銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十一種 タルシエン要塞攻防戦 Ⅳ
2021.04.28

第二十一章 タルシエン要塞攻防戦




 要塞周囲に出現を果たしたジェシカ配下の艦載機群は、猛烈なる攻撃を加えつつ各砲塔を破壊していった。
「さすがに堅固な要塞だな。砲塔を破壊するのが精一杯だ」
 空母セイレーンより発進したエドワード中尉は、一足先にワープアウトした空母セラフィムから出撃したハリソン率いる第一波攻撃隊の様子を遠巻きに眺めていた。
「中隊長。カーグ少佐の重爆撃機が右上方にワープアウトです」
「よし、援護射撃に入る」
 ジミーの操艦する重爆撃機を取り囲むようにして編隊が集まって来る。
「よう。みんな、待たせたな」
 ジミーからの通信が入ってくる。
「隊長、いつでもいけますよ」
「よし。そのまま待機だ。第六突撃強襲艦部隊は?」
「我々の後方にて、第三次攻撃待機中です」
「うむ、提督らが要塞潜入に成功し、システムを乗っ取った後の活躍部隊だからな」

 空母艦隊の出現にも要塞の方は落ち着いていた。
「新たなる敵が出現しました」
「やはり別働隊がいたか!」
「艦数およそ二千隻。空母部隊です。艦載機急速展開中!」
「迎撃しろ。その程度の艦船でこの要塞を落とすことはできまい。それより次元誘導ミサイルの方が脅威だ。守備艦隊には迎撃を続行させよ」
「各砲塔、迎撃体制に入れ」
「守備艦隊は追撃を続行せよ」
「しかし、航空母艦が直接乗り込んでくるとは、死ぬ気ですか? 攻撃力も防御力も弱いですから、戦闘機を発進させて後方で待機するのが通常ですよ」
「判らんよ。何か目的があるはずだが」

「ジミー・カーグ編隊が配置に付きました」
「判りました。通信士、降伏勧告にたいする返答はまだですか」
「ありません」
「やはり突入しかありませんね。大佐、もう一つの次元誘導ミサイルを要塞内に向けて発射してください。目標、敵要塞ごみ処理区画」
「了解した」
 向き直り配下の部隊に指令を下すカインズ。
「サザンクロスへ、次元誘導ミサイル発射準備だ。なお弾幕として通常弾も同時に発射する。全艦、艦首ミサイル全門発射準備」
 命令が復唱伝達されて戻って来る。
「全艦ミサイル発射準備完了しました」
「よし。発射せよ」
「発射します」
 全艦から一斉にミサイルが放たれて要塞を目指した。
 そして次元誘導ミサイル二号機。

 もちろん途中には守備艦隊が待ち受けていて迎撃体制に入っていた。
「迎撃せよ!」
「だめです! 歪曲場シールで遮られて、粒子ビーム砲が当たりません」
「迎撃ミサイルも、追従するミサイルによって落とされてしまいます」
「だめか……。こうなったら最後の手段だ。当艦は体当たりして、次元誘導ミサイルの行く手を阻む」
「提督! それは……」
「他に手があると思うか?」
「いえ……」
「前にも言ったはずだ。もはや私にはこの戦いの後はないんだ。捲土重来なくは、当たって砕けろだ」
「判りました」
「よし! 全速前進だ。目標、次元誘導ミサイル」

 セイレーン艦橋。
「いつまでもここに留まっていられません。ありったけの攻撃を敢行しつつ急いで駆け抜けます」
 防御力の小さな空母が長時間戦闘空域に留まっているわけにはいかなかった。
 提督の乗る特殊ミサイルを搭載した重爆撃機を目標地点に運んで発進させるのが任務だった。重爆撃機を発進させたら、すぐさま戦線離脱することになっていた。
「敵旗艦が次元誘導ミサイルに向っていきます」
「特攻です!」
「カスパード編隊に攻撃させて下さい。次元誘導ミサイルを落とさせるわけには参りません」
「了解。カスパード編隊に迎撃させます」

 守備艦隊旗艦。
 次元誘導ミサイルに向って進撃していた。
 弾幕のミサイル群の標的になっていた。
「右舷損傷」
「構うな、そのまま直進」
「左舷より、艦載機急速接近中!」
「迎撃しろ!」
「左舷、レーザーキャノン掃射!」
 ミサイルと艦載機との集中攻撃を受け、ぼろぼろになっている。
「目標との距離は?」
「0.2宇宙キロ。三十秒後に接触!」
「急げよ。持たないぞ」
「目標まで二十五秒」
 艦内で誘爆が続いている。
 消火班が必死で消火作業にあたっている。
 次ぎの瞬間、大きな爆発とともに吹き飛んでいく。
 その衝撃は艦橋をも揺り動かしていた。
「弾薬庫に被弾! 爆発炎上中」
「むう……これまでか……」
 再び大きな振動が起こり火の手が上がった。
 床に投げ出されるフレージャー。全身傷だらけで額から血を流していた。
 ゆっくりと立ち上がって周囲を見回すが、その惨状は目を覆いたくなる状況だった。
 多くのオペレーター達が機器に突っ伏すように倒れている。
 スクリーンに映るサラマンダーに視線を移すフレージャー。
「ランドール……貴様との決着もここまでだ」
 サラマンダーに向って敬礼をするフレージャー。
 フレージャーを炎が包む。
 ミッドウェイ宙域会戦からの長き宿命的な戦いの終止符だった。
 やがて大きな爆発に巻き込まれて吹き飛んでいく。
 次元誘導ミサイルの目前で爆発炎上する旗艦。


 その様子は要塞中央コントロールでも見つめていた。
「フレージャーが撃沈しました」
「結局。ランドールには適わなかったというわけか」
「次元誘導ミサイル接近中!」
「かまわん。かたっぱしから撃ち落とせ」
「ミサイルがワープしました」
「だめか!」
 再び大きな衝撃が襲った。
「どこをやられたか?」
「ごみ処理区画です」
「射程が短か過ぎたようだな。助かったよ、九死に一生だ」
「しかし、隔壁に穴が明いてしまいました。今そこを攻撃されたら、いくらこの要塞でも持ち堪えられません」
「スクリーン。要塞外部から被弾箇所を投影」
 数秒あって、要塞周縁にあるごみ処分場の一角から爆発の火の手があがるのが見えた。
 外部からの攻撃に対して完全防御を満たしていても、内部からの誘爆の圧力を受けてはさすがに持たなかった。
 要塞とて小さなブロック片を組み立てて造られている。内部圧力として人間の生きる一気圧に保たれているため、真空との圧力差で外へ向かう定常的な抗力が働くが、それよりも外部からの攻撃の爆発的圧力に耐えることの方が大切である。ゆえに内部圧力に関してはあまり考慮に入れられていなかった。
 そこへ次元誘導ミサイルの攻撃による爆発的圧力が掛かり、接合部がその衝撃に耐え切れずに破断し、一部のブロック片が剥がれ飛んでしまったのである。
「工兵隊に穴を封鎖させよ」
「応急処置だけでも最低十二時間はかかります」
「急がせろ、敵は目の前なんだぞ! 守備艦隊を呼び戻すんだ!」
「それでは、敵に易々と次元誘導ミサイルを発射させることになりますが?」
「構わん! どうせ奴らの目的はこの要塞の奪取なのだ。重要施設を破壊するような攻撃を仕掛けてくるはずがない。次元誘導ミサイルにも限りがあるはずだ。これまでの攻撃の仕方からすれば、せいぜい数発しか残っていないはずだ。敵艦隊の攻撃さえしっかり守っていれば、要塞が落ちることはない」
「判りました。守備艦隊を呼び戻します」
「要塞内に駐留する艦隊を出撃させますか?」
「別働隊が張り付いている今はだめだ。発着口を開けばそこを狙い撃ちされる、内部誘爆を招いて身動きが取れなくなる」


 その頃、要塞の隔壁の破壊を確認したカーグ編隊。
「よし! 穴が開いたぞ。ただちに突入する」
「了解!」
 カーグ編隊全機が合図と同時に投入を開始した。
 すでに先行のハリソン編隊の集中攻撃によって、目標地点付近の砲塔はほとんど撃破されていた。
「ジュリー。ミサイルの安全装置を解除しろ」
「了解。解除します」
「目標接近!」
「照準セットオン。艦の噴射コントロールを同調させてください」
「わかった。噴射タイミングをそちらに回した。後は頼むぞ」
「行きます!」
 さらに加速を上げて目標に突撃する重爆撃機。人を載せているがゆえに自走能力がないミサイルのために、それを重爆撃機に搭載し、急降下爆撃で突撃射出させるという前代未聞の作戦。
「最大加速に達した。最終セーフティ解除」
「ミサイル射出!」
 懸吊されていたアレックス達を乗せたミサイルが、重爆撃機より投下されてゆっくりと要塞に近づいていく。
「急速反転、離脱する」
 ミサイルを放ったカーグの乗った重爆撃が反転離脱していく。 
 要塞ゴミ処分口に突刺さるように見事命中するミサイル。
「巧くいったわ」
「お見事」
「わたし達の役目は終了した。脱出しましょう」
「まかせとけ」
 加速して要塞宙域から脱出する二人を乗せた重爆撃機。
「本隊へ。『赤い翼は舞い降りた』繰り返す。『赤い翼は舞い降りた』以上」
 ジミーは音声信号による打電を送信した。

 打電はパトリシアにすぐさま報告されることとなった。
「カーグ少佐より入電。『赤い翼は舞い降りた』です」
「成功だわ」
「成功? どういうことですか、先輩」
「第十七艦隊のシンボルとなっている、旗艦サラマンダーのボディーに描かれた動物は何だったかしら」
「火の精霊サラマンダーです」
「その絵柄は?」
「ええと、赤い翼を持った……え? じゃあ、提督が……」
「その通り。提督が目標地点に無事到達したということ」
「じゃあ、じゃあ。提督が、あの要塞の潜入に成功したのですか?」
「あたりよ」
「信じられません」
「真実よ。でもね、本当の戦いはこれからよ。潜入に成功したとしても、脱出は不可能。無事作戦を果たすまではね」
「そうですね……」

第二十一章 了

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2021.04.28 12:44 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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