。それでも黙って自分についてきてきてくれていた。自分を信頼してくれている部下を持って、司令官として感激ひとしおである。この第八艦隊の司令官として赴任してきた時から、何のトラブルもなく前司令官からの引継ぎが行われたのは意外だった。
「やはりニールセンから疎まれている同じ第二軍団という仲間意識があるようだ。そして軍団を統率するトライトン少将の配下でもあるからだろう。だからこそ、一人でも多くの将兵を助けたいのだが……」
 戦わずして逃げ出す手もあった。
 しかしそれでは第八艦隊という名に汚名を着せることになる。前任者が守り続けてきたものを失いたくなかった。
 最後の最後まで諦めずに戦い、その中に勝機を見つけて突破口を開く。それがフランクの身上であり、ここまで昇進してきた実績もそこにあった。
「俺はランドールと違って逃げるのは嫌いだからな」
 思わず呟いて苦笑するフランク。
「どうなされました?」
「いや何でもない」
 首を傾げていぶかる副官には、フランクの心情は伝わらないようだ。

 スクリーンに投影されている敵艦隊のマークが赤く変わった。
「敵艦隊。射程内に侵入!」
 艦橋内の空気が緊迫感の最高に達した。
 一斉にフランクの指示を待って待機するオペレーター達。
 腕組を外し、右手を前方水平に差し出すようにして命令を下すフランク。
「全艦攻撃開始!」
 と同時にオペレーター達が一斉に動き出す。
「全艦攻撃開始!」
「艦首ミサイルを三十秒間一斉発射。その直後に艦載機全機突入せよ」
 同盟側の攻撃開始とほぼ同時に敵艦隊も攻撃を開始した。
 全艦から一斉に放たれるミサイル群が、敵味方の艦隊の中間点で炸裂し、華々しい明滅の光を輝かせていた。
「艦載機、全機突入せよ」
 敵艦隊に向かって勇躍突撃する艦載機。

 戦闘開始から五分が経過した。
 ヒッポクリフの艦橋にて、形勢不利な情勢に心境おだやかでないフランク。
 周囲を写している映像の中の味方艦船が被弾し、炎上や撃沈されていく模様が繰り返されている。
 オペレーター達の艦船や戦闘機への指示命令や報告の声が次々と聞こえてくる。
「戦艦ドナウ、撃沈」
「重巡ボルガ、被弾にて戦闘不能」
「粒子ビーム砲、エネルギーダウン。再充填にかかります」
『こちらカミングス。弾薬を撃ち尽くした。これより一旦帰還する』
「カミグストン編隊へ。帰還を承認した。急ぎ帰還せよ」
「了解、これより帰還する」
 敵機の追撃をかわしながら、母艦へと帰還するカミングス編隊。
「高射砲、艦載機を援護射撃だ」
 帰還しようとするカミングス編隊の後方から追撃する敵機に対し、レーザーパルス砲による援護射撃が開始された。一斉掃射を受けて次々と撃墜されていく敵艦載機。その間にカミングス編隊は次々と母艦へ着艦していく。
「状況はどうか?」
「何せ数では、二対一ですからね。いつまで持ち堪えられるか」
 士気の低下を招く弱気な発言をする副官に対して、叱責の言葉をためらうフランクだった。
 敗北への道を突き進んでいるのは明白な事実であり、それを覆すだけの手段もないからである。
 敵艦隊の布陣が両翼に徐々に広がってきていた。数に勝るために、完璧な包囲陣を敷いて、脱出不可能にするためである。それに従って側面からの攻撃も始まりつつあった。

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2021.04.09 09:37 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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