銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十一章 タルシエン要塞攻防戦 Ⅱ
2021.04.26

第二十一章 タルシエン要塞攻防戦




 その一時間前のサラマンダーでは、ウィンザー少佐が作戦始動を発した。
「大佐、時間になりました。艦隊を前進させてください」
「わかった。パティー、全艦微速前進だ」
「はい。全艦微速前進!」
 ゆっくりと前進を開始する第十七艦隊。
「本隊の目的はわざと敵に位置を知らしめすことで、別働隊の動きを隠蔽することです」
 時折、時刻を確認しているパトリシア。
 寸秒刻みでの綿密なる計画が動き出したのだ。一秒たりとも時間を間違えてはならなかった。
「ミサイル巡洋艦を前に出しましょう。ミサイルによる遠距離攻撃を行います。位置に着いたら全艦発射準備」
「了解」
 オペレーターが指令を伝達すると、ゆっくりとミサイル巡航艦が前面に移動を始めた。
 艦隊の再配置が完了した頃、敵艦隊が動き出したとの報が入った。
 正面スクリーンに投影された要塞を背景にして、敵第十七機動部隊が向かってくる。
「誘いの隙に乗ってきました」
 フランソワが嬉しそうに言った。
「輸送艦ノースカロライナとサザンクロスに伝達。ハッチを解放し、係留を解いて積み荷を降ろしてください」
 サラマンダーの両翼に並走していた二隻の輸送艦からゆっくりと積み荷が降ろされていく。それは駆逐艦なみの大きさをもつ次元誘導ミサイルだった。チェスター大佐が大事に護衛してきた代物。
 アレックスが少佐となり、独立遊撃部隊の司令官に任命された時、フリードに開発生産を依頼していた、本作戦の成功の鍵を握る秘密兵器。

 極超短距離ワープミサイルだった。

 戦艦三十隻分ものテクノロジーの詰まった、一飛び一光年を飛ぶことのできる戦艦で、ほんの数メートル先にワープするという芸当のできる究極のミサイルだ。
「別働隊から連絡はありませんか?」
「ありません」
「そう……では、作戦は予定通り進行しているということ」
 作戦指揮を任されているパトリシア少佐が進言した。
「大佐。次元誘導ミサイル一号機、発射準備です。反物質転換炉や核融合炉などの重要施設は攻撃目標からはずします」
「わかった。ノースカロライナに伝達。次元誘導ミサイル一号機、発射準備」
「次元誘導ミサイル一号機、目標は要塞上部、レクレーション施設」
 艦橋正面のパネルスクリーンに、ノースカロライナの下部ハッチから懸架された、次元誘導ミサイルが大写しされ、表示された各種のデータが目まぐるしく変化している。戦艦三十隻分のテクノロジーが満載された超大型次元誘導ミサイルだ。要塞攻略の成否の鍵を握る貴重な一発である、発射ミスは許されない。
 そして攻撃目標を正確に表示する要塞詳細図面は、連邦の軍事機密をハッカーして得られたものである。要塞のシステムコンピューターは、完全独立してアクセス不能ではあるが、要塞を造成した連邦軍事工場のコンピューターに残っていたというわけである。
 もちろんそれを手に入れたのは、ジュビロ・カービンに他ならない。
「次元誘導ミサイルの最終ロックを解きます」
「慣性誘導装置作動確認。燃料系統異常なし。極超短距離ワープドライブ航法装置へデータ入力」
「攻撃目標、ベクトル座標(α456・β32・γ167)、距離百十三万二千三百五キロメートル」
「発射カウントダウンを六十秒にセット。三十秒前までは五秒ごとにカウント。その後は一秒カウント」
「了解。カウントを六十秒にセットしました。三十秒前まで五秒カウント、その後は一秒カウント」
「ミサイル巡航艦に伝達。次元誘導ミサイル発射十秒前に、全艦ミサイル一斉発射」
「ミサイル巡航艦、全艦発射体制に入りました」
「よし、カウントダウン開始」
「カウントダウン開始します。六十秒前」
「五十五秒前、五十秒前……」
「次元ミサイル、ロケットブースター燃料バルブ解放」
「三十秒前、二十九……二十」
「次元誘導ミサイル、燃料加圧ポンプ正常に作動中」
「十九、十八……十」
「巡航艦、全艦ミサイル発射」
 先行するミサイル巡航艦隊から一斉発射されるミサイル群。
「次元誘導ミサイル、最終セーフティロック解除。発射準備完了」
「九・八・七・六・五・四・三・二・一」
「次元誘導ミサイル、発射!」
 すさまじい勢いで後方に噴射ガスを吐き出しながら、ゆっくりと加速を始める次元誘導ミサイル。
「ロケットブースター正常に燃焼・加速中」
 加速を続けながら要塞に向って突き進んでいる。
「敵艦隊、さらに接近!」
「後退します。敵艦隊との間合いを保ってください」
「全艦、後退しろ!」
 カインズの下令に応じて、ゆっくりと後退をはじめる艦隊。
「それにしても、弾頭は通常弾ですよね。核融合弾を搭載すれば一発で要塞を破壊できるのに。せっかくの次元誘導ミサイルなのに……何かもったいない気がします」
「要塞を破壊するのが目的ではありませんから。破壊は許されていません」
「判ってはいますけどね」


 敵艦隊旗艦艦橋。
「敵艦隊、ミサイルを発射しました」
 フレージャー提督が即座に呼応する。
「迎撃ミサイル発射!」
 一斉に放たれる迎撃ミサイル群。
「ミサイルの後方に高熱源体! 大型ミサイルです。それも駆逐艦並みの超大型!」
 急速接近するミサイルの後方から大型ミサイルが向ってくる。
「迎撃しろ! 粒子ビーム砲!」
 ミサイルでは迎撃できないと判断したフレージャーは、破壊力のある粒子ビーム砲照射を命じた。超大型ならば当然の処置である。
 艦隊から一斉に大型ミサイルに向って照射される粒子ビーム砲。
 しかしビームはミサイルの前方で捻じ曲げられてかすりもしなかった。
「歪曲場シールドか!」
「まさか! 歪曲場シールドはまだ実験段階です」
「それを完成させているんだよ。敵は!」
 次ぎの瞬間、ミサイルが消えた。
「ミサイルが消えました!」
「なんだと! どういうことだ?」

 タルシエン要塞の中央コントロール室側でも驚きの声を上げていた。
「ミサイルが消えました!」
「なんだと!」
 その途端、爆発音が轟き激しく揺れた。
 立っていた者は、その衝撃で吹き飛ばされるように壁や計器類に衝突し、床に倒れた。
「どうした。何が起きた?」
 倒れていた床からゆっくりと立ち上がりながら尋ねる司令。
 しかし、それに明確に答えられるものはいなかった。
「ただ今、調査中です!」
「要塞内で爆発!」
「レクレーション施設です!」
「火災発生! 消火班を急行させます」
「どういうことなのだ」
「おそらく先程消失したと思われたミサイルがワープして来たものと思われます」
「なに! こんな至近距離をワープできるのか」
「間違いありません。ミサイルは守備艦隊の目前でワープして、要塞内に再出現しました」
 二点間を瞬時に移動できるワープエンジンだが、一光年飛べる性能はあるものの、視認できるほどの至近距離へのワープは不可能とされていた。
 物体には慣性というものが働くことは誰でも知っている。動いているものは動き続けようとするし、止まっているものは止まり続けようとする。前者は機関が静止しようとする時の制動距離となって現れるし、後者は静止摩擦という力となっている。
 早い話が、ジャンボジェット機で滑走路の端から全速力で飛び立ち、すぐさま滑走路のもう片端に着陸静止することは不可能ということである。おそらくオーバーランしてしまうだろう

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2021.04.26 08:51 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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